説明

乾燥試薬、乾燥試薬キット、試薬器、乾燥試薬の製造方法

【課題】 室温条件下、乾燥状態で保存した後も、核酸増幅を行うことが可能な乾燥試薬、乾燥試薬キット、試薬器および乾燥試薬の製造方法を提供する。
【解決手段】 核酸モノマーおよびMg2+を含み、前記核酸モノマーと前記Mg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である乾燥試薬を核酸増幅に使用する。これらの乾燥試薬を使用すれば、例えば、室温条件下に保存した場合も、核酸増幅が可能である。また、前記乾燥試薬中は、例えば、さらにKを含有してもよく、これによって、試薬の安定性を増加できる。また、前記乾燥試薬中は、例えば、Trisの含有量を一定量以下または未添加とすることで、試薬の安定性を増加できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥試薬、乾燥試薬キット、試薬器、乾燥試薬の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学の分野において、目的の核酸配列を増幅する方法として、PCR法をはじめとする種々の核酸増幅方法が、広く使用されている。前記核酸増幅は、ポリメラーゼ、dNTP等の核酸モノマー、無機塩類、プライマーおよびトリスヒドロキシアミノメタン(正式名称:トリスヒドロキシメチルアミノメタン)等の緩衝剤を必須成分として含む反応液中で行われる。この核酸増幅反応には、一般に、市販の核酸増幅用キットが利用されている。前記キットは、例えば、前記必須成分を適宜組み合せた複数の液体試薬を、別個の容器に収容したキットがあげられる。しかしながら、前記液体試薬は、安定性が悪く、常温での長期保存が困難という問題がある。
【0003】
そこで、前記安定性の問題を回避すべく、前記必須成分の一部である核酸モノマーおよびプライマーを含む乾燥試薬と、その他の必須成分を含む液体試薬とを組み合せた、核酸増幅用キットが提案されている(特許文献1)。このキットは、例えば、前記乾燥試薬に被検体を添加して、前記乾燥試薬を溶解した後、これに前記液体試薬を混合することによって、核酸増幅を行うことができる。しかしながら、前記液体試薬に含まれるポリメラーゼは、液体条件下での安定性が悪く、常温(室温)で保存することが困難である。このため、前記液体試薬は、例えば、冷蔵保存または凍結保存が必要となる。しかし、例えば、多数の被検体について核酸増幅が必要な場合および流通等を考慮すると、前記核酸増幅用キットは、常温で保存可能であることが望まれる。
【0004】
他方、各必須成分を乾燥状態とする核酸増幅用キットとして、ポリメラーゼを含む乾燥試薬と、それ以外の必須成分を含む乾燥試薬とを、独立して含むキットが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−43997号公報
【特許文献2】特表2008−501331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリメラーゼ以外の必須成分を含む乾燥試薬を保存した結果、特に核酸モノマーの保存後の安定性が著しく低下し、十分な核酸増幅が困難であることが、発明者らにより明らかとなった。
【0007】
そこで、本発明は、例えば、室温条件下、乾燥状態で保存した後も、十分に核酸増幅に使用することが可能な乾燥試薬、乾燥試薬キット、試薬器および乾燥試薬の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の乾燥試薬は、核酸増幅に使用する乾燥試薬であって、少なくとも一種類の核酸モノマーおよびMg2+を含み、前記少なくとも一種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である。また、本発明の乾燥試薬キットは、核酸増幅に使用する乾燥試薬キットであって、前記本発明の乾燥試薬を含む。さらに、本発明の試薬器は、核酸増幅に使用する試薬器であって、基材および前記本発明の乾燥試薬を含み、前記基材に、前記乾燥試薬が配置されている。本発明は、後述するように、核酸増幅における、前記乾燥試薬、前記乾燥試薬キットおよび/または試薬器の使用も含む。
【0009】
本発明の製造方法は、核酸増幅に使用する乾燥試薬の製造方法であって、少なくとも一種類の核酸モノマーとMg2+とを含む液体試薬を乾燥させる工程を含み、前記液体試薬において、前記少なくとも一種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乾燥試薬によれば、例えば、室温条件下で保存した後も、核酸増幅を行うことができる。このため、例えば、多数の被検体について核酸増幅を行う場合および流通の際、取扱いが極めて簡便となり、低コスト化が可能となる。また、乾燥状態での保存が可能であることから、例えば、全必須成分を同じチップ上に配置し、チップ化も可能となる。このように、保存後の核酸増幅能を維持し、且つ、取扱い性も向上することから、本発明の乾燥試薬は、核酸増幅を利用する遺伝子解析等において、極めて有用なツールといえる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1Aおよび実施例2Aにおける、反応液のTm解析の結果を示すグラフであり、単位時間当たりのBODIPY FLの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/dt)と温度との関係を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/dt)、横軸は、温度(℃)である。図1において、(A)は、乾燥試薬D1−1(d27)の結果、(B)は、乾燥試薬D1−3(d27)の結果、(C)は、乾燥試薬D1−4(d27)の結果、(D)は、乾燥試薬D2−1(d17)の結果、(E)は、乾燥試薬D2−1(d27)の結果、(F)は、乾燥試薬D2−5(d27)の結果、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<乾燥試薬>
本発明の乾燥試薬は、前述のように、核酸増幅に使用する乾燥試薬であって、少なくとも1種類の核酸モノマーおよびMg2+を含み、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である。本発明において、前記核酸モノマーとMg2+のモル比とは、塩基を有する少なくとも1種類の核酸モノマーに対するMg2+の比である。以下、前記核酸モノマー(s)とMg2+のモル比を、モル比(s:Mg2+)と表わし、前記モル比の範囲に含まれる条件を、条件sMともいう。
【0013】
本発明の乾燥試薬において、前記モル比(s:Mg2+)は、下限が、1:0.03であり、好ましくは、1:1であり、上限が、1:100であり、好ましくは、1:50であり、より好ましくは、1:30、1:20、1:15または1:10であり、その範囲は、1:0.03〜1:100であり、好ましくは、1:0.03〜1:50であり、より好ましくは、1:1〜1:30である。
【0014】
本発明の乾燥試薬に含まれる前記核酸モノマーの種類は、2種類以上が好ましく、より好ましくは3種類以上、さらに好ましくは4種類以上であり、特に好ましくは4種類または5種類である。前記乾燥試薬に含まれる前記モノマーの種類が2種類以上の場合、前述のように、少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比(s:Mg2+)が、前記条件sMの範囲(1:0.03〜1:100)を満たしていればよく、例えば、2種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲を満たしていることが好ましく、3種類、4種類または5種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲を満たしていることがより好ましい。
【0015】
本発明における核酸モノマーの塩基は、例えば、核酸(DNAまたはRNA)を構成する代表的な塩基である、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)、U(ウラシル)があげられる。以下、アデニンを有する核酸モノマーをアデニン核酸モノマー、グアニンを有する核酸モノマーをグアニン核酸モノマー、シトシンを有する核酸モノマーをシトシン核酸モノマー、チミンを有する核酸モノマーをチミン核酸モノマー、ウラシルを有する核酸モノマーをウラシル核酸モノマーという。前記塩基を有する核酸モノマーは、例えば、アデニンヌクレオチド、グアニンヌクレオチド、シトシンヌクレオチド、チミンヌクレオチド、ウラシルヌクレオチド等のヌクレオチドがあげられ、具体例として、dATP、dGTP、dCTP、dTTP、dUTP等のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)等があげられる。前記塩基は、この他にも、例えば、ポリメラーゼが基質にできる塩基が使用でき、具体例として、イノシン等があげられる。また、前記核酸モノマーは、例えば、天然ヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド)でもよいし、人工ヌクレオチドでもよい。前記人工ヌクレオチドは、例えば、Bridged Nucleic Acid、Peptide Nucleic Acid等がある。
【0016】
以下、前記核酸モノマーとして、アデニン核酸モノマー(例えば、dATP)、グアニン核酸モノマー(例えば、dGTP)、シトシン核酸モノマー(例えば、dCTP)、および、チミン核酸モノマー(例えば、dTTP)および/またはウラシル核酸モノマー(例えば、dUTP)を含まれる形態を、適宜例示するが、本発明はこれには限定されない。
【0017】
本発明において、前記核酸モノマーのモル比(比率)は、前記核酸モノマーの種類ごとに求めることができ、例えば、前記各種核酸モノマーのそれぞれの量を基準として、求めることができる。前記量は、例えば、モル数、濃度等があげられる。前記濃度は、例えば、前記乾燥試薬の調製にあたって、乾燥前の試薬における各種核酸モノマーの濃度である。また、前記乾燥試薬においては、乾燥後の試薬における各種核酸モノマーのモル数は、乾燥前の試薬における前記各種核酸モノマーのモル数を反映している。具体例として、本発明の乾燥試薬が、アデニン核酸モノマー(例えば、dATP)、グアニン核酸モノマー(例えば、dGTP)、シトシン核酸モノマー(例えば、dCTP)、および、チミン核酸モノマー(例えば、dTTP)および/またはウラシル核酸モノマー(例えば、dUTP)を含む場合、それぞれの前記量を基準として、それぞれの前記モル比を求めることができる。
【0018】
具体例として、本発明の乾燥試薬が、例えば、前記アデニン核酸モノマー、前記グアニン核酸モノマー、前記シトシン核酸モノマーおよび前記チミン核酸モノマーを含む場合、前記4種類のうち少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比(s:Mg2+)が、前記条件sMの範囲(1:0.03〜1:100)であればよく、好ましくは、2種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲であり、より好ましくは、3種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲であり、さらに好ましくは、4種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲である。特に好ましくは、前記アデニン核酸モノマー、前記グアニン核酸モノマーおよび前記シトシン核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲であり、最も好ましくは、さらに、前記チミン核酸モノマーとMg2+のモル比も、前記範囲である。
【0019】
