乳化膜、乳化膜モジュール、及びエマルジョンの製造方法
【課題】長期安定性に優れたエマルジョンを高効率で調製する高性能な乳化膜の提供。
【解決手段】細孔を有する乳化膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、乳化膜。
【解決手段】細孔を有する乳化膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、乳化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョンを調製するために使用する乳化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な液滴のサイズが精密に制御された単分散エマルジョンを効率的に製造する技術は、医薬品、化粧品、及び食品などの様々な分野において重要な課題とされている。
【0003】
近年、世界的にますます地球環境保全への関心が高まっており、特に自動車エンジン、コージェネレーションエンジンにおいて、エンジンから排出されるNOx若しくは黒煙、又はPM(粒子状物質)の低減が検討されている。この解決策のひとつとして油中水滴型エマルジョン燃料が検討されており、その有害物質低減効果が報告されている(非特許文献1および2参照)。
【0004】
エマルジョン燃料の製造法に関しては、インパイプミキサー法又は高周波による乳化等が開示されているが(特許文献1参照)、これらの電力消費量が大きい事に加えて、これらによって生成した乳化粒子が大きいために、長期間に亘って安定なエマルジョンを製造することが困難であった。
【0005】
エマルジョン燃料の安定化に関しては、特殊な乳化剤を使用したもの(非特許文献3、特許文献2参照)、又は乳化膜を用いて乳化すること(非特許文献4、特許文献3参照)が開示されているが、いずれも満足できる安定性が得られていない。
【0006】
一方、陽極酸化ポーラスアルミナを用いた均一な微細孔を有する乳化膜を用いて、微細な単分散エマルジョンを作製する方法が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、アルミナ自体が脆いため、分散質に圧力をかけて分散媒中に押出す際に、圧力に十分耐えられる程度の厚みが必要であると考えられる。その結果、細孔を有する膜の膜厚が厚い場合は、通過時の圧力損失が大きくなり、膜の処理能力を上げることが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再公表特許WO2004/004881号
【特許文献2】特許第3858230号
【特許文献3】特開2007−106975号
【特許文献4】特開2009−178698号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】戸田建機、MATERIAL STAGE、8、11(2009)P69
【非特許文献2】谷脇憲ら、MATERIAL STAGE、8,11、(2009)P82
【非特許文献3】田嶋和夫 神奈川大学工学部報告、46、(2007)P3
【非特許文献4】渡邉孝司、機能材料、28、8(2008)P62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、長期安定性に優れたエマルジョンを高効率で調製できる乳化膜モジュール、該モジュールに使用する乳化膜および乳化膜積層体、並びに該モジュールを用いたエマルジョン製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、細孔の孔径分布が極めて狭く極薄の乳化膜が、長期安定性に優れたエマルジョンを高効率で調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下に記載の乳化膜及びその製造方法、乳化膜積層体及びその製造方法、乳化膜モジュール、並びにエマルジョンの製造方法に関するものである。
【0012】
[1] 細孔を有する乳化膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、乳化膜。
【0013】
[2] 細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の乳化膜の製造方法。
【0014】
[3] 前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、上記[2]に記載の製造方法。
【0015】
[4] 突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の乳化膜の製造方法。
【0016】
[5] 前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、上記[4]に記載の製造方法。
【0017】
[6] 上記[1]に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る乳化膜積層体。
【0018】
[7] 上記[1]に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該乳化膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む乳化膜積層体の製造方法。
【0019】
[8] 上記[1]に記載の乳化膜または上記[6]に記載の乳化膜積層体によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に分散質入口を有し、かつ第2の空間に分散媒入口と分散媒出口とを有する、乳化膜モジュール。
【0020】
[9] 上記[8]に記載の乳化膜モジュールの分散媒入口から分散媒出口に向かって分散媒を流すとともに、分散質入口から分散質を圧送して前記乳化膜の細孔を通過させる工程、及び
該分散媒中で該分散質を微粒子化することによって、該分散質が該分散媒に分散されているエマルジョンを得る工程
を含むエマルジョンの製造方法。
【0021】
[10] 前記分散質が水であり、かつ前記分散媒が燃料油である、上記[9]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の乳化膜は、微細孔の孔径分布が小さく、極薄であり、かつ膜表面の平滑性に優れるため、粒径の揃った分散質を含み、かつ経時安定性に優れているエマルジョンを高効率で調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の乳化膜の一態様を示す断面模式図である。
【図2】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る鋳型を作製するプロセスを示す図である。
【図3】テーパー形状の突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写するプロセスを示す図である。
【図4】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する第1の鋳型からエマルジョン燃料調製用乳化膜を作製するプロセスの一例を示す図である。
【図5】実施例1および2で用いた乳化膜(平膜)モジュールを示す断面模式図である。
【図6】比較例1で用いた高周波振動発生装置を示す図である。
【図7】比較例2で用いた平膜モジュールを示す断面模式図である。
【図8】実施例のモジュールの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の乳化膜は、細孔を有しており、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下の微多孔膜である。なお、本発明における細孔とは、直径が約10〜300nmの微細な寸法を有する孔をいう。
【0025】
本発明の乳化膜は、膜の片側に分散質(例えば水)を配置し、他方の側に分散媒(例えば油)を配置し、該膜を通して分散質を分散媒の中に押し出すことによって、微細、かつ粒径の揃った経時安定性に優れたエマルジョンを製造することが可能になる。
【0026】
エマルジョンにはW/O型(油中水分散型)及びO/W型(水中油分散型)等があるが、いずれの場合でも分散粒子が小さいほど長期間に亘る分散安定性に優れることが知られている。分散粒子径が大きいと、粒子同士が相互に会合しやすく、会合粒子はさらに会合を重ねてエマルジョンを破壊していく。小さな粒子の中に粗大な粒子が混入している場合も同様であり、粗大粒子が小さい粒子を取り込むので、エマルジョンは破壊される。したがって、できるだけ分散質の平均粒子径が小さく、かつその粒径分布が狭いほど、長期安定性に優れたエマルジョンが得られる。
【0027】
乳化膜によるエマルジョン作製(膜乳化)では、分散質を該乳化膜が有する細孔を通して微粒子化して分散媒中に分散させる。このときエマルジョン中の分散質の粒子径は、該細孔の細孔径に依存する。従って、乳化膜の細孔径はできるかぎり小さく、また孔径分布も小さいことが好ましい。この細孔径に関しては、分散質が膜を通過して分散媒に接触する際に、エマルジョン中の分散質の粒子径が決まるので、膜内部の細孔径が小さくても、膜開孔部の細孔径が大きければエマルジョン径は大きくなる。従って、膜の分散媒に接する側の最表面の開孔の平均径が小さく、かつ径分布が狭いことが好ましい。
【0028】
本発明の乳化膜の細孔の最表面の孔径分布における標準偏差は、平均値の30%以下であり、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明の乳化膜は、後述する多孔性フィルム基材に比較して表面平滑性が高いため、生成したエマルジョンが局所に滞留し難くなり、会合することなく流れやすい。従って、本発明の乳化膜により、長期安定性に優れたエマルジョンを製造することができると考えられる。当然ながら、本発明の乳化膜は、W/O型(油中水分散型)及びO/W型(水中油分散型)のいずれの調製に使用してもよい。
【0030】
本発明の別の態様は、上記の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る乳化膜積層体である。従って、本発明の乳化膜を平滑な多孔性フィルム基材に積層した乳化膜積層体として使用する場合は、分散質を多孔性フィルム側から乳化膜側に向けて流し、乳化膜表面でエマルジョンを生成させるのが好ましい。
【0031】
また本発明の乳化膜は厚みが薄いため、分散質を分散媒中に押出す(例えば、圧送する)際の圧損が小さい。そのため、より高粘度の分散質を高速で押出し、効率良くエマルジョンを調整することが可能である。乳化膜の厚みは30〜1000nm、好ましくは30〜500nm、より好ましくは30〜100nm、さらに好ましくは30nmである。
