説明

中性子束モニタ装置及びその波高弁別閾値設定方法

【課題】簡便な演算回路により、従来の波高弁別閾値設定方法よりも短時間で精度良く中性子束モニタ装置の波高弁別閾値を自動的に設定する。
【解決手段】波高弁別閾値−計数率曲線から計数率の変化率の絶対値がゼロ近傍の所定の範囲にある第1の領域Aを抽出する第1のステップと、第1の領域Aが抽出されないときに第1の範囲よりも変化率が大きい第2の領域Bを抽出する第2のステップと、第2の領域Bが抽出されないときに第Nの領域が抽出されるまで第2のステップを繰り返す第3のステップと、第1、第2・・又は第Nの領域が抽出されたときその領域を安定領域として設定する第4のステップと、安定領域よりも波高弁別閾値が小さい領域Pの波高弁別閾値−計数率曲線変化率の近似直線を求める第5のステップと、近似直線とx軸との交点の波高弁別閾値Qを求め、それが安定領域内にあるときに波高弁別閾値として設定する第6のステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉起動に際して原子炉出力を監視する中性子束モニタ装置及びその波高弁別閾値設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の起動領域の原子炉出力を監視する中性子束モニタシステムの構成例を図6に示す。この中性子束モニタシステムは、原子炉における原子炉圧力容器内の中性子束を測定する起動系中性子束検出器1と、起動系中性子束検出器1からの出力電流信号を入力し抵抗2によって電圧信号に変換して増幅する前置増幅器3と、前置増幅器3からの電圧信号を入力しその信号から所要の情報を演算し原子炉の原子炉出力を監視する中性子束モニタ装置4とから構成される。
【0003】
中性子検出器の信号にノイズが含まれていれば、前置増幅器3でノイズも同様に電圧信号に変換され増幅され、増幅された中性子束を測定した信号とノイズの合成信号は中性子束モニタ装置4に入力される。中性子束モニタ装置4における中性子束パルス測定では、中性子束信号の周波数帯域幅でフィルタリングするが、中性子束のパルス成分と同周波数帯域のノイズは中性子束パルスとノイズの波高の違いを利用した波高弁別閾値により弁別される。
【0004】
この波高弁別閾値は、通常、以下の手順により設定される。前置増幅器3からの出力信号は波高弁別のための閾値を有する比較回路5に入力され、この比較回路5では前置増幅器3からの出力信号と閾値が比較され、閾値を越える波高のパルスが弁別される。この比較回路5から出力されたパルス数をカウンタ回路6で計数する。波高弁別に用いられる閾値は、0mVから一定間隔・一定時間でステップ状に変化するようにHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)部10で設定されメモリ部9に入力され、D/A変換器8で電圧信号に変換され、比較回路5に送られる。各閾値とそのときに計測された計数率は処理回路7を経て、ホストコンピュータ11に転送され、また処理回路7からメモリ部9に入力される。ホストコンピュータ11は、例えば図2に示すような波高弁別閾値と計数率の波高分布曲線を表示し、技術者はこの曲線を基に波高弁別閾値を設定する(特許文献1)。
【0005】
上述した波高弁別閾値の設定手段は図2に示すような波高弁別閾値と計数率の曲線に基づいて技術者が判断していたが、波高弁別閾値を自動で設定する手段も提案されている。この手段は演算処理によりノイズ成分を除去した波高弁別閾値と計数率の曲線の平坦な部分を抽出し、その部分に対応する波高弁別閾値を中性子束モニタ装置の波高弁別閾値として設定するものである(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−309548号公報
【特許文献2】特開平10−197643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の中性子束モニタ装置の波高弁別閾値設定方法は図2に示すような波高弁別閾値と計数率の曲線を基に技術者が波高弁別閾値を判断していたため、技術者の判断により、波高弁別閾値にばらつきが生じ、計数率の精度を左右していた。また、波高弁別閾値と計数率の曲線が不安定であった場合、技術者の判断が困難であった。
【0008】
さらに、特許文献2で提案されている自動的に波高弁別閾値を設定する方法も、演算処理が複雑で処理に時間を要し、異常事象に迅速に対応することが困難であるとともにシステムに過大な負担をかけるものであった。
