説明

乳管形成促進方法及び乳管形成促進剤

【課題】乳管を有する植物、主にゴムノキ等のラテックス産生植物の乳管形成を促進する方法、及び当該方法に好適な乳管形成促進剤の提供。
【解決手段】プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、プロスタグランジンB2、及びこれらのアナログ化合物からなる群より選択される1以上の化合物の植物体中の含有量を増大させることを特徴とする乳管形成促進方法、前記化合物が、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、及びプロスタグランジンB2からなる群より選択される1以上であることを特徴とする前記記載の乳管形成促進方法、前記化合物で、植物体を刺激することを特徴とする前記いずれか記載の乳管形成促進方法、及び、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、プロスタグランジンB2、及びこれらのアナログ化合物からなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とすることを特徴とする乳管形成促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳管を有する植物、主にラテックス産生植物の乳管形成を促進する方法、及び当該方法に好適な乳管形成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、弾性を有する高分子であり、主にゴムノキの乳管(laticifer)と呼ばれる細胞内で造られているラテックスという乳液を収集し、これに所望の加工をすることにより製造される(例えば、特許文献1参照。)。乳管は、ゴムノキの樹皮内の形成層の外側に年に数層発達する。ラテックスの収集は、一般的に、ゴムノキの幹にナイフ等を用いて溝状に傷をつけて(タッピング)、切断された乳管から流出するラテックスを回収することにより行われている。
【0003】
天然ゴムは、ゴム製品の主原料として、様々な用途において幅広くかつ大量に用いられている。このため、より高収率でラテックスを得る方法の開発が求められている。より大量のラテックスを採取する方法としては、例えば、ゴムノキの幹に対してエチレンやEthephon(2−クロロエチルホスホン酸)による刺激を加える方法がある。エチレン等を樹皮に塗布することにより、乳管から流出してくるラテックスが傷口で凝固することが抑制されるため、より多くのラテックスを採取することができる。
【0004】
一方、ジャスモン酸やジャスモン酸前駆体のリノレン酸等を配合したラノリンを、パラゴムノキの幹に塗布することにより、乳管分化が促進され、乳管数(乳管密度)が増大することが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。ジャスモン酸は、リノレン酸を前駆体として生合成されるジャスミンの香気成分の一つであり、植物の成長阻害作用や老化促進作用を有する植物ホルモンの一種である。特に、傷害を受けた場合や病原菌に感染した場合等に合成が促進されることから、環境ストレスに対する抵抗性獲得に機能的に働く環境ストレス抵抗性誘導ホルモンとして知られている。なお、非特許文献1では、同じく環境ストレス抵抗性誘導ホルモンであるサリチル酸、アブシジン酸、Ethephon(エチレン)を同様に処理した場合には、ジャスモン酸とは異なり、二次乳管の形成は認められなかったことも報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−138102号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ハオ(Hao)、外1名、アナルズ・オブ・ボタニー(Annals of Botany)、2000年、第85巻、第37〜43ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エチレン刺激によるラテックスを増産する方法は、幹に対し長期的に使用し続けると樹皮割れが生じ易くなるおそれがある。また、エチレン刺激は、乳管からのラテックスの流出をより円滑にする方法であり、樹木のラテックス生産能力そのものを改善するものではなく、当該方法によるラテックスの増産には限界があり、十分ではない。
【0008】
一方、ラテックス生合成の主要部位である乳管の形成を促進することにより、樹木のラテックス生産能力そのものを改善することが期待できる。しかしながら、これまでのところ、ゴムノキの乳管形成を促進し得る化合物として、ジャスモン酸以外のものは報告されておらず、また、ジャスモン酸刺激による乳管形成促進の作用機序も明らかではない。
【0009】
本発明は、乳管を有する植物、主にゴムノキ等のラテックス産生植物の乳管形成を促進する方法、及び当該方法に好適な乳管形成促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の種類のプロスタグランジン類によって刺激することによりゴムノキの乳管形成が促進されることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、プロスタグランジンB2、及びこれらのアナログ化合物からなる群より選択される1以上の化合物の植物体中の含有量を増大させることを特徴とする乳管形成促進方法、
(2) 前記化合物が、下記一般式(I)、(II)、及び(III)からなる群より選択される一般式で表されることを特徴とする前記(1)記載の乳管形成促進方法、
【化1】

