中空構造食器
【課題】 断熱性と、保温性を有するとともに、適度の熱伝導性をも備えており、収容物が熱いものか冷たいものか感知できる食器を、大幅な重量増を来たすことなく提供すること。
【解決手段】 内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは帯状の突起部が形成されており、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器。
【解決手段】 内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは帯状の突起部が形成されており、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温性、断熱性などに優れた食器に関するものである。さらに詳しくは、容器構造に中空部を有する保温性、断熱性などに優れた食器に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器はある程度の保温性と断熱性を有しているので、このような性質を利用して各種食器等の容器に使用されている。また、陶磁器製食器が、物理的および化学的安全性、耐熱性、耐汚染性などにすぐれた性質を有しているので、学校給食、病院給食など集団給食において陶磁器製食器が使用されている。
【0003】
近年、食器には内容物が冷めないように一層の保温性を持った食器が望まれており、また熱い物が入った食器は持つのが困難であったり、逆に温度の対する感覚が鈍っている人には手の火傷の原因となったりするので一層の断熱性をもった食器も求められるようになってきた。
【0004】
そこで、魔法瓶のような断熱保温性を有する容器とするために、陶磁器を2重構造にして、容器の内部に減圧された空洞を形成して断熱保温した容器が提案されている(例えば、特開昭9−169585号公報、特開昭10−316481号公報、特開2002−3272号公報)。これらには空洞部を減圧して封着するために、いずれも陶磁器の素地本体に空気を排出するための孔を穿設し、溶融した釉薬が孔に侵入して封孔するようにしたり、外側の素地と内側の素地との間の隙間を多孔質素地にして溶融釉薬を含浸浸透させて接合したりする工夫がなされている。しかしながら、これらの2重構造にして断熱した陶磁器では重量が重くなる欠点があり、軽量を目的とし薄肉化すると強度が低下し、かつ焼成時における歪みが大きくなる欠陥があった。また、さらには2重構造の内外に於ける温度差による熱衝撃により破損することも少なくなかった。
【0005】
また陶磁器製容器で、陶磁器を多孔質性のものにすると、ある程度保温性や断熱性を有することが知られているが、このような多孔質陶磁器では断熱性が十分でなく、高断熱にするために気孔率を上げると強度が低下するという欠陥や、歩留まりに影響するピンホールが増加するなどの製造上の欠陥が生じる上に、吸水率が高まるという問題がある。
陶磁器製の容器では、単純に肉厚を大きくすれば、保温断熱性、熱伝導性及び強度は大きくなるが、大幅な重量の増加は避けられないこととなる。
【0006】
さらに最近は、完全に断熱された食器では、喫食飲時の瞬間まで内容物の温度がわからないので、喫食飲時に口内を火傷したり、予期せぬ温度に驚いて食器を落とすことによって事故が起きたりすることが想定されるので、食事が冷めないような保温性と、手に比較的持ちやすい断熱性を持ち、かつ食器に触れた際、内容物の温度を推定できるような適度な熱伝導性を兼ね備えた食器の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭9−169585号公報
【特許文献2】特開昭10−316481号公報
【特許文献3】特開2002−3272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、このような要望に応える食器の開発に鋭意努力した結果本発明に到達したものである。
本発明は、断熱性を有するとともに、食器に収容した物の温度を保存できる保温性を有する食器を提供する。
また本発明は、大幅な重量増を来たすことなく十分な強度を確保できる構造の食器であって、前記した断熱性と保安性を発揮する食器を提供するものである。
本発明は、さらに適度の熱伝導性をも備えており、食品が収容されている食器を手にしたとき、収容されているものが熱いものか冷たいものか感知できる食器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは帯状の突起部が形成されており、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器を提供する。
【0010】
前記内側成形体と外側成形体とが、前記突起部が当接する部分において固着されている食器は本発明の好ましい態様である。
【0011】
食器が皿形状もしくは椀形状の食器であって、前記突起部が、同心円方向、螺旋方向、食器底面の中心部からみて放射線方向、同放射線を湾曲させた曲線を描く方向またはこれらを組み合わせた方向に形成されている食器は本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、断熱性を有するとともに、食器に収容した物の温度を保存できる保温性を有する食器を提供する。
本発明により、大幅な重量増を来たすことなく十分な強度を確保できる構造の食器であって、前記した断熱性と保安性を発揮する食器が提供される。
本発明によりさらに、適度の熱伝導性をも備えているので、食品が収容されている食器を手にしたとき、収容されているものが熱いものか冷たいものか感知できる食器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例の1例である皿形状の食器の正面図である。
【図2】図1の食器を形成するための外側成形体であって、一部に切り欠きを設けた概略図である。
【図3】図1の食器を形成するための内側成形体であって、一部に切り欠きを設けた概略図である。
【図4】図1の食器のA−A’断面平面図である。
【図5】図1の食器のB−B’断面を表す概略図である。
【図6】図1の食器を上方からみた斜視図である。
【図7】本発明の実施例の1例である皿形状の食器の上方からみた斜視図である。
