説明

両面接着性粘着シート

【課題】水分散型の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する両面粘着シートでありながらリサイクルされる部品にも好適に使用され得る粘着特性および剥離性能を兼ね備えた両面粘着シートを提供すること。
【解決手段】本発明により提供される両面粘着シート1は、構成繊維として麻を含み、嵩密度が0.35〜0.60g/cmの不織布からなる基材10と、その各面それぞれに付与された粘着剤層21、22と、を備える。前記粘着剤層は、炭素数が4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを全モノマー成分の60質量%以上の割合で含むモノマー原料を乳化重合してなるアクリル系ポリマーを含む水分散液から形成される。両粘着面において、対SUS粘着力の平均値は11N/20mm以上、かつ対PP粘着力の平均値が8.5N/20mm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布を基材とし、水分散型のアクリル系粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)組成物を用いて形成された粘着剤層を有する両面接着性粘着シートに関する。特に、リサイクルされる部品に貼り付けて用いるのに適した両面接着性粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
基材を備えた両面接着性の粘着シート(両面粘着シート)は、作業性がよく接着の信頼性の高い接合手段として家電製品から自動車、OA機器等の各種産業分野において広く利用されている。基材としては不織布が好ましく用いられる。不織布を基材とする両面粘着シートに関する技術文献として特許文献1〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−280439号公報
【特許文献2】特開2006−143856号公報
【特許文献3】特開2001−152111号公報
【特許文献4】特開2000−265140号公報
【0004】
一方、近年、省資源の観点から、製品に使用されているリサイクル可能な部品については、使用後に部品を分解して該部品またはその構成素材を再利用(リサイクル)することが多くなってきている。また、環境への配慮、揮発性有機化合物類(Volatile Organic Compounds;VOCs)の放散量低減等の観点からは、粘着剤成分が水に分散した態様の水分散型(水性)粘着剤組成物の使用が好まれる傾向にある。したがって、水分散型の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備え、かつリサイクルされる部品の接合に適した両面粘着シートが提供されれば有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
両面粘着シートによって接合された部品等を再利用するには、部品同士を接合部で分離し、分離後の部品から両面粘着シートを除去(再剥離)する作業を要する。この際、部品同士を分離する段階で、接合部の両面粘着シートが、途中で千切れたり、接合面に沿って基材層内部で引き裂かれる層間破壊を起こしたりすることがある。また、粘着剤層の残渣が被着体に残る不具合(糊残り)が生じることがある。このような場合、分離後の部品から両面粘着シートを除去する際に、破壊された両面粘着シートや粘着剤層の残渣を分離された両部品の表面から取り除かなければならず、部品の分解作業の効率が著しく低下してしまう。そのためリサイクルされる部品の接合に使用される両面粘着シートには、部品からの除去を効率よく行うための剥離性能(再剥離性等)が求められる。また、かかる両面粘着シートには、従来と同様に部品の接合という元来の使用目的を果たすに足る粘着性能(半永久的に接合を維持し得る粘着力、曲面接着性等)が併せて求められる。
【0006】
しかし、水分散型(水性)のアクリル系粘着剤組成物は溶剤型に比べて粘着力が弱い傾向にあり、また不織布に水分散型組成物を含浸させることで該不織布の強度が低下することがあるため、水分散型組成物を用いて上述のように粘着性能および剥離性能をバランスよく備えた両面粘着シートを作製するのは困難であった。また、この課題に対し、上記従来の技術はいずれも未だ満足できるものではなかった。
そこで本発明は、水分散型の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する両面粘着シートでありながらリサイクルされる部品等にも好適に使用され得る粘着特性および剥離性能を兼ね備えた両面接着性粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、不織布からなる基材(不織布基材)と、その各面それぞれに付与された粘着剤層と、を備える両面接着性の粘着シートが提供される。その不織布は、構成繊維として麻を含み、嵩密度が凡そ0.35〜0.60g/cmの範囲にある。また、上記粘着剤層は、粘着成分としてアクリル系ポリマーを含む水分散液(水分散型アクリル系粘着剤組成物)から形成される。このアクリル系ポリマーは、炭素数が4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを全モノマー成分の60質量%以上の割合で含むモノマー原料を乳化重合してなる。この粘着剤組成物を用いて作製した両面粘着シートは、以下の特性:
A.両粘着面のステンレス鋼(SUS)板に対する180°引き剥がし粘着力(対SUS粘着力)の平均値が11N/20mm以上である;および、
B.両粘着面のポリプロピレン樹脂板に対する180°引き剥がし粘着力(対PP粘着力)の平均値が8.5N/20mm以上である;
をいずれも満たす。
【0008】
上記不織布は、構成繊維として麻(典型的にはマニラ麻)を含み、かつ嵩密度が適切な範囲にあるため、高い強度を有する。そのため、上記のように高い対SUS粘着力および対PP粘着力を示す両面粘着シートの基材として用いられて、該粘着シートを被着体から分離(再剥離)する際に層間破壊や千切れを防ぎ得る。したがって、かかる両面粘着シートによると、高い粘着力と良好な再剥離性(再剥離の際に糊残りしにくい、千切れにくい等)とがバランスよく実現され得る。
また、上記両面粘着シートは、上記粘着剤層がSUS等の極性材料およびPP等の低極性材料のいずれに対しても高い粘着性を示すので、一般的な両面粘着シートと同様に、各種用途(例えば、部品等の被着体を半永久的に固定する用途)に好ましく使用され得る。また同時に、糊残りやシートの破壊(千切れ、層間破壊等)を起こすことなく被着体から再剥離できるため、特にリサイクルされる部品の接合に好ましく使用され得る。