また、本発明の乾燥試薬は、例えば、前記チミン核酸モノマーに代えて、前記ウラシル核酸モノマーを含んでもよい。前記ウラシル核酸モノマーを使用する場合、一般的に、他の核酸モノマー、すなわち、前記アデニン核酸モノマー、前記グアニン核酸モノマーおよび/または前記シトシン核酸モノマーよりも、高濃度に設定することが知られている(例えば、PCR applications manual 3rd edition, Roche applied science, p109参照)。本発明の乾燥試薬が、前記ウラシル核酸モノマーを含む場合、そのモル数は、例えば、以下の条件が例示できる。前記アデニンを有する核酸モノマーのモル数、前記グアニンを有する核酸モノマーのモル数および前記シトシンを有する核酸モノマーのモル数の平均モル数と、前記ウラシルを有する核酸モノマーのモル数との比は、下限が、例えば、1:0.5であり、好ましくは、1:1であり、より好ましくは、1:2であり、上限が、例えば、1:10であり、好ましくは、1:6であり、より好ましくは、1:4であり、その範囲は、例えば、1:0.5〜1:10であり、好ましくは、1:1〜1:6であり、より好ましくは、1:2〜1:4である。
【0020】
本発明の乾燥試薬が、例えば、前記アデニン核酸モノマー、前記グアニン核酸モノマー、前記シトシン核酸モノマーおよび前記ウラシル核酸モノマーを含む場合、前記4種類のうち少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比(s:Mg2+)が、前記条件sMの範囲(1:0.03〜1:100)であればよく、好ましくは、2種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲であり、より好ましくは、3種類または4種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲である。特に好ましくは、前記アデニン核酸モノマー、前記グアニン核酸モノマーおよび前記シトシン核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲である。この場合、前記ウラシル核酸モノマーとMg2+のモル比は、例えば、前記条件sMの範囲を満たしてもよいし、前記範囲を満たさなくてもよい。後者の場合、例えば、前記ウラシル核酸モノマーとMg2+のモル比(s:Mg2+)は、下限が、例えば、1:0.003であり、好ましくは、1:0.0075であり、より好ましくは、1:0.01であり、さらに好ましくは、1:0.075であり、特に好ましくは、1:0.25であり、上限が、例えば、1:200であり、好ましくは、1:50であり、より好ましくは、1:25であり、さらに好ましくは、1:15であり、その範囲は、例えば、1:0.003〜1:200であり、好ましくは、1:0.0075〜1:50であり、より好ましくは、1:0.01〜1:50または1:0.075〜1:50であり、さらに好ましくは、1:0.075〜1:25または1:0.01〜1:25であり、特に好ましくは、1:0.25〜1:15である。
【0021】
本発明において、前記乾燥試薬に含まれる全核酸モノマーの総モル数とMg2+のモル数のモル比は、例えば、1:0.03〜1:100である。以下、前記全核酸モノマーの総モル数(t)とMg2+のモル数との比を、モル比(t:Mg2+)と表わし、前記数値範囲に含まれるモル比の条件を、条件tMともいう。
【0022】
本発明の乾燥試薬において、前記モル比(t:Mg2+)は、下限が、例えば、1:0.0075であり、好ましくは、1:0.01であり、より好ましくは、1:0.075であり、さらに好ましくは、1:0.1であり、特に好ましくは、1:0.2であり、上限が、例えば、1:25であり、好ましくは1:20であり、より好ましくは、1:10であり、さらに好ましくは、1:6であり、その範囲は、例えば、1:0.0075〜1:25であり、好ましくは、1:0.0075〜1:20であり、より好ましくは、1:0.1〜1:10であり、さらに好ましくは、1:0.2〜1:6である。
【0023】
前記モル比(t:Mg2+)は、前記乾燥試薬に含まれる各種核酸モノマーの総量のモル数(総モル数)と、Mg2+のモル数との比である。前記乾燥試薬における前記核酸モノマーの総量とは、すなわち、前記乾燥試薬に含まれる各種核酸モノマーを全体として一つの核酸モノマーとして捉え、その総量を一つの概念として捉えるものである。この場合、前記乾燥試薬における各種核酸モノマー間の比率は、例えば、均等でもよいし、均等でなくとも良い。
【0024】
前記ウラシル核酸モノマーを使用する場合、前述のように、他の核酸モノマー、すなわち、前記アデニン核酸モノマー、前記グアニン核酸モノマーおよび/または前記シトシン核酸モノマーよりも、高濃度に設定することが一般的である。本発明の乾燥試薬が前記ウラシル核酸モノマーを含む場合、前記モル比(t:Mg2+)は、全核酸モノマーの総モル数に基づいた値が、前記条件tM(1:0.03〜1:100)を満たしてもよいし、以下に示す算出方法により得られる値が、前記条件tM(1:0.03〜1:100)を満たしてもよい。後者の算出方法は、例えば、前記ウラシル核酸モノマーのモル数が、他の核酸モノマーの各モル数よりも大きい場合に採用できる。すなわち、前記ウラシル核酸モノマー以外の各核酸モノマーの平均モル数を、前記ウラシル核酸モノマーのモル数と仮定し、前記ウラシル核酸モノマーの前記仮定モル数と、その他の各核酸モノマーの各モル数とを足し合わせ、これを全核酸モノマーの仮定の総モル数とする。そして、前記仮定の総モル数とMg2+のモル数から、前記モル比(t:Mg2+)を算出する。この値が、前記条件tMを満たすことが好ましい。
【0025】
本発明において、乾燥試薬は、例えば、「固体試薬」、または「核酸モノマー乾燥試薬」ともいう。前記乾燥試薬の製造時における乾燥方法は、特に制限されないが、例えば、凍結乾燥、スピン乾燥、真空乾燥、熱風乾燥、自然乾燥等が好ましく、自然乾燥がより好ましい。自然乾燥であれば、例えば、設備等を必要とせず、手間やコストを軽減できる。
【0026】
本発明において、核酸モノマー、Mg2+、K、ポリメラーゼ、トリスヒドロキシアミノメタン(正式名称トリスヒドロキシメチルアミノメタン、以下「Tris」ともいう)およびプライマーは、それぞれ、「核酸増幅の必須成分」という。これらの成分が核酸増幅の必須成分であることは、本発明の乾燥試薬が、これらの必須成分を全て含むことを意味するものではない。
【0027】
本発明の乾燥試薬は、具体例として、以下に示すように、Kを含まない第1の核酸モノマー乾燥試薬およびKを含む第2の核酸モノマー乾燥試薬があげられる。特に示さない限り、モル数およびモル比の説明等は、前述の記載を援用できる。
【0028】
本発明の第1の核酸モノマー乾燥試薬は、少なくとも1種類の核酸モノマーおよびMg2+を含み、前記少なくとも1種類の核酸モノマー(s)とMg2+のモル比(s:Mg2+)は、1:0.3〜1:100であり、Kを含まない。前記第1の核酸モノマー乾燥試薬において、前記核酸モノマー(s)とMg2+のモル比(s:Mg2+)の条件sMは、下限が、例えば、1:0.03であり、より好ましくは、1:0.3であり、さらに好ましくは、1:0.5であり、特に好ましくは、1:1であり、上限が、例えば、1:100であり、好ましくは1:50であり、特に好ましくは、1:30、1:20、1:15または1:10であり、その範囲は、前述のように、例えば、1:0.03〜1:100好ましくは1:0.3〜1:100であり、より好ましくは、1:0.5〜1:50であり、特に好ましくは、1:1〜1:30である。一般的に、核酸増幅用試薬にMg2+を過剰量添加すると、反応を阻害することが知られている(http://www.roche-applied-science.com/PROD_INF/MANUALS/pcr_man/chapter_2.pdfのp18参照)。このため、前記核酸モノマー(s)とMg2+のモル比(s:Mg2+)は、例えば、最大1:100程度である。
【0029】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる前記核酸モノマーの種類は、特に制限されず、例えば、前述の通りである。前記第1の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる前記モノマーの種類が、2種類以上の場合、前述のように、少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比(s:Mg2+)が、前記範囲を満たしていればよく、例えば、2種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲を満たしていることが好ましく、3種類、4種類または5種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+のモル比が、前記範囲を満たしていることがより好ましい。
【0030】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬において、前記全核酸モノマーの総モル数(t)とMg2+のモル数のモル比(t:Mg2+)は、下限が、例えば、1:0.0075であり、好ましくは、1:0.075であり、より好ましくは、1:0.1であり、さらに好ましくは、1:0.2であり、上限が、例えば、1:25であり、好ましくは1:20であり、より好ましくは、1:10であり、さらに好ましくは、1:6であり、その範囲は、例えば、1:0.0075〜1:25であり、好ましくは、1:0.075〜1:25であり、より好ましくは、1:0.075〜1:20であり、さらに好ましくは、1:0.1〜1:10であり、特に好ましくは、1:0.2〜1:6である。
【0031】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬は、Mg2+を、例えば、イオンの状態で含んでもよいし、塩の状態で含んでもよい。Mg2+の塩は、例えば、MgCl2、Mg(CHCOO)、MgBr、MgSO、Mg(NO等があげられる。
【0032】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬は、前記核酸モノマーとMg2+の他に、前記ポリメラーゼ、前記プライマーおよびK以外であれば、任意で、その他の添加成分を含んでもよい。前記その他の添加成分は、例えば、界面活性剤、糖類、ポリマー等があげられる。
【0033】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬は、例えば、前記Trisを含んでもよいが、含まないことが好ましい。前記核酸モノマー乾燥試薬が前記Trisを含む場合、前記少なくとも1種類の核酸モノマー(s)と前記Trisのモル比(s:Tris)の条件sTは、例えば、前記核酸モノマーが1に対して前記Trisが60以下(1:60以下)であり、より好ましくは、1:30以下、1:20以下、1:15以下であり、さらに好ましくは、1:10以下であり、さらにより好ましくは、1:1以下である。
【0034】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬において、前記全核酸モノマーの総モル数(t)とTrisのモル数のモル比(t:Tris)の条件tTは、例えば、前記全核酸モノマーが1に対して前記Trisが15以下(1:15以下)であり、好ましくは、1:6以下であり、より好ましくは、1:4以下である。なお、前記全核酸モノマーの総モル数は、前述と同様にして設定できる。
【0035】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる前記モノマーの種類が、2種類以上の場合、前述のように、少なくとも1種類の核酸モノマー(s)と前記Trisのモル比(s:Tris)が、前記条件sTの範囲を満たしていることが好ましく、2種類の核酸モノマーのそれぞれと前記Trisのモル比が、前記範囲を満たしていることがより好ましく、3種類、4種類または5種類の核酸モノマーのそれぞれと前記Trisのモル比が、前記範囲を満たしていることがさらに好ましい。
