説明

中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子

【課題】反射防止膜などの光学用途において透明性と低屈折率特性に優れており、また電子材料などの用途において低誘電率エナメル成分、塗料成分、ドープ成分及び添加剤などに対しても有用である中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子は、主成分がケイ素酸化物であり、非晶質であり、ナノサイズの細孔を有する実質的に中空なシリカ微粒子を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子に関し、特に反射防止膜の材料として好適な中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機微粒子を応用した技術は、電子材料などの機能向上のみならず、省エネ、環境保護などの点からも注目をあびている技術である。無機微粒子は、主に気相法や液相法で作られ、アエロジルやコロイダルシリカなどの酸化物や金コロイドなどの金属微粒子が知られている。その多くは、粒子内部に細孔を持たない緻密な粒子である。一方、無機の非晶質多孔性物質としては、粒子間のすき間に細孔を持つシリカゲルやアルミナゲルなどのゲル状物、非晶質活性炭などがあるが、概して粒子径が大きい。また、無機で非晶質の球状中空シリカ微粒子などが知られているが、体積空間率の大きいものを得るのが困難なだけでなく、製造条件が複雑でかつ条件範囲が狭いなどの問題点があった(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
一方、界面活性剤の集合体を、テンプレートとして合成したナノポーラス物質が開示されており、この物質は細孔を多数含有するので、体積空間率が大きいという優れた特性を有している。しかしながら、当初は、沈殿合法で合成するため均一に分散したゾルが得られなかったり、結晶質であったり、殻の厚みに比較して細孔が小さ過ぎて体積空間率が低かったりするなどの問題点があった(例えば、特許文献5〜9参照)。
【0004】
最近では、このテンプレート合成法をより改良して、触媒担体やインク吸収体用途としての多孔性シリカゾルが開示されている。この微粒子は、ナノサイズの細孔径である細孔を多数含有していて、体積空間率が大きいだけでなく、この細孔は中央部細孔径と概ね同一サイズの開口径で粒子外に開口している特徴がある。そのため、触媒担体やインク吸収体としての応用には極めて優れている(特許文献10〜12参照)。
【0005】
しかしながら、例えば中空体として種々の塗料成分に使用したい場合には、この開口からビヒクルなどが侵入してしまう問題点が発生する。例えば、反射防止膜として使用する場合などには、低屈折率を達成するために必要な空間がビヒクルなどで埋没するため好ましくない(例えば、特許文献13参照)。
【0006】
また、シリカは、誘電率εが3.8と無機誘電体のうちで最も低く、球状中空シリカを混合することにより、空気との複合誘電体を形成して、誘電率をさらに低下させる方法が知られている(特許文献14〜16参照)。同様に、ポリイミドに球状中空ガラスを混合して誘電率を低下させたLSI用回路基板材料が開示されている(例えば、特許文献17参照)。このように、中空シリカ素材は、他の素材と混合することにより内部の空間(空気)を利用して低誘電化を図ることができるので、最近の集積度が高く、より高周波を使用するLSI周辺材料の開発においては優れた素材である。この際に、球状中空シリカと殻(中空部を区画する壁)が同じ厚みの場合には、多孔性シリカの方がより高い中空化率を実現することができるので有利である。また、細孔径についても小さい方が、粒子全体のサイズを小さくできるので、他の素材と混合した場合により均一化を達成し易く優位である。さらに、ナノサイズの空間であると絶縁破壊が起こり難いのでより好ましい。しかしながら、前述したのと同様に開口が存在すると、塗料化時あるいは塗膜化時において、その開口から他の素材が侵入して空間を埋没させるので、開口を塞いで中空化する必要がある。
【0007】
以上のことから、例えば反射防止膜の構成成分の一部として使用する場合、あるいは低誘電率塗料成分やドープ成分として使用する場合などに、粒子内部に多数存在する細孔空間を効率的に生かすことができる実質的な中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子が望まれていた。
【特許文献1】特公平4−70255号公報
【特許文献2】特表2000−500113号公報
【特許文献3】特開2001−233611号公報
【特許文献4】特開2004−258267号公報
【特許文献5】特公第3403402号公報
【特許文献6】特開平11−100208号公報
【特許文献7】特開2000−109312号公報
【特許文献8】特開2000−202280号公報
【特許文献9】特表2002−241123号公報
【特許文献10】特開2001−179086号公報
【特許文献11】特表2002−544023号公報
【特許文献12】特開2003−253154号公報
【特許文献13】特表2004−272197号公報
【特許文献14】特開平5−63371号公報
【特許文献15】特開平5−243423号公報
【特許文献14】特開平6−91194号公報
【特許文献14】特公昭62−262498号公報
【非特許文献1】“マテリアルステージ”第4巻、第5号、p16(2004) [機能性メソポーラスマテリアルの合成と応用]
【非特許文献2】“第23回無機高分子研究討論会・講演要旨集”p3(2004)分子学会主催
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.1998,120,6024
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、反射防止膜などの光学用途において透明性と低屈折率特性に優れており、また電子材料などの用途において低誘電率エナメル成分、塗料成分、ドープ成分及び添加剤など対しても有用である中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の中空シリカゾルは、主成分がケイ素酸化物であり、非晶質であり、ナノサイズの細孔を有する実質的に中空なシリカ微粒子を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の中空シリカゾルにおいては、前記細孔は、窒素吸着法で求めた平均細孔径が15nm未満であり、窒素吸着法で求めた細孔容量が、細孔径2〜20nmの範囲において0.2ml/g以上、かつ細孔径20nmより大きい範囲において0.1ml/g未満であることが好ましい。
【0011】
