説明

中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】 外側容器に変形のない中空糸膜モジュールの製造方法の提供。
【解決手段】 少なくとも一端側が開口されたハウジング内に複数の中空糸膜束が収容され、ハウジングと複数の膜束及び複数の膜束同士が接着剤で接着封止された中空糸膜モジュールの製造方法であり、ハウジングの少なくとも一端に、ハウジングの幅方向の断面形状と同寸法のリングを嵌め込んだ状態で、ハウジングと複数の膜束及び複数の膜束同士を接着剤で接着封止する工程を含む、中空糸膜モジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法、及び前記製造方法により得られた中空糸膜モジュールを用いたカートリッジ式中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、円筒状ケースに中空糸膜束の両端をポッティング剤で固定して製造される。円筒状ケースに中空糸膜を固定する際のポッティング剤としては、エポキシやウレタンなどの樹脂系接着剤が使用されているが、これらの樹脂系接着剤を硬化させる際には、熱量変化を伴うため、収縮や膨張が起こる。
【0003】
中空糸膜モジュールの円筒状ケースは、全体の軽量化の観点からプラスチック製のものが汎用されているため、上記したような収縮や膨張を生じやすく、断面形状が変形することがある。
【0004】
また、このポッティング工程では、公知の遠心接着法(遠心成型法)(特開昭51−93788号公報、特開昭52−38797号公報、特開昭61−171503号公報、特開昭61−171504号公報等)を適用して、円筒状ケースを回転させながら接着するため、熱と共に、回転による遠心力の影響によっても変形することがある。
【0005】
円筒状ケースに収容された中空糸膜モジュールは、更に他のケーシングに装填されたカートリッジ式として使用されることがある。このようなカートリッジ式の膜モジュールの場合、液密(水密)にするため、膜モジュールにO−リングを嵌め込んだ状態で他のケーシング内に装填されるが、このとき装填する膜モジュールのケースが変形していると、O−リングが効かない(液密にできない)現象がおこり、膜モジュールとしての機能が発揮できない恐れがある。
【0006】
特許文献1、2には、ケース内のポッティング部(接着剤による封止部分)にOリング(環状体)を配置することで、ポッティング部の破損や接着剤による封止部分の歪みを防止することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−52736号公報
【特許文献2】特公平4−42058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポッティング固定時のハウジングの変形を抑制する中空糸膜モジュールの製造方法、及び前記製造方法により得られた中空糸膜モジュールを用いたカートリッジ式膜モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、課題の解決手段として、
少なくとも一端側が開口されたハウジング内に複数の中空糸膜束が収容され、ハウジング内表面と複数の膜束、及び複数の膜束同士が接着剤で接着封止された中空糸膜モジュールの製造方法であり、
少なくともハウジング内表面と複数の膜束が接着する位置に対応するハウジング外表面にリングを嵌め込んだ状態で、ハウジングと複数の膜束及び複数の膜束同士を接着剤で接着封止する工程を含む、中空糸膜モジュールの製造方法、及び前記製造方法で得られた中空糸膜モジュールを用いたカートリッジ式中空糸膜モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、ハウジングに形状変化のない中空糸膜モジュールを得ることができる。よって、ハウジングの周囲にOリングを嵌め込んで、他のケーシングに装填してカートリッジ式膜モジュールを製造した場合にも、ハウジングとOリング、及びOリングと他のケーシングとを密着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1、図2により、本発明の製造方法を説明する。図1は、本発明の製造方法を説明するための図であり、ポッティング工程(接着剤による接着封止工程)を説明するものである。図2は、ポッティング工程後の図1の縦断面図である。
【0011】
側面に液出入口12を有する筒状ハウジング11内に、所要束数の中空糸膜束13を収容する。このとき、必要に応じて、特開2004−89799号公報の図1〜図7に示されるような補強材を用いることができ、公知のポリエチレン製等のネットで中空膜束13を包み込んでもよい。
【0012】
次に、図1で示すように、筒状ハウジング11の一端部側にリング15を嵌め込む。図1では、リング15は一端側に1つだけ嵌め込まれているが、一端側に複数を嵌め込んでもよいし、他端側や中央部にも1又は複数を嵌め込んでもよい。
【0013】
リング15の形状は、筒状ハウジング11に外側から嵌め込むことができる形状であればよいが、筒状ハウジング11の幅方向の断面が円形であるから、リング15は、筒状ハウジングの外径と同じ寸法又は近似した寸法の内径を有する円形(望ましくは真円形)、又は筒状ハウジングの外径と同じ寸法又は近似した寸法の短径を有する楕円形が好ましい。リング15が楕円形である場合は、長径aと短径bとの比率が0.990≦b/a≦0.999の範囲になるものを用いることが好ましい。なお、リング15の幅や厚みは、強度を考慮して適宜決定すればよい。
【0014】
真円形のリングは、SUS製のパイプを切断し、旋盤加工して得ることができ、楕円リングは、真円リングを引張加工して得ることができる。
【0015】
リング15の材質としては、金属、合成樹脂、合成ゴム等を用いることができるが、耐熱性が高く、熱により変形し難いものが好ましく、例えば、SUS、鉄を挙げることができる。
【0016】
筒状ハウジング11は材質により耐熱性が異なり、ポッティング剤も種類により発熱量が異なる。このため、このような筒状ハウジング11とポッティング剤の組み合わせによる変形量を考慮して、変形に対する抑制効果を高める観点から、リング15として真円形や楕円形のものを用いることが好ましい。
【0017】
