説明

中空糸型膜モジュール

【課題】 製造時及び運転時において、集水管が樹脂封止部から剥がれることがない、中空糸型膜モジュール。
【解決手段】 円筒ケース11内にて集水管12の周囲に中空糸膜束13が配置されており、封止用樹脂で一体化されている端部15において、集水管12端部と中空糸膜束13端部の間に樹脂製リング20が介在されている。樹脂製リング20の作用により、集水管12端部が樹脂封止部15から剥がれることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種水処理分野で使用する中空糸型膜モジュールとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸型膜モジュールは、一般に流体の出入口を有したケーシング、キャップ、中空糸膜束、中空糸膜束を保護するネット及び中空糸膜束の端部を樹脂封止固定した樹脂封止部分から構成されているものが多い。処理原液又は透過水の流出入は、例えば処理原液がケーシングの上端部又は下端部で樹脂封止固定された中空糸膜束から中空糸膜外側に濾過され、この濾過液はケーシングの側面に設けられた流体の出入口から流出入する方法や中央部集水管に集められる方法等がある。
【0003】
【特許文献1】US 2003/0150807 A1
【特許文献2】US 6,183,639 B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空糸膜束の中央部に設けられた集水管は円筒形であり、膜モジュールの外径寸法を変えずに中空糸膜の充填率を高める観点から、できる限り肉薄が好ましい。しかし、肉薄であると、封止用樹脂で封止された中空糸膜束の端部を切断するときに集水管の一部が樹脂封止部から剥がれたり、運転を継続する過程で剥がれ易くなったりする場合がある。このように集水管の一部が封止用樹脂から剥がれると、処理液が透過水側へ漏洩することがある。
【0005】
本発明は、製造時及び運転時において、集水管が樹脂封止部から剥がれることがない中空糸型膜モジュールと、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、課題の解決手段として、
円筒ケース内に集水管と中空糸膜束が収容されており、前記集水管の周囲に前記中空糸膜束が配置され、少なくとも一端側の集水管と中空糸膜束が封止用樹脂で一体化された中空糸型膜モジュールであり、
前記封止用樹脂で一体化されている端部において、前記集水管端部と前記中空糸膜束端部の間に樹脂製リングが介在されており、前記集水管端部、前記中空糸膜束端部及び前記樹脂製リングが前記封止用樹脂で一体化されている、中空糸型膜モジュールとその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の中空糸型膜モジュールは、樹脂製リングを介して集水管と中空糸膜束が固着一体化されているため、製造時及び運転時において、集水管が樹脂封止部から剥がれることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<中空糸型膜モジュール>
図1〜図3により、本発明の中空糸型膜モジュールの一実施形態を説明する。図1は、本発明の中空糸型膜モジュールの縦方向断面図、図2は、図1の部分拡大図である。図3(A)〜(D)は、本発明で用いることができる4種類の樹脂製リングの斜視図である。
【0009】
中空糸型膜モジュール10は、円筒ケース11内に集水管12と中空糸膜束13が収容されている。
【0010】
集水管12は、中空糸膜束13と正対している周面に複数の集水口14を有しており、集水管12の周囲に中空糸膜束13が配置されている。
【0011】
円筒ケース11と集水管12は、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂製や金属製のものを用いることができる。
【0012】
集水管12の開口部付近の内周壁は、他部材、例えば、パイプと接続できるような内部構造(例えば、ねじ込むためのねじ山、嵌め込むための段差を有している)を形成することができる。
【0013】
集水管12と中空糸膜束13の両端側は、それらの間に配置された樹脂製リング20と共に樹脂封止部15にて封止用樹脂で一体化されている。このとき、樹脂製リング20外周面と中空糸膜束13が固着され、樹脂製リング20の内周面と集水管12の外周面が固着されている。
【0014】
樹脂封止部15を形成するために用いる封止用樹脂としては、尿素樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤、レソルシノール樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリウレタン接着剤、ビニルウレタン接着剤を挙げることができ、これらの中でもポリウレタン接着剤が好ましい。
【0015】