本発明の中空シリカゾルにおいては、前記細孔は、窒素吸着法で求めた平均細孔径が10nm未満であり、窒素吸着法で求めた細孔容量が、細孔径2〜20nmの範囲において0.40ml/g以上、かつ細孔径20nmより大きい範囲において0.01ml/g未満であることが好ましい。
【0012】
本発明の中空シリカゾルにおいては、窒素吸着法で求めた微分細孔分布曲線の主たるピークトップを示す細孔径値(A)と、X線回折法から求めたX線回折パターンの主たるピークトップ示す間隔値(B)との比(A)/(B)が、同一試料測定下において、0.8/1未満であることが好ましい。
【0013】
本発明の中空シリカゾルにおいては、透過型電子顕微鏡法で求めた前記微粒子の平均粒子長径が20〜400nmの範囲であり、かつ平均粒子短径が10〜50nmの範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の中空シリカゾルにおいては、動的光散乱法で求めた前記微粒子の平均粒子径が10〜200nmの範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明の中空シリカゾルは、ナノサイズの多数の細孔を有する多孔性シリカゾルを調製する工程と、前記細孔を実質的に閉塞するように前記多孔性シリカゾルを変性する工程とから得られることを特徴とする。
【0016】
本発明の中空シリカ微粒子は、上記中空シリカゾルを乾燥してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子は、主成分がケイ素酸化物であり、非晶質であり、ナノサイズの細孔を有する実質的に中空なシリカ微粒子を含み、細孔容量が空間として残存しているので、細孔へのビヒクルなどの侵入を防止することができる。これにより、本発明の中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子は、反射防止膜などの光学用途において透明性と低屈折率特性に優れた有用な素材として、また電子材料などの用途において低誘電率エナメル成分、塗料成分、ドープ成分及び添加剤などに対しても有用である材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。まず、本発明の中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子について説明する。本発明における中空シリカゾルとは、多孔性シリカゾルを無孔性の微粒子シリカゾルとバインダーを用いて、あるいは微粒子シリカゾルのみを用いて、変性したものをいう。この変性によって、本発明の根幹をなす、多孔性シリカゾルが実質的な中空シリカゾルに変化し、これによって本発明の中空シリカゾル及び中空シリカ微粒子が得られる。以下に多孔性シリカゾル、中空シリカゾルの順に詳細に説明する。
【0019】
(多孔性シリカゾル)
本発明に使用される多孔性シリカゾルは、その内部に微細な細孔を多数含有する微粒子のシリカゾルである。そして、この微粒子のサイズは、ナノサイズである。このような多孔性シリカゾルについては、既に開示されている(例えば、特許文献12参照)。また、これらは、最近数多くの技術が報告されている(例えば、非特許文献2〜3参照)。
【0020】
すなわち、本発明の多孔性シリカとは、界面活性剤が形成する分子集合体をテンプレートとして、シリカ源の縮合・重合を行うことにより調製されるものである。以下に本発明に使用される多孔性シリカゾルを調製する工程について詳細に説明する。予め、界面活性剤を所定濃度及び所定温度で調製して分子集合体溶液を作製する。これとは別に、シリカ源を溶媒に溶解あるいは分散した溶液を作製する。これらの両液を均一に撹拌混合して、前述の分子集合体をテンプレートにしたシリカ源・テンプレート集合体を形成させる。その後に、この集合体含有液を通常100℃以下の温度で所定時間シリカ源を縮合・重合反応させると、シリカ・テンプレート複合体が得られる。このシリカ・テンプレート複合体溶液から、種々の手段でテンプレートを除去することにより、透明な多孔性シリカゾルが得られる。
【0021】
本発明におけるシリカ源としては、ケイ素酸化物及びその前駆体であり、縮合や重合して最終的にシリカになるものを用いることができる。具体的には、テトラエトキシシランやメチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、1,2‐ビス(トリエトキシシリル)エタンなどのアルコキシドや活性シリカを単独または併用して用いることができる。活性シリカは安価で安全性が高いため特に好ましい。活性シリカは、水ガラスをイオン交換したり、水ガラスから有機溶剤で抽出したりするなどして調製することができる。
【0022】
例えば、水ガラスをH+ 型カチオン交換体と接触させて調製する場合、Naが少なく、安価であるため3号水ガラスを用いるのが工業的に好ましい。イオン交換する場合には、カチオン交換体として例えばスルホン化ポリスチレンジビニルベンゼン系の強酸性交換樹脂(例えば、アンバーライトIR‐120B ローム&ハース社製、商品名)が好ましい。
【0023】
また、副金属源として、アルミニウム、亜鉛、錫、チタン若しくはジルコニウムの金属酸化物及び/又はその前駆体を併用しても良い。これらの多価金属成分が、シリカ源に含まれると、さらに好ましく製造することができる。前駆体としては、これら金属の硝酸塩などの無機塩、酢酸塩、ナフテン酸塩の有機酸塩、アルキルアルミニウムなどの有機酸金属塩、アルコキシド、水酸化物などが挙げられる。もちろん、これらを単独あるいは併用しても良い。好ましい添加量としては、細孔の規則性や、凝集やゲルの生成防止などを考慮して、ケイ素酸化物、例えばSiO2に対して5.0重量%未満であり、より好ましくは2.0重量%未満である。
【0024】
本発明におけるテンプレート源としては、四級アンモニウム系などのカチオン性、アニオン性、非イオン性、両性界面活性剤;ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアミン;アミンオキサイドなどの中性テンプレートなどを使用できる。好ましくは旭電化社製のアデカプルロニックL・P・F・Rシリーズに代表されるトリブロック型、旭電化社製のアデカPEGシリーズに代表されるポリエチレングリコール型、あるいはアデカプルロニックTRシリーズに代表されるエチレンジアミンベース型などの非イオン性界面活性剤である。
【0025】
非イオン性界面活性剤としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドからなるトリブロック系の非イオン性界面活性剤が好ましい。特に、構造式HO(C24O)a-(C36O)b-(C24O)cH(但し、a,cは10〜110であり、bは20〜70である)で示されるもの、あるいは構造式R(OCH2CH2nOH(但し、Rは炭素数12〜20のアルキル基を、nは2〜30である)で示されるものが好ましい。具体的には、Aldrich社製プルロニックP123(HO(C24O)20-(C36O)70-(C24O)20H)、BASF製プルロニックP103(HO(C24O)17-(C36O)60-(C24O)17H)、同P85(HO(C24O)26-(C36O)39-(C24O)26H)、及び同P65(HO(C24O)20-(C36O)30-(C24O)20H)などやポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどを挙げることができる。