【図8】図7の食器を形成するための内側成形体の概略図である。
【図9】図7の食器を形成するための外側成形体の概略図である。
【図10】図7の食器のC−C’断面を表す概略図である。
【図11】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図12】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図13】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図14】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図15】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図16】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図17】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図18】本発明の他の実施例である皿形状の食器の断面概略図である。
【図19】本発明のさらに他の実施例である皿形状の食器の断面概略図である。
【図20】実施例1において作製した皿形状の食器の概略図である。
【図21】実施例1及び比較例1において測定した食器表面温度を示すグラフである。
【図22】実施例1及び比較例2において測定した食器表面温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは線状の突起部が形成されており、突起部の表面の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器を提供する。
【0015】
本発明の食器において形成される中空部分は、食器内側表面積の30%以上であることが好ましく、より好ましくは30〜90%程度であることが望ましい。
【0016】
本発明の食器において形成される中空部分は、食器の厚さ方向の断面視0.3mm〜40mm程度で形成することが好ましい。
【0017】
本発明の食器において内側成形体の外側および外側成形体の内側に形成させる点状もしくは線状の突起部は、その幅が、0.5〜10mm程度の点状もしくは線状で形成させることが好ましい。その高さは、突起部の表面の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接することによって形成される中空部分は、食器の厚さ方向の断面視0.3mm〜40mm程度となるように選択することが好ましい。
【0018】
本発明の食器においては、リブの役割を果たす前記突起部が、点もしくは長さを問わない曲線および直線、またはその組み合わせた物により構成されたパターン描くものである。
皿状や椀状などの軸対称の食器に適用する突起部(リブ)のパターンとしては、点や単線を用いて任意に描くことができ、軸に対して同心状・放射状・螺旋状の線を用いて描くもの、またそれらの組み合せなどを挙げることができる。好ましくは同心円方向、螺旋方向、食器底面の中心部からみて放射線方向、同放射線を湾曲させた曲線を描く方向、またはこれらを組み合わせた方向に点または単線を用いて描くことができる。
【0019】
本発明の食器における突起物は、適度の幅をもった点状または線状(帯状)として形成されるが、突起物の幅としては、0.5〜10mm程度があることが好ましい。なお、径を変化させる断面直線形状の内側成形体及び外側成形体の表面に突起物を形成させる場合、突起物の上端部または下端部の高さをゼロとして、内側成形体及び外側成形体の表面と同一高さから突起物を形成させることもできる。
【0020】
本願発明の食器の材質としては、陶磁器、ガラス、セラミックス、タイル、各種樹脂などを挙げることができ、陶磁器には、強化磁器や、軽量強化磁器と呼ばれるものも含まれるがこれらに限定されるものではない。中でも陶磁器が好ましい。
【0021】
以下に、材質が陶磁器である場合を例として、必要に応じて図を用いながら本発明の食器をより具体的に説明する。
【0022】
本発明の食器を形成させる例としては、まず粘土で内側成形体(内子と呼ばれることもある)及び外側成形体(外子と呼ばれることもある)のいずれかまたはその双方の表面に点状または帯状の突起物を、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接するように形成させ、その後内側成形体と外側成形体を接合させて、素焼きして釉薬を使用して本焼きする通常の陶磁器の製造方法によって食器とする方法を挙げることができる。内側成形体と外側成形体とは、突起部が当接する部分が固着した中空部を有する食器として得られる。
【0023】
また、突起物を形成させた後の前記内側成形体及び外側成形体を、それぞれ素焼きにしたのち、素焼物を接合させ釉薬を使用して本焼きをすることによって、突起部が当接する部分が固着した中空部を有する食器とすることもできる。
【0024】
本発明の食器を形成させるに際して、食器縁部は接合されるが、縁部接合部または中空部を擁する箇所の食器表面部において空気孔を形成しておくことが好ましい。空気孔を形成しておくことによって、焼きの段階で高温によって中空部内の圧力の増加による変形や割れを防止することができる。この空気孔が、最終製品となる食器に残っていてもいいし、釉薬などで塞がれていてもよい。
【0025】
本発明の食器は、中空部分を有することによって、適度の保温性と断熱性を発揮するとともに、突起部が当接する部分を有することによって、熱伝導性を発揮し、かつ食器の軽量化を図るために内側成形体及び外側成形体の肉厚を減じても必要な強度を発揮するという効果を示す。
【0026】
図1は本発明の実施態様の1例となる皿形状の食器1であって、上方から見た斜視図図6の通りである。この食器は、図2に示される内側表面に底面中心から放射状方向に突起31部(リブ)が形成されている外側成形体(外子)3と、図3に示されている外側表面に底面中心から放射状方向に突起部(リブ)21が形成されている内側成形体(内子)2であって、底面部には突起部は形成されていない内側成形体を接合することによって形成されたものである。