【0036】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬において、前記各核酸モノマーおよびMg2+の含有量、ならびに、任意で含まれる前記添加成分の含有量は、それぞれ、特に制限されない。それぞれの前記含有量は、例えば、1回の核酸増幅に必要な量でもよいし、複数回の核酸増幅に必要な量でもよい。前者の場合、例えば、使用時において、適宜、溶媒に前記第1の核酸モノマー乾燥試薬を混合し、その混合液を全て核酸増幅の反応に使用すればよい。また、後者の場合、例えば、使用時において、適宜、溶媒に前記第1の核酸モノマー乾燥試薬を混合し、その混合液から必要量を採取して、核酸増幅の反応に使用すればよい。
【0037】
核酸増幅を行う場合、前述した「核酸増幅の必須成分」のうち、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる成分以外は、例えば、以下の乾燥試薬(A)および/または乾燥試薬(B)に含まれていてもよい。
(A)ポリメラーゼを含み、Mg2+、K、前記Tris、核酸モノマーおよびプライマーを含まない乾燥試薬
(B)プライマーを含み、Kを含まない乾燥試薬
【0038】
前記乾燥試薬(A)は、以下、「ポリメラーゼ乾燥試薬」ともいい、前記乾燥試薬(B)は、以下、「プライマー乾燥試薬」ともいう。前記乾燥試薬(A)および前記乾燥試薬(B)は、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と別個独立した乾燥試薬である。
【0039】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬を用いて核酸増幅を行う場合、併用する試薬は特に制限されず、例えば、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および/または前記プライマー乾燥試薬(B)を使用することが好ましい。前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および前記プライマー乾燥試薬(B)は、例えば、いずれか1種類を前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と併用してもよいし、両方を前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と併用してもよい。前記第1の核酸モノマー乾燥試薬に対して、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および前記プライマー乾燥試薬(B)のうち1種類のみを併用する場合、例えば、さらに、液体試薬を併用して、核酸増幅反応を行うことができる。前記液体試薬は、核酸増幅の必須成分のうち、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と前記(A)または前記(B)の乾燥試薬とに含まれる必須成分以外を含むことが好ましい。この場合、使用時に、例えば、前記各種乾燥試薬を、前記液体試薬または被検体で溶解することによって、増幅反応を行うことができる。他方、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬に対して、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および前記プライマー乾燥試薬(B)の両方を併用する場合、例えば、これらの乾燥試薬を、溶媒または被検体で溶解することによって、増幅反応を行うことができる。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、水および緩衝液等が使用できる。前記被検体は、特に制限されず、核酸増幅の鋳型を含む液体があげられる。
【0040】
前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)は、前記ポリメラーゼの他に、Mg2+、K、前記Tris、前記核酸モノマーおよび前記プライマー以外であれば、任意で、その他の添加成分を含んでもよい。前記その他の添加成分は、例えば、酵素安定化剤、界面活性剤、糖類、ポリマー等があげられる。前記プライマー乾燥試薬(B)は、前記プライマーの他に、K以外であれば、任意で、その他の添加成分を含んでもよい。前記その他の添加成分は、例えば、酵素安定化剤、界面活性剤、糖類、ポリマー等があげられる。
【0041】
前記第1の核酸モノマー乾燥試薬の製造方法は、特に制限されず、例えば、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+とを含む第1の液体試薬を乾燥させることによって製造できる。
【0042】
前記第1の液体試薬は、例えば、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる成分の種類および成分比に応じて、調製できる。前記第1の液体試薬において、前記少なくとも1種類の核酸モノマー(s)とMg2+のモル比(s:Mg2+)は、前述の通りである。また、前記全核酸モノマーの総モル数とMg2+のモル比も、例えば、前述の通りである。
【0043】
前記第1の液体試薬は、例えば、さらに、前述のような任意の添加成分を適宜含んでもよい。前記第1の液体試薬は、例えば、前記Trisを含まないことが好ましい。前記第1の液体試薬が前記Trisを含む場合、前記核酸モノマー(s)と前記Trisのモル比(s:Tris)は、例えば、前述と同様である。また、前記全核酸モノマーの総モル数とTrisのモル比も、例えば、前述の通りである。
【0044】
前記第1の液体試薬は、例えば、前述のような各種成分を、溶媒に溶解または分散することで調製できる。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、水があげられる。
【0045】
つぎに、本発明の第2の核酸モノマー乾燥試薬は、少なくとも1種類の核酸モノマーおよびMg2+と、さらにKを含む。前記第2の核酸モノマー乾燥試薬において、前記核酸モノマー(s)とMg2+のモル比(s:Mg2+)の条件sMは、1:0.03〜1:100である。前記モル比(s:Mg2+)は、下限が、1:0.03であり、好ましくは、1:0.1であり、好ましくは、1:0.3であり、より好ましくは、1:0.5であり、特に好ましくは、1:1であり、上限が、1:100であり、好ましくは、1:50であり、特に好ましくは、1:30、1:20、1:15または1:10であり、その範囲は、1:0.03〜1:100であり、好ましくは、1:0.03〜1:50であり、より好ましくは、1:0.3〜1:50または1:0.3〜1:30、さらに好ましくは、1:1〜1:50または1:1〜1:30であり、特に好ましくは、1:1〜1:30である。
【0046】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬において、前記核酸モノマー(s)とKとのモル比(s:K)の条件sKは、特に制限されない。前記モル比(s:K)は、下限が、例えば、1:0.01または0.03であり、好ましくは、1:0.1であり、より好ましくは1:1であり、上限が、例えば、1:1000であり、好ましくは1:500であり、より好ましくは1:300または1:100であり、その範囲は、例えば、1:0.01〜1:1000または1:0.03〜1:1000であり、好ましくは、1:0.1〜1:500であり、特に好ましくは1:1〜1:300である。
【0047】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる前記核酸モノマーの種類は、特に制限されず、例えば、前述の通りである。前記第2の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる前記モノマーの種類が、2種類以上の場合、前述のように、少なくとも1種類の核酸モノマーに対する、Mg2+のモル比(s:Mg2+)およびKのモル比(s:K)が、それぞれ前記条件sMおよび条件sKの範囲を満たしていればよく、例えば、2種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+およびKの各モル比が、前記範囲を満たしていることが好ましく、3種類、4種類または5種類の核酸モノマーのそれぞれとMg2+およびKの各モル比が、前記範囲を満たしていることがより好ましい。
【0048】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬において、前記全核酸モノマーの総モル数(t)とMg2+のモル数のモル比(t:Mg2+)の条件tMは、下限が、例えば、1:0.0075であり、好ましくは、1:0.01であり、より好ましくは、1:0.075であり、さらに好ましくは、1:0.1であり、特に好ましくは、1:0.2であり、上限が、例えば、1:25であり、好ましくは1:20であり、より好ましくは、1:10であり、さらに好ましくは、1:6であり、その範囲は、例えば、1:0.0075〜1:25であり、好ましくは、1:0.0075〜1:20であり、より好ましくは、1:0.1〜1:10であり、さらに好ましくは、1:0.2〜1:6である。
【0049】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬において、前記全核酸モノマーの総モル数(t)とKのモル数のモル比(t:K)の条件tKは、特に制限されない。
【0050】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬は、Kを、例えば、イオンの状態で含んでもよいし、塩の状態で含んでもよい。Kの塩は、例えば、KCl、KNO、KSO、KBr、KCO等があげられる。
【0051】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬は、前記核酸モノマー、Mg2+およびKの他に、
前記ポリメラーゼおよび前記プライマー以外であれば、任意で、その他の添加成分を含んでもよい。前記その他の添加成分は、例えば、界面活性剤、糖類、ポリマー等があげられる。
【0052】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬は、例えば、前記Trisを含んでもよいが、含まないことが好ましい。前記第2の核酸モノマー乾燥試薬が前記Trisを含む場合、前記少なくとも1種類の核酸モノマー(s)と前記Trisのモル比(s:Tris)の条件sTは、例えば、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と同様のモル比があげられる。また、前記全核酸モノマーの総モル数(t)と前記Trisのモル数のモル比(t:Tris)の条件tTは、例えば、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と同様のモル比があげられる。
【0053】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる前記モノマーの種類が、2種類以上の場合、前述のように、少なくとも1種類の核酸モノマー(s)に対する、前記Trisのモル比(s:Tris)およびKのモル比(s:K)が、それぞれ前記条件sTおよび条件sKの範囲を満たしていることが好ましく、2種類の核酸モノマーのそれぞれと前記Trisのモル比およびKのモル比が、前記各範囲を満たしていることがより好ましく、3種類、4種類または5種類の核酸モノマーのそれぞれと前記Trisのモル比およびKのモル比が、前記各範囲を満たしていることがさらに好ましい。
【0054】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬において、前記各核酸モノマー、Mg2+およびK含有量、ならびに、任意で含まれる前記添加成分の含有量は、それぞれ、特に制限されず、例えば、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と同様である。
【0055】
核酸増幅を行う場合、前述した「核酸増幅の必須成分」のうち、前記第2の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる成分以外は、例えば、前述のポリメラーゼ乾燥試薬(A)および/またはプライマー乾燥試薬(B)に含まれていてもよい。