【0032】
エマルジョンを形成する分散質と分散媒の組合せとしては公知のものが適用できるが、特に水と燃料油等の組合せを挙げることができる。エマルジョン中の分散質の粒子径の標準偏差を小さくするためには、分散媒中に押し出す分散質の粘度は、1〜100mPa・sの範囲とすることが好ましく、界面活性剤等の添加により、水相と油相の界面エネルギーを0.1〜1.5mN/mの範囲とすることが好ましい。
【0033】
以下に、本発明の気液接触膜の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の乳化膜の一態様を示す断面模式図である。本態様の乳化膜の細孔は、薄膜の表面から裏面に渡って細孔径が増加していくテーパー形状を有している。本発明の乳化膜を後述する製造方法により製造する場合は、乳化膜の表面から裏面に亘って細孔径が均一な場合、鋳型から乳化膜を離型する工程において、薄膜の剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性があるため、本態様のテーパー形状がより好ましい。
【0034】
次に、本発明の乳化膜の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む乳化膜の製造方法である。ここで、該第1の鋳型は、たとえば、アルミニウム板を陽極酸化することにより好適に作製することができる。
【0035】
第2の製造方法は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む乳化膜の製造方法である。ここで、該第3の鋳型は、例えば、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより好適に作製することができる。
【0036】
上記2種の製造方法において、第1の鋳型は、本発明の乳化膜と同様に細孔から成る凹部を有する鋳型である。また、第2の鋳型、及び第3の鋳型は本発明の乳化膜とは逆に突起から成る凸部を有する鋳型であり、前記第1の鋳型とはポジとネガの関係にある。
【0037】
上記第1の製造方法について、より詳細に説明する。
図2は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型(陽極酸化ポーラスアルミナ)の作製方法を示す。陽極酸化ポーラスアルミナ3は、陽極酸化によりアルミニウム基材2の表面に形成されるが、陽極酸化ポーラスアルミナ3の細孔4の形状は、底部を除いてほぼ一定の径を有する円筒形状をしており、これをそのまま鋳型として用いた場合、薄膜の金型からの剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性がある。
【0038】
一方、陽極酸化とエッチングによる細孔の拡大処理とを組み合わせることにより、所望のテーパー形状の孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る反射防止膜作製用のスタンパを製造する方法が知られている(特開2005−156695号公報)。
【0039】
上記方法について簡単に述べると、アルミニウム基材2に所定の時間、陽極酸化を実施して所望の深さの細孔を形成した後、適当な酸溶液中に浸漬することにより孔径の拡大処理を行う。その後、再び陽極酸化を行うことで、1段階目に比較して孔径の小さな細孔を形成する。この操作を繰り返すことにより、テーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。繰り返し段数を増やすことで、より滑らかなテーパー形状の細孔を得ることができる。陽極酸化時間と孔径拡大処理時間とを調整することで、様々なテーパー形状を有する細孔の形成が可能であり、この方法を乳化膜の製造に利用することで、ピッチ、孔の深さに合わせて最適な薄膜の構造設計が可能となると考えられる。
【0040】
また、定電圧で長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化膜を除去し、再び同一条件で陽極酸化を施すことで作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、高い孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型とすることが可能となる。
【0041】
使用する陽極酸化ポーラスアルミナとしては、例えば、シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜60Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができる。また、硫酸を電解液として用い、化成電圧25V〜30Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることもできる。このような陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、より高い規則性を有する窪み配列を有する鋳型を得ることができる。
【0042】
さらに、陽極酸化ポーラスアルミナの作製において、陽極酸化に先立ちアルミニウム表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生点とすることもでき、任意の配列を有する窪み配列を鋳型とすることが可能となる。
【0043】
上記方法により作製した第1の鋳型の細孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0044】
金属、金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、一般的にはNi、Ta、SiO2、炭素、有機SOG等が使用される。これらの中で、Niは電鋳が容易であるため好ましい。
【0045】
また、第1の鋳型の細孔に充填される高分子としては、加工性を有するものであれば限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF(登録商標:DuPont社製)、ハイフロンAD(登録商標:Solvay Solexis社製)、サイトップ(登録商標:旭硝子社製))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第1の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。これらの例の中で、フッ素系樹脂は第1の鋳型からの離型性に優れるため好ましい。
【0046】
さらに、上記第2の鋳型に高分子を充填し、その後、該第2の鋳型から該高分子膜を離型することによって、乳化膜を得ることができる。
【0047】
第2の鋳型に高分子を転写する方法としては、特に限定はされないが、光インプリント、熱インプリント、室温インプリント、ナノキャスティングインプリント等の方法を用いることができる。高分子としては、第2の鋳型に充填したときに、第2の鋳型の材料と接着又は融着等して問題が起こるものでなければ特に限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF(登録商標)、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第2の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。
【0048】
転写に使用する高分子の体積を第2の鋳型の突起から成る凹凸の空隙の体積より多く使用した場合は、薄膜の孔径の小さい側の細孔が余分の残膜で塞がれた状態となっているため、離型前又は離型後に、この残膜をエッチング処理することにより除去して貫通開孔薄膜とする必要がある。エッチング方法としては、プラズマ等を利用した高真空ドライエッチング、大気圧ドライエッチング、溶剤を用いたウェットエッチング等を挙げることができる。これらの中でも大気圧ドライエッチングは低コストでエッチング精度が高いため好ましい。
【0049】
以上の工程によって、乳化膜を製造するプロセスの一例を図4に示す。
陽極酸化ポーラスアルミナ3から成る第1の鋳型の表面に、無電解メッキ又はスパッタリングによりNi−P、Au、Cr等から成る表面導電層を形成した後、Ni等の電解メッキにより第2の鋳型を形成する。第1の鋳型から第2の鋳型を剥離させるか、第1の鋳型を選択的に溶解除去することにより第2の鋳型を得る。次に、第2の鋳型に高分子、例えば、ポリスルホンを溶媒に溶解させた溶液を充填し、溶媒を乾燥させて高分子から成る薄膜を得る。この薄膜の余分に充填された高分子膜をプラズマエッチングで除去した後、第2の鋳型から剥離してエマルジョン燃料調製用乳化膜を得る。該エマルジョン燃料調製用乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させることで、本発明のエマルジョン燃料調製用乳化膜積層体を得ることができる。
【0050】
次に、上記第2の製造方法について、より詳細に説明する。
図3は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型から、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型を作製する方法を示す。
【0051】
上記第3の鋳型は、干渉露光法によって好適に作製することができる。まず、平滑な基板7(例えば、研磨されたガラス原盤)上に、ポジ型フォトレジストを塗布する。ポジ型フォトレジストは半導体装置製造の技術分野において周知のレジストであり、フェノール性水酸基を有する樹脂と、光酸発生剤とを含む組成物である。この組成物は光照射前のアルカリ性現像液に対する溶解性は低いが、光照射によって酸が発生しアルカリ性現像液に対する溶解性が高くなる。この現像液に対する光照射部と光未照射部の溶解性の差異を利用してパターニングを行うことが可能となる。以下においては、上記光未照射部のことを硬化部、上記光照射部のことを未硬化部ともいう。
【0052】
次に、レーザー光を用いた干渉露光法(以下「レーザー干渉露光法」ともいう。)により露光を行い、微細なテーパー形状の突起から成る硬化部と残余の未硬化部を得る。露光後、現像を行い未硬化部を除去することによって、突起から成る凸部8を有する第3の鋳型9として得る。
【0053】
