説明

中〜大員環化合物の製造方法

【課題】8ないし15員の中〜大員環化合物の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】 下記の一般式(I):


[式中、R1はアルキル基、アルコキシ基、又はアリール基を示し;-A-は8ないし15員環を構成するアルキレン鎖を示す]で表される8ないし15員化合物の製造方法であって、対応するγ-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルなどをインジウム触媒の存在下で分子内環化する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は8ないし15員の中〜大員環化合物の効率的な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状骨格は有機化合物における基本骨格であり、環化反応の開発は有機合成化学における重要なテーマの一つである。なかでも中〜大員環と呼ばれる8〜15員環骨格は特異な生理活性を有する化合物によく見られる構造である。しかしながら、5員環や6員環とは異なり、中〜大員環の合成は渡環相互作用と呼ばれる環状骨格内の原子同士の立体反発が存在するために反応点同士が接近しにくくエンタルピー的に不利であり、また、エントロピー的にも不利であることから、一般には非常に困難である。特に8員環〜12員環の中員環の合成は極めて困難であるとされており、分子間反応によるポリマーの生成を抑え、分子内反応を優先させて目的物を得るために極めて希薄な状態で反応を行なう必要があるなど、実用上大きな問題がある。
【0003】
オレフィンメタセシス反応はアルケン同士をカップリングさせる炭素−炭素結合形成反応であり、分子内でメタセシス反応を行う閉環メタセシス反応(Ring-Closing Metathesis, RCM)が中員環合成に応用できることが報告されている(J. Am. Chem. Soc., 117, pp.2108-2109, 1995)。触媒的に中員環を合成する方法として遷移金属触媒を用いた付加環化反応も知られている。Wenderらはニッケル触媒などの遷移金属触媒を用いた付加環化反応を開発し、中員環骨格を有する様々な天然物化合物の合成に応用している(Tetrahedron, 62, pp.7505-7511, 2006)。Molanderはヨウ化サマリウム(II)を用いたカルボニル基と炭素-ハロゲン結合とのラジカルカップリング反応により中員環を合成する方法を報告している(Acc. Chem. Res., 31, pp603-609, 1998)。最近、トリアルキニルホスフィン-金錯体を用いてγ-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルを環化することにより7員環を合成する方法が報告され(J. Am. Chem. Soc., 128, pp.16486-16487, 2006)、この方法により8員環の合成も可能であることが示された(第53回有機金属討論会、演題番号A205、2006年8月24日要旨集発行、p.55、右欄表1:表中のエントリー3による化合物4dの合成。表中、収率は60%とされているが、学会当日の口頭発表において10%に修正された)。
【0004】
インジウム触媒を用いた環化反応については、インジウム触媒によるα-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルの分子内環化反応による5員環化合物の合成方法(平成17年日本化学会春季年会、演題番号2A6-09、2005年3月11日要旨集発行)、α-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルの分子内環化反応による5ないし7員環化合物の合成方法(第88回有機合成シンポジウム、演題番号P-9、2005年10月25日要旨集発行)、及びα-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルの分子内環化反応による7員環化合物の合成方法(平成18年日本化学会春季年会、演題番号2H3-07、2006年3月13日要旨集発行)が知られている。しかしながら、8員環化合物やそれ以上の員数の中員環をインジウム触媒を用いて製造した報告例はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、8ないし15員の中〜大員環化合物の効率的な製造方法を提供することにある。より具体的には、インジウム触媒を用いて8ないし15員の中〜大員環化合物を収率よく簡便に製造する方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、分子内にアルキン部位を有するβ-ケトエステルを用いてインジウム触媒の存在下で分子内環化反応による環状骨格合成を試みた。その結果、従来報告されているα-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルを原料化合物として用いる方法では、7員環化合物は実用的な収率で合成できることが確認されたが、8員環については目的の環化生成物は全く得られなかった。この結果は、環化反応における遷移状態において渡環相互作用による立体障害が大きいことが理由であると考えられた。そこで、本発明者らは、α-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルに替えて、より立体的な制約が少ないと考えられるγ-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルなどを原料化合物として8員環化合物を合成すべく検討を行なった。その結果、この原料化合物からインジウム触媒の存在下で種々の8員環化合物を効率的に製造できることを見出した。また、この反応が9ないし15員環化合物の製造にも適用できること、及び環内にヘテロ原子を有する中〜大員環も効率よく製造できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
【化1】

[式中、R1はR1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し;両端においてそれぞれカルボニル炭素(a)及びイソプロピニレン炭素(b)に結合する-A-は8ないし15員環を構成するアルキレン鎖を示すが、該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個又は2個以上が窒素原子、酸素原子、及びイオウ原子からなる群から選ばれるヘテロ原子で置き換えられていてもよい。該アルキレン鎖は1個又は2個以上の二重結合を含んでいてもよく、該アルキレン鎖上の任意の位置に1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。該アルキレン鎖上に2個以上の置換基が存在する場合には、それらの置換基が結合して1個又は2個以上の環(該環は飽和環、部分飽和環、又は芳香環のいずれであってもよい)を形成していてもよい。]で表される8ないし15員化合物の製造方法であって、下記の一般式(II):
【化2】