【0056】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬を用いて核酸増幅を行う場合、併用する試薬は特に制限されず、例えば、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および/または前記プライマー乾燥試薬(B)を使用することが好ましい。前記第2の核酸モノマー乾燥試薬は、例えば、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および/または前記プライマー乾燥試薬(B)と併用する場合、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬と同様にして使用できる。
【0057】
前記第2の核酸モノマー乾燥試薬の製造方法は、特に制限されず、例えば、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+とKとを含む第2の液体試薬を乾燥させることによって製造できる。
【0058】
前記第2の液体試薬は、例えば、前記第2の核酸モノマー乾燥試薬に含まれる成分の種類および成分比に応じて、調製できる。前記第2の液体試薬において、前記少なくとも1種類の核酸モノマー(s)とMg2+のモル比(s:Mg2+)、前記少なくとも1種類の核酸モノマー(s)とKとのモル比(s:K)は、例えば、前述の通りである。また、前記全核酸モノマーの総モル数(t)とMg2+のモル比(t:Mg2+)、および前記総モル数(t)とKのモル比(t:K)も、例えば、前述の通りである。
【0059】
前記第2の液体試薬は、例えば、さらに、前述のような任意の添加成分を適宜含んでもよい。前記第2の液体試薬は、例えば、前記Trisを含まないことが好ましい。前記第2の液体試薬が前記Trisを含む場合、前記核酸モノマー(s)と前記Trisのモル比(s:Tris)は、例えば、前述と同様である。また、前記全核酸モノマーの総モル数(t)とTrisのモル比(t:Tris)も、例えば、前述の通りである。
【0060】
前記第2の液体試薬は、例えば、前述のような各種成分を、溶媒に溶解または分散することで調製できる。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、水があげられる。
【0061】
本発明の乾燥試薬を使用する核酸増幅の方法は、特に制限されず、例えば、PCR法、逆転写(RT)−PCR法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription−mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等があげられる。
【0062】
また、本発明の乾燥試薬は、他の形態として、少なくとも1種類の核酸モノマーおよびMg2+を含み、含有する全ての核酸モノマーの総モル数とMg2+のモル数のモル比が、1:0.0075〜1:25である、核酸増幅に使用する乾燥試薬があげられる。本発明の乾燥試薬の詳細は、前述の記載を援用できる。
【0063】
本発明の乾燥試薬キットは、前述のように、核酸増幅に使用する乾燥試薬キットであって、前記本発明の乾燥試薬を含む。本発明の乾燥試薬キットは、本発明の乾燥試薬を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、何ら制限されない。
【0064】
本発明の乾燥試薬キットは、前記本発明の乾燥試薬として、例えば、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬および前記第2の核酸モノマー乾燥試薬のいずれを使用することもできる。前記第1の核酸モノマー乾燥試薬を用いた前記乾燥試薬キットは、第1の乾燥試薬キット、前記第2の核酸モノマー乾燥試薬を用いた前記乾燥試薬キットは、第2の乾燥試薬キットともいう。
【0065】
本発明の乾燥試薬キットは、前記本発明の核酸モノマー乾燥試薬の他に、さらに、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および/または前記プライマー乾燥試薬(B)を備えてもよい。具体的には、前記核酸モノマー乾燥試薬の他に、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および前記プライマー乾燥試薬(B)のうち、いずれか1種類を備えてもよいし、両方を備えてもよいが、前記核酸モノマー乾燥試薬と、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)と前記プライマー乾燥試薬(B)の全てを備えることが好ましい。前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および前記プライマー乾燥試薬(B)は、それぞれ、例えば、前記本発明の核酸モノマー乾燥試薬と同様にして調製できる。
【0066】
本発明の乾燥試薬キットは、例えば、前記各乾燥試薬が、別個の基材に配置されてもよいし、同じ基材に配置されてもよい。後者の場合、各乾燥試薬は、例えば、隣接して配置されてもよいし、任意の距離をおいて配置されてもよい。前記基材の種類は、特に制限されず、前記乾燥試薬を配置でき、核酸増幅反応を行えるものであればよい。前記基材は、例えば、ろ紙、多孔質体等の試験片、チップ、チューブ等があげられる。前記乾燥試薬は、例えば、前記基材の表面に配置されてもよく、チューブ等の容器の場合、その内部に配置されてもよい。前者の場合、前記基材は、例えば、前記乾燥試薬を担持するのに適した表面を有することが好ましい。前記乾燥試薬の配置に関しては、例えば、後述する本発明の試薬器を参照できる。本発明の乾燥試薬キットは、例えば、さらに使用説明書を備えることが好ましい。
【0067】
本発明の試薬器は、前述のように、核酸増幅に使用する試薬器であって、基材および前記本発明の乾燥試薬を含み、前記基材に、前記乾燥試薬が配置されている。本発明の試薬器は、前記基材に、前記本発明の乾燥試薬が配置されていればよく、その他の構成および条件は、何ら制限されない。
【0068】
本発明の試薬器は、前記本発明の乾燥試薬として、例えば、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬および前記第2の核酸モノマー乾燥試薬のいずれを使用することもできる。前記第1の核酸モノマー乾燥試薬を用いた前記試薬器は、第1の試薬器、前記第2の核酸モノマー乾燥試薬を用いた前記試薬器は、第2の試薬器ともいう。
【0069】
本発明の試薬器は、例えば、さらに、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および/または前記プライマー乾燥試薬(B)を含んでもよい。具体的には、前記核酸モノマー乾燥試薬の他に、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および前記プライマー乾燥試薬(B)のうち、いずれか1種類が配置されてもよいし、両方が配置されてもよいが、前記核酸モノマー乾燥試薬と、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)と前記プライマー乾燥試薬(B)の全てが配置されていることが好ましい。本発明の試薬器が、前記核酸モノマー乾燥試薬と、前記ポリメラーゼ乾燥試薬(A)および前記プライマー乾燥試薬(B)のうちいずれか1種類または両方を備える場合、例えば、各乾燥試薬が、それぞれ独立して配置されていることが好ましい。
【0070】
本発明の試薬器が、前述のように、2種類以上の乾燥試薬を有する場合、各乾燥試薬は、例えば、前記基材における1つの試薬領域内に、独立して配置されてもよいし、2つ以上の試薬領域内に、それぞれ別個に配置されてもよい。前者の場合、例えば、使用時、前記1つの試薬領域に、被検体または溶媒を導入することで、各乾燥試薬を溶解し、混合できる。また、後者の場合、例えば、前記試薬領域間が、流路で連結されていることが好ましい。この場合、例えば、使用時、いずれかの試薬領域に、被検体または溶媒を導入した後、その混合溶液を、さらに、前記流路を介して他の試薬領域に導入することで、各乾燥試薬を溶解し、混合できる。また、本発明の試薬器において、例えば、増幅反応を行うことも可能であることから、本発明の試薬器は、反応器ということもできる。
【0071】
前記基材の種類は、特に制限されず、前記乾燥試薬を配置でき、核酸増幅反応を行えるものであればよい。前記基材は、例えば、ろ紙、多孔質体等の試験片、チップ、チューブ等があげられる。
【0072】
本発明の製造方法は、前述のように、核酸増幅に使用する乾燥試薬の製造方法であって、少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+とを含む液体試薬を乾燥させる工程を含み、前記液体試薬において、前記核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である。
【0073】
本発明の製造方法は、例えば、前記第1の核酸モノマー乾燥試薬を製造する場合、前記液体試薬として、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.3〜1:100であり、Kを含まない、前記第1の液体試薬を使用することが好ましい。また、本発明の製造方法は、例えば、前記第2の核酸モノマー乾燥試薬を製造する場合、前記液体試薬として、前記少なくとも1種類の核酸モノマー、Mg2+およびKを含み、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である、前記第2の液体試薬を使用することが好ましい。前記液体試薬の調製方法および条件、ならびに、乾燥方法は、前述の通りである。
【0074】
また、本発明の製造方法は、他の形態として、少なくとも1種類の核酸モノマーおよびMg2+を含む液体試薬を乾燥させる工程を含み、前記液体試薬において、含有する全ての核酸モノマーの総モル数とMg2+のモル数のモル比が、1:0.0075〜1:25である方法があげられる。本発明の製造方法の詳細は、前述の記載を援用できる。
【0075】
このようにして製造した乾燥試薬は、非常に安定性に優れるため、例えば、長期間保存した後でも、保存前と同程度の品質を示すことから、同程度の試薬量で、同様の核酸増幅反応を行うことが可能である。本発明の製造方法により製造した乾燥試薬は、例えば、70℃以下での保存が可能であり、例えば、約50℃以下で少なくとも2ヵ月、約30℃以下で少なくとも12ヵ月、20℃以下で少なくとも24ヵ月程度、保存前の品質を維持して、保存可能である。
【0076】
本発明の安定化方法は、核酸増幅に使用する乾燥試薬の安定化方法であって、前記本発明の製造方法により、乾燥試薬を製造する工程を含む。本発明の安定化方法は、前記本発明の製造方法により乾燥試薬を製造することが特徴であって、その他の構成および条件は、何ら制限されない。
【実施例】
【0077】
本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。なお、特に示さない限り、「%」は、w/v%を示す。
【0078】
実施例1A〜1Bでは、核酸モノマーおよびMg2+を含み、且つKを含まない第1の核酸モノマー乾燥試薬について、その保存安定性を確認した。
【0079】
[実施例1A]
本例では、PCRに使用する必須成分として、核酸モノマーおよびMg2+を、容器内で乾燥した後、得られた核酸モノマー乾燥試薬を保存し、その保存安定性を確認した。
【0080】
(1)乾燥試薬の調製
下記表1に示す乾燥用液体試薬D1−1〜D1−4を調製した。前記各乾燥用液体試薬2.5μLを、それぞれ別個の容器の内部に点着し、相対湿度5%未満、25℃の条件下、一晩乾燥した。このようにして乾燥試薬D1−1(d0)、D1−2(d0)、D1−3(d0)、D1−4(d0)を得た。「d0」は、後述する保存を行っていない乾燥試薬であることを示す(以下、同様)。
【0081】
【表1】