図2では、樹脂製リング20の端面は、中空糸膜束13の端面と同一面を形成しているが、樹脂製リング20の端面は、中空糸膜束13の端面よりも2〜10mm程度内側に引っ込んだ状態で固定されていてもよい。
【0016】
中空糸型膜モジュール10は、US2003/0150807公報の図1のような公知の中空糸型膜モジュールと同様に、両端側に液出入口を有するキャップを被せることができる。16はキャップを被せて固定するための部材である。
【0017】
樹脂製リング20は、図3(A)〜(D)に示すような高さの低い筒状形態のものを用いることができ、長さは40〜120mm、厚さは2〜10mmの範囲にすることが好ましい。
【0018】
図3(A)に示す樹脂製リング20Aは、高さの低い筒状のものであり、周壁面には孔等は形成されていない。
【0019】
図3(B)に示す樹脂製リング20Bは、外形は図3(A)のものと同じであるが、周面に多数の孔21を有している。樹脂製リング20Bを用いて集水管12と中空糸膜束13を封止用樹脂で一体化するとき、孔21を封止用樹脂が通るため、中空糸膜束13と樹脂製リング20の結合強度が高められ、集水管12と樹脂製リング20の結合強度が高められる。
【0020】
図3(C)に示す樹脂製リング20Cは、4箇所にスリットが形成されており、外周壁の半分程度の長さ部分は、対向する1対の分離壁21a、21a’と、対向する一対の分離壁21b、21b’の4つに分かれている。
【0021】
1対の分離壁21a、21a’及び21b、21b’は、外周面と内周面が同じ曲面形状である。
【0022】
図3(D)に示す樹脂製リング20Dは、4箇所にスリットが形成されており、外周面の半分程度の長さ部分は、対向する1対の分離壁23a、23a’と、対向する一対の分離壁23b、23b’の4つに分かれている。
【0023】
分離壁23bは、外周面は曲面形状であるが、内周面は内側に突き出した凸部24bを有している。分離壁23b’、23a、23a’も図示していない同様の凸部を有している。
【0024】
樹脂製リング20Dを用いて集水管12と中空糸膜束13を封止用樹脂で一体化するとき、一対の分離壁23b、23b’及び23a、23a’が有する凸部の作用により、樹脂製リング20Dと集水管12の外周面との間に隙間が形成され、スリットを通って入り込んだ封止用樹脂により、全体の結合強度が高められる。
【0025】
本発明の中空糸型膜モジュール10は、樹脂で封止された端面において、中空糸膜束15、樹脂製リング20、集水管12が一体化されているため、集水管12を薄肉にした場合であっても、製造時及び運転時において、集水管12が封止用樹脂から剥がれることがない。
【0026】
<中空糸型膜モジュールの第1の製造方法>
次に、本発明の中空糸型膜モジュールの製造方法の一実施形態を説明する。
【0027】
まず、集水管12、樹脂製リング20、中空糸膜束15の順に配置し、それらの端部を封止用樹脂で一体化する。
【0028】
次に、スライサーにより、樹脂封止部15(即ち、集水管12、樹脂製リング20、中空糸膜束15の端部)を所定長さだけ切断し、中空糸膜束13の端部を開口させる。このとき、集水管12と中空糸膜束13は、封止用樹脂により、樹脂製リング20に固着されているため、切断時の外力によっても、集水管12が封止用樹脂から剥がれることがない。
【0029】
<中空糸型膜モジュールの第2製造方法>
次に、本発明の中空糸型膜モジュールの製造方法の他実施形態を説明する。
【0030】
まず、集水管12、樹脂製リング20、中空糸膜束15の順に配置し、それらの端部を封止用樹脂で一体化する。このとき、樹脂製リング20の端面が中空糸膜束13の端面よりも内側に引っ込むようにして封止する。
【0031】
次に、スライサーにより、集水管12と中空糸膜束13の端部を所定長さだけ切断し、中空糸膜束13の端部を開口させる。このとき、内側に引っ込んでいる樹脂製リング20の端部は切断しない。
【0032】
切断は、集水管12と中空糸膜束13の端面と、樹脂製リング20の端面が同一面を形成するように切断してもよいし、樹脂製リング20の端面が中空糸膜束13の端面よりも内側に引っ込んだ状態を維持できるように切断してもよい。例えば、樹脂製リング20の端面が中空糸膜束13の端面の差が10mmのとき、中空糸膜束13の端面は10mmの長さを切断してもよいし、10mm未満の長さを切断してもよい。
【0033】
この製造方法であると、切断時に樹脂製リング20には外力が加えられないため、樹脂製リング20と中空糸膜束13の固着面が剥がれることがなく、樹脂製リング20と集水管12との固着面が剥がれることもない。
【実施例】
【0034】
実施例1
(第一工程)
酢酸セルロース系樹脂からなる中空糸膜(ダイセン・メンブレン・システムズ社製)束とポリ塩化ビニル製の集水管(厚さ1mm,外径76mm,長さ1094mm)を筒状のケース(長さ1100mm)に収容した。両端部には、1つずつの樹脂製リングを中空糸膜と集水管の間に配置した。中空糸膜束、ウレタン樹脂からなる樹脂製リング(図3(B)のリング20B)(長さ80mm、厚さ3mm、孔21の径4mm、孔21の総数64個)、集水管の端面は面一にした。
