説明

主軸装置

【課題】工具の自動交換が可能であり、かつ主軸の回転に伴う遠心力により切削粉が堆積するのを防止できる主軸装置を提供する。
【解決手段】工具ホルダ4及びドローバー12には、軸芯方向に貫通する貫通孔aが形成され、該貫通孔aには、加工中に発生する切削粉を吸引する吸引パイプ25が、ドローバー12をアンクランプする方向に駆動する駆動機構により非回転状態に支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸頭と、該主軸頭により回転自在に支持された主軸と、該主軸の端部に共に回転するよう装着された工具ホルダと、前記主軸に共に回転するよう挿入され、前記工具ホルダをクランプ・アンクランプするドローバーとを備えた工作機械の主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の主軸装置では、ワーク加工中に発生する切削粉の飛散を防止するために、例えば、特許文献1では、工具の周囲を囲むように切屑収納体を設けて切屑排出空間を形成し、該切屑収納体に吸引機構を接続して切削粉を吸引するようにしたものが提案されている。
【特許文献1】特開平10−43988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記従来の主軸装置では、工具に装着された切屑収納体に吸引機構を接続する構造であることから、工具の自動交換ができないという問題がある。
【0004】
ここで、本件出願人は、前記工具の自動交換を可能とするために、工具ホルダ及びドローバーに吸引孔を貫通させて形成し、該吸引孔を介して切削粉を吸引することを検討している。この吸引孔を形成する場合、主軸と共に工具ホルダ,ドローバーが回転することから、遠心力により切削粉が工具ホルダやドローバーの吸引孔内面に付着し、場合によっては堆積してしまうという問題が懸念される。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、工具の自動交換が可能であり、かつ主軸の回転に伴う遠心力により切削粉が堆積するのを防止できる主軸装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、主軸頭と、該主軸頭により回転自在に支持された主軸と、該主軸の端部に共に回転するよう装着された工具ホルダと、前記主軸の軸芯に共に回転するよう挿入され、前記工具ホルダをクランプ・アンクランプするドローバーとを備えた主軸装置であって、前記工具ホルダ及びドローバーには、軸芯方向に貫通する貫通孔が形成され、該貫通孔には、加工中に発生する切削粉を吸引する吸引パイプが非回転状態に挿入されていることを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の主軸装置において、前記吸引パイプは、前記ドローバーをアンクランプ方向に駆動する駆動機構により非回転状態に支持されていることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の主軸装置において、前記吸引パイプには、前記貫通孔内に装着された摺接部材が摺接していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係る主軸装置によれば、工具ホルダ及びドローバーに形成された貫通孔に吸引パイプを非回転状態に挿入したので、吸引パイプにより吸引された切削粉に遠心力が作用にすることはなく、切削粉を堆積させることなくスムーズに吸引することができる。
【0010】
請求項2の発明では、吸引パイプを駆動機構により非回転状態に支持したので、新たな支持部材を設けることなく、既存の駆動機構を利用して吸引パイプを非回転状態に支持することができる。
【0011】
請求項3の発明では、吸引パイプを貫通孔に装着された摺接部材により支持したので、回転するドローバーと非回転の吸引パイプとの間に生じる摩擦熱による影響を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1ないし図5は、本発明の一実施形態による主軸装置を説明するための図であり、図1は主軸装置のクランプ状態の断面図、図2は主軸のドローバー先端部分の断面図、図3はドローバー先端部分の拡大断面図、図4はドローバー後端部分の断面図、図5は主軸装置のアンクランプ状態の断面図である。
【0014】