【0082】
(2)乾燥試薬の保存
前記各乾燥試薬D1−1(d0)〜D1−4(d0)が入った各容器を密閉し、乾燥剤と共にビニール袋に入れ、50℃で17日間または27日間保存した。前記17日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D1−1(d17)〜D1−4(d17)とし、前記27日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D1−1(d27)〜D1−4(d27)とした。
【0083】
(3)保存後の安定性評価
保存0日、保存17日および保存27日の前記各乾燥試薬を使用して、PCRによる核酸増幅を行い、保存後の安定性を評価した。
【0084】
まず、前記各乾燥試薬を、用事調製した液体試薬と十分に混合し、液量10μLの下記表2の組成のPCR反応液を調製した。前記液体試薬は、前記乾燥試薬との混合により、各成分の最終濃度(前記PCR反応液における各成分の濃度)が、下記表2となるように調製した。
【0085】
【表2】

【0086】
前記表2におけるプローブおよびプライマーは、以下の通りである。
プローブ(配列番号1)
5’-ggagaaggtcaaGgtatc-(BODIPY FL)-3’
フォワードプライマー(配列番号2)
5’-cggagcccctgcatgcaa-3’
リバースプライマー(配列番号3)
5’-aatgatactatgaatttggggacttcgaa-3’
【0087】
前記PCR反応液について、PCRマシン(エッペンドルフ社製)でPCRを行った後、全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(登録商標)、アークレイ社製)を用いて、Tm解析を行った。前記PCRは、前記PCR反応液を、95℃で1分処理後、95℃で10秒および62℃で15秒を1サイクルとして50サイクル繰り返した。そして、前記Tm解析は、前記反応液を95℃で1秒処理後、温度の上昇速度を1℃/3秒として、40℃から75℃に加熱していき、検出波長520〜555nmにおける、経時的な蛍光強度の変化を測定することにより行った。そして、Tm解析における試薬反応性から、安定性を評価した。
【0088】
前記各乾燥試薬の試薬反応性の結果を、表3に示す。表3は、前記乾燥試薬D1−1〜D1−4の結果を示す。表3において、「Mg2+濃度」は、前記乾燥用液体試薬中のMg2+濃度を示し、「核酸モノマー」は、含有する核酸モノマーの種類を示し、「モル比」は、各核酸モノマー(dATP、dGTP、dCTPおよびdUTP)とMg2+のモル比および全核酸モノマーの合計とMg2+のモル比であり、前記各核酸モノマーおよび前記合計のモル数をそれぞれ1に換算した場合のMg2+のモル数を示す。モル比の欄において、上の値は、dATP、dGTPおよびdCTPに対するMg2+の各モル比であり、二番目の値は、dUTPに対するMg2+のモル比であり、下の値は、全核酸モノマーの合計に対するMg2+のモル比である。前記試薬反応性は、Tm解析時における、蛍光強度変化量の微分値である「d蛍光強度変化量/dt」(dF/dt)の最大値を、蛍光値の最大値で割った値を示す。
【0089】
【表3】