【0026】
本発明の多孔性シリカゾルの調製時に使用される溶媒としては、水あるいは水と有機溶剤の混合溶媒のいずれを用いることができる。有機溶剤の具体例としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類などが挙げられ、より具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル類が挙げられる。好ましい有機溶媒としては、アルコール類であり、特にエタノールやメタノールなどの低級アルコールが好ましい。
【0027】
また、粒子の凝集や沈殿を防ぐために低分子PVAなどの安定化剤を加えても良い。さらに、凝集や沈殿を起こさない範囲内であれば溶媒中にpH調節剤、金属封鎖剤、防カビ剤、表面張力調整剤、湿潤剤、及び防錆剤を加えても良い。
【0028】
一例を挙げてさらに説明すると、シリカ源として活性シリカを用い、テンプレートとしてプルロニックP123(旭電化社製、商品名)を用い、溶媒として水を用いる場合は、次のような組成が好ましい。すなわち、P123/SiO2の重量比は、0.01/1〜30/1の範囲、より好ましくは0.1/1〜5/1の範囲である。反応時の水/P123の重量比は、10/1〜1000/1の範囲、より好ましくは20/1〜300/1の範囲である。安定化剤として、NaOHをNaOH/SiO2 の重量比として1×10-4/1〜0.15/1の範囲で加えても良い。プルロニックP103、P85、P65を用いる場合も、同様の組成を用いることができる。
【0029】
シリカ源溶液とテンプレート溶液の混合は、低温で撹拌しながら行う方が好ましい。反応は常温でも容易に進行するが、必要に応じて加温下で行っても良い。反応時間としては1〜200時間の範囲が好ましい。反応時のpHは、2〜12の範囲が好ましい。pHの制御のためにNaOH、アンモニアなどのアルカリや塩酸、酢酸、硫酸などの酸を加えても良い。
【0030】
反応触媒として、アンモニア、アミン、アルカリ金属水素化物、第四級アンモニウム化合物、アミン系カップリング剤などの塩基性を示す化合物を用いても良い。
【0031】
本発明に使用する多孔性シリカゾルには、カルシウム塩、マグネシウム塩又はそれらの混合物を添加することができる。カルシウム塩、マグネシウム塩又はそれらの混合物を添加することで、数珠状に連結及び/又は分岐した形状の多孔性シリカゾルを得ることができる。カルシウム塩、マグネシウム塩又はそれらの混合物は、水溶液として添加することが好ましい。添加されるカルシウム塩、マグネシウム塩又はそれらの混合物の量としては、SiO2に対してCaO、MgO又はこの両者合計の重量比で5.0重量%未満が好ましく、より好ましくは2.5重量%未満である。また、この添加は撹拌下に行うのが良く、混合温度及び時間には特に制限はない。加えられるカルシウム塩、マグネシウム塩の例としては、カルシウム又はマグネシウムの塩化物、臭化物、ヨウ化物、弗化物、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、スルファミン酸塩、蟻酸塩、酢酸塩などの無機酸塩や、有機酸塩が挙げられる。これらカルシウム塩とマグネシウム塩は混合して用いても良い。
【0032】
次に、テンプレートの除去方法について説明する。このようにして得られたシリカ・テンプレート複合体溶液から、テンプレートを除去して多孔性シリカゾルを得る方法としては、例えば、シリカ・テンプレート複合体溶液を溶剤と攪拌混合してテンプレート除去する方法、カラムなどを通過させて除去する方法などが使用可能であるが、本発明においては、テンプレート除去方法として限外濾過法を用いるのが、多孔性シリカゾルの変性が少なく、またそのまま取り扱うことができるので好ましい。限外濾過は大気圧中以外にも加圧、減圧どちらで行ってもよい。
【0033】
限外濾過用の膜の材質としては、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリオレフィン、セルロースなどを用いることができ、その形状は、中空糸型や平膜型、スパイラル型、管型などの何れでも良い。限外濾過膜の材質として、好ましくはPAN膜、セルロース膜、荷電膜などの親水性膜である。荷電膜には、正荷電膜、負荷電膜があり、正荷電膜としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリオレフィンなどの有機重合体や無機物質に4級アンモニウム塩基などの正荷電基を導入した膜が挙げられる。
【0034】
負荷電膜としては、有機重合体や無機物質にカルボキシル基やスルホン酸基などの負荷電基を導入した膜が挙げられる。限外濾過を行う際、粒子の凝集を防ぐためにNaOHなどのアルカリや低分子PVAなどの安定化剤を加えても良く、Na2SO3などのナトリウム塩やNH3HCO3といったアンモニウム塩などの粘度調整剤を加えても良い。除去に用いる溶剤は、テンプレートを溶解するものであれば良く、取り扱いが簡単な水やテンプレートの溶解力が高い有機溶媒であれば良い。
【0035】
除去温度はテンプレートのミセル形成温度以下に冷却するのが好ましい。ミセル形成温度以下に冷却することによりテンプレートが解離し、濾過膜を通りやすくなる。ここでいうミセル形成温度とは、任意の濃度において温度を上昇したときに、テンプレートが溶液中でミセルを形成し始める温度のことを意味する。実際には用いる溶剤やテンプレートにより異なるが、好ましくは60℃〜2℃の範囲である。温度を下げ過ぎると、溶剤が凍結する場合がある。
【0036】
種々の応用時に泡の発生する問題やテンプレートが不純物として作用するなどの問題が発生するのでテンプレートを除去することが必要である。この時にテンプレートは、完全に除去する必要はないが、残存量がSiO2に対して10重量%未満とするのが好ましい。
【0037】
本発明に使用される多孔性シリカゾルの特性について詳細に説明する。本発明における多孔性シリカゾルの粒子径は、透過型電子顕微鏡法を用いて測定可能である。本発明の多孔性シリカの平均粒子径は、変性処理後の成膜時の透明性、膜の平滑性や均一性、多孔性シリカゾルの特性を満足する調製ができるかどうかなどを考慮して、短径は10〜50nmの範囲が好ましく、より好ましくは15〜35nmの範囲であり、長径は20〜380nmの範囲が好ましく、より好ましくは50〜280nmの範囲である。
【0038】
