説明

二フッ化アンモニウム(NH4F.HF)を用いた酸化ジルコニウム系材料の処理

酸化ジルコニウム系材料を処理する処理プロセスであって、酸化ジルコニウム系材料を二フッ化アンモニウム(NH4F.HF)と反応させる処理を含む。フッ化ジルコンアンモニウム化合物を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学物質の処理に関し、具体的には、酸化ジルコニウム系材料の処理プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウムを含有する下流の化学物質を製造するためには、または、ジルコニウム含有出発物質からジルコニウム金属を得るためには、先ず出発物質を可溶化し、さらに、そうして形成された可溶化中間生成物を精製して、最終利用者用の用途に課せられる規格(とりわけ純度規格)に適合するものとしなければならない。例えば、原子炉級(nuclear-grade)ジルコニウム金属は、非常に厳しい純度規格に適合するものでなければならない。通常、原子炉級ジルコニウム金属の場合、熱中性子の断面積吸収見込み(cross-section absorption perspective)から、ハフニウム含有量が100ppm未満であることを求められる。しかし、ジルコニウム含有材料(ジルコン(ZrSiO2)など)は、可溶化が難しいことが知られており、通常、こうした物質の可溶化を実現するには、高温でのアルカリ溶解プロセスまたは高温での炭素塩素化(carbochlorination)プロセスが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】露国特許発明第2048559号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、ジルコニウム含有材料から有用な中間生成物および最終生成物を得るための処理をより簡単にすることのできる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は、酸化ジルコニウム系材料を処理する処理プロセスであって、反応ステップにおいて、酸化ジルコニウム系材料を二フッ化アンモニウム、NH4F.HFと反応させて、フッ化ジルコン(fluorozirconic)アンモニウム化合物を生成する処理が含まれること、を特徴とする処理プロセスを提供する。
【発明の効果】
【0006】
また、酸化ジルコニウム系材料は、解離ジルコン、ZrO2.SiO2、または、プラズマ解離ジルコン(‘PDZ’)などの解離ジルコン(‘DZ’)とすればよい。反応ステップは下記の反応1.1に従って進行し(非平衡反応)、
ZrO2.SiO2 + NH4F.HF → (NH4)3ZrF7 +(NH4)2SiF6 + H2O (反応1.1)
当該反応1.1において、(NH4)3ZrF7および(NH4)2SiF6が反応生成物として生成される。
【0007】
さらに、別の形として、酸化ジルコニウム系材料は、少なくとも部分的に脱シリカ処理(desilicated)された解離ジルコンとすればよく、当該解離ジルコンは脱シリカ処理された酸化ジルコニウム成分、ZrO2を有する。当該脱シリカ処理された酸化ジルコニウム成分は、反応ステップにおいて下記の反応1.2に従って反応し(非平衡反応)、
ZrO2 + NH4F.HF → (NH4)3ZrF7 + H2O (反応1.2)
当該反応1.2では、(NH4)3ZrF7が反応生成物として生成される。
【0008】
この脱シリカ処理された解離ジルコンについては、部分的に脱シリカ処理された解離ジルコンでも、完全に脱シリカ処理された解離ジルコンでもよい。当然のことながら、解離ジルコンが部分的に脱シリカ処理されたものである場合は、反応生成物として (NH4)2SiF6もいくらか形成されるであろう。
当該解離ジルコンは、使用時、何らかの適当なプロセス(具体的には熱プロセス)によって得られるものとすることができる。例えば、プラズマ炉またはプラズマ発生器において、酸化条件、不活性条件または還元条件の下で高温になるまで加熱して、ジルコン(ZrSiO4)の結晶マトリックスを破壊することによって得られる。ジルコンは、比較的低いコストで大量に入手可能であるが、化学的には不活性の鉱物である。そこで、プラズマ解離を用いて、不活性のジルコン鉱物を本発明による化学処理が可能なものに変える。プラズマ解離の間に、ジルコンは、酸化ジルコニウム(ZrO2)と二酸化ケイ素(SiO2)という異なる鉱物相に解離される。当該解離に伴う生成物は一般に、解離ジルコン(‘DZ’)、プラズマ解離ジルコン(‘PDZ’)またはZrO2.SiO2と呼ばれる。
【0009】
反応は、約250℃未満の温度(通常は約180℃)で生じさせればよい。
解離ジルコンの粒子サイズと反応条件とに応じて、反応は数分(例えば、約2分)から3時間の間の反応時間にわたって実行され、通常の反応時間は5分から30分の間である。
また、本プロセスについては、反応1.1および1.2の反応生成物を熱処理して熱分解を生じさせることによってフッ化ジルコニウム、ZrF4の無水異種同形体を形成する処理を含むことにしてもよい。これにより、フッ化ジルコニウムから所望のジルコニウム生成物を形成することができる。
【0010】
本発明の1つの実施の形態では(すなわち、反応1.1によって反応生成物が形成される場合は)、熱処理には、反応ステップに続いて実行される第1の熱処理ステップが含まれ、当該第1の熱処理ステップでは、下記の反応2に示すように、250℃から300℃の間(通常は約280℃)の温度で(NH4)2SiF6の揮発または昇華が生じさせられ、反応2は以下の通りである。