【0090】
さらに、前記Tm解析の結果を、図1に示す。図1は、温度上昇に伴う蛍光強度の変化を示すTm解析のグラフであり、横軸は、測定時の温度を示し、縦軸は、蛍光強度の変化を示し、単位は、蛍光強度変化量の微分値である「d蛍光強度変化量/dt」(dF/dt)とした。図1において、(A)は、前記乾燥試薬D1−1(d27)、(B)は、前記乾燥試薬D1−3(d27)、(C)は、前記乾燥試薬D1−4(d27)を使用した結果を示す。
【0091】
前述のように、前記試薬反応性は、Tm解析時における、蛍光強度変化量の微分値である「d蛍光強度変化量/dt」(dF/dt)の最大値を、蛍光値の最大値で割った値である。このため、前記試薬反応性と、PCRによる核酸増幅産物量との間には相関性がある。例えば、前記試薬反応性が0.6である前記D1−1(d27)の場合、図1(A)に示すように、ピークが不明瞭で検出不可能であった。一方、前記試薬反応性がそれぞれ、4.1および8.8である、前記D1−3(d27)、および前記D1−4(d27)の場合、図1(B)および図1(C)に示すように、ピークが明瞭で検出可能であった。
【0092】
また、前記試薬反応性が高くなるに従い、Tm解析におけるピークが、より明瞭になる傾向が認められた。これらの結果から、例えば、前記試薬反応性が1未満ではTm解析におけるピークを検出不可能であり、PCR反応により核酸増幅が検出不可能といえ、2以上ではTm解析におけるピークを検出可能であり、PCR反応により核酸増幅可能ということができる。
【0093】
以上の結果から、表1のD1−3およびD1−4の組成の乾燥用液体試薬を調製し、これらを乾燥させれば、保存安定性に優れる乾燥試薬を得られることがわかった。
【0094】
[実施例1B]
本例では、PCRに使用する必須成分として、前記核酸モノマーおよびMg2+に、さらに、Trisを加え、前記Trisによる、核酸モノマー乾燥試薬の安定性への影響を確認した。
【0095】
(1)乾燥試薬の調製
下記表4に示す乾燥用液体試薬D3−1〜D3−6を調製した以外は、前記実施例1Aと同様にして、乾燥試薬D3−1(d0)〜D3−6(d0)を調製した。なお、前記各乾燥試薬において、dATP、dGTPおよびdCTPとMg2+のモル比は、それぞれ1:10であり、dUTPとMg2+のモル比は、1:5であり、全核酸モノマーとMg2+のモル比は、1:2である。
【0096】
【表4】

【0097】
そして、前記各乾燥試薬について、前記実施例1Aと同様にして、保存および安定性の評価を行った。前記17日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D3−1(d17)〜D3−6(d17)とし、前記27日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D3−1(d27)〜D3−6(d27)とした。
【0098】
前記実施例1Bについて、試薬反応性の結果を、表5に示す。表5は、実施例1Bの乾燥試薬D3−1〜D3−6の結果を示す。表5において、「Tris−HCl濃度」は、前記各乾燥用液体試薬中のTris−HCl濃度を示し、「核酸モノマー」は、含有する核酸モノマーの種類を示し、「モル比」は、各核酸モノマー(dATP、dGTP、dCTPおよびdUTP)とTris−HClのモル比および全核酸モノマーの合計とTris−HClのモル比であり、前記各核酸モノマーまたは前記合計のモル数をそれぞれ1に換算した場合のTris−HClのモル数を示す。モル比の欄において、上の値は、dATP、dGTPおよびdCTPに対するTris−HClの各モル比であり、二番目の値は、dUTPに対するTris−HClのモル比であり、下の値は、全核酸モノマーに対するTris−HClのモル比である。表5において、試薬反応性は、前記実施例1Aと同様に算出した。
【0099】
【表5】