【0027】
図1に示された皿形状の食器は、粘土で突起物が形成された内側成形体と突起部が形成された外側成形体とを、形成された突起部の表面同士が当接するように接合させて、素焼きして釉薬を使用して本焼きする通常の陶磁器の製造方法によって得られたものである。図1の皿形状食器のA−A’断面が、図4に示されているが、放射状突起部同士が当接して固着しており、その結果中空部4が形成されていることがわかる。
【0028】
図7は、本発明の実施態様の1例となる椀形状の食器1であって、上方から見た斜視図を示すものである。この食器は、図8に示される内側成形体の側面部の外側表面に同心円方向に突起31部が形成されており、その底面部には放射状の突起部31が形成されている内側成形体2であって、側面部の外側表面に同心円方向に形成された突起部は、突起物の上端部の高さをゼロとして、内側成形体の表面と同一高さから突起物が形成されているものである。
【0029】
図9は、図8の内側成形体2と接合させる外側成形体3であって、外側成形体の側面部内側には放射状の突起部31が形成されており、底面部には同心円方向に突起部31が形成されている。図7に示された椀形状の食器は、粘土で突起物が形成された内側成形体2と突起部が形成された外側成形体3とを、それぞれ素焼きした後に突起部の表面同士が当接するように接合させて、釉薬を使用して本焼きする製造方法によって得られたものである。
【0030】
図10は、図7に示されている椀形状の食器を、C−C’の位置から矢印方向に切断した時の断面図を示す概略図である。図10から内側成形体2の突起物21と、外側成形体3の突起物31が当接しており、その結果中空部4が形成されていることがわかる。
【0031】
図11〜図17は、内側成形体と外側成形体の双方に突起物を形成させるときの、突起物の組み合せの例を示すが略図である。例えば、図11は、双方の突起物が共に放射状に形成されている態様を示すもので、放射状の突起物同士が重なるように当接している場合の例を示している。上記図1の食器も側面部においてはこの突起物の態様を採用したものである。図11に示すのは、突起物の組み合せ例であって、実際の食器においては複数の突起形状を任意に組み合わせるとか、突起物が形成されていない部分を設けるなど適宜突起物の形成を選ぶことができる。
【0032】
図12及び図13では、放射状方向の突起物が、湾曲する曲線となるように形成されている態様をしめしている。また、図14〜図17では、同心円方向に突起物が形成されている態様を示すものであって、図16のように内側成形体と外側成形体の双方において突起物が同心円方向に形成されていてもよい。
【0033】
図18には、本発明における他の実施態様である皿形状の食器の断面図が示されているが、図18からわかるようにこの食器では側面部において、内側成形体と外側成形体の双方において突起物が同心円方向に形成されており、底面部においては外側成形体にのみ放射状方向に突起物が形成されている。
【0034】
なお、本発明においては、必ずしも内側成形体と外側成形体の双方に突起物を形成させる必要はなく、内側成形体と外側成形体のいずれか一方に形成させた突起物が、相対する成形体の表面に当接することにより本発明の食器を形成することができる。図19にはこのような態様の食器の断面図が示されている。図19では、内側成形体の突起部21が外側成形体の内表面に当接する部分に僅かに凹部が設けられているが、これは当接する突起部がすれないようにするためであるが、本発明においては必須ではない。
【0035】
本発明の食器の形状には、特に制限はないが、好ましい形状の例としては、軸対称の食器椀形状である、皿形状、椀形状などを挙げることができる。
【0036】
本発明においては、食器を形成する素材選択による熱伝導率の違いや、断面視における食器の厚さ方向の中空部の幅、外側成形体および内側成形体の厚さ、外側成形体と内側成形体において突起部により当接する部分の面積を選ぶことにより、保温性・断熱性・熱伝導性の期待する各性能を選ぶことができる。
【0037】
本発明の食器における内側容器の表面に磁性体が付着されている場合には、電磁誘導加熱調理器を利用して磁性体を加熱し、加熱された磁性体の熱伝導により焼物容器に入っている液体を温めることができる。磁性体が付着された内側容器の表面を、焼物容器の二重構造の中空部側とすることができ、また付着が困難な容態の磁性体を二重構造の内部に納めることもできる。この場合、磁性体が外側から見えることもなく、焼物容器の美観を損なうこともない。
【実施例】
【0038】
以下に実施例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0039】
(実施例1)
本実施例で用いた食器は、それぞれ肉厚2mmである外側成形体と内側成形体から構成され、約2mmの中空部を持つ食器である。側面部においては、外側成形体の内側と内側成形体の外側に、頂点部分の幅が約2mmである放射状の帯状突起部がそれぞれ形成され、それぞれの突起部が当接している構造を有しており、底面部においては、外側成形体の内側に、頂点部分の幅が約2mmである放射状の帯状突起部が形成され、突起部が底面部に当接している構造を有するもので、以下の方法で製造したものである。
それぞれ粘土で成型し、乾燥して900℃で素焼きした後、施釉した外側成形体と内側成形体を重ねた状態で、1250℃の酸化炎焼成を行い、溶けた釉薬によりそれぞれを接合し製造した。本焼成は24時間かけ、緩やかな温度上昇速度の条件での焼成のため、中空部内の空気が急激に膨張することや、成形体生地内の結晶水分解に伴う急激な気体の発生を経ることなく焼成完了するため、釉薬が溶解前において、密封されていない状態の外側成形体と内側成形体の接合の隙間より、空気が逃げるため空気穴は設けなかった。また焼成後は、外側成形体と内側成形体の接合の隙間が、溶解した釉薬により塞がれたまま冷却されるため、中空部内は減圧状態となる。この時、肉薄であると減圧力により製品が収縮変形するおそれがあるが、本発明の内部構造を有することにより、減圧による収縮変形を起こすことなく製造できた。
