説明

乱糸模様塗装方法

【課題】被塗物上に立体感がある乱糸模様を容易に安定して形成することができる乱糸模様塗装方法を提供する。
【解決手段】乱糸ガンを用いて粘度がせん断速度10,000sec−1において0.5Pa・sec以上かつ固形分濃度が40〜95質量%である塗料組成物を塗装することにより被塗物上に乱糸模様を形成する乱糸模様塗装方法。また、前記乱糸模様が、前記塗料組成物を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様である乱糸模様塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乱糸模様塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料をスプレーガンにより糸状又は綿状に噴出し、被塗物上に塗着させて乱糸模様を形成させる方法は知られており、装飾壁及び工芸品等に利用されている。
【0003】
特許文献1には、着色弾性塗膜を形成する弾性塗料を塗装し、ついで該塗面に異色の弾性塗料を乱糸塗装することを特徴とする乱糸模様仕上げ方法に関する発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、フッ素樹脂を含有する模様塗料組成物に関する発明が開示されている。この特許文献2には、該模様塗料組成物を用いた模様塗装の一態様として、乱糸ガンを用いて該模様塗料組成物を塗装することにより乱糸模様の塗装物が得られることが記載されている。
【0005】
しかしながら、乱糸模様塗装においては、特許文献1及び2に記載のように乱糸ガンと呼ばれる専用の塗装ガンなどがあるものの、乱糸ガンを用いても連続した糸状の塗料により形成される乱糸模様を安定して形成させることは難しい。その一例として、乱糸ガンから塗装された糸状の塗料が被塗物へ塗着する前に切れてしまい、被塗物に塗着した際には斑点状になることが挙げられる。従って、乱糸模様を安定して形成させるためには、使用する塗料毎に塗装条件を調節しなければならない点、塗装条件の調節に時間がかかる点などに課題があった。
【0006】
また、特許文献3には、金属線を輪状に形成した幾つかのリングを用意し、それらのリングを水平に、しかも離隔対向状に上下に配置することによって枠状体を構成しこの枠状体を各リング相互の配置関係を一定に保持しつつ、水平方向に回転させ、回転周面に乱糸塗料をスプレイし、枠状体を覆う繊維状被膜を形成する乱糸塗布方法に関する発明が開示されている。この発明により形成される乱糸模様は、該特許文献3の図3から図5に模式されるように、長さの異なる多数の糸が絡み合った乱糸模様である。
【0007】
また、特許文献4には、加圧吹付材料の吹出しノズル前面又は前後両面へ多量の低圧空気を吹出すことを特徴としたスプレー方法に関する発明が開示されている。この発明では、任意の太さの糸状の模様を形成しうることが記載されている。この発明により形成される乱糸模様は、該特許文献4の第4図に模式されるように、連続した糸状の模様が絡み合った乱糸模様である。
【0008】
しかしながら、特許文献3及び特許文献4で得られる乱糸模様は、単調な模様であり、立体感に乏しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−107379号公報
【特許文献2】特開平5−105829号公報
【特許文献3】特開昭55−39248号公報
【特許文献4】特開平4−66150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、被塗物上に立体感がある乱糸模様を容易に安定して形成することができる乱糸模様塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、粘度がせん断速度10,000sec−1において0.5Pa・sec以上及び固形分濃度が40〜95質量%である塗料組成物を、乱糸ガンを用いて塗料組成物の吐出量が5〜70ml/分及びエアの流量が10〜60Nl/分で塗装することにより被塗物上に乱糸模様を形成する乱糸模様塗装方法に関する。
【0012】
また本発明は、前記乱糸模様が、前記塗料組成物を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様である乱糸模様塗装方法に関する。
【0013】
