中枢神経系へ薬物を制御下に放出するためのゾル・ゲルナノ構造チタニア貯蔵器および合成方法
【課題】中枢神経系において薬剤の制御された放出に用いることができるナノ構造貯蔵器の提供。
【解決手段】シリカ、チタニア、またはシリカ・チタニアを材料とし、ゾル・ゲル方法によってナノ構造の微細な多孔性体を作ると、その多孔性体は薬の貯蔵器として使用でき、生体組織と共存できることが見出された。この貯蔵器に中枢神経系の治療薬剤を入れると、一定割合で薬剤を放出することが確かめられた。この貯蔵器は、脳神経系薬剤の治療有用なものである。
【解決手段】シリカ、チタニア、またはシリカ・チタニアを材料とし、ゾル・ゲル方法によってナノ構造の微細な多孔性体を作ると、その多孔性体は薬の貯蔵器として使用でき、生体組織と共存できることが見出された。この貯蔵器に中枢神経系の治療薬剤を入れると、一定割合で薬剤を放出することが確かめられた。この貯蔵器は、脳神経系薬剤の治療有用なものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脳組織と生体共存できる(拒絶反応を起こさない)チタニア貯蔵器の合成に関するものである。アナターゼ、ブルッカイトおよびルチルでは、気孔の大きさ分布、微結晶(クリスタリット)の大きさ、および結晶相の分布程度は、完全に制御することができる。この考案品(器具)は神経系の薬剤を入れるのに用いられる。それは6ヶ月から3年の期間にわたって薬剤を制御下に時間とともに放出させる目的で、脳組織内へ直接挿入されるものである。
【背景技術】
【0002】
慢性疾患の治療における最新の研究は、薬剤を必要としている場所へ薬剤を迅速に効率よく分配することができる制御された放出方式の開発を基礎としている。主たる要求は、これらの器具が薬剤を作用場所へ確実に分配し浸透させなければならない、ということである。新しいナノ構造の材料が、将来の治療において薬物と生物学的製品とを投与するのに能率のよい方法を提供している1-5。N−イソプロピルアクリルイミドとメタクリル酸(MAA)を基礎とするヒドロゲルが、最近著しい注目を浴びている。これは、その媒体が刺激に感応して膨張することが出来ることに起因している6-8。固体状態では、単量体が水素結合によって一体に結合している重合体間錯体の存在が観察されるに至った。これらの結合は、酸性条件下で起こり、疎水性相互作用によって安定化されている。これは、膨張が起こる媒体のpHに大きく依存していることにつながる。また、この膨張は橋かけ結合の程度に大きく依存している。経口手段による薬剤分配の使用は、特にpHの変化によって活性が制御される場合に、著しい注目を浴びている。高濃度のN−イソプロピルアクリルアミドを含んだ共重合体は、薬剤モデルに使用される色々な切断曲線を得ることができる点で、最も有効であるように見える12-15。
【0003】
制御された薬剤放出が行われている大多数の場合には、薬物または他の生物試薬が普通に輸送具として知られている貯蔵器の中へ入れられる。輸送具は通常は重合体材料で作られている。普通の条件下では、薬剤放出の割合は輸送具を構成している重合体材料の性質によって制御される。しかし、他の要因も割合を決定することがある。これらの要因を考慮に入れると、長期間にわたって薬剤の分配が遅くて一定の割合を確保することが可能となる16-18。これらの材料の使用は、現在使用されているシステムに比べると、薬剤分配に著しい進歩をもたらす。従来の薬剤分配システムでは、薬剤濃度が最大値に達すると、あとは減少するだけで最後に別の一定量の投与が必要な濃度に到達する。さらに、薬剤の最大濃度が安全値を越えるか、或いはまた最大濃度が必要量以下に低下すると、薬剤が望ましい効果を発揮しない周期的な期間が発生する。これは、一般に「variations in tisular exposure」として知られている。制御された薬剤の放出が利用されるときに、許される最大割合と、その割合が有効な最低濃度との間にある薬剤濃度を維持することが可能となる19-21。
【0004】
薬剤を望ましい場所へ分配するには、輸送具の表面から輸送具を取巻く媒体への拡散が起こらなければならない。この点から薬剤はそれが働く場所へ拡散しなければならない。多くの研究の結果、制御された薬剤放出を分類することができる次の4つの一般的な機構のあることが結論づけられている。1)拡散制御システム、2)化学的に制御されたシステム、3)不溶性化剤により活性化されるシステム、4)磁気により制御されるシステム。
【0005】
ここに記載したようなシステムに対して、薬剤が流動性媒体に移行するには、薬物が輸送具の表面から脱離し、同時に流動性媒体へ吸収される過程を経なければならない。この過程は濃度勾配によって制御される。流体は水または生物学的流体で構成されている。ガラス状態にある重合体中に溶剤が入ると、高分子の活動が顕著に増加する。熱力学的観点からは材料と溶剤との間の溶解度パラメータdと、相互作用cとは、溶剤と貯蔵器との間の共存性を現わすことができる。もし固体が重合体とほんの僅か共存するだけであるならば、固体はガラス状態にとどまり、これらの条件の下ではどのような薬剤でも制御された放出が極めて遅くて、限られた薬剤学的有用性を持つだけである。他方、熱力学が好都合に働けば、溶質が輸送具から流体へ拡散できる確率が非常に大きくなる(Korsmeyer and Pepas, 1984 and Lee 1985a)22。1971年にYasudaとLamazeは自由体積についての理論を改訂して、彼等は相当正確に重合体マトリックス中を移動する薬剤の拡散係数を予測できると記載した23。この処理中で、彼等は重合体中の溶質の標準化された拡散係数と、純溶剤中の溶質の拡散係数は、水和の程度によって関係づけられるということを示した。薬剤の外部輸送は、溶質と貯蔵器との間の界面における溶質の分離によって起こされ、Fickの第1法則に従う(Langer and Peppas, 1983)24濃度勾配の影響下に外部拡散が引き続いて起こる。これらのシステムは一定の割合で薬物放出を起こすことができる。しかし、実際には大きな偏差に至る要因が存在する。この問題は通常、器具の形態を調整または変更することによって補正することができる。このシステムが一体物であるときには、活性化合物は固体重合体からなる支持物上に一様に分布される。
【0006】
薬剤は、その濃度が重合体中への溶解度を越えたというような濃度であるかどうかによって、重合体マトリックス中に溶解または分散される。薬剤の流動媒体への移行は、支持物に沿った分子表面拡散の結果として起こるか、または重合体マトリックス内の微小または中間の孔を通る孔拡散によって起こる。この場合には、拡散はFickの第2法則を用いて解釈することができる。しかし、何れの場合も薬剤の流動性媒体への移行は、時間の関数として減少する。この減少は拡散通路の長さが増す結果として起こる(Rhineほか、1980)25。
【0007】
薬剤は重合体の鎖に化学的に結合されており、加水分解的な分裂の結果として放出される。かりに加水分解を酵素によって促進させることができるならば、薬剤放出の割合は変更することができる(Kopeckほか、1981)26。連続的な薬剤放出の他のシステムは、ポリ乳酸から作られた重合体と、その共重合体を含んでいる30。これらの前駆体は、グリコール酸とともに、主にその生分解性と生物組織との共存性のために用いられて来た。薬剤をマイクロカプセルに詰め込むことは31-32、技術的見地からは薬剤の被覆を含む方法だ、と言うことができる。これは分子、固体粒子、または液体の小滴として起こる。カプセル詰めの方法に用いられる材料は、特定の用途によって異なる。しかし、その方法は微小な大きさの粒子を生じる。この方法の結果作られた製品は、「微小粒子」(microparticle)、「マイクロカプセル」(microcapsule)または「微小球」(microsphere)と呼ばれる。
【0008】
これらのシステムはその形態と内部構造とで異なっている。しかし、それらは約1mmの大きさである点ですべて似ている33-34。粒子の大きさが1μmより小さいときには、マイクロカプセルに詰める方法によって得られた製品は、「ナノ球」「ナノ粒子」または「ナノカプセル」と言われる35-37。マイクロカプセルに詰める方法の重要な特徴は、その製品が薬剤、または生物材料に限定されずに、農業、化粧品および食品のような領域の製品を含むように拡大される、ということである38。