得られた食器は、図20に示したように軸対称形の形状であって、開口部における直径が164mmで、高さが47mmで、重量383gであって、容量が400mlである、上方に向かって開口部が開いた形状をした皿形状食器である。得られた食器を用いて、下記の方法により食器内外側面の温度を測定した。毎分測定した温度結果から60分まで10分ごとに抽出したデータを下記の表1及び表2にそれぞれ比較例1及び比較例2と対比して示した。
なお参考として、60分まで毎分測定したデータを図21のグラフとして示した。
【0040】
本実施例における物性の測定は、下記の方法により行なった。
(1)食器内外側面の温度の測定
試験用食器を、約20℃の水道水に10分浸し、その後23℃の恒温室に1時間放置した後、熱湯を食器容積の80%まで注ぎ、厚さ5mmの発泡スチレンボードで蓋をして、各食器内外側面の温度を、Kタイプ熱電対温度計により60分まで毎分測定した。
温度の測定に基づいて、保温性、断熱性及び熱伝導性を評価した。
外側面温度としては、熱伝導の遅れに起因する実験開始直後の低温帯の影響を抑えるため、最高温度に達した以降の温度を測定値として採用した。
【0041】
(比較例1)
実施例1の食器とほぼ同様のサイズである同素材の磁器製従来製品を用いた。用いた従来形状の陶磁器製食器は、開口部における直径が175mmで、高さが40mmで、重量222gであって、容量が400mlである、上方の向かって開口部が開いた形状をした皿形状食器であった。
この従来形状の陶磁器製食器について、実施例1と同様にして食器内外側面の温度を測定した。毎分測定した温度結果から60分まで10分ごとに抽出したデータを下記の表1に実施例1と対比して示した。
なお参考として、60分まで毎分測定したデータを図21のグラフとして示した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の結果から、保温性として、実施例1の食器が比較例1の食器に比べて、最大6.6℃、1時間平均2.4℃保温効果において優れていることが確認できる。
また、表1の結果から、断熱性として、食器の外側面における最高温度を見ると、比較例1が77.9℃であるのに対し、実施例1の食器では71.9℃であるから、実施例1の食器が比較例1の食器に対し6.0℃低く保てていることがわかる。また各食器の外側面において最高温度に達した以降における、食器の内外面の温度差を見ると、平均温度差が比較例1で3.0℃であるのに対して、実施例1では5.3℃であり、最高温度差が比較例1で4.3℃であるのに対し実施例1では温度差7.8℃であって実施例1の方がよく断熱されていることがわかる。以上から実施例1の食器の方が断熱性に優れていることがわかる。
さらに、実施例1の食器において、熱湯を食器に入れた後の外側面の温度が上昇したことから、実施例1の食器が適度の熱伝導性も有していることがわかる。
【0044】
(比較例2)
比較例1で使用した食器に代えて、従来形状の陶磁器製食器であるが、開口部における直径が184mmで、高さが41mmで、重量278gであって、容量が400mlである、上方の向かって開口部が開いた形状をした皿形状食器を用いた。
この従来形状の陶磁器製食器について、実施例1と同様にして食器内外側面の温度を測定した。毎分測定した温度結果から60分まで10分ごとに抽出したデータを下記の表1に実施例1と対比して示した。
なお参考として、60分まで毎分測定したデータを図22のグラフとして示した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の結果から、保温性として、実施例1の食器が比較例2の食器に比べて、最大4.7℃、1時間平均2.8℃保温効果において優れていることが確認できる。
また、表2の結果から、断熱性として、食器の外側面における最高温度を見ると、比較例2が73.0℃であるのに対し、実施例1の食器では71.9℃であるから、実施例1の食器が比較例1の食器に対し1.1℃低く保てていることがわかる。また各食器の外側面において最高温度に達した以降における、食器の内外面の温度差を見ると、平均温度差が比較例2で3.0℃であるのに対して、実施例1では5.3℃であり、最高温度差が比較例2で5.8℃であるのに対し実施例1では温度差7.8℃であって実施例1の方がよく断熱されていることがわかる。以上から実施例1の食器の方が断熱性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、提供される食器は、断熱性を有するとともに、食器に収容した物の温度を保存できる保温性を有するとともに、適度の熱伝導性をも備えているので、食品が収容されている食器を手にしたとき、収容されているものが熱いものか冷たいものか感知できる食器である。
さらに本発明により、大幅な重量増を来たすことなく十分な強度を確保できる構造の食器であって、前記した断熱性と保安性を発揮する食器が提供される。
本発明により提供される食器は、学校給食、病院給食、介護施設などにおいて好適に使用することができる食器である。
【符号の説明】
【0048】
1.食器
2.内側成形体(内子)
21.内側成形体の突起物(リブ)
3.外側成形体(外子)
31.外側成形体の突起物(リブ)
4.中空部
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温性、断熱性などに優れた食器に関するものである。さらに詳しくは、容器構造に中空部を有する保温性、断熱性などに優れた食器に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器はある程度の保温性と断熱性を有しているので、このような性質を利用して各種食器等の容器に使用されている。また、陶磁器製食器が、物理的および化学的安全性、耐熱性、耐汚染性などにすぐれた性質を有しているので、学校給食、病院給食など集団給食において陶磁器製食器が使用されている。
【0003】
近年、食器には内容物が冷めないように一層の保温性を持った食器が望まれており、また熱い物が入った食器は持つのが困難であったり、逆に温度の対する感覚が鈍っている人には手の火傷の原因となったりするので一層の断熱性をもった食器も求められるようになってきた。
【0004】