【0009】
本件発明は上記課題を解決するためになされたもので、簡便な演算回路により、短時間で精度良く波高弁別閾値を自動的に設定することができる高信頼性の中性子束モニタ装置及びその波高弁別閾値設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る中性子束モニタ装置の波高弁別閾値設定方法は、波高弁別閾値−計数率曲線から計数率の変化率の絶対値がゼロ近傍の所定の範囲にある第1の領域を抽出する第1のステップと、前記第1の領域が抽出されないときに前記第1の範囲よりも変化率が大きい所定の範囲にある第2の領域を抽出する第2のステップと、前記第2の領域が抽出されないときに第Nの領域が抽出されるまで前記第2のステップを繰り返す第3のステップと、前記第1、第2・・又は第Nの領域が抽出されたときその領域を安定領域として設定する第4のステップと、前記安定領域よりも波高弁別閾値が小さい領域の波高弁別閾値−計数率曲線変化率の近似直線を求める第5のステップと、前記近似直線とx軸との交点の波高弁別閾値を求め、その波高弁別閾値が前記安定領域内にあるときに当該波高弁別閾値を中性子束モニタ装置の波高弁別閾値として設定する第6のステップと、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る中性子束モニタ装置の波高弁別閾値設定方法は、波高弁別閾値−計数率曲線から計数率の変化率の絶対値がゼロ近傍の所定の範囲にある第1の領域及び前記第1の範囲よりも順次変化率が大きい所定の範囲にある第2乃至第Nの領域を抽出する第1のステップと、前記第1のステップで抽出された領域から最も計数率の変化率が小さい範囲の領域を安定領域として設定する第2のステップと、前記安定領域よりも波高弁別閾値が小さい領域の波高弁別閾値−計数率曲線変化率の近似直線を求める第3のステップと、前記近似直線とx軸との交点の波高弁別閾値を求め、その波高弁別閾値が前記安定領域内にあるときに当該波高弁別閾値を中性子束モニタ装置の波高弁別閾値として設定する第4のステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る中性子束モニタ装置は、原子炉内の中性子束を測定する起動系中性子束検出器からの出力信号が入力される前置増幅器と、前記前置増幅器からの信号と波高弁別閾値を比較弁別する比較回路と、前記比較回路からの出力を計数するカウンタ回路と、前記カウンタ回路からの出力を処理しホストコンピュータに出力する処理回路と、波高弁別閾値を設定する演算回路とを有する中性子束モニタ装置において、前記演算回路は、本件発明に係る波高弁別閾値設定方法に基づいて中性子束モニタ装置の波高弁別閾値を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便な演算回路により、従来の波高弁別閾値設定方法よりも短時間で精度良く中性子束モニタ装置の波高弁別閾値を自動的に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る中性子束モニタ装置の構成図。
【図2】本発明の実施形態に係る波高弁別閾値−計数率曲線図。
【図3】本発明の実施形態において、係数率変化率が異なる3つの領域A〜Cを示す図。
【図4】本発明の実施形態において、領域Aが安定領域に設定される例を示す図。
【図5】本発明の実施形態において、領域Bが安定領域に設定される例を示す図。
【図6】従来の中性子束モニタ装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る中性子束モニタ装置及びその波高弁別閾値設定方法の実施形態を、図を用いて説明する。
本実施形態に係る中性子束モニタ装置20は、図1に示すように、比較回路24、カウンタ回路25、処理回路26、D/A変換器27、演算回路28、メモリ部29及びHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)部30から構成される。
【0016】
原子炉圧力容器内の起動系中性子束検出器21からの出力電流信号は、抵抗22及び前置増幅器23によって電圧信号に変換され、中性子束モニタ装置20の比較回路24に入力される。
【0017】
このように構成された中性束モニタ装置20において、波高弁別閾値を設定する手順を以下に説明する。