【0009】
制御された薬剤分配が用いられる他の分野がある。これは皮膚から吸収される薬物療法を含んでいる。皮膚に塗ることができるクリームとゲルは、特定地域に限定された病原菌を根絶するための鎮静剤および薬物として多年用いられて来た。また、それらは身体全体(全身)を処理するために用いられる39。近年は次第に数を増す薬物が経皮的な貼り薬として入手できるようになっている。貼り薬はリング状接着剤によって皮膚に接着し、薬物の薄いフィルムが貼り薬の中心を覆っている40。薬物は徐々に皮膚から吸収され、最後に血流に吸収される。最も頻繁に使用される経皮的な貼り薬は、テストステロン、エストロゲン、鎮静剤、産児制限およびニコチンパッチ(喫煙中止を助長するのに用いられる)を含んでいる。ガバペンティン(Gabapentin)のような他の貼り薬は、抗痙攣剤(Neurontin)を分配する41-43。或る場合には、活性薬物は吸収される割合を制御するもう1つの物質と混合される。このことは薬物がより長い期間または数日間連続的に使用されることを意味している。
【0010】
経皮的投与がなされるもう1つの方法は、小さな容器を使用する方法であり、それは空気圧を利用して皮膚の上層へ薬物の小さな流れを注射する。1日ごとにインシュリンを必要とする人は薬物投与のために、幾つかの非常に小さな容器を利用することがある44。HIVを治療するために遺伝子療法に従事している研究者は、皮膚または筋肉組織から遺伝子物質を注射する技術を色々と試みてきた45-46。薬物はまた粘性膜によって分配される。多くの薬剤が肺からまたは鼻腔路から投与されて、急速に血流に吸収される。鎮痛剤およびワクチンを含む大部分の薬剤が、この技術を用いて使用されている。糖尿病の治療には著しい進歩であると期待されるものの中では、吸入技術を利用する新技術がテストされている。また、頬の筋肉の内部では、口の中に貼り薬が接着される47-50。
【0011】
スピネル(尖晶石)の生成を避けるために、種々の固相を制御することができる良い方法として、ゾル・ゲル技術を利用することができる(下記非特許文献1)。他の合成方法に比べると、一層高度の制御を達成することができる。この方法を使用することによって、特定の用途に合った貯蔵器を特別に注文して作ることができる。進歩は次のものを含んでいる。
(i)すぐれた均一性と純度。
(ii)脳組織との高い生体共存性。
(iii)重合体貯蔵器のより良好なナノおよび微細構造物的制御。
(iv)より大きいBET表面積。
(v)貯蔵器に付設された薬剤の改良された熱安定性。
(vi)明確な気孔の大きさ分布。
(vii)薬剤を貯蔵器に付着させ、貯蔵器から放出させる容易さ。
(viii)溶液中で無機の鎖状構造を発生させることができる。
(ix)貯蔵器の水酸基化による一層すぐれた制御。
【0012】
貯蔵器製造の方法は、1つの目的として次の変数を最善の状態にする。粒子の大きさ、気孔の平均大きさ、相互作用力、および機能化の程度。また、その貯蔵器の組織的および電子的挙動を修正することが望ましい。
チタニアは産業上重要な用途を持った材料である。一例として我々は一酸化炭素または合成ガスからの炭化水素の合成を引用する(下記特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0013】
独特の電子的特性のために、それは貯蔵器として使用されるときに、遷移金属の電子特性を修正するのに用いられて来た(下記非特許文献2)。
標準的な大気圧の条件下では、チタニアは次の3つの異なった結晶相、すなわち、ブルッカイト、アナターゼおよびルチルを持つ。この3つの相ではすべてTi原子が内部の中心に位置し、ゆがんだ酸素が8面体を構成する。これら8面体が共有する稜の数は、異なった結晶相を区別する。ブルッカイトでは8面体の3個の稜が共有され、アナターゼでは4個の稜が、ルチルでは2個の稜が共有されている(下記非特許文献3)。これは相ごとに異なった質量密度を持つ結果となる。大きい大きさの微結晶を持った純粋のチタニアは科学量論的で、誘電性であって、触媒では役に立たない。酸素の空格子点または他のバルクディフェクトを作ることによって、化学量論を変えることが必要である。
【0014】
チタニアの電子的および触媒特性は、結晶構造中に存在する局部的な密度と、不純物のタイプとによって異なる(下記非特許文献4)。
ゾル・ゲル技術は、チタニアの結晶相と粒子の大きさとを制御できる重要な合成方法である。ゾルは流体で、液相中に固体粒子がコロイド状に分散したものであって、そこでは粒子は充分に小さくて懸濁された状態を維持してブラウン運動をしている。「ゲル」は少なくとも2つの相からなる固体であって、そこでは固体の相が網状構造を作り、その網状構造が液体の相を囲い込んで動けない状態にしている。
【0015】
ゾル・ゲル方法では、溶解された前駆体または「溶液」前駆体は、金属のアルコキサイド、アルコール、水、酸または塩基のプロモータと、場合により塩溶液を含んでいる。金属のアルコキサイドは普通高純度の溶液前駆体として用いられる。それらが水と反応して一連の加水分解と縮合反応を経由すると、それらは非晶質の金属酸化物またはオキシヒドロキサイドゲルを生じる。揮発性アルコール類を取り除くと、結果として結晶性の固体化合物が生成する。
【0016】
コロイド前駆体として用いられる材料は、金属、金属酸化物、金属のオキソヒドロキサイド、またはその他の不溶性化合物である。コロイド状前駆体における凝集の程度は、気孔の大きさ分布を制御できるような方法で調整することができる。脱水、ゲル化、化学的橋かけ結合および氷結を利用して、最終製品の形と外観を形成することができる。ゾル・ゲル技術を利用する幾つかの利点は、アルコキサイド前駆体の純度の管理、製品の均一性の管理、望ましい結晶相の発生の管理および最も重要なことは、合成される材料の再生産性を含んでいる。
【0017】
0と0.1との間のH2O/Ti(OR)4比の場合には、チタンのアルコキサイドは直接に水およびアルコールと反応する。加水分解の間には、中心に位置するチタンの6配位は変わらない(下記非特許文献5)。加水分解製品は、完全に加水分解されていないし、また純粋な酸化物でもない。それは、
TinO2n−(x+y)/2(OH)x(OR)y
の形で存在するに過ぎない。
【0018】
上記の式中nは重合体分子の中で重合されているチタン原子の数であり、xとyはそれぞれ端末のOHとOR基の数である。或るゾル・ゲル構造は、分子間結合によって最高の配位状態を達成するということがよく知られている(下記非特許文献6)。薬剤とチタニア貯蔵器との間には強いファンデルワールス相互作用力が働くために、チタニア貯蔵器の中に大量の薬物をカプセル詰めにすることができる。
【0019】
ゾル方法を用いる追加チタニア特許
下記特許文献5は、貯蔵器により高度の機械的強度を与えることによって、Fischer Tropsch反応に用いられる貯蔵器を焼結から保護する。それはSiO2とAl2O3とを貯蔵器の中へ加え、1/9のルチル・アナターゼ比を請求している。それは球状または円筒状の形をした多孔性の貯蔵器である。それは押出、噴霧乾燥またはタブレット化することによって作られる。
【0020】
下記特許文献6は、チタニア貯蔵器を記載しており、その貯蔵器はまた結合剤としてシリカとアルミナをその構造の中に加えている。結合剤の目的は、貯蔵器により良好な機械的特性を与えるためである。この貯蔵器の大きさの範囲は20から120ミクロンまでの間である。貯蔵器は約50%結合剤で、結合剤はゾル・ゲル方法によって作られる。
【0021】
下記特許文献7はFischer Tropschガス合成反応に用いられる貯蔵器を記載している。この貯蔵器はその構造内にVII族金属を加えている。その構造中のルチル・アナターゼ比はこの特許の際立った1つの特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第4992406号明細書
【特許文献2】米国特許第4794099号明細書
【特許文献3】米国特許第5140050号明細書
【特許文献4】米国特許第521553号明細書
【特許文献5】米国特許第6124367号明細書
【特許文献6】米国特許第6117814号明細書
【特許文献7】米国特許第6087405号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】T. Lopez et.al., Catalysis Today 35,293 (1997)
