説明

中空糸膜モジュール

【課題】 濾過運転時における中空糸膜の損傷防止効果が高い中空糸膜モジュールの提供。
【解決手段】 液出入口15と正対する中空糸膜束18との間に円柱状空間30が存在しており、液出入口15の開口面積(A)が、液の最大流量のときに線速度が120cm/sec以下となる面積であり、円柱状空間30の周面積(B)が、円柱状空間30を流れる液の最大流量のときに線速度が120cm/sec以下となる面積であり、B/Aが0.8〜1.5の範囲である中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種水処理分野で使用される中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
液出入口を有するケースハウジング内に所要数の中空糸膜束を収容し、ケースハウジング内への液(原水、透過水等)の出入りを前記液出入口のみにより行うタイプの中空糸膜モジュールがあり、このようなタイプのものは、比較的大型のモジュールに適用されることが多い。
【0003】
しかし、このようなタイプの中空糸膜モジュールを用いて濾過運転するとき、液出入口から逆圧洗浄水等が出入りすることなるため、液出入口に面した位置にある中空糸膜束のみが、逆圧洗浄水等の出入りに伴う圧力を受け続ける結果、複数の中空糸膜束が揺れて、互いに衝突を繰り返すことになる。
【0004】
中空糸膜束は、外径が1mm前後〜数mm程度の中空糸膜を数百〜数千本束ねたものであることから、上記のような衝突を繰り返した場合、断線等の破損が生じることがあり、これを放置しておくと、濾過性能が低下する。
【0005】
特許文献1は、液の出入口の中空糸膜を保護するための円筒体を取り付け、特許文献2は、液の出入口の中空糸膜を保護するための環状体突起を取り付けたものであり、これらによって中空糸膜の断線等の破損を防止するものである。
【特許文献1】特開昭62−204804号公報
【特許文献2】特開昭62−144709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、長期間、濾過運転を継続した場合であっても、中空糸膜の断線等が生じ難い中空糸膜モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
側面に液出入口を有する縦長のケースハウジング内に、所要束数の中空糸膜束が収容された中空糸膜モジュールであり、
前記液出入口の開口面積(A)が、液の最大流量のときに前記液出入口における、液の線速度が120cm/sec以下となる面積である、中空糸膜モジュールを提供する。
【0008】
本発明は、課題の他の解決手段として、
側面に液出入口を有する縦長のケースハウジング内に、所要束数の中空糸膜束が収容された中空糸膜モジュールであり、
前記液出入口と、前記液出入口に正対する前記中空糸膜束との間には空間が存在しており、
前記空間が、液出入口の開口面積(A)の大きさの両端面を有し、前記液出入口と前記中空糸膜束との間隔を高さとする円柱状空間であるとするとき、前記円柱状空間の周面積(B)が、前記円柱状空間を流れる液の最大流量のときに前記円柱状空間の周面における、液の線速度が120cm/sec以下となる面積である、中空糸膜モジュールを提供する。
【0009】
本発明は、課題の他の解決手段として、前記液出入口の開口面積(A)と前記円柱状空間の周面積(B)との比率(B/A)が0.8〜1.5である、請求項2記載の中空糸膜モジュールを提供する。
【0010】
また、液出入口の開口面積(A)が、線速度が120cm/sec以下となる面積であり、かつ円柱状空間の周面積(B)が、線速度120cm/sec以下となる面積であることが好ましい。
【0011】
本発明において最大流量とは、濾過運転時又は逆圧洗浄時において、液出入口を通過する流量のうち、最大の流量をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明の中空糸膜モジュールは、長期間、濾過運転を継続した場合でも中空糸膜の断線等が生じることが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1、図2により、本発明の中空糸膜モジュールを説明する。図1は、一般的な中空糸膜モジュールの縦断面図である。図2(a)は図1の部分拡大図であり、図2(b)は図2(a)における液出入口15と正対する中空糸膜束18との間に存在する空間を説明するための図である。
【0014】
中空糸膜モジュール10は、両端が開口した筒状ハウジング11と、筒状ハウジング11の両端開口部を覆う上部キャップ12と、下部キャップ13とからなるケースハウジングを有している。
【0015】
筒状ハウジング11の側面の高さ方向の中央部には、透過液、逆圧洗浄水、濃縮液、原水等の出入口となる液出入口15が設けられている。なお、液出入口15の高さ方向における取付位置は制限されるものではなく、上部キャップ12に近い位置や下部キャップ13に近い位置に取り付けることもできる。特に、液出入口の端側が接着剤層の端面と隣接する位置にある場合には、中空糸膜が接着剤層の端面のところで切れる可能性が高くなるので、この場合、特に本発明は有効である。
【0016】
上部キャップ12には、透過液、逆圧洗浄水、濃縮液、原水等の出入口となる液出入口16が設けられており、下部キャップ13には、透過液、逆圧洗浄水、濃縮液、原水等の出入口となる液出入口17が設けられている。
【0017】
筒状ハウジング11内部には、複数本の中空糸膜束18が収容されている。中空糸膜束18は、数百から数千本の中空糸膜からなるものであり、中空糸膜束18の両端部はウレタン樹脂系接着剤等の接着剤層21、22で一体化されている。中空糸膜束18は、保護のためのネットで覆われていてもよい。
【0018】
図1、図2に示すとおり、液出入口15(開口部31b)と、液出入口15に正対する中空糸膜束18との間には、円柱状空間30が存在している。
【0019】
液出入口15の開口部31b(=開口部31a)の開口面積(A)(図2(b)参照)は、液出入口15(開口部31b)を開口部31bに対して垂直方向に通過する液(逆圧洗浄水等)の最大流量のときに、前記方向の線速度が120cm/sec以下となる面積であり、好ましくは100cm/sec以下となる面積であり、より好ましくは90cm/sec以下となる面積である。