また、この多孔性シリカゾルは、微細な細孔を有しており、その微細な細孔の両末端は、内部の直径とほぼ同一径の開口となっている。したがって、適宜の温度で多孔性シリカゾルから溶媒を徐去すると、多孔性シリカゾルの形態とほとんど変化の無い多孔性シリカが得られ、この多孔性シリカは、窒素吸着法で細孔径分布と細孔容量が測定可能である。本発明に係る多孔性シリカゾルにおいては、このように細孔容量を測定すると、空間として残存していることが分かる。この空間として残存していることは、細孔へのビヒクルなどの侵入が防止されていることを意味する。これにより、本発明に係る多孔性シリカゾルは、反射防止膜などの光学用途において透明性と低屈折率特性に優れ、また電子材料などの用途において低誘電率エナメル成分、塗料成分、ドープ成分及び添加剤など対しても有用となる。
【0039】
この方法において、本発明に使用される微細な細孔の平均直径は、良好に変性反応が行われることを考慮して、20nm未満が好ましく、より好ましくは15nm未満である。
【0040】
また、窒素吸着法で測定した多孔性シリカゾルの細孔容量は、微細な細孔空間の利用効率やビヒクルなどの侵入を考慮して、細孔径2〜20nmの範囲においては0.2ml/g以上が好ましく、より好ましくは0.4ml/g以上である。また、細孔径が20nmより大きい範囲においては0.1ml/g未満が好ましく、より好ましくは0.01ml/g未満であり、最も好ましいのは、例えば測定誤差範囲内で検知されないレベルの、実質的に存在しないことが望ましい。
【0041】
(中空シリカゾル)
本発明の中空シリカゾルについて説明する。本発明の中空シリカゾルは、上記で例示した多孔性シリカゾルを後述する方法で変性した中空シリカゾルである。すなわち、本発明のシリカゾルは、ナノサイズの多数の細孔を有する多孔性シリカゾルに対して、細孔を実質的に閉塞するように変性処理することにより得られる。また、本発明は、このようにして得られた中空シリカゾルを乾燥してなる中空シリカ微粒子も含む。上記で得た多孔性シリカは、その内部に微細な細孔を有しており、この微細な細孔の両末端は中央部と概ね同一径で粒子外に開口系となっている。この状態では、例えば反射防止膜に応用する場合に、例えば、ハードコートなどのビヒクルが両末端から侵入して細孔を埋めてしまう問題が発生する。本発明においては、多孔性シリカゾルを変性して、この現象を実質的に防止するために、微粒子シリカゾル単独または微粒子シリカゾルとバインダーを用いて両末端の開口径をより小さくする、又は開口を実質的に閉塞する目的で実施される。ここで、細孔が実質的に閉塞されている状態(実質的に中空)とは、塗膜化時などにおいてビヒクルなどが細孔に侵入しない状態をいう。
【0042】
以下に、中空シリカゾルを変性する工程について説明する。まず、この変性に用いられる微粒子シリカゾルとバインダーについて説明する。本発明に使用される微粒子シリカゾルとしては、その目的が多孔性シリカゾルに含有される微細な細孔が、ビヒクルなどで充填されないように、その細孔開口を塞ぐことにある。したがって、微粒子シリカゾルの粒子径は、多孔性シリカゾルの両末端の開口直径と同じ大きさが好ましいが、ビヒクルの侵入を防止できるのであればこの限りでない。また、微粒状シリカゾルの形状はシリカゾルの細孔の開口を塞ぐことができれば、球状、扁平状、鎖状などの形状は特に限定されない。本発明に使用される多孔性シリカゾルの開口部と微粒子シリカゾルを繋ぐバインダーとしては、加水分解性の有機珪素化合物である、一般式RnSi(OR’)(4−n)(この式中、R及びR’はアルキル基、アリール基、ビニル基、アクリル基などの炭化水素基、n=0、1、2又は3)で表されるアルコキシシランを用いることができ、特にテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどのテトラアルコキシシランが好ましい。
【0043】
上記アルコキシシランは、多孔性シリカゾルの微細な細孔へのビヒクルなどの侵入など考慮して、総シリカ合計に対して0〜120重量部が好ましく、より好しくは0〜50重量部になるように添加する。本発明では、上記アルコキシシランの使用は必ずしも必須でないが、変性反応が進行し易いので添加する方が望ましい。
【0044】
次に、微粒子シリカゾル及びバインダーを用いて多孔性シリカゾルを変性する変成方法ついて一例を挙げて説明するが、この方法に限定されるものではない。上記の多孔性シリカゾルに微粒子シリカゾルを混合し、バインダーとしてテトラエトキシシラン溶液を加えて反応させる。この反応は、常温でも反応するが、加熱下で行うこともできる。反応時間は、特に制限が無い。変性反応は、テトラエトキシシランなどの加水分解反応と、多孔性シリカゾルの表面において微粒子シリカゾル、加水分解物及び多孔性シリカゾルの間で縮合・重合反応とが起こり、多孔性シリカゾルの周囲を微粒子シリカゾルが覆って、多孔性シリカゾルの開口直径をより小さくする、あるいは実質的に開口を閉塞する。この時に完全に塞ぐ必要はなく、塗膜化時などにおいてビヒクルなどが微細な細孔に侵入しなければ良い。使用する溶剤としては、多孔性シリカゾルを調製時に例示した溶剤が、そのまま同様に使用可能である。
【0045】
本発明における多孔性シリカゾルを変性した中空シリカゾルの特性について、詳細に説明する。本発明における中空シリカゾルの粒子径は、透過型電子顕微鏡法を用いて測定可能である。本発明の透過型電子顕微鏡により求めた中空シリカゾルの平均粒子径は、ゾル濃度が高い時の沈降、塗膜にしたときの透明性、膜の平滑性や均一性、多孔性シリカゾルの特性を満足する調製ができるかどうかなどを考慮して、短径は10〜50nmの範囲が好ましく、より好ましくは15〜35nmの範囲である。長径は20〜400nmの範囲が好ましく、より好ましくは50〜300nmの範囲である。また、平均短径と平均長径のアスペクト比についても、上記の特性を考慮して、2〜30が好ましく、より好ましくは4〜15である。
【0046】
本発明の中空シリカゾルは、動的光散乱法によって平均粒子径が測定できる。溶剤やビヒクルに分散した場合の透明性、ゾルの濃度が高くなったときの沈降、シリカゾルの調整の困難性、シリカゾルにおける中空効率などを考慮すると、好ましい平均粒子径は10〜200nmの範囲であり、より好ましくは20〜150nmの範囲である。
【0047】
また、この中空シリカゾルは、微細な細孔を有しており、その微細な細孔の両末端からビヒクルが侵入して細孔を埋めてしまう現象を、実質的に防止するために変性処理がされているが、窒素吸着法で細孔径分布と細孔容量が測定可能である。この方法において測定される、本発明の中空シリカゾルの平均細孔径は、ビヒクルなどの細孔への侵入を考慮して、15nm未満が好ましく、より好ましくは10nm未満である。
【0048】
また、本発明の中空シリカゾルに含有される微細な細孔は、複数本が平行に凝集した状態が好ましく、多孔性シリカを調製する観点から、より好ましくは5〜20本が平行に凝集した状態である。凝集することにより、反射防止膜中のシリカ成分をより緻密にすることができるので、微細な細孔空間の利用効率が高くなり、より低い屈折率にすることが可能となる。また、緻密になることにより、機械強度が上がって耐擦傷性も向上する。
