説明

中空糸膜モジュール

【課題】 ケース部材の素材の選択の幅を広げ、かつ、ケース部材のリサイクルを容易にした利便性に優れた中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】 流出口23,24付近には、それぞれスペーサー6a,6bを介して封止固定部4a,4bを設け、これによりケース部材2の内部に装填された複数の中空糸膜3は、その中空部のみがケース部材2の開口端部21,22に開口するように構成し、スペーサー6a,6bの外壁面とケース部材2との間は、シール部材71,72,73,74を設けて、スペーサー6a,6bの外壁面側から濾過していない液がケース部材内部に侵入したり、濾過液が外部に漏れることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水、その他液体を濾過するために用いられる中空糸膜モジュールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の中空糸膜モジュールとしては、たとえば図4および図5に示すようなものがある。図4および図5は従来技術に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【0003】まず、図4に示す従来技術に係る中空糸膜モジュール100は、概略、内部中空のケース部材101と、このケース部材101内に装填される複数の中空糸膜102と、各中空糸膜102の外壁面間とケース部材101の内壁面との隙間を封止するように接着剤によって固定される封止固定部103と、ケース部材101の両端にそれぞれ装着されるヘッド104,105と、から構成される。
【0004】ここで、ヘッド104,105には、それぞれ流入口104a,排出口105aが設けられており、ケース部材101の各両端付近の側面には、それぞれ流出口101a,101bが設けられている。
【0005】以上のような構成によって、この中空糸膜モジュール100は、クロスフローを行なうものであり、まず、流入口104aから原液が流入され、中空糸膜102によって濾過された濾過液は、ケース部材101の側面に設けた開口部101a,101bから流出する。
【0006】一方、濾過されなかった液は、排出口105aから排出される。
【0007】次に、図5に示す従来技術に係る中空糸膜モジュール200は、概略、内部中空の外部ケース部材201と、この外部ケース部材201の内部に収容される内部中空の内部ケース部材206と、この内部ケース部材206内に装填される複数の中空糸膜202と、各中空糸膜202の外壁面間と内部ケース部材206の内壁面との隙間を封止するように接着剤によって固定される封止固定部203と、内部ケース部材206の外壁面と外部ケース部材201の内壁面との隙間を液密に密封するシール部材(例えばOリング)207と、から構成される。
【0008】ここで、外部ケース部材201の両端には、それぞれ流入口204,排出口205が設けられており、また、その両端付近の側面には、それぞれ流出口201a,201bが設けられている。
【0009】この外部ケース部材201の中間部にはフランジ構造208が設けられており、2つに分解できる構造となっている。
【0010】また、内部ケース部材206には複数の透過液出口206aが設けられている。
【0011】以上のような構成によって、この中空糸膜モジュール200は、クロスフローを行なうものであり、まず、流入口204から原液が流入され、内部ケース部材206の中空糸膜202の中空内部に流入され、この中空糸膜202によって濾過された濾過液は、内部ケース部材206に設けられた複数の透過液出口206aから、内部ケース部材206と外部ケース部材201との隙間に出て、外部ケース部材201の側面に設けた開口部201a,201bから流出する。
【0012】一方、濾過されなかった液は、排出口205から排出される。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来技術の場合には、下記のような問題が生じていた。
【0014】一般的に、中空糸膜モジュールにおいては、封止固定部において、中空糸膜を充填する部材(図4R>4の場合にはケース部材101,図5の場合には内部ケース部材206)に対する、接着剤の接着性が良好なことが要求される。これは接着性が悪いと、透過されていない汚れた液が内部に侵入して透過液に混ざってしまうからである。
【0015】一方、ケース部材には、透過液を溜める機能も必要であるため、濾過対象液に対応した性質が要求される。
【0016】従って、濾過対象液に対応した性質と接着剤の接着性が良好であるという性質を両立しなければならないために、その素材の選択の幅が狭いという欠点があった。