[式中、R12は単結合又はアルケニレン基であり;Rは水素原子又はアルキル基であり;Rは1価の炭化水素基であり;R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は水酸基(但し、R及びRのいずれも水酸基である場合を除く。)である。]
【0012】
(3) 前記R12が単結合又は炭素数2〜8のアルケニレン基であり、前記Rが水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、前記Rがアルキル基又はアルケニル基であることを特徴とする前記(2)記載の乳管形成促進方法、
(4) 前記化合物が、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、及びプロスタグランジンB2からなる群より選択される1以上であることを特徴とする前記(1)記載の乳管形成促進方法、
(5) 前記化合物で、植物体を刺激することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の乳管形成促進方法、
(6) 前記化合物を有効成分とする乳管形成促進剤を、植物体の幹又は茎に付着させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の乳管形成促進方法、
(7) γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、及びこれらを含有する油脂からなる群より選択される1以上で、植物体を刺激することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の乳管形成促進方法、
(8) 前記植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の乳管形成促進方法、
(9) プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、プロスタグランジンB2、及びこれらのアナログ化合物からなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とすることを特徴とする乳管形成促進剤、
(10) 前記化合物が、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、及びプロスタグランジンB2からなる群より選択される1以上であることを特徴とする前記(9)記載の乳管形成促進剤、
(11) 前記化合物が、前記一般式(I)、(II)、及び(III)からなる群より選択される一般式で表されることを特徴とする前記(9)記載の乳管形成促進剤、
(12) 前記化合物を、水溶性媒体に溶解又は分散させてなることを特徴とする前記(9)〜(11)のいずれか記載の乳管形成促進剤、
(13) γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、及びこれらを含有する油脂からなる群より選択される1以上を有効成分とすることを特徴とする乳管形成促進剤、
を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の乳管形成促進方法により、乳管を有するラテックス産生植物の乳管数(乳管密度)を増大させ、木本来のラテックス生産能力を向上させることができる。このため、ラテックス産生植物を本発明の乳管形成促進方法により処理することにより、ラテックス収量を効率よく増量させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】植物におけるプロスタグランジン類生合成経路の概略図である。図中の各化学式において、R'はペンテニルカルボキシル基、R'はプロピルカルボキシル基、R'はペンチル基をそれぞれ意味する。
【図2】実施例1において、幹に塗布したプロスタグランジン類の種類と回収されたゴム量との関係を示した図である。
【図3】実施例1において、コントロール及び幹にPGI2を塗布した場合の塗布部の組織切片のオイルレッド染色像を示した図である。
【図4】実施例1において、幹にPGE2、PGA2、及びPGB2を塗布した場合の塗布部の組織切片のオイルレッド染色像を示した図である。
【図5】実施例1において、幹にPGF1αを塗布した場合の塗布部の組織切片のオイルレッド染色像を示した図である。
【図6】実施例1において、回収されたゴム量と観察された乳管形成の結果を纏めた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
プロスタグランジン類は、プロスタン酸を基本骨格とする生理活性物質である。5員環部分に結合する酸素原子と二重結合の有無及び位置や、側鎖の炭化水素基の二重結合の有無及び位置により分類されており、各種類によって標的器官と作用効果が異なる。植物におけるプロスタグランジン(PG)類生合成経路の概略図を図1に示す。プロスタグランジンE2{PGE2;(13E)−(15S)−11α,15−dihydroxy−9−oxoprosta−5,13−dien−1−oic acid}は、アラキドン酸からプロスタグランジンG2{PGG2;(13E)−(15S)−15−hydroperoxy−9α,11α−epidioxyprosta−5,13−dien−1−oic acid}、プロスタグランジンH2{PGH2;(13E)−(15S)−15−dihydroxy−9α,11α−epidioxyprosta−5,13−dien−1−oic acid}を介して酵素反応により合成される。そして、PGE2から、非酵素的又は酵素的な代謝経路により、プロスタグランジンA2{PGA2;(13E)−(15S)−15−hydroxy−9−oxoprosta−5,10,13−trien−1−oic acid}及びプロスタグランジンB2{PGB2;(13E)−(15S)−15−hydroxy−9−oxoprosta−5,8(12),13−trien−1−oic acid}が合成される。