【0049】
また、窒素吸着法で測定した中空シリカゾルの細孔容量は、微細な細孔空間の利用効率、ビヒクルなどの侵入などを考慮して、細孔径2〜20nmの範囲においては0.2ml/g以上が好ましく、より好ましくは0.4ml/g以上である。また、細孔径が20より大きい範囲においては0.1ml/g未満が好ましく、より好ましくは0.01ml/g未満であり、最も好ましいのは、例えば測定誤差範囲内で検知されないレベルの、実質的に細孔容量の存在が認められないことが望ましい。
【0050】
本発明の中空シリカゾルの成分については、シリカ源を主たる成分としたシリカゾルが、容易に扱えて、合成反応性、反応再現性や安定性に優れているのみならず、かつ屈折率が低くかつ電気特性にも優れているのでこの好ましい。本発明において、好ましいシリカ成分の重量比としては、目的とするシリカゾルの調製、反応性や貯蔵安定性、透明性や電気的特性などを考慮すると、90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上である。シリカゾルのその他の成分としては、アルミニウム、亜鉛、錫、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる一種類以上の元素をSiO2に対して5重量%未満、より好ましくは2重量%未満含むと、シリカゾルの合成反応がより安定し、より再現性良く製造可能となるので好ましい。
【0051】
次に、多孔性シリカゾルと中空シリカゾルの相違について説明する。窒素吸着法及びX線回折法による解析を行った結果、以下のことが確認できた。すなわち、通常の多孔性シリカゾル(例えば、特許文献1に記載の多孔性シリカゾル)の細孔は、細孔径の大きさや配列の規則性が良くない場合が多く、窒素吸着法の微分細孔分布曲線は得られるが、X線回折法のX線回折パターンは得られない場合が多い。一方、テンプレート合成法による多孔性シリカゾルの細孔は、細孔径の大きさや配列の規則性が高いので、X線回折法より容易にX線回折パターンが求まる特徴があり、また窒素吸着法より容易に微分細孔分布曲線が求まる(例えば、非特許文献3のp6028参照)。さらに、テンプレート合成法による多孔性シリカでは、窒素吸着法から求めた微分細孔分布曲のピークトップを示す細孔径値(以下、これを(A)と称する)と、X線回折法から求めたX線回折パターンの主たるピークトップを示す間隔値(以下、これを(B)と称する)とは、強い相関関係がある(例えば、特許文献5のp20及び非特許文献2のp11参照)。そして、本発明においても、窒素吸着法から求めた細孔径値(A)とX線回折法から求めた間隔値(B)との相関関係において、(B)から(A)を減じた値は、ある狭い範囲に集約された。
【0052】
しかるに本発明の中空シリカゾルにおいては、変性処理前後(中空化処理前後)における(B)の値の変化はほとんど無かったが、(A)の値の変化は、有意差として認められるべき変化があった。その結果として、(B)から(A)を減じた値は、ある狭い範囲に集約されず、明らかに中空シリカゾルと多孔性シリカゾルとは異なる解析結果を示した。その機構についての詳細は不明であるが、変性処理による細孔の開口径の減少に伴い、窒素吸着法においては変性前より小さい細孔径値(A)として測定され、(B)の変化がほとんど無かった事実は、細孔内部の径がほとんど変化していないためと考えられる。この現象が、すなわち本発明の特徴的かつ特異的なところであり、これまで知られていないことである。
【0053】
本発明において、窒素吸着法で求めた細孔径値(A)とX線回折法で求めた間隔値(B)との比(A)/(B)は、ビヒクルなどの侵入などを考慮すると、0.8/1未満が好ましく、より好ましくは0.6/1未満である。本発明の中空シリカ微粒子は、変性処理により細孔の開口が実質的に閉塞、あるいはより縮小化されているために、このような効果が発揮されたものと考えられる。
【0054】
本発明における非晶質とは、X線回折法あるいは透過型電子顕微鏡で判定できる。例えば、トリエチルリン酸とテトラエトキシシランの混合物からテンプレート合成法で得たナノポーラス物質は、400℃以下の温度で焼成した場合では結晶相が認められないが、450℃以上の温度で焼成するとシリカの結晶相が透過型電子顕微鏡で確認できることが報告されている(非特許文献1の16ページ参照)。またX線回折法でも判定でき、SiO2の場合は回折角度2θが27度付近に(CuKα線において)結晶格子に由来する明瞭なピークが認められることが知られている。一方、シリカの結晶相の生成は、450℃以上の温度で焼成する必要があることも知られている。
【0055】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、窒素吸着測定は日本ベル社製BELSORP18PLUSを用いて行い、窒素吸着などの温線よりBJH法で細孔容量と細孔径値(A)を求めた。X線回折測定は理学電機社製RINT2500VHFを用いて行い、そのX線回折パターンから間隔値(B)を求めた。なお、X線回折法に用いるサンプルは、予め95℃おいて240時間真空中で加熱処理したものを使用した。動的散乱法による平均粒子径は、大塚電子社製DLS−7000を用いて測定した。透過型電子顕微鏡観察は、日立社製HD−2000EDXを用いた。
【0056】
(実施例1)
・多孔性シリカゾルの合成
あらかじめH+ 型にしておいたカチオン交換樹脂(アンバーライト、IR-120B)600gを精製水600gに分散した中に、3号水ガラス(SiO2=29重量%、Na2O=9.5重量%)200g及びアルミン酸ナトリウム0.18gを精製水400gで希釈した溶液を加えた。これを、十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別し活性シリカ水溶液900gを得た。この活性シリカ水溶液のSiO2濃度は5.1重量%であった。この活性シリカ水溶液を精製水3100gで希釈した。これとは別に、50gのAldrich社製プルロニックP123を精製水450gに溶解させ、これに上記の希釈済み活性シリカ水溶液2580gを、10℃で撹拌しながら添加した。この混合物のpHは4.3であった。このときの、水/P123の重量比は60/1で、P123/SiO2の重量比は1.7/1であった。この混合物を18℃で30分撹拌後、さらに42℃で24時間反応させてから、68℃で静置して24時間反応させた。この溶液から限外濾過装置を用いてP123の除去と同時に濃縮を行って、SiO2濃度が3.5重量%の透明な多孔性シリカゾルを得た。この多孔性シリカゾルを30℃で乾燥後に、60℃で48時間真空乾燥して多孔性シリカを得た。
【0057】
