説明

乗用移植機

【課題】植付作業機の苗載せ台に苗を補給した後、空になった苗トレイを走行機体の後部から前方に亘って搬送する苗トレイ戻し装置を乗用型移植機の側部に設けるにあたり、オペレータがボンネット横のフロントステップ上を歩いて移動する際に邪魔にならない苗トレイ戻し装置を構成する。
【解決手段】走行機体4の側部に該走行機体4の前方から後部に亘って延設し、畦際から機体上に苗Nを供給できる無端体コンベア5を、この無端体コンベア5の上側往路で機体後部へ苗Nを搬送する一方、無端体コンベア5の下側復路で苗載せ台17に苗Nを補給した後の苗トレイ36を機体前方へ搬送できるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付作業機の苗載せ台に苗を補給した後、空になった苗トレイ(苗箱または苗スクレーパ)を容易に返却することができる苗トレイ戻し装置を備えた乗用型田植機等の乗用移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗用型移植機においては、走行機体の一側部または両側部に、苗箱に収容された苗を畔から機体後部に補給するための苗供給コンベアを機体前部から機体後部に亘って設けると共に、植付部の苗載せ台に苗を補給した後に空になった苗箱を機体後部から機体前部に返却するために、ステアリングホイールの側方に前低後高状に配置した苗箱案内部と、この苗箱案内部により導かれる苗箱を一旦ストックする苗箱ストック部とからなる苗箱戻し装置を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−73515号公報(第3−5頁、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上述した特許文献のもでは、苗箱戻し装置を構成する苗箱案内部と苗箱ストック部が共にボンネット横のサイドステップ(フロントステップ)上に迫り出しており、このサイドステップ上を乗用型移植機のオペレータが歩いて移動する際に当該苗箱戻し装置が邪魔になるといった欠点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、前輪と後輪を有する走行機体の後部に植付作業機を連結し、この植付作業機の苗載せ台から苗を掻き取って圃場に移植する移植装置と、走行機体の側部に該走行機体の前方から後部に亘って延設し、畦際から機体上に苗を供給できる無端体コンベアを備えた乗用移植機において、前記無端体コンベアの上側往路で機体後部へ苗を搬送する一方、無端体コンベアの下側復路で苗載せ台に苗を補給した後の苗トレイを機体前方へ搬送できるように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、植付作業機の苗載せ台から苗を掻き取って圃場に移植する移植装置と、走行機体の側部に該走行機体の前方から後部に亘って延設し、畦際から機体上に苗を供給できる無端体コンベアを備えた乗用移植機において、前記無端体コンベアの上側往路で機体後部へ苗を搬送する一方、無端体コンベアの下側復路で苗載せ台に苗を補給した後の苗トレイを機体前方へ搬送できるように構成したことによって、前記植付作業機の苗載せ台に苗を補給した後に空になった苗トレイ(苗箱または苗スクレーパ)の返却路を、無端体コンベアの横幅内に形成できるので、従来のようにボンネット横のサイドステップ(本実施例ではフロントステップ)上を乗用型移植機のオペレータが歩いて移動する際に当該返却路が邪魔になることはない。また、無端体コンベアの上側往路と下側復路を利用して機体後部への苗を搬送と機体前方への苗トレイの搬送を行なうことができるので、その装置構成がコンパクトなる。更に、無端体コンベアを駆動させる場合にも、苗の供給と苗トレイの返却を1つの駆動源で以って行なえる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、乗用移植機である乗用型田植機1の側面図と一部を省略した平面図であって、この乗用型田植機1は、左右一対の前輪2及び後輪3に支持された走行機体4を有し、その左右一側または両側には、詳細は後述する走行機体4の前方から後部に亘って前高後低の傾斜姿勢で無端体コンベア5を配設している。
【0007】
そして、走行機体4の前側には、図示しないエンジンを覆うボンネット6を備え、このボンネット6の後方には、ステアリングホイール7や主変速レバー8、運転操作パネル9等を備えた操縦部11、該操縦部11の床面を形成するステップ12、及び乗用型田植機1のオペレータが着座する座席13を支持する機体カバー14等を設けている。尚、機体カバー14には、座席13後方の左右両側位置に、ステップ12より一段高い平坦な苗供給用ステップ14aを形成している。