【0009】
ここに開示される両面粘着シートの好ましい一態様において、上記不織布基材は、坪量が20g/m〜30g/m、厚さが35μm〜85μmの範囲内で、かつ該坪量を該厚さで除して算出される嵩密度が上記嵩密度の範囲になるように選択され得る。これにより、より良好な粘着性能(曲面接着性等)および剥離性能(再剥離性)が実現され得る。
【0010】
他の好ましい一態様では、上記基材として、流れ方向(Machine Direction;MD方向)の引張強度(以下MD引張強度ともいう。)が20N/15mm以上、および幅方向(Cross−Machine Direction;CD方向)の引張強度(以下CD引張強度ともいう。)が15N/15mm以上である不織布が使用され得る。かかる不織布基材を備えた両面粘着シートは、より確実に、途中で千切れることなく被着体から再剥離され得るため好ましい。
【0011】
他の好ましい一態様では、上記不織布は、5N/20mm以上の層間強度を有する。かかる不織布基材を備えた両面粘着シートは、層間破壊を起こすことなく被着体から再剥離され得るため好ましい。
【0012】
他の好ましい一態様において、上記両面粘着シートは、以下の特性:
C.40℃保持力試験における保持時間が両粘着面とも1時間以上である;および、
D.曲面接着性試験における浮き距離が10mm以下である;
をいずれも満たす。ここで、上記曲面接着性試験は、幅10mm、長さ90mmの粘着シートを厚さ0.5mmのアルミニウム板で裏打ちしてなる試験片を、直径40mmの円柱に10秒間巻きつけて上記アルミニウム板が内側になるように反らせ、その試験片をポリプロピレン板に圧着して温度23℃、相対湿度(RH)50%の環境下に24時間、次いで70℃の環境下に2時間保持し、上記試験片端部の上記ポリプロピレン板表面からの浮き距離が測定される。かかる態様の両面粘着シートは、良好な曲面接着性を有するため、曲面等、非平面的な表面形状を有する部品の接合にも好ましく使用され得る。
【0013】
他の好ましい一態様では、上記両面粘着シートの厚さ(剥離ライナーを含まないシートの総厚)が100μm〜250μmであり、更に、該両面粘着シートは、以下の特性:
E.MD引張強度およびCD引張強度がいずれも15N/10mm以上である;
を満たす。かかる態様の両面粘着シートは、良好な曲面接着性を有するため、曲面等、非平面的な表面形状を有する部品の接合にも好ましく使用され得る。また、適度な強度を有するため、被着体から再剥離される際に糊残りやシートの破壊を起こしにくく、リサイクルされる部品の接合にも好適に使用され得る。
【0014】
更に他の好ましい一態様では、上記両面粘着シートは、以下の特性:
F.当該両面粘着シートを80℃で30分間保持した際に放散される揮発性有機化合物類(VOCs)の総量(TVOC)が両面粘着シート1g(剥離ライナーを除く)当たり1000μg以下である;
を満たす。TVOCが低減された両面粘着シートは、自然環境や作業環境への負荷が少ないため好ましい。また、それにより大量に生産される製品、自動車や住宅の内装材等のように閉空間で使用される製品、高温での作業を要する製品、また使用時に高温になり得る製品等の部材を接合または固定する用途等に好適に使用され得る。
【0015】
ここに開示される両面粘着シートは、上述のように良好な粘着特性(例えば、粘着力、曲面接着性)を有するので、一般的な両面粘着シートと同様に各種用途(例えば、部品等の被着体を半永久的に固定する用途)に好ましく使用され得る。また、上述のように千切れや糊残り等を起こすことなく被着体から再剥離できるという特性を有することから、特にリサイクルされる部品に貼り付けて用いられる(典型的には、リサイクル予定のある部品の固定に用いられる)両面粘着シートとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】両面粘着シートの代表的な構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】両面粘着シートの他の代表的な構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここに開示される両面粘着シートは、不織布からなる基材を備える。その不織布は、構成繊維として麻(典型的にはマニラ麻)を含む。また、強度を損なわない範囲内で他の繊維を一種または二種以上含んでもよい。かかる他の繊維としては、例えば、木材繊維(木材パルプ等)、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維;ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維;が挙げられる。なお、ここでいう「不織布」は、主として粘着テープその他の粘着シート(感圧接着シート)の分野において使用される粘着シート用不織布を指す概念であって、典型的には一般的な抄紙機を用いて作製されるような不織布(いわゆる「紙」と称されることもある。)をいう。不織布に含まれる麻の量は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。特に好ましくは、実質的に麻のみからなる不織布が用いられる。
【0019】
ここで、上記不織布の嵩密度は、凡そ0.35〜0.60g/cm(例えば、凡そ0.35〜0.55g/cm)の範囲にある。嵩密度が上記範囲よりも大きすぎると、粘着剤を不織布によく含浸させて設けることが困難となり、これにより曲面接着性等の粘着性能が低下したり、あるいは再剥離時に層間破壊が生じやすくなったりすることがある。また、上記範囲よりも小さすぎると、強度が不足し、再剥離時にシートが途中で千切れやすくなることがある。また、坪量が凡そ20g/m〜30g/mの範囲、厚さが凡そ35μm〜85μmの範囲にある不織布を用いることが好ましい。ここで、上記坪量および上記厚さは上記範囲内で、かつ上記坪量を上記厚さで除して算出される嵩密度が上記嵩密度の範囲になるように適宜選択する。MD引張強度は、凡そ20N/15mm以上(より好ましくは凡そ25N/15mm以上)であることが好ましい。CD引張強度は、凡そ15N/15mm以上(より好ましくは凡そ18N/15mm以上)であることが好ましい。また、不織布の層間強度は、凡そ5N/20mm以上であることが好ましい。この層間強度は、後述する方法により測定することができる。
【0020】
ここに開示される両面粘着シートの粘着剤層は、アクリル系ポリマー(粘着成分)が水に分散された態様の水分散型粘着剤組成物から形成される。このアクリル系ポリマーは、炭素数が4〜12(以下、かかる炭素数の範囲をC4−12と記載することもある。)のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを全モノマー成分の60質量%以上(典型的には60〜98質量%、例えば60〜90質量%)の割合で含むモノマー原料を重合してなる。