この試料の窒素吸着測定をした結果、平均細孔径は12.3nm、細孔容量は0.63ml/gであり、微分細孔分布曲線において、主たるピークトップを示す細孔径値(A)は、図1に示すように8.1nmであり、28nm付近までピークのテーリングが認められた。またX線回折を測定した結果、X線回折パターンにおいて、主たるピークトップを示す間隔値(B)は、図2に示すように8.8nmであり、回折角度2θが27度付近においては明瞭なピークが認められず、この試料は非晶質であることが確認された。さらに透過型電子顕微鏡による観察の結果、平均粒子短径22nm、平均粒子長径210nmで平均アスペクト比が9.5であり、屈曲した棒状粒子と直線状の棒状粒子の混合物であった。動的散乱法による平均粒子径は、102nmであった。また、この試料を真空下で、ヨウ化メチルとNメチルピロリドンとの混合物を用いてガス拡散・浸漬させて測定した比重は2.0であった。この結果より、この試料の細孔体積空間率は56%であることが分かった。
【0058】
・中空シリカゾルの合成
次に、上記で得た多孔性シリカゾルを、小粒径シリカゾルとテトラエトキシシラン(TEOS)を用いて以下のように変成処理を施した。すなわち、上記で得た多孔性シリカゾル20gに水分散系でSiO2濃度が10重量%の小粒径シリカゾル(日産化学工業社製、ST−OXS)4.2gを加えて均一に混合し、さらに10重量%のTEOSのエタノール溶液を1.2g加えた。次にエタノールを加えて総シリカゾル濃度として1重量%にした調整した後に、希硝酸を用いてpHを3.5に調整して75℃で48時間超音波攪拌を行った。
【0059】
シャーレを用いてこの中空シリカゾルを30℃で乾燥した後に、60℃で48時間真空乾燥して中空シリカ微粒子を得た。この試料の窒素吸着測定をした結果、平均細孔径は6.4nmで、細孔径2〜20nmの範囲における細孔容量は0.61ml/gであった(但し、本発明においては、多孔性シリカ1g当たりの換算値である。すなわち、ここで得られた試料の多孔性シリカ濃度は60.6重量%であった。)であり、細孔径20nmより大きい範囲における細孔容量は0.005ml/g(測定下限値)であった。また、微分細孔分布曲線において、主たるピークトップを示す細孔径値(A)は、図3に示すように3.9nmであり、変性処理前後で(A)値は、明らかな変化があった。そして、ピークのテーリングは15nm付近までであった。X線回折を測定した結果、X線回折パターンにおいて、主たるピークトップを示す間隔値(B)は、図4に示すように8.6nmであり、変性処理前後で(B)値の変化がほとんど無かった。透過型電子顕微鏡による観察の結果、平均粒子短径33nm、平均粒子長径225nmで平均アスペクト比が6.8であった。動的散乱法による平均粒子径は108nmであった。また、この試料を真空下で、ヨウ化メチルとNメチルピロリドンとの混合物を用いてガス拡散・浸漬させて測定した比重は2.0であった。この結果より、この試料の細孔体積空間率は55%であることが分かった。
【0060】
・中空シリカゾルの中空保持性の確認
上記で得た中空シリカゾルが0.90重量%、市販のシリコン系ハードコート液(ソルガードNP720(成分濃度24重量%):日本ダクロシャムロック社製)を有効成分濃度として0.45重量%となるようにメタノールで希釈した。
【0061】
次に、厚み150μで表面をコロナ処理したPETフィルムの面上に、スピンコーターを用いて1600回転の条件で塗布した。これを98℃で48時間熱処理して塗布膜を有するフィルムを得た。この塗布膜を有するPETフィルムの塗膜面の反射光強度を反射分光計(大塚電子社製:FE−3000)で測定した結果、最低反射光強度は、0.03%(波長:580nm)であり、塗布膜の屈折率は1.31(波長:580nm)であった。この結果より、この塗布膜の構成は、シリカが26体積%、ハードコートが41体積%、空間が34体積%であり、中空シリカの細孔容量は空間として残存していることが分かった。別途、このフィルムをエポキシ樹脂で包埋硬化して、集束イオンビーム装置FB−2100(日立社製、商品名)を用いて断面の超薄切片を楔型に切り出し、イオンポリッシング装置(GATAN−691)を用いて両面を平滑化してサンプルを得た。このサンプルを透過型電子顕微鏡で観察し、中空シリカの細孔内にはハードコートが存在しない結果を得た。
【0062】
なお、使用したPETフィルムの屈折率は1.68(波長:580nm)であり、98℃で48時間熱処理したハードコートの屈折率は1.48(波長:580nm)であった。また、中空シリカゾルのみを用いて同様にして得た塗布膜の屈折率は1.11(波長:580nm)で、これより求めたシリカと空間の体積分率は、シリカが26体積%、空間が74体積%であった。なお、シリカ単独の屈折率は以下のようにして求めた。中空シリカゾルをシャーレ内で乾燥して得たサンプル存在下に、真空下でメチルメタアクリレートの分子蒸留を行って分散液を得た。この分散液に微量の熱重合開始剤を含むメチルメタアクリレート追加し、シリカ濃度が10重量%の分散液とした。良く分散させた後、ガラス板に挟んで65℃で48時間重合して厚さ1.5mmの重合体を得た。この重合体の屈折率から、体積分率により求めたシリカの屈折率は1.44(波長:580nm)であった。
【0063】
(実施例2)
・多孔性シリカゾルの合成
あらかじめH+型にしておいたカチオン交換樹脂100gを精製水100gに分散した中に、3号水ガラス(SiO2=29重量%、Na2O=9.5重量%)33gを精製水67gで希釈した溶液を加えた。これを十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別し活性シリカ水溶液150gを得た。この活性シリカ水溶液のSiO2濃度は5.5重量%であった。これとは別に、14gのBASF製プルロニックP103を精製水1710gに溶解させ、これに12℃で撹拌しながら上記の活性シリカ水溶液150gを添加した。この混合物のpHは4.3であった。このときの、水/P103の重量比は135/1で、P103/SiO2の重量比は1.7/1であった。この混合物を20℃で30分撹拌後、40℃で24時間反応させた。さらに、この混合物に硝酸マグネシウム0.05g溶解した水溶液を添加して良く攪拌してから、62℃で静置して24時間反応させた。
【0064】
この溶液から限外濾過装置を用いてP103の除去と同時に濃縮して、SiO2濃度3.3重量%の透明な多孔性シリカゾルを得た。この多孔性シリカゾルを30℃で乾燥後に、60℃で48時間真空乾燥して多孔性シリカを得た。この試料の窒素吸着測定をした結果、平均細孔径は14.6nm、細孔容量は0.69ml/gであり、微分細孔分布曲線において、主たるピークトップを示す細孔径値(A)は、8.3nmであり、35nm付近までピークのテーリングが認められた。
【0065】
