説明

乗用型溝切装置

【課題】 作業者が搭乗したままでその体重を利用して容易に均等でしかも深い溝を形成することができる乗用型溝切装置を提供する。
【解決手段】 溝切装置1は、機体の進行方向に対して前方に駆動部2を且つ後方に溝切部3を設け、機体の駆動部2と溝切部3との間に、前後方向に長い搭乗場所7を設け、搭乗場所の前方には作業者が握るハンドル21を設けた構成である。機体の前方に位置する駆動部2を駆動するエンジン17を作業者の搭乗場所より後方に設けてある。作業者の搭乗場所7より後方に位置するエンジン17は、ギアボックス6から後方に延びる動力伝達軸18の後端に備えられている。駆動部2は、機体の走向によって稲の葉若しくは茎を動輪に巻込まないように保護する保護板26を備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に給排水を速やかに行うための溝を形成する乗用型溝切装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場(水田)に給排水を速やかに行い作物の生育を良好にする目的で溝切作業が行われているが、従来から使用されている作業者歩行型の溝切機は、駆動輪の後方に三角板を取付け、その三角板を作業者が地面に押し付けながら駆動輪に牽引されることで溝を形成していく溝切機が主流となっている。また乗用のものでは田植機のような4輪の作業機の後方に溝切板を複数取付け、地面に押し付けながら溝を形成していく溝切機は公知である。
【0003】
実開昭64−19654号公報のように溝切板をそろばんの玉型にしたものや、実開昭62−60101号公報のようにエンジンの重量を駆動輪に付加して推進力を増し、水田の土が若干固くなっても溝を形成できるようにしたものや、実開昭55−8742号公報のように、作業者が搭乗できる補助台板の底面に溝切部を設けて、作業者が搭乗して溝を切る溝切機も既に公知である。
【0004】
【特許文献1】実開昭64−19654号公報
【特許文献2】実開昭62−60101号公報
【特許文献3】実開昭55−8742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗用の4輪作業機での溝切作業は作業者にとって楽な作業であるが、旋回時の稲の踏みつけや溝同士の接続がうまく出来なかったり、作業機の水田への入退場で畦を壊してしまうなどの不具合点が多くいまだ普及に至っていない。
【0006】
歩行型の上記特許文献、実開昭64−19654号公報や実開昭62−60101号公報のように若干水田の土が固くなっても作業できるよう考案された溝切機は、溝切板を地面に押し付ける労力は結局作業者が請け負うことになるので決して楽な作業であるとは言えないし、実開昭55−8742号公報では、乗用であるものの作業者の重心が溝切板より後方にあるので駆動部が空転する可能性が高く、空転防止をするためには駆動部の重量を重くする必要がある。溝切機自体の重量が増えることは作業者にとって扱いづらい機械になってしまうので、良好な溝切作業が出来るとは言いがたい。
【0007】
そこで、本発明は作業者が乗用可能でしかも歩行型と同等に軽くまた、作業者が搭乗したままでその体重を利用して均等でしかも深い溝を形成できる乗用型溝切装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は請求項1、請求項2及び請求項3に係わる乗用型溝切装置を提案するものである。
【0009】
即ち、請求項1に係わる乗用型溝切装置は、機体の進行方向に対して前方に駆動部を且つ後方に溝切部を設け、作業者が搭乗できるように構成された乗用型溝切装置において、機体の前記駆動部と溝切部との間に作業者の搭乗場所を設けてあり、機体の前方に位置する駆動部を駆動するエンジンを作業者の搭乗場所より後方に設けたことを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に係わる乗用型溝切装置は、請求項1記載のものにおいて、駆動部は、回転して機体を進行方向に進める動輪とその軸心の回転軸に設けられているギアボックスから成り、作業者の搭乗場所より後方に位置するエンジンを、ギアボックスから後方に延びる動力伝達軸に備えていることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、請求項3に係わる乗用型溝切装置は、請求項1又は2記載のものにおいて、駆動部は、機体の走向によって稲の葉若しくは茎を動輪に巻込まないように保護する保護板を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溝切装置の駆動部と溝切装置の間に作業者の重心があるので、作業者が搭乗したままでその体重を利用して容易に均等でしかも深い溝を形成することが出来る。