説明

乳酸発酵甘酒の製造方法

【課題】従来の甘酒に比較して清涼感のある甘酒を提供する。
【解決手段】本発明は、甘酒を用意するステップ、乳酸菌を添加するステップ、及び乳酸菌発酵を行うステップを含む、甘酒の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸発酵甘酒の製造方法及び乳酸発酵甘酒に関する。より詳細には、本発明は、甘酒を乳酸発酵するステップを含む乳酸発酵甘酒の製造方法及び該方法により製造される乳酸発酵甘酒に関する。
【背景技術】
【0002】
甘酒は、コメを主原料とする甘味を有する粥状の飲料である。通常は、米麹などのコウジカビを含有する原料を米飯などに添加し、コウジカビが産生する糖化酵素の作用によりコメに含まれるデンプンを糖化することによって製造される。従来の甘酒の製造方法については、例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0003】
従来の方法で製造される甘酒は、粥状の形状、米麹の風味などにより、比較的濃厚な飲み物であり、加温して冬季に飲用される場合がほとんどである。その際、米麹の独特な香り(臭み)を低減するために、ショウガなどを添加する場合もある。
【0004】
上記のとおり甘酒はコメを主原料とし、かつ製造に麹菌が繁殖した米麹を使用することから、豊富なアミノ酸及びビタミン類を含み、栄養価に優れている。そのため、近年、甘酒は単なる嗜好品としてではなく、健康食品としても認識されるに至っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】農産加工食品製造の手引き、2006年、岡山県(www.pref.okayama.jp/norin/nokeiei/seisan−tyousa/manyuaru.pdf)、123〜126ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の甘酒の特徴から、甘酒は現在、冬季に、限られた状況でのみ消費されている。したがって、甘酒の消費を拡大するためには、季節を問わず飲み易い、爽やかな風味を有する新規な甘酒の開発が必要である。また、栄養価の高さをはじめとするその潜在的価値を考えれば、従来よりも飲み易い甘酒の開発は、摂取の容易な新規な健康食品を提供し、人の健康増進に役立つと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者は、甘酒を乳酸発酵させることにより、適度な酸味と好ましい香味とを有する乳酸発酵甘酒を製造し、本発明を完成させた。
【0008】
より具体的には、本発明は以下の特徴を有する。
〔1〕甘酒を用意するステップ、
該甘酒に乳酸菌を添加するステップ、及び
乳酸菌発酵を行うステップ
を含む、乳酸発酵甘酒の製造方法。
〔2〕乳酸菌を添加する前に加熱殺菌を行う、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕pHが約2〜5.3となった時点で乳酸発酵を停止する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕乳酸発酵の停止を加熱殺菌により行う、上記〔3〕に記載の方法。
〔5〕乳酸菌が、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris)、若しくはラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、又はこれらの組み合わせである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の方法。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の方法により製造される乳酸発酵甘酒。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、季節を問わず飲み易い、良好な風味を有する甘酒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来の一般的な甘酒の製造方法を表すフロー図である。
【図2】本発明の乳酸発酵甘酒の製造方法の一例を表すフロー図である。
【図3】乳酸発酵による甘酒のpH変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の乳酸発酵甘酒の製造方法は、甘酒を用意するステップ、該甘酒に乳酸菌を添加するステップ、及び乳酸菌発酵を行うステップを含む。
【0012】