HMI部30で、適切な波高弁別閾値を設定変更・検証するために、波高弁別閾値を0mVから一定間隔・一定時間で変化させる。前置増幅器23から中性子束モニタ装置内の比較回路24に入力された信号は、HMI部30で設定変更した波高弁別閾値により弁別された後、カウンタ回路25でパルス数を計数し、計数率は処理回路26で算出される。メモリ部29に各波高弁別閾値に対応した計数率を貯蔵する。
【0018】
各波高弁別閾値設定値に対応した全ての計数率を取得した後、演算回路28は図2示すような波高弁別閾値をx軸、計数率をy軸として波高弁別閾値−計数率曲線を求め、さらに、以下の演算を実施する。
【0019】
まず最初に各閾値間の計数率の変化率を算出する。次に計数率変化率の絶対値を大きさの範囲ごとにグループ分けし、計数率の変化率が同じグループ内で3点以上連続した領域を抽出する。
【0020】
同じグループの領域が複数ある場合は、その中で波高弁別閾値の絶対値が最も小さい要素を含む領域を抽出し、他を除去し、1つのグループで領域を1つとする。
抽出した領域から計数率変化率の絶対値が最も小さいグループの領域を決定する。
【0021】
決定領域より波高弁別閾値の絶対値が低い側の領域を設定し、計数率変化率の絶対値がおよそ一定に変化する点を抽出し、抽出した点からxが波高弁別閾値、yが計数率として、近似直線(y=ax+b)を求める。近似直線をノイズの分布直線として、これより高い波高弁別閾値を求める。
【0022】
近似直線からx軸との接点(x=b/a)を算出する。算出した点(x=b/a)が決定領域内にある場合、算出した点(x=b/a)を計数率測定の波高弁別閾値とする。算出した点(x=b/a)が決定領域外である場合、決定領域の波高弁別閾値で算出した点(x=b/a)に最も近い値を計数率測定の波高弁別閾値とする。
【0023】
その一例を以下図3を参照して説明する。
(実施例1)
図3の波高弁別閾値−計数率曲線から計数率の変化率(S-1/mV)の絶対値が0近傍(例えば、−0.05以上〜0.05未満)のものが連続して3点以上ある領域を抽出し、その領域が抽出されればその領域Aを安定領域として設定する(ステップ1)。
【0024】
次に、領域Aが抽出されなければ、−0.1近傍(例えば、−0.15以上〜−0.05未満)のものが連続して3点以上ある領域Bを探し、領域Bが抽出されれば領域Bを安定領域として設定する(ステップ2)。
【0025】
次に、領域Bが抽出されなければ、−0.2近傍(例えば、−0.25以上〜−0.15未満)のものが連続して3点以上ある領域Cを探し、領域Cが抽出されれば、領域Cを安定領域として設定する(ステップ3)。
【0026】
図3に示す例では、便宜上、領域A〜Cが存在する例を示しているが、領域Aが抽出されれば、その後の領域B、Cの抽出処理は省略する。
【0027】
このA、B又はCの安定領域が設定された(ステップ4)後、当該安定領域よりも閾値の小さい領域をPとし、この領域P内で領域Pの計数率を波高弁別閾値で2回微分し、その計数率の2回微分値が一例として0近傍(−0.05以上〜0.05未満)でノイズ計数率が同じ割合で変化する点を抽出し、前記抽出点から近似直線(y=ax+b)のaとbを設定し、近似曲線を求める(ステップ5)。この近似曲線がノイズの分布曲線となる。
【0028】
次に、この近似曲線とx軸との交点Qを求め、このQ点がA、B又はC領域からなる安定領域内にあれば、その値を波高弁別閾値とする(ステップ6)。Q点が安定領域内になければ、当該安定領域の右端の値、すなわち、Q点と最も近いA、B又はC領域の値R点を波高弁別閾値とする(ステップ7)。
【0029】
図4は、領域Aが抽出されて安定領域として設定され、かつ、当該安定領域内にあるQ点を波高弁別閾値として設定する例である。
【0030】
図5は、領域Aが抽出されずに領域Bが抽出され、領域Bを安定領域として設定し、かつ、Q点が当該安定領域内にはなく、安定領域(領域B)の右端のR点を波高弁別閾値として設定する例である。
【0031】
(実施例2)
上記実施例1では、領域A〜Cを順次抽出処理しているが、A〜C領域を同時に抽出処理してもよい。その際、複数の領域が抽出されれば、計数率の変化率(S-1/mV)が最も小さい範囲の領域を安定領域として設定する。例えば、A〜Cの全領域が抽出されればA領域を安定領域として設定する。安定領域設定後のステップは実施例1と同様である。
【0032】
このようにして求められたQ点又はR点を中性子束モニタ装置の波高弁別閾値として設定し、原子炉出力の監視をおこなう。
なお、上記実施形態において、領域AからCの計数率の変化率(S-1/mV)の範囲はそれぞれ上記のように規定されているが、これに限定されず、適宜、変更してもよい。