フォトレジストに形成された凸部8は、レーザー干渉露光法により、凸部の頂上部8aが細くなる一方、底部8bが太くなる、いわゆるテーパー形状となる。この現象は、レーザー光のパワー強度がフォトレジスト表面で強く、フォトレジストの中を進むに従って弱くなり、その結果、フォトレジスト表面で露光量が大きくなって頂上部8aが浸食され、フォトレジストの深さ方向へ進むに従って露光量が小さくなって深さ方向への浸食が弱くなり、底面部8bが広がるためであると考えられる。従ってフォトレジストの感光性の度合い(γ値)によってテーパーの角度を調整することができる。
【0054】
なお、レーザー干渉露光法とは、特定の波長のレーザー光を角度θ’の2つの方向から照射して形成される干渉縞を利用した露光法であり、角度θ’を変化させることで使用するレーザーの波長で制限される範囲内で色々なピッチを有する凹凸格子の構造を得ることができる。例えば、方向を120度ずつずらした3組の上記干渉縞を重ね合わせて露光することで、上記のテーパー形状の突起から成る凹凸パターンを形成することができる。
【0055】
干渉露光に使用できるレーザーとしては、TEM00モードのレーザーに限定される。TEM00モードのレーザー発振できる紫外光レーザーとしては、アルゴンレーザー(波長364nm、351nm、333nm)、又はYAGレーザーの4倍波(波長266nm)などが挙げられる。
【0056】
また、形成されたパターンのエッチングによってもテーパーの角度を変化させることが可能である。すなわち、高真空プラズマエッチングにおいて、エッチングの異方性を制御することによりテーパーの角度を変えることができる。
【0057】
一般的に入射する反応性イオンの平均自由行程を低圧力にして長くする程、垂直にガスが入射して異方性が大きくなるが、この場合、垂直方向に一様にエッチングされるためテーパーの角度の変化は小さい。逆に圧力を高めに設定することにより、横方向への反応性イオンの入射が増加して横方向にもエッチングされ、テーパーの角度が変化する。
【0058】
上記方法により作製した第3の鋳型に対して、図3(b)に示すように、表面導電層を形成した後Ni電鋳を行い、第1の鋳型を形成する。該第3の鋳型を除去すると凹凸が反転して転写された凹凸を有する第1の鋳型10が得られる(図3(c))。
【0059】
上記方法により作製した第1の鋳型を用いて、その孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、該第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0060】
上記第2の製造方法で作製した第2の鋳型は、前記第1の製造方法で作製した第2の鋳型と同様に、高分子を充填し、該第2の鋳型から離型することによって、連続的に細孔径が変化するテーパー形状を有し、細孔径の孔径分布が非常に小さい乳化膜を得ることができる。
【0061】
上記の製造方法によって、細孔ピッチが30〜1000nmであり、細孔径が10〜300nmであり、細孔深さが30nm〜1000nmであり、かつ細孔径の孔径分布が極めて狭いことを特徴とする乳化膜を得ることができる。細孔径の孔径分布が非常に小さいとは、孔径(孔の直径)の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下であること、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であることを言う。
【0062】
また、本発明の乳化膜の気孔率は、特に限定されないが、通常5%以上60%以下、好ましくは、20%以上、更に好ましくは、30%以上、特に好ましくは40%以上である。エマルジョンを効率的に得るためには気孔率は高いことが好ましい。一方で、気孔率が高すぎると隣接する細孔から形成された液滴が会合するので、分散粒子径の均一性が低下することがある。従って、この気孔率は60%以下であることが好ましい。
【0063】
上記製造方法によって得られた乳化膜はそのまま用いることも可能であるが、機械的強度を高めるために多孔性フィルム基材と積層して乳化膜積層体として用いることが好ましい。多孔性フィルム基材としては、微多孔膜、不織布、相分離膜、延伸開口膜等を挙げることができる。
【0064】
多孔性フィルム基材の材質としては、ステンレス等の金属、シリカ、アルミナ、炭素等の無機物、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等に代表される有機物を挙げることができる。
【0065】
多孔性フィルム基材の孔径は、乳化膜の孔径より大きいものが好ましく、1〜100μmの範囲にあることがより好ましい。また、多孔性フィルム基材の厚みは10〜1000μmであることが強度と気孔率のバランス上好ましい。乳化膜の多孔性フィルム基材への積層は薄膜を金型から剥離しながら多孔性フィルム基材に重ね合わせていく方法が一般的であるが、残膜をエッチングすると薄膜が金型から離型し難くなる場合がある。この場合は、積層した後に残膜をエッチングする必要がある。しかし単純な移し変えによる重ね合わせでは残膜は多孔性フィルム基材側になるので、後工程でエッチングができない問題がある。そのような問題を防ぐためには、一度別の基材に移し取って裏返しにして多孔性フィルム基材に重ね合わせる必要がある。この別の基材は、金型から剥がした薄膜を多孔性フィルム基材に貼り直す必要があるので、弱粘着性であることが好ましい。
【0066】
乳化膜と多孔性フィルムとは単に重ね合わせて使用することも可能であるが、熱融着及び/又は接着剤による接着を行ってもよい。熱融着の場合、多孔性フィルム基材を構成する材料の溶融温度が乳化膜を構成する材料の溶融温度よりも低い方が、熱融着時に薄膜の細孔形状への影響が少ないので、より好ましい。熱融着の場合の加熱法としては、加熱板を当てること、熱風を当てること、又は赤外線若しくは高周波を照射すること等の方法が挙げられる。
【0067】
本発明の乳化膜を用いて作製されたエマルジョンは乳化安定剤を用いなくても十分長期安定性を有するが、必要に応じて適当な乳化安定剤を用いてもよい。この場合、乳化安定剤は水相に加えてもよいし、油相に添加してもよい。また両者に加えてもよい。乳化安定剤を加えるタイミングはエマルジョン作製前でもよいし、作製後の添加でもよい。乳化安定剤としては特に限定はしないが、液体若しくは固体の石鹸等の界面活性剤、又は多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステル類、又はポリオキシエチレンアルキルエーテル類等が好ましい。
【0068】
本発明の乳化膜または本発明の乳化膜積層体は、以下のような乳化モジュール(以下、「乳化膜モジュール」ともいう)とすることで、乳化液を製造するために使用できる。特に乳化膜モジュールに関しては、限定されるものではないが、後述する実施例に記載された平膜型以外にもスパイラル型、プリーツ型等が挙げられる。
【0069】
好ましくは、本発明の乳化モジュールは、上記の乳化膜を含み、該乳化膜によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に分散質入口を有し、かつ第2の空間に分散媒入口と分散媒出口とを有する。また、乳化膜モジュールの分散媒出口にコック又はバルブを設けることも好ましい。
【0070】
本発明の乳化膜モジュールの分散媒入口から分散媒出口に向かって分散媒を流すとともに、分散質入口から分散質を圧送して前記乳化膜の細孔を通過させ、該分散媒中で該分散質を微粒子化することによって、乳化を行なうことができる。この乳化により、該分散質が該分散媒に分散されているエマルジョンを得ることができる。本発明の好ましい態様では、分散質は水であり、かつ分散媒は燃料油である。
【実施例】
【0071】
次に、実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0072】
[鋳型、及び膜の構造観察]
走査型電子顕微鏡による観察:作製した鋳型、及び乳化膜から任意の大きさに切り取った試料を導電性両面テープにより試料台に固定し、白金を3nm程度の厚みにスパッタリングして顕微鏡試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(日立株式会社製 S−3000N)を用い、加速電圧1.0kV、及び所定の倍率で試料の表面、及び断面を観察した。鋳型の凸部の径、鋳型及び膜の厚み、細孔径、細孔ピッチについて50箇所測定し、平均値を求めた。
原子間力顕微鏡による観察:作製した試料から任意の大きさに切り取った乳化膜試料を両面テープにより試料台に固定し観察試料とした。原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製NanoScopeIII)を用い、Veeco社製のNCHVの探針を用いて所定の倍率で膜の表面形状を観察した。
【0073】
[膜厚]
多孔性フィルム基材:膜厚計(Mitutoyo社製 Digimatic Indicator IDF−130)を用いて測定した。異なる10点の箇所で測定し、平均値を求めた。
乳化膜:走査型電子顕微鏡による乳化膜の断面観察より膜厚を測定した。
【0074】
[気孔率]
走査型電子顕微鏡による膜の観察により、乳化膜の測定範囲にある細孔の体積を測定し、次式(1)によって気孔率を算出した。ここで、孔の体積は上面の直径がAであり、底面の直径がBであり、高さが膜の厚さに等しい円錐台形状と仮定して計算した。
気孔率(%)={(測定範囲内の孔の体積)/(測定範囲の膜の体積)}×100・・・(1)
【0075】
<実施例1>
0.3Mシュウ酸を電解液として用い、化成電圧60Vで、純度99.99%のアルミニウム板に50秒間陽極酸化を行った。その後、2重量%リン酸水溶液30℃中に10分間浸漬し、孔径拡大処理を行った。この操作を5回繰り返し、縦横ともに200mmで、細孔ピッチ300nm、細孔径開口部0.2μm、孔の深さ0.3μmのテーパー形状細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る第1の鋳型を得た。
【0076】
次にこの第1の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行い、その上にニッケルの電気メッキを施した。金属メッキを鋳型から剥離することによって、ニッケルから成る第2の鋳型を得た。
【0077】
得られた第2の鋳型を、蒸留水中で十分に洗浄した。事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、第2の鋳型上に厚さ0.4μmの乳化膜前駆体を形成した。乳化膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去した。
【0078】