【非特許文献2】Klein L.C., Sol-Gel Technology for Thin Films, Fibers, Perform, Electronics and Shapes (Noyes: New: New Jersey 1997)
【非特許文献3】L. Pauling, JACS 51 (1929) 1010
【非特許文献4】R. H. Clark, The chemistry of Titanium and Vanadium, Elsevier Publishers Co. N.Y. 1968, Ch 9
【非特許文献5】T. Boyd, J. Polymer Sci., 7 (1951) 591
【非特許文献6】Sankar G., Vasureman S, and Rao C.N.R., J. Phys. Chem, 94,1879 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
この発明の目的は次のとおりである。
1.中枢神経系(CNS)において薬剤の時間的に制御された放出に用いられるナノ構造材料の開発。
2.次のパラメータの制御を可能にする材料の最適化:気孔の大きさ分布、粒子の大きさ、結晶相、機能化の程度、薬剤を収容するに必要な貯蔵器の大きさ、および有効な分配のための放出時間。
3.損傷したニューロンへの定常的な薬剤分配時間を取得すること、および血液の流れ、肝臓、腸および血液脳障害への過剰投与を防ぐこと。
4.特定の拡散と運動分配割合を取得するために、中枢神経系統に類似している複雑な系統を構築する。
5.製品の性質によっては、製造時間を患者への投与時間に合わせることが重要である。かりにこれが正しく評価されないと、薬剤の分配濃度が正しいものでなくなる。貯蔵器内の薬剤保持時間を注意して研究しなければならない。
6.一定割合の薬剤放出を6ヶ月から3ヶ年の間維持することが重要である。
7.貯蔵器は、ゾル・ゲル方法を用いて製造されたナノ構造のチタニアからなるものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この発明はゾル・ゲル方法によって得られた新規なナノ材料(シリカ、チタニア、およびシリカ・チタニア)を含んでいる。1.5と4.0nmの間の大きさの活性分子を持つ神経薬剤をこの考案品(器具)の内部で凝集させることができる。
ナノ材料は(100対0と0対100)の間のTi対Si範囲の組成を持った一部加水分解されたナノ材料から成るものである。これらの材料はゾル・ゲル方法を用いて作られたが、その方法はセラミックおよびガラス材料を合成するのに用いられて来た方法である。
【0026】
乾燥作業の間は、ゲル内の内部ストレスと結合とを安定にするために、温度を制御した。もし、その材料にロータベーパー内で制御された真空と温度条件の下で平衡状態に戻るのに充分な時間が与えられないと、材料は目立った亀裂と破壊とを起こすことになるかも知れない。
乾燥工程のあとで、マトリックス内にヒドロキシル基は安定な状態で残る。重合が相当な時間にわたって続き、そのあとでゲル化が起こる。これは熟成過程と呼ばれ、これによって一層安定なゲルが生成する。
【0027】
チタニア、シリカおよびチタニア・シリカ乾膠体(xerogel)(100対0、0対100)材料は、周囲組織と生体共存することが判明する。
以前の製品では、移植された器具から脳内に薬剤がゆっくりと放出される時間が、月単位で記載されて来た。1年を充分に越える放出時間が必要とされる。
移植された器具からの薬剤放出割合は、薬剤と器具との相互作用の強さによって大きく異なる。弱い相互作用では放出時間が非常に速い。もし相互作用が非常に強いと、薬剤の放出時間は非常に遅いことになる。
【0028】
神経薬剤の適当な放出を得るために、考案品(器具)の電子構造が制御される。
薬剤放出の割合は、以前の研究に記載されている。もし薬剤が塩基性であれば、酸性の考案品が好ましい。他方、放出される薬剤が酸性である時には、塩基性の考案品を使用しなければならない。マトリックス内での薬剤の分散は90と100%の間である。放出時間のプロフィールは、薬剤と考案品との相互作用によって変化する以外に、さらに気孔からの拡散、従ってゲルの多孔性によって変化する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)TiO2・VPAおよび(b)純粋なバルプロ酸のH NMRである。
【図2】TiO2とTiO2・VPA貯蔵器のFTIR分光分析図である。
【図3】空のTiO2貯蔵器およびVPAを吸蔵したN2吸着等温線である。
【図4】海馬領域に移植されたTiO2貯蔵器の走査電子顕微鏡(SEM)映像であり、(a)は貯蔵ナノ粒子と混合された組織の詳細であり、(b)は海馬組織と貯蔵器の間の先端業績図、(c)は海馬組織と貯蔵器の間の全体図、(d)は移植された組織の詳細である。
【図5】ゾル・ゲルTiO2貯蔵器の走査電子顕微鏡(SEM)映像であり、そのうち(a)はpH7(30,000X)、(b)はpH7(120,000X)、(c)はpH9および(d)はpH3で得られたものである。pH7とpH3で得られた構造の相違に注意されたい。酸性の増加は結果として球状構造から繊維状構造への変化をもたらす。
【図6】ゾル・ゲルTiO2貯蔵器120,000X詳細の走査電子顕微鏡(SEM)映像である。
【図7】pH3で合成されたナノ構造のTiO2貯蔵器の(200,000X)透過型電子顕微鏡(TEM)映像である。
【図8】貯蔵器と薬剤放出のモデルである。
【図9】ウインスターラットの脳の側頭葉へ貯蔵器を移植するのに使われた技術を示している。(a)は移植に使われたシリンダーを得るのに使用された套管(カニューレ)である。(b)は生体と共存できる貯蔵器と脳組織が、移植の周りの組織に損傷を生じないことを示しており、(c)は貯蔵器を移植するのに用いられた定位外科を示す。
【図10】指示されたチタニア材料移植の局部的影響が脳組織の極めて近くで検討された。見事に組織化された繊維カプセルが移植の周りに形成されて、6ヶ月またはそれ以上の移植期間を経過した。移植は壊死を起こさなかったし、発症は観察されなかった。移植の周りの組織病理学的研究を行った。異常は報告されなかった。その結果は脳組織と良好な生体共存性があったことを示している。
【図11】1年後の定位外科、ラット行状および組織病理学的研究である。
【図12】脳の生体共存性の研究は、貯蔵器の移植操作に関連する慢性の炎症性反応に集中した。移植されたラット内で変化がないことは、この材料の生体共存性が高いことを確証している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
純粋なTiO2考案品(器具)の合成がpH=2の酸性条件下で行われたときには、考案品のBET表面積は約500m2/gの比較的一定値であって、吸着される神経薬剤(すなわち、抗痙攣性薬剤)の量に無関係であることが見出された。薬剤の充填が考案品の20gあたり1000mcgに近づくと、表面積の僅かな減少があった。
考案品の合成がpH=12の塩基性条件下で行われたときには、BET表面積は約680m2/gで比較的一定であった。考案品の20gあたり1000mcgまでの神経薬剤(すなわち、抗痙攣薬剤)の充填に対しては、BET表面積は薬剤充填に無関係であることが見出された。
【0031】
9および10に記載された結果は、考案品(器具)の顕著な柔軟性を示している。合成が酸性条件下で行われるときには、塩基性の薬剤が考案品に弱く結合される。
気孔の体積と気孔の直径とは、薬剤の充填によって強く影響されない。しかし、非常に少ない充填では気孔の体積と気孔の直径において僅かな減少がある。
薬剤放出過程の動力学は、カプセル化された薬剤の濃度に対してゼロオーダーの依存性を示す。
【0032】
薬剤放出分配過程のゼロオーダー動力学は、一定割合の分配を確実にしている。
薬剤と考案品の相互作用は、考案品側のヒドロキシル基と、薬剤側のカルボニル基との間のファンデルワース力と水素結合とによって起こる。
拡散は、(a)考案品と薬剤との間の化学的相互作用と、(b)気孔の平均大きさの2つの現象によって制御される。
【0033】
神経薬剤の消耗のあとでは、定位的外科処置によって、新しい一定量の薬剤が容易に置き換えられる。