【0016】
本発明において、ある化合物の代謝産物とは、当該化合物から非酵素的又は酵素的な代謝経路により得られる化合物を意味する。また、当該化合物から直接得られる代謝産物のみならず、二次代謝産物も含む。例えば、PGE2の代謝産物には、PGA2に加えてPGB2も含まれる。さらに、PGA2やPGB2の代謝産物も含まれる。
【0017】
<乳管形成促進方法>
本発明者は、種々のPG類でパラゴムノキを刺激し、乳管形成が促進されたか否かを調べた。この結果、後記実施例で示すように、植物体をPGE群、PGA群、及びPGB群のPG類で刺激した場合には、乳管形成の促進が確認されたが、PGF群及びPGI群のPG類には乳管形成促進作用は観察されなかった。このように、特定の種類のPG類が、乳管形成促進作用を有することは、本発明者により初めて得られた知見である。
【0018】
すなわち、本発明の乳管形成促進方法は、PGE2、PGA2、PGB2、及びこれらのアナログ化合物からなる群より選択される1以上の化合物の植物体中の含有量を増大させることを特徴とする。本発明においては、特に、PGE2、PGA2、及びPGB2からなる群より選択される1以上の化合物の植物体中の含有量を増大させることが好ましい。
【0019】
本発明において、PGE2、PGA2、又はPGB2のいずれかの化合物のアナログ化合物(以下、「PGアナログ」ということがある。)は、PGE2、PGA2、又はPGB2から公知の合成反応により合成することができる化合物であって、PGE2等と同様に乳管形成促進作用を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。なお、本願明細書において、「乳管形成促進作用を有する化合物」とは、当該化合物で植物体を刺激した場合や、当該化合物の植物体中の含有量を増大させた場合に、当該植物の乳管形成を促進し、乳管数を増大させる作用を有する化合物及び当該化合物を含む組成物を意味する。該化合物としては、乳管形成を直接促進させる化合物であってもよく、間接的に促進させる化合物であってもよい。
【0020】
PGE2、PGA2、PGB2、又はこれらのアナログ化合物で植物体を刺激することにより、当該植物体の乳管形成が促進される理由は明らかではないが、PGE2又はその代謝産物であるPGA2又はPGB2が、植物体における乳管細胞の分化シグナルにおいて、シグナル伝達物質として機能するため、又は、シグナル伝達物質の活性化物質として機能するためではないかと推察される。つまり、PGE2、PGA2、又はPGB2の植物体中の含有量を、一過性に又は恒常的に増大させることにより、乳管細胞の分化シグナルが活性化される結果、乳管形成が促進されると推察される。さらに、PGE2、PGA2、及びPGB2が、一連の代謝経路によって生合成されることから、この代謝経路を活性化することによっても、乳管形成を促進することができる。
【0021】
PGE2、PGA2、PGB2、及びPGアナログからなる群より選択される1以上の化合物(以下、「PGE2等の化合物」ということがある。)の植物体中の含有量を増大させる方法としては、例えば、PGE2等の化合物で直接植物体を刺激する方法が挙げられる。刺激部位から植物体内部にPGE2等の化合物が取り込まれる結果、刺激部位近傍の当該化合物の含有量を増大させることができる。
【0022】
PGE2等の化合物の刺激方法としては、例えば、PGE2等の化合物を直接植物体の表面に付着させる方法、注射器等を用いて植物体内部に注入する方法等が挙げられる。付着方法は、PGE2等の化合物を植物体の表面に付着させることが出来る方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、PGE2等の化合物を、刷毛等を用いて直接幹等に塗布してもよく、スプレー等を用いて噴霧してもよい。なお、PGE2等の化合物を付着又は注入する部位は、特に限定されるものではないが、幹又は茎であることが好ましい。幹等に付着させることにより、乳管の多い場所へ効率的に働きかけることができる。また、PGE2等の化合物は、当該化合物を有効成分とする乳管形成促進剤として、植物体に付着又は注入してもよい。
【0023】
また、植物体へのPGE2等の化合物の付着量は、乳管形成促進効果が得られる量であれば、特に限定されるものではなく、当該化合物の種類や濃度、付着方法、植物体の樹齢や種類等を考慮して適宜決定することができる。
【0024】
付着期間は、植物体において乳管が形成される数ヶ月〜1年程度で十分である。従来法のエチレン刺激による方法の場合には、長期的なエチレン刺激により、幹への悪影響が懸念されるが、本発明の乳管形成促進方法では、PGE2等の化合物による処理期間は乳管が形成されるまでの短期間であるため、植物への負担を顕著に軽減することができる。
【0025】
また、PGE2等の化合物は、塩として、植物体に付着又は注入してもよい。塩としては、PGE2等の化合物の乳管形成促進作用を阻害しない限り、特に限定されず、無機塩であってもよく、有機塩であってもよい。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等のアミン塩; 塩酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、りんご酸塩、フマ-ル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩を挙げることができる。