【0008】
また、走行機体4の後方には、昇降リンク機構15を介して植付作業機16を昇降自在に連結している。この植付作業機16は、前方に傾斜して設けられた苗載せ台17と、該苗載せ台17から苗を掻取って植え付ける複数の植付杆18を備えた移植装置19と、この移植装置19の下方には、植付け田面を整地するフロート21等を設けているが、これらの基本的な構成は何れも従来通りであり詳細な説明を省略する。
【0009】
上述したボンネット6の左右両側に形成されているフロントステップ22の下方には、走行機体4から外側方に延出させて立ち上げた2本の支柱23f,23rを備えた支持ステー23を設けてあり、この支持ステー23の上端に、圃場からの段差が大きい畦際の道路や畦から機体上に苗(マット苗)Nを供給することができる無端体コンベア5を装着している。
【0010】
更に詳しくは、図3に示すように、無端体コンベア5は、支持ステー23の上端に固設した固定コンベア5mと、固定コンベア5m前方の第一苗台5fと、固定苗台5m後方の第二苗台5rとからなり、これら第一苗台5fと第二苗台5rを図示の如く固定コンベア5mに対して前後に展開させた展開姿勢状態と、第一苗台5fと第二苗台5rとを固定コンベア5m上に折畳んだ図示しない格納姿勢状態に姿勢変更可能に構成している。
【0011】
そして、無端体コンベア5が展開姿勢状態にある時は、左右のフロントステップ22の一側または両側で、且つボンネット6より高い位置に展開され、その全体は側面視で前高後低の傾斜姿勢となっている。この時、無端体コンベア5を構成する第一苗台5fは走行機体4の前端から大きく突出すると共に、第二苗台5rは、苗載せ台17の近傍に位置する苗補給用ステップ14aの上まで延出されている。
【0012】
また、無端体コンベア5を構成する第一苗台5f、固定苗台5m、及び第二苗台5rの各コンベア25f、25m、25rは、図2に示すように、固定コンベア5m後部のフロントステップ22側に配設した電動モータMから出力される動力によって連動して回転するようになっている。即ち、電動モータMから出力される動力は、固定苗台5mに備えるコンベア25mの駆動軸26から前側の従動軸27へ伝達され、次いでこの従動軸27の外側端に固設したギヤ28に歯合する中間ギヤ29aを介して、第一苗台5fに備えるコンベア25fの駆動軸31の外側端に固設したギヤ32伝達される一方、前記駆動軸26の外側端に固設したギヤ33に歯合する中間ギヤ29bを介して、第二苗台5rに備えるコンベア25rの駆動軸34の外側端に固設したギヤ35に伝達されようになっている。
【0013】
ところで、圃場面からの段差が大きい畦際の道路や畦から無端体コンベア5に苗Nを供給する際は、先ず走行機体4の前端から大きく突出する第一苗台5fを畦際の道路や畦に進入させ、しかる後に苗Nが育苗されている方形状の苗トレイ36(苗箱または苗スクレーパを含む)を第一苗台5fのコンベア25f上に順次載置すればよく、このように第一苗台5fのコンベア25f上に苗トレイ36を載置すると、第一苗台5fに付設した駆動リミットスイッチ37が入り状態となって電動モータMが駆動するようになっており、それによって苗Nが育苗されている複数の苗トレイ36を、第一苗台5fのコンベア25fから固定苗台5mのコンベア25mを経て第二苗台5rのコンベア25rまで連続して搬送することができる。
【0014】
そして、上述の如く複数の苗トレイ36が無端体コンベア5上を連続して搬送されている時、最初に搬送される苗トレイ36の先端が第二苗台5rの後部に付設した停止リミットスイッチ38aと接当して、該停止リミットスイッチ38aが入り状態になると電動モータMの駆動が停止して複数の苗トレイ36の搬送が中断されるようになっている。この時、無端体コンベア5上を二番目に搬送される苗トレイ36は、第二苗台5rの前部に付設した駆動リミットスイッチ38bと接当して、該駆動リミットスイッチ38bが入り状態になるように両者36,38bの位置関係を設定してあり、次いで最初に搬送された苗トレイ36を第二苗台5rから持ち上げて、この苗トレイ36に育苗されている苗Nを植付作業機16の苗載せ台17に補給しようとすると、前記停止リミットスイッチ38aの入り状態が解除されて切り状態になると共に、二番目に搬送される苗トレイ36と接当して入り状態にある駆動リミットスイッチ38bを介して電動モータMが駆動するようになっており、それによって二番目に搬送される苗トレイ36の先端が停止リミットスイッチ38aと接当するまで再び複数の苗トレイ36を連続して搬送することができるように構成している。
【0015】
また、無端体コンベア5を構成する第一苗台5f、固定苗台5m、及び第二苗台5rの各コンベア25f、25m、25rの下側には、これら各コンベア25f、25m、25rの下面に対して苗トレイ36の厚さよりもやや大きな隙間eを存して機体の前後方向に