そこで、魔法瓶のような断熱保温性を有する容器とするために、陶磁器を2重構造にして、容器の内部に減圧された空洞を形成して断熱保温した容器が提案されている(例えば、特開昭9−169585号公報、特開昭10−316481号公報、特開2002−3272号公報)。これらには空洞部を減圧して封着するために、いずれも陶磁器の素地本体に空気を排出するための孔を穿設し、溶融した釉薬が孔に侵入して封孔するようにしたり、外側の素地と内側の素地との間の隙間を多孔質素地にして溶融釉薬を含浸浸透させて接合したりする工夫がなされている。しかしながら、これらの2重構造にして断熱した陶磁器では重量が重くなる欠点があり、軽量を目的とし薄肉化すると強度が低下し、かつ焼成時における歪みが大きくなる欠陥があった。また、さらには2重構造の内外に於ける温度差による熱衝撃により破損することも少なくなかった。
【0005】
また陶磁器製容器で、陶磁器を多孔質性のものにすると、ある程度保温性や断熱性を有することが知られているが、このような多孔質陶磁器では断熱性が十分でなく、高断熱にするために気孔率を上げると強度が低下するという欠陥や、歩留まりに影響するピンホールが増加するなどの製造上の欠陥が生じる上に、吸水率が高まるという問題がある。
陶磁器製の容器では、単純に肉厚を大きくすれば、保温断熱性、熱伝導性及び強度は大きくなるが、大幅な重量の増加は避けられないこととなる。
【0006】
さらに最近は、完全に断熱された食器では、喫食飲時の瞬間まで内容物の温度がわからないので、喫食飲時に口内を火傷したり、予期せぬ温度に驚いて食器を落とすことによって事故が起きたりすることが想定されるので、食事が冷めないような保温性と、手に比較的持ちやすい断熱性を持ち、かつ食器に触れた際、内容物の温度を推定できるような適度な熱伝導性を兼ね備えた食器の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭9−169585号公報
【特許文献2】特開昭10−316481号公報
【特許文献3】特開2002−3272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、このような要望に応える食器の開発に鋭意努力した結果本発明に到達したものである。
本発明は、断熱性を有するとともに、食器に収容した物の温度を保存できる保温性を有する食器を提供する。
また本発明は、大幅な重量増を来たすことなく十分な強度を確保できる構造の食器であって、前記した断熱性と保安性を発揮する食器を提供するものである。
本発明は、さらに適度の熱伝導性をも備えており、食品が収容されている食器を手にしたとき、収容されているものが熱いものか冷たいものか感知できる食器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは帯状の突起部が形成されており、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器を提供する。
【0010】
前記内側成形体と外側成形体とが、前記突起部が当接する部分において固着されている食器は本発明の好ましい態様である。
【0011】
食器が皿形状もしくは椀形状の食器であって、前記突起部が、同心円方向、螺旋方向、食器底面の中心部からみて放射線方向、同放射線を湾曲させた曲線を描く方向またはこれらを組み合わせた方向に形成されている食器は本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、断熱性を有するとともに、食器に収容した物の温度を保存できる保温性を有する食器を提供する。
本発明により、大幅な重量増を来たすことなく十分な強度を確保できる構造の食器であって、前記した断熱性と保安性を発揮する食器が提供される。
本発明によりさらに、適度の熱伝導性をも備えているので、食品が収容されている食器を手にしたとき、収容されているものが熱いものか冷たいものか感知できる食器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例の1例である皿形状の食器の正面図である。
【図2】図1の食器を形成するための外側成形体であって、一部に切り欠きを設けた概略図である。
【図3】図1の食器を形成するための内側成形体であって、一部に切り欠きを設けた概略図である。
【図4】図1の食器のA−A’断面平面図である。
【図5】図1の食器のB−B’断面を表す概略図である。
【図6】図1の食器を上方からみた斜視図である。
【図7】本発明の実施例の1例である皿形状の食器の上方からみた斜視図である。
【図8】図7の食器を形成するための内側成形体の概略図である。
【図9】図7の食器を形成するための外側成形体の概略図である。
【図10】図7の食器のC−C’断面を表す概略図である。
【図11】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図12】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図13】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図14】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図15】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図16】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図17】本発明の内側成形体と外側成形体の表面に形成される突起部の形態の他の例を、突起部のみを表示する概略図である。
【図18】本発明の他の実施例である皿形状の食器の断面概略図である。
【図19】本発明のさらに他の実施例である皿形状の食器の断面概略図である。
【図20】実施例1において作製した皿形状の食器の概略図である。
【図21】実施例1及び比較例1において測定した食器表面温度を示すグラフである。
【図22】実施例1及び比較例2において測定した食器表面温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは線状の突起部が形成されており、突起部の表面の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器を提供する。
【0015】