本発明において、塗料組成物の粘度をせん断速度10,000sec−1において前記範囲とする理由は、以下のとおりである。
一般的に塗料組成物の粘度を測定する際は、B型粘度計、E型粘度計等の粘度計を使用する。そして、これら粘度計で塗料組成物の粘度を測定する場合のせん断速度は高くても1,000sec−1程度である。
しかし、通常の平滑な塗膜を形成する際、スプレー塗装時に塗料組成物に加わるせん断速度は1,000sec−1以上の高せん断速度であるといわれている。
本発明者らは、乱糸模様塗装においても乱糸ガンによるスプレー塗装時には高せん断速度における塗料組成物の粘度を考慮することが重要と考え、乱糸模様塗装において、高せん断速度における塗料組成物の粘度に着目した。
そこで、本発明者らは、乱糸模様塗装において乱糸ガンによりスプレー塗装する際のせん断速度(γ)を、円管を通る流体に関するHagen−poiseuilleの式[下記式(1)]、せん断応力に関する式[下記式(2)](T.C.Patton、「塗料の流動と顔料分散」、共立出版、1971年、p.12〜14)、並びに、粘度、せん断速度、及びせん断応力に関する式[下記式(3)]を用いて概算したところ、およそ10,000sec−1であった。
Q=πrp/8μL ・・・(1)
τ=pπr/2πrL ・・・(2)
γ=τ/μ ・・・(3)
(ここで、Qは流体の流量、rは円管の半径、pは圧力差、μは粘度、Lは円管の長さ、τはせん断応力、γはせん断速度、を表す。)
そのため、本発明者らは、せん断速度10,000sec−1における塗料組成物の粘度に着目し検討を重ねた。その結果、せん断速度10,000sec−1における塗料組成物の粘度、塗料組成物の固形分濃度、及び乱糸ガンの塗装条件を特定の範囲とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乱糸模様塗装方法において、せん断速度10,000sec−1における塗料組成物の粘度、塗料組成物の固形分濃度、及び乱糸ガンの塗装条件を特定の範囲とすることにより、被塗物上に立体感がある乱糸模様を容易に安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】乱糸ガンの一態様を表す図である。
【図2】塗料組成物A−1、A−2、A−3のせん断速度−粘度曲線である。
【図3】塗料組成物B−1、B−2、B−3のせん断速度−粘度曲線である。
【図4】実施例1において作成した乱糸模様である。
【図5】図4に示された乱糸模様の凹凸を測定した結果のグラフである。
【図6】比較例1において作成した模様である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
塗料組成物
本発明の乱糸模様塗装方法に使用する塗料組成物の粘度は、せん断速度10,000sec−1において0.5Pa・sec以上である。前記せん断速度における粘度が0.5Pa・s未満の場合、乱糸ガンより吐出された塗料組成物が被塗物に塗着する際にはそのほとんどが糸状ではなく斑点状であるため、形成される模様に斑点が生じやすく、糸状の模様がほとんどない模様となる。一方、前記せん断速度における粘度が0.5Pa・sec以上の場合には、乱糸ガンより吐出された塗料組成物は連続した糸状で被塗物に塗着するため、乱糸模様を安定して形成することができる。塗料組成物の前記せん断速度における粘度は、好ましくは0.5〜3.5Pa・secであり、より好ましくは0.8〜2.0Pa・secである。これら範囲の下限値は、形成される乱糸模様に斑点が生じにくくなる点で意義がある。これら範囲の上限値は、塗料タンクから塗装ガンへ塗料組成物を送りやすくする点で意義がある。
【0017】
ここで、通常の粘度計では、せん断速度10,000sec−1のような高せん断速度における塗料組成物の粘度を測定することは困難である。そのため、本発明において、せん断速度10,000sec−1における塗料組成物の粘度は、下記の方法により求められる粘度である。
はじめに、粘度計(HAAKE RheoStress RS150、ドイツ HAAKE社製)を用いて、低せん断速度〜中せん断速度領域における塗料組成物のせん断速度(γ)とせん断応力(τ)の関係を求める(測定温度は25℃;せん断速度は1〜1,000sec−1の間で変化させた。)