【0021】
本発明の両面粘着シートは、さらに特性A:両粘着面の対SUS粘着力の平均値が11N/20mm以上である;および、特性B:両粘着面の対PP粘着力の平均値が平均8.5N/20mm以上である;をいずれも満たすことを特徴とする。例えば、坪量25g/m程度、厚さ50μm程度の麻製不織布を基材として、その各面それぞれに上記粘着剤組成物から形成された厚さ60μm程度の粘着剤層を設けて両面粘着シートを作製した場合において、該粘着シートは上記の粘着特性を示すものであり得る。上記対SUSおよび対PP粘着力は、後述する方法により測定することができる。
【0022】
ここで、上記特性Aについては、上記SUS粘着力が、両粘着面のいずれについても11N/20mm以上であることが好ましい。また、両粘着面の平均値は、13N/20mm以上であることが好ましい。いずれの粘着面についてもSUS粘着力が13N/20mm以上であることが更に好ましい。
上記特性Bについては、上記PP粘着力が、両粘着面のいずれについても8.5N/20mm以上であることが好ましい。また、両粘着面の平均値は、9N/20mm以上であることが好ましい。いずれの粘着面についてもPP粘着力が9N/20mm以上であることが更に好ましい。
対SUS板粘着力および対PP板粘着力の上限値は特に限定されないが、被着体からの再剥離性を高めるという観点からは、通常それぞれ18N/20mm程度および16N/20mm程度であることが好ましい。
【0023】
また、上記C4−12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等を使用することができる。特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートとしてブチル(メタ)アクリレートおよび2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが例示される。
【0024】
上記モノマー原料は、主モノマー(ここでは全モノマー成分の60質量%以上を占めるモノマー)としてのC4−12アルキル(メタ)アクリレートに加えて、任意成分として他のモノマー(任意モノマー)を含有し得る。任意モノマーは、ここで使用するアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な種々のモノマーから選択される一種または二種以上であり得る。例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、アルコキシシリル基等から選択される一種または二種以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体(官能基含有モノマー)を使用することができる。なかでもアクリル酸および/またはメタクリル酸の使用が好ましい。また、上記官能基含有モノマーとして、アクリル酸および/またはメタクリル酸に加えて、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートを好ましく使用することができる。かかる(メタ)アクリレートとしては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。上記官能基含有モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入するのに役立ち得る。上記官能基含有モノマーの種類およびその含有割合(共重合割合)は、使用する架橋剤の種類およびその量、架橋反応の種類、所望する架橋の程度(架橋密度)等を考慮して適宜設定することができる。
【0025】
上記水分散型粘着剤組成物は、上記のようなモノマー原料をエマルション重合に付して得られたものであり得る。上記エマルション重合の態様は特に限定されず、従来公知の一般的な乳化重合と同様の態様により、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に重合容器に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等のいずれも採用可能である。モノマー原料の一部または全部をあらかじめ水と混合して乳化し、その乳化液を反応容器内に供給してもよい。
【0026】
重合温度としては、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃)程度の温度を採用することができる。重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が例示されるが、これらに限定されない。
アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等が例示される。
過酸化物系開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等が挙げられる。
レドックス系開始剤としては、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等が例示される。
【0027】
重合開始剤の使用量は、該開始剤の種類やモノマーの種類(モノマー原料の組成)等に応じて適宜選択できるが、通常は、モノマー原料100質量部に対して、例えば0.01〜1質量部程度の範囲から選択することが適当である。重合開始剤の供給方法としては、使用する重合開始剤の実質的に全量をモノマー原料の供給開始前に反応容器に入れておく(典型的には、反応容器内に該重合開始剤の水溶液を用意する)一括仕込み方式、連続供給方式、分割供給方式等のいずれも採用可能である。重合操作の容易性、工程管理の容易性等の観点から、例えば一括仕込み方式を好ましく採用することができる。重合温度は、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃)程度とすることができる。
【0028】