本発明の食器において形成される中空部分は、食器内側表面積の30%以上であることが好ましく、より好ましくは30〜90%程度であることが望ましい。
【0016】
本発明の食器において形成される中空部分は、食器の厚さ方向の断面視0.3mm〜40mm程度で形成することが好ましい。
【0017】
本発明の食器において内側成形体の外側および外側成形体の内側に形成させる点状もしくは線状の突起部は、その幅が、0.5〜10mm程度の点状もしくは線状で形成させることが好ましい。その高さは、突起部の表面の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接することによって形成される中空部分は、食器の厚さ方向の断面視0.3mm〜40mm程度となるように選択することが好ましい。
【0018】
本発明の食器においては、リブの役割を果たす前記突起部が、点もしくは長さを問わない曲線および直線、またはその組み合わせた物により構成されたパターン描くものである。
皿状や椀状などの軸対称の食器に適用する突起部(リブ)のパターンとしては、点や単線を用いて任意に描くことができ、軸に対して同心状・放射状・螺旋状の線を用いて描くもの、またそれらの組み合せなどを挙げることができる。好ましくは同心円方向、螺旋方向、食器底面の中心部からみて放射線方向、同放射線を湾曲させた曲線を描く方向、またはこれらを組み合わせた方向に点または単線を用いて描くことができる。
【0019】
本発明の食器における突起物は、適度の幅をもった点状または線状(帯状)として形成されるが、突起物の幅としては、0.5〜10mm程度があることが好ましい。なお、径を変化させる断面直線形状の内側成形体及び外側成形体の表面に突起物を形成させる場合、突起物の上端部または下端部の高さをゼロとして、内側成形体及び外側成形体の表面と同一高さから突起物を形成させることもできる。
【0020】
本願発明の食器の材質としては、陶磁器、ガラス、セラミックス、タイル、各種樹脂などを挙げることができ、陶磁器には、強化磁器や、軽量強化磁器と呼ばれるものも含まれるがこれらに限定されるものではない。中でも陶磁器が好ましい。
【0021】
以下に、材質が陶磁器である場合を例として、必要に応じて図を用いながら本発明の食器をより具体的に説明する。
【0022】
本発明の食器を形成させる例としては、まず粘土で内側成形体(内子と呼ばれることもある)及び外側成形体(外子と呼ばれることもある)のいずれかまたはその双方の表面に点状または帯状の突起物を、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接するように形成させ、その後内側成形体と外側成形体を接合させて、素焼きして釉薬を使用して本焼きする通常の陶磁器の製造方法によって食器とする方法を挙げることができる。内側成形体と外側成形体とは、突起部が当接する部分が固着した中空部を有する食器として得られる。
【0023】
また、突起物を形成させた後の前記内側成形体及び外側成形体を、それぞれ素焼きにしたのち、素焼物を接合させ釉薬を使用して本焼きをすることによって、突起部が当接する部分が固着した中空部を有する食器とすることもできる。
【0024】
本発明の食器を形成させるに際して、食器縁部は接合されるが、縁部接合部または中空部を擁する箇所の食器表面部において空気孔を形成しておくことが好ましい。空気孔を形成しておくことによって、焼きの段階で高温によって中空部内の圧力の増加による変形や割れを防止することができる。この空気孔が、最終製品となる食器に残っていてもいいし、釉薬などで塞がれていてもよい。
【0025】
本発明の食器は、中空部分を有することによって、適度の保温性と断熱性を発揮するとともに、突起部が当接する部分を有することによって、熱伝導性を発揮し、かつ食器の軽量化を図るために内側成形体及び外側成形体の肉厚を減じても必要な強度を発揮するという効果を示す。
【0026】
図1は本発明の実施態様の1例となる皿形状の食器1であって、上方から見た斜視図図6の通りである。この食器は、図2に示される内側表面に底面中心から放射状方向に突起31部(リブ)が形成されている外側成形体(外子)3と、図3に示されている外側表面に底面中心から放射状方向に突起部(リブ)21が形成されている内側成形体(内子)2であって、底面部には突起部は形成されていない内側成形体を接合することによって形成されたものである。
【0027】
図1に示された皿形状の食器は、粘土で突起物が形成された内側成形体と突起部が形成された外側成形体とを、形成された突起部の表面同士が当接するように接合させて、素焼きして釉薬を使用して本焼きする通常の陶磁器の製造方法によって得られたものである。図1の皿形状食器のA−A’断面が、図4に示されているが、放射状突起部同士が当接して固着しており、その結果中空部4が形成されていることがわかる。
【0028】
図7は、本発明の実施態様の1例となる椀形状の食器1であって、上方から見た斜視図を示すものである。この食器は、図8に示される内側成形体の側面部の外側表面に同心円方向に突起31部が形成されており、その底面部には放射状の突起部31が形成されている内側成形体2であって、側面部の外側表面に同心円方向に形成された突起部は、突起物の上端部の高さをゼロとして、内側成形体の表面と同一高さから突起物が形成されているものである。
【0029】
図9は、図8の内側成形体2と接合させる外側成形体3であって、外側成形体の側面部内側には放射状の突起部31が形成されており、底面部には同心円方向に突起部31が形成されている。図7に示された椀形状の食器は、粘土で突起物が形成された内側成形体2と突起部が形成された外側成形体3とを、それぞれ素焼きした後に突起部の表面同士が当接するように接合させて、釉薬を使用して本焼きする製造方法によって得られたものである。
【0030】
図10は、図7に示されている椀形状の食器を、C−C’の位置から矢印方向に切断した時の断面図を示す概略図である。図10から内側成形体2の突起物21と、外側成形体3の突起物31が当接しており、その結果中空部4が形成されていることがわかる。
【0031】
