説明

中空糸膜モジュール

【課題】 ケースハウジングの材質に応じた最適の接着剤を容易に選択できる接着強度の確認試験の提供。
【解決手段】 接着剤の接着強度の確認試験であり、2枚の平板1、2の平面同士を接着し、平板2の非接着面を固定手段6で固定し、平板1の非接着面4に対して垂直方向に力を加える接着強度の確認試験をしたとき、最終的に凝集破壊を生じるかどうかを確認する、接着剤の接着強度の確認試験。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液出入口を有するケースハウジング内に所要数の中空糸膜束を収容し、ケースハウジング内への液(原水、透過水等)の出入りを前記液出入口のみにより行うタイプの中空糸膜モジュールがあり、このようなタイプのものは、比較的大型のモジュールに適用されることが多い。
【0003】
しかし、このようなタイプの中空糸膜モジュールを用いて濾過運転するとき、液出入口から逆圧洗浄水等が出入りすることなるため、液出入口に面した位置にある中空糸膜束のみが、逆圧洗浄水等の出入りに伴う圧力を受け続ける結果、複数の中空糸膜束が揺れて、互いに衝突を繰り返すことになる。
【0004】
このため、ケースハウジングと中空糸膜束は、複数の中空糸膜束が揺れ動くことがないように、必要に応じて支持部材を介して、接着剤で接着一体化されている。このときに用いる接着剤は、主剤と硬化剤の組み合わせからなる2液性の熱硬化性樹脂系接着剤が一般的である。
【特許文献1】特開2004−89800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱硬化性樹脂系接着剤で用いる主剤と硬化剤には様々な種類があり、中空糸膜モジュールの組立時においては、複数の主剤と硬化剤を組み合わせて選択使用している。
【0006】
しかし、中空糸膜モジュールは、高温蒸気を用いた滅菌等をする場合もあり、繰り返し熱ショックが加えられるような場合には、ケースハウジングと中空糸膜束との接合部に隙間が生じてしまい、正常な濾過運転ができなくなる場合があるから、接着剤の選択は重要となる。
【0007】
本発明は、ケースハウジングの材質に応じて、最適な接着剤を選択使用した中空糸膜モジュール及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、課題の解決手段として、
ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールであり、
前記接着剤が、前記接着剤を用いてケースハウジングと同材質の2枚の平板の平面同士を接着し、一方の板の非接着面を固定し、他方の板の非接着面に対して垂直方向に力を加える接着強度の確認試験により選択されるものである中空糸膜モジュールを提供する。
【0009】
本発明の中空糸膜モジュールにおいて、接着剤の選択手段となる接着強度の確認試験は、次の手順で行うことができる。
【0010】
(1)まず、中空糸膜モジュールに用いられるものと同じ材質を用いて平板状の2枚の試験片(例えば、いずれも縦10cm、横2.5cm、厚さ0.4cm)を作製する。
【0011】
(2)次に、2枚の試験片を所望の接着面積(好ましくは1.0cm以上の接着面積であり、例えば、12.5cm、5cm、又は2.5cmの接着面積であり、接着剤塗布量は50±10mg/cm)により接着し、放置する(放置時間は、使用する接着剤の種類により調整する)。
【0012】
(3)次に、一方の平板の内、接着剤で接着していない部分を固定し、他方の平板に垂直に力をかけて、接着部及びその周辺部分の変化を観察する。
【0013】
接着強度が充分に強い場合には、試験片に力をかけたとき、接着面では剥離が起こらず、その周辺の試験片が折れる(破壊される)、いわゆる凝集破壊が起こる。一方、接着強度が充分でない場合には、試験片に力をかけたとき、接着部分に剥離が生じる。このため、非接着部分に凝集破壊が起こるか、接着部分に剥離が生じるかを観察することで、接着剤の接着強度を評価できる。
【0014】
更に、接着剤の組成をいろいろと変化させ、接着条件は同じにして、上記の確認試験(比較試験)をすることで、最適な接着剤組成を選択することができる。また、2枚の試験片の接着面積、接着剤塗布量、硬化温度等の接着条件を変化させ、上記の試験をして接着強度を評価することで、最適な接着条件を選択することができる。
【0015】
このように、より接着強度の高い接着剤を用いることにより、繰り返し熱ショックを受けるような使用状態であっても、ケースハウジングと中空糸膜束との間で剥離して、隙間が生じることが防止される。
【0016】
本発明は、課題の他の解決手段として、ケースハウジングが、ポリスルホン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、AS樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン又はこれらの繊維強化樹脂、鉄、ステンレススチール、セラミックス、ガラス、及びこれらを組み合わせた多層構造から選ばれる材質からなるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールを提供する。
【0017】
本発明は、他の課題の解決手段として、
ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールの製造方法であり、
ケースハウジング用となる複数の材質について請求項1又は2記載の接着強度の確認試験を予め実施し、各材質における1又は複数の接着剤の接着強度を確認しておくことで、前記材質及びそれら以外の材質のケースハウジングに応じて適正な接着剤を選択する、中空糸膜モジュールの製造方法を提供する。