【0017】また、図4に示す中空糸膜モジュール100の場合に、中空糸膜102が劣化した場合に、ケース部材101から接着剤をきれいに剥がすことができないために、ケース部材101のリサイクルが困難であるという欠点もあった。
【0018】これに対して、図5に示す中空糸膜モジュール100の場合には、中空糸膜202が劣化した場合には、内部ケース部材206ごと交換することによって、外部ケース部材201のリサイクルを行うことができるものの、以下に示すような欠点があた。
【0019】すなわち、内部ケース部材206と外部ケース部材201との間の隙間を液密にシール部材207によって密封する場合には、内部ケース部材206と外部ケース部材201は長細い円筒形状であるため、安定した密封性を維持するためには、各部材に対して高い寸法精度が要求され、高い製作精度が要求される。
【0020】また、内部ケース部材206に要求される性能として、例えば、内圧に耐えなければならないなど、図4に示す中空糸膜モジュールのケース部材と同程度の性質が要求され、かつその大きさも図4に示す中空糸膜モジュールのケース部材と同程度となってしまう。
【0021】従って、廃棄物の量は図4に示す中空糸膜モジュールの場合と結局同程度のものとなってしまい、リサイクルの意義は少ない。
【0022】更に、内部ケース部材206を取り替え可能にするために、フランジ構造208を必要とするため、構造が複雑になってしまい、コストアップの原因にもなってしまう。
【0023】なお、流入口204や排出口205を外部ケース部材201に一体的に設けた構造としているため、これら流入口204や排出口205に配管した場合には、フランジを外しても、流入口204,排出口205を解体しなければ、内部ケース部材206を取り出すことができない。
【0024】本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ケース部材の素材の選択の幅を広げて熱膨張による封止部の漏れを向上させ、かつ、ケース部材のリサイクルを容易にした利便性に優れた中空糸膜モジュールを提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の中空糸膜モジュールにあっては、内部中空のケース部材と、該ケース部材に装填される複数の中空糸膜と、該複数の中空糸膜と前記ケース部材内壁面との間に介在するスペーサーと、該スペーサーの外壁面と前記ケース部材内壁面とを液密にシールするシール部材と、前記中空糸膜の外壁面間と前記スペーサーの内壁面との隙間を封止するように接着剤によって固定された封止固定部と、を備えることを特徴とする。
【0026】従って、ケース部材には接着剤によって接着されないので、ケース部材に対して接着性能が要求されることはない。また、ケース部材には接着剤によって接着されないので、スペーサーと中空糸膜とを取り外すことで、ケース部材をリサイクルすることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0028】図1〜図3を参照して、本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールについて説明する。図1は本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図であり、図2は本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの主要構成部材であるスペーサーの模式的斜視図であり、図3は本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの動作状態を示す模式的断面図である。
【0029】まず、本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュール1の全体構成等について、特に図1を参照して説明する。
【0030】図1に示すように、本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュール1は、概略、内部中空のケース部材2と、このケース部材2内に装填される複数の中空糸膜3と、これら複数の中空糸膜3とケース部材2の内壁面との間に介在するスペーサー6(6a,6b)と、これらスペーサー6a,6bの外壁面とケース部材2の内壁面とを液密にシールするシール部材(図示の例ではOリング)71,72,73,74と、各中空糸膜3の外壁面間とスペーサー6a,6bの内壁面との隙間を封止するように接着剤によって固定された封止固定部4(4a,4b)と、ケース部材2の両端にそれぞれ装着されるヘッド5(5a,5b)と、から構成される。
【0031】ここで、ケース部材2は、両端に開口端部21,22を有する内部中空の円筒状の部材であり、その側面であって、両端付近にそれぞれ流出口23,24が形成されている。