続いて、上記において求めた塗料組成物のせん断速度(γ)とせん断応力(τ)の関係をCASSON粘度式[τ1/2=τc1/2+(μc・γ)1/2;ここで、τcは降伏値、μcは残留粘度を表す]にあてはめ、高せん断速度領域におけるせん断速度(γ)とせん断応力(τ)の関係を求めて、せん断速度10,000sec−1における塗料組成物の粘度[せん断応力(τ)/せん断速度(γ)]を求めた。なお、塗料組成物のせん断速度(γ)とせん断応力(τ)の関係をCASSON粘度式にあてはめる際には、せん断速度(γ)が1.0、2.0、5.0、10、20、50、100、200、500、1000sec−1のデータを用いた。
【0018】
本発明に用いる塗料組成物は、前記粘度を満たす塗料組成物であれば、その種類、組成は特に限定されるものではない。前記塗料組成物としては、例えば、樹脂成分、着色顔料及び/又は光輝性顔料、並びに溶剤等を含有する塗装組成物が挙げられる。また、前記塗料組成物としては、常温乾燥性塗料組成物、常温硬化性塗料組成物及び熱硬化性塗料組成物等が挙げられる。
【0019】
樹脂成分としては、通常、基体樹脂及び必要に応じて架橋剤を含有することができる。基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。基体樹脂は、架橋性官能基を有していてもよい。架橋性官能基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、シラノール基等が挙げられる。また、架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0020】
着色顔料としては、インク用、塗料用として公知の顔料を、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。該着色顔料の具体例としては、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物顔料;チタンイエロー等の複合酸化金属顔料;カーボンブラック、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、インジゴ系顔料等が挙げられる。さらにこれらの着色顔料に公知の表面処理、例えば、酸・塩基処理、カップリング剤処理、プラズマ処理、酸化/還元処理等が施されたものも使用することができる。
【0021】
光輝性顔料としては、インク用、塗料用として従来公知の顔料を、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。該光輝性顔料の具体例としては、アルミニウム、銅、ニッケル合金、ステンレス等の鱗片状金属顔料;表面を金属酸化物で被覆した鱗片状金属顔料;表面に着色顔料を化学吸着させた鱗片状金属顔料;表面に酸化還元反応を起こさせることにより酸化アルミニウム層を形成した鱗片状アルミニウム顔料;着色顔料や無機金属酸化物で被覆した着色アルミニウム顔料;ガラスフレーク顔料;表面を金属又は金属酸化物で被覆したガラスフレーク顔料;表面に着色顔料を化学吸着させたガラスフレーク顔料;表面を二酸化チタンで被覆した干渉マイカ顔料;干渉マイカ顔料を還元着色した還元マイカ顔料;表面に着色顔料を化学吸着させた着色マイカ顔料;表面を酸化鉄で被覆した着色マイカ顔料;表面を二酸化チタンで被覆したグラファイト顔料;表面を二酸化チタンで被覆したシリカフレーク;表面を二酸化チタンで被覆したアルミナフレーク顔料;板状酸化鉄顔料;ホログラム顔料;合成マイカ顔料;らせん構造を持つコレステリック液晶ポリマー顔料等が挙げられる
溶剤としては、特に限定されるものではなく、公知の塗料用有機溶剤及び/又は水が挙げられる。
【0022】
樹脂成分、着色顔料及び光輝性顔料は、溶剤に溶解または分散して使用することができる。
【0023】
前記塗料組成物には、必要に応じて、チクソトロピック剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを配合することができる。
【0024】
前記塗料組成物の粘度をせん断速度10,000sec−1において0.5Pa・sec以上とする方法は、特に限定されるものではない。例えば、塗料組成物に含まれる固形分の割合を高くする方法、着色顔料の割合を高くする方法、樹脂成分の分子量を高くする方法、及び塗料組成物にチクソトロピック剤を添加する方法等が挙げられる。これら方法を適宜採用し又は組み合わせることで上記粘度とすることが可能である。
【0025】
