説明

乗客コンベアの自動給油装置

【課題】乗客コンベアの設置環境による温度変化に対して安定した給油動作ができるようにした乗客コンベアの自動給油装置を提供する。
【解決手段】乗客コンベアが時刻t5で運転開始した直後、自動給油装置の温度が適正温度B1に達する前に給油インターバル時間になった時、所定の時刻t7を経過するまで自動給油装置の給油を延期する。
【効果】低温環境での乗客コンベア運転開始直後の給油不足を防止し、安定した給油ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーター、オートライン(動く歩道)等の乗客コンベアに係り、特に乗客コンベアの駆動部に潤滑油を給油する乗客コンベアの自動給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアは駆動部にチェーンを使用しており、これらチェーンに対する的確な給油は、乗客コンベアの初期性能維持には不可欠である。給油量が適量でない場合、潤滑不十分により、運転の不円滑、騒音の発生、チェーン異常磨耗、破断を招き、また過剰給油の場合、機器及び意匠部の汚損等の問題が発生する。このため、従来は自動給油装置を設け、例えば乗客コンベアが運転中であることを示す運転信号を入力し、その信号のオンの時間を積算し、この積算時間に基づいて設定時間(以下給油インターバル時間という。)毎に、所定の給油時間だけ給油ポンプを駆動して給油している。すなわち、乗客コンベアが運転中であれば、給油インターバル時間ごとに給油時間だけ給油動作が行われる。このため、給油のタイミングは、乗客コンベアが運転開始直後または、運転終了間際の場合もある。運転終了間際に給油タイミングがきた場合に対する装置としては、乗客コンベアが通常速度で運転するまで自動給油開始のタイミングを延長する装置が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特願2002−241074
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来の乗客コンベアの自動給油装置では、給油インターバル時間での運転終了間際に給油インターバル時間がきた時や乗客コンベアの速度変化に対して通常速度で運転するまで自動給油のタイミングを延長するものであり、潤滑油の温度変化による給油量の変動に対応していなく、安定した給油ができない等の問題があった。すなわち、給油量に密接に関係する油の粘度は油温に依存するところが大であり、設定した給油量を確保するには油温を設定温度にしておく必要がある。乗客コンベアの設定環境によっては、例えば冬の屋外設置の場合等、乗客コンベアの運転開始直後は、乗客コンベア機械室内の温度が低く、機械室内に設けられた自動給油装置の油の粘度が高い状態にある。乗客コンベア機械室内の温度は、運転開始後モータ、及び減速機等の熱により上昇し、これに伴い自動給油装置の潤滑油も平常状態に戻る。しかし、乗客コンベア運転開始後すぐに、給油インターバル時間がくると自動給油装置の油温が低いため設定した油量が供給されない。
【0004】
機械室内に設置されている油温を一定に保つ手段としては、ヒータなどを利用する方法も考えられるが、コスト高となり、また火災の危険があるため人員輸送を目的とする乗客コンベアでは適用が困難である。
【0005】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、乗客コンベアの設置環境による温度変化に対して安定した給油動作ができるようにした乗客コンベアの自動給油装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、乗客コンベアの起動時刻と自動給油装置の給油時刻を比較判定する手段と、判定した結果により、乗客コンベアの起動後、自動給油装置の油の温度が所定の温度、または所定の温度になる時間まで達していない時、潤滑油の給油を延期するよう構成したものである。
【0007】
また、乗客コンベアの起動時刻と自動給油装置の給油時刻を比較判定する手段と、判定した結果により、乗客コンベアの起動後、潤滑油または自動給油装置設置場所の温度を温度センサにより検出し、油温が設定温度に達していない場合、給油のタイミングを延期するよう構成したものである。
【0008】
これにより、乗客コンベアの運転開始直後に給油インターバル時間がきても、自動給油装置の潤滑油温度が適正温度範囲の状態で供給することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1発明では、低温環境における乗客コンベア運転開始直後の自動給油装置給油不足を避ける手段として、油温を上げるヒーターや、流量を制御する制御弁等を使用することなく、乗客コンベアの起動時刻と自動給油装置の給油時刻を比較判定する手段と、判定した結果により、乗客コンベアの起動後、自動給油装置の油の温度が所定の温度、または所定の温度になる時間まで達していない時、潤滑油の給油を延期することにより、安定した給油ができる。
【0010】
本発明の第2発明では、乗客コンベア自動給油装置の給油インターバル時間における準潤滑油の温度を検出することにより、低温環境における乗客コンベア運転開始直後の自動給油装置給油不足のみでなく、乗客コンベア運転中の全ての時間帯で安定した給油ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1〜図3は、この発明の第1発明の一実施の形態を示す図で、図1は、全体構成図、図2は、給油動作のタイムチャート、図3は乗客コンベア機械室と自動給油装置の温度特性を示す図である。
【0012】
本発明の一実施形態について図1で説明する。
【0013】