【0032】そして、この各流出口23,24付近には、それぞれスペーサー6a,6bを介して封止固定部4a,4bが設けられており、これによって、ケース部材2の内部に装填された複数の中空糸膜3は、その中空部のみがケース部材2の開口端部21,22に開口するように構成される。
【0033】また、スペーサー6a,6bの外壁面とケース部材2との間は上述したように、シール部材71,72,73,74が設けられているので、スペーサー6a,6bの外壁面側から濾過していない液がケース部材内部に侵入したり、濾過液が外部に漏れることはない。なお、スペーサー6a,6bの長さはそれほど長くする必要がないので、従来技術の図5に示す構成の場合のように、寸法精度はそれほど要求されることなくシール性を確保することができる。
【0034】従って、濾過されていない外部の液は、中空糸膜3の中空内部のみ流入されるように構成されている。
【0035】また、ケース部材2の両端には、それぞれヘッド5a,5bが装着されており、ヘッド5aには原液を流入するための流入口51aが設けられており、ヘッド5bには濾過されなかった液を排出させるための排出口51bが設けられている。
【0036】上記スペーサー6(6a,6b)について、図2を参照して更に詳しく説明する。
【0037】図2に示すように、スペーサー6は、環状の部材であり、その外周面には周に沿って溝62,63が形成されている。
【0038】この溝62,63に、上記シール部材(図示の例ではOリング)をそれぞれ嵌め込み、ケース部材2の内部に挿入することで、スペーサー6の外壁面とケース部材2の内壁面とがシールされる。なお、シール部材については勿論Oリングに限ることはなく、また、その個数も限定されるものではなく、一個でもシール性が保たれれば問題はないが、Oリングを適用する場合には、シール安定性を維持するために2個以上が望ましい。
【0039】その後、スペーサー6の内周面61に接着剤が接着されて、封止固定部が形成される。ここで、溝62,63を設けて、ここにシール部材を嵌め込むようにしたことで、封止固定部を形成する際に、シール部材がずれてしまうことが防止される。
【0040】なお、スペーサー6のケース部材2に対する脱落防止構造としては、特に限定するものではないが、例えば、ねじ等の固定するための部品を用いたり、公知のロック機構を設けたり、実際に使用する箇所の取り付ける際に、相手側に設けられた原液接続口によって支持させることなどによって実現できる。
【0041】次に、封止固定部4(4a,4b)の形成方法について、簡単に説明する。
【0042】まず、ケース部材2の両端部に、それぞれ不図示の成型用カップを装着して、これらに遠心力が作用するように、ケース部材2を回転しつつ、このケース部材2の側面に形成された流出口23,24から接着剤を注入することによって、封止固定部4a,4bの位置まで接着剤を導き、接着剤が固化した後に、固化した接着剤をケース部材2の一部及び中空糸膜3の一部と共に切断除去することによって、封止固定部4a,4bを成形する。
【0043】次に、特に図3を参照して、中空糸膜モジュール1の動作(原液を濾過する場合の動作)について説明する。
【0044】まず、流入口51aから原液を流入する(図中矢印P)。これにより、各中空糸膜3の中空内部にのみ原液が流れ込む。
【0045】そして、例えば、排出口51b側をバルブ等で絞ることによって、中空糸膜3の中空内部に圧力を発生させると、中空糸膜3の膜によって、原液が濾過されて膜外に濾過された濾過液が出て、ケース部材2の内部に溜まり、その後、流出口23,24から流出する(図中矢印R1,R2)。
【0046】なお、濾過されなかった液は、排出口51bから排出される(図中矢印Q)。
【0047】以上のように、本実施の形態に係る中空糸膜モジュール1によれば、ケース部材2に対して接着剤を接着させる必要がないので、ケース部材の素材は、濾過対象液に対応するものであれば良いので、その選択の幅が広がる。
【0048】一方、スペーサー6については、接着性の良い素材を選べば良い。
【0049】より具体的には、ケース部材2の素材としては、ステンレス,テフロン(登録商標),ポリプロピレン,PVC,PC,ABS,ポリスルホン,PS,アクリル等から選択することができる。
【0050】なお、ステンレス,フッ素樹脂,ポリプロピレン等は接着性が悪いことから、上記図4に示す従来技術の場合には不向きであった。
【0051】ここで、更に、濾過対象液に対する具体例としては、洗浄液等を用いる場合には、ステンレスが好適であり、酸性の液を用いる場合には樹脂材が好適である。ただし、考慮すべきその他の使用条件がある場合には、設計上適宜選択すべきことは言うまでもない。