【0026】
本発明の乳管形成促進方法において、植物体中の含有量を増大させるPGアナログとしては、一般式(I)、(II)、及び(III)からなる群より選択される一般式で表される化合物であることが好ましい。なお、一般式(I)はプロスタグランジンE群と同じ基本骨格を有する化合物、一般式(II)はプロスタグランジンA群の基本骨格を有する化合物、一般式(III)はプロスタグランジンB群の基本骨格を有する化合物である。
【0027】
【化2】

[式中、R12は単結合又はアルケニレン基であり;Rは水素原子又はアルキル基であり;Rは1価の炭化水素基であり;R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は水酸基(但し、R及びRのいずれも水酸基である場合を除く。)である。]
【0028】
一般式(I)〜(III)中、R12は単結合又はアルケニレン基である。R12のアルケニレンとしては、特に限定されるものではなく、直鎖状のアルケニレン基であってもよく、分岐鎖状のアルケニレン基であってもよく、環状のアルケニレン基であってもよい。
【0029】
12の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基としては、炭素数2〜20のアルケニレン基であることが好ましく、炭素数2〜8のアルケニレン基であることがより好ましい。具体的には、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ペンタジエニレン基、ヘキセニレン基、ヘキサジエニレン基、ヘプテニレン基、ヘプタジエニレン基、オクテニレン基、オクタジエニレン基、デセニレン基等が挙げられる。
【0030】
12の環状のアルケニレン基としては、炭素数6〜10のアリーレン基であることが好ましい。具体的には、フェニレン基、1−ナフチレン基、2−ナフチレン基、トリレン基、キシリレン基等が挙げられる。
【0031】
本発明において、一般式(I)〜(III)のR12としては、単結合、直鎖状アルケニレン基、又は分岐鎖状アルケニレン基であることが好ましく、単結合、炭素数2〜8の直鎖状アルケニレン基、又は炭素数2〜8の分岐鎖状アルケニレン基であることがより好ましい。中でも、炭素数2〜8の直鎖状アルケニレン基であることが好ましく、炭素数4〜7の直鎖状アルケニレン基であることがより好ましく、ペンテニレン基又はヘキセニレン基であることがさらに好ましく、ペンテニレン基であることが特に好ましい。
【0032】
一般式(I)〜(III)中、Rは水素原子又はアルキル基である。
のアルキル基としては、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。また、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
【0033】
のアルキル基は、1又は2以上の水素原子が、水酸基、アルキルオキシ基、スルホニル基、スルホキシ基、ニトロ基、アミノ基等により置換されていてもよい。このような置換基を有する炭化水素基として、ヒドロキシエチル基、ジヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基等のアルキルオキシアルキル基等が挙げられる。
【0034】
本発明において、一般式(I)〜(III)のRとしては、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
【0035】
一般式(I)〜(III)中、Rは1価の炭化水素基である。Rの1価の炭化水素基としては、特に限定されるものではなく、直鎖状の炭化水素基であってもよく、分岐鎖状の炭化水素基であってもよく、環状の炭化水素基であってもよい。また、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。なお、本発明において、炭化水素基とは、炭素原子と水素原子からなる官能基を意味する。
【0036】
1価の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。一方、1価の環状の炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。なお、シクロアルキル基は、単環式基であるモノシクロアルキル基であってもよく、多環式基であるポリシクロアルキル基であってもよい。
【0037】
のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
【0038】
のアルケニル基としては、炭素数2〜20のアルケニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルケニル基であることがより好ましい。具体的には、ビニル基、アリル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、メチルペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
【0039】
のアルキニル基としては、炭素数2〜20のアルキニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキニル基であることがより好ましい。具体的には、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
【0040】