[式中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し;R2は水素原子、ハロゲン原子、又は置換シリル基を示し;両端においてそれぞれカルボニル炭素(c)及びエチニル炭素(d)に結合する-A-は閉環反応後の上記一般式(I)で表される化合物において8ないし15員環を構成するアルキレン鎖を示すが、該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個又は2個以上が窒素原子、酸素原子、及びイオウ原子からなる群から選ばれるヘテロ原子で置き換えられていてもよい。該アルキレン鎖は1個又は2個以上の二重結合を含んでいてもよく、該アルキレン鎖上の任意の位置に1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。該アルキレン鎖上に2個以上の置換基が存在する場合には、それらの置換基が結合して1個又は2個以上の環(該環は飽和環、部分飽和環、又は芳香環のいずれであってもよい)を形成していてもよい。]で表される化合物をインジウム触媒の存在下で分子内環化する工程を含む方法が提供される。
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、R1がアルキル基又はアルコキシ基であり、-A-がアルキレン鎖(該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個又は2個以上が窒素原子で置き換えられていてもよい)である上記の方法;R1がアルキル基又はアルコキシ基であり、-A-がアルキレン鎖(該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個が窒素原子で置き換えられていてもよい)である上記の方法;R1がアルキル基であり、-A-が8又は9員環を構成するアルキレン鎖(該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個が窒素原子で置き換えられていてもよい)である上記の方法;インジウム触媒がインジウムビストリフリルアミドである上記の方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、合成が極めて困難な8ないし15員環、特に8ないし12員環化合物を効率的に製造することができるので、天然物化合物や医薬化合物など多様な中〜大員環構造を有する化合物の製造に有用である。特に、本発明の方法は、従来の中〜大員環製造方法に比べて反応系中で高濃度の反応原料を用いることができ、高い収率を与えるなどの点で工業的な製造方法としても極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記一般式(I)及び(II)において、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し、好ましくは置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示し、さらに好ましくは無置換アルキル基又は無置換アルコキシ基を示す。
【0011】
アルキル基及びアルコキシ基のアルキル部分は、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せからなるアルキル基を用いることができ、例えば、C1〜C15アルキル基が好ましく、C1〜C10アルキル基がより好ましく、C1〜C6アルキル基がさらに好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、1-メチルブチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチルブチル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロプロピルメチル基、1-シクロプロピルエチル基、2-シクロプロピルエチル基、3-シクロプロピルプロピル基、4-シクロプロピルブチル基、5-シクロプロピルペンチル基、6-シクロプロピルヘキシル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロヘキシルブチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基、又は6-シクロオクチルヘキシル等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基及びアルコキシ基のアルキル部分は1個又は2個以上の不飽和結合を含んでいてもよい。
【0012】
R1が示すアリール基としては単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基を用いることができ、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントラニル基、又はフェナンスリル基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。アリール基は部分飽和のアリール基(例えばシクロヘキセニル基など)であってもよい。R1が示すアリール基は環構成原子として1個又は2個以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、又はイオウ原子等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0013】
本明細書において、ある官能基について「置換基を有していてもよい」という場合には、該官能基上の化学的に可能な位置に1個又は2個以上の置換基が存在する場合があることを意味する。官能基に存在する置換基の種類、置換基の個数、及び置換位置は特に限定されず、2個以上の置換基が存在する場合には、それらは同一であっても異なっていてもよい。官能基に存在する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、チオキソ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、チオシアナト基、イソシアナト基、イソチオシアナト基、ヒドロキシ基、スルファニル基、カルボキシ基、スルファニルカルボニル基、オキサロ基、メソオキサロ基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、スルホ基、スルファモイル基、スルフィノ基、スルフィナモイル基、スルフェノ基、スルフェナモイル基、ホスホノ基、ヒドロキシホスホニル基、C1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基等)、C2〜C6のアルキニル基(例えば、エチニル基、1-プロピニル基等)、C1〜C6のアルキリデン基、C6〜C10のアリール基、C7〜C12のアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基等)、C7〜C12のアラルキリデン基(例えば、ベンジリデン基、フェネチリデン基、1-ナフチルメチリデン基、2-ナフチルメチリデン基等)、C1〜C6のアルコキシ基、C6〜C10のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基等)、C7〜C12のアラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基、(1-ナフチルメチル)オキシ基、(2-ナフチルメチル)オキシ基等)、C1〜C6のアルキルスルファニル基(例えば、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基等)、C6〜C10のアリールスルファニル基(例えば、フェニルスルファニル基、1-ナフチルスルファニル基、2-ナフチルスルファニル基等)、C7〜C12のアラルキルオキシスルファニル基(例えば、ベンジルスルファニル基、(1-ナフチルメチル)スルファニル基、(2-ナフチルメチル)スルファニル基等)、C1〜C6のアルカノイル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、n-ブチリル基、ピバロイル基等)、C6〜C10のアロイル基(例えば、ベンゾイル基、1-ナフトイル基、2-ナフトイル基等)、C1〜C6のアルキルスルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、プロパンスルホニル基等)、C6〜C10のアリールスルホニル基(例えば、ベンゼンスルホニル基、1-ナフタレンスルホニル基、2-ナフタレンスルホニル基等)、C1〜C6のアルコキシカルボニル基、アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ジアゼニル基、ウレイド基、チオウレイド基、グアニジノ基、カルバモイミドイル基(アミジノ基)、アジド基、イミノ基、ヒドロキシアミノ基、ヒドロキシイミノ基、アミノオキシ基、ジアゾ基、セミカルバジノ基、セミカルバゾノ基、アロファニル基、ヒダントイル基、ホスファノ基、ホスホロソ基、ホスホ基、ボリル基、シリル基、スタニル基、セラニル基、オキシド基、ヘテロアリール基、又はヘテロアリール基の二重結合の一部又は全てを単結合に置き換えた部分飽和若しくは完全飽和ヘテロ環基等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0014】
これらの置換基は、さらに1種又は2種以上の他の置換基により置換されていてもよい。そのような例として、例えば、C1〜C6のハロゲン化アルキル基(例えば、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等)、C1〜C6のハロゲン化アルコキシ基(例えば、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基等)、カルボキシ置換C1〜C6アルキル基(例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等)、C1〜C6アルキル置換アミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基等)等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。また、これらの置換基は、必要に応じて、適宜の保護基で保護されていてもよい。保護基は、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 4th Edition, 2007, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照して選択することができ、導入された保護基は適宜の方法により除去することが可能である。
【0015】
一般式(I)において、-A-は両端においてそれぞれカルボニル炭素(a)及びイソプロピニレン炭素(b)に結合する-A-は8ないし15員環を構成するアルキレン鎖[-(CH2)n-:nは5ないし12の整数]を示す。一般式(II)における-A-は、閉環反応後に一般式(I)で表される化合物において8ないし15員環を形成するアルキレン鎖であり、上記一般式(I)における-A-と対応する。-A-が示すアルキレン鎖の構成要素であるメチレン基(-CH2-)のうちの1個又は2個以上が窒素原子、酸素原子、及びイオウ原子からなる群から選ばれるヘテロ原子で置き換えられていてもよい。好ましくは1個のメチレン基が窒素原子で置き換えられていてもよい。この場合、窒素原子上には水素原子又は任意の一価の置換基が存在するが、置換基が存在する場合には、例えば上記に例示した置換基から選択することができる。あるいは、窒素原子には保護基が存在していてもよい。窒素原子上に存在可能な保護基は、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 4th Edition, 2007, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照して選択することができ、導入された保護基は適宜の方法により除去することが可能である。
【0016】
該アルキレン鎖は1個又は2個以上の二重結合を含んでいてもよく、好ましくは1個の二重結合を含んでいてもよい。該アルキレン鎖は、任意の位置に1個又は2個以上の置換基を有していてもよく、そのような置換基は、例えば上記に例示した置換基から選択することができる。該アルキレン鎖上に2個以上の置換基が存在する場合には、それらの置換基が結合して1個又は2個以上の環(該環は飽和環、部分飽和環、又は芳香環のいずれであってもよく、4ないし7員環程度の環であることが好ましい)を形成していてもよい。好ましくは、隣接した位置に置換する2個の置換基が互いに結合して芳香環、好ましくは炭化水素芳香環、さらに好ましくはベンゼン環を形成することができる。この場合、該アルキレン鎖はベンゼン環を構成する二重結合を含むことになる。このような芳香環、好ましくはベンゼン環が該アルキレン鎖上に2個以上存在していてもよい。
【0017】
一般式(II)において、R2は水素原子、ハロゲン原子、又は置換シリル基を示す。ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子などを用いることができ、置換シリル基としては、例えば、アルキル基(メチル基、tert-ブチル基など)及びアリール基(フェニル基など)からなる群から選ばれる3個の置換基を有するシリル基を用いることができる。例えば、トリアルキルシリル基やフェニルジメチルシリル基、より好ましくはトリメチルシリル基などを用いることができるが、これらに限定されることはない。R2としては水素原子が好ましい。
【0018】
上記一般式(I)で表される化合物には下記に示すように複数の互変異性体が存在する。従って、上記一般式(I)で表される化合物はそれらの複数の互変異性体のうちの1つを記載したものであることは当業者に容易に理解されよう。また、これらのうちの2以上の異性体を含む平衡混合物が存在可能なことも当業者に容易に理解されよう。
【化3】