【0018】
ケースハウジング用となる複数の材質について、予め複数の接着剤を用いた接着強度の確認試験をしておき、データを蓄積しておけば、確認試験をした材質以外の材質のケースハウジングを用いる場合であっても、蓄積データから類推される最適な接着剤を選択使用できるようになるほか、蓄積データを元に、少数の接着剤を選択して試験することができるため、多数の接着剤についての確認試験をする煩雑さや不経済が回避される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の中空糸膜モジュールは、ケースハウジングの材質に応じて高い接着強度を付与できる接着剤を選択使用しているので、繰り返し熱ショックを受けるような使用状態におかれた場合でも、ケースハウジングと中空糸膜束の接合部が剥離して隙間が生じるようなことがない。
【0020】
そして、本発明の製造方法では、接着強度の確認試験により選択された接着剤を用いることで、中空糸膜モジュールのケースハウジングの材質に応じた最適な接着剤を容易に選択使用することができるので、製品の信頼性が向上されるほか、新規な材質のケースハウジングを用いる場合にも容易に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜図3により、本発明の実施の形態を説明する。図1は、中空糸膜モジュールの縦方向の断面図、図2及び図3は、接着強度の確認試験方法の説明図である。
【0022】
中空糸膜モジュール10は、筒状本体部12と、上部キャップ14と下部キャップ15とから外殻(ケースハウジング)が形成されている。なお、下部キャップ15を設けずに、筒状本体部12の下部を閉塞して底部を設けても良い。
【0023】
これらの筒状本体部12、上部キャップ14、下部キャップ15は、ポリスルホン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、AS樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有樹脂、これらの繊維強化樹脂、鉄、ステンレススチール、セラミックス、ガラス等を挙げることができ、これらを組み合わせた多層構造であっても良い。
【0024】
上部キャップ14には、フランジ14bを有する上部出入口(濃縮液出口、透過水出口、逆圧洗浄水の供給口又は原水供給口)14aが設けられており、下部キャップ15には、フランジ15bを有する下部液出入口(原水供給口、濃縮液出口、透過水出口、又は逆圧洗浄水の供給口)15aが設けられている。
【0025】
上部出入口14aには、例えば濃縮液ラインを形成するパイプ40を接続するが、このとき、上部出入口14aのフランジ14bと、パイプ40のフランジ41との間にはシール材を介在させることが望ましい。
【0026】
下部出入口15aには、例えば原水供給ラインを形成するパイプ42を接続するが、このとき、上部出入口15aのフランジ15bと、パイプ42のフランジ43との間にはシール材を介在させることが望ましい。
【0027】
筒状本体部12の側面中央部には、前記側面から外側に突き出た状態で、筒状の透過水出入口20(以下、20は透過水出入口とするが、原水供給口又は濃縮液出口にすることもできる。)が設けられている。これらの透過水出入口20の開口部側には、フランジ22を有する透過水キャップ21が取付られている。透過水キャップ21は、先端にフランジ45を有する透過水ラインを形成するパイプ44とシール材を介して接続される。
【0028】
中空糸膜束16は、複数本の中空糸膜の一端又は両端が接着剤18で一体化された小さな束の集合体であり小さな束同士は、それらの両端部において互いに接しているが、接着剤18で一体化されていない。一番外側の中空糸膜束16は、接着剤18により筒状本体部12端部の内壁面に固着されている。
【0029】
なお、特許文献1(特開2004−89800号公報)の図2〜図5に示され、同公報の段落37〜段落44において説明されたような補強材50を用いて、筒状本体部12の内側に補強材50を配置し、更にその内側に中空糸膜束16を配置して、筒状本体部12、補強材50及び中空糸膜束16を接着剤で接着一体化してもよい。
【0030】
本発明では、接着剤として熱硬化性接着剤(常温硬化型又は加熱硬化型を含む)を用いることができ、例えば、尿素樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤、レソルシノール樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリウレタン接着剤、ビニルウレタン接着剤を挙げることができる。
【0031】
接着剤による接着方法は、公知の遠心接着法(遠心成型法)(特開昭51−93788号公報、特開昭52−38797号公報、特開昭61−171503号公報、特開昭61−171504号公報等)を適用することができる。
【0032】
本発明で用いる接着剤18は、公知の接着剤の中で、ケースハウジング(筒状本体部12)と同材質の平板1と平板2の平面同士を接着し(接着面3)、平板2の非接着面5を固定手段(万力等)6で固定し、平板1の非接着面4に対して垂直方向(図3中の矢印方向)に力を加える(矢印方向に押圧する又は引っ張る)接着強度の確認試験により選択することができる。
【0033】
具体例として、平板1と平板2は、縦10cm、横2.5cm、厚さ0.4cmのものを用い、平板1と平板2の接着面積(図中の両矢印の長さ範囲)は、12.5cm、5cm、又は2.5cmとし、接着剤塗布量は45mg/cmとして試験をしたとき、より少ない接着面積でも剥離せず、周辺部が凝集破壊を起こす接着剤を選択することができる。