ゾル・ゲル化学によって作られた考案品を用いる薬剤の分配は、現在では最新式のものである。ナノ材料の多孔性は、溶液のpHによって制御することができる。他方で、薬剤が酸性のときには、酸触媒は必要とされない。マトリックス内への薬剤の分散は90から100%の間にある。
【0034】
薬剤はゲル化の過程でカプセルに詰めることができる。薬剤の放出がゲルの多孔性に基づくことは放出プロフィールから分かる。
この発明におけるセラミック材料は、移植した物を取巻く脳組織と完全に生体共存できるものである。
【実施例1】
【0035】
使用される合成方法の詳細な説明
ゾル・ゲルTiO2,TiO2−シリカおよびSiO2または(ゾル・ゲルTiO2−SiO20対100から100対0まで)。図に示した三ツ首フラスコ内に36mlの脱イオン水と、0から50mlの(EDTA)エチレンジアミン四酢酸と190mlのターシャリブタノール(Baker,純度99%)を還流させた。還流を開始する前に、溶液のpHを或る場合にはHNO3を用いて2に調整し、他の場合には水酸化アンモニウムを用いて12に調整した。何れの場合も、所望のpHに到達するまで、酸または塩基を一滴ずつ添加した。全過程を通して電位差計によってpHを連続的に監視した。還流している溶液に2個の漏斗を用いて、87mlのチタニウムn−ブトオキサイド(Aldrich,98%純度)と21.5mlのテトラエトキシシランを加えた。ヒドロキシル基(OH)基とアンモニウム基(NH)の核形成と官能化を高めるために一滴ずつの添加を4時間以上行った。アルコキシドの添加のあとで、コロイド状の懸濁物をさらに24時間還流させた。この方法のあとで過剰の水とアルコールを除くために、サンプルをロートベーパ(10−3mm.Hg)中で真空状態下に乾燥した。最後に、サンプルを30℃で72時間乾燥した。30℃の最終乾燥温度に到達するために、従来の不活性大気炉を用いて0.25℃/分の割合で温度を上昇させた。
【0036】
得られた製品の物理的特性に対する合成変数の影響
(1)pHの役割
pHを3から9へ増加させると、結晶構造中にブルッカイトの百分率が実質的に減少する結果となる。例えば、300℃でpHが3から5へ増大すると、ブルッカイトの百分率が13.6から0%に低下するが、アナターゼの百分率は同じpH範囲の間に、84.7から100%に増加する。また、ルチルの百分率は同じpH範囲の間に8.2から0%に低下する。300℃では重要な構造がpHの3から9までの間、すべてアナターゼであるように見える。第1表を参照されたい。
【0037】
(2)温度の役割
か焼温度を70℃から900℃へ上昇させると、ブルッカイトとアナターゼは900℃で急激に0℃へ降下するが、ルチルは優力な結晶相となる。同じ温度範囲内でルチルは1.7%から100%へ増加する。第1表を参照されたい。
(3)ブルッカイトの微結晶の平均粒度に対するpHと温度の役割
微結晶の平均粒度は、pH3で70℃と300℃の間では、実質的に温度とともに大きくなる。しかし、pHが7まで上昇すると、同じ温度範囲内では微結晶の粒度に著しい変化はない。ブルッカイトの格子パラメーター(格子軸標)の変化は、温度よりもpHによる方が大きいように見える。この結果は第2表に要約されている。
【0038】
(4)アナターゼの物理的特性に対するpHと温度の役割
これらの結果は第3表に示されている。与えられたpHでか焼温度が上昇すると、結果として微結晶が急激に大きくなる。この観察は研究したpHのすべてに対して見られる。格子パラメーターはpHとか焼温度によって僅かに影響を受ける。焼結は高いpHよりもpH3で著しく顕著であるように見える。これは、70℃と600℃の間で、密度がやや大きく増大することから明らかである。チタンの占有(occupancy)はすべてのpHで温度とともに増加する。
【0039】
(5)ルチルの物理的特性に対するpHと温度の役割
これらの結果は第4表に示されている。微結晶粒度の増大は温度の上昇とともに観察される。しかし、その影響はブルッカイトとアナターゼで観察された影響よりも著しく少ない。この増大は、微結晶粒度の僅かな縮少が観察されたpH5を除くと、すべてのpHで観察される。チタンの占有は粒度または温度によって大きく異ならない。
【0040】
この発明の目的
経口摂取すると、流れる血液中への薬剤の吸収は、尿および体内の他の器官による排泄のために、薬剤の著しい損失となる。86%もの多くが尿により排泄される。この損失を避けるためには、冒されている領域に近接する部分への直接移植が、実際に必要とされる薬剤の量の著しい節約となる、さらに、薬剤の濃度の大きな変動が避けられる。薬剤の制御された放出が有効であるためには、幾つかの条件が次のように満たされることが必要である。
【0041】
(1)放出される薬剤の濃度はできるだけ一定でなければならない。この発明に記載されている貯蔵器の構造は、非常に多孔性であるから、貯蔵器の多孔性構造による拡散過程が伴うことになる。この発明において得られた結果は、分配割合が6ヶ月から3年の期間にわたって一定である、ということを示している。分配割合は、薬剤の濃度ではゼロオーダーに近い。言いかえると、それは一定である。分配期間中薬剤の濃度の大きな変動が避けられる。
【0042】
(2)薬剤を含んでいる移植されるカニスター(容器)は、これを取巻く組織と生体共存性のあるものでなければならない。この生体共存性は図11に示されている。周囲組織への何等かの損傷があったとしても、それは殆どないことが観察された。
(3)移植過程は変えることができる。分配過程において薬剤の濃度が有効な分配に必要な濃度以下に落ちるときには、カニスターを取り除き、新しい一定量の薬剤を用いて再び挿入することができる。
【0043】
(4)抗痙攣薬剤の分配のほかに、この考案品は他の用途、例えば癌治療の化学療法に使用することができる。
(5)ゾル・ゲル手法を用いるナノ構造方法は、非常に小さなカニスターを作ることができ、そのカニスターは移植方法で誘発される損傷を減らすこととなる。
(6)TiO2ナノ貯蔵器の中間多孔性構造は、微小なグリア細胞が移植の内部へ接近することを可能にする。
【技術分野】
【0001】
この発明は、脳組織と生体共存できる(拒絶反応を起こさない)チタニア貯蔵器の合成に関するものである。アナターゼ、ブルッカイトおよびルチルでは、気孔の大きさ分布、微結晶(クリスタリット)の大きさ、および結晶相の分布程度は、完全に制御することができる。この考案品(器具)は神経系の薬剤を入れるのに用いられる。それは6ヶ月から3年の期間にわたって薬剤を制御下に時間とともに放出させる目的で、脳組織内へ直接挿入されるものである。
【背景技術】
【0002】
慢性疾患の治療における最新の研究は、薬剤を必要としている場所へ薬剤を迅速に効率よく分配することができる制御された放出方式の開発を基礎としている。主たる要求は、これらの器具が薬剤を作用場所へ確実に分配し浸透させなければならない、ということである。新しいナノ構造の材料が、将来の治療において薬物と生物学的製品とを投与するのに能率のよい方法を提供している1-5。N−イソプロピルアクリルイミドとメタクリル酸(MAA)を基礎とするヒドロゲルが、最近著しい注目を浴びている。これは、その媒体が刺激に感応して膨張することが出来ることに起因している6-8。固体状態では、単量体が水素結合によって一体に結合している重合体間錯体の存在が観察されるに至った。これらの結合は、酸性条件下で起こり、疎水性相互作用によって安定化されている。これは、膨張が起こる媒体のpHに大きく依存していることにつながる。また、この膨張は橋かけ結合の程度に大きく依存している。経口手段による薬剤分配の使用は、特にpHの変化によって活性が制御される場合に、著しい注目を浴びている。高濃度のN−イソプロピルアクリルアミドを含んだ共重合体は、薬剤モデルに使用される色々な切断曲線を得ることができる点で、最も有効であるように見える12-15。
【0003】