図1において1は乗客コンベアの速度指令を出力する乗客コンベア運転制御手段、2は運転制御手段1の指令1aに従って駆動される乗客コンベア駆動用電動機、3は乗客コンベアの運転時間を管理する運転時間管理手段、4は自動給油装置の給油から次の給油までの時間間隔すなわち給油休止時間(以下給油インターバル時間という)を管理して給油要求信号4aを出力する給油インターバル時間管理手段、5は、運転時間管理手段3からの運転時間信号3aと給油要求信号4aにより給油制御信号5aを出力する給油制御手段5,6は給油制御信号5aにより給油動作するポンプを駆動する電動機6である。
【0014】
次に、この実施の形態の動作概要を説明する。乗客コンベア駆動用電動機2は運転制御手段1からの指令1aにより、乗客コンベアを駆動する。指令1aは運転時間管理手段3に記録され、さらに給油インターバル時間管理手段4へ指令3bが送られる。給油インターバル時間管理手段4は、設定したインターバル時間になると給油要求信号4aを給油制御手段5に送る。給油制御手段5は、給油要求信号4aと運転時間管理手段3からの運転時間信号3aから判定し、乗客コンベアが運転開始から所定の時間経過している場合、給油制御信号5aを給油ポンプ用電動機6送り、給油開始する。
【0015】
次に給油動作を図2の給油動作のタイムチャート、及び図3により説明する。図2は、横軸に経過時間Tとして、(A)は乗客コンベアの運転指令信号1aで信号がON状態が乗客コンベアの運転状態を示す。(B)は自動給油装置の油温を示す。(C)は自動給油装置の給油信号5aでON状態が給油状態をしめす。
【0016】
ここで、乗客コンベアの機械室に設置される自動給油装置の油温8は、図3に示すように、乗客コンベアが運転を開始すると機械室内の電動機2や減速機の熱により機械室の温度7に追従して上昇し、給油適温となる。機械室の温度7はしばらくすると安定し、自動給油装置の油温も安定する。
【0017】
図2(A)の時刻t1で乗客コンベアが運転開始すると、自動給油装置の温度8は上記のように上昇し、時刻t2で機械室内温度7に追従して安定する。時刻t3で給油インターバル時間になると、給油制御手段5は時刻t2を経過しているため給油信号5aを出し給油する。時刻t4で乗客コンベアが運転停止すると、自動給油装置の油温8も下がる。次回運転日に時刻t5で乗客コンベアが運転開始した直後時刻t6で、給油インターバル時間がくると油温が適正になる時刻t7に達していないため、給油制御手段5は、給油信号5aを出さず、時刻t7を経過したのち、給油信号5aを出力し、乗客コンベア駆動部への給油を行う。これにより、低温での粘度変化による潤滑油の供給不足を防止し、安定した給油が可能となる。
【0018】
図4は、この発明の第2の実施形態を示す図で、全体構成を示す。
【0019】
図4において、1は乗客コンベアの速度指令を出力する乗客コンベア運転制御手段、2は運転制御手段1の指令1aに従って駆動される乗客コンベア駆動用電動機、3は乗客コンベアの運転時間を管理する運転時間管理手段、4は自動給油装置の給油から次の給油までの時間間隔すなわち給油休止時間(以下給油インターバル時間という)を管理して給油要求信号4aを出力する給油インターバル時間管理手段、9は自動給油装置の油温8、または乗客コンベアの機械室温度7を検出する温度センサ、5は、温度センサ9からの温度信号9aと給油要求信号4aにより給油制御信号5aを出力する給油制御手段5,6は給油制御信号5aにより給油動作するポンプを駆動する電動機6である。
【0020】
次に給油動作を図2の給油動作のタイムチャートにより説明する。
【0021】
図2(A)の時刻t1で乗客コンベアが運転開始すると、自動給油装置の温度8は上記のように上昇し、時刻t2で機械室内温度7に追従して安定する。時刻t3で給油インターバル時間になると、給油制御手段5は時刻t2を経過しているため給油信号5aを出し給油する。時刻t4で乗客コンベアが運転停止すると、自動給油装置の油温8も下がる。次回運転日に時刻t5で乗客コンベアが運転開始した直後時刻t6で、給油インターバル時間がくると油温が適温B1に達していないため、給油制御手段5は、給油信号5aを出さず、温度B1に達したのち、給油信号5aを出力し、乗客コンベア駆動部への給油を行う。これにより、低温での粘度変化による潤滑油の供給不足を防止し、安定した給油が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示す全体構成図
【図2】本発明の一実施形態を示すタイムチャート
【図3】乗客コンベア機械室と自動給油装置油温の特性図
【図4】本発明の第2の実施形態を示す全体構成図
【符号の説明】
【0023】
1 乗客コンベア運転制御手段
2 乗客コンベア駆動用電動機
3 運転時間管理手段
4 給油インターバル時間管理手段
5 給油制御手段
6 給油ポンプ動作用電動機
7 乗客コンベア機械室温度
8 自動給油装置油温
B1 潤滑油の適正油温

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの駆動部に一定時間毎に潤滑油を自動給油する装置において、乗客コンベアの起動時刻と自動給油装置の給油時刻を比較判定する手段と、判定した結果により、乗客コンベアの起動後、自動給油装置の油の温度が所定の温度、または所定の温度になる時間まで達していない時、潤滑油の給油を延期することを特徴とした乗客コンベアの自動給油装置。
【請求項2】
上記請求項1の自動給油装置において、潤滑油または自動給油装置設置場所の温度を温度センサにより検出し、油温が設定温度に達していない場合、給油のタイミングを延期することを特徴とした乗客コンベアの自動給油装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−213425(P2006−213425A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25296(P2005−25296)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】