乳化剤(界面活性剤)としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を使用できる。アニオン系乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(プロぺニル基等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量(固形分基準)は、モノマー原料100質量部に対して、例えば凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは凡そ0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0029】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えば、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。なかでもドデカンチオールの使用が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、モノマー原料100質量部に対して例えば凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。この使用量が凡そ0.02〜0.05質量部程度であってもよい。
特に限定するものではないが、かかるエマルション重合は、例えば、得られたアクリル系ポリマーを酢酸エチルで抽出して残った不溶分の質量割合(ゲル分率)が0質量%以上凡そ70質量%未満となるように実施され得る。また、該アクリル系ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)で抽出した可溶分の質量平均分子量(Mw)が、標準ポリスチレン換算で、例えば凡そ50万〜100万程度となるように実施され得る。
【0030】
ここに開示される両面粘着シートにおいて粘着剤層の形成に用いられる水分散型粘着剤組成物には、必要に応じて、一般的な架橋剤、例えばカルボジイミド系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、シランカップリング剤等から選択される架橋剤が配合されていてもよい。これらの架橋剤は単独でまたは二種以上を組み合わせて使用し得る。特に限定するものではないが、架橋剤の使用量は、当該組成物から形成された粘着剤(すなわち、上記架橋剤による架橋後の粘着剤)を酢酸エチルで抽出して残った不溶分の質量割合(ゲル分率)が凡そ15〜70質量%(例えば凡そ30〜55質量%)となる程度の量とすることができる。
【0031】
上記粘着剤組成物には粘着付与剤が配合されていてもよい。かかる粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与剤樹脂から選択される一種または二種以上を用いることができる。
かかる粘着付与樹脂は、該樹脂が水に分散した水性エマルション形態の粘着付与剤として好ましく使用され得る。例えば、アクリル系ポリマーの水性エマルションと上記粘着付与樹脂の水性エマルションとを混合することにより、これらの成分を所望の割合で含有する粘着剤組成物を容易に調製することができる。粘着付与樹脂エマルションとしては、少なくとも芳香族炭化水素系溶剤を実質的に含有しない(より好ましくは、芳香族炭化水素系溶剤その他の有機溶剤を実質的に含有しない)ものを用いることが好ましい。このことによって、よりTVOCの少ない粘着シートが提供され得る。
【0032】
好ましく使用され得る粘着付与剤(水性エマルションの形態であり得る。)の市販品としては、荒川化学工業株式会社製品の商品名「スーパーエステルKE−802」、「スーパーエステルNS−100H」、「スーパーエステルE−865」、「スーパーエステルE−865NT」、「スーパーエステルE−650」、「スーパーエステルE−786−60」、「タマノルE−100」、「タマノルE−200」、「タマノル803L」、「ペンセルD−160」、「ペンセルKK」;ヤスハラケミカル株式会社の商品名「YSポリスターS」、「YSポリスターT」、「マイティエースG」、ハリマ化成株式会社の商品名「ハリエスターSK−501NS」、「ハリエスターSK−385NS」、「ハリエスターSK−370N」、「ハリエスターSK−218NS」、「ハリエスターSK−323NS」、「ハリエスターSK−350NS」等が例示されるが、これらに限定されない。
【0033】
粘着付与剤の配合割合は、不揮発分(固形分)換算として、アクリル系ポリマー100質量部に対して例えば凡そ50質量部以下とすることができる。通常は、上記配合割合を凡そ30質量部以下とすることが適当である。粘着付与剤含有量の下限は特に限定されないが、通常はポリマー成分100質量部に対して凡そ1質量部以上とすることにより良好な結果が得られる。
【0034】
上記粘着剤組成物は、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、顔料、染料等の着色剤、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。また、該粘着剤組成物には、不織布基材への粘着剤の含浸性を高めるために、公知の濡れ向上剤が添加されていてもよい。かかる濡れ向上剤の添加は、不織布基材の少なくとも一方の面に直接法を適用して粘着剤層を形成する場合に特に有効である。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0035】
ここに開示される両面粘着シートによると、水分散型の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する両面粘着シート(すなわち、水分散型の粘着剤組成物を用いて製造された両面粘着シート)でありながら、優れた粘着特性および剥離性能が実現され得る。且つ、千切れや糊残りを起こすことなく再剥離することができるため、リサイクルされる部品に好ましく適用される両面粘着シートであり得る。
【0036】
本発明に係る両面粘着シート(テープ状等の長尺状のものであり得る。)は、例えば、図1または図2に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。図1に示す両面粘着シート1は、不織布基材10の各面に粘着剤層21、22がそれぞれ設けられ、それらの粘着剤層21、22が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31、32によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す両面粘着シート2は、不織布基材10の各面に粘着剤層21、22がそれぞれ設けられ、そのうち粘着剤層21が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31の第1剥離面により保護された構成を有している。この種の粘着シート2は、該粘着シート2を巻回することにより粘着剤層22を剥離ライナー31の第2剥離面に当接させ、該粘着剤層22もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。なお、図1および図2では図解の便宜のため不織布基材1と粘着剤層21、22との界面をそれぞれ直線で表しているが、実際には粘着剤層21、22はそれぞれ少なくとも一部が不織布基材1に含浸している。