のシクロアルキル基としては、炭素数3〜20のシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数3〜8のモノシクロアルキル基、炭素数4〜10のポリシクロアルキル基であることがより好ましい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0041】
のアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基であることが好ましい。具体的には、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0042】
本発明において、一般式(I)〜(III)のRとしては、アルキル基又はアルケニル基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜6のアルケニル基であることがより好ましい。中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、又はヘキセニル基であることが好ましく、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ブテニル基、ペンテニル基、又はヘキセニル基であることがより好ましく、n−ペンチル基又はペンテニル基であることがさらに好ましく、n−ペンチル基であることが特に好ましい。
【0043】
一般式(I)〜(III)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は水酸基である。但し、R及びRのいずれも水酸基である場合は除く。
本発明において、一般式(I)で表される化合物としては、Rが水素原子であり、Rが水酸基であることが好ましい。
本発明において、一般式(II)で表される化合物としては、RとRのいずれも水素原子であることが好ましい。
本発明において、一般式(III)で表される化合物としては、RとRのいずれも水素原子であることが好ましい。
【0044】
上記一般式(I)〜(III)で表される化合物は、少なくとも1つの不斉炭素原子を有するため、光学異性体が存在し得る。本発明におけるPGアナログとしては、乳管形成促進作用を有する限り、これらの立体異性体のいずれであってもよい。
【0045】
また、上記一般式(I)〜(III)で表される化合物は、いずれも公知化合物又は公知化合物から公知の合成反応により簡便に合成し得る化合物である。したがって、常法により製造することができる。
例えば、上記式(I)〜(III)において、Rが水素原子である化合物は、プロスタグランジン三成分連結法等の公知の合成法により合成することができる。また、こうして得られた化合物に、アルキルアルコールを反応させてエステル化することにより、Rがアルキル基である化合物を合成することができる。その他、市販されている化合物を用いてもよい。
【0046】
PGE2等の化合物に代えて、生合成経路におけるPGE2の前駆体となる化合物を植物体に接触させることによっても、植物体中のPGE2等の化合物の含有量を増大させることができる。このような前駆体としては、例えば、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、PGG2、PGH2等が挙げられる。また、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、又はアラキドン酸を含有する油脂を植物体に接触させてもよい。本発明においては、特に、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、及びこれらを含有する油脂を植物体に接触させることが好ましい。
【0047】
その他、PGE2の生合成を促進し得る化合物を植物体に接触させることによっても、植物体中のPGE2等の化合物の含有量を増大させることができる。例えば、シクロオキシゲナーゼ活性を有する化合物や、植物体が有する内在性のシクロオキシゲナーゼの活性を増強する化合物を植物体に接触させることによって、当該植物体におけるPGE2生合成自体が促進される結果、PGE2及びその代謝産物の含有量を増大させることができる。
【0048】
なお、PGE2の前駆体となる化合物やPGE2の生合成を促進する活性を有する化合物の植物体への接触方法は、PGE2等の化合物と同様にして行うことができる。本発明においては、簡便であり、かつ、乳管に直接働きかけることが可能であることから、植物体の幹又は茎に、直接付着させる方法により接触させることが好ましい。
【0049】
本発明の乳管形成促進方法を用いて乳管形成を促進させる植物体としては、ラテックス(主にポリイソプレン)を産生する植物(ラテックス産生植物)であることが好ましい。このようなラテックス産生植物として、例えば、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Havea brasiliensis)、セアラゴムノキ(Manihot glaziovii)、クワ科のインドゴムノキ(Ficus elastica)、パナゴムノキ(Castilloa elastica)、ラゴスゴムノキ(Ficus lutea Vahl)、マメ科のアラビアゴムノキ(Accacia senegal)、トラガントゴムノキ(Astragalus gummifer)、キョウチクトウ科のクワガタノキ(Dyera costulata)、ザンジバルツルゴム(Landolphia kirkii)、フンツミアエラスチカ(Funtumia elastica)、ウルセオラ(Urceola elastica)、キク科のグアユールゴムノキ(Parthenium argentatum)、ゴムタンポポ(Taraxacum kok−saghyz)、アカテツ科のガタパーチャノキ(palaguium gatta)、バラタゴムノキ(Mimusops balata)、サポジラ(Achras zapota)、ガガイモ科のオオバナアサガオ(Cryptostegia grandiflora)、トチュウ科のトチュウ(Eucommia ulmoides)等が挙げられる。中でも、乳管細胞を有するパラゴムノキ、セアラゴムノキ、ゴムタンポポ等であることが好ましく、工業用天然ゴム原料として汎用されているパラゴムノキであることが特に好ましい。
