説明

乾湿式紡糸装置

【課題】多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金より紡糸原液(ドープ)を一旦空気などの気体雰囲気中へ紡出し、凝固液を貯えた凝固浴へドープを導いて繊維化する乾湿式紡糸において、単繊維切れの発生頻度を少なくして生産性を向上させると共に、糸条を構成する単繊維群間での品質のバラツキが無い安定して優れた性能を有する繊維を紡糸するための乾湿式紡糸装置を提供する。
【解決手段】多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金からエアギャップを介して紡出された紡糸原液を繊維化して凝固させる凝固液を充填する凝固浴と、
(1)その両端に開口を有し、(2)一方端側開口は漏斗形状を呈して前記凝固液の液面下に設けられ、(3)他方端側開口は前記一方端側開口の設置位置より下方に設けられて大気中に開放され、(4)前記一方端側開口より下方へ略鉛直に伸びた第1直管部と、前記第1直管部と10°から120°の角度を形成して設けられた第2直管部と、前記第1直管部と前記第2直管部を所定の曲率半径を有する曲管で接続する曲管部とが前記他方端側の開口へ向って形成され、(5)前記一方端側開口から内部へ流入した凝固液が前記第1直管部、前記曲管部、及び前記第2直管部を流通して前記他方端側開口から流出するように構成された流管と、
前記流管の曲管部及び/又は第2直管部に設けられて前記流管中へ濃度及び/又は温度の異なる凝固液を供給する凝固液供給手段とを少なくとも備えた乾湿式紡糸装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金より紡糸原液を一旦空気などの気体中に紡出し、紡出した紡糸ドープを凝固浴中へ導入して繊維化する乾湿式紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度と高モジュラスを兼ね備えた全芳香族ポリアミド繊維を紡糸する紡糸技術として、紡糸口金より全芳香族ポリアミド重合体を含む紡糸原液(ドープ)を一旦空気などの気体中に紡出し、紡出した前記ドープ流を凝固液に導入して繊維化する乾湿式紡糸法方が知られている。この乾湿式紡糸方法では、エアギャップ中へ紡出されたドープを凝固液へ導き、ポリマーを溶解する溶媒をドープ中から抜き出す脱溶媒を行うことにより、ドープ中のポリマーを凝固させて、繊維化することが行なわれる。
【0003】
しかしながら、凝固液で紡出されたドープを糸条として凝固させる際に、所謂「静的な凝固浴」中で凝固させると、静止した凝固液中をドープもしくは糸条が走行する際に大きな走行抵抗を受ける。そうすると、液抵抗が原因となって、マルチフィラメント糸を構成する単繊維が切れてしまうという現象が発生するため、紡糸速度を上げることができず、低速にせざるを得なかった。
【0004】
しかも、ドープからの所定量の脱溶媒を行なうためには、凝固液中でドープが滞留して溶媒が抜け出すまでの滞留時間がある程度必要とされるので、紡糸速度を高速化すると、滞留時間の関係で凝固液への浸漬長をどうしても長く確保しなければならなくなる。そうすると、紡糸設備がどうしても長大化あるいは巨大化するという問題が生じる。
【0005】
そこで、これらの問題を解消して紡糸速度を高速にする方法として、例えば、特許文献1(特開昭60−52610号公報)に開示された従来技術において、凝固液を流管中に導入して流動させ、流動する凝固液と共にドープ及び糸条を走行させて、凝固液から受ける抵抗を小さくすることによって、単繊維切れを防止しながら紡糸速度を上げる所謂「流管で液抵抗を減らしつつ凝固する方法」が提案されている。
【0006】
確かに、この方法によれば、流管中に凝固液を導入して流動させることによって、凝固液の流速を上げることができる。このため、紡出糸条の速度と凝固液の流動速度とを近づけることができ、糸条が凝固液から受ける抵抗を低減することができる。しかしながら、このような方法を採用しても、走行する糸条の速度と流管内を流れる凝固液の流速を一致させることが難しく、これから生じる不可避的な両者の速度差が原因となって、単繊維切れを起こしてしまい、安定した紡糸を行うことができないという問題は依然として残る。