なお、作業者が搭乗場所を前後に容易に移動できるので、作業者の重心は前後の接地部に対して重量配分を調節でき、水田が軟弱で溝切部で形成される溝が深くなりすぎる場合及び、駆動部が空転をして作業機が進行しない場合には、作業者の重心を駆動部方向に移動して溝切部へ加わる重量を軽くすることで溝の深さを浅く、また作業機の駆動部へ加わる重量を増して接地圧を増幅し、車輪が空転することなく良好に走行させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1には本発明の一実施の形態に係わる乗用型溝切装置の全体側面図、図2は同上概略平面図、図3は同上概略平面図及び断面詳細図、図4は本発明の他の実施の形態に係わる乗用型溝切装置の全体側面図、平面図及び一部の断面図、図5は本発明の更に他の実施の形態に係わる乗用型溝切装置の全体側面図である。
【0014】
機体の進行方向に対して前方に駆動部2を且つ後方に溝切部3を設け、作業者4が搭乗できるように構成された溝切装置1であって、乗用型溝切装置1に搭乗した作業者の重心8が駆動部2の動輪5の軸心の回転軸6から溝切部3の外端までにあるように作業者4の搭乗場所7を設けており、作業者4の搭乗場所7は、溝切装置1に搭乗した作業者の跨った位置の移動及びそれに必要に応じて前傾又は後傾姿勢を伴わせることにより作業者の重心8が駆動部2の動輪5の軸心の回転軸6から溝切部3の外端までを移動可能としている。なお、作業者の重心8の範囲が、駆動部2の動輪5の軸心の回転軸6から溝切部3の外端までとは、駆動部2の動輪5の軸心の回転軸6の中心から前記回転軸6の中心を基点として溝切部3の最も離れた部分までの距離とし、駆動部2の接地面と溝切部3の接地面での重量配分で表すと、1対99から99対1の範囲が良好である。
【0015】
本発明の溝切部3は、進行方向に対して土を切り分ける三角形状で、底面には耕盤11と平行となる平面10を備えた三角溝切板20、または進行方向に対して回転しながら土を押し切る回転式の円盤12で、円盤12の断面はそろばん玉型形状のものとがある。
【0016】
溝切装置1は、進行方向の前方に駆動部2を且つ後方に溝切部3が設けられている。駆動部2は回転して溝切装置1を進行方向に進める動輪5(滑り止め23を装着した車輪15)とその軸心の回転軸6に設けられているギアボックス16と、機体の走向によって稲の葉若しくは茎を動輪5に巻込まないように保護する保護板26から構成されていて、ギアボックス16は作業者4の後方にあるエンジン17から動力を動力伝達軸18を経由してギアボックス16に達し車輪15を駆動させている。即ち、ギアボックス16から後方に延びる動力伝達軸18の後端にはエンジン17が取り付けられていて、エンジン17は作業者4の搭乗する搭乗場所7の後方で且つその下方に位置していて、エンジン17からの排気ガスや排熱が後方に逃げるので、作業者4の作業環境は良好である。
【0017】
ギアボックス16の一部からフレーム19が後方の溝切部3の三角溝切板20へと繋がれて、三角溝切板20には、土をV型に切るための左右の傾斜板22・22と土中の耕盤11と平行となる平面10が設けられており、三角溝切板20に多くの重量がかかっても耕盤11より三角溝切板20が深く沈みこまないようになっている。フレーム19と動力伝達軸18とは固定部9により固定されており、その固定部9には作業者4の搭乗場所7が設けられている。
【0018】
前記作業者4の搭乗場所7は、機体の前記駆動部2と溝切部3との間に位置していて前後方向に長く延びており、搭乗場所7の前方には作業者が握るハンドル21を設けてあり、搭乗場所7に跨り且つハンドルを握った作業者が、ハンドル21を握ってそれを支えとして前後方向に跨り位置を滑り移動させて作業者の重心8が前後方向に移動可能な構造となっている。ハンドル21にはエンジン17の回転を調節するアクセルや、車輪15の回転のON・OFFさせるためのクラッチ、溝切装置1自体を急停止させるためのブレーキなどが作業者4の扱いやすい場所に配置されている(図示せず)。
【0019】
溝切作業を行う場合、作業者4はハンドル21を握った姿勢で搭乗場所7に跨り、作業者4の体重を機体に掛け、エンジン17の回転を上げ動力を車輪15に伝達して回転させ、機体を進行させる。
【0020】
溝切装置1が溝切作業中に作業者4は溝の深さ、及び車輪15の空転を確認し、溝の深さが足りないようであれば、作業者4はハンドル21を握ってそれを支えとして搭乗場所7の跨り位置を後方に滑らせて後方に重心を移動し、溝切部3に掛かる重量を増して三角溝切板20が地面に押し込まれ、形成する溝を深くするように働かせる。また、車輪15が空転して溝切装置1自体の進行が阻害されるようであれば、作業者4はハンドル21を握ってそれを支えとして搭乗場所7の跨り位置を前方に滑らせて車輪15に掛かる重量を増して進行を滞ることなく行なわせようとする。なお、溝切部3がそろばん玉型形状の円盤12であっても同様である。