【0050】
<乳管形成促進剤>
PGE2、PGA2、PGB2、又はPGアナログを有効成分とすることにより、本発明の乳管形成促進方法に好適な乳管形成促進剤を得ることができる。中でも、PGE2、PGA2、PGB2、又は上記一般式(I)〜(III)で表される化合物を有効成分とすることが好ましく、PGE2、PGA2、又はPGB2を有効成分とすることがより好ましい。
【0051】
上記一般式(I)〜(III)で表される化合物としては、具体的には、下記式(I−2−1)〜(I−2−15)、下記式(II−2−1)〜(II−2−15)、下記式(III−2−1)〜(III−2−15)で表される化合物等が挙げられる。
【0052】
【化3】

【0053】
【化4】

【0054】
【化5】

【0055】
【化6】

【0056】
【化7】

【0057】
【化8】

【0058】
また、PGE2の前駆体を有効成分とすることによっても、良好な乳管形成促進剤を得ることができる。中でも、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、PGG2、又はPGH2を有効成分とすることが好ましく、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、又はこれらの少なとも1種を含有する油脂を有効成分とすることがより好ましい。その他、シクロオキシゲナーゼを有効成分としてもよい。
【0059】
本発明の乳管形成促進剤は、1種類の乳管形成促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよく、2種類以上の乳管形成促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよい。例えば、PGE2とアラキドン酸の両方を有効成分とするものであってもよい。
【0060】
本発明の乳管形成促進剤は、有効成分である1種類又は2種類以上の乳管形成促進作用を有する化合物を、適当な媒体に溶解又は分散させて希釈させることにより得ることができる。該媒体は、乳管形成促進作用を有する化合物を、その乳管形成促進作用を阻害することなく十分に溶解又は分散させ得る媒体であれば、特に限定されるものではなく、公知の溶媒の中から、有効成分である化合物の性質、使用方法等を考慮して、適宜選択して用いることができる。
【0061】
該媒体として、例えば、水;カルナバロウ、密ロウ等のワックス類;ラノリン等のグリース類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;メチレンクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエ-テル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸ジエチル、エチレングリコールアセテート、マレイン酸ジブチル、コハク酸ジエチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類;アセトニトリル等のニトリル類;及び、ピリジン類等を挙げることができる。
【0062】
本発明の乳管形成促進剤の媒体としては、5〜50℃において液状であるものが好ましい。この温度において液状であれば、十分に粘度が低いため、ラノリン等の粘度が高く半固形状の媒体よりも、より簡便に植物体に付着させることができるためである。具体的には、水、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、アルコール類等の水溶性媒体が好ましい。中でも、水やアルコール類等であることがより好ましい。なお、本発明において水溶性媒体とは、水と容易に混和し得る媒体を意味する。
【0063】
また、本発明の乳管形成促進剤の媒体としては、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、水とアルコールとの混合溶液であってもよく、水とケトン類との混合溶液であってもよい。
【0064】
本発明の乳管形成促進剤中の乳管形成促進作用を有する化合物の濃度は、植物体へ付着させた場合に、乳管形成促進効果を奏するために十分な濃度であればよく、乳管形成促進作用を有する化合物の種類、用いる媒体の種類、植物体への付着方法等を考慮して、適宜決定することができる。
【0065】
本発明の乳管形成促進剤の剤型は、植物体に付着させることが可能な剤型であれば、特に限定されるものではなく、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤、ペースト剤、シート剤等を挙げることができる。植物への付着が簡便であるため、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤等であることが好ましく、液剤であることがより好ましい。
【0066】
本発明の乳管形成促進剤は、本発明の効果を阻害しない限り、乳管形成促進作用を有する化合物と媒体のほかに、分散剤、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、保存剤、安定化剤、殺菌剤、殺虫剤、栄養剤等を含有していてもよい。