【0052】また、スペーサー6の素材としては、PVC,耐熱PVC,ABS,フェノール樹脂,PC,ポリスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリフィニスルホン,アクリル樹脂等が挙げられる。
【0053】接着剤としては、ウレタン系接着剤や(2液硬化型)エポキシ系接着剤等が挙げられる。
【0054】このように素材の選択の幅を広げることができることによって、スペーサー6を接着性に優れたものを選べることから、熱膨張による封止部の漏れを従来に比べて向上させることができる。これは、従来、ケース部材に対して接着させる場合には、ケース部材には濾過対象液に適応させねばならないことから、その素材の熱膨張率が接着剤の熱膨張率に対してある程度大きく異ならざるを得ない場合もあり、この場合には温度変化によって漏れが生じやすいのに対して、本実施の形態の場合には、そのような熱膨張率の差異を生じない素材を選択できるからである。
【0055】また、本実施の形態に係る中空糸膜モジュール1の場合には、ケース部材2に対してスペーサー6を簡単に着脱できるので、ケース部材2の再利用(リサイクル)を容易に行うことができる。なお、スペーサー6はそれほど大きいものではなくても足りるため、廃棄物としての量も少なくて済み、リサイクルとしての意義が充分にある。
【0056】より具体的には、例えば、封止固定部4をハンドドリル等で破壊して取り除けば、ケース部材2に接着剤を残すことなく、スペーサー6を簡単に取り外すことができる。
【0057】なお、構造的には多少複雑になるが、ケース部材の中間付近等にフランジ構造を設けて、ケース部材を2つに分解できるようにすれば、リサイクルする場合には、ケース部材を2つに分解して、中空糸膜の束もその分解部分付近で切断することによって、封止固定部を破壊することなく、封止固定部を両側に押し出して、中空糸膜及びスペーサーを取り除くことができる。
【0058】上記構成に基づいて、ケース部材2をステンレスで製作し、エポキシ系の接着剤にて封止固定部を成形した中空糸膜モジュールを製作したところ、温度変化に対しても優れたシール性を発揮することを確認できた。
【0059】また、中空糸膜を交換するために、封止固定部を破壊したところ、ケース部材に接着剤が付着することなく、簡単にケース部材だけをリサイクルすることができた。
【0060】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、ケース部材には接着剤によって接着されないので、ケース部材に対して接着性能が要求されることはなく、その素材の選択の幅が広がり、濾過対象液に適応させることができ、また、ケース部材には接着剤によって接着されないので、スペーサーと中空糸膜とを取り外すことで、ケース部材を容易にリサイクルすることができ、利便性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの主要構成部材であるスペーサーの模式的斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る中空糸膜モジュールの動作状態を示す模式的断面図である。
【図4】従来技術に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【図5】従来技術に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【符号の説明】
1 中空糸膜モジュール
2 ケース部材
21,22 開口端部
23,24 流出口
3 中空糸膜
4,4a,4b 封止固定部
5,5a,5b ヘッド
51a 流入口
51b 排出口
6,6a,6b スペーサー
61 (スペーサーの)内周面
62,63 溝
71,72,73,74 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】内部中空のケース部材と、該ケース部材に装填される複数の中空糸膜と、該複数の中空糸膜と前記ケース部材内壁面との間に介在するスペーサーと、該スペーサーの外壁面と前記ケース部材内壁面とを液密にシールするシール部材と、前記中空糸膜の外壁面間と前記スペーサーの内壁面との隙間を封止するように接着剤によって固定された封止固定部と、を備えることを特徴とする中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2001−259379(P2001−259379A)
【公開日】平成13年9月25日(2001.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−77841(P2000−77841)
【出願日】平成12年3月15日(2000.3.15)
【出願人】(000004385)エヌオーケー株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】