【0019】
本発明の方法は、上記一般式(II)で表される化合物をインジウム触媒の存在下で分子内環化する工程を含むことを特徴としている。インジウム触媒を用いたアルキンへの付加反応については、例えば、J. Am. Chem. Soc., 125, pp.13002-13003, 2003; Org. Lett., 7, pp.3279-3281, 2005; Adv. Synth. Catal., 347, pp.1681-1686, 2005などに記載されており、これらの刊行物に記載されたインジウム触媒を用いることができる。インジウム触媒は、上記刊行物に記載された方法により容易に製造することができ、市販されている触媒を用いることもできる。例えば、インジウムビストリフリルアミド(In(NTf2)3)、インジウムトリフラートIn(OTf)3(Tf = -SO2-CF3),インジウムノナフラートIn(ONf)3(Nf = -SO2-C4F9)などを好適に用いることができるが、インジウム触媒はこれらの特定の触媒に限定されることはない。インジウム触媒のうち、インジウム上の置換基の電子求引性が高いものを好ましく用いることができる。触媒の使用量は触媒量でよく、例えば、一般式(II)で表される化合物に対して0.1〜10 mol%程度、好ましくは1 mol%程度である。
【0020】
反応は一般的には不活性溶媒中で行なうことができるが、無溶媒で進行する場合もある。不活性溶媒としては、原料化合物及び生成物に対して十分な溶解度を有しており、かつ反応を阻害しないものであれば、任意の有機溶媒を用いることができる。例えば、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロルメタンなどのハロゲン化炭化水素溶媒などを用いることができるが、これらに限定されることはない。一般的には、原料化合物である一般式(II)で表される化合物を0.01〜1 モル/L、好ましくは0.1 モル/L程度の濃度で不活性溶媒中に溶解し、触媒量のインジウム触媒を反応系内に添加して、室温ないし加熱下、好ましくは加温下ないし溶媒の還流温度までの温度で反応を行なうことができる。反応を不活性ガス下で行なってもよく、無水条件下で行なうことが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
1H NMR 及び 13C NMR スペクトルは日本電子社製ECA-500もしくはECX-400を使用し、1H NMRはテトラメチルシランを0.00 ppm、13C NMR は溶媒(重クロロホルム 77.0 ppm,重トルエン20.4 ppm(メチル基))を基準としてppm単位で記載した。赤外(IR)吸収スペクトルはASI Applied System社製React IR 1000 (DuraSample IRアタッチメント付属)、ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)は島津製作所製PARVUM2(ガスクロマトグラフのカラムはRtx-5MSを使用)、高分解質量分析は日本電子社製Accu TOF JMS-T100LCを使用した。下記のスキーム中、Meはメチル基、Etはエチル基、Tsはp-トルエンスルホニル基を示す。
【0022】
例1:(1Z,7Z)-2-ヒドロキシ-8-メチルシクロオクタ-1,7-ジエン-1-カルボン酸メチルエステル(1)の合成
【化4】