またX線回折を測定した結果、X線回折パターンにおいて、主たるピークトップを示す間隔値(B)は8.5nmであり、回折角度2θが27度付近においては明瞭なピークが認められず、この試料は非晶質であることが確認された。さらに透過型電子顕微鏡による観察の結果、平均粒子短径21nm、平均粒子長径162nmで平均アスペクト比が7.7であり、主として屈曲した棒状粒子と直線状の棒状粒子の混合物であったが、一部に分岐した粒子が観察された。動的散乱法による平均粒子径は92nmであった。
【0066】
・中空シリカゾルの合成
次に、上記で得た多孔性シリカゾル20gを、超音波ホモジナイザーを用いて24時間処理した後に、水分散系でSiO2濃度が10重量%の小粒径シリカゾル4.3gを加えて均一混合し、更に10重量%のTEOSのメタノール溶液を1.3g加えた。次にメタノールを加えて総シリカゾル濃度として1重量%にした調整した後に、40℃で48時間超音波攪拌を行った。この溶液を75℃で48時間反応して中空シリカゾルを得た後、さらにシャーレを用いて30℃で乾燥した後に、60℃で48時間真空乾燥し中空シリカ微粒子を得た。この試料の窒素吸着測定をした結果、平均細孔径は、5.8nmで、細孔径2〜20nmの範囲における細孔容量は0.68ml/gであった(ここで得られた試料の多孔性シリカ濃度は、58.5重量%であった。)であり、細孔径20nmより大きい範囲における細孔容量は0.005ml/g(測定下限値)であった。また、微分細孔分布曲線において、主たるピークトップを示す細孔径値(A)は、2.3nmであり、ピークのテーリングは17nm付近までであった。X線回折を測定した結果、X線回折パターンにおいて、主たるピークトップを示す間隔値(B)は8.2nmであった。透過型電子顕微鏡による観察の結果、平均粒子短径29nm、平均粒子長径186nmで平均アスペクト比が6.4であった。動的散乱法による平均粒子径は98nmであった。また、この試料を真空下で、ヨウ化メチルとNメチルピロリドンとの混合物を用いてガス拡散・浸漬させて測定した比重は2.0であった。この結果より、この試料の細孔体積空間率は58%であることが分かった。
【0067】
・中空シリカゾルの中空保持性の確認
上記で得た中空シリカゾルが濃度0.90重量%、後述する紫外線硬化型樹脂溶液を有効成分濃度で0.45重量%となるようにメタノールで希釈した。次に150μで表面をコロナ処理したPETフィルムの面上に、スピンコーターを用いて1500回転の条件で塗布した。この塗布膜を50℃で1時間乾燥してから120W/cmのエネルギーの高圧水銀灯を使用して、照射距離150mmで30秒間照射して硬化した。
【0068】
この塗布膜を有するPETフィルムの塗膜面の反射光強度を反射分光計で測定した結果、最低反射強度は、0.05%(波長:565nm)であり、塗布膜の屈折率は1.32(波長:565nm)であった。この結果より、この塗布膜の構成は、シリカが23体積%、紫外線硬化型樹脂が41体積%、空間が36体積%であり、中空シリカの細孔容量は空間として残存していることが分かった。また、このフィルムをエポキシ樹脂で包埋硬化して、実施例1と同様にして透過型電子顕微鏡で観察した結果、中空シリカの細孔内には紫外線硬化型樹脂が存在しないことが分かった。
【0069】
なお、使用したPETフィルムの屈折率は1.68(波長:565nm)であり、紫外線硬化型樹脂の屈折率は1.54(波長:565nm)であった。また、中空シリカゾルのみを用いて同様にして得た塗布膜の屈折率は1.10(波長:565nm)で、これより求めたシリカと空間の体積分率は、シリカが23体積%、空間が77体積%であった。さらに、実施例1と同様にして求めた中空シリカゾルのシリカの屈折率は1.44(波長:565nm)であった。
【0070】
(紫外線硬化型樹脂溶液組成)
硬化成分:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート45重量%;6官能ウレタンアクリレート(イソホロンとペンタエリスリトールトリアクリレートとの縮合物)25重量%;ペンタエリスリトールジアクリレート20重量%;アクリロイルモルホリン10重量%、
添加剤:フッ素系レベリング剤(フロラードーFC4430:住友3M社製)5重量部
光開始剤:イルガキュアー651(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)3重量部
溶剤:メタノール
濃度:上記の硬化成分、添加剤及び光開始剤の有効成分総合計で5.0重量%
【0071】
(実施例3)
・多孔性シリカゾルの合成
あらかじめH+型にしておいたカチオン交換樹脂(アンバーライト、IR-120B)100gを精製水100gに分散した中に、3号水ガラス(SiO2=29重量%、Na2O=9.5重量%)33gとアルミン酸ナトリウム0.02gを水67gで希釈した溶液を加えた。これを、十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別し活性シリカ水溶液150gを得た。別途、6.7gのBASF製プルロニックP85を水850gに溶解させ、10℃湯浴中で撹拌しながら上記の活性シリカ水溶液150gを添加した。この混合物を23℃で1時間撹拌後、42℃で24時間反応させた。さらに、塩化カルシウム0.02gを少量の精製水で溶解して添加してから良く攪拌し、68℃で静置して24時間反応させた。
【0072】
この溶液から限外濾過装置を用いてP85を除去して、SiO2 濃度が3.5重量%の透明な多孔性シリカゾルを得た。この多孔性シリカゾルを30℃で乾燥した後に、60℃で48時間真空乾燥して多孔性シリカを得た。
【0073】
この試料の窒素吸着測定をした結果、平均細孔径は9.5nm、細孔容量は0.58ml/gであり、微分細孔分布曲線において、主たるピークトップを示す細孔径値(A)は、7.6nmであり、48nm付近までピークのテーリングが認められた。
【0074】
また、X線回折を測定した結果、X線回折パターンにおいて、主たるピークトップを示す間隔値(B)は7.4nmであり、回折角度2θが27度付近においては明瞭なピークが認められず、この試料は非晶質であることが確認された。さらに透過型電子顕微鏡による観察の結果、平均粒子短径21nm、平均粒子長径162nmで平均アスペクト比が7.7であり、屈曲した棒状粒子と直線状の棒状粒子の混合物であり、一部に分岐状の粒子が観察された。動的散乱法による平均粒子径は87nmであった。
【0075】
・中空シリカの合成
次に、上記で得た多孔性シリカゾル20gを、超音波洗浄器を用いて25℃で200時間処理した後に、水分散系でSiO2濃度が10重量%の小粒径シリカゾル3.8gを加えて均一混合し、さらに10重量%のTEOSのエタノール溶液を1.3g加えた。次にエタノールを加えて総シリカゾル濃度として1重量%にした調整した後に、45℃で48時間超音波攪拌を行った。この変性多孔性シリカゾルを65℃で72時間反応後、さらにシャーレを用いて30℃で乾燥した後に、60℃で48時間真空乾燥し変性多孔性シリカを得た。この試料の窒素吸着測定をした結果、平均細孔径は5.3nmで、細孔径2〜20nmの範囲における細孔容量は0.56ml/gであった(ここで得られた試料の多孔性シリカ濃度は、62.6重量%であった。)であり、細孔径20nmより大きい範囲における細孔容量は0.005ml/g(測定下限値)であった。また、微分細孔分布曲線において、主たるピークトップを示す細孔径値(A)は、3.1nmであり、ピークのテーリングは17nm付近までであった。X線回折を測定した結果、X線回折パターンにおいて、主たるピークトップを示す間隔値(B)は7.1nmであった。