制御された薬剤放出が行われている大多数の場合には、薬物または他の生物試薬が普通に輸送具として知られている貯蔵器の中へ入れられる。輸送具は通常は重合体材料で作られている。普通の条件下では、薬剤放出の割合は輸送具を構成している重合体材料の性質によって制御される。しかし、他の要因も割合を決定することがある。これらの要因を考慮に入れると、長期間にわたって薬剤の分配が遅くて一定の割合を確保することが可能となる16-18。これらの材料の使用は、現在使用されているシステムに比べると、薬剤分配に著しい進歩をもたらす。従来の薬剤分配システムでは、薬剤濃度が最大値に達すると、あとは減少するだけで最後に別の一定量の投与が必要な濃度に到達する。さらに、薬剤の最大濃度が安全値を越えるか、或いはまた最大濃度が必要量以下に低下すると、薬剤が望ましい効果を発揮しない周期的な期間が発生する。これは、一般に「variations in tisular exposure」として知られている。制御された薬剤の放出が利用されるときに、許される最大割合と、その割合が有効な最低濃度との間にある薬剤濃度を維持することが可能となる19-21。
【0004】
薬剤を望ましい場所へ分配するには、輸送具の表面から輸送具を取巻く媒体への拡散が起こらなければならない。この点から薬剤はそれが働く場所へ拡散しなければならない。多くの研究の結果、制御された薬剤放出を分類することができる次の4つの一般的な機構のあることが結論づけられている。1)拡散制御システム、2)化学的に制御されたシステム、3)不溶性化剤により活性化されるシステム、4)磁気により制御されるシステム。
【0005】
ここに記載したようなシステムに対して、薬剤が流動性媒体に移行するには、薬物が輸送具の表面から脱離し、同時に流動性媒体へ吸収される過程を経なければならない。この過程は濃度勾配によって制御される。流体は水または生物学的流体で構成されている。ガラス状態にある重合体中に溶剤が入ると、高分子の活動が顕著に増加する。熱力学的観点からは材料と溶剤との間の溶解度パラメータdと、相互作用cとは、溶剤と貯蔵器との間の共存性を現わすことができる。もし固体が重合体とほんの僅か共存するだけであるならば、固体はガラス状態にとどまり、これらの条件の下ではどのような薬剤でも制御された放出が極めて遅くて、限られた薬剤学的有用性を持つだけである。他方、熱力学が好都合に働けば、溶質が輸送具から流体へ拡散できる確率が非常に大きくなる(Korsmeyer and Pepas, 1984 and Lee 1985a)22。1971年にYasudaとLamazeは自由体積についての理論を改訂して、彼等は相当正確に重合体マトリックス中を移動する薬剤の拡散係数を予測できると記載した23。この処理中で、彼等は重合体中の溶質の標準化された拡散係数と、純溶剤中の溶質の拡散係数は、水和の程度によって関係づけられるということを示した。薬剤の外部輸送は、溶質と貯蔵器との間の界面における溶質の分離によって起こされ、Fickの第1法則に従う(Langer and Peppas, 1983)24濃度勾配の影響下に外部拡散が引き続いて起こる。これらのシステムは一定の割合で薬物放出を起こすことができる。しかし、実際には大きな偏差に至る要因が存在する。この問題は通常、器具の形態を調整または変更することによって補正することができる。このシステムが一体物であるときには、活性化合物は固体重合体からなる支持物上に一様に分布される。
【0006】
薬剤は、その濃度が重合体中への溶解度を越えたというような濃度であるかどうかによって、重合体マトリックス中に溶解または分散される。薬剤の流動媒体への移行は、支持物に沿った分子表面拡散の結果として起こるか、または重合体マトリックス内の微小または中間の孔を通る孔拡散によって起こる。この場合には、拡散はFickの第2法則を用いて解釈することができる。しかし、何れの場合も薬剤の流動性媒体への移行は、時間の関数として減少する。この減少は拡散通路の長さが増す結果として起こる(Rhineほか、1980)25。
【0007】
薬剤は重合体の鎖に化学的に結合されており、加水分解的な分裂の結果として放出される。かりに加水分解を酵素によって促進させることができるならば、薬剤放出の割合は変更することができる(Kopeckほか、1981)26。連続的な薬剤放出の他のシステムは、ポリ乳酸から作られた重合体と、その共重合体を含んでいる30。これらの前駆体は、グリコール酸とともに、主にその生分解性と生物組織との共存性のために用いられて来た。薬剤をマイクロカプセルに詰め込むことは31-32、技術的見地からは薬剤の被覆を含む方法だ、と言うことができる。これは分子、固体粒子、または液体の小滴として起こる。カプセル詰めの方法に用いられる材料は、特定の用途によって異なる。しかし、その方法は微小な大きさの粒子を生じる。この方法の結果作られた製品は、「微小粒子」(microparticle)、「マイクロカプセル」(microcapsule)または「微小球」(microsphere)と呼ばれる。
【0008】
これらのシステムはその形態と内部構造とで異なっている。しかし、それらは約1mmの大きさである点ですべて似ている33-34。粒子の大きさが1μmより小さいときには、マイクロカプセルに詰める方法によって得られた製品は、「ナノ球」「ナノ粒子」または「ナノカプセル」と言われる35-37。マイクロカプセルに詰める方法の重要な特徴は、その製品が薬剤、または生物材料に限定されずに、農業、化粧品および食品のような領域の製品を含むように拡大される、ということである38。
【0009】
制御された薬剤分配が用いられる他の分野がある。これは皮膚から吸収される薬物療法を含んでいる。皮膚に塗ることができるクリームとゲルは、特定地域に限定された病原菌を根絶するための鎮静剤および薬物として多年用いられて来た。また、それらは身体全体(全身)を処理するために用いられる39。近年は次第に数を増す薬物が経皮的な貼り薬として入手できるようになっている。貼り薬はリング状接着剤によって皮膚に接着し、薬物の薄いフィルムが貼り薬の中心を覆っている40。薬物は徐々に皮膚から吸収され、最後に血流に吸収される。最も頻繁に使用される経皮的な貼り薬は、テストステロン、エストロゲン、鎮静剤、産児制限およびニコチンパッチ(喫煙中止を助長するのに用いられる)を含んでいる。ガバペンティン(Gabapentin)のような他の貼り薬は、抗痙攣剤(Neurontin)を分配する41-43。或る場合には、活性薬物は吸収される割合を制御するもう1つの物質と混合される。このことは薬物がより長い期間または数日間連続的に使用されることを意味している。
【0010】
経皮的投与がなされるもう1つの方法は、小さな容器を使用する方法であり、それは空気圧を利用して皮膚の上層へ薬物の小さな流れを注射する。1日ごとにインシュリンを必要とする人は薬物投与のために、幾つかの非常に小さな容器を利用することがある44。HIVを治療するために遺伝子療法に従事している研究者は、皮膚または筋肉組織から遺伝子物質を注射する技術を色々と試みてきた45-46。薬物はまた粘性膜によって分配される。多くの薬剤が肺からまたは鼻腔路から投与されて、急速に血流に吸収される。鎮痛剤およびワクチンを含む大部分の薬剤が、この技術を用いて使用されている。糖尿病の治療には著しい進歩であると期待されるものの中では、吸入技術を利用する新技術がテストされている。また、頬の筋肉の内部では、口の中に貼り薬が接着される47-50。
【0011】
スピネル(尖晶石)の生成を避けるために、種々の固相を制御することができる良い方法として、ゾル・ゲル技術を利用することができる(下記非特許文献1)。他の合成方法に比べると、一層高度の制御を達成することができる。この方法を使用することによって、特定の用途に合った貯蔵器を特別に注文して作ることができる。進歩は次のものを含んでいる。
(i)すぐれた均一性と純度。
(ii)脳組織との高い生体共存性。
(iii)重合体貯蔵器のより良好なナノおよび微細構造物的制御。
(iv)より大きいBET表面積。
(v)貯蔵器に付設された薬剤の改良された熱安定性。
(vi)明確な気孔の大きさ分布。
(vii)薬剤を貯蔵器に付着させ、貯蔵器から放出させる容易さ。
(viii)溶液中で無機の鎖状構造を発生させることができる。
(ix)貯蔵器の水酸基化による一層すぐれた制御。
【0012】
貯蔵器製造の方法は、1つの目的として次の変数を最善の状態にする。粒子の大きさ、気孔の平均大きさ、相互作用力、および機能化の程度。また、その貯蔵器の組織的および電子的挙動を修正することが望ましい。
チタニアは産業上重要な用途を持った材料である。一例として我々は一酸化炭素または合成ガスからの炭化水素の合成を引用する(下記特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0013】
独特の電子的特性のために、それは貯蔵器として使用されるときに、遷移金属の電子特性を修正するのに用いられて来た(下記非特許文献2)。