図11〜図17は、内側成形体と外側成形体の双方に突起物を形成させるときの、突起物の組み合せの例を示すが略図である。例えば、図11は、双方の突起物が共に放射状に形成されている態様を示すもので、放射状の突起物同士が重なるように当接している場合の例を示している。上記図1の食器も側面部においてはこの突起物の態様を採用したものである。図11に示すのは、突起物の組み合せ例であって、実際の食器においては複数の突起形状を任意に組み合わせるとか、突起物が形成されていない部分を設けるなど適宜突起物の形成を選ぶことができる。
【0032】
図12及び図13では、放射状方向の突起物が、湾曲する曲線となるように形成されている態様をしめしている。また、図14〜図17では、同心円方向に突起物が形成されている態様を示すものであって、図16のように内側成形体と外側成形体の双方において突起物が同心円方向に形成されていてもよい。
【0033】
図18には、本発明における他の実施態様である皿形状の食器の断面図が示されているが、図18からわかるようにこの食器では側面部において、内側成形体と外側成形体の双方において突起物が同心円方向に形成されており、底面部においては外側成形体にのみ放射状方向に突起物が形成されている。
【0034】
なお、本発明においては、必ずしも内側成形体と外側成形体の双方に突起物を形成させる必要はなく、内側成形体と外側成形体のいずれか一方に形成させた突起物が、相対する成形体の表面に当接することにより本発明の食器を形成することができる。図19にはこのような態様の食器の断面図が示されている。図19では、内側成形体の突起部21が外側成形体の内表面に当接する部分に僅かに凹部が設けられているが、これは当接する突起部がすれないようにするためであるが、本発明においては必須ではない。
【0035】
本発明の食器の形状には、特に制限はないが、好ましい形状の例としては、軸対称の食器椀形状である、皿形状、椀形状などを挙げることができる。
【0036】
本発明においては、食器を形成する素材選択による熱伝導率の違いや、断面視における食器の厚さ方向の中空部の幅、外側成形体および内側成形体の厚さ、外側成形体と内側成形体において突起部により当接する部分の面積を選ぶことにより、保温性・断熱性・熱伝導性の期待する各性能を選ぶことができる。
【0037】
本発明の食器における内側容器の表面に磁性体が付着されている場合には、電磁誘導加熱調理器を利用して磁性体を加熱し、加熱された磁性体の熱伝導により焼物容器に入っている液体を温めることができる。磁性体が付着された内側容器の表面を、焼物容器の二重構造の中空部側とすることができ、また付着が困難な容態の磁性体を二重構造の内部に納めることもできる。この場合、磁性体が外側から見えることもなく、焼物容器の美観を損なうこともない。
【実施例】
【0038】
以下に実施例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0039】
(実施例1)
本実施例で用いた食器は、それぞれ肉厚2mmである外側成形体と内側成形体から構成され、約2mmの中空部を持つ食器である。側面部においては、外側成形体の内側と内側成形体の外側に、頂点部分の幅が約2mmである放射状の帯状突起部がそれぞれ形成され、それぞれの突起部が当接している構造を有しており、底面部においては、外側成形体の内側に、頂点部分の幅が約2mmである放射状の帯状突起部が形成され、突起部が底面部に当接している構造を有するもので、以下の方法で製造したものである。
それぞれ粘土で成型し、乾燥して900℃で素焼きした後、施釉した外側成形体と内側成形体を重ねた状態で、1250℃の酸化炎焼成を行い、溶けた釉薬によりそれぞれを接合し製造した。本焼成は24時間かけ、緩やかな温度上昇速度の条件での焼成のため、中空部内の空気が急激に膨張することや、成形体生地内の結晶水分解に伴う急激な気体の発生を経ることなく焼成完了するため、釉薬が溶解前において、密封されていない状態の外側成形体と内側成形体の接合の隙間より、空気が逃げるため空気穴は設けなかった。また焼成後は、外側成形体と内側成形体の接合の隙間が、溶解した釉薬により塞がれたまま冷却されるため、中空部内は減圧状態となる。この時、肉薄であると減圧力により製品が収縮変形するおそれがあるが、本発明の内部構造を有することにより、減圧による収縮変形を起こすことなく製造できた。
得られた食器は、図20に示したように軸対称形の形状であって、開口部における直径が164mmで、高さが47mmで、重量383gであって、容量が400mlである、上方に向かって開口部が開いた形状をした皿形状食器である。得られた食器を用いて、下記の方法により食器内外側面の温度を測定した。毎分測定した温度結果から60分まで10分ごとに抽出したデータを下記の表1及び表2にそれぞれ比較例1及び比較例2と対比して示した。
なお参考として、60分まで毎分測定したデータを図21のグラフとして示した。
【0040】
本実施例における物性の測定は、下記の方法により行なった。
(1)食器内外側面の温度の測定
試験用食器を、約20℃の水道水に10分浸し、その後23℃の恒温室に1時間放置した後、熱湯を食器容積の80%まで注ぎ、厚さ5mmの発泡スチレンボードで蓋をして、各食器内外側面の温度を、Kタイプ熱電対温度計により60分まで毎分測定した。
温度の測定に基づいて、保温性、断熱性及び熱伝導性を評価した。
外側面温度としては、熱伝導の遅れに起因する実験開始直後の低温帯の影響を抑えるため、最高温度に達した以降の温度を測定値として採用した。
【0041】
(比較例1)
実施例1の食器とほぼ同様のサイズである同素材の磁器製従来製品を用いた。用いた従来形状の陶磁器製食器は、開口部における直径が175mmで、高さが40mmで、重量222gであって、容量が400mlである、上方の向かって開口部が開いた形状をした皿形状食器であった。
この従来形状の陶磁器製食器について、実施例1と同様にして食器内外側面の温度を測定した。毎分測定した温度結果から60分まで10分ごとに抽出したデータを下記の表1に実施例1と対比して示した。
なお参考として、60分まで毎分測定したデータを図21のグラフとして示した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の結果から、保温性として、実施例1の食器が比較例1の食器に比べて、最大6.6℃、1時間平均2.4℃保温効果において優れていることが確認できる。