略並行なガイド体41f,41m,41rを延設している。これらのガイド体41f,41m,41rは、2本の丸棒42を主な構成部材としており、その後端部を若干下方に折り曲げることによって、対応する各コンベア25f、25m、25rの後端部近傍に僅かな開口部Pを形成している。
【0016】
そして、苗トレイ36に育苗されている苗Nを植付作業機16の苗載せ台17に補給し後の空になった苗トレイ36を、第二苗台5rのコンベア25rとガイド体41rの後端部との間に形成した開口部Pから挿入すると、この苗トレイ36の後端部が、回転駆動する各コンベア25f、25m、25rの表面に所定の前後間隔で形成したリブ状突起Rと当接するようになっており、それによって当該苗トレイ36は、第二苗台5rのコンベア25rと相対するガイド体41r、固定苗台5mと相対するガイド体41m、及びコンベア25fと相対するガイド体41fを介して無端体コンベア5の後端部から先端部まで搬送(逆送)することができる。尚、上述したガイド体41f,41mの後端部に対応するコンベア25f、25mとの間に形成した開口部Pは、ガイド体41rの先端から順番に受継される苗トレイ36の引っ掛かりを防止するためのものである。
【0017】
更に、無端体コンベア5の先端部を構成するコンベア25fの先端側には、上述の如く無端体コンベア5の後端部から先端部まで搬送される苗トレイ36を収容するために、コンベア25fと相対するガイド体41fの先端部と連係する複数の丸棒43を用いて構成した苗トレイ収容部44を設けてあり、この苗トレイ収容部44に収容された苗トレイ36を畦際の道路や畦から補助作業者が容易に回収することができるようにしてある。
【0018】
以上説明した無端体コンベア5によれば、この無端体コンベア5の上側往路で機体後部へ苗Nを搬送する一方、無端体コンベア5の下側復路で苗載せ台に苗Nを補給した後の苗トレイ36を機体前方へ搬送できるように構成したことによって、植付作業機16の苗載せ台17に苗Nを補給した後に空になった苗トレイ36(苗箱または苗スクレーパ)の返却路を、無端体コンベア5の横幅内に形成できるので、従来のようにボンネット6横のフロントステップ22上を乗用型移植機1のオペレータが歩いて移動する際に当該返却路が邪魔になることはない。また、無端体コンベア5の上側往路と下側復路を利用して機体後部への苗Nを搬送と機体前方への苗トレイ36の搬送を行なうことができるので、その装置構成がコンパクトなる。更に、無端体コンベア5を駆動させる場合にも、苗Nの供給と苗トレイ36の返却を1つの駆動源である電動モータMで以って行なえる利点がある。そして、無端体コンベア5は、走行機体4の前方から後部に亘って前高後低の傾斜姿勢で配設してあり、無端体コンベア5の上側往路の高い位置から低い位置へ重量の重い苗Nを搬送する一方、無端体コンベア5の下側復路の低い位置から高い位置へ重量の軽い苗トレイ36を搬送するようになっており、それによって無端体コンベア5の駆動源である電動モータMの駆動力がアシストされるので、この電動モータMの小型化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】乗用型田植機の側面図。
【図2】乗用型田植機の一部を省略した平面図。
【図3】無端体コンベアの構成を示す側面図。
【符号の説明】
【0020】
2 前輪
3 後輪
4 走行機体
5 無端体コンベア
16 植付作業機
17 苗載せ台
36 苗トレイ
N 苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(2)と後輪(3)を有する走行機体(4)の後部に植付作業機(16)を連結し、この植付作業機(16)の苗載せ台(17)から苗を掻き取って圃場に移植する移植装置(19)と、走行機体(4)の側部に該走行機体(4)の前方から後部に亘って延設し、畦際から機体上に苗(N)を供給できる無端体コンベア(5)を備えた乗用移植機において、前記無端体コンベア(5)の上側往路で機体後部へ苗(N)を搬送する一方、無端体コンベア(5)の下側復路で苗載せ台(17)に苗(N)を補給した後の苗トレイ(36)を機体前方へ搬送できるように構成したことを特徴とする乗用移植機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−65916(P2009−65916A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238596(P2007−238596)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】