【0007】
しかも、この従来技術では、流管内を流通する凝固液は流管の途中から追加又は更新されることがない。このため、流管中でドープを凝固させる系においては、糸条が流管を通過するにしたがって、ドープから抜け出た溶媒の濃度が下流へ流れるに従って上昇し、その結果、狙い通りの凝固を行なうことが困難となって、目的とする品質の安定性が損なわれる。特に、生産性を向上させるために、糸条を構成する単繊維の数を増やすような場合には、ドープから抜き出さなければならない溶媒量もそれに比例して増加するために、単繊維切れが生じる確率もより高くなってしまう。
【0008】
また、以上に説明した乾湿式紡糸においては、湿式紡糸の場合を含めて、紡出した未凝固の糸条の凝固化工程の後に、糸条中の溶剤濃度を上げて可塑化し易い状況を現出させ、その後可塑化延伸をすることにより繊維内部の高分子を互いに配向させて高強度化を促進することができる。しかしながら、凝固させた後に繊維中の溶剤濃度を上げて可塑化状態を現出させて、繊維を延伸しようとすると、溶剤濃度を高めた凝固液との間に走行抵抗が生じることになって、紡出糸条の凝固過程と同様に、この溶媒濃度を高めた凝固液による抵抗が原因となる単繊維が切れが発生するという問題がある。
【0009】
そこで、このような問題を解決するために、例えば特許文献2(特開昭61−19805号公報)において提案されている従来技術がある。この従来技術では、その出口部をテーパー状に細くした漏斗形状を有する流管を用いて、紡糸口金から紡出された未凝固の糸条を前記出口部で瞬間的に数十倍延伸し、更にその下方に自由落下してくる延伸糸条と凝固液に対して液体噴射器より第2の凝固液を噴射することを少なくとも要件とすることが提案されている。
【0010】
確かに、この従来技術によれば、流管内を流れる凝固液の流速を瞬間的に上げることができ、これによって紡出糸条を急激に延伸できる。また、液体噴射器から濃度の異なる凝固液を供給すれば、凝固過程中における凝固液の濃度制御が可能である。しかしながら、この従来技術は、未凝固の糸条を急激に延伸するものであって、全芳香族ポリアミド重合体の場合には、急激な延伸によって、かえって単繊維切れを惹起すると言う問題がある。しかも、流管と液体噴射器との間で糸条と凝固液が自由落下するゾーンが形成されており、糸条が液体噴射器に入った時に急激な流体の速度変化が生じてしまい、凝固過程の途中にある糸条を構成する単繊維が切れてしまうという問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開昭60−52610号公報
【特許文献2】特開昭61−19805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上に述べた従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、「多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金より紡糸原液(ドープ)を一旦空気などの気体雰囲気中へ紡出し、凝固液を貯えた凝固浴へドープを導いて繊維化する乾湿式紡糸において、単繊維切れの発生頻度を少なくして生産性を向上させると共に、糸条を構成する単繊維群間での品質のバラツキが無い安定して優れた性能を有する繊維を紡糸するための乾湿式紡糸装置を提供すること」にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに、上記課題を解決する本発明として、請求項1に記載の
「多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金からエアギャップを介して紡出された紡糸原液を繊維化して凝固させる凝固液を充填する凝固浴と、
(1)その両端に開口を有し、(2)一方端側開口は漏斗形状を呈して前記凝固液の液面下に設けられ、(3)他方端側開口は前記一方端側開口の設置位置より下方に設けられて大気中に開放され、(4)前記一方端側開口より下方へ略鉛直に伸びた第1直管部と、前記第1直管部と10°から120°の角度を形成して設けられた第2直管部と、前記第1直管部と前記第2直管部を所定の曲率半径を有する曲管で接続する曲管部とが前記他方端側の開口へ向って形成され、(5)前記一方端側開口から内部へ流入した凝固液が前記第1直管部、前記曲管部、及び前記第2直管部を流通して前記他方端側開口から流出するように構成された流管と、