本発明において、「甘酒」とは、典型的には、コメ由来の原料を、糖化ステップを含む手順により処理した液体を意味する。具体的には、甘酒は、例えば、米飯又は米粥に、コウジカビを含む米麹を添加し、一定温度で保温して、コウジカビにより産生される糖化酵素によりコメに含まれるデンプンを糖化させることにより製造される。しかし、糖化に特別に時間をかけることなく、米麹若しくは酒粕又はそれらの混合物に甘味料を添加し、希釈するなどして製造された液体も、本発明の甘酒に含まれる。
【0013】
典型的な甘酒の製造方法は、例えば、白米に水を添加して煮沸することにより作製した米粥に、コウジカビを含む材料(例えば、米麹)を添加するステップ、及び50〜70℃で6〜24時間保温するステップ(糖化ステップ)を含む。ここで、コウジカビとしては、限定するものではないが、例えば、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)等が挙げられる。
【0014】
商業的に販売される甘酒の一般的な製造方法を、図1に示す。製品としての甘酒を製造する際には、上記で説明したコメの糖化液である甘酒に、食塩、アルコールなどを添加する場合がある。本発明の方法で乳酸発酵の対象とする甘酒には、食塩、アルコールなどを添加する必要はないが、これらを添加していてもよい。
【0015】
上記で説明したコメの糖化液である甘酒に、例えば果汁又はクエン酸などの添加物を添加したものも本発明の方法における甘酒に含まれる。この場合、そのような添加物を添加した後に、乳酸菌を加える。添加物としては、果汁、甘味料、酸味料、又は香料などが挙げられる。甘味料としては、限定するものではないが、ショ糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、ハチミツ、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムKなどが挙げられる。酸味料としては、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、レモン汁などが挙げられる。例えば果汁を添加すれば、最終的な生成物である乳酸発酵甘酒に、果汁由来の香味を加えることができる。
【0016】
本発明の方法は、好ましくは、コウジカビを用いた糖化ステップの後、乳酸菌を添加する前に、コウジカビを加熱殺菌するステップをさらに含む。この加熱殺菌は、例えば、コメの糖化液(甘酒)を85℃にて10分間加熱することにより行う。加熱は、ガスバーナー、恒温槽、又はプレートヒーターにより当該液体を熱することにより行うことができる。
【0017】
本発明の方法で用いる乳酸菌は、食品の発酵用の乳酸菌であれば特に制限されないが。好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris)、若しくはラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、又はこれらの組み合わせである。用いる乳酸菌の種類、組み合わせ、及び投入のタイミングは、所望の風味、発酵時間等に依存して、適宜選択することができる。これらの種をはじめとする食品の発酵用の乳酸菌は、例えば、協和ハイフーズ株式会社(東京、日本)から入手可能である。生成される乳酸発酵甘酒においてヨーグルト又はチーズのような風味を強く出したいのであれば、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)及びラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を主に使用するのが望ましい。
【0018】
乳酸発酵時の乳酸菌の添加量は、用いる乳酸菌の種類、発酵温度、発酵時間、所望の風味などの条件に応じて当業者が適宜決定することができる。乳酸菌の添加量は、例えば、甘酒1gあたり1×10〜1010個、好ましくは1×10個の乳酸菌とすることができる。
【0019】
本発明の方法では、好ましくは、乳酸発酵は、15〜45℃にて1〜300時間程度、例えば3〜96時間程度、より好ましくは25〜35℃にて6〜24時間程度、最も好ましくは30℃にて16〜24時間インキュベートすることにより行う。あるいは、乳酸発酵を2以上の温度で段階的に行うこともできる。低温(例えば、15℃)にて乳酸発酵を行うと、乳酸菌により生成される香味がより強くなり、比較的高温(例えば、45℃)にて乳酸発酵を行うと、乳酸菌により生成される香味はあまり感じられなくなる。
【0020】
乳酸発酵の条件については、Rasic及びKurmannの著書(Yoghurt その基礎科学および技術、製造と調製法、L.Lj.Rasic及びJ.A.Kurmann(著)、曽根敏麿(監訳)、実業図書、1980年)、及び乳酸菌研究集談会による著書(乳酸菌の科学と技術、第4版、乳酸菌研究集談会(編)、学会出版センター、2003年)等を参照されたい。
【0021】