多孔性フィルム基材として縦横ともに200mmのポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を用いて第2の鋳型上の薄膜と160℃(ポリスルホンの熱変形温度は約175℃、ポリプロピレンの融点は約160℃)で熱融着させることによって、第2の鋳型からの薄膜の剥離及び多孔性フィルム基材との積層を同時に行い、ポリプロピレン不織布上にポリスルホンから成る乳化膜が積層された乳化膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0079】
この乳化膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.16μm、最大値0.24μm、平均値0.21μm、標準偏差0.02であった。膜厚は平均値0.26μmであった。
【0080】
次にこの積層体平膜を5cm×20cmに切り出し、図5に示すような平膜モジュールを作製し、エマルジョン燃料調製試験を実施した。有効膜面積は76cm2であった。
【0081】
燃料油を分散媒入口13から7000ml/分で入れ、同時に水を0.05MPaの圧力で分散質入口12から入れて乳化膜積層体11を通して燃料油中に微分散させた。水が微分散された燃料油を分散媒出口14より取り出した。水が微分散された燃料油は9950ml/分で生成され、水の含有率は29.6体積%であった。
【0082】
得られたエマルジョン燃料の経時安定性については、分散直後、並びに3時間後、1日後及び7日後のエマルジョンの25℃における安定状態を表1に示す。
【0083】
<実施例2>
平滑に研磨された縦横ともに200mmのガラス板上にポジ型のフォトレジストを厚み300nmで塗布してフォトレジスト付基板を得た。TEM00モードのアルゴンレーザ(波長364nm)から出射される光をミラーで二分割して45度の角度で2方向から照射して重ね合わせることで干渉縞を形成させ、形成された干渉縞を120度間隔で3方向からフォトレジスト付基板に照射してフォトレジストを露光した。露光後、現像を行い、未硬化部を除去することによって、第3の鋳型を得た。
【0084】
この第3の鋳型の突起はピッチ260nmで、凸部の径は底部で250nm、頂部で120nmであり、高さは300nmであった。
【0085】
次にこの第3の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行った。その上にニッケルの電気メッキを施し、金属メッキを第3の鋳型から剥離することによって、第3の鋳型の凹凸構造を反転して転写された第1の鋳型を得た。
【0086】
次に第二の電鋳の剥離のための処理として、第1の鋳型の表面を酸化処理して金属の酸化被膜を形成した。そして、電鋳として第1の鋳型の表面にニッケルメッキを施した。第1の鋳型から金属メッキを剥離して第2の鋳型を得ることができた。この第2の鋳型は第1の鋳型を原盤として作製されるため、壊れても補充が可能である。
【0087】
事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、厚さ0.4μmの乳化膜前駆体を第2の鋳型上に得た。
【0088】
次に縦横ともに200mmに切出したフィックスフィルムHG−1(フジコピアン株式会社製)を張り合わせ、剥がすことにより乳化膜前駆体を金型から離型した。
【0089】
多孔性フィルム基材としてポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を縦横ともに200mmに切出して金型から離型した乳化膜前駆体と重ね合わせた。160℃で加熱して乳化膜前駆体と多孔性フィルム基材とを熱融着させた後フィックスフィルムHG−1を剥離した。乳化膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去して乳化膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0090】
この乳化膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率48%、細孔径は50個測定して最小値0.17μm、最大値0.24μm、平均値0.22μm、標準偏差0.03であった。膜厚は平均値0.25μmであった。
【0091】
次にこの積層体平膜を5cm×20cmに切り出し、図5に示すような平膜モジュールを作製し、エマルジョン燃料調製試験を実施した。有効膜面積は76cm2であった。
【0092】
燃料油を分散媒入口13から7000ml/分で入れ、同時に水を0.05MPaの圧力で分散質入口12から入れて乳化膜積層体11を通して燃料油中に微分散させた。水が微分散された燃料油は分散媒出口14より取り出した。水が微分散された燃料油は10100ml/分で生成され、水の含有率は30.7体積%であった。
【0093】
得られたエマルジョン燃料の経時安定性については、分散直後、並びに3時間後、1日後及び7日後のエマルジョンの25℃における安定状態を表1に示す。
【0094】
<比較例1>
図6に示すような高周波電源装置15、高周波振動発生装置16およびそれに接続した振動板17から成る高周波乳化装置を用いてエマルジョン燃料を作製した。燃料油に水を加えながら20kHzの高周波で10分間処理して燃料油を水に分散させた。水/燃料油の体積比は30/70であった。
得られたエマルジョン燃料の経時安定性については、分散直後、並びに3時間後、1日後及び7日後のエマルジョンの25℃における安定状態を表1に示す。
【0095】
<比較例2>
0.1Mリン酸を電解液として用い、化成電圧200Vで、純度99.99%のアルミニウム板に90分間陽極酸化を行った。その後、地金部分をヨウ素飽和メタノール溶液中で溶解除去し、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔底部をアルゴンイオンミリング装置を用いて除去することによりスルーホール膜を得た。得られたスルーホール膜を10重量%リン酸水溶液30℃に45分間浸漬し、孔径拡大処理を施したスルーホール膜を得た。この膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率48%、細孔径は50個測定して最小値0.15μm、最大値0.25μm、平均値0.21μm、標準偏差0.04であった。膜厚は平均値124μmであった。
【0096】
この陽極酸化アルミナスルーホール膜を5×20cmに切出し、図7に示すような平膜モジュールを作製し、エマルジョン燃料調製試験を実施した。有効膜面積は76cm2であった。
【0097】
燃料油を分散媒入口20から7000ml/分で入れ、同時に水を0.05MPaの圧力で分散質入口19から入れて乳化膜18を通して燃料油中に微分散させた。水が微分散された燃料油は分散媒出口21より取り出した。水が微分散された燃料油は8500ml/分で生成され、水の含有率は17.6体積%であった。
比較例2においては、水が燃料油中に分散する量が少なく、生成した燃料油中の水の含有率が低いとともに、水が分散された燃料油の生成速度も低いものであった。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から明らかなように、従来の高周波振動型の分散機を用いて作製されたエマルジョン燃料に比較して、本発明の乳化膜を用いて作製されたエマルジョン燃料はその分散状態の長期安定性に優れる。
【0100】
また、本発明の乳化膜は膜厚が薄く乳化時の圧力損失が小さいため、高い効率でエマルジョンを作製可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の乳化膜はエマルジョンの作製分野、特にエマルジョン燃料の作製に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0102】
1 第1の製造方法による第2の鋳型
2 アルミニウム
3 陽極酸化ポーラスアルミナ
4 細孔
5 乳化膜
6 多孔性フィルム基材
7 基板
8 テーパー形状の突起から成る凸部
8a 凸部の頂上部
8b 凸部の底部
9 第2の製造方法による第3の鋳型
10 第2の製造方法による第1の鋳型
11 実施例1および2で用いたモジュールの乳化膜積層体
12 実施例1および2で用いたモジュールの分散質入口
13 実施例1および2で用いたモジュールの分散媒入口
14 実施例1および2で用いたモジュールの分散媒出口
15 比較例1の高周波電源装置
16 比較例1の高周波振動発生装置
17 比較例1の振動板
18 比較例2で用いたモジュールの乳化膜
19 比較例2で用いたモジュールの分散質入口
20 比較例2で用いたモジュールの分散媒入口
21 比較例2で用いたモジュールの分散媒出口
22 乳化膜モジュール
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョンを調製するために使用する乳化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な液滴のサイズが精密に制御された単分散エマルジョンを効率的に製造する技術は、医薬品、化粧品、及び食品などの様々な分野において重要な課題とされている。
【0003】
近年、世界的にますます地球環境保全への関心が高まっており、特に自動車エンジン、コージェネレーションエンジンにおいて、エンジンから排出されるNOx若しくは黒煙、又はPM(粒子状物質)の低減が検討されている。この解決策のひとつとして油中水滴型エマルジョン燃料が検討されており、その有害物質低減効果が報告されている(非特許文献1および2参照)。
【0004】
エマルジョン燃料の製造法に関しては、インパイプミキサー法又は高周波による乳化等が開示されているが(特許文献1参照)、これらの電力消費量が大きい事に加えて、これらによって生成した乳化粒子が大きいために、長期間に亘って安定なエマルジョンを製造することが困難であった。
【0005】
エマルジョン燃料の安定化に関しては、特殊な乳化剤を使用したもの(非特許文献3、特許文献2参照)、又は乳化膜を用いて乳化すること(非特許文献4、特許文献3参照)が開示されているが、いずれも満足できる安定性が得られていない。
【0006】
一方、陽極酸化ポーラスアルミナを用いた均一な微細孔を有する乳化膜を用いて、微細な単分散エマルジョンを作製する方法が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、アルミナ自体が脆いため、分散質に圧力をかけて分散媒中に押出す際に、圧力に十分耐えられる程度の厚みが必要であると考えられる。その結果、細孔を有する膜の膜厚が厚い場合は、通過時の圧力損失が大きくなり、膜の処理能力を上げることが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再公表特許WO2004/004881号