【0037】
不織布基材の各面に粘着剤層を設ける方法は特に限定されない。通常は、(1)粘着剤組成物を剥離ライナーに付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより該剥離ライナー上に粘着剤層を形成し、該ライナー付き粘着剤層を基材に貼り合わせて転写(積層)する方法(以下、「転写法」ともいう。);および、(2)粘着剤組成物を基材に直接付与(典型的には塗布)して乾燥させる方法(以下、「直接塗布法」または「直接法」ともいう。);から選択されるいずれかの方法を各面にそれぞれ適用することが好ましい。例えば、基材の両面に転写法を適用して両面粘着シートを製造してもよく(転写−転写法)、あるいは基材の第1面(典型的には、最初に粘着剤層が設けられる面)には転写法を適用し、第2面には直接塗布法を適用して両面粘着シートを製造してもよい(転写−直接法)。リサイクルされる部品に貼り付けられる用途(例えば、リサイクルされる部品の固定)に適した両面粘着シート(例えば、引張強度の高い粘着シート)が得られやすいという観点から、上記転写−直接法を好ましく採用することができる。この転写−直接法による両面粘着シートの製造において、転写法に用いる粘着剤組成物の粘度よりも直接法に用いる粘着剤組成物の粘度を低くしてもよい。このことによって、粘着剤層の基材への含浸性および粘着特性をより高レベルで実現し得る。
【0038】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。
粘着剤組成物中の水分や残留モノマー等の揮発分の除去効率向上や、架橋反応促進等の観点から、該組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。特に限定するものではないが、例えば40℃〜140℃(好ましくは60℃〜120℃)程度の乾燥温度を採用することができる。乾燥時間は例えば凡そ1分〜5分程度とすることができる。乾燥後の粘着剤層を適当な条件で(例えば、凡そ40℃以上(典型的には40℃〜70℃程度)の環境下で)熟成(養生)することにより、さらに架橋反応を進行させることができる。
【0039】
ここに開示される両面粘着シートは、上記特性A〜Bに加えて、好ましくは更に特性C:40℃保持力試験における保持時間が両粘着面とも1時間以上である;および、特性D:上述の曲面接着性試験における試験片端部の浮き距離が凡そ10mm以下である;をいずれも満たす。
ここで、上記特性Cについては、後述する40℃保持力試験において、40℃の環境に試験片を保持し、その自由端に500gの荷重を付与した状態で一時間経過した時点で測定した該試験片の初期位置からのズレ距離(初期位置と1時間経過時点での位置の差)が凡そ2mm以下(より好ましくは凡そ1.5mm以下)であることが更に好ましい。
上記特性Dについては、上記浮き距離が凡そ7mm以下であることがより好ましく、凡そ4mm以下であることが更に好ましい。
【0040】
ここに開示される両面粘着シートは、不織布基材と両粘着剤層とを含む総厚(剥離ライナーを除く)が100μm〜250μm(例えば150μm〜200μm)程度の範囲にあることが好ましい。また、上記特性A〜Bに加えて、更に特性E:両面粘着シートのMD方向およびCD方向の引張強度がいずれも凡そ15N/10mm以上である;を満たすことが好ましい。上記特性Eについては、MD方向の引張強度が凡そ20N/10mm以上であることがより好ましく、凡そ25N/10mm以上であることが更に好ましい。
かかる引張強度を満たす両面粘着シートを得るために、例えば、基材として引張強度の高い不織布(例えば、上述したMDおよびCD引張強度を有する不織布)を使用することが好ましい。また、より引張強度の高い両面粘着シートを得るために、基材に粘着剤層をよりよく含浸させて設けることが好ましい。基材に粘着剤層をよりよく含浸させる方策として、例えば、基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を設ける方法として直接塗布法を用いる、基材上に粘着剤層を設けた後に厚み方向への圧縮力を加える処理を行う(例えば、40℃以上(典型的には40〜100℃)、好ましくは50℃以上(典型的には50〜90℃)の治具でプレスする。かかる処理は、上記温度に設定されたラミネータを用いて好ましく実施することができる。)、基材上に粘着剤層を設けた後に40℃以上(典型的には40〜70℃)の環境下に例えば1〜7日間程度保持してエージングを行う、等の手法を単独で、あるいは適宜組み合わせて採用することができる。
【0041】
ここに開示される両面粘着シートの好ましい一態様では、当該両面粘着シートを80℃で30分間保持した際に放散されるTVOCが両面粘着シート1g(剥離ライナーを除く)当たり1000μg(以下、これを「1000μg/g」等と表記することもある。)以下であり得る。かかる特性(特性F)を満たす両面粘着シートは、例えば、室内で使用される家電やOA機器、あるいは密室を構成する自動車等のようにTVOC低減に対する要請の強い用途にも好ましく使用され得る。TVOCが500μg/g以下であることがより好ましく、300μg/g以下であることが更に好ましい。なお、TVOCは、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0042】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0043】
<例1>
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、および窒素導入管を備えた反応容器に、蒸留水60部および花王株式会社製の商品名「ラテムル E−118B」(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)(乳化剤)0.1部を投入し、窒素ガスを導入しながら、60℃で1時間以上攪拌した。これに、重合開始剤として2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(和光純薬工業株式会社製、商品名「VA−057」)0.1部を加えた。
モノマー原料として、2−エチルヘキシルアクリレート85部、メチルアクリレート13部、アクリル酸1.5部、メタクリル酸0.5部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製品、商品名「KBM−503」)0.02部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.033部、および上記乳化剤1.9部を、蒸留水28.6部に加えて乳化したものを用意した。