前記流管の第1直管部、曲管部、及び/又は第2直管部に設けられて前記流管中へ濃度及び/又は温度の異なる凝固液を供給する凝固液供給手段とを少なくとも備えた乾湿式紡糸装置。」が提供される。
【0014】
また、本発明は、請求項2に記載のように、「前記第2直管部を出た糸条を引き取るための引取ロールを備えた請求項1記載の乾湿式紡糸装置」とすることが望ましい。
【0015】
また、本発明は、請求項3に記載のように、「前記凝固液供給手段が前記前第1直管部を流れる凝固液の濃度よりも高濃度の凝固液を供給する手段である請求項1又は請求項2に記載の乾湿式紡糸装置」とすることが望ましい。
【0016】
そして、本発明は、請求項4に記載のように、「流管内へ凝固液を注入する前記凝固液注入器の液注入部に、前記液注入部に凝固液の注入圧力を均圧化する均圧化部材を設けた請求項1〜3の何れかに記載の湿式紡糸装置」とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の乾湿式紡糸方法とその装置によれば、紡糸速度を上げることができ、かつ、流管内の濃度および温度を任意に設定できることにより、流管内でのドープの繊維化のための凝固を効率的に行うことができる。このため、得られる糸条は、単繊維切れが少なく且つ品質のバラツキのない安定したものを得ることができるという極めて顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明がその対象とするのは、高強度と高モジュラスを兼ね備えた全芳香族ポリアミド繊維などを製造するために好適な乾湿式紡糸方法とそのための装置である。
以下、前記本発明者等が着想するに至った本発明について図面を参照しながら、その実施形態を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る乾湿式紡糸装置の一実施形態を模式的に例示した概略構成図である。この図1において、Dは全芳香族ポリアミドからなるポリマーを含むドープ、そして、Yはこのようなドープから溶媒が抽出されて繊維化された糸条をそれぞれ示す。また、1は多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金、2は凝固装置、3は流管、そして、4は糸条を引き取るための回転体などからなる引取手段をそれぞれ示す。
【0020】
以上のように構成される本発明の乾湿式紡糸装置に係る実施形態例において、前記凝固装置2は、凝固浴2a、凝固液の供給配管2b、凝固液の排出配管2c、そして、凝固浴2aからあふれ出た凝固液を回収する回収手段2dを含んで構成されている。ただし、この図1中で、Lは「凝固浴2a中の凝固液」、そして、L1は「凝固浴2aからあふれ出た凝固液」をそれぞれ区別して示している。なお、Sは前記凝固液Lによって形成された液面をそれぞれ示す。
【0021】
以上に説明したように構成される凝固装置2において、凝固液Lが凝固浴2aへ供給供給配管2cから凝固液供給手段(図示せず)によって供給される。そして、このようにして凝固浴2aへ供給された凝固液Lに関しては、一方の過剰に供給された分は凝固浴2aの上端からオーバーフローして凝固浴2aから流出し、他方の必要とされる分は第1直管部3a中を流下することとなる。したがって、凝固浴2aには、常に満杯の凝固液Lで満たされることになり、凝固浴2aの液面レベルも常に一定のレベル位置に維持される。なお、オーバーフローした過剰の凝固液L1は回収手段2dによって回収され、この回収手段2dに接続する排出配管2cから排出される。
【0022】