【0034】
本発明では、上記した接着剤の接着強度の確認試験をすることで、ケースハウジング(筒状本体部12)の材質に応じた最適な接着剤を、簡単にかつ確実に選択使用することができる。
【0035】
本発明の中空糸膜モジュール10では、ケースハウジング(筒状本体部12)と中空糸膜束16が強固に接着一体化されているから、液の出入り(例えば、逆圧洗浄水の供給)に伴う流れによって中空糸膜束16同士が揺れて衝突を繰り返し、破損することが防止される。
【0036】
また中空糸膜束16の殺菌を目的として、中空糸膜モジュール10が高温蒸気雰囲気に曝されて熱ショックを受けた場合でも、ケースハウジング(筒状本体部12)と中空糸膜束16の接合部が剥離することはないから、安定した濾過性能を維持できる。
【0037】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法では、次の方法により、使用するケースハウジングの材質に応じて最適な接着剤を容易に選択することができる。なお、ケースハウジングの材質は、ポリスルホン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、AS樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン又はこれらの繊維強化樹脂、鉄、ステンレススチール、セラミックス、ガラス、及びこれらを組み合わせた多層構造等から複数を選ぶことができる。
【0038】
ケースハウジングの材質として、例えば、代表的な材質A、B、C、D及びEを選択して、それぞれについて1又は複数の接着剤を用いた接着強度の確認方法を実施し、各材質に最適な接着剤〔特定の材質に適した接着剤のほか、複数の材質(例えば、材質B、C)にまたがって適した接着剤〕についてのデータを蓄積しておく。このとき、接着剤の接着条件、接着剤の塗布量等の複数の条件を変化させておくことで、前記データの信頼性を高めることができる。
【0039】
そして、材質Bに類似した材質B’(合成樹脂であれば分子構造等で把握できる)を使用するとき、材質Bに適した接着剤をそのまま使用するか、再度、材質B’について接着強度を確認すればよい。また、新規な材質Xを用いる場合も、類似した材質のデータから接着剤を類推して試験することで、多数の接着剤の接着強度を全て試験することの煩雑さや不経済がなくなる。
【実施例】
【0040】
実施例1(接着強度の確認試験)
中空糸膜モジュールのケースハウジングの材質として汎用されているポリスルホン(商品名PSFプレートP,タキロン社製)製の2枚の平板(いずれも縦10cm、横2.5cm、厚さ0.4cm)を用いた。
【0041】
接着長さは、5cm、2cm又は1cmとし、接着剤塗布量は45mg/cmとした。接着剤は、表1に示すものを用いた。
【0042】
このような条件にて、図2、図3に示す方法(固定手段6は万力を使用した)により、接着強度を確認した。なお、非接着面4の全面は、300mモンキーレンチにより押圧した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】中空糸膜モジュールの縦断面図。
【図2】接着剤の接着強度の確認試験方法の説明図。
【図3】接着剤の接着強度の確認試験方法の説明図。
【符号の説明】
【0045】
1、2 試験用の平板
3 接着面
4、5 非接着面
6 固定手段
10 中空糸膜モジュール
12 筒状本体部
14 上部キャップ
15 下部キャップ
16 中空糸膜束
18 接着剤
20 透過水出入口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールであり、
前記接着剤が、前記接着剤を用いてケースハウジングと同材質の2枚の平板の平面同士を接着し、一方の板の非接着面を固定し、他方の板の非接着面に対して垂直方向に力を加える接着強度の確認試験により選択されるものである中空糸膜モジュール。
【請求項2】
接着強度の確認試験において、2枚の平板として、いずれも縦10cm、横2.5cm、厚さ0.4cmのものを用い、2枚の平板の接着面積が12.5cm、5cm、又は2.5cmであり、接着剤塗布量が50±10mg/cmで接着強度の確認試験をする、請求項1記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
ケースハウジングが、ポリスルホン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、AS樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン又はこれらの繊維強化樹脂、鉄、ステンレススチール、セラミックス、ガラス、及びこれらを組み合わせた多層構造から選ばれる材質からなるものである、請求項1又は2記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールの製造方法であり、
ケースハウジング用となる複数の材質について請求項1又は2記載の接着強度の確認試験を予め実施し、各材質における1又は複数の接着剤の接着強度を確認しておくことで、前記材質及びそれら以外の材質のケースハウジングに応じて適正な接着剤を選択する、中空糸膜モジュールの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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