【0023】
乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(0.060 mL, 0.05 M, 3.0 μmol)を加え、0.5 Torr, 60 ℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン3 mLを加えた。基質(0.3 mmol, 57 mg)を加え、反応溶液濃度を0.1 Mとし、120℃で12時間加熱撹拌した後に室温に戻し、反応溶液をシリカゲルに通して触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(エーテル/ヘキサン=5/95)で精製することにより生成物 29 mg (0.15 mmol,収率51%)を白色固体として得た。
融点 49-50℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.10 (dq, J = 4.6, 13.0 Hz, 1H), 1.34-1.45 (m, 1H), 1.70-1.81 (m, 2H), 1.82-1.90 (br, 1H), 1.86 (s, 3H), 2.13-2.24 (m, 2H), 2.32 (dd, J = 8.4, 12.3 Hz, 1H), 5,56 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 12.63 (d, J = 1.6 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 23.0, 24.1, 25.3, 27.8, 32.8, 51.6, 101.0, 129.7, 131.0, 173.1, 175.7
FTIR (cm-1) 2933, 2854, 1664, 1634, 1602, 1447, 1322, 1233, 1073, 845
質量分析(EI) m/z 196 (M+)
元素分析 理論値(C11H16O3):C, 67.32; H, 8.22. 測定値: C, 67.18; H, 8.33
【0024】
例2:(1Z, 8Z)-2-ヒドロキシ-9メチルシクロノナ-1,8-ジエンカルボン酸エチルエステル(2)の合成
【化5】

乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(0.40 mL, 0.05 M, 20μmol)を加え、0.5 Torr、60℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン50 mLを加えた。基質(2 mmol, 445 mg)を加え、反応溶液濃度を0.04 Mとし、150℃で20時間加熱撹拌した後に室温に戻した。反応溶液をシリカゲルに通して触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン100%〜エーテル/ヘキサン = 5/95)で精製することにより生成物 30 mg (0.14 mmol,収率7%)を黄色液体として得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.28 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.27-1.38 (m, 1H), 1.50-1.64 (m, 4H), 1.65-1.75 (m, 1H), 1.83 (s, 3H), 1.88-1.96 (m, 1H), 2.02-2.10 (m, 1H), 2.15-2.33 (m, 2H), 4.11-4.17 (m, 1H), 4.27-4.33 (m, 1H), 5.54 (dd, J = 5.4, 10.0 Hz, 1H)12.60 (d, J = 2.3 Hz, 1H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.3, 23.6, 24.6, 27.4, 29.3, 29.4, 33.6, 60.2, 102.3, 131.2, 132.0, 172.2, 175.9
FTIR (cm-1)2927, 2854, 1748, 1710, 1641, 1607, 1453, 1395, 1372, 1324, 1253, 1226, 1156, 1100, 1054, 841
高分解能質量分析(APCI-) 理論値:223.1334 (C13H19O3: [M-H]-) 実測値223.1334
【0025】
例3:(E)-2-メチル-15オキソシクロペンタデカ-1-エン-カルボン酸メチルエステル(3)の合成
【化6】

乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(0.060 mL, 0.05 M, 3.0μmol)を加え、0.5 Torr、60℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン30 mLを加えた。基質(0.3 mmol, 89 mg)を加え、反応溶液濃度を0.01 Mとし、150℃で20時間加熱撹拌した後に室温に戻した。反応溶液をシリカゲルに通して触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=10/90)で精製することにより生成物 24 mg (0.082 mmol,収率27%)を無色液体として得た.
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.20-1.74 (br, 20 H), 1.93 (s, 1H), 1.98 (m, 1H), 2.38 (m, 1H), 2.64 (m, 1H), 3.13 (m, 1H), 4.21 (s, 3H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ20.8, 25.0, 25.8, 26.4, 26.5, 26.62, 26.63, 26.7, 27.0, 27.5, 27.6, 34.8, 43.2, 51.7, 132.4, 157.5, 165.9, 204.8
質量分析m/z 294 (M+)
FTIR (cm-1)2925, 2853, 1725, 1641, 1435, 1224, 847, 789, 722
高分解能質量分析(APCI-) 理論値:293.2117 (C18H30O3: [M-H]-) 実測値293.2122
【0026】
例4:(E)-5-メチル-7-オキソ-7,8,9,10-テトラヒドロベンゾ[8]アヌレン-6-カルボン酸エチルエステル(4a)及び5-メチレン-7-オキソ-5,6,7,8,9,10-ヘキサヒドロベンゾ[8]アヌレン-6-カルボン酸エチルエステル(4b)の合成
【化7】

【0027】
乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(40 μL, 0.05 M, 2.0 μmol)を加え,0.5 Torr、60℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン4.0 mLを加えた。基質(0.20 mmol, 54 mg)を加え、反応溶液濃度を0.1 Mとし、100℃で2時間加熱撹拌した後に室温に戻した。反応溶液をシリカゲルに通して触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ジエチルエーテル/ヘキサン=10/90〜30/70)で精製することにより黄色油状の4aを 9 mg(0.035 mmol,収率17%),黄色油状の4bを 31 mg(0.12 mmol,収率58%)得た(合計 0.16 mmol,収率75%)。
化合物4a
Rf = 0.36(酢酸エチル/ヘキサン=20/80)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.25 (t, J = 7.4 Hz, 3H), 1.68 (tdd, J = 12.0, 4.5, 4.0 Hz, 1H), 1.95 (tdd, J = 9.1, 4.6, 4.5 Hz, 1H), 2.28 (dt, J = 12.6, 4.6 Hz, 1H), 2.52 (td, J = 12.0, 4.6 Hz, 1H), 2.58 (td, J = 12.0, 4.0 Hz, 1H), 2 .72 (dt, J = 13.8, 4.5 Hz, 1H), 4.18(q, J = 7.4 Hz, 2H), 4.36 (s, 1H), 5.17 (s, 1H) 5.51 (s, 1H), 7.11 (dd, J = 8.6, 1.7 Hz, 1H), 7.24 (td, J = 7.4, 1.0 Hz, 1H), 7.25-7.28 (m, 2H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.1, 27.0, 31.6, 38.1, 61.5, 122.1, 126.1, 128.5, 128.7, 130.1, 138.4, 139.7, 140.9, 168.0, 206.0
FTIR (cm-1) 2937, 1739, 1715, 1436, 360, 1204, 1146, 989
質量分析 m/z 258(M+)
元素分析,理論値(C16H18O3):C, 74.39; H, 7.02;実測値:C, 74.12; H, 7.06
【0028】
化合物4b
Rf = 0.21(酢酸エチル/ヘキサン=20/80)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.36 (t, J = 7.4 Hz, 3H), 1.70 (ddt, J = 2.9, 5.2, 13.2 Hz, 1H), 2.13-2.20 (m, 1H), 2.27 (dt, J = 4.6, 11.5 Hz, 1H), 2.78 (ddd, J = 2.9, 5.2, 13.2 Hz, 1H), 2.90 (dt, J = 5.2, 13.2 Hz, 1H), 4.35 (dq, J = 4.6, 7.2 Hz, 2H), 7.20-7.22 (m, 1H), 7.30-7.36 (m, 3H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.2, 25.3, 30.0, 31.1, 38.6, 61.2, 126.6, 127.8, 129.1, 129.4, 137.7, 138.5, 139.5, 148.8, 167.4, 200.8
FTIR (cm-1) 2941, 1729, 1648, 1447, 1320, 1239, 1139, 1058, 764
質量分析 m/z 258 (M+)
元素分析,理論値(C16H18O3):C, 74.39; H, 7.02; 実測値:C, 74.13; H, 7.14
【0029】
例5:(E)-5H-11-メチル-9-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロベンゾ[9]アヌレン-10-カルボン酸エチルエステル(5a)及び(Z)-5H-7-ヒドロキシ-5-メチレン-8,9,10,11-テトラヒドロベンゾ[9]アヌレン-6-カルボン酸エチルエステル(5b)の合成
【化8】