以上に説明したように、凝固浴2aへ供給された凝固液Lは、流管3へ流入して紡糸口金1から紡出されたドープDとともに流管3内を流下する。また、この流管3は、図1に例示したように、(1)その両端に開口O1及びO2を有し、(2)一方端側開口O1は漏斗形状を呈して前記凝固液Lの液面下に設けられ、(3)他方端側開口O2は前記一方端側開口O1の設置位置より下方に設けられて大気中に開放され、(4)前記一方端側開口O1より下方へ略鉛直に伸びた第1直管部3aと、前記第1直管部3aと10°から120°の角度を形成して設けられた第2直管部3cと、前記第1直管部3aと前記第2直管部3cを所定の曲率半径Rを有する曲管で接続する曲管部3bとが前記他方端側開口O2へ向って形成され、(5)前記一方端側開口O1から内部へ流入した凝固液Lが前記第1直管部3a、前記曲管部3b、及び前記第2直管部3cを流通して前記他方端側開口O2から流出するように構成されている。
【0023】
このとき、ドープDは紡糸口金1から紡出されて凝固液Lを満たした凝固浴2a中へ導入され、次いで、一方端側開口O1より第1直管部3aへ入る。そして、第1直管部3a内を流下した凝固液LとドープDは、所定の曲率半径Rを有する曲管部3bを通過し、第1直管部3aと10°から100°の角度をなす第2直管部3cの他方端側開口O2から排出される。
【0024】
その際、前記第1直管部3a、曲管部3b、及び第2直管部3cのいずれかの場所において、凝固液調整器5を配設して、流管3内を通過する繊維を可塑化するの「溶剤濃度の高い追加凝固液L2」を供給する。なお、この凝固液調整器5は、追加凝固液L2を貯める貯部5aと追加凝固液L2を供給する供給部5bを備えており、凝固液調整器5の内部には第1直管部3aの周辺方向から安定的に液流を供給することができる整流供給管5cを通して、第1直管部3aから流れてくる凝固液Laに対して周辺から追加凝固液L2を供給し可塑化凝固液Lbを得るようにしている。
【0025】
次に、本例の乾湿式紡糸装置を用いて全芳香族ポリアミドからなるポリマーを含むドープDが繊維化されて糸条Yを形成するプロセスについて以下に詳細に説明する。
先ず、本発明で言う「ドープ」について説明すると、この「ドープ」は、例えば次に述べるようにして調整することができる。すなわち、水分率が100ppm以下のN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPという)112.9部、パラフェニレンジアミン1.506部、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.789部を常温下で反応容器に入れ、窒素中で溶解した後、攪拌しながらテレフタル酸クロライド5.658部を添加する。そして、最終的に85℃で60分間反応させ、透明の粘稠なポリマー溶液を得る。次いで、22.5重量%の水酸化カルシウムを含有するNMPスラリー9.174部を添加し、中和反応を行って、必要な「ドープ」を得る。
【0026】
前述のようにして、調整したドープを繊維化するにあたって、先ずギアポンプなどの連続計量供給手段を使用して、ドープの供給量を連続的に計量しながらスピンブロックへ分配供給し、スピンブロックに備えられた紡糸口金1からドープを紡出する。ただし、前記紡糸口金1は、例えば、外径100mmの円形状円板に0.5mmの紡糸孔を1000個穿設したものであって、これら多数の紡糸孔群からドープDを繊維状に紡出するものである。その際、図1に例示したように、凝固液Lが形成する液面Sと紡糸口金1のドープ吐出面との間はエアギャップGが形成されている。
【0027】
なお、前記エアギャップGは、小さ過ぎると紡糸口金1のドープ吐出面に凝固液が接触する事態が発生し、紡糸口金1から吐出されたドープが紡糸口金1の直下で凝固を起こし、単繊維切れを生じる。また、大き過ぎると紡糸口金内の隣接する糸同士が密着を起し、独立した繊維を得ることができない。このような理由から、前記エアギャップGは、例えば、上記紡糸口金では1mm以上、50mm以下が適している。
【0028】
以上に述べたようにして、紡糸口金1に穿設された多数の紡糸孔から吐出されたドープDは、一旦空気中に紡出され、ついで、凝固浴2aに充填された凝固液Lへと浸漬され、ついで、本発明の一大特徴とする流管3へと導かれる。なお、凝固浴2aの内部には各紡糸口金1に対応させて流管3が挿入固定されており、この流管3は、凝固液Lが形成する液面Sよりも低い位置に設定されている。