【0021】
図2は作業者4の重心の移動範囲を示す平面図であるが、本発明の実験の結果では駆動部2(前)、溝切部3(後)の接地面に掛かる作業者の前後重量配分は80対20から40対60の範囲がもっとも良好である。
【0022】
なお、耕盤11とはトラクタ等の耕起装置で耕起されていない硬い土の層で、耕起土24とは耕起されて稲を植え込む土の層であるので水田に水を満たしている場合には軟弱な土の層を表している。36は稲株である。
【0023】
図5に示す実施の形態においては、溝切装置1は進行方向の前方に駆動部2を且つ後方には溝切部3が設けられていて、後方の溝切部3はフレーム29によって繋ながれている。駆動部2は回転して溝切装置1を進行方向に進める動輪5(滑り止め23を装着した車輪15)とその軸心の回転軸6に設けられているギアボックス16と、場合によっては本機の走向によって稲の葉若しくは茎を動輪5に巻込まないように保護する保護板26から形成されていて、ギアボックス16は溝切装置1の進行方向の後方にあるエンジン17から動力を動力伝達軸18を経由してギアボックス16に達し車輪15を回転させている。
【0024】
ハンドル21の支点27は支点28とロッド若しくはワイヤー等の機械的な連結材35で繋がれていて操舵装置を構成している。即ち、ハンドル21を支点27を中心に左方向に回すと三角溝切板20が支点28を中心に右に回転し、またハンドル21を支点27を中心に右方向に回すと三角溝切板20が支点28を中心に左に回転するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる乗用型溝切装置の全体側面図である。
【図2】同上概略平面図である。
【図3】同上概略平面図及び断面詳細図である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係わる乗用型溝切装置の全体側面図、平面図及び一部の断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施の形態に係わる乗用型溝切装置の全体側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 溝切装置
2 駆動部
3 溝切部
4 作業者
5 動輪
6 回転軸
7 搭乗場所
8 作業者の重心
9 固定部
10 平面
11 耕盤
12 円盤
13 平面
14 操舵装置
15 車輪
16 ギアボックス
17 エンジン
18 動力伝達軸
19 フレーム
20 三角溝切板
21 ハンドル
22 傾斜板
23 滑り止め
24 耕起土
25 支軸
26 保護板
27 支点
28 支点
29 フレーム
35 連結材
36 稲株

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の進行方向に対して前方に駆動部を且つ後方に溝切部を設け、作業者が搭乗できるように構成された乗用型溝切装置において、
機体の前記駆動部と溝切部との間に作業者の搭乗場所を設けてあり、
機体の前方に位置する駆動部を駆動するエンジンを作業者の搭乗場所より後方に設けたことを特徴とする乗用型溝切装置。
【請求項2】
駆動部は、回転して機体を進行方向に進める動輪とその軸心の回転軸に設けられているギアボックスから成り、作業者の搭乗場所より後方に位置するエンジンを、ギアボックスから後方に延びる動力伝達軸に備えていることを特徴とする請求項1記載の乗用型溝切装置。
【請求項3】
駆動部は、機体の走向によって稲の葉若しくは茎を動輪に巻込まないように保護する保護板を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の乗用型溝切装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−117098(P2007−117098A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31332(P2007−31332)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【分割の表示】特願2003−306008(P2003−306008)の分割
【原出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(000001465)金子農機株式会社 (53)
【Fターム(参考)】