乳酸発酵は、発酵液のpHが好ましくは、約2〜5.3、より好ましくは約3〜5.25、最も好ましくは約4となった時点で停止させる。乳酸発酵の停止は、上記コウジカビの殺菌と同様に、加熱殺菌により行うことができる。加熱殺菌は、例えば、発酵液を85℃にて10分間加熱することにより行う。あるいは、球菌だけを用いるか、又は耐酸性が弱いか、ほとんどない乳酸菌を用いれば、特に殺菌手順を行わなくても、pH4付近で発酵が停止する。加熱殺菌が必要な場合、大量生産時には、pHの確認から加熱操作までに時間がかかることが予想されるため、所望のpHよりもやや塩基性となった時点(例えば、pH4の製品を得ようとする場合、pHが4よりもやや高い時点(例えば、pH4.5))でインキュベートを停止し、加熱操作を始めることが望ましい。
【0022】
本発明の方法により得られる乳酸発酵甘酒は、乳酸発酵の程度によって得られる風味が異なる。例えば、pH6程度の甘酒から発酵を始めた場合、pH5.25付近から若干酸味が感じられるようになり、甘酒特有の濃厚な飲み口から、軽い飲み口に変化する。pH5より酸性になると、はっきりと酸味が感じられるようになり、球菌(例えば、ラクトコッカス属乳酸菌)を用いた場合には、ヨーグルトやフレッシュチーズのような香味が感じられるようになる。pH4付近では、酸味と甘味のバランスがよく、非常に飲みやすい製品が得られる。このとき、乳酸発酵前に水で希釈したものは、物性もさらっとしており、そのままで飲用に供するのに適している。耐酸性が低い球菌では、上記のとおりpH4付近で発酵が停止する。耐酸性の強い乳酸菌、例えば桿菌(例えば、ラクトバシラス属乳酸菌)では、乳酸発酵を継続すればそれ以下にまでpHが低下し、pH2付近まで達する。pH4よりも酸性の製品は、甘味よりも酸味が強く感じられるが、フルーツ香料などの添加物を加えるか、甘味料を加えて味を調整すれば、非常に爽やかで飲みやすい製品となる。全体として、pHが酸性に低下すれば、それだけ甘酒特有の濃厚さは弱まり、すっきりとした飲み口となる。そのままで飲用に供するのならば、甘味と酸味のバランスがよい、pH3〜5.25、例えば約pH4付近のものが好適である。
【0023】
本発明の方法により得られる乳酸発酵甘酒に、さらに添加物を加える場合には、最終的な産物が適度な酸味を有するように、乳酸発酵の停止時のpHを設定する。例えば、添加物としてクエン酸等を加える場合には、pH5程度で乳酸発酵を停止するのが望ましい。また、添加物を加えた後に最終的に得られる製品のpHは約3〜5.5の範囲内であることが好ましい。
【0024】
本発明の方法において、濃度の調整のために、甘酒又は乳酸発酵甘酒を、水で適宜希釈することができる。希釈は、乳酸発酵の前に行ってもよいし、その後に行ってもよい。希釈倍率は特に制限されないが、水で希釈する場合、好ましくは1.2〜5倍、より好ましくは1.5〜3倍、特に好ましくは2倍である。
【0025】
本発明の方法は、さらに、乳酸発酵後に得られた生成物を濾過するステップを含むこともできる。これにより、物性的にさらに飲みやすい甘酒を得ることができる。
【0026】
本発明は、本発明の方法により製造された乳酸発酵甘酒にも関する。本発明の乳酸発酵甘酒は、乳酸発酵により生じた適度な酸味及び好ましい香味を有し、麹の独特な臭みはマスクされている。したがって、本発明の乳酸発酵甘酒は、従来の甘酒よりも爽やかな風味を有し、何も添加せず、冷やしても美味しく飲用することができる。
【0027】
しかし、本発明の乳酸発酵甘酒には、アルコール、食塩、果汁、又は甘味料、酸味料、香料などの食品用添加物をさらに添加してもよい。甘味料としては、限定するものではないが、ショ糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、ハチミツ、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムKなどが挙げられる。酸味料としては、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、レモン汁などが挙げられる。
【0028】
本発明の乳酸発酵甘酒は、甘酒自体の豊富な栄養価を保ち、さらに乳酸菌によりもたらされる成分も有しているため、健康食品としての価値も高い。
【0029】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
1.甘酒の調製
以下のようにして米麹を製造した。はじめに、原料となる精白米を蒸した後、冷却し、種麹(株式会社ビオックより入手、コウジカビ:Aspergillus orizae)を、精白米:種麹の重量比、約240kg:20gで添加した。この混合物を、36℃にて45時間インキュベートした。
【0031】