【0029】
このとき、ドープDが繊維化されるプロセスとして、凝固浴2aと流管3とに存在する凝固液LとドープDとが接触することによって、ドープDに含有される有機溶剤が凝固液L中へ抽出されて、全芳香族ポリアミドからなるポリマーからなる多数の単繊維群(マルチフィラメント)で構成される糸条Yが形成されることは周知の通りである。更に、このようにして形成された糸条Yは、回転体などの引取手段4によって引き取られ、糸条Yに付着した凝固液を取り除く水洗工程、水洗工程で付着した水分を乾燥させる乾燥工程などからなる一連の製糸プロセスが行われる。そして、この一連の製糸プロセスによって高性能及び/又は高機能を有する繊維を得ることも周知の通りである。
【0030】
以上に述べたような一連の製糸プロセス中の乾湿式紡糸工程において、本発明が一大特徴とするところは、既に述べてきたように、流管3中に流管内の凝固液Lの濃度および温度を変えることができる機構を要することである。そこで、本発明の濃度および凝固液調整器5について、図1と図2を用いて以下に詳細に説明する。
【0031】
流管3中に、流管3内を流れる凝固液Laの濃度および温度を調節するための濃度および凝固液調整器5を設ける。濃度および凝固液調整器5は、追加凝固液Lbを貯める貯部5aと追加凝固液Lbを供給する供給部5bから構成されており、濃度および凝固液調整器5の内部には流管3の周辺方向から安定的に液流を供給することができる整流供給管5cを通して、流管3内を流れる凝固液Laに対して周辺から追加凝固液L2を供給することができる。流管3内を流動する凝固液Laは、流管3を流下する間にドープDに含有される有機溶剤が凝固液L中へ抽出されて濃度は上昇する。また、凝固液LとドープDの温度が異なると温度も上昇する。このまま流管3内を流下させると、ドープDに含有される有機溶剤濃度が目標濃度まで到達するには時間を要してしまうため、有機溶剤濃度を短時間でかつ従来方とくらべ物性を維持したまま目標濃度まで低下させる方法が好ましい。
【0032】
第1直管部3aで凝固が完了した繊維の強度を発現させるには、凝固のあとに高濃度溶液により膨潤(可塑化)させ、十分に可塑化した後に延伸配向させる方法があり、これまでの方法では、これらは別工程で行われていた。しかし、プロセスが大規模になる他、これらの間のプロセスの間にはローラ等を設ける必要があり、凝固糸という非常にダメージの受け易い繊維に対して、ローラ等での単繊維切れが発生するなどの問題があった。そこで、濃度および凝固液調整器5から濃度および温度の異なる追加凝固液L2を供給することにより第2直管部3c内を流れる凝固液Lbの濃度および温度を調節することができる。可塑化凝固液Lbは、第1直管部3aの中を流下する凝固液Laに対し溶剤濃度が高く、第1直管部3aの末端までに凝固が完了した繊維を可塑化凝固液Lbで膨潤させ第2直管部3c内で繊維を可塑化させたあと、第2直管部3cの出側で繊維と可塑化液を分離し引き取り手段4との間で延伸配向を進める。この方法によると、凝固液の流れおよび濃度をコントロールすることにより、凝固と可塑化という2つのプロセルを連続的に実施することができ、且つローラ等の工程が間に無いため、単繊維切れ等のない安定した糸を得ることができる。
【0033】
更に詳しく流速調節器5を図2で説明すると、流管3内を流れる凝固液Lの流速を急激に変えないようすするため、流管3と流量調節器5の上部の接続部は急激な径変化がないことが望ましい。また、流量調節器5内には追加凝固液L2を供給する整流供給板5cがあり、流管3へ周辺から流体の供給を行うが、整流供給板5cから供給される追加凝固液L2の流速を均一に供給することが望ましく、メッシュのような整流効果のあるものが良い。但し、メッシュだけに限定するものではなく、同様の効果が得られる、不織布,焼結体,メッシュ,穴開きプレート等を用いてもよい。また、整流供給板5cの形状は、流管3の断面形状から流速を変化させないため急激な形状変化のないものが良い。更に望ましくは、整流供給板5c内を流れる流体の平均流速が一定となるよう流管3の径から錐状に広がる形状が望ましい。
【0034】