【0035】
(第二工程)
ポリウレン接着剤(商品名コロネード4428と商品名ニッポラン4221の混合品,日本ポリウレタン社製)を用いて両端部を接着固定した。
【0036】
(第三工程)
スライサー(自動トリミング装置,コムス社製)を用いて、封止された中空糸膜束、樹脂製リング、集水管の端部を切断し、中空糸膜端部を開口させた。切断作業後に切断部分を肉眼で確認したところ、集水管は樹脂封止部(樹脂製リング)から剥がれていなかった。
【0037】
実施例2
(第一工程)
酢酸セルロース系樹脂からなる中空糸膜(ダイセン・メンブレン・システムズ社製)束とポリ塩化ビニル製の集水管(厚さ1mm,長さ1094mm)を筒状のケース(長さ1100mm)に収容した。両端部には、1つずつの樹脂製リングを中空糸膜と集水管の間に配置した。中空糸膜束、ウレタン樹脂からなる樹脂製リング(図3(D)のリング20D)(長さ80mm,厚さ2mm,スリット長さ20mm,凸部高さ2mm)、集水管の端面は面一にした。
【0038】
(第二工程)
ポリウレン接着剤(商品名コロネード4428と商品名ニッポラン4221の混合品,日本ポリウレタン社製)を用いて両端部を接着固定した。
【0039】
(第三工程)
スライサー(自動トリミング装置,コムス社製)を用いて、封止された中空糸膜束、樹脂製リング、集水管の端部を切断し、中空糸膜端部を開口させた。切断作業後に切断部分を肉眼で確認したところ、集水管は樹脂封止部(樹脂製リング)から剥がれていなかった。
【0040】
比較例1
(第一工程)
酢酸セルロース系樹脂からなる中空糸膜(ダイセン・メンブレン・システムズ社製)とポリ塩化ビニル製集水管(厚さ1mm,長さ1146mm)を筒状のケース(長さ1100mm)に収納した。樹脂製リングは使用しなかった。
【0041】
(第二工程)
ポリウレン接着剤(商品名コロネード4428と商品名ニッポラン4221の混合品,日本ポリウレタン社製)を用いて両端部を接着固定した。
【0042】
(第三工程)
封止された中空糸膜及びポリ塩化ビニル製の集水管の端部をスライサー(自動トリミング装置,コムス社製)を用いて中空糸膜端部を開口させた。このとき、集水管の一部が樹脂封止部から剥がれていた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の中空糸型膜モジュールの縦方向断面図。
【図2】図1の部分拡大図。
【図3】本発明で用いる樹脂製リングの斜視図(異なる4つの形態の斜視図)。
【符号の説明】
【0044】
10 中空糸型膜モジュール
11 円筒ケース
12 集水管
13 中空糸膜束
14 集水口
15 樹脂封止部
20、20A〜20D 樹脂製リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒ケース内に集水管と中空糸膜束が収容されており、前記集水管の周囲に前記中空糸膜束が配置され、少なくとも一端側の集水管と中空糸膜束が封止用樹脂で一体化された中空糸型膜モジュールであり、
前記封止用樹脂で一体化されている端部において、前記集水管端部と前記中空糸膜束端部の間に樹脂製リングが介在されており、前記集水管端部、前記中空糸膜束端部及び前記樹脂製リングが前記封止用樹脂で一体化されている、中空糸型膜モジュール。
【請求項2】
前記樹脂製リングの端面が前記中空糸膜束の端面よりも内側に引っ込んだ状態で固定されている、請求項1記載の中空糸型膜モジュール。
【請求項3】
請求項1記載の中空糸型膜モジュールの製造方法であり、
集水管とその周囲に配置した中空糸膜束の少なくとも一端側を封止用樹脂で封止するとき、前記集水管と前記中空糸膜束の間に樹脂製リングを介在させた状態で封止する工程、
封止用樹脂で封止された端部を切断するとき、前記集水管、前記樹脂製リング及び前記中空糸膜束を一緒に切断する工程、
を備えている、中空糸型膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の中空糸型膜モジュールの製造方法であり、
集水管とその周囲に配置した中空糸膜束の少なくとも一端側を封止用樹脂で封止するとき、前記集水管と前記中空糸膜束の間に樹脂製リングを介在させ、かつ前記樹脂製リングの端面が前記中空糸膜束の端面よりも内側に引っ込むようにして封止する工程、
封止用樹脂で封止された端部を切断するとき、前記集水管と前記中空糸膜束の端部を切断し、前記樹脂製リングの端部を切断しない工程、
を備えている、中空糸型膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−51844(P2010−51844A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216410(P2008−216410)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】