【特許文献2】特許第3858230号
【特許文献3】特開2007−106975号
【特許文献4】特開2009−178698号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】戸田建機、MATERIAL STAGE、8、11(2009)P69
【非特許文献2】谷脇憲ら、MATERIAL STAGE、8,11、(2009)P82
【非特許文献3】田嶋和夫 神奈川大学工学部報告、46、(2007)P3
【非特許文献4】渡邉孝司、機能材料、28、8(2008)P62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、長期安定性に優れたエマルジョンを高効率で調製できる乳化膜モジュール、該モジュールに使用する乳化膜および乳化膜積層体、並びに該モジュールを用いたエマルジョン製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、細孔の孔径分布が極めて狭く極薄の乳化膜が、長期安定性に優れたエマルジョンを高効率で調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下に記載の乳化膜及びその製造方法、乳化膜積層体及びその製造方法、乳化膜モジュール、並びにエマルジョンの製造方法に関するものである。
【0012】
[1] 細孔を有する乳化膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、乳化膜。
【0013】
[2] 細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の乳化膜の製造方法。
【0014】
[3] 前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、上記[2]に記載の製造方法。
【0015】
[4] 突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の乳化膜の製造方法。
【0016】
[5] 前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、上記[4]に記載の製造方法。
【0017】
[6] 上記[1]に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る乳化膜積層体。
【0018】
[7] 上記[1]に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該乳化膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む乳化膜積層体の製造方法。
【0019】
[8] 上記[1]に記載の乳化膜または上記[6]に記載の乳化膜積層体によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に分散質入口を有し、かつ第2の空間に分散媒入口と分散媒出口とを有する、乳化膜モジュール。
【0020】
[9] 上記[8]に記載の乳化膜モジュールの分散媒入口から分散媒出口に向かって分散媒を流すとともに、分散質入口から分散質を圧送して前記乳化膜の細孔を通過させる工程、及び
該分散媒中で該分散質を微粒子化することによって、該分散質が該分散媒に分散されているエマルジョンを得る工程
を含むエマルジョンの製造方法。
【0021】
[10] 前記分散質が水であり、かつ前記分散媒が燃料油である、上記[9]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の乳化膜は、微細孔の孔径分布が小さく、極薄であり、かつ膜表面の平滑性に優れるため、粒径の揃った分散質を含み、かつ経時安定性に優れているエマルジョンを高効率で調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の乳化膜の一態様を示す断面模式図である。
【図2】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る鋳型を作製するプロセスを示す図である。
【図3】テーパー形状の突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写するプロセスを示す図である。
【図4】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する第1の鋳型からエマルジョン燃料調製用乳化膜を作製するプロセスの一例を示す図である。
【図5】実施例1および2で用いた乳化膜(平膜)モジュールを示す断面模式図である。
【図6】比較例1で用いた高周波振動発生装置を示す図である。
【図7】比較例2で用いた平膜モジュールを示す断面模式図である。
【図8】実施例のモジュールの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の乳化膜は、細孔を有しており、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下の微多孔膜である。なお、本発明における細孔とは、直径が約10〜300nmの微細な寸法を有する孔をいう。
【0025】
本発明の乳化膜は、膜の片側に分散質(例えば水)を配置し、他方の側に分散媒(例えば油)を配置し、該膜を通して分散質を分散媒の中に押し出すことによって、微細、かつ粒径の揃った経時安定性に優れたエマルジョンを製造することが可能になる。
【0026】
エマルジョンにはW/O型(油中水分散型)及びO/W型(水中油分散型)等があるが、いずれの場合でも分散粒子が小さいほど長期間に亘る分散安定性に優れることが知られている。分散粒子径が大きいと、粒子同士が相互に会合しやすく、会合粒子はさらに会合を重ねてエマルジョンを破壊していく。小さな粒子の中に粗大な粒子が混入している場合も同様であり、粗大粒子が小さい粒子を取り込むので、エマルジョンは破壊される。したがって、できるだけ分散質の平均粒子径が小さく、かつその粒径分布が狭いほど、長期安定性に優れたエマルジョンが得られる。
【0027】
乳化膜によるエマルジョン作製(膜乳化)では、分散質を該乳化膜が有する細孔を通して微粒子化して分散媒中に分散させる。このときエマルジョン中の分散質の粒子径は、該細孔の細孔径に依存する。従って、乳化膜の細孔径はできるかぎり小さく、また孔径分布も小さいことが好ましい。この細孔径に関しては、分散質が膜を通過して分散媒に接触する際に、エマルジョン中の分散質の粒子径が決まるので、膜内部の細孔径が小さくても、膜開孔部の細孔径が大きければエマルジョン径は大きくなる。従って、膜の分散媒に接する側の最表面の開孔の平均径が小さく、かつ径分布が狭いことが好ましい。
【0028】
本発明の乳化膜の細孔の最表面の孔径分布における標準偏差は、平均値の30%以下であり、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明の乳化膜は、後述する多孔性フィルム基材に比較して表面平滑性が高いため、生成したエマルジョンが局所に滞留し難くなり、会合することなく流れやすい。従って、本発明の乳化膜により、長期安定性に優れたエマルジョンを製造することができると考えられる。当然ながら、本発明の乳化膜は、W/O型(油中水分散型)及びO/W型(水中油分散型)のいずれの調製に使用してもよい。
【0030】
本発明の別の態様は、上記の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る乳化膜積層体である。従って、本発明の乳化膜を平滑な多孔性フィルム基材に積層した乳化膜積層体として使用する場合は、分散質を多孔性フィルム側から乳化膜側に向けて流し、乳化膜表面でエマルジョンを生成させるのが好ましい。
【0031】
また本発明の乳化膜は厚みが薄いため、分散質を分散媒中に押出す(例えば、圧送する)際の圧損が小さい。そのため、より高粘度の分散質を高速で押出し、効率良くエマルジョンを調整することが可能である。乳化膜の厚みは30〜1000nm、好ましくは30〜500nm、より好ましくは30〜100nm、さらに好ましくは30nmである。
【0032】
エマルジョンを形成する分散質と分散媒の組合せとしては公知のものが適用できるが、特に水と燃料油等の組合せを挙げることができる。エマルジョン中の分散質の粒子径の標準偏差を小さくするためには、分散媒中に押し出す分散質の粘度は、1〜100mPa・sの範囲とすることが好ましく、界面活性剤等の添加により、水相と油相の界面エネルギーを0.1〜1.5mN/mの範囲とすることが好ましい。
【0033】
以下に、本発明の気液接触膜の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の乳化膜の一態様を示す断面模式図である。本態様の乳化膜の細孔は、薄膜の表面から裏面に渡って細孔径が増加していくテーパー形状を有している。本発明の乳化膜を後述する製造方法により製造する場合は、乳化膜の表面から裏面に亘って細孔径が均一な場合、鋳型から乳化膜を離型する工程において、薄膜の剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性があるため、本態様のテーパー形状がより好ましい。
【0034】
次に、本発明の乳化膜の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む乳化膜の製造方法である。ここで、該第1の鋳型は、たとえば、アルミニウム板を陽極酸化することにより好適に作製することができる。
【0035】
第2の製造方法は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む乳化膜の製造方法である。ここで、該第3の鋳型は、例えば、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより好適に作製することができる。
【0036】
上記2種の製造方法において、第1の鋳型は、本発明の乳化膜と同様に細孔から成る凹部を有する鋳型である。また、第2の鋳型、及び第3の鋳型は本発明の乳化膜とは逆に突起から成る凸部を有する鋳型であり、前記第1の鋳型とはポジとネガの関係にある。
【0037】
上記第1の製造方法について、より詳細に説明する。
図2は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型(陽極酸化ポーラスアルミナ)の作製方法を示す。陽極酸化ポーラスアルミナ3は、陽極酸化によりアルミニウム基材2の表面に形成されるが、陽極酸化ポーラスアルミナ3の細孔4の形状は、底部を除いてほぼ一定の径を有する円筒形状をしており、これをそのまま鋳型として用いた場合、薄膜の金型からの剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性がある。