【0067】
分散剤としては、例えば、公知の界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤のいずれであってもよく、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
好ましい分散剤としては、例えば、2種以上のアルキレンオキシドのブロック縮重合体、ポリオキシアルキレンエーテル系化合物、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル系化合物、多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレン多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレンアルキルアミン化合物、アルキルアルカノールアミド化合物等が挙げられる。
【0069】
粘度調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose,CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の中から適宜選択して用いることができる。中でも、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。
【0070】
本発明の乳管形成促進剤は、本発明の効果を阻害しない限り、乳管形成促進作用を有する化合物以外の他の植物ホルモンを含有していてもよい。このような植物ホルモンとして、例えば、オーキシン類、インドール酢酸、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレン、Ethephon、ブラシノステロイド類、フロリゲン、サリチル酸等が挙げられる。
【0071】
乳管細胞からなる乳管は、ラテックス生合成部位であり、ラテックスの生産能力は、ラテックス生合成部位である乳管細胞の数に大きく依存する。一般的に、乳管細胞の形成は自然環境下での木の生理状態や性質に左右されるものであるが、本発明の乳管形成促進方法及び乳管形成促進剤により、植物体中の乳管細胞数を増加させることができるため、植物体そのもののラテックス生産能力を向上させ、ラテックス収量を増大させることができる。また、本発明の乳管形成促進剤を含ませることにより、良好なラテックス増産剤を製造することができる。
【実施例】
【0072】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下「%」とは、特に記載が無い限り、「%(w/v)」を意味する。
【0073】
[実施例1]
<乳管形成促進剤の調製>
PGE2(シグマ社製、カタログ番号P0409)、PGA2(シグマ社製、カタログ番号P4547)、PGB2(シグマ社製、カタログ番号P5390)、PGF1α(シグマ社製、カタログ番号P5765)、及びPGI2(シグマ社製、カタログ番号P6188)を、それぞれ有効成分とする乳管形成促進剤を調製した。
具体的には、各PG類を、最終濃度が0.1%となるように、1%CMC溶液を用いて希釈し、得られた0.1%希釈液を乳管形成促進剤として用いた。
【0074】
<乳管形成促進剤の付着>
スプレーによる噴霧又は刷毛による塗布により、樹齢1年目のパラゴムノキに、上記で調製した乳管形成促進剤を、幹表面に0.1mL/cmとなるように、2ヶ月間にわたり2週間ごとに1回(合計4回)塗布した。1種類の乳管形成促進剤に対して、それぞれ3本の木に対して行った。その後、タッピングにより塗布部分から回収されたゴム(ラテックス)量を測定した。タッピングは2日おきに3回実施し、各回の平均値を、回収されたゴム量とした。なお、コントロールとして、1%CMC溶液を同様にしてパラゴムノキに付着させ、回収したゴム量を測定した。
【0075】
図2は幹に塗布した乳管形成促進剤の有効成分であるプロスタグランジン類の種類と回収されたゴム量(mg)との関係を示した図である。図中、「Cont」はコントロールを示す。この結果、PGE2、PGA2を有効成分とした場合には、コントロールに比べて明らかに回収されたゴム量が増大していた。PGB2を有効成分とした場合にも、他のPG類に比べて少ないものの、コントロールに比べてゴム量が増大していることが確認された。これに対して、PGF1α及びPGI2を有効成分とした場合には、ゴム量はコントロールとほぼ変わらなかった。
【0076】
また、同時に、各パラゴムノキの木の、塗布部の乳管数(乳管層の数)を調べた。具体的には、乳管形成促進剤塗布前と、塗布処理開始2ヶ月後のゴムを回収した時点において、それぞれ塗布部の組織切片を作成し、これに対してオイルレッドによる色素染色を行うことにより調べた。
【0077】
図3〜5は、塗布部の組織切片のオイルレッド染色像を、幹に塗布したプロスタグランジン類の種類ごとに示した図である。上段は塗布前の染色像であり、下段は塗布処理開始2ヶ月後の染色像である。図中、矢頭(▲)は、塗布処理により増加した乳管を示す。
この結果、未処理の木ではいずれも乳管リング(乳管層)数は1本(1層)であった。これに対して、塗布処理開始2ヶ月後では、コントロールでは乳管数は1本であり、特に変化はなかったが、PGE2及びPGA2では乳管リング数が2本となっており、いずれも乳管数が増大し、乳管形成が促進されたことが確認された。また、PGB2では部分的に乳管リング数が2本となっており、やはり、PGB2刺激により乳管形成が促進されることが確認された。一方、PGF1α及びPGI2では、コントロールと同様に乳管数は1本であり、乳管形成は促進されていなかった。
【0078】