前記塗料組成物の固形分濃度は40〜95質量%である。固形分濃度が40質量%未満であると、揮発分が多すぎるため乾燥前に対する乾燥後の膜厚の減少が大きくなり、形成される乱糸模様の立体感が乏しくなる。一方、固形分濃度が95質量%を越えると、塗膜欠陥が生じやすくなり、さらに乱糸ガンの洗浄性が悪くなる。前記塗料組成物の固形分濃度は、好ましくは50〜80質量%であり、より好ましくは60〜70質量%である。これら範囲とすることで、より明瞭な立体感がある乱糸模様を得ることができる。
【0026】
被塗物
被塗物としては、自動車車体、自動車内装部品、家電製品、家具等が挙げられる。被塗物としては、これら自動車車体等を形成する冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、錫メッキ鋼板等の鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、マグネシウム板、マグネシウム合金板等の金属基材;プラスチック成形体、プラスチック発泡体等のプラスチック基材;ガラス基材等も包含する。
【0027】
被塗物としては、その表面に、脱脂処理;リン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理が施されたものでもよい。また、被塗物としては、その表面に、隠蔽性、防食性等を付与するために、カチオン電着塗料、プライマー塗料等の下塗り塗膜を形成したものであってもよい。更に、耐チッピング性、層間付着性等の向上のために、該下塗り塗膜上に熱硬化性中塗り塗料等の中塗り塗膜を形成したものであってもよい。前記下塗り塗膜及び中塗り塗膜は、硬化してあってもよく、または未硬化であってもよい。
【0028】
上記被塗物には、本発明の前記塗料組成物の塗装前に、必要に応じて、予め、着色ベース塗料を塗装しておいてもよい。着色ベース塗膜は、樹脂成分並びに着色顔料及び/又は光輝性顔料を含んでなる液状着色ベース塗料を塗装することで形成することができる。樹脂成分、着色顔料、光輝性顔料としては、例えば、前記塗料組成物の説明において例示した樹脂成分、着色顔料、光輝性顔料が挙げられる。
【0029】
乱糸ガン
本発明に用いる乱糸ガンは、従来公知の乱糸ガンを用いることができる。例えば、市販の乱糸ガンとしては、SGD−71(商品名、アネスト岩田社製、乱糸ガン)が挙げられる。
【0030】
また本発明に用いる乱糸ガンの他の一態様としては、例えば図1に示す乱糸ガンが挙げられる。図1に示す乱糸ガン1は、ガン前面の略中心に吐出ノズル2を配している。また、該乱糸ガン1は、複数のエアノズル3を、吐出ノズル2を中心点とした略同心円上に、吐出ノズル2と軸方向が略平行となるように配している。
【0031】
吐出ノズルの口径は、通常、内径0.5〜2.5mmであり、好ましくは内径0.8〜1.5mmである。これら範囲は、安定して乱糸模様を形成しうる点で意義がある。
【0032】
塗装方法
本発明の乱糸模様塗装方法において、吐出ノズルから吐出される塗料組成物の吐出量は、5〜70ml/分である。好ましくは5〜50ml/分、より好ましくは10〜30ml/分である。これら範囲の下限値は、形成される乱糸模様において斑点が形成されることを低減しうる点で意義がある。これら範囲の上限値は、形成される乱糸模様において糸状部分が太くなりすぎることにより、乱糸模様が不鮮明になることを低減させる点で意義がある。
【0033】
本発明の乱糸模様塗装方法において、エアノズルから吐出されるエアの流量は、10〜60Nl/分である。好ましくは10〜50Nl/分、より好ましくは20〜40Nl/分である。これら範囲の下限値は、吐出された塗料組成物の糸状物が被塗物に塗着するまでに適度に揺れ広がることを可能とする点で意義がある。これら範囲の上限値は、形成される乱糸模様において斑点が形成されることを低減しうる点で意義がある。
【0034】
本発明の乱糸模様塗装方法において、被塗物と乱糸ガンとの距離は特に限定されるものではない。好ましくは50〜300mmであり、より好ましくは100〜200mmである。これら範囲の下限値は、吐出された塗料組成物の糸状物が被塗物に塗着するまでに適度に広がることを可能とする点で意義がある。これら範囲の上限値は、形成される乱糸模様において斑点が形成されることを低減しうる点で意義がある。
【0035】
本発明の乱糸模様塗装方法において、乾燥条件は特に限定されるものではなく、通常の塗料組成物の塗装における乾燥条件を適用することができる。
