説明

乗客コンベアの監視システム

【課題】盗撮などの犯罪行為を監視或いは抑止することが可能な乗客コンベアの監視システムを提供する。
【解決手段】エスカレータを被写体とする監視映像を撮影する監視カメラ7と、エスカレータの利用者が操作可能な撮影開始スイッチ6と、撮影開始スイッチ6が操作されたときに監視カメラ7による監視映像の撮影を開始させるとともに、撮影開始スイッチ6が操作されてから所定時間が経過したときに監視カメラ7による監視映像の撮影を終了させるカメラコントローラ8と、監視カメラ7により撮影された監視映像を記録媒体に記録する映像記録装置9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータや動く歩道等の乗客コンベアを監視する監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道等の乗客コンベアにおいては、利用者の安全性を確保することが極めて重要な課題とされており、従来から、利用者の安全性確保のための様々な試みがなされている。例えば、ITVカメラ(工業用テレビカメラ)等の監視カメラで乗客コンベアの映像を撮影し、その映像をモニタに映し出して乗客コンベアの動作状態を確認できるようにした監視システムを導入することで、故障などの異常に対して迅速に対応できるようにする試みもなされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−187230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年では、コンパクトカメラやカメラ付き携帯電話機などの普及に伴い、乗客コンベアでの盗撮行為が社会問題化しており、乗客コンベアの利用者は、自分が盗撮行為の被害者となることに不安を感じながら乗客コンベアを利用していることも多い。乗客コンベアでの盗撮などの犯罪行為は、その行為を映像として撮影できれば犯罪の証拠とすることができ、また、監視映像の撮影が行われること自体が盗撮などの犯罪行為を抑止する効果もあると考えられる。しかしながら、上述した特許文献1に記載されているような監視システムは、乗客コンベアの動作状態の監視に主眼をおいたものであり、盗撮のような犯罪行為を監視或いは抑止する構成となっていない。
【0004】
本発明は、以上のような実情に鑑みて創案されたものであって、盗撮などの犯罪行為を監視或いは抑止することが可能な乗客コンベアの監視システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る乗客コンベアの監視システムは、乗客コンベアを被写体とする監視映像を撮影する監視カメラと、乗客コンベアの利用者が操作可能に設置された撮影開始スイッチと、撮影開始スイッチが操作されたときに監視カメラによる監視映像の撮影を開始させるとともに、撮影開始スイッチが操作されてから所定時間が経過したときに監視カメラによる監視映像の撮影を終了させる撮影制御手段と、監視カメラにより撮影された監視映像を記録媒体に記録する映像記録手段とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る乗客コンベアの監視システムによれば、乗客コンベアの利用者が撮影開始スイッチを操作すると、スイッチ操作から所定時間の間の監視映像が監視カメラにより撮影されて記録媒体に記録されるので、盗撮行為のような乗客コンベア利用時における犯罪行為を適切に監視することができ、また、監視映像の撮影が行われることを認識させることで犯罪行為を抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、本発明を適用した乗客コンベアの例として、多数の踏段が連続して階段状に上下に移動することで乗客を上下階に亘って搬送するエスカレータを例示するが、本発明は、多数の踏段が連続して水平に移動することで乗客を搬送する動く歩道(オートロード)に対しても有効に適用可能である。
【0008】
図1は、本発明を適用したエスカレータの一例を示す模式図である。また、図2は、本発明を適用したエスカレータの監視システムの一例を示すシステム構成図である。
【0009】
図1に示すエスカレータ1は、下階側の乗り込み口1aから踏段2上に乗り込んだ利用者を上階側の降り口1bへと搬送する上りエスカレータとして構成されている。踏段2は、多数個が図示しない無端状の踏段チェーンによって隙間なく連結され、この踏段チェーンがモータ駆動により送り動作されることで、下階側の乗り込み口1aと上階側の降り口1bとの間を循環移動する。
【0010】
乗り込み口1aから降り口1bに向かう往路側の踏段2の左右両側には、これら踏段2の移動軌跡に沿って一対の欄干3が立設されており、この欄干3にハンドレール4が装着されている。ハンドレール4は、踏段2上の利用者が把持する手摺りとなるものであり、踏段2と同期して欄干3の周囲を循環移動する。
【0011】
下階側の乗り込み口1a近傍の位置には操作台5が立設されており、この操作台5上に撮影開始スイッチ6が設置されている。この撮影開始スイッチ6は、監視カメラ7による監視映像の撮影を開始させるためのスイッチであり、盗撮などの犯罪行為の被害者となることに不安を感じる利用者が操作するものである。この撮影開始スイッチ6としては、例えば押ボタンスイッチが用いられ、乗り口1aに近付いた利用者が立ち止まることなく容易に操作できる高さ位置、例えば床面から1〜1.3m程度の高さ位置となるように、操作台5上に設置されている。なお、撮影開始スイッチ6としては、押ボタンスイッチ以外にも、例えば静電容量式のタッチスイッチやタッチパネルなど、既知のスイッチ構造が何れも利用可能である。