標準的な大気圧の条件下では、チタニアは次の3つの異なった結晶相、すなわち、ブルッカイト、アナターゼおよびルチルを持つ。この3つの相ではすべてTi原子が内部の中心に位置し、ゆがんだ酸素が8面体を構成する。これら8面体が共有する稜の数は、異なった結晶相を区別する。ブルッカイトでは8面体の3個の稜が共有され、アナターゼでは4個の稜が、ルチルでは2個の稜が共有されている(下記非特許文献3)。これは相ごとに異なった質量密度を持つ結果となる。大きい大きさの微結晶を持った純粋のチタニアは科学量論的で、誘電性であって、触媒では役に立たない。酸素の空格子点または他のバルクディフェクトを作ることによって、化学量論を変えることが必要である。
【0014】
チタニアの電子的および触媒特性は、結晶構造中に存在する局部的な密度と、不純物のタイプとによって異なる(下記非特許文献4)。
ゾル・ゲル技術は、チタニアの結晶相と粒子の大きさとを制御できる重要な合成方法である。ゾルは流体で、液相中に固体粒子がコロイド状に分散したものであって、そこでは粒子は充分に小さくて懸濁された状態を維持してブラウン運動をしている。「ゲル」は少なくとも2つの相からなる固体であって、そこでは固体の相が網状構造を作り、その網状構造が液体の相を囲い込んで動けない状態にしている。
【0015】
ゾル・ゲル方法では、溶解された前駆体または「溶液」前駆体は、金属のアルコキサイド、アルコール、水、酸または塩基のプロモータと、場合により塩溶液を含んでいる。金属のアルコキサイドは普通高純度の溶液前駆体として用いられる。それらが水と反応して一連の加水分解と縮合反応を経由すると、それらは非晶質の金属酸化物またはオキシヒドロキサイドゲルを生じる。揮発性アルコール類を取り除くと、結果として結晶性の固体化合物が生成する。
【0016】
コロイド前駆体として用いられる材料は、金属、金属酸化物、金属のオキソヒドロキサイド、またはその他の不溶性化合物である。コロイド状前駆体における凝集の程度は、気孔の大きさ分布を制御できるような方法で調整することができる。脱水、ゲル化、化学的橋かけ結合および氷結を利用して、最終製品の形と外観を形成することができる。ゾル・ゲル技術を利用する幾つかの利点は、アルコキサイド前駆体の純度の管理、製品の均一性の管理、望ましい結晶相の発生の管理および最も重要なことは、合成される材料の再生産性を含んでいる。
【0017】
0と0.1との間のH2O/Ti(OR)4比の場合には、チタンのアルコキサイドは直接に水およびアルコールと反応する。加水分解の間には、中心に位置するチタンの6配位は変わらない(下記非特許文献5)。加水分解製品は、完全に加水分解されていないし、また純粋な酸化物でもない。それは、
TinO2n−(x+y)/2(OH)x(OR)y
の形で存在するに過ぎない。
【0018】
上記の式中nは重合体分子の中で重合されているチタン原子の数であり、xとyはそれぞれ端末のOHとOR基の数である。或るゾル・ゲル構造は、分子間結合によって最高の配位状態を達成するということがよく知られている(下記非特許文献6)。薬剤とチタニア貯蔵器との間には強いファンデルワールス相互作用力が働くために、チタニア貯蔵器の中に大量の薬物をカプセル詰めにすることができる。
【0019】
ゾル方法を用いる追加チタニア特許
下記特許文献5は、貯蔵器により高度の機械的強度を与えることによって、Fischer Tropsch反応に用いられる貯蔵器を焼結から保護する。それはSiO2とAl2O3とを貯蔵器の中へ加え、1/9のルチル・アナターゼ比を請求している。それは球状または円筒状の形をした多孔性の貯蔵器である。それは押出、噴霧乾燥またはタブレット化することによって作られる。
【0020】
下記特許文献6は、チタニア貯蔵器を記載しており、その貯蔵器はまた結合剤としてシリカとアルミナをその構造の中に加えている。結合剤の目的は、貯蔵器により良好な機械的特性を与えるためである。この貯蔵器の大きさの範囲は20から120ミクロンまでの間である。貯蔵器は約50%結合剤で、結合剤はゾル・ゲル方法によって作られる。
【0021】
下記特許文献7はFischer Tropschガス合成反応に用いられる貯蔵器を記載している。この貯蔵器はその構造内にVII族金属を加えている。その構造中のルチル・アナターゼ比はこの特許の際立った1つの特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第4992406号明細書
【特許文献2】米国特許第4794099号明細書
【特許文献3】米国特許第5140050号明細書
【特許文献4】米国特許第521553号明細書
【特許文献5】米国特許第6124367号明細書
【特許文献6】米国特許第6117814号明細書
【特許文献7】米国特許第6087405号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】T. Lopez et.al., Catalysis Today 35,293 (1997)
【非特許文献2】Klein L.C., Sol-Gel Technology for Thin Films, Fibers, Perform, Electronics and Shapes (Noyes: New: New Jersey 1997)
【非特許文献3】L. Pauling, JACS 51 (1929) 1010
【非特許文献4】R. H. Clark, The chemistry of Titanium and Vanadium, Elsevier Publishers Co. N.Y. 1968, Ch 9
【非特許文献5】T. Boyd, J. Polymer Sci., 7 (1951) 591
【非特許文献6】Sankar G., Vasureman S, and Rao C.N.R., J. Phys. Chem, 94,1879 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
この発明の目的は次のとおりである。
1.中枢神経系(CNS)において薬剤の時間的に制御された放出に用いられるナノ構造材料の開発。
2.次のパラメータの制御を可能にする材料の最適化:気孔の大きさ分布、粒子の大きさ、結晶相、機能化の程度、薬剤を収容するに必要な貯蔵器の大きさ、および有効な分配のための放出時間。
3.損傷したニューロンへの定常的な薬剤分配時間を取得すること、および血液の流れ、肝臓、腸および血液脳障害への過剰投与を防ぐこと。
4.特定の拡散と運動分配割合を取得するために、中枢神経系統に類似している複雑な系統を構築する。
5.製品の性質によっては、製造時間を患者への投与時間に合わせることが重要である。かりにこれが正しく評価されないと、薬剤の分配濃度が正しいものでなくなる。貯蔵器内の薬剤保持時間を注意して研究しなければならない。
6.一定割合の薬剤放出を6ヶ月から3ヶ年の間維持することが重要である。
7.貯蔵器は、ゾル・ゲル方法を用いて製造されたナノ構造のチタニアからなるものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この発明はゾル・ゲル方法によって得られた新規なナノ材料(シリカ、チタニア、およびシリカ・チタニア)を含んでいる。1.5と4.0nmの間の大きさの活性分子を持つ神経薬剤をこの考案品(器具)の内部で凝集させることができる。
ナノ材料は(100対0と0対100)の間のTi対Si範囲の組成を持った一部加水分解されたナノ材料から成るものである。これらの材料はゾル・ゲル方法を用いて作られたが、その方法はセラミックおよびガラス材料を合成するのに用いられて来た方法である。
【0026】
乾燥作業の間は、ゲル内の内部ストレスと結合とを安定にするために、温度を制御した。もし、その材料にロータベーパー内で制御された真空と温度条件の下で平衡状態に戻るのに充分な時間が与えられないと、材料は目立った亀裂と破壊とを起こすことになるかも知れない。
乾燥工程のあとで、マトリックス内にヒドロキシル基は安定な状態で残る。重合が相当な時間にわたって続き、そのあとでゲル化が起こる。これは熟成過程と呼ばれ、これによって一層安定なゲルが生成する。
【0027】
チタニア、シリカおよびチタニア・シリカ乾膠体(xerogel)(100対0、0対100)材料は、周囲組織と生体共存することが判明する。