【0036】
乱糸模様
本発明において形成される乱糸模様は、主に、前記塗料組成物を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様である。該乱糸模様とすることにより、立体感のある乱糸模様となる。該乱糸模様に立体感があるのは、該乱糸模様のうち、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分との間で、厚み及び幅(溜まることによる模様部分の広がり)が適度に異なることに起因するものと考えられる。
【0037】
前記乱糸模様の糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分は、主に、塗料組成物を連続した糸状で被塗物上に塗着させた際に糸状の模様が交差する所、糸状の模様が互いに接する所、並びに糸状の模様が湾曲及び屈曲した所に生じる。なお、前記乱糸模様の糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分は、得られる乱糸模様が立体感のある乱糸模様である限りにおいて、糸状の模様が交差する所、糸状の模様が互いに接する所、並びに糸状の模様が湾曲及び屈曲した所のいずれかの少なくとも一部分で生じていればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0039】
<製造例1>
固形分濃度70質量%のアクリル樹脂(重量平均分子量7,000)100質量部に対して、カーボンブラック 0.5質量部、及び顔料分散剤 0.6質量部を酢酸ブチルの存在下で混合して、固形分濃度が67質量%、粘度がせん断速度10,000sec−1において0.86Pa・secの塗料組成物A−1を製造した。塗料組成物A−1のせん断速度−粘度曲線を図2に示した。
【0040】
<製造例2>
固形分濃度70質量%のアクリル樹脂(重量平均分子量7,000)100質量部に対して、カーボンブラック 0.5質量部、及び顔料分散剤 0.6質量部を酢酸ブチルの存在下で混合して、固形分濃度が64質量%、粘度がせん断速度10,000sec−1において0.52Pa・secの塗料組成物A−2を製造した。塗料組成物A−2のせん断速度−粘度曲線を図2に示した。
【0041】
<製造例3>
固形分濃度70質量%のアクリル樹脂(重量平均分子量7,000)100質量部に対して、カーボンブラック 0.5質量部、及び顔料分散剤 0.6質量部を酢酸ブチルの存在下で混合して、固形分濃度が60質量%、粘度がせん断速度10,000sec−1において0.30Pa・secの塗料組成物A−3を製造した。塗料組成物A−3のせん断速度−粘度曲線を図2に示した。
【0042】
<製造例4>
固形分濃度70質量%のアクリル樹脂(重量平均分子量7,000)100質量部に対して、カーボンブラック 0.5質量部、顔料分散剤 0.6質量部、及びチクソトロピック剤(ディスパロン6900−10X、楠本化成社製)1.4質量部を酢酸ブチルの存在下で混合して、固形分濃度が67質量%、粘度がせん断速度10,000sec−1において0.88Pa・secの塗料組成物B−1を製造した。塗料組成物B−1のせん断速度−粘度曲線を図3に示した。
【0043】
<製造例5>
固形分濃度70質量%のアクリル樹脂(重量平均分子量7,000)100質量部に対して、カーボンブラック 0.5質量部、顔料分散剤 0.6質量部、及びチクソトロピック剤(ディスパロン6900−10X、楠本化成社製)1.4質量部を酢酸ブチルの存在下で混合して、固形分濃度が64質量%、粘度がせん断速度10,000sec−1において0.55Pa・secの塗料組成物B−2を製造した。塗料組成物B−2のせん断速度−粘度曲線を図3に示した。
【0044】
<製造例6>
固形分濃度70質量%のアクリル樹脂(重量平均分子量7,000)100質量部に対して、カーボンブラック 0.5質量部、顔料分散剤 0.6質量部、及びチクソトロピック剤(ディスパロン6900−10X、楠本化成社製)1.4質量部を酢酸ブチルの存在下で混合して、固形分濃度が60質量%、粘度がせん断速度10,000sec−1において0.32Pa・secの塗料組成物B−3を製造した。塗料組成物B−3のせん断速度−粘度曲線を図3に示した。
【0045】
<実施例1>