【0100】
表5に示すように、27日間保存した乾燥試薬(d27)を使用した場合、試薬反応性は、前記D3−1(d27)〜D3−6(d27)は、7以上であり、十分な反応性を示した。これらの結果から、表4のD3−1〜D3−6の組成の乾燥用液体試薬を調製し、これらを乾燥させれば、保存安定性に優れる乾燥試薬が得られることがわかった。
【0101】
実施例2A〜2Cでは、核酸モノマー、Mg2+およびKを含む第2の核酸モノマー乾燥試薬について、その保存安定性を確認した。
【0102】
[実施例2A]
本例では、PCRに使用する必須成分として、前記核酸モノマー、Mg2+およびKを、容器内で乾燥した後、得られた核酸モノマー乾燥試薬を保存し、その保存安定性を確認した。
【0103】
下記表6に示す乾燥用液体試薬D2−1〜D2−5を調製した以外は、前記実施例1Aと同様にして、前記乾燥試薬D2−1(d0)〜D2−5(d0)を得た。なお、前記各乾燥試薬において、dATP、dGTPおよびdCTPとMg2+のモル比は、それぞれ1:10であり、dUTPとMg2+のモル比は、1:5であり、全核酸モノマーとMg2+のモル比は、1:2である。また、dATP、dGTPおよびdCTPとKのモル比は、それぞれ1:100であり、dUTPとKのモル比は、1:50である。
【0104】
【表6】

【0105】
そして、前記各乾燥試薬について、前記実施例1Aと同様にして、保存および安定性の評価を行った。前記17日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D2−1(d17)〜D2−5(d17)とし、前記27日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D2−1(d27)〜D2−5(d27)とした。
【0106】
前記各乾燥試薬の試薬反応性の結果を、表7に示す。表7は、前記乾燥試薬D2−1〜D2−5の結果を示す。表7において、「Mg2+濃度」は、前記乾燥用液体試薬中のMg2+濃度を示し、「核酸モノマー」は、含有する核酸モノマーの種類を示し、「モル比」は、各核酸モノマー(dATP、dGTP、dCTPおよびdUTP)とMg2+のモル比および全核酸モノマーの合計とMg2+のモル比であり、前記各核酸モノマーのモル数および前記合計のモル数をそれぞれ1に換算した場合のMg2+のモル数を示す。モル比の欄において、上の値は、dATP、dGTPおよびdCTPに対するMg2+の各モル比であり、二番目の値は、dUTPに対するMg2+のモル比であり、下の値は、全核酸モノマーの合計に対するMg2+のモル比である。表7において、試薬反応性は、前記実施例1Aと同様に算出した。
【0107】
【表7】

【0108】
表7に示すように、27日間保存した乾燥試薬(d27)を使用した場合、前記試薬反応性は、D2−3(d27)〜D2−5(d27)で4以上であったのに対して、D2−1(d27)およびD2−2(d27)では1未満であった。
【0109】
さらに、前記Tm解析の結果を、図1に示す。図1は、温度上昇に伴う蛍光強度の変化を示すTm解析のグラフであり、横軸は、測定時の温度を示し、縦軸は、蛍光強度の変化を示し、単位は、蛍光強度変化量の微分値である「d蛍光強度変化量/dt」(dF/dt)とした。図1において、(D)は、前記乾燥試薬D2−1(d17)、(E)は、前記乾燥試薬D2−1(d27)、(F)は、前記乾燥試薬D2−5(d27)を使用した結果を示す。
【0110】
前述のように、前記試薬反応性は、Tm解析時における、蛍光強度変化量の微分値である「d蛍光強度変化量/dt」(dF/dt)の最大値を、蛍光値の最大値で割った値である。このため、前記試薬反応性と、PCRによる核酸増幅産物量との間には相関性がある。前記D2−1は、17日の場合、前記試薬反応性が2.1であり、図1(D)に示すように、ピークが明瞭で検出可能であったが、27日の場合、前記試薬反応性が0.5であり、図1(E)に示すように、ピークが不明瞭で検出不可能であった。一方、前記試薬反応性が6.9である前記D2−5(d27)の場合、27日においても、図1(F)に示すように、ピークが明瞭で検出可能であった。
【0111】
以上の結果から、表6のD2−3〜D2−5の組成の乾燥用液体試薬を調製し、これらを乾燥させれば、保存安定性に優れる乾燥試薬を得られることがわかった。
【0112】
[実施例2B]
本例では、PCRに使用する成分として、前記核酸モノマー、Mg2+およびKに、さらに、Trisを加え、前記Trisによる核酸モノマー乾燥試薬の安定性への影響を確認した。
【0113】
(1)乾燥試薬の調製
下記表8に示す乾燥用液体試薬D4−1〜D4−6を調製した以外は、前記実施例1Aと同様にして、乾燥試薬D4−1(d0)〜D4−6(d0)を調製した。なお、前記各乾燥試薬において、dATP、dGTPおよびdCTPとMg2+のモル比は、それぞれ1:10であり、dUTPとMg2+のモル比は、1:5であり、全核酸モノマーとMg2+のモル比は、1:2である。また、dATP、dGTPおよびdCTPとKのモル比は、それぞれ1:100であり、dUTPとKのモル比は、1:50である。
【0114】
【表8】

【0115】
そして、前記各乾燥試薬について、前記実施例1Aと同様にして、保存および安定性の評価を行った。前記17日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D4−1(d17)〜D4−6(d17)とし、前記27日間保存した各乾燥試薬を、乾燥試薬D4−1(d27)〜D4−6(d27)とした。
【0116】
前記実施例2Bについて、試薬反応性の結果を、表9に示す。表9は、実施例2Bの乾燥試薬D4−1〜D4−6の結果を示す。表9において、「Tris−HCl濃度」は、前記各乾燥用液体試薬中のTris−HCl濃度を示し、「核酸モノマー」は、含有する核酸モノマーの種類を示し、「モル比」は、各核酸モノマー(dATP、dGTP、dCTPおよびdUTP)とTris−HClのモル比および全核酸モノマーの合計とTris−HClのモル比であり、前記各核酸モノマーおよび前記合計のモル数をそれぞれ1に換算した場合のTris−HClのモル数を示す。モル比の欄において、上の値は、dATP、dGTPおよびdCTPに対するTris−HClの各モル数であり、二番目の値は、dUTPに対するTris−HClのモル数であり、下の値は、全核酸モノマーの合計に対するTris−HClのモル比である。表9において、試薬反応性は、前記実施例1Aと同様に算出した。
【0117】
【表9】

【0118】
表9に示すように、27日間保存した乾燥試薬(d27)を使用した場合、試薬反応性は、前記D4−1(d27)〜D4−6(d27)で7以上であり、十分な反応性を示した。これらの結果から、表8のD4−1〜D4−6の組成の乾燥用液体試薬を調製し、これらを乾燥させれば、保存安定性に優れる乾燥試薬が得られることがわかった。
【0119】
[実施例2C]
本例では、PCRに使用する成分を3つのグループに分け、それぞれを別個の容器内で乾燥した後、得られた3種類の乾燥試薬を保存し、その保存安定性を確認した。
【0120】
(1)各乾燥試薬の調製
下記表10に示す乾燥用液体試薬D5〜D7を調製した以外は、前記実施例1Aと同様にして、乾燥試薬D5〜D7を得た。前記D6におけるポリメラーゼおよび前記D7におけるプライマーおよびプローブは、それぞれ、前記実施例1Aと同じものを使用した。
【0121】
【表10】

【0122】
(2)乾燥試薬の保存
前記各乾燥試薬が入った各容器を密閉し、乾燥剤と共にビニール袋に入れ、30℃および50℃で、それぞれ30日間、60日間、240日間、370日間保存した。
【0123】
(3)保存後の安定性評価
保存0日、30日、60日、240日、370日の前記各乾燥試薬D5〜D7を使用して、PCRによる核酸増幅を行い、保存後の安定性を評価した。なお、D5〜7は、それぞれ同じ保存日数のものを組合せて使用した。
【0124】
まず、ヒト由来の精製核酸(30pg/μL)10μLを、前記乾燥試薬D5が入った容器に添加して、前記精製核酸と前記乾燥試薬D5とを混合した。得られた混合液を、前記乾燥試薬D6が入った容器に添加して、前記混合液と前記乾燥試薬D6と混合した。さらに、得られた前記混合液を、前記乾燥試薬D7が入った容器に添加して、前記混合液と前記乾燥試薬D7とを混合した。このようにして、鋳型核酸となる前記精製核酸と、前記乾燥試薬D5、D6およびD7とを混合した。この混合液をPCR反応液とし、PCRおよびTm解析を行った。PCRおよびTm解析は、PCR条件を、95℃で1分処理後、95℃で1秒および60℃で15秒を1サイクルとして50サイクルとした以外は、前記実施例1Aと同様にして行った。
【0125】
本実施例における試薬反応性の結果を、表11に示す。表11において、前記試薬反応性は、前記実施例1Aと同様に算出した。
【0126】
【表11】