60℃に保った上記反応液に、このモノマー原料乳化液を4時間かけて徐々に滴下して乳化重合させた。モノマー原料の滴下終了後、さらに60℃で3時間攪拌し、加熱を停止した。次いで、モノマー100部に対して、10%過酸化水素水0.75部を加えて5分間攪拌し、更にアスコルビン酸0.5部を加えてレドックス処理を行った。これを室温まで冷却した後、10%アンモニア水を添加してpH6.5に調整し、固形分濃度(NV)が約51%のアクリル系ポリマーエマルションを得た。このエマルションの平均粒子径は約200nmであった。
【0044】
上記アクリル系ポリマーエマルションに含まれるアクリル系ポリマー100部に対し、固形分基準で荒川化学工業株式会社製の商品名「スーパーエステルKE−802」(水分散型ロジン樹脂)20部および荒川化学工業株式会社製の商品名「スーパーエステルNS−100H」(水分散型ロジン樹脂)10部を加えた。さらに、pH調整剤としての10%アンモニア水および増粘剤としてのポリアクリル酸を用いて、pHを7.2、粘度を8Pa・sに調整して本例に係る水分散型アクリル系粘着剤組成物を得た。なお、上記粘度は、BH型粘度計を使用して、ローターNo.3、回転数20rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定した。
【0045】
得られた粘着剤組成物を用いて、以下の手順により両面粘着シートを作製した。なお、剥離ライナーとしては、両面がシリコーン系剥離剤で処理されたカイト化学工業株式会社製の商品名「SLB−80WD(V2)」を使用した。すなわち、上記粘着剤組成物を、一枚目の剥離ライナーの第1面に塗布し、100℃で2分間乾燥させて、厚さ約60μmの第1粘着剤層を形成した。この粘着剤層付き剥離ライナーを不織布基材の第1面に積層することにより、該基材に第1粘着剤層を設けた。次いで、乾燥後のシート総厚が170μmとなるように、上記粘着剤組成物を上記基材の第2面に直接塗布し、100℃で2分間乾燥させて第2粘着剤層を形成した。第2粘着剤層に二枚目の剥離ライナーを積層した。得られた積層体(剥離ライナー(一枚目)/第1粘着剤層/不織布基材/第2粘着剤層/剥離ライナー(二枚目))を、50℃のオーブンに24時間保持して両面粘着シートを得た。
なお、不織布基材としては、不織布A(マニラ麻100%、嵩密度0.48g/cm、坪量23.3g/m、厚さ49μm、MD引張強度42.2N/15mm、CD引張強度33.3N/15mm)を使用した。
【0046】
<例2>
不織布Aの代わりに不織布B(マニラ麻100%、嵩密度0.43g/cm、坪量22.9g/m、厚さ53μm、MD引張強度41.2N/15mm、CD引張強度31.4N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0047】
<例3>
不織布Aの代わりに不織布C(マニラ麻100%、嵩密度0.508g/cm、坪量25.4g/m、厚さ50μm、MD引張強度38.6N/15mm、CD引張強度26.8N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0048】
<例4>
不織布Aの代わりに不織布D(マニラ麻100%、嵩密度0.45g/cm、坪量24.7g/m、厚さ55μm、MD引張強度30.4N/15mm、CD引張強度18.7N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0049】
<例5>
不織布Aの代わりに不織布E(マニラ麻100%、嵩密度0.35g/cm、坪量24.4g/m、厚さ69μm、MD引張強度23.2N/15mm、CD引張強度16.5N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0050】
<例6>
不織布Aの代わりに不織布F(マニラ麻70%および木材パルプ30%、嵩密度0.29g/cm、坪量20.6g/m、厚さ71μm、MD引張強度13.2N/15mm、CD引張強度9.1N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0051】
<例7>
不織布Aの代わりに不織布G(ポリエステル100%、嵩密度0.65g/cm、坪量24.0g/m、厚さ37μm、MD引張強度15.4N/15mm、CD引張強度13.5N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0052】
<例8>
不織布Aの代わりに不織布H(木材パルプ100%、嵩密度0.37g/cm、坪量11.0g/m、厚さ30μm、MD引張強度8.8N/15mm、CD引張強度1.5N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0053】
<例9>
不織布Aの代わりに不織布I(マニラ麻70%およびレーヨン30%、嵩密度0.30g/cm、坪量23.6g/m、厚さ80μm、MD引張強度20.2N/15mm、CD引張強度13.3N/15mm)を用いた以外は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
【0054】
なお、不織布A〜Iの引張強度は、次のとおり測定した。すなわち、MD方向が長手方向となるように、各不織布を幅15mmの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片を、温度23℃、相対湿度(RH)50%の環境にて、株式会社エー・アンド・デイ製の引張試験機、商品名「テンシロン」に、チャック間距離を180mmとしてセットした。この試験片を引張速度50mm/分の条件でMD方向に引っ張り、最大引張強度を測定した。また、CD引張強度についても、CD方向が長手方向となるように試験片を作製した以外はMD引張強度の測定と同様にして、最大引張強度を測定した。
【0055】
また、各不織布の層間強度を次のとおり測定した。すなわち、市販の両面粘着テープ(日東電工株式会社製、商品名「No.5000NS」)の片面を厚さ25μmの(ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材で裏打ちし、幅20mm以上、長さ100mm以上のサイズにカットして片面粘着テープを作製した。この片面粘着テープの粘着面を各不織布の各面に、該不織布のMD方向が該粘着テープの長手方向に対応するようにそれぞれ貼り合わせ、2kgのローラーを各面一往復させて圧着して積層体(片面粘着テープ/不織布/片面粘着テープ)を作製した。上記積層体を、幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。これを60℃で48時間、続いて23℃で1時間保持した。この試験片の長手方向の一方の端部を、層間破壊の態様(不織布を二層に引き裂く態様)で、端から約10mm程度にわたって剥離した。JIS Z0237に準拠し、温度23℃、RH50%の環境下、剥離された該端部のそれぞれを引張試験機のチャックに挟み、引張速度300mm/分でT型剥離を行って剥離強度(N/20mm幅)を測定した。