【0020】
円柱状空間30は、液出入口15の開口面積(A)の大きさの両端面を有し、液出入口15と正対する中空糸膜束18との間隔(=筒状ハウジング11の内周面と中空糸膜束18との間隔)Hを高さHとする円柱状空間である。このとき、円柱状空間30の周面32の周面積(B)(図2(b)の斜線部分)が、円柱状空間30の周面32を周面32に対して垂直方向に流れる液の最大流量のときに、前記方向の線速度が120cm/sec以下となる面積であり、好ましくは100cm/sec以下となる面積であり、より好ましくは90cm/sec以下となる面積である。なお、間隔Hは、中空糸膜束18が保護ネットで覆われているときは、筒状ハウジング11の内周面とネットとの間隔になる。
【0021】
中空糸膜モジュール10では、液出入口15の開口面積(A)と円柱状空間30の周面積(B)との比率(B/A)が、0.8〜1.5が好ましく、0.9〜1.5がより好ましく、1〜1.5が更に好ましい。
【0022】
上記のとおり、液出入口15の開口面積(A)とそこを出入りする液の線速度、円柱状空間30の周面積(B)とそこを出入りする液の線速度の両方又は一方を関連づけることにより、更には比率(B/A)を所定範囲に設定することにより、中空糸膜の損傷防止効果を高めることができる。このような中空糸膜の損傷防止効果は、特に液出入口15が上部キャップ12又は下部キャップ13に近接して設けられている場合に顕著に発現される。
【0023】
中空糸膜モジュールでは、通常、濾過と逆圧洗浄の繰り返しによって中空糸膜が破損しやすいが、本発明の中空糸膜モジュールでは中空糸膜の破損は生じ難い。よって、本発明の中空糸膜モジュールは、濾過と逆圧洗浄を繰り返す用途に最適である。
【実施例】
【0024】
図1に示す中空糸膜モジュールを作製した。但し、液出入口(ノズル)15は、その端側が接着剤層21の端面と隣接するような位置に設けた(図1中の破線で示した位置)。中空糸膜モジュールの詳細を以下に示す。
(筒状ハウジング11)
長さ1m、外径165mm、内径155mmのアクリル樹脂製のものである。
(液出入口15)
内径30mm、40mm、50mm又は60mmで、高さ(長さ)が50mmの4種のものである。
(中空糸膜束18)
外径125mmのポリエチレン製ネット又は外径135mmのポリエチレン製ネット中に所定本数の中空糸膜を装入したものである。ポリエチレン製ネット(外径135mm)を用いたものは、中空糸膜5500本を装入し、両端をウレタン樹脂接着剤で固定したもので、中空糸膜の有効長さ90cm、有効膜面積12.4m、H=1.0cmである。外径125mmのポリエチレン製ネットを用いたものは、中空糸膜4700本を装入し、両端をウレタン樹脂接着剤で固定したもので、中空糸膜の有効長さ90cm、有効膜面積10.6m、H=1.5cmである。
(中空糸膜)
酢酸セルロース製中空糸膜FUC1582(ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)。
【0025】
このような中空糸膜モジュールを用いて、図3に示す濾過装置にて濾過運転した。図3中、1は原水槽、2は透過液槽、実線はパイプ、Pはポンプ、AVはバルブ、Fは流量計を示す。
【0026】
濾過運転は、全量濾過と逆圧洗浄を30秒ごとに繰り返し、これを1回として行い、ノズル15に正対する中空糸膜が破断するまでの回数を求めて、耐久性(中空糸膜が破損を生じるまでの回数)を評価した。なお、濾過運転時には、P、AV、AVをONにし、他はOFFにした。逆圧洗浄時には、P、AV、AVをONにし、他はOFFにした。結果を表1に示す。表中、「流量」は逆圧洗浄時の流量である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から、液出入口における液の線速度が120cm/sec以下であると、耐久性が高いことが分かる。また、円柱状空間の周面における線速度が120cm/sec以下であると、耐久性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】中空糸膜モジュールの縦断面図。
【図2】(a)は図1の部分拡大図、(b)は(a)の説明図。
【図3】中空糸膜モジュールを用いた濾過処理装置の概念図。
【符号の説明】
【0030】
10 中空糸膜モジュール
11 筒状ハウジング
12 上部キャップ
13 下部キャップ
15 液出入口
18 中空糸膜束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に液出入口を有する縦長のケースハウジング内に、所要束数の中空糸膜束が収容された中空糸膜モジュールであり、
前記液出入口の開口面積(A)が、液の最大流量のときに前記液出入口における、液の線速度が120cm/sec以下となる面積である、中空糸膜モジュール。
【請求項2】
側面に液出入口を有する縦長のケースハウジング内に、所要束数の中空糸膜束が収容された中空糸膜モジュールであり、
前記液出入口と、前記液出入口に正対する前記中空糸膜束との間には空間が存在しており、
前記空間が、液出入口の開口面積(A)の大きさの両端面を有し、前記液出入口と前記中空糸膜束との間隔を高さとする円柱状空間であるとするとき、前記円柱状空間の周面積(B)が、前記円柱状空間を流れる液の最大流量のときに前記円柱状空間の周面における、液の線速度が120cm/sec以下となる面積である、中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記液出入口の開口面積(A)と前記円柱状空間の周面積(B)との比率(B/A)が0.8〜1.5である、請求項2記載の中空糸膜モジュール。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−281016(P2006−281016A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100847(P2005−100847)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】