【0127】
表11に示すように、30℃で保存した場合、370日間でも前記試薬反応性は、7以上を示した。また、50℃で保存した場合、60日間でも前記試薬反応性が、検出可能であること裏付ける結果を示した。これらの結果から、表10の組成の乾燥用液体試薬をそれぞれ調製し、これらを乾燥させれば、30℃で少なくとも12ヶ月間、50℃で少なくとも2ヶ月間安定的に保存可能な乾燥試薬D5、D6およびD7が得られることが分かった。
【0128】
[比較例1]
本例では、PCRに使用する成分の一部を別個の容器内で乾燥した後、得られた乾燥試薬を保存し、その保存安定性を確認した。
【0129】
(1)乾燥試薬の調製
下記表12に示す乾燥用液体試薬D8およびD9を調製し、相対湿度10%未満、25℃の条件下、一晩乾燥させた以外は、前記実施例1Aと同様にして、乾燥試薬D8およびD9を得た。なお、D8は、Mg2+が未添加であり、D9は、前記実施例2BにおけるD4−8と同組成である。前記D8におけるプライマーおよびプローブは、それぞれ、前記実施例1Aと同じものを使用した。
【0130】
【表12】

【0131】
(2)乾燥試薬の保存
前記各乾燥試薬が入った各容器を密閉し、乾燥剤と共にビニール袋に入れ、50℃で14日間保存した。保存0日の各乾燥試薬を、乾燥試薬D8(d0)およびD9(d0)とし、保存14日の各乾燥試薬を、乾燥試薬D8(d14)およびD9(d14)とした。
【0132】
(3)保存後の安定性評価
保存0日、14日の前記各乾燥試薬D8およびD9を使用して、PCRによる核酸増幅を行い、保存後の安定性を評価した。
【0133】
前記乾燥試薬D8が入った容器に、下記表13に示す組成の乾燥試薬D8用液体試薬およびヒトゲノム(100コピー/μL)1μLを添加し、合計10μLのPCR反応液を調製し、前記実施例1Aと同様にして、PCRおよびTm解析を行った。また、前記乾燥試薬D9が入った容器に、下記表13に示す組成の乾燥試薬D9用液体試薬およびヒトゲノム(100コピー/μL)1μLを添加し、合計10μLのPCR反応液を調製し、前記実施例1と同様にして、PCRおよびTm解析を行った。下記表13において、各成分の濃度は、前記PCR反応液10μLにおける最終濃度を示す。
【0134】
【表13】

【0135】
本比較例における試薬反応性の結果を、表14に示す。表14において、前記試薬反応性は、前記実施例1Aと同様に算出した。
【0136】
【表14】

表14に示すように、乾燥試薬D8およびD9は、50℃で14日間保存すると、前記試薬反応性が1未満となり、保存安定性が低い乾燥試薬であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の乾燥試薬によれば、例えば、室温条件下で保存した後も、核酸増幅を行うことができる。このため、例えば、多数の被検体について核酸増幅を行う場合や流通の際、取扱いが極めて簡便となる。また、乾燥状態での保存が可能であることから、例えば、全必須成分を同じチップ上に配置し、チップ化することも可能となる。このように、保存後の核酸増幅能を維持し、且つ、取扱い性も向上することから、本発明は、核酸増幅を利用する遺伝子解析等において、極めて有用なツールといえる。
【0138】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0139】
この出願は、平成23年5月26日に出願された日本出願特願2011−118378を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の核酸モノマーおよびMg2+を含み、
下記(X1)および(X2)の少なくとも一方の条件を満たす、核酸増幅に使用する乾燥試薬。
(X1)前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である。
(X2)含有する全ての核酸モノマーの総モル数とMg2+のモル数のモル比が、1:0.0075〜1:25である。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:50である、請求項1に記載の乾燥試薬。
【請求項3】
前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:1〜1:30である、請求項1または2に記載の乾燥試薬。
【請求項4】
さらに、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを含み、前記少なくとも1種類の核酸モノマーと前記トリスヒドロキシメチルアミノメタンのモル比が、1:60以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥試薬。
【請求項5】
さらに、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを含み、前記少なくとも1種類の核酸モノマーと前記トリスヒドロキシメチルアミノメタンのモル比が、1:30以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥試薬。
【請求項6】
前記核酸モノマーとして、アデニンを有する核酸モノマー、グアニンを有する核酸モノマー、シトシンを有する核酸モノマーおよびチミンを有する核酸モノマーを含み、
前記各核酸モノマーは、それぞれ前記モル比を満たす、請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥試薬。
【請求項7】
前記核酸モノマーとして、アデニンを有する核酸モノマー、グアニンを有する核酸モノマー、シトシンを有する核酸モノマーおよびウラシルを有する核酸モノマーを含み、
前記アデニンを有する核酸モノマー、前記グアニンを有する核酸モノマーおよび前記シトシンを有する核酸モノマーは、それぞれ前記モル比を満たし、
前記アデニンを有する核酸モノマーのモル数、前記グアニンを有する核酸モノマーのモル数および前記シトシンを有する核酸モノマーのモル数の平均モル数と、前記ウラシルを有する核酸モノマーのモル数との比が、1:0.5〜1:10である、請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥試薬。
【請求項8】
前記乾燥試薬に含まれる全核酸モノマーの総モル数とMg2+のモル数のモル比が、1:0.0075〜1:25である、請求項1から7のいずれか一項に記載の乾燥試薬。
【請求項9】
前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.3〜1:100であり、Kを含まない、請求項1から8のいずれか一項に記載の乾燥試薬。
【請求項10】
さらに、Kを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の乾燥試薬。
【請求項11】
前記少なくとも1種類の核酸モノマーとKのモル比が、1:0.01〜1:1000である、請求項10に記載の乾燥試薬。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の乾燥試薬を含む、核酸増幅に使用する乾燥試薬キット。
【請求項13】
さらに、下記(A)および(B)の少なくとも一方の乾燥試薬を含む、請求項12に記載の乾燥試薬キット。
(A)ポリメラーゼを含み、Mg2+、K、トリヒドロキシアミノメタン、核酸モノマーおよびプライマーを含まない乾燥試薬
(B)プライマーを含み、Kを含まない乾燥試薬
【請求項14】
基材および請求項1から11のいずれか一項に記載の乾燥試薬を含み、
前記基材に、前記乾燥試薬が配置されている、核酸増幅に使用する試薬器。
【請求項15】
前記基材が、試験片、チップまたはチューブである、請求項14に記載の試薬器。
【請求項16】
少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+とを含む液体試薬を乾燥させる工程を含み、
前記液体試薬が、下記(x1)および(x2)の少なくとも一方の条件を満たす、請求項1から11のいずれか一項に記載の乾燥試薬を製造する方法。
(x1)前記液体試薬において、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100である。
(x2)前記液体試薬において、含有する全ての核酸モノマーの総モル数とMg2+のモル数のモル比が、1:0.0075〜1:25である。
【請求項17】
前記液体試薬において、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.3〜1:100であり、前記液体試薬がKを含まない、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記液体試薬において、前記少なくとも1種類の核酸モノマーとMg2+のモル比が、1:0.03〜1:100であり、前記液体試薬がKを含む、請求項16に記載の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−5796(P2013−5796A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118521(P2012−118521)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】