【0012】
また、操作台5上における撮影開始スイッチ6の近傍には、図3に示すように、例えば「このボタンを押すと一定時間監視カメラが動作し、その映像を録画します。」といったメッセージが印字或いは表示されており、これにより、エスカレータ1を利用する全ての利用者に対して、当該エスカレータ1が監視映像の撮影を行える構成であることを認識させるようにしている。
【0013】
撮影開始スイッチ6は、以上のように乗り込み口1a近傍の位置にのみ設置する構成であってもよいが、図1に示すように、乗り込み口1aから降り口1bまでの間、具体的には例えば欄干3の内側にも設置しておくことが望ましい。このように、乗り込み口1a近傍の位置だけでなく、乗り口1aから降り口1bまでの間にも撮影開始スイッチ6を設置しておくようにすれば、利用者が乗り口1aから踏段2上に乗り込んだ後に盗撮などの犯罪行為に遭遇する危険を感じた時点で監視映像の撮影を開始させることも可能となり、利便性が向上する。なお、図1に示した例では、乗り口1aから降り口1bまでの間に2つの撮影開始スイッチ6を設置しているが、撮影開始スイッチ6の設置数は任意であり、乗り口1aから降り口1bまでの間の距離に応じて適宜設置すればよい。
【0014】
監視カメラ7は、エスカレータ1全体を被写体として監視映像を撮影できるように、例えばエスカレータ1が設置された建物の天井等に取り付けられている。この監視カメラ7の動作はカメラコントローラ8により制御され、撮影開始スイッチ6が操作されてから所定時間の間、エスカレータ1を被写体とした監視映像を撮影する。
【0015】
カメラコントローラ8には、図2に示すように、監視カメラ7のほかに撮影開始スイッチ6、映像記録装置9、通信装置10が接続されている。
【0016】
カメラコントローラ8は、エスカレータ1の利用者により撮影開始スイッチ6が操作されると、建物の天井等に取付けられている監視カメラ7に対して、撮影開始信号を送信する。監視カメラ7は、カメラコントローラ8からの撮影開始信号を受信すると、エスカレータ1を被写体とした監視映像の撮影を開始する。また、カメラコントローラ8は、時間の経過をカウントするタイマを内蔵しており、撮影開始スイッチ6の操作に応じて監視カメラ7に対して撮影開始信号を送信した時点でタイマカウントを開始する。そして、予め設定された所定時間Tのカウントが終了すると、カメラコントローラ8は、監視カメラ7に対して撮影終了信号を送信する。監視カメラ7は、カメラコントローラ8からの撮影終了信号を受信すると、エスカレータ1を被写体とした監視映像の撮影を終了する。
【0017】
ここで、監視映像の撮影継続時間となる所定時間Tは、例えば、エスカレータ1の利用者が乗り込み口1aから降り口1bに移動するまでの所要時間T1に、余裕時間(利用者が撮影開始スイッチ6の設置位置から乗り込み口1aまで移動するのに十分な時間)T2を加算した値に設定される。
【0018】
また、カメラコントローラ8は、タイマによる所定時間Tのカウントが終了する前に、他の利用者によって撮影開始スイッチ6が新たに操作された場合には、その時点でタイマをリセットしてタイマカウントを新たに開始する。そして、撮影開始スイッチ6が新たに操作されてから所定時間Tのカウントが終了した段階で、監視カメラ7に対して撮影終了信号を送信する。つまり、最初の撮影開始スイッチ6の操作から所定時間Tが経過する前に新たに撮影開始スイッチ6が操作された場合、カメラコントローラ8は、新たな撮影開始スイッチ6が操作されてから所定時間Tが経過するまでの間、監視カメラ7による監視映像の撮影を継続させるようにしている。
【0019】
監視カメラ7により撮影された監視映像の映像データは、カメラコントローラ8に送信された後、映像記録装置9に伝送される。映像記録装置9は、ハードディスクやDVD、半導体メモリなどの記録媒体を備えており、カメラコントローラ8から伝送された監視映像の映像データを記録媒体に随時記録する。映像データの記録方法は、例えば、記録媒体の容量が一杯になるまで映像データを随時記録し、記録媒体の容量が一杯になったら古いデータから削除して新しいデータを上書き記録していくようにすればよい。このように映像データを記録していけば、記録媒体の交換等の煩雑な作業を行うことなく、必要なときに監視映像の映像データを記録媒体に記録することができる。
【0020】
なお、映像記録装置9は、記録媒体に記録した監視映像の映像データを再生する機能も有することが望ましい。映像記録装置9が映像データの再生機能を有する場合、その映像出力端子にモニタを接続すれば、監視カメラ7により撮影されたエスカレータ1の監視映像をその場で確認することが可能となる。また、映像記録装置9が映像データの再生機能を持たない場合でも、映像記録装置9から記録媒体を取り出して他の再生装置で映像データを再生すれば、エスカレータ1の監視映像をその場で確認することが可能となる。
【0021】
また、監視カメラ7により撮影された監視映像の映像データは、通信装置10からインターネット等の電気通信回線DTを介して遠隔地の監視センタに設置された外部端末11に送信することも可能である。通信装置10は、外部端末11との間で電気通信回線DTを介して相互にデータの送受信が可能に構成されており、例えば外部端末11からのデータ送信指令などに応じて、監視カメラ7からカメラコントローラ8に送信された監視映像の映像データ、或いは、映像記録装置9の記録媒体から読み出された監視映像の映像データを電気通信回線DT経由で外部端末11に送信する。監視カメラ7からカメラコントローラ8に送信された監視映像の映像データを通信装置10から外部端末11に送信した場合には、監視カメラ7により撮影されたエスカレータ1の監視映像を遠隔地の監視センタにてリアルタイムで確認することができ、映像記録装置9の記録媒体から読み出された監視映像の映像データを通信装置10から外部端末11に送信した場合には、エスカレータ1の過去の監視映像を、遠隔地の監視センタにて確認することができる。