図において、1は立形マシニングセンタ又は横形マシニングセンタ等の工作機械に備えられた主軸装置を示している。該主軸装置1は、マグネシウム合金,合成樹脂,あるいはセラミック等に乾式切削による加工を施すものである。
【0015】
この主軸装置1は、コラムに支持された主軸頭2と、該主軸頭2により回転自在に支持された主軸3と、該主軸3の先端部に装着され、該主軸3と共に回転する工具ホルダ4と、該工具ホルダ4を主軸3にクランプ又はアンクランプするクランプ機構5とを備えている。
【0016】
前記主軸3は、軸芯に挿通孔3aが形成された筒体からなり、軸方向両端部が軸受6,6を介して前記主軸頭2により回転自在に支持されている。
【0017】
前記主軸頭2と主軸3との間には、該主軸3を回転駆動する主軸モータ7が配設されている。該主軸モータ7は、主軸頭2の内周面に固定されたステータ7aと、主軸3の外周面に固定されたロータ7bとを対向させた構造を有する。
【0018】
前記主軸3の挿通孔3aの先端部には、テーパ孔3bが形成され、該テーパ孔3bに前記工具ホルダ4が嵌合固定されている。
【0019】
前記工具ホルダ4は、刃具9と、該刃具9が取り付けられたホルダ本体10とを有する。該ホルダ本体10の軸芯には、装着孔10aが形成され、該装着孔10aに前記刃具9が装着されている。
【0020】
前記クランプ機構5は、前記主軸3の挿通孔3a内に該主軸3と共に回転するよう挿入され、前記工具ホルダ4をクランプ又はアンクランプするドローバー12と、該ドローバー12をアンクランプ方向に移動させる駆動機構13とを有する。
【0021】
前記ドローバー12は、係合筒体14と、該係合筒体14の後端部が結合されたドローバー本体15とを有する。前記係合筒体14は、前記テーパ孔3bの近傍に配置されたコレット16内に挿入され、該コレット16を前記ホルダ本体10の後端部に形成された係合段部10bに係脱可能に係合させるよう構成されている。
【0022】
前記コレット16は、これの基部16aを中心に前端の爪部16bを径方向に拡開可能に構成されている。
【0023】
前記係合筒体14の前端にはカム14aが形成されている。該カム14aは、前記爪部16bの内面に摺接しており、クランプ位置にあるとき該爪部16bを前記係合段部10bに係合させ(図1,図2参照)、アンクランプ位置にあるとき前記爪部16bの係合を解除する(図5参照)。
【0024】
前記ドローバー本体15と、主軸3の挿通孔3aとの間には、ドローバー12をクランプ方向に付勢する多数の皿ばね17が介設されている。この皿ばね17の付勢力により、係合筒体14がクランプ方向(図1右方向)に移動すると、前記カム14aが爪部16bを拡開させて係合段部10bに係合させ、ホルダ本体10を前記主軸3に嵌合固定させる。
【0025】
前記駆動機構13は、前記主軸頭2の後端部に固定された固定部材18と、該固定部材18により進退可能に支持された押圧部材19と、該押圧部材19に接続された油圧シリンダ20とを有する。
【0026】
前記油圧シリンダ20により押圧部材19が移動し、押圧プレート21を介してドローバー12を皿ばね17の付勢力に抗してアンクランプ方向(図1左方向)に移動させ、前記カム14aが爪部16bの係合を解除し、ホルダ本体10と主軸3のテーパ孔3bとの嵌合が解除される(図5参照)。
【0027】
前記ドローバー本体15の後端部15bは、前記固定部材18の軸芯部に配置された支持部18a内に挿入され、該支持部18aにより回転自在に支持されている。
【0028】
前記係合筒体14のカム14a内には、連結パイプ22が同軸をなすよう挿入されており、該連結パイプ22は締結部材23によりホルダ本体10内に固定されている。該連結パイプ22内の前部にはカラー部材24が挿入されている。
【0029】
前記工具ホルダ4及びドローバー12の軸芯部には、軸方向に貫通する貫通孔aが形成されている。この貫通孔aは、前記刃具9に形成された第1貫通孔a1と、該第1貫通孔a1に続いて同軸をなすようホルダ本体10に形成された第2貫通孔a2と、該第2貫通孔a2に続いて同軸をなすようドローバー12に形成された第3貫通孔a3とを有する。
【0030】
また前記ホルダ本体10には、第2貫通孔a2に連通する複数の連通孔a4が形成されている。この各連通孔a4は、ホルダ本体10の外周面に90度角度ごとに、かつ半径方向に延びるよう形成されている。
【0031】
そして前記ドローバー12の第3貫通孔a3内には、該貫通孔a3との間に僅かな隙間tを設けて吸引パイプ25が非回転状態に挿入されている。
【0032】