図6は、回収されたゴム量と観察された乳管形成の結果を纏めた図である。図中の数値は、ゴム量(mg)を示す。この結果、PGE2、PGA2、及びPGB2を塗布した場合には、乳管形成が促進され、かつ回収できるゴム量が増大した。また、乳管形成と回収されるゴム量は相関することも確認された。一方で、PGF1α及びPGI2を塗布した場合には、乳管形成は促進されず、回収されるゴム量もほとんど増大しなかった。
【0079】
以上の結果より、PGE2、PGA2、PGB2、及びPGアナログからなる群より選択される1以上の化合物を、植物体に付着させて刺激することにより、乳管形成が促進され、乳管数を増加させることができ、この結果、ラテックス(ゴム)を増産し得ることが明らかである。
また、PGE2、PGA2、及びPGB2は、特定の代謝経路に関与する化合物であることから、この代謝経路を活性化することによっても、乳管形成を促進し得ることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の乳管形成促進方法及び乳管形成促進剤は、ラテックス産生植物の乳管数(乳管密度)を増大させ、木本来のラテックス生産能力を向上させることができるため、天然ゴムの産生の分野で特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、プロスタグランジンB2、及びこれらのアナログ化合物からなる群より選択される1以上の化合物の植物体中の含有量を増大させることを特徴とする乳管形成促進方法。
【請求項2】
前記化合物が、下記一般式(I)、(II)、及び(III)からなる群より選択される一般式で表されることを特徴とする請求項1記載の乳管形成促進方法。
【化1】

[式中、R12は単結合又はアルケニレン基であり;Rは水素原子又はアルキル基であり;Rは1価の炭化水素基であり;R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は水酸基(但し、R及びRのいずれも水酸基である場合を除く。)である。]
【請求項3】
前記R12が単結合又は炭素数2〜8のアルケニレン基であり、前記Rが水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、前記Rがアルキル基又はアルケニル基であることを特徴とする請求項2記載の乳管形成促進方法。
【請求項4】
前記化合物が、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、及びプロスタグランジンB2からなる群より選択される1以上であることを特徴とする請求項1記載の乳管形成促進方法。
【請求項5】
前記化合物で、植物体を刺激することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の乳管形成促進方法。
【請求項6】
前記化合物を有効成分とする乳管形成促進剤を、植物体の幹又は茎に付着させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の乳管形成促進方法。
【請求項7】
γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、及びこれらを含有する油脂からなる群より選択される1以上で、植物体を刺激することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の乳管形成促進方法。
【請求項8】
前記植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の乳管形成促進方法。
【請求項9】
プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、プロスタグランジンB2、及びこれらのアナログ化合物からなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とすることを特徴とする乳管形成促進剤。
【請求項10】
前記化合物が、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンA2、及びプロスタグランジンB2からなる群より選択される1以上であることを特徴とする請求項9記載の乳管形成促進剤。
【請求項11】
前記化合物が、下記一般式(I)、(II)、及び(III)からなる群より選択される一般式で表されることを特徴とする請求項9記載の乳管形成促進剤。
【化2】

[式中、R12は単結合又はアルキレン基であり;Rは水素原子又はアルキル基であり;Rは1価の炭化水素基であり;R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は水酸基(但し、R及びRのいずれも水酸基である場合を除く。)である。]
【請求項12】
前記化合物を、水溶性媒体に溶解又は分散させてなることを特徴とする請求項9〜11のいずれか記載の乳管形成促進剤。
【請求項13】
γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、及びこれらを含有する油脂からなる群より選択される1以上を有効成分とすることを特徴とする乳管形成促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280576(P2010−280576A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133044(P2009−133044)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】