【0030】
乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(60 μL, 0.05 M, 3.0 μmol)を加え、0.5 Torr、60℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン6 mLを加えた。基質(82 mg, 0.3 mmol)を加え、反応溶液濃度を0.05 Mとし、120℃で12時間加熱撹拌した後に室温に戻した。反応溶液をシリカゲルに通して触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン=60/40)で精製することにより,黄色油状の5aを 9.0 mg(0.033 mmol,収率11%)、黄色油状の5bを 49 mg(0.18 mmol,収率60%)得た(合計0.21 mmol,収率71%)。
【0031】
化合物5a:この化合物はケト/エノール = 89/11の平衡混合物として存在する。
Rf = 0.78(酢酸エチル/ヘキサン=20/80)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.18 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 1.70 (br, 4H), 2.75 (br 4H), 4.10 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 5.33 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 5.37 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 7.02-7.06 (m, 1H), 7.14-7.17 (m, 2H), 7.36-7.40 (m, 1H), 13.00 (s, 1H) ケト体に帰属できる以下のピークもあわせて観測された。1.26 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 1.54-1.84 (m, 4H), 2.57-2.62 (m. 4H), 4.18 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 4.58 (s, 1H), 5.26 (s, 1H), 5.87 (s, 1H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.0, 25.3, 28.5, 31.2, 31.6, 60.5, 105.1, 121.9, 125.5, 127.1, 129.5, 131.0, 140.9, 142.2, 144.4, 172.0, 176.0
FTIR (cm-1) 2937, 1752, 1637, 1606, 1316, 1227, 1158, 1038, 860, 760
質量分析 m/z 272 (M+)
元素分析,理論値(C17H20O3):C, 74.97; H, 7.40;実測値:C, 74.81; H, 7.53
【0032】
化合物5b: Rf = 0.44(酢酸エチル/ヘキサン=20/80)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.30 (t, J = 7.4 Hz, 3H), 1.50-1.59 (m, 1H), 1.76-1.99 (m, 3H), 2.45 (s, 3H), 2.59 (dd, J = 9.7, 14.4 Hz, 1H), 2.68-2.82 (dd, J = 8.9, 14.4 Hz, 2H), 4.23 (qd, J = 7.2, 11.5 Hz, 1H), 4.30 (qd, J = 7.2, 11.5 Hz, 1H) 7.06-7.08 (m, 1H), 7.18-7.25 (m, 3H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.1, 22.6, 24.3, 30.1, 30.5, 41.8, 60.8, 126.2, 127.1, 128.2, 129.2, 135.2, 136.8, 141.5, 154.0, 163.9, 207.8
IR (cm-1) 2934, 1727, 1695, 1444, 1235, 1197, 1058, 764
質量分析m/z 272 (M+)
元素分析,理論値(C17H20O3):C, 74.97; H, 7.40;実測値:C, 74.88; H, 7.58
【0033】
例6:3-メチレン-5-オキソ-N-(トルエン-4-スルホニル)アゾナン-4-カルボン酸エチルエステル(6a)及び1H-2-メチル-4-オキソ-N-(トルエン-4-スルホニル)-1,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロアゾニン-4-カルボン酸エチルエステル(6b)の合成
【化9】

【0034】
乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(0.60 mL, 0.05 M, 30 μmol)を加え、0.5 Torr、60 ℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン6.8 mLを加えた。基質のトルエン溶液(0.71 mL, 0.422 M, 0.3 mmol, 113 mg)を加え、反応溶液濃度を0.04 Mとし、150℃で1.5時間加熱撹拌した後に室温に戻した。反応溶液をシリカゲルに通し触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ジエチルエーテル/ヘキサン=30:70〜20/80)で精製することにより黄色油状生成物(6a)を59 mg (0.156 mmol,収率52%)及び黄色油状生成物(6b)を10 mg (0.026 mmol,収率9%)を得た(合計0.183 mmol, 61%)。
化合物6a:この生成物はケト/エノール=34/66の混合物として存在する。
1H NMR (500 MHz, 重トルエン中100 °Cにて測定) δ 1.03 (t, J = 7.2 Hz, 3H (ケト体)), 1.09 (t, J = 6.9 Hz, 3H (エノール体)), 1.40-1.49 (m, 1H (ケト体)), 1.49-1.74 (m, 2H (ケト体) and 4H (エノール体)), 1.74-1.85 (m, 1H (ケト体)), 2.03 (s, 3H (ケト体) and 3H (エノール体)), 2.33 (brs, 2H (エノール体)), 2.48-2.56 (m, 2H (ケト体)), 2.68 (ddd, J = 3.9, 8.6, 13.8 Hz, 1H (ケト体)), 2.86 (brs, 2H (エノール体)), 3.13 (ddd, J = 4.5, 8.6, 13.4 Hz, 1H (ケト体)), 3.28 (d, J = 14.5 Hz, 1H (ケト体)), 3.74 (brs, 2H (エノール体)), 3.50-4.79 (m (q (4.04 ppm)をこの領域に含む), J = 7.1 Hz, 3H (ケト体) and 2H (エノール体)), 4.67 (s, 1H (ケト体)), 4.92 (s, 1H (エノール体)), 5.05 (s, 1H (ケト体)), 5.20 (s, 1H (エノール体)), 5.38 (s, 1H (ケト体)), 6.89 (d, J = 7.6 Hz, 2H (ケト体) and 2H (エノール体)), 7.52 (d, J = 7.6 Hz, 2H (ケト体)), 7.60 (d, J = 8.3 Hz, 2H (エノール体)), 13.07 (s, 1H (エノール体))
13C NMR (125 MHz, 重トルエン中100 °Cにて測定) δ 13.9, 14.1, 20.9, 23.0, 24.1, 27.4, 27.8, 30.4, 41.4, 47.3, 49.8, 56.0, 56.8, 60.5, 61.0, 62.8, 102.5, 120.2, 121.4, 129.5, 136.4, 139.5, 141.4, 142.6, 143.0, 167.9, 171.9, 177.6, 203.3 (これ以外に,溶媒のピークと重なっているピークが数本ある)
IR (cm-1) 2994, 2963, 2940, 2898, 2869, 2361, 2344, 1646, 1600, 1376, 1334, 1299, 1242, 1161, 1094, 666
m/z(APCI-) 378(M-1)
元素分析(C18H23NO4S)理論値:C, 60.14; H, 6.64; N, 3.69. 実測値:C, 60.14; H, 6.77; N, 3.53
【0035】
化合物6b
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.27 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.84-1.92 (m, 4H), 2.12 (s, 3H), 2.45 (s, 3H), 2.74-2.79 (m, 2H), 2.81-2.86 (m, 2H), 3.67 (s, 2H), 4.21 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 7.35 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.68 (d, J = 8.2 Hz, 2H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.0, 20.4, 21.5, 23.0, 28.7, 43.0, 51.4, 56.2, 60.9, 128.2, 129.7, 132.6, 133.4, 144.2, 150.1, 163.7, 205.0
IR (無溶媒)(cm-1) 2981, 2970, 2939, 2912, 2864, 2847, 2361, 2344, 1704, 1689, 1635, 1358, 1239, 1187, 1170, 1089, 1076, 728, 656
高分解能質量分析(APCI-) 理論値(C19H24NO5S)378.1375,実測値378.1377
【0036】
例7:5,6,7,8-テトラヒドロ-5-メチレン-7-オキソジベンゾ[a,c:8]アヌレン-6-カルボン酸エチルエステル(7a)及び7,8-ジヒドロ-5-メチル-7-オキソジベンゾ[a,c:8]アヌレン-6-カルボン酸エチルエステル(7b)の合成
【化10】