【0033】
また、上記実施形態では、領域をA〜Cの3領域としているが、これに限定されず、領域を2又は4以上としてもよい。その際、それぞれの計数率の変化率(S-1/mV)の範囲は、適宜、設定される。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、簡便な演算回路により、従来の波高弁別閾値設定方法よりも短時間で精度良く中性子束モニタ装置の波高弁別閾値を自動的に設定することができるとともに、ノイズに影響されない高信頼性の中性子束モニタを提供することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…中性子検出器、2…抵抗、3…前置増幅器、4…中性子束モニタ装置、5…比較回路、6…カウンタ回路、7…処理回路、8…D/A変換器、9…メモリ部、10…HMI部、20中性子束モニタ装置、…21…検出器、22…抵抗、23…前置増幅器、24…比較回路、25…カウンタ回路、26…処理回路、27…D/A変換器、28…演算回路、29…メモリ部、30…HMI部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波高弁別閾値−計数率曲線から計数率の変化率の絶対値がゼロ近傍の所定の範囲にある第1の領域を抽出する第1のステップと、前記第1の領域が抽出されないときに前記第1の範囲よりも変化率が大きい所定の範囲にある第2の領域を抽出する第2のステップと、前記第2の領域が抽出されないときに第Nの領域が抽出されるまで前記第2のステップを繰り返す第3のステップと、前記第1、第2・・又は第Nの領域が抽出されたときその領域を安定領域として設定する第4のステップと、前記安定領域よりも波高弁別閾値が小さい領域の波高弁別閾値−計数率曲線変化率の近似直線を求める第5のステップと、前記近似直線とx軸との交点の波高弁別閾値を求め、その波高弁別閾値が前記安定領域内にあるときに当該波高弁別閾値を中性子束モニタ装置の波高弁別閾値として設定する第6のステップと、を有することを特徴とする中性子束モニタ装置の波高弁別閾値設定方法。
【請求項2】
前記第4のステップにおいて、前記第1、第2・・又は第Nの領域が抽出されたとき、その後の抽出処理を省略することを特徴とする請求項1記載の中性子束モニタ装置の波高弁別閾値設定方法。
【請求項3】
波高弁別閾値−計数率曲線から計数率の変化率の絶対値がゼロ近傍の所定の範囲にある第1の領域及び前記第1の範囲よりも順次変化率が大きい所定の範囲にある第2乃至第Nの領域を抽出する第1のステップと、前記第1のステップで抽出された領域から最も計数率の変化率が小さい範囲の領域を安定領域として設定する第2のステップと、前記安定領域よりも波高弁別閾値が小さい領域の波高弁別閾値−計数率曲線変化率の近似直線を求める第3のステップと、前記近似直線とx軸との交点の波高弁別閾値を求め、その波高弁別閾値が前記安定領域内にあるときに当該波高弁別閾値を中性子束モニタ装置の波高弁別閾値として設定する第4のステップと、を有することを特徴とする中性子束モニタ装置の波高弁別閾値設定方法。
【請求項4】
前記近似直線とx軸との交点が前記安定領域内にないときに、前記安定領域の右端の波高弁別閾値を中性子束モニタ装置の波高弁別閾値として設定するステップをさらに有することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の中性子束モニタ装置の波高弁別閾値設定方法。
【請求項5】
原子炉内の中性子束を測定する起動系中性子束検出器からの出力信号が入力される前置増幅器と、前記前置増幅器からの信号と波高弁別閾値を比較弁別する比較回路と、前記比較回路からの出力を計数するカウンタ回路と、前記カウンタ回路からの出力を処理しホストコンピュータに出力する処理回路と、波高弁別閾値を設定する演算回路とを有する中性子束モニタ装置において、
前記演算回路は、請求項1乃至4いずれかに記載の波高弁別閾値設定方法に基づいて中性子束モニタ装置の波高弁別閾値を設定することを特徴とする中性子束モニタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−237219(P2011−237219A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107422(P2010−107422)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】