【0022】
以上、具体的な例を挙げながら詳細に説明したように、本発明を適用したエスカレータ1の監視システムによれば、エスカレータ1の利用者が盗撮などの犯罪行為の被害者となることに不安を感じた際に撮影開始スイッチ6を操作することによって、監視カメラ7によりエスカレータ1の監視映像が撮影されるので、利用者の不安感を低減させることができるとともに、犯罪行為を行おうとしている者をけん制して犯罪行為を思い止まらせることができ、犯罪行為を抑止することができる。
【0023】
また、監視カメラ7により撮影された監視映像の映像データは、映像記録装置9により記録媒体に記録されるので、仮に盗撮などの犯罪行為が行われた場合には、監視映像を再生することで犯人を特定でき、その監視映像を犯罪の証拠として利用することができる。
【0024】
さらに、監視カメラ7による監視映像の撮影は、撮影開始スイッチ6が操作されてから所定時間の間のみ行われるので、監視映像を常時撮影する場合と比較して、記録される映像データのデータ量を大幅に削減することができ、犯罪行為の証拠となる監視映像の探索を効率よく迅速に行うことが可能となる。
【0025】
なお、以上説明したエスカレータ1の監視システムは、本発明の一適用例を例示的に示したものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形、変更、代替技術の転用などが可能である。例えば、以上説明した監視システムは、上りエスカレータとして構成されたエスカレータ1を監視対象としているが、勿論、下りエスカレータを監視対象としてもよい。
【0026】
また、以上説明した監視システムでは、1台の監視カメラ7でエスカレータ1全体を被写体とする監視映像を撮影するようにしているが、監視カメラ7を踏段1の移動経路に沿って複数台設置して、これら複数台の監視カメラ7でエスカレータ1の監視映像を撮影するようにしてもよい。
【0027】
また、以上説明した監視システムでは、監視カメラ7により撮影された監視映像の映像データを、映像記録装置9の記録媒体に記録するようにしているが、監視カメラ7やカメラコントローラ8に十分な容量のメモリが内蔵されている場合には、これら監視カメラ7やカメラコントローラ8に内蔵されたメモリに、監視映像の映像データを記録するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用したエスカレータの一例を示す模式図。
【図2】本発明を適用したエスカレータの監視システムの一例を示すシステム構成図。
【図3】撮影開始スイッチが設けられた操作台の要部拡大図。
【符号の説明】
【0029】
1 エスカレータ(乗客コンベア)
6 撮影開始スイッチ
7 監視カメラ
8 カメラコントローラ(撮影制御手段)
9 映像記録装置(映像記録手段)
10 通信装置(映像送信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアを被写体とする監視映像を撮影する監視カメラと、
乗客コンベアの利用者が操作可能に設置された撮影開始スイッチと、
前記撮影開始スイッチが操作されたときに前記監視カメラによる監視映像の撮影を開始させるとともに、前記撮影開始スイッチが操作されてから所定時間が経過したときに前記監視カメラによる監視映像の撮影を終了させる撮影制御手段と、
前記監視カメラにより撮影された監視映像を記録媒体に記録する映像記録手段と、を備えることを特徴とする乗客コンベアの監視システム。
【請求項2】
前記撮影開始スイッチは、少なくとも、乗客コンベアの乗り込み口近傍の位置と、乗り込み口から降り口までの間とに設置されていることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの監視システム。
【請求項3】
前記所定時間は、乗客コンベアの利用者が乗り込み口から降り口に移動するまでの所要時間に余裕時間を加算した値に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベアの監視システム。
【請求項4】
前記撮影制御手段は、前記撮影開始スイッチが操作されてから前記所定時間が経過するまでの間に前記撮影開始スイッチが新たに操作された場合には、前記撮影開始スイッチが新たに操作されてから前記所定時間が経過するまでの間、前記監視カメラによる監視映像の撮影を継続させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乗客コンベアの監視システム。
【請求項5】
前記監視カメラにより撮影された監視映像を電気通信回線を介して遠隔地の監視センタに送信する映像送信手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乗客コンベアの監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−100396(P2010−100396A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273224(P2008−273224)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】