以前の製品では、移植された器具から脳内に薬剤がゆっくりと放出される時間が、月単位で記載されて来た。1年を充分に越える放出時間が必要とされる。
移植された器具からの薬剤放出割合は、薬剤と器具との相互作用の強さによって大きく異なる。弱い相互作用では放出時間が非常に速い。もし相互作用が非常に強いと、薬剤の放出時間は非常に遅いことになる。
【0028】
神経薬剤の適当な放出を得るために、考案品(器具)の電子構造が制御される。
薬剤放出の割合は、以前の研究に記載されている。もし薬剤が塩基性であれば、酸性の考案品が好ましい。他方、放出される薬剤が酸性である時には、塩基性の考案品を使用しなければならない。マトリックス内での薬剤の分散は90と100%の間である。放出時間のプロフィールは、薬剤と考案品との相互作用によって変化する以外に、さらに気孔からの拡散、従ってゲルの多孔性によって変化する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)TiO2・VPAおよび(b)純粋なバルプロ酸のH NMRである。
【図2】TiO2とTiO2・VPA貯蔵器のFTIR分光分析図である。
【図3】空のTiO2貯蔵器およびVPAを吸蔵したN2吸着等温線である。
【図4】海馬領域に移植されたTiO2貯蔵器の走査電子顕微鏡(SEM)映像であり、(a)は貯蔵ナノ粒子と混合された組織の詳細であり、(b)は海馬組織と貯蔵器の間の先端業績図、(c)は海馬組織と貯蔵器の間の全体図、(d)は移植された組織の詳細である。
【図5】ゾル・ゲルTiO2貯蔵器の走査電子顕微鏡(SEM)映像であり、そのうち(a)はpH7(30,000X)、(b)はpH7(120,000X)、(c)はpH9および(d)はpH3で得られたものである。pH7とpH3で得られた構造の相違に注意されたい。酸性の増加は結果として球状構造から繊維状構造への変化をもたらす。
【図6】ゾル・ゲルTiO2貯蔵器120,000X詳細の走査電子顕微鏡(SEM)映像である。
【図7】pH3で合成されたナノ構造のTiO2貯蔵器の(200,000X)透過型電子顕微鏡(TEM)映像である。
【図8】貯蔵器と薬剤放出のモデルである。
【図9】ウインスターラットの脳の側頭葉へ貯蔵器を移植するのに使われた技術を示している。(a)は移植に使われたシリンダーを得るのに使用された套管(カニューレ)である。(b)は生体と共存できる貯蔵器と脳組織が、移植の周りの組織に損傷を生じないことを示しており、(c)は貯蔵器を移植するのに用いられた定位外科を示す。
【図10】指示されたチタニア材料移植の局部的影響が脳組織の極めて近くで検討された。見事に組織化された繊維カプセルが移植の周りに形成されて、6ヶ月またはそれ以上の移植期間を経過した。移植は壊死を起こさなかったし、発症は観察されなかった。移植の周りの組織病理学的研究を行った。異常は報告されなかった。その結果は脳組織と良好な生体共存性があったことを示している。
【図11】1年後の定位外科、ラット行状および組織病理学的研究である。
【図12】脳の生体共存性の研究は、貯蔵器の移植操作に関連する慢性の炎症性反応に集中した。移植されたラット内で変化がないことは、この材料の生体共存性が高いことを確証している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
純粋なTiO2考案品(器具)の合成がpH=2の酸性条件下で行われたときには、考案品のBET表面積は約500m2/gの比較的一定値であって、吸着される神経薬剤(すなわち、抗痙攣性薬剤)の量に無関係であることが見出された。薬剤の充填が考案品の20gあたり1000mcgに近づくと、表面積の僅かな減少があった。
考案品の合成がpH=12の塩基性条件下で行われたときには、BET表面積は約680m2/gで比較的一定であった。考案品の20gあたり1000mcgまでの神経薬剤(すなわち、抗痙攣薬剤)の充填に対しては、BET表面積は薬剤充填に無関係であることが見出された。
【0031】
9および10に記載された結果は、考案品(器具)の顕著な柔軟性を示している。合成が酸性条件下で行われるときには、塩基性の薬剤が考案品に弱く結合される。
気孔の体積と気孔の直径とは、薬剤の充填によって強く影響されない。しかし、非常に少ない充填では気孔の体積と気孔の直径において僅かな減少がある。
薬剤放出過程の動力学は、カプセル化された薬剤の濃度に対してゼロオーダーの依存性を示す。
【0032】
薬剤放出分配過程のゼロオーダー動力学は、一定割合の分配を確実にしている。
薬剤と考案品の相互作用は、考案品側のヒドロキシル基と、薬剤側のカルボニル基との間のファンデルワース力と水素結合とによって起こる。
拡散は、(a)考案品と薬剤との間の化学的相互作用と、(b)気孔の平均大きさの2つの現象によって制御される。
【0033】
神経薬剤の消耗のあとでは、定位的外科処置によって、新しい一定量の薬剤が容易に置き換えられる。
ゾル・ゲル化学によって作られた考案品を用いる薬剤の分配は、現在では最新式のものである。ナノ材料の多孔性は、溶液のpHによって制御することができる。他方で、薬剤が酸性のときには、酸触媒は必要とされない。マトリックス内への薬剤の分散は90から100%の間にある。
【0034】
薬剤はゲル化の過程でカプセルに詰めることができる。薬剤の放出がゲルの多孔性に基づくことは放出プロフィールから分かる。
この発明におけるセラミック材料は、移植した物を取巻く脳組織と完全に生体共存できるものである。
【実施例1】
【0035】
使用される合成方法の詳細な説明
ゾル・ゲルTiO2,TiO2−シリカおよびSiO2または(ゾル・ゲルTiO2−SiO20対100から100対0まで)。図に示した三ツ首フラスコ内に36mlの脱イオン水と、0から50mlの(EDTA)エチレンジアミン四酢酸と190mlのターシャリブタノール(Baker,純度99%)を還流させた。還流を開始する前に、溶液のpHを或る場合にはHNO3を用いて2に調整し、他の場合には水酸化アンモニウムを用いて12に調整した。何れの場合も、所望のpHに到達するまで、酸または塩基を一滴ずつ添加した。全過程を通して電位差計によってpHを連続的に監視した。還流している溶液に2個の漏斗を用いて、87mlのチタニウムn−ブトオキサイド(Aldrich,98%純度)と21.5mlのテトラエトキシシランを加えた。ヒドロキシル基(OH)基とアンモニウム基(NH)の核形成と官能化を高めるために一滴ずつの添加を4時間以上行った。アルコキシドの添加のあとで、コロイド状の懸濁物をさらに24時間還流させた。この方法のあとで過剰の水とアルコールを除くために、サンプルをロートベーパ(10−3mm.Hg)中で真空状態下に乾燥した。最後に、サンプルを30℃で72時間乾燥した。30℃の最終乾燥温度に到達するために、従来の不活性大気炉を用いて0.25℃/分の割合で温度を上昇させた。
【0036】
得られた製品の物理的特性に対する合成変数の影響
(1)pHの役割
pHを3から9へ増加させると、結晶構造中にブルッカイトの百分率が実質的に減少する結果となる。例えば、300℃でpHが3から5へ増大すると、ブルッカイトの百分率が13.6から0%に低下するが、アナターゼの百分率は同じpH範囲の間に、84.7から100%に増加する。また、ルチルの百分率は同じpH範囲の間に8.2から0%に低下する。300℃では重要な構造がpHの3から9までの間、すべてアナターゼであるように見える。第1表を参照されたい。
【0037】
(2)温度の役割
か焼温度を70℃から900℃へ上昇させると、ブルッカイトとアナターゼは900℃で急激に0℃へ降下するが、ルチルは優力な結晶相となる。同じ温度範囲内でルチルは1.7%から100%へ増加する。第1表を参照されたい。
(3)ブルッカイトの微結晶の平均粒度に対するpHと温度の役割
微結晶の平均粒度は、pH3で70℃と300℃の間では、実質的に温度とともに大きくなる。しかし、pHが7まで上昇すると、同じ温度範囲内では微結晶の粒度に著しい変化はない。ブルッカイトの格子パラメーター(格子軸標)の変化は、温度よりもpHによる方が大きいように見える。この結果は第2表に要約されている。
【0038】
(4)アナターゼの物理的特性に対するpHと温度の役割