【0038】
一方、陽極酸化とエッチングによる細孔の拡大処理とを組み合わせることにより、所望のテーパー形状の孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る反射防止膜作製用のスタンパを製造する方法が知られている(特開2005−156695号公報)。
【0039】
上記方法について簡単に述べると、アルミニウム基材2に所定の時間、陽極酸化を実施して所望の深さの細孔を形成した後、適当な酸溶液中に浸漬することにより孔径の拡大処理を行う。その後、再び陽極酸化を行うことで、1段階目に比較して孔径の小さな細孔を形成する。この操作を繰り返すことにより、テーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。繰り返し段数を増やすことで、より滑らかなテーパー形状の細孔を得ることができる。陽極酸化時間と孔径拡大処理時間とを調整することで、様々なテーパー形状を有する細孔の形成が可能であり、この方法を乳化膜の製造に利用することで、ピッチ、孔の深さに合わせて最適な薄膜の構造設計が可能となると考えられる。
【0040】
また、定電圧で長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化膜を除去し、再び同一条件で陽極酸化を施すことで作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、高い孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型とすることが可能となる。
【0041】
使用する陽極酸化ポーラスアルミナとしては、例えば、シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜60Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができる。また、硫酸を電解液として用い、化成電圧25V〜30Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることもできる。このような陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、より高い規則性を有する窪み配列を有する鋳型を得ることができる。
【0042】
さらに、陽極酸化ポーラスアルミナの作製において、陽極酸化に先立ちアルミニウム表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生点とすることもでき、任意の配列を有する窪み配列を鋳型とすることが可能となる。
【0043】
上記方法により作製した第1の鋳型の細孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0044】
金属、金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、一般的にはNi、Ta、SiO2、炭素、有機SOG等が使用される。これらの中で、Niは電鋳が容易であるため好ましい。
【0045】
また、第1の鋳型の細孔に充填される高分子としては、加工性を有するものであれば限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF(登録商標:DuPont社製)、ハイフロンAD(登録商標:Solvay Solexis社製)、サイトップ(登録商標:旭硝子社製))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第1の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。これらの例の中で、フッ素系樹脂は第1の鋳型からの離型性に優れるため好ましい。
【0046】
さらに、上記第2の鋳型に高分子を充填し、その後、該第2の鋳型から該高分子膜を離型することによって、乳化膜を得ることができる。
【0047】
第2の鋳型に高分子を転写する方法としては、特に限定はされないが、光インプリント、熱インプリント、室温インプリント、ナノキャスティングインプリント等の方法を用いることができる。高分子としては、第2の鋳型に充填したときに、第2の鋳型の材料と接着又は融着等して問題が起こるものでなければ特に限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF(登録商標)、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第2の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。
【0048】
転写に使用する高分子の体積を第2の鋳型の突起から成る凹凸の空隙の体積より多く使用した場合は、薄膜の孔径の小さい側の細孔が余分の残膜で塞がれた状態となっているため、離型前又は離型後に、この残膜をエッチング処理することにより除去して貫通開孔薄膜とする必要がある。エッチング方法としては、プラズマ等を利用した高真空ドライエッチング、大気圧ドライエッチング、溶剤を用いたウェットエッチング等を挙げることができる。これらの中でも大気圧ドライエッチングは低コストでエッチング精度が高いため好ましい。
【0049】
以上の工程によって、乳化膜を製造するプロセスの一例を図4に示す。
陽極酸化ポーラスアルミナ3から成る第1の鋳型の表面に、無電解メッキ又はスパッタリングによりNi−P、Au、Cr等から成る表面導電層を形成した後、Ni等の電解メッキにより第2の鋳型を形成する。第1の鋳型から第2の鋳型を剥離させるか、第1の鋳型を選択的に溶解除去することにより第2の鋳型を得る。次に、第2の鋳型に高分子、例えば、ポリスルホンを溶媒に溶解させた溶液を充填し、溶媒を乾燥させて高分子から成る薄膜を得る。この薄膜の余分に充填された高分子膜をプラズマエッチングで除去した後、第2の鋳型から剥離してエマルジョン燃料調製用乳化膜を得る。該エマルジョン燃料調製用乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させることで、本発明のエマルジョン燃料調製用乳化膜積層体を得ることができる。
【0050】
次に、上記第2の製造方法について、より詳細に説明する。
図3は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型から、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型を作製する方法を示す。
【0051】
上記第3の鋳型は、干渉露光法によって好適に作製することができる。まず、平滑な基板7(例えば、研磨されたガラス原盤)上に、ポジ型フォトレジストを塗布する。ポジ型フォトレジストは半導体装置製造の技術分野において周知のレジストであり、フェノール性水酸基を有する樹脂と、光酸発生剤とを含む組成物である。この組成物は光照射前のアルカリ性現像液に対する溶解性は低いが、光照射によって酸が発生しアルカリ性現像液に対する溶解性が高くなる。この現像液に対する光照射部と光未照射部の溶解性の差異を利用してパターニングを行うことが可能となる。以下においては、上記光未照射部のことを硬化部、上記光照射部のことを未硬化部ともいう。
【0052】
次に、レーザー光を用いた干渉露光法(以下「レーザー干渉露光法」ともいう。)により露光を行い、微細なテーパー形状の突起から成る硬化部と残余の未硬化部を得る。露光後、現像を行い未硬化部を除去することによって、突起から成る凸部8を有する第3の鋳型9として得る。
【0053】
フォトレジストに形成された凸部8は、レーザー干渉露光法により、凸部の頂上部8aが細くなる一方、底部8bが太くなる、いわゆるテーパー形状となる。この現象は、レーザー光のパワー強度がフォトレジスト表面で強く、フォトレジストの中を進むに従って弱くなり、その結果、フォトレジスト表面で露光量が大きくなって頂上部8aが浸食され、フォトレジストの深さ方向へ進むに従って露光量が小さくなって深さ方向への浸食が弱くなり、底面部8bが広がるためであると考えられる。従ってフォトレジストの感光性の度合い(γ値)によってテーパーの角度を調整することができる。
【0054】
なお、レーザー干渉露光法とは、特定の波長のレーザー光を角度θ’の2つの方向から照射して形成される干渉縞を利用した露光法であり、角度θ’を変化させることで使用するレーザーの波長で制限される範囲内で色々なピッチを有する凹凸格子の構造を得ることができる。例えば、方向を120度ずつずらした3組の上記干渉縞を重ね合わせて露光することで、上記のテーパー形状の突起から成る凹凸パターンを形成することができる。
【0055】
干渉露光に使用できるレーザーとしては、TEM00モードのレーザーに限定される。TEM00モードのレーザー発振できる紫外光レーザーとしては、アルゴンレーザー(波長364nm、351nm、333nm)、又はYAGレーザーの4倍波(波長266nm)などが挙げられる。
【0056】
また、形成されたパターンのエッチングによってもテーパーの角度を変化させることが可能である。すなわち、高真空プラズマエッチングにおいて、エッチングの異方性を制御することによりテーパーの角度を変えることができる。
【0057】
一般的に入射する反応性イオンの平均自由行程を低圧力にして長くする程、垂直にガスが入射して異方性が大きくなるが、この場合、垂直方向に一様にエッチングされるためテーパーの角度の変化は小さい。逆に圧力を高めに設定することにより、横方向への反応性イオンの入射が増加して横方向にもエッチングされ、テーパーの角度が変化する。
【0058】
上記方法により作製した第3の鋳型に対して、図3(b)に示すように、表面導電層を形成した後Ni電鋳を行い、第1の鋳型を形成する。該第3の鋳型を除去すると凹凸が反転して転写された凹凸を有する第1の鋳型10が得られる(図3(c))。
【0059】
上記方法により作製した第1の鋳型を用いて、その孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、該第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0060】
上記第2の製造方法で作製した第2の鋳型は、前記第1の製造方法で作製した第2の鋳型と同様に、高分子を充填し、該第2の鋳型から離型することによって、連続的に細孔径が変化するテーパー形状を有し、細孔径の孔径分布が非常に小さい乳化膜を得ることができる。