この発明によって、本発明者等は、図1,2に例示したような濃度および凝固液調整器5を有することを特徴とした流管の装置を用いることにより、第1直管部3aから曲管部3bを経て第2直管部3cへと流通するドープDの有機溶剤濃度を効率的かつ物性に影響をおよぼさない装置を着想するに至ったものである。このため、紡糸口金1から吐出され凝固浴液面Sから着水した糸条Yは、濃度および凝固液調整器5で供給する凝固液L2により適正な濃度および温度プロファイルを持つ第2直管部3c内の可塑化液を得ることによって、凝固と可塑化という2つのプロセルを連続的に実施しすることによって、ローラ等による擦化が無い事により、最終的に得られる糸条Yの単繊維切れや品質のバラツキも小さくできる。
【0035】
以上に述べた本発明の流管3について、更に詳細に説明すると、流管3に凝固浴2aから流れ込む凝固液Laの流量に対して、凝固浴液面Sから流管3の上端部までの距離が小さいと、流管3の上部3aの流れに乱れを生じ、これが液面Sまで伝播して液面Sが乱される。また、反対にこの距離が大きくなると、流管3を設置したことによる凝固液Lの流れの安定化効果が無くなり、凝固浴液面Sが乱される。したがって、凝固浴液面Sを安定させるには、凝固浴液面Sから流管3の上端部までの距離を2mm以上、100mm以下の長さ、好ましくは、5mm以上、50mm以下にすることが必要である。
【0036】
次に、本発明の流管3に適した形状について述べると、その形状は口金1から吐出されるドープDが流管3内へ持ち込む凝固液Lの持込液量、ドープD自体の流管3への流入量、あるいは繊維化された糸条Yの引取速度などの多様な条件により決定される。このため、最終的には、これらの条件に適合するように実験を行って、最適な形状を決定する必要がある。
【0037】
しかしながら、この点については、例えば、引取手段4による糸条Yの引取速度が10m/min以上、300m/min以下の範囲であれば、糸条Yを構成する単繊維群の数として効率的に生産を行うために、10〜5000本が必要とされる。このような点を考慮に入れると、糸条の相当直径が1mm以上、20mm以下となることから、これに対応して、流管下部3cの直円筒の内径Dは2mm以上、30mm以下とすることが好ましい。
【0038】
次に、口金1から紡出されたドープDを繊維化するための凝固にはある程度の時間が必要であるから、第1直管部3aの長さはある程度以上の長さが必要となる。しかし、他方で、流管3の下部の直円筒長が長くなると、第1直管部3aの内壁面と走行糸条Yとの間に過大な摩擦抵抗が作用して、糸条Yが強く擦過されて単繊維切れや糸切れを招くので短くしたい。そこで、これら条件を両立させると、流管下部3bの直円筒長Lが100mm以上、1000mm以下とすることが好ましい。
【0039】
なお、図1では図示を省略したが、凝固浴2a内の各部位に整流部材を設置して、凝固液Lの流れが擾乱されないように安定な流れを形成させることは、本発明においては、好ましい実施態様である。ここで、前記整流部材を例示するならば、多孔板、ハニカム板、織編物などの流体通過性に優れたスクリーンなどを挙げることができ、これらを特に第1直管部3aに流入する凝固液の導入部近辺に設けることが望ましい。
【0040】
次に、第1直管部3aで流下させた凝固液Laの液速度を可塑化させる曲管部3b以降で落とすべく、曲管部3bの配設する角度は第1直管部3aと10°〜120°の角度を有することが望ましい。更に望ましくは、80°から100°の角度が良い。これら第1直管部3aと第2直管部3cとを所定の曲率半径を有する曲管で接続する曲管部3bは、急激に曲率が変化するような曲率半径Rでは流管3内を移動する糸条Yが曲管部3bの管壁に接触してダメージを受けることがあるので、曲管部3b中心部における曲率半径Rが20mmから400mmであることが望ましく、更に望ましくは、100mmから300mmである。
【0041】
更に、凝固液Lbの濃度及び/又は温度を調節する凝固液調整器5内に設ける整流供給板5cは、凝固液Lbの流れが擾乱されないように安定な流れを形成することが好ましく、整流部材を用いることが好ましい。ここで、このような好適な整流部材を例示するならば、多孔板、ハニカム板、織編物などの流体通過性に優れたスクリーンなどを挙げることができ、これらを整流供給板5cに用いることが望ましい。