【0037】
乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(40 μL, 0.05 M, 2.0 μmol)を加え、0.05 Torr, 60℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン4 mLを加えた。基質(60 mg , 0.2 mmol)を加え、反応溶液濃度を0.05 Mとし、100℃で30分加熱撹拌した後に室温に戻した。反応溶液をシリカゲルに通し触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をブロモホルムを用いて1H NMRで解析することにより7a及び7bの生成を確認した(0.23 mmol, 78%)。
化合物7a
1H NMR (500 MHz, CDCl3) この化合物はケト体のジアステレオマー混合物とエノール体の混合物として存在している(ケト主:ケト副:エノール=75:10:15)
ケト主: δ 1.26 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 3.45 (d, J = 11.5 Hz, 1H), 4.02 (d, J = 11.5 Hz, 1H), 4.12-4.25 (m, 2H, この領域は他の異性体のピークと重なっている), 4.20 (s, 1H), 4.80 (s, 1H), 5.21 (s, 1H), 7.19-7.42 (m, 8H, この領域は他の異性体のピークと重なっている);ケト副:1.34 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 3.48 (d, J = 13.8 Hz, 1H), 3.62 (d, J = 13.8 Hz, 1H), 4.12-4.25 (m, 2H, この領域は他の異性体のピークと重なっている), 4.40 (s, 1H), 4.90 (s, 1H), 5.59 (s, 1H), 7.19-7.42 (m, 8H, この領域は他の異性体のピークと重なっている);エノール体: δ 1.26 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 3.29 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 3.38 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 4.12-4.25 (m, 2H, この領域は他の異性体のピークと重なっている), 4.70 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 5.02 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 7.19-7.42 (m, 8H, この領域は他の異性体のピークと重なっている), 13.45 (s, 1H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) ケト主 : δ 14.1, 47.6, 61.7, 66.4, 123.2, 127.4, 127.51, 127.53, 127.8, 128.4, 129.1, 129.4, 129.7, 129.9, 168.2, 201.5
IR(cm-1) 2982, 1731, 1633, 1479, 1442, 1275, 1230, 1179, 1026, 924, 747
高分解能質量分析(APCI+) 理論値:307.1334 (C20H18O3: [M+H]+) 実測値 307.1328
【0038】
化合物7b
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.26 (t, J = 7.4 Hz, 3H), 2.15 (s, 3H), 3.46 (d, J = 17.2 Hz, 1H), 3.59 (d, J = 17.2 Hz, 1H), 4.15-4.20 (m, 2H), 7.21-7.42 (m, 8H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.1, 23.9, 49.7, 60.9, 127.4, 127.5,128.1, 128.2, 128.5, 128.9, 129.06, 129.07, 134.8, 137.6, 163.9, 201.7
IR(cm-1) 2925, 2853, 1717, 1652, 1436, 1230, 1026, 746
高分解能質量分析(APCI+) 理論値:307.1334 (C20H18O3: [M+H]+) 実測値 307.1326
【0039】
例8
【化11】