【0061】
上記の製造方法によって、細孔ピッチが30〜1000nmであり、細孔径が10〜300nmであり、細孔深さが30nm〜1000nmであり、かつ細孔径の孔径分布が極めて狭いことを特徴とする乳化膜を得ることができる。細孔径の孔径分布が非常に小さいとは、孔径(孔の直径)の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下であること、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であることを言う。
【0062】
また、本発明の乳化膜の気孔率は、特に限定されないが、通常5%以上60%以下、好ましくは、20%以上、更に好ましくは、30%以上、特に好ましくは40%以上である。エマルジョンを効率的に得るためには気孔率は高いことが好ましい。一方で、気孔率が高すぎると隣接する細孔から形成された液滴が会合するので、分散粒子径の均一性が低下することがある。従って、この気孔率は60%以下であることが好ましい。
【0063】
上記製造方法によって得られた乳化膜はそのまま用いることも可能であるが、機械的強度を高めるために多孔性フィルム基材と積層して乳化膜積層体として用いることが好ましい。多孔性フィルム基材としては、微多孔膜、不織布、相分離膜、延伸開口膜等を挙げることができる。
【0064】
多孔性フィルム基材の材質としては、ステンレス等の金属、シリカ、アルミナ、炭素等の無機物、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等に代表される有機物を挙げることができる。
【0065】
多孔性フィルム基材の孔径は、乳化膜の孔径より大きいものが好ましく、1〜100μmの範囲にあることがより好ましい。また、多孔性フィルム基材の厚みは10〜1000μmであることが強度と気孔率のバランス上好ましい。乳化膜の多孔性フィルム基材への積層は薄膜を金型から剥離しながら多孔性フィルム基材に重ね合わせていく方法が一般的であるが、残膜をエッチングすると薄膜が金型から離型し難くなる場合がある。この場合は、積層した後に残膜をエッチングする必要がある。しかし単純な移し変えによる重ね合わせでは残膜は多孔性フィルム基材側になるので、後工程でエッチングができない問題がある。そのような問題を防ぐためには、一度別の基材に移し取って裏返しにして多孔性フィルム基材に重ね合わせる必要がある。この別の基材は、金型から剥がした薄膜を多孔性フィルム基材に貼り直す必要があるので、弱粘着性であることが好ましい。
【0066】
乳化膜と多孔性フィルムとは単に重ね合わせて使用することも可能であるが、熱融着及び/又は接着剤による接着を行ってもよい。熱融着の場合、多孔性フィルム基材を構成する材料の溶融温度が乳化膜を構成する材料の溶融温度よりも低い方が、熱融着時に薄膜の細孔形状への影響が少ないので、より好ましい。熱融着の場合の加熱法としては、加熱板を当てること、熱風を当てること、又は赤外線若しくは高周波を照射すること等の方法が挙げられる。
【0067】
本発明の乳化膜を用いて作製されたエマルジョンは乳化安定剤を用いなくても十分長期安定性を有するが、必要に応じて適当な乳化安定剤を用いてもよい。この場合、乳化安定剤は水相に加えてもよいし、油相に添加してもよい。また両者に加えてもよい。乳化安定剤を加えるタイミングはエマルジョン作製前でもよいし、作製後の添加でもよい。乳化安定剤としては特に限定はしないが、液体若しくは固体の石鹸等の界面活性剤、又は多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステル類、又はポリオキシエチレンアルキルエーテル類等が好ましい。
【0068】
本発明の乳化膜または本発明の乳化膜積層体は、以下のような乳化モジュール(以下、「乳化膜モジュール」ともいう)とすることで、乳化液を製造するために使用できる。特に乳化膜モジュールに関しては、限定されるものではないが、後述する実施例に記載された平膜型以外にもスパイラル型、プリーツ型等が挙げられる。
【0069】
好ましくは、本発明の乳化モジュールは、上記の乳化膜を含み、該乳化膜によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に分散質入口を有し、かつ第2の空間に分散媒入口と分散媒出口とを有する。また、乳化膜モジュールの分散媒出口にコック又はバルブを設けることも好ましい。
【0070】
本発明の乳化膜モジュールの分散媒入口から分散媒出口に向かって分散媒を流すとともに、分散質入口から分散質を圧送して前記乳化膜の細孔を通過させ、該分散媒中で該分散質を微粒子化することによって、乳化を行なうことができる。この乳化により、該分散質が該分散媒に分散されているエマルジョンを得ることができる。本発明の好ましい態様では、分散質は水であり、かつ分散媒は燃料油である。
【実施例】
【0071】
次に、実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0072】
[鋳型、及び膜の構造観察]
走査型電子顕微鏡による観察:作製した鋳型、及び乳化膜から任意の大きさに切り取った試料を導電性両面テープにより試料台に固定し、白金を3nm程度の厚みにスパッタリングして顕微鏡試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(日立株式会社製 S−3000N)を用い、加速電圧1.0kV、及び所定の倍率で試料の表面、及び断面を観察した。鋳型の凸部の径、鋳型及び膜の厚み、細孔径、細孔ピッチについて50箇所測定し、平均値を求めた。
原子間力顕微鏡による観察:作製した試料から任意の大きさに切り取った乳化膜試料を両面テープにより試料台に固定し観察試料とした。原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製NanoScopeIII)を用い、Veeco社製のNCHVの探針を用いて所定の倍率で膜の表面形状を観察した。
【0073】
[膜厚]
多孔性フィルム基材:膜厚計(Mitutoyo社製 Digimatic Indicator IDF−130)を用いて測定した。異なる10点の箇所で測定し、平均値を求めた。
乳化膜:走査型電子顕微鏡による乳化膜の断面観察より膜厚を測定した。
【0074】
[気孔率]
走査型電子顕微鏡による膜の観察により、乳化膜の測定範囲にある細孔の体積を測定し、次式(1)によって気孔率を算出した。ここで、孔の体積は上面の直径がAであり、底面の直径がBであり、高さが膜の厚さに等しい円錐台形状と仮定して計算した。
気孔率(%)={(測定範囲内の孔の体積)/(測定範囲の膜の体積)}×100・・・(1)
【0075】
<実施例1>
0.3Mシュウ酸を電解液として用い、化成電圧60Vで、純度99.99%のアルミニウム板に50秒間陽極酸化を行った。その後、2重量%リン酸水溶液30℃中に10分間浸漬し、孔径拡大処理を行った。この操作を5回繰り返し、縦横ともに200mmで、細孔ピッチ300nm、細孔径開口部0.2μm、孔の深さ0.3μmのテーパー形状細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る第1の鋳型を得た。
【0076】
次にこの第1の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行い、その上にニッケルの電気メッキを施した。金属メッキを鋳型から剥離することによって、ニッケルから成る第2の鋳型を得た。
【0077】
得られた第2の鋳型を、蒸留水中で十分に洗浄した。事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、第2の鋳型上に厚さ0.4μmの乳化膜前駆体を形成した。乳化膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去した。
【0078】
多孔性フィルム基材として縦横ともに200mmのポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を用いて第2の鋳型上の薄膜と160℃(ポリスルホンの熱変形温度は約175℃、ポリプロピレンの融点は約160℃)で熱融着させることによって、第2の鋳型からの薄膜の剥離及び多孔性フィルム基材との積層を同時に行い、ポリプロピレン不織布上にポリスルホンから成る乳化膜が積層された乳化膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0079】
この乳化膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.16μm、最大値0.24μm、平均値0.21μm、標準偏差0.02であった。膜厚は平均値0.26μmであった。
【0080】
次にこの積層体平膜を5cm×20cmに切り出し、図5に示すような平膜モジュールを作製し、エマルジョン燃料調製試験を実施した。有効膜面積は76cm2であった。
【0081】
燃料油を分散媒入口13から7000ml/分で入れ、同時に水を0.05MPaの圧力で分散質入口12から入れて乳化膜積層体11を通して燃料油中に微分散させた。水が微分散された燃料油を分散媒出口14より取り出した。水が微分散された燃料油は9950ml/分で生成され、水の含有率は29.6体積%であった。
【0082】
得られたエマルジョン燃料の経時安定性については、分散直後、並びに3時間後、1日後及び7日後のエマルジョンの25℃における安定状態を表1に示す。
【0083】
<実施例2>
平滑に研磨された縦横ともに200mmのガラス板上にポジ型のフォトレジストを厚み300nmで塗布してフォトレジスト付基板を得た。TEM00モードのアルゴンレーザ(波長364nm)から出射される光をミラーで二分割して45度の角度で2方向から照射して重ね合わせることで干渉縞を形成させ、形成された干渉縞を120度間隔で3方向からフォトレジスト付基板に照射してフォトレジストを露光した。露光後、現像を行い、未硬化部を除去することによって、第3の鋳型を得た。
【0084】
この第3の鋳型の突起はピッチ260nmで、凸部の径は底部で250nm、頂部で120nmであり、高さは300nmであった。
【0085】
次にこの第3の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行った。その上にニッケルの電気メッキを施し、金属メッキを第3の鋳型から剥離することによって、第3の鋳型の凹凸構造を反転して転写された第1の鋳型を得た。
【0086】