【0076】
透過型電子顕微鏡による観察の結果、平均粒子短径29nm、平均粒子長径186nmで平均アスペクト比が6.4であった。動的散乱法による平均粒子径は94nmであった。また、この試料を真空下で、ヨウ化メチルとNメチルピロリドンとの混合物を用いてガス拡散・浸漬させて測定した比重は2.0であった。この結果より、この試料の細孔体積空間率は53%であることが分かった。
【0077】
・中空シリカゾルの中空保持性の確認
上記で得た中空シリカゾルが濃度0.07重量%、実施例1と同一のシリコン系ハードコートを有効成分濃度0.45重量%となるようにメタノールで希釈した。次に実施例1と同様にして、塗布膜を有するフィルムを得た。この塗布膜を有するPETフィルムの塗膜面の反射光強度を反射分光計で測定した結果、最低反射光強度は0.03%(波長:580nm)であり、塗布膜の屈折率は1.30(波長:580nm)であった。この結果より、この塗布膜の構成は、シリカが27体積%、ハードコートが41体積%、空間が32体積%であり、中空シリカの細孔容量は空間として残存していることが分かった。また、このフィルムをエポキシ樹脂で包埋硬化して、実施例1と同様にして透過型電子顕微鏡で観察した結果、中空シリカの細孔内にはハードコートが存在しないことが分かった。
【0078】
なお、中空シリカゾルのみを用いて同様にして得た塗布膜の屈折率は1.12(波長:580nm)で、これより求めたシリカと空間の体積分率は、シリカが27体積%、空間が73体積%であった。さらに、実施例1と同様にして求めた中空シリカゾルのシリカの屈折率は1.44(波長:580nm)であった。
【0079】
(比較例1)
実施例1で得た多孔性シリカゾルを変性しないまま用い、以下実施例1と同様の操作を行った。
・中空保持性の確認
実施例1で得た多孔性シリカゾルをそのまま用いて、実施例1と同一のシリコン系ハードコート液を用いて、塗布膜を有するPETフィルムを得た。この塗膜面の反射光強度を反射分光計で測定した結果、最低反射光強度は0.89%(波長:580nm)であり、本発明と比較して高く、屈折率も1.42(波長:580nm)と高い値であった。この結果より、この塗布膜の構成は、シリカが23体積%、ハードコートが66体積%、空間が11体積%であり、中空シリカの細孔容量はハードコートの侵入により減少していることが分かった。このフィルムをエポキシ樹脂で包埋硬化して、実施例1と同様にして透過型電子顕微鏡で観察した結果、中空シリカの細孔内にハードコートが存在していることが確認され、ハードコートが細孔の壁面に付着して細孔径を縮小させていることが分かった。
【0080】
なお、中空シリカゾルのみを用いて同様にして得た塗布膜の屈折率は1.10(波長:580nm)で、これより求めたシリカと空間の体積分率は、シリカが23体積%、空間が77体積%であった。さらに、実施例1と同様にして求めた多孔性シリカゾルのシリカの屈折率は1.44(波長:580nm)であった。
【0081】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態においては、ケイ素酸化物としてSiO2を用いた場合について説明しているが、本発明はケイ素酸化物として他のケイ素酸化物を用いても同様に適用することができる。その他、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1において原料として使用した多孔性シリカ粒子の微分細孔分布曲線を示す図である。
【図2】実施例1において原料として使用した多孔性シリカ粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例1で得られた本発明の中空シリカ微粒子の微分細孔分布曲線を示す図である。
【図4】実施例1で得られた本発明の中空シリカ微粒子のX線回折パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がケイ素酸化物であり、非晶質であり、ナノサイズの細孔を有する実質的に中空なシリカ微粒子を含むことを特徴とする中空シリカゾル。
【請求項2】
前記細孔は、窒素吸着法で求めた平均細孔径が15nm未満であり、窒素吸着法で求めた細孔容量が、細孔径2〜20nmの範囲において0.2ml/g以上、かつ細孔径20nmより大きい範囲において0.1ml/g未満であることを特徴とする請求項1記載の中空シリカゾル。
【請求項3】
前記細孔は、窒素吸着法で求めた平均細孔径が10nm未満であり、窒素吸着法で求めた細孔容量が、細孔径2〜20nmの範囲において0.40ml/g以上、かつ細孔径20nmより大きい範囲において0.01ml/g未満であることを特徴とする請求項1記載の中空シリカゾル。
【請求項4】
窒素吸着法で求めた微分細孔分布曲線の主たるピークトップを示す細孔径値(A)と、X線回折法から求めたX線回折パターンの主たるピークトップ示す間隔値(B)との比(A)/(B)が、同一試料測定下において、0.8/1未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の中空シリカゾル。
【請求項5】
透過型電子顕微鏡法で求めた前記微粒子の平均粒子長径が20〜400nmの範囲であり、かつ平均粒子短径が10〜50nmの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の中空シリカゾル。
【請求項6】
動的光散乱法で求めた前記微粒子の平均粒子径が10〜200nmの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の中空シリカゾル。
【請求項7】
ナノサイズの多数の細孔を有する多孔性シリカゾルを調製する工程と、前記細孔を実質的に閉塞するように前記多孔性シリカゾルを変性する工程とから得られることを特徴とする中空シリカゾル。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の中空シリカゾルを乾燥してなることを特徴とする中空シリカ微粒子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−342023(P2006−342023A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169620(P2005−169620)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】