【0056】
不織布A〜Iについて、MD引張強度、CD引張強度および層間強度の測定結果を、他の特性とともに表1に示す。
【0057】
例1〜9で得られた各粘着シートについて、以下の測定または評価を行った。それらの結果を表2に示す。
【0058】
[対SUS粘着力測定]
各両面粘着シートの一枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第1粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。上記試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第2の粘着面を被着体としてのSUS304ステンレス板に貼り合わせ、2kgのローラーを1往復させて圧着した。これを23℃に30分間保持した後、上記引張試験機を用い、JIS Z 0237に準拠して、温度23℃、RH50%の環境下、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で剥離して、そのときの剥離強度を対SUS粘着力(N/20mm幅)として測定した。
各両面粘着シートの各粘着面に対して、かかる測定をそれぞれ行い、その平均値を算出した。
【0059】
[対PP粘着力測定]
被着体としてポリプロピレン(PP)板(新神戸電機株式会社製、商品名「PP−N−AN」)を用いた点以外は上記SUS粘着力測定と同様にして、対PP粘着力(N/20mm幅)を両粘着面について測定し、その平均値を算出した。
【0060】
[40℃保持力測定]
クリープ試験機を用いて、各両面粘着シートの各粘着面の保持力を測定した。すなわち、各両面粘着シートの一枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第1粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅10mmにカットして試験片を作製した。上記試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第2粘着面を被着体としてのベークライト板に、幅10mm、長さ20mmの接着面積にて貼り付けた。これを40℃で30分間保持した後、ベークライト板を垂下し、試験片の自由端に500gの荷重を付与した。JIS Z 0237に準じて、該荷重が付与された状態で40℃の環境下に1時間放置し、1時間未満で試験片が落下した場合には該落下までの時間を記録し、1時間後にも試験片が落下せず被着体に貼り付いていた場合には1時間経過時点での初期貼り付け位置からの試験片のズレ距離(mm)を測定した。
かかる測定を、各両面粘着シートの両面について行った。なお、表2に示す落下時間またはズレ距離は、両面の平均値である。
【0061】
[引張強度測定]
各両面粘着シートを、MD方向が長手方向となるように、幅10mmの短冊状にカットして試験片を作製した。この試験片を、温度23℃、RH50%の環境下、チャック間距離を100mmとして上記引張試験機にセットし、引張速度300mm/分で最大引張強度を測定した。その最大引張強度を該両面粘着シートのMD引張強度(N/10mm)とした。
各両面粘着シートを、CD方向が長手方向となるようにカットして試験片を作製した以外はMD引張強度と同様にして、該両面粘着シートのCD引張強度(N/10mm)を測定した。
【0062】
[曲面接着性評価]
各両面粘着シートを幅10mm、長さ90mmのサイズにカットし、一枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第1粘着面に同じサイズにカットしたアルミニウム片(厚さ0.5mm)を貼り付けて裏打ちして試験片を作製した。この試験片を23℃、RH50%の環境下に1日保持した後、直径40mmの円柱に巻きつけて(アルミニウム片側を内側とする。)約10秒間押しつけることにより円弧状に反らせた。この試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第2粘着面をラミネータでPP板(200mm×300mm、厚さ2mm)に圧着した。これを23℃、RH50%の環境下に24時間、次いで70℃で2時間保持した後に、該試験片端部がPP板表面から浮きあがった距離(mm)を測定した。
【0063】
[再剥離性評価]
各両面粘着シートから一枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第1粘着面に被着体としての不織布(日本バイリーン株式会社製、商品名「バイブラックDS−25NK」)を貼り付け裏打ちし、更にハンドローラーで圧着した。これを幅20mm、長さ100mmにカットして試験片を作製した。該試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第2粘着面を被着体としての厚さ2mmのアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂板(ABS板;新神戸電機株式会社製、商品名「ABS−N−WN」)に貼り付け、2kgのローラーを一往復させて圧着した。これを70℃で14日間、60℃で500時間、次いで23℃で24時間保持した。この試験片を、温度23℃、RH50%の環境下、引張試験機を用い、引張速度300mm/分、剥離角度180°で上記被着体(PC板)から剥離し、剥離後の粘着シートおよび被着体の状態を観察し、低速剥離時の再剥離性を以下の二段階に評価した。
○:シートの千切れ、被着体への糊残りが起こることなく剥離された。
×:シートの千切れ、および/または被着体への糊残り等が起こり、剥離が不良であった。
同様に作製した試験片を用いて、引張速度30m/分とした以外は上記と同じ条件で、高速剥離時の再剥離性を上記の2段階に評価した。
【0064】
[TVOC測定試験]