次に第二の電鋳の剥離のための処理として、第1の鋳型の表面を酸化処理して金属の酸化被膜を形成した。そして、電鋳として第1の鋳型の表面にニッケルメッキを施した。第1の鋳型から金属メッキを剥離して第2の鋳型を得ることができた。この第2の鋳型は第1の鋳型を原盤として作製されるため、壊れても補充が可能である。
【0087】
事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、厚さ0.4μmの乳化膜前駆体を第2の鋳型上に得た。
【0088】
次に縦横ともに200mmに切出したフィックスフィルムHG−1(フジコピアン株式会社製)を張り合わせ、剥がすことにより乳化膜前駆体を金型から離型した。
【0089】
多孔性フィルム基材としてポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を縦横ともに200mmに切出して金型から離型した乳化膜前駆体と重ね合わせた。160℃で加熱して乳化膜前駆体と多孔性フィルム基材とを熱融着させた後フィックスフィルムHG−1を剥離した。乳化膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去して乳化膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0090】
この乳化膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率48%、細孔径は50個測定して最小値0.17μm、最大値0.24μm、平均値0.22μm、標準偏差0.03であった。膜厚は平均値0.25μmであった。
【0091】
次にこの積層体平膜を5cm×20cmに切り出し、図5に示すような平膜モジュールを作製し、エマルジョン燃料調製試験を実施した。有効膜面積は76cm2であった。
【0092】
燃料油を分散媒入口13から7000ml/分で入れ、同時に水を0.05MPaの圧力で分散質入口12から入れて乳化膜積層体11を通して燃料油中に微分散させた。水が微分散された燃料油は分散媒出口14より取り出した。水が微分散された燃料油は10100ml/分で生成され、水の含有率は30.7体積%であった。
【0093】
得られたエマルジョン燃料の経時安定性については、分散直後、並びに3時間後、1日後及び7日後のエマルジョンの25℃における安定状態を表1に示す。
【0094】
<比較例1>
図6に示すような高周波電源装置15、高周波振動発生装置16およびそれに接続した振動板17から成る高周波乳化装置を用いてエマルジョン燃料を作製した。燃料油に水を加えながら20kHzの高周波で10分間処理して燃料油を水に分散させた。水/燃料油の体積比は30/70であった。
得られたエマルジョン燃料の経時安定性については、分散直後、並びに3時間後、1日後及び7日後のエマルジョンの25℃における安定状態を表1に示す。
【0095】
<比較例2>
0.1Mリン酸を電解液として用い、化成電圧200Vで、純度99.99%のアルミニウム板に90分間陽極酸化を行った。その後、地金部分をヨウ素飽和メタノール溶液中で溶解除去し、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔底部をアルゴンイオンミリング装置を用いて除去することによりスルーホール膜を得た。得られたスルーホール膜を10重量%リン酸水溶液30℃に45分間浸漬し、孔径拡大処理を施したスルーホール膜を得た。この膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率48%、細孔径は50個測定して最小値0.15μm、最大値0.25μm、平均値0.21μm、標準偏差0.04であった。膜厚は平均値124μmであった。
【0096】
この陽極酸化アルミナスルーホール膜を5×20cmに切出し、図7に示すような平膜モジュールを作製し、エマルジョン燃料調製試験を実施した。有効膜面積は76cm2であった。
【0097】
燃料油を分散媒入口20から7000ml/分で入れ、同時に水を0.05MPaの圧力で分散質入口19から入れて乳化膜18を通して燃料油中に微分散させた。水が微分散された燃料油は分散媒出口21より取り出した。水が微分散された燃料油は8500ml/分で生成され、水の含有率は17.6体積%であった。
比較例2においては、水が燃料油中に分散する量が少なく、生成した燃料油中の水の含有率が低いとともに、水が分散された燃料油の生成速度も低いものであった。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から明らかなように、従来の高周波振動型の分散機を用いて作製されたエマルジョン燃料に比較して、本発明の乳化膜を用いて作製されたエマルジョン燃料はその分散状態の長期安定性に優れる。
【0100】
また、本発明の乳化膜は膜厚が薄く乳化時の圧力損失が小さいため、高い効率でエマルジョンを作製可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の乳化膜はエマルジョンの作製分野、特にエマルジョン燃料の作製に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0102】
1 第1の製造方法による第2の鋳型
2 アルミニウム
3 陽極酸化ポーラスアルミナ
4 細孔
5 乳化膜
6 多孔性フィルム基材
7 基板
8 テーパー形状の突起から成る凸部
8a 凸部の頂上部
8b 凸部の底部
9 第2の製造方法による第3の鋳型
10 第2の製造方法による第1の鋳型
11 実施例1および2で用いたモジュールの乳化膜積層体
12 実施例1および2で用いたモジュールの分散質入口
13 実施例1および2で用いたモジュールの分散媒入口
14 実施例1および2で用いたモジュールの分散媒出口
15 比較例1の高周波電源装置
16 比較例1の高周波振動発生装置
17 比較例1の振動板
18 比較例2で用いたモジュールの乳化膜
19 比較例2で用いたモジュールの分散質入口
20 比較例2で用いたモジュールの分散媒入口
21 比較例2で用いたモジュールの分散媒出口
22 乳化膜モジュール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する乳化膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、乳化膜。
【請求項2】
細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の乳化膜の製造方法。
【請求項3】
前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の乳化膜の製造方法。
【請求項5】
前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る乳化膜積層体。
【請求項7】
請求項1に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該乳化膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む乳化膜積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の乳化膜または請求項6に記載の乳化膜積層体によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に分散質入口を有し、かつ第2の空間に分散媒入口と分散媒出口とを有する、乳化膜モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の乳化膜モジュールの分散媒入口から分散媒出口に向かって分散媒を流すとともに、分散質入口から分散質を圧送して前記乳化膜の細孔を通過させる工程、及び
該分散媒中で該分散質を微粒子化することによって、該分散質が該分散媒に分散されているエマルジョンを得る工程
を含むエマルジョンの製造方法。
【請求項10】
前記分散質が水であり、かつ前記分散媒が燃料油である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項1】
細孔を有する乳化膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該乳化膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、乳化膜。
【請求項2】
細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の乳化膜の製造方法。
【請求項3】
前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の乳化膜の製造方法。
【請求項5】
前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る乳化膜積層体。
【請求項7】
請求項1に記載の乳化膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該乳化膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む乳化膜積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の乳化膜または請求項6に記載の乳化膜積層体によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に分散質入口を有し、かつ第2の空間に分散媒入口と分散媒出口とを有する、乳化膜モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の乳化膜モジュールの分散媒入口から分散媒出口に向かって分散媒を流すとともに、分散質入口から分散質を圧送して前記乳化膜の細孔を通過させる工程、及び
該分散媒中で該分散質を微粒子化することによって、該分散質が該分散媒に分散されているエマルジョンを得る工程
を含むエマルジョンの製造方法。
【請求項10】
前記分散質が水であり、かつ前記分散媒が燃料油である、請求項9に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2011−212532(P2011−212532A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81195(P2010−81195)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
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