これらの結果は第3表に示されている。与えられたpHでか焼温度が上昇すると、結果として微結晶が急激に大きくなる。この観察は研究したpHのすべてに対して見られる。格子パラメーターはpHとか焼温度によって僅かに影響を受ける。焼結は高いpHよりもpH3で著しく顕著であるように見える。これは、70℃と600℃の間で、密度がやや大きく増大することから明らかである。チタンの占有(occupancy)はすべてのpHで温度とともに増加する。
【0039】
(5)ルチルの物理的特性に対するpHと温度の役割
これらの結果は第4表に示されている。微結晶粒度の増大は温度の上昇とともに観察される。しかし、その影響はブルッカイトとアナターゼで観察された影響よりも著しく少ない。この増大は、微結晶粒度の僅かな縮少が観察されたpH5を除くと、すべてのpHで観察される。チタンの占有は粒度または温度によって大きく異ならない。
【0040】
この発明の目的
経口摂取すると、流れる血液中への薬剤の吸収は、尿および体内の他の器官による排泄のために、薬剤の著しい損失となる。86%もの多くが尿により排泄される。この損失を避けるためには、冒されている領域に近接する部分への直接移植が、実際に必要とされる薬剤の量の著しい節約となる、さらに、薬剤の濃度の大きな変動が避けられる。薬剤の制御された放出が有効であるためには、幾つかの条件が次のように満たされることが必要である。
【0041】
(1)放出される薬剤の濃度はできるだけ一定でなければならない。この発明に記載されている貯蔵器の構造は、非常に多孔性であるから、貯蔵器の多孔性構造による拡散過程が伴うことになる。この発明において得られた結果は、分配割合が6ヶ月から3年の期間にわたって一定である、ということを示している。分配割合は、薬剤の濃度ではゼロオーダーに近い。言いかえると、それは一定である。分配期間中薬剤の濃度の大きな変動が避けられる。
【0042】
(2)薬剤を含んでいる移植されるカニスター(容器)は、これを取巻く組織と生体共存性のあるものでなければならない。この生体共存性は図11に示されている。周囲組織への何等かの損傷があったとしても、それは殆どないことが観察された。
(3)移植過程は変えることができる。分配過程において薬剤の濃度が有効な分配に必要な濃度以下に落ちるときには、カニスターを取り除き、新しい一定量の薬剤を用いて再び挿入することができる。
【0043】
(4)抗痙攣薬剤の分配のほかに、この考案品は他の用途、例えば癌治療の化学療法に使用することができる。
(5)ゾル・ゲル手法を用いるナノ構造方法は、非常に小さなカニスターを作ることができ、そのカニスターは移植方法で誘発される損傷を減らすこととなる。
(6)TiO2ナノ貯蔵器の中間多孔性構造は、微小なグリア細胞が移植の内部へ接近することを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、チタニア、およびシリカ・チタニアからなるゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器。
【請求項2】
100対0と0対100との間のTi対Si範囲の組成を持った、一部加水分解されたナノ材料からなる、請求項1に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器。
【請求項3】
中枢神経系(CNS)への薬剤の時間的に制御された放出用に、請求項1または2に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器の使用。
【請求項4】
中枢神経系の治療のための薬剤の製造用に、請求項1または2に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器の使用。
【請求項5】
三つ首フラスコ内に、36mlの脱イオン水と、0から50mlの(EDTA)エチレンジアミン四酢酸と、190mlのターシヤリブタノール(Baker,純度99%)とからなる混合物を入れ、その後還流させ、還流を開始する前に或る場合には溶液のpHを或る場合にはHNO3を用いて2に調整し、他の場合には水酸化アンモニウムを用いて12に調整し、何れの場合も酸または塩基を所望のpHになるまで一滴ずつ添加し、全過程を通して電位差計によってpHを連続的に監視し、還流している溶液に2個の漏斗を用いて87mlのチタニウムn−ブトオキサイド(Aldrich,98%純度)と、21.5mlのテトラエトキシシランを加え、ヒドロキシル基(OH)とアンモニウム基(NH)の核形成と官能化を高めるために一滴ずつの添加を4時間以上行い、アルコキシドの添加のあとでコロイド状の懸濁物をさらに24時間還流させ、この方法のあとで過剰の水とアルコールを除くためにサンプルを10−3mmHgの真空状態下に乾燥し、最後にサンプルを30℃で72時間乾燥し、30℃の乾燥温度に到達するために、従来の不活性大気炉を用いて0.25℃/分の割合で温度を上昇させる工程からなる、請求項1に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器を製造する方法。
【請求項1】
シリカ、チタニア、およびシリカ・チタニアからなるゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器。
【請求項2】
100対0と0対100との間のTi対Si範囲の組成を持った、一部加水分解されたナノ材料からなる、請求項1に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器。
【請求項3】
中枢神経系(CNS)への薬剤の時間的に制御された放出用に、請求項1または2に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器の使用。
【請求項4】
中枢神経系の治療のための薬剤の製造用に、請求項1または2に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器の使用。
【請求項5】
三つ首フラスコ内に、36mlの脱イオン水と、0から50mlの(EDTA)エチレンジアミン四酢酸と、190mlのターシヤリブタノール(Baker,純度99%)とからなる混合物を入れ、その後還流させ、還流を開始する前に或る場合には溶液のpHを或る場合にはHNO3を用いて2に調整し、他の場合には水酸化アンモニウムを用いて12に調整し、何れの場合も酸または塩基を所望のpHになるまで一滴ずつ添加し、全過程を通して電位差計によってpHを連続的に監視し、還流している溶液に2個の漏斗を用いて87mlのチタニウムn−ブトオキサイド(Aldrich,98%純度)と、21.5mlのテトラエトキシシランを加え、ヒドロキシル基(OH)とアンモニウム基(NH)の核形成と官能化を高めるために一滴ずつの添加を4時間以上行い、アルコキシドの添加のあとでコロイド状の懸濁物をさらに24時間還流させ、この方法のあとで過剰の水とアルコールを除くためにサンプルを10−3mmHgの真空状態下に乾燥し、最後にサンプルを30℃で72時間乾燥し、30℃の乾燥温度に到達するために、従来の不活性大気炉を用いて0.25℃/分の割合で温度を上昇させる工程からなる、請求項1に記載のゾル・ゲルナノ構造のチタニア貯蔵器を製造する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−539819(P2009−539819A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513777(P2009−513777)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001725
【国際公開番号】WO2007/141590
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(508359790)ウニベルシダッド アウトノマ メトロポリターナ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001725
【国際公開番号】WO2007/141590
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(508359790)ウニベルシダッド アウトノマ メトロポリターナ (1)
【Fターム(参考)】
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