288gの上記米麹を453.6gの米粥(水に浸漬させた精白米138.6gと水315Lとを混合して炊き上げたもの)に添加し、57〜58℃にて20時間インキュベートした。Brix:44%、pH5.75の甘酒が生成された。プレートヒーターを用いて85℃にて10分間加熱殺菌した後、30℃まで冷却した。一部のものは、以下に記載する乳酸発酵前に水で2倍に希釈した。
【0032】
2.乳酸発酵
上記で調製した甘酒に、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis;以下、「L.ラクティス」と称する。)及びラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris;以下、「L.クレモリス」と称する。)の混合物の粉末製剤(協和ハイフーズ株式会社、CHOOZITTM MA LYO)、若しくはラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum;以下、「L.プランタラム」と称する。)の粉末製剤(協和ハイフーズ株式会社、CHOOZITLYOFLAV 14)を、それぞれ1×10細胞/g甘酒程度(CHOOZITTM MA LYOは0.5g/kg甘酒、CHOOZITLYOFLAV 14は10g/kg甘酒)になるように、単独で一度に添加するか、又は2種の粉末乳酸菌製剤を順次添加し(合計で3種類の乳酸菌を含む)、撹拌した。このとき、雑菌が入らないように注意した。
【0033】
30℃のインキュベーターでインキュベートすることにより、乳酸発酵させた。乳酸発酵中、種々の時点でpHを測定した。結果を表1及び図3に示す。乳酸発酵前に水での希釈を行わなかったサンプルでは、16〜24時間後にpH値が4より若干高くなった。すべてのサンプルで、11日間の発酵後の乳酸発酵甘酒でも、pH値は3以上であった。
【0034】
【表1】

【0035】
3.乳酸発酵甘酒の調製
上記のように3種の乳酸菌の混合物(L.ラクティス+L.クレモリス+L.プランタラム)を加えて発酵させた発酵液のpHが4付近に達したら、水で2倍に希釈し、プレートヒーターを用いて85℃にて10分間加熱殺菌した。調製された乳酸発酵甘酒は、酸度:0.18%(w/w)、pH4.0、Brix:20%、乳酸濃度:0.4%(w/w)であった。
【0036】
4.官能評価
上記3.で調製した乳酸発酵甘酒を、9名のパネラーによる評価に供した。9名全員が良好な評価をした。具体的には、調製された乳酸発酵甘酒は、適度な酸味と、ヨーグルト又はチーズ様の香りを有し、甘酒本来の麹の香りも保っていた。調製された乳酸発酵甘酒は甘味と酸味のバランスがよく、特に冷やして飲んだ場合に、高評価であった。
【0037】
また、上記2.の乳酸発酵後の種々の時点でのサンプルの官能評価の結果を、以下の表2に示す。
【0038】
【表2】


【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、季節を問わず飲み易い、良好な風味を有する甘酒を提供することができる。したがって、本発明は、食品分野での利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘酒を用意するステップ、
該甘酒に乳酸菌を添加するステップ、及び
乳酸菌発酵を行うステップ
を含む、乳酸発酵甘酒の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌を添加する前に加熱殺菌を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pHが約2〜5.3となった時点で乳酸発酵を停止する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
乳酸発酵の停止を加熱殺菌により行う、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
乳酸菌が、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris)、若しくはラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、又はこれらの組み合わせである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により製造される乳酸発酵甘酒。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−187633(P2010−187633A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37874(P2009−37874)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(597007569)フンドーキン醤油株式会社 (1)
【Fターム(参考)】