該吸引パイプ25は、ドローバー本体15の後方から挿入され、前記カラー部材24に僅かな隙間t1を設けて対向している。このカラー部材24,第1,第2貫通孔a1,a2は、前記吸引パイプ25の内径と同じ径に設定されている。
【0033】
前記吸引パイプ25の後端部25bは、ドローバー本体15から後方に延び、前記支持部18aを貫通して後方に突出している。
【0034】
前記吸引パイプ25の後端部25bには、吸引排出パイプ26が同軸をなすよう配置されている。該吸引排出パイプ26は、前記主軸頭2から外部に導出され、不図示の吸引装置に接続されている。
【0035】
前記吸引パイプ25と吸引排出パイプ26とは、前記支持部18にボルト締め固定されたシールジョイント27により気密に接続され、これにより外部空気が吸引されるのを防止している。このようにして吸引パイプ25及び吸引排出パイプ26は、固定部材18により非回転状態に支持されている。
【0036】
前記吸引パイプ25の前端部25aには、前記連結パイプ22内に挿入固着された円筒状の摺接部材28が摺接している。該摺接部材28は、カーボン製のものであり、前記連結パイプ22とカラー部材24により軸方向移動不能に支持されている。
【0037】
本実施形態によれば、工具ホルダ4及びドローバー12の軸芯に貫通孔aを形成し、該ドローバー12の貫通孔a3内に吸引パイプ25を非回転状態に挿入し、該吸引パイプ25に吸引装置を接続したので、吸引パイプ25により吸引された切削粉に主軸3の遠心力が作用にすることはなく、切削粉を堆積させることなくスムーズに吸引することができる。
【0038】
また前記工具ホルダ4の刃具9及びホルダ本体10の軸芯に貫通孔a1,a22を形成するだけで済むので、自動工具交換装置による工具交換が可能である。
【0039】
本実施形態では、前記吸引パイプ25の後端部25bを駆動機構13の固定部材18により非回転状態に支持したので、新たな支持部材を設けることなく、既存の駆動機構13を利用して吸引パイプ25を非回転状態に支持することができる。
【0040】
本実施形態では、前記吸引パイプ25の前端部25aを、連結パイプ22内に固着された摺接部材28により摺動自在に支持したので、ドローバー12と吸引パイプ25との間に生じる摩擦熱による影響を回避できる。
【0041】
また前記摺接部材28をカーボン製としたので、摩擦熱による吸引パイプ25の磨耗を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態による主軸装置の断面図である。
【図2】前記主軸装置のドローバー先端部分の断面図である。
【図3】前記ドローバー先端部分の拡大断面図である。
【図4】前記ドローバー後端部分の断面図である。
【図5】前記ドローバーのアンクランプ状態の断面図である
【符号の説明】
【0043】
1 主軸装置
2 主軸頭
3 主軸
4 工具ホルダ
12 ドローバー
13 駆動機構
25 吸引パイプ
a 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸頭と、該主軸頭により回転自在に支持された主軸と、該主軸の端部に共に回転するよう装着された工具ホルダと、前記主軸の軸芯に共に回転するよう挿入され、前記工具ホルダをクランプ・アンクランプするドローバーとを備えた主軸装置であって、
前記工具ホルダ及びドローバーには、軸芯方向に貫通する貫通孔が形成され、
該貫通孔には、加工中に発生する切削粉を吸引する吸引パイプが非回転状態に挿入されていることを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の主軸装置において、
前記吸引パイプは、前記ドローバーをアンクランプ方向に駆動する駆動機構により非回転状態に支持されていることを特徴とする主軸装置。
【請求項3】
請求項1に記載の主軸装置において、
前記吸引パイプには、前記貫通孔内に装着された摺接部材が摺接していることを特徴とする主軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−64221(P2010−64221A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235054(P2008−235054)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000146847)株式会社森精機製作所 (204)
【Fターム(参考)】