例えば、耐熱性の高いポリスルホン製の筒状ケースを用いる場合は、ポッティング工程における変形の程度が小さいため、真円形のリングを用いることで、変形を防止することができる。
【0018】
また例えば、ポリスルホン製に比べて耐熱性の低い硬質ポリ塩化ビニル製の筒状ケースを用いる場合は、楕円形のリングを用いることができる。遠心接着法は、筒状ケースの長さ方向中央部を基点として回転させる方法であるため、遠心力の影響を受ける回転方向側の直径が回転方向に垂直側の直径よりも長くなるように変形することになる。このため、楕円形のリングを用い、リングの短径が回転方向側に位置するようにリングを嵌め込むことで(図3参照)、変形を防止することができる。なお、図3では、楕円形のリング15の形状は実寸を意味するものではなく、筒状ケース11との関係が分かり易いように、少し誇張して図示している。矢印は、筒状ケース11の回転方向を示す。
【0019】
本発明では、接着剤の硬化時の発熱温度に応じて、筒状ケース11が、熱変形温度が80℃以上の材質からなる場合には真円リング15を用い、熱変形温度が80℃未満の材質からなる場合には、楕円形リング(好ましくは上記した特定比率の楕円形リング)15を用いることが好ましい。
【0020】
次に、適当な注入容器を用い、ポッティング容器20の注入孔21から、中空糸膜束13に対して、溶融状態のウレタン系又はエポキシ系樹脂接着剤等のポッティング剤(図2の14は硬化後のポッティング剤を示す。)を注入する。ポッティング剤は、中空糸膜束13同士だけではなく、中空糸膜束13と筒状ハウジング11の端部内周面も接着するため、リング15は、図2に示すとおり、少なくとも中空糸膜束13と接着される筒状ハウジング11の端部内周面に対向する外周面に嵌め込む。
【0021】
ポッティング剤を注入した後に放置するが、この過程にて、ポッティング剤の硬化反応が生じて熱が発生し、この熱により、筒状ハウジング11が収縮や膨張等の変形を生じることがある。
【0022】
しかし、本発明では、図2に示すとおり、筒状ハウジング11の所定位置にリング15が嵌め込まれているので、筒状ハウジング11の熱変形が防止される。特に、筒状ハウジング11の材質に応じて真円形や楕円形のリング15を選択使用することで、前記した防止効果が高められる。
【0023】
ポッティング剤の硬化反応終了後、ポッティング容器20から筒状ハウジング11を取り出す。その後、必要に応じて、他端側においても同様の作業をして、リング15を外した後、ポッティング剤の硬化物14の端部を切断することで、封止されていた中空糸膜束13の端部を開口させる。
【0024】
本発明の製造方法により得られた中空糸膜モジュールは、筒状ハウジング11に変形が生じていないため、外側にOリングを嵌め込んだときにも、筒状ハウジング11とOリングとの間に隙間が生じることがない。よって、外側にOリングを嵌め込んだ筒状ハウジングを他のケーシングに装填してカートリッジ式膜モジュールを製造したとき、筒状ハウジング11とOリングの間、Oリングと他のケーシングの間を密着させることができるので、高い液密性を有するカートリッジ式膜モジュールを得ることができる。
【実施例】
【0025】
実施例1
図1、図2に示す手順で中空糸膜モジュールを製造した。まず、内径154mm、外径163.4mm、長さ1066mmの硬質塩化ビニル製の筒状ハウジング11内に、合計で約7500本の酢酸セルロース系中空糸膜からなる複数の膜束13を収容した。
【0026】
次に、直径163.4mm、幅10mm、厚み5mmのステンレス製の楕円形リング15(0.990≦b/a≦0.999)を、筒状ハウジング11の一端部の外側(筒状ハウジング11の内表面と複数の膜束13が接着する位置に対応する筒状ハウジング11の外表面)に嵌め込んだ。
【0027】
次に、ウレタン系接着剤(主剤:商品名コロネート4403,硬化剤:商品名ニッポラン4221,日本ポリウレタン(株)製)を用い、中空糸膜束13同士、及び中空糸膜束13と筒状ハウジング11の内表面を接着封止した。その後、一端側のリング15を嵌め込んだ状態で、他端側も上記のとおりにして接着封止した。その後、両端側の2つのリング15を外した。
【0028】
次に、中空糸膜束13の封止端部を切断して開口させ、中空糸膜モジュールを得た。この中空糸膜モジュールの両端外側にエチレンプロピレンゴム製のOリングを2つずつ嵌め込んだ状態で、内径181mm、長さ1236mmのステンレス製のケーシング内に装入した。
【0029】
装入後の状態を目視観察したところ、中空糸膜モジュールの筒状ハウジング11とOリング、Oリングとケーシングはいずれも密着していた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の製造方法の説明図である。
【図2】本発明の製造方法の説明図である。
【図3】本発明の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
11 筒状ハウジング
13 中空糸膜束
15 リング
20 ポッティング容器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端側が開口されたハウジング内に複数の中空糸膜束が収容され、ハウジング内表面と複数の膜束、及び複数の膜束同士が接着剤で接着封止された中空糸膜モジュールの製造方法であり、
少なくともハウジング内表面と複数の膜束が接着する位置に対応するハウジング外表面にリングを嵌め込んだ状態で、ハウジングと複数の膜束及び複数の膜束同士を接着剤で接着封止する工程を含む、中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記ハウジングが筒状であり、前記リングが真円形又は楕円形である、請求項1記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記リングが、長径aと短径bとの比率が0.990≦b/a≦0.999の範囲の楕円形である、請求項2記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の製造方法により得られた中空糸膜モジュールが、更に他の容器内に収容されたカートリッジ式中空糸膜モジュール。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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