【0042】
更に、整流供給板5cから安定的に且つ均一に凝固液Lを供給するためには、前記整流部材での流体による抵抗がある程度以上必要であって、このような抵抗によって供給する凝固液の圧力をある程度均圧化することができる。なお、このような均圧化部材を織編物で例示するなら20メッシュから2000メッシュの目開きの織編物を1枚または複数枚組み合わせて用いるとよい。
【0043】
更に、凝固装置2の凝固浴の供給配管2bから供給される凝固液Lに対して、濃度および凝固液調整器5の供給配管5bから供給される追加凝固液L2の条件は、一般的に凝固液L1の到達濃度に追加凝固液L2の溶液を混ぜ合わせたときの混合液の濃度が、繊維が可塑化する濃度付近であることが望ましく、その供給量および第2直管部3c内の流速に応じて第2直管部3cの径を変化させることが望ましい。このようにすることによって、凝固化工程の後に、繊維中の溶剤濃度を上げて可塑化させることができ、可塑化の後に延伸することにより繊維内の高分子が配向して高強度化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る乾湿式紡糸装置の一実施形態を模式的に例示した概略構成図である。
【図2】本発明の流管の一実施形態例を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 :紡糸口金
2 :凝固装置
2a:凝固浴
2b:凝固液の供給配管
2c:凝固液の排出配管
2d:凝固液の回収手段
3 :流管
3a:第1直管部
3b:曲管部
3c:第2直管部
4 :糸条の引取手段
5 :流速調節器
5a:凝固液の貯部
5b:凝固液の供給配管
5c:凝固液の整流供給板
L :凝固液
L2:追加溶液
La:濃度および温度調節器前の凝固液
Lb:濃度および温度調節器後の可塑液
G :エアギャップ
D :ドープ
:一方端側開口
:他方端側開口
S :凝固浴液面
Y :糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金からエアギャップを介して紡出された紡糸原液を繊維化して凝固させる凝固液を充填する凝固浴と、
(1)その両端に開口を有し、(2)一方端側開口は漏斗形状を呈して前記凝固液の液面下に設けられ、(3)他方端側開口は前記一方端側開口の設置位置より下方に設けられて大気中に開放され、(4)前記一方端側開口より下方へ略鉛直に伸びた第1直管部と、前記第1直管部と10°から120°の角度を形成して設けられた第2直管部と、前記第1直管部と前記第2直管部を所定の曲率半径を有する曲管で接続する曲管部とが前記他方端側の開口へ向って形成され、(5)前記一方端側開口から内部へ流入した凝固液が前記第1直管部、前記曲管部、及び前記第2直管部を流通して前記他方端側開口から流出するように構成された流管と、
前記流管の曲管部及び/又は第2直管部に設けられて前記流管中へ濃度及び/又は温度の異なる凝固液を供給する凝固液供給手段とを少なくとも備えた乾湿式紡糸装置。
【請求項2】
前記第2直管部を出た糸条を引き取るための引取ロールを備えた請求項1記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項3】
前記凝固液供給手段が前記前第1直管部を流れる凝固液の濃度よりも高濃度の凝固液を供給する手段である請求項1又は請求項2に記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項4】
流管内へ凝固液を注入する前記凝固液注入器の液注入部に、前記液注入部に凝固液の注入圧力を均圧化する均圧化部材を設けた請求項1〜3の何れかに記載の湿式紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−179924(P2009−179924A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22738(P2008−22738)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】