また、表1の結果から、断熱性として、食器の外側面における最高温度を見ると、比較例1が77.9℃であるのに対し、実施例1の食器では71.9℃であるから、実施例1の食器が比較例1の食器に対し6.0℃低く保てていることがわかる。また各食器の外側面において最高温度に達した以降における、食器の内外面の温度差を見ると、平均温度差が比較例1で3.0℃であるのに対して、実施例1では5.3℃であり、最高温度差が比較例1で4.3℃であるのに対し実施例1では温度差7.8℃であって実施例1の方がよく断熱されていることがわかる。以上から実施例1の食器の方が断熱性に優れていることがわかる。
さらに、実施例1の食器において、熱湯を食器に入れた後の外側面の温度が上昇したことから、実施例1の食器が適度の熱伝導性も有していることがわかる。
【0044】
(比較例2)
比較例1で使用した食器に代えて、従来形状の陶磁器製食器であるが、開口部における直径が184mmで、高さが41mmで、重量278gであって、容量が400mlである、上方の向かって開口部が開いた形状をした皿形状食器を用いた。
この従来形状の陶磁器製食器について、実施例1と同様にして食器内外側面の温度を測定した。毎分測定した温度結果から60分まで10分ごとに抽出したデータを下記の表1に実施例1と対比して示した。
なお参考として、60分まで毎分測定したデータを図22のグラフとして示した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の結果から、保温性として、実施例1の食器が比較例2の食器に比べて、最大4.7℃、1時間平均2.8℃保温効果において優れていることが確認できる。
また、表2の結果から、断熱性として、食器の外側面における最高温度を見ると、比較例2が73.0℃であるのに対し、実施例1の食器では71.9℃であるから、実施例1の食器が比較例1の食器に対し1.1℃低く保てていることがわかる。また各食器の外側面において最高温度に達した以降における、食器の内外面の温度差を見ると、平均温度差が比較例2で3.0℃であるのに対して、実施例1では5.3℃であり、最高温度差が比較例2で5.8℃であるのに対し実施例1では温度差7.8℃であって実施例1の方がよく断熱されていることがわかる。以上から実施例1の食器の方が断熱性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、提供される食器は、断熱性を有するとともに、食器に収容した物の温度を保存できる保温性を有するとともに、適度の熱伝導性をも備えているので、食品が収容されている食器を手にしたとき、収容されているものが熱いものか冷たいものか感知できる食器である。
さらに本発明により、大幅な重量増を来たすことなく十分な強度を確保できる構造の食器であって、前記した断熱性と保安性を発揮する食器が提供される。
本発明により提供される食器は、学校給食、病院給食、介護施設などにおいて好適に使用することができる食器である。
【符号の説明】
【0048】
1.食器
2.内側成形体(内子)
21.内側成形体の突起物(リブ)
3.外側成形体(外子)
31.外側成形体の突起物(リブ)
4.中空部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは帯状の突起部が形成されており、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器。
【請求項2】
前記内側成形体と外側成形体とが、前記突起部が当接する部分において固着されていることを特徴とする請求項1に記載の食器。
【請求項3】
食器が皿形状もしくは椀形状の食器であって、前記突起部が、同心円方向、螺旋方向、食器底面の中心部からみて放射線方向、同放射線を湾曲させた曲線を描く方向またはこれらを組み合わせた方向に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の食器。
【請求項4】
前記食器が陶磁器製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食器。
【請求項1】
内側成形体と外側成形体を接合して内側成形体と外側成形体の間に中空部分を形成させた食器であって、内側成形体の外側、外側成形体の内側のいずれかまたは双方に点状もしくは帯状の突起部が形成されており、突起部の少なくとも一部が相対する内側成形体表面、外側成形体表面またはそこに形成された突起部の表面と当接している構造を有する食器。
【請求項2】
前記内側成形体と外側成形体とが、前記突起部が当接する部分において固着されていることを特徴とする請求項1に記載の食器。
【請求項3】
食器が皿形状もしくは椀形状の食器であって、前記突起部が、同心円方向、螺旋方向、食器底面の中心部からみて放射線方向、同放射線を湾曲させた曲線を描く方向またはこれらを組み合わせた方向に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の食器。
【請求項4】
前記食器が陶磁器製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図18】
【図19】
【図21】
【図22】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図18】
【図19】
【図21】
【図22】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図20】
【公開番号】特開2012−20015(P2012−20015A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161050(P2010−161050)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000176176)三信化工株式会社 (34)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000176176)三信化工株式会社 (34)
【Fターム(参考)】
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