図1に示す乱糸ガン(吐出ノズルの口径:0.82mm)を用い、塗料組成物の吐出量を20ml/分、エアノズルから吐出されるエアの流量を30NL/min、被塗物と乱糸ガンの距離を150mmにして、塗料組成物A−1を塗装し被塗物上に模様を形成した。得られた模様は、斑点模様がほとんどなく、前記塗料組成物A−1を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様であった。得られた乱糸模様を図4に示した。得られた乱糸模様は立体感がある模様であった。また、得られた乱糸模様の断面を図4のA−A’線に沿って測定して図5に示した。図5より、得られた乱糸模様の各部分の厚み及び幅が異なっていることが確認できる。
【0046】
<実施例2>
実施例1において、塗料組成物A−1を塗料組成物A−2に替えた以外は実施例1と同様の条件で塗料組成物A−2を塗装し、被塗物上に模様を形成した。得られた模様は、斑点模様がほとんどなく、前記塗料組成物A−2を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様であった。また、得られた乱糸模様は、実施例1と同様に立体感がある模様であった。
【0047】
<実施例3>
実施例1において、塗料組成物A−1を塗料組成物B−1に替えた以外は実施例1と同様の条件で塗料組成物B−1を塗装し、被塗物上に模様を形成した。得られた模様は、斑点模様がほとんどなく、前記塗料組成物B−1を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様であった。また、得られた乱糸模様は、実施例1と同様に立体感がある模様であった。
【0048】
<実施例4>
実施例1において、塗料組成物A−1を塗料組成物B−2に替えた以外は実施例1と同様の条件で塗料組成物B−2を塗装し、被塗物上に模様を形成した。得られた模様は、斑点模様がほとんどない、前記塗料組成物B−2を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様であった。また、得られた乱糸模様は、実施例1と同様に立体感がある模様であった。
【0049】
<比較例1>
実施例1において、塗料組成物A−1を塗料組成物A−3に替えた以外は実施例1と同様の条件で塗料組成物A−3を塗装し、被塗物上に模様を形成した。得られた模様は、わずかに糸状の模様が形成されているものの、ほとんどが斑点模様からなる模様であった。得られた模様を図6に示した。
【0050】
<比較例2>
実施例1において、塗料組成物A−1を塗料組成物B−3に替えた以外は実施例1と同様の条件で塗料組成物B−3を塗装し、被塗物上に模様を形成した。得られた模様は、わずかに糸状の模様が形成されているものの、ほとんどが斑点模様からなる模様であった。
【符号の説明】
【0051】
1:乱糸ガン
2:吐出ノズル
3:エアノズル
4:塗料供給管
5:エア供給管
6:製造例1で得られた塗料組成物A−1のせん断速度−粘度曲線
7:製造例2で得られた塗料組成物A−2のせん断速度−粘度曲線
8:製造例3で得られた塗料組成物A−3のせん断速度−粘度曲線
9:製造例4で得られた塗料組成物B−1のせん断速度−粘度曲線
10:製造例5で得られた塗料組成物B−2のせん断速度−粘度曲線
11:製造例6で得られた塗料組成物B−3のせん断速度−粘度曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度がせん断速度10,000sec−1において0.5Pa・sec以上及び固形分濃度が40〜95質量%である塗料組成物を、乱糸ガンを用いて塗料組成物の吐出量が5〜70ml/分及びエアの流量が10〜60Nl/分で塗装することにより被塗物上に乱糸模様を形成する乱糸模様塗装方法。
【請求項2】
前記乱糸模様が、前記塗料組成物を連続した糸状で被塗物上に塗着させてなり、糸状の模様部分と、糸状の模様が混じりあい溜まった模様部分とを含む乱糸模様である請求項1記載の乱糸模様塗装方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−201388(P2010−201388A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51949(P2009−51949)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】