【0040】
乾燥させた反応容器にIn(NTf2)3のアセトニトリル溶液(0.60 mL, 0.05 M, 0.030 mmol)を加え、0.05 Torr、60℃にて1 時間加熱することでアセトニトリルを除去するとともに触媒を乾燥させた。容器を窒素で置換し、トルエン6.9 mLを加えた。基質のトルエン溶液(0.6 mL, 0.5 M, 0.3 mmol, 105 mg)を加え、150℃で30分加熱撹拌した後に室温に戻した。反応溶液をシリカゲルカラムに通し、触媒を除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、4-アセチル-5-ヒドロキシ-3-メチレン-N-(トルエンスルホニル)-アザシクロノナ-4-エン(8a) 64 mg(0.183 mmol,収率61%)及び4-アセチル-3-メチル-5-オキソ-N-(トルエンスルホニル)アザシクロノナ-4-エン(8b) 15 mg(0.043 mmol,収率14%),合計79 mg(0.23 mmol,収率75%)を得た。
【0041】
化合物8a
Rf = 0.54 (ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)
粘凋なオイル状
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.55-1.64 (m, 1H), 1.73-1.90 (m, 3H), 2.08 (s, 3H), 2.18-2.25 (m, 1H), 2.44 (s, 3H), 2.80-2.88 (m, 1H), 2.98 (dt, J = 14.5, 4.3 Hz, 1H), 3.18 (ddd, J = 4.0, 10.2, 14.2 Hz, 1H), 3.65 (d, J = 14.6 Hz, 1H), 3.78 (d, J=14.5 Hz, 1H), 5.24 (s, 1H), 5.65 (s, 1H), 7.33 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.68 (d, J=7.65 Hz, 2H), 16.71 (s, 1H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 21.5, 23.7, 24.6, 26.0, 33.0, 48.7, 55.9, 113.4, 124.7, 127.4, 129.7, 135.0, 141.0, 143.6, 190.7, 194.2
IR(無溶媒)(cm-1) 2972, 2931, 2858, 1929, 1889, 1634, 1597, 1341, 1159, 1007, 944, 920, 858, 819, 773, 675
元素分析,理論値(C18H23NO4S):C, 61.87; H, 6.63; N, 4.01. 実測値: C, 61.88; H, 6.78; N, 3.89
質量分析(APCI-) m/z = 348 ([M-H]-
【0042】
化合物8b
Rf = 0.18 (ヘキサン/酢酸エチル= 1/1)
無色結晶; 融点154-157℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.82-1.89 (m, 5H), 1.85 (s, 3H), 1.89-1.95 (m, 2H), 2.25 (s, 3H), 2.45 (s, 3H), 2.69 (m, 2H), 2.84 (t, J=5.7 Hz, 2H), 3.63 (s, 3H), 7.35 (d, J=8.4 Hz, 2H), 7.67 (d, J=8.5 Hz, 2H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 19.8, 21.5, 23.0, 28.3, 30.0, 44.1, 51.9, 55.4, 128.1, 129.8, 132.7, 142.2, 144.1, 144.2, 198.6, 206.1
IR(固体)(cm-1) 2942, 2933, 2869, 1676, 1341, 1187, 1182, 1166, 1157, 828, 732, 657
高分解質量分析(APCI-) 理論値:348.1270(C18H22NO4S:[M-H]-), 実測値:348.1261
【0043】
例9(参考例)
【化12】

上記スキームに示されるα-(ω-アルキニル)-β-ケトエステルを原料化合物として用い、例1ないし8と同様にして分子内環化反応を行なったところ、反応は全く進行せず、原料を回収した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

[式中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し;両端においてそれぞれカルボニル炭素(a)及びイソプロピニレン炭素(b)に結合する-A-は8ないし15員環を構成するアルキレン鎖を示すが、該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個又は2個以上が窒素原子、酸素原子、及びイオウ原子からなる群から選ばれるヘテロ原子で置き換えられていてもよい。該アルキレン鎖は1個又は2個以上の二重結合を含んでいてもよく、該アルキレン鎖上の任意の位置に1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。該アルキレン鎖上に2個以上の置換基が存在する場合には、それらの置換基が結合して1個又は2個以上の環(該環は飽和環、部分飽和環、又は芳香環のいずれであってもよい)を形成していてもよい。]で表される8ないし15員化合物の製造方法であって、下記の一般式(II):
【化2】

[式中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し;R2は水素原子、ハロゲン原子、又は置換シリル基を示し;両端においてそれぞれカルボニル炭素(c)及びエチニル炭素(d)に結合する-A-は閉環反応後の上記一般式(I)で表される化合物において8ないし15員環を構成するアルキレン鎖を示すが、該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個又は2個以上が窒素原子、酸素原子、及びイオウ原子からなる群から選ばれるヘテロ原子で置き換えられていてもよい。該アルキレン鎖は1個又は2個以上の二重結合を含んでいてもよく、該アルキレン鎖上の任意の位置に1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。該アルキレン鎖上に2個以上の置換基が存在する場合には、それらの置換基が結合して1個又は2個以上の環(該環は飽和環、部分飽和環、又は芳香環のいずれであってもよい)を形成していてもよい。]で表される化合物をインジウム触媒の存在下で分子内環化する工程を含む方法。
【請求項2】
R1がアルキル基又はアルコキシ基であり、-A-がアルキレン鎖(該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個又は2個以上が窒素原子で置き換えられていてもよい)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R1がアルキル基であり、-A-が8又は9員環を構成するアルキレン鎖(該アルキレン鎖を構成するメチレンの1個が窒素原子で置き換えられていてもよい)である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
インジウム触媒がインジウムビストリフリルアミドである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2008−201757(P2008−201757A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42040(P2007−42040)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月19日〜22日 国立大学法人東京大学主催の平成18年度修士課程業績報告会において文書をもって発表 〔刊行物等〕 平成18年9月8日〜9日 社団法人近畿化学協会主催の第53回有機金属化学討論会において文書をもって発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】