各両面粘着シートを幅10mm、長さ50mmにカットして試験片を作製した。この試験片から一枚目の剥離シートを剥がし、露出した第1粘着面にアルミニウム箔を貼り付け裏打ちした。これを該試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がし、第2粘着剤層を露出させた。これをバイアル瓶(20mL)に入れて密封した後、ヘッドスペースサンプラー(HSS装置)を用いて80℃で30分間保持した。同温度でバイアル中のガスサンプル1mLを採取し、ガスクロマトグラフィー(GC装置)に注入して分析した。発生した各ガスの質量をn−デカン換算で求めた。これらの合計量をTVOCの値として採用した。なお、n−デカン換算量は、GC/Mass(質量分析)により得られる発生ガスの検出強度をn−デカンの検出強度とし、あらかじめ作成したn−デカンの検量線から求めた。なお、HSSおよびGCの設定は以下のとおりであった。
HSS:Agilent Technologies社製 型式「7694」
加圧時間:0.12分
ループ充填時間:0.12分
ループ平衡時間:0.05分
注入時間:3分
サンプルループ温度:160℃
トランスファーライン温度:200℃
GC装置:Agilent Technologies社製 型式「6890」
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製 J&W キャピラリーカラム 商品名「DB−ffAP」(内径0.533mm×長さ30m、膜厚1.0μm)
カラム温度:250℃(40℃から90℃まで10℃/分で昇温し、引き続き250℃まで20℃/分で昇温して2分保持)
カラム圧力:24.3kPa(定流モード)
キャリアーガス:ヘリウム(5.0mL/分)
注入口:スプリット(スプリット比 12:1)
注入口温度:250℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1から明らかなように、実質的に麻からなり、嵩密度が0.35〜0.60g/cmの範囲にある不織布基材を用いた例1〜5の両面粘着シートは、対SUS粘着力が11N/20mm以上かつ対PP粘着力が8.5N/20mm以上と金属部品にもプラスチック部品にも対応し得る良好な粘着力を示し、かつ300mm/分の低速および30m/分の高速のいずれの条件でも被着体への糊残りおよびシートの千切れのいずれも起こすことなく良好な再剥離性を示した。中でも、嵩密度が0.4〜0.5g/cmの範囲にある例1〜2の両面粘着シートは、より優れた粘着力および再剥離性を示した。一方、嵩密度が0.35g/cmより低い麻含有不織布を用いた例6および例9の両面粘着シートは、いずれも再剥離性が不十分であった。より具体的には、例6の両面粘着シートは高速剥離で千切れを起こし、例9の粘着シートは低速剥離では糊残りを、高速剥離では千切れを起こした。また、麻を含まない不織布基材を用いた例7の両面粘着シートは、40℃保持力試験で1時間経過前に試験片が落下し、更に再剥離性試験で糊残りまたは千切れを起こすなど、粘着力、剥離性能ともに不十分であった。同様に、麻を含まない不織布基材を用いた例8の両面粘着シートは、低速剥離および高速剥離のいずれにおいても千切れを起こし、再剥離性に劣った。
【0068】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1,2:両面粘着シート
10:不織布基材
21,22:粘着剤層
31,32:剥離ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなる基材と、その各面それぞれに付与された粘着剤層と、を備える両面接着性の粘着シートであって、
ここで、前記不織布は、構成繊維として麻を含み、かつ嵩密度が0.35〜0.60g/cmであり、
前記粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物から形成され、
前記水分散型粘着剤組成物は、炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを全モノマー成分の60質量%以上の割合で含むモノマー原料を乳化重合してなるアクリル系ポリマーを含み、
更に前記粘着シートは、以下の特性:
A.両粘着面のステンレス鋼板に対する180°引き剥がし粘着力の平均値が11N/20mm以上である;および
B.両粘着面のポリプロピレン樹脂板に対する180°引き剥がし粘着力の平均値が平均8.5N/20mm以上である;
をいずれも満たす、粘着シート。
【請求項2】
前記不織布は、坪量が20g/m〜30g/m、厚さが35μm〜85μmである、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記不織布は、流れ方向に対して測定される引張強度が20N/15mm以上、幅方向に対して測定される引張強度が15N/15mm以上である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記不織布は、層間強度が5N/20mm以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着シートは、更に以下の特性:
C.40℃保持力試験における保持時間が各面とも1時間以上である;および、
D.幅10mm、長さ90mmの粘着シートを厚さ0.5mmのアルミニウム板で裏打ちしてなる試験片を、直径40mmの円柱に前記アルミニウム板が内側になるように10秒間巻きつけて反らせ、その試験片をポリプロピレン板に圧着して温度23℃、相対湿度50%の環境に24時間、次いで70℃の環境に2時間保持する曲面接着性試験において、前記試験片端部の前記ポリプロピレン板表面からの浮き距離が10mm以下である;
をいずれも満たす、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着シートは、厚さが100μm〜250μmの範囲にあり、更に以下の特性:
E.流れ方向および幅方向に対して測定される引張強度がいずれも15N/10mm以上である;
を満たす、請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
リサイクルされる部品の固定に用いられる、請求項1から6のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記粘着シートを80℃で30分間保持したときに該シートから放散される揮発性有機化合物類の総量が粘着シート1g当たり1000μg以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の粘着シート。

【図1】
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【図2】
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