【0011】
(NH4)2SiF6(s) → (NH4)2SiF6(g) (反応2)
さらに、本発明のプロセスには、第1の熱処理ステップに続いて実行される第2の熱処理ステップが含まれ、当該第2の熱処理ステップでは、下記の反応3により、300℃超(通常は約450℃)の温度で(NH4)3ZrF7の熱分解が生じさせられ、反応3は以下の通りである。
【0012】
(NH4)3ZrF7 → ZrF4 + 3NH3 + 3HF (反応3)
つまり、第2の熱処理ステップでは、(NH4)3ZrF7がZrF4とNH4Fとに熱分解され、更に、分解生成物として、NH4Fからアンモニア(NH3)およびフッ化水素(HF)が放出される。
具体的には、本プロセスは、気体成分(反応性気相のHFやNH3)の損失を防ぐために、密閉反応器内で実行することにしてもよい。反応器は、3つの異なる温度区域を隣接する状態で有し、反応ステップ、第1の熱処理ステップ、第2の熱処理ステップの各々が別々の温度区域において実行され、反応生成物は1つの温度区域から次の温度区域へと順番に送られて行く。そうして、反応ステップは第1の比較的低温の第1の温度区域において実行され、第1の熱処理ステップは、第1の温度区域地帯よりも高温の第2の温度区域において実行され、第2の熱処理ステップは、第2の温度区域に隣接し、第2の温度区域よりも高温である第3の温度区域において実行される。
【0013】
本発明の別の実施の形態では(すなわち、反応1.2によって反応生成物が形成される場合)、熱処理には、約300℃超の温度で、反応3によって(NH4)3ZrF7を熱分解する処理が含まれることとしてもよい。
本プロセスは、上述したように、密閉反応器内で実行することもできる。
一般的に、反応器は回転炉である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるプラズマ解離ジルコン(‘PDZ’)の処理プロセスを示す、簡略化したフロー図である。
【図2】出発物質の未転換部分によって、二フッ化アンモニウムを用いた解離ジルコンの転換効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、非限定的な例を挙げて、本発明について説明する。
先ず、図1を参照する。参照番号10はPDZ処理のプロセス全体を指す。
プロセス10の上流では、プラズマ解離ステージ12が設けられている。ジルコン(ZrSiO4)供給線14がステージ12に通じている。PDZ移動線16が、ステージ12から反応ステップ18(または反応ステージ18)に通じており、当該ステップ(ステージ)はプロセス10の一部を成す。また、ステージ18には、二フッ化アンモニウム(NH4F.HF)供給線20も通じている。さらに、反応生成物移動線22がステージ18から第1の熱処理ステップ24(または第1の熱処理ステージ24)に通じている。ステージ24から第2の熱処理ステップ28(または第1の熱処理ステージ28)には、第1熱処理ステージ生成物移動線26が通じている。そして、ステージ28からは、第2熱処理ステージ生成物線30が出ている。
【0016】
使用時、ジルコン(ZrSiO4)は、供給線14に沿って、プラズマ解離ステージ12に供給される。ステージ12では、ジルコンはプラズマ解離によってPDZに解離される。PDZは流れ線16に沿って反応ステージ18に送られる。
PDZに加え、反応ステージ18には、NH4F.HFが供給線20に沿って供給される。反応ステージ18では、NH4F.HFとPDZとが約180℃の温度で、反応(1.1)に示すように反応する。反応時間は通常、約5〜30分の間である。そして、反応生成物として、(NH4)3ZrF7と(NH4)2SiF6とが形成される。これら反応生成物は、移動線22に沿って第1の熱処理ステージ24に送られる。
【0017】
第1の熱処理ステージ24では、(NH4)3ZrF7および(NH4)2SiF6は、約280℃の温度で約5分間の反応時間にわたって熱処理を受ける。その結果、反応(2)に示すように(NH4)2SiF6の揮発が生じる。残った(NH4)3ZrF7は、移動線26に沿って第2の熱処理ステージ28に送られる。
第2の熱処理ステージ28では、(NH4)3ZrF7が、約450℃の温度で約10分間の反応時間にわたって熱処理を受ける。その結果、反応(3)に示すように、(NH4)3ZrF7は分解してZrF4となる。ZrF4は生成物線30に沿って回収される。第2の熱処理ステージ28では、気相のHF、NH3も形成される。
【0018】
反応ステージ18、第1の熱処理ステージ24そして第2の熱処理ステージ28は、通常、3つの異なる温度区域を有する回転炉(図示さず)の形で提供される。そして、各々の温度区域でステージ18、24、28のいずれか1つを実施する。そして、言うまでもなく、移動線22、26については、それぞれが、反応生成物および(NH4)3ZrF7の、回転炉内部での1つの温度区域から次の温度区域への移動を意味している。
実施例
プロセス10の反応ステップまたは反応ステージ18をシミュレートする一連の実験室規模実験を、温度および反応時間の反応条件を選択しながら実施した。これらの実験のいずれにおいても、出発物質として、純度94%のPDZを用い、これを、化学量論的な必要量の2倍の量のNH4F.HFと反応させて、確実に最大量のPDZが転換されるようにした。そのため、PDZ1gにつき8gのNH4F.HFを使用した。出発物質に含まれる6%の不純物は、化学分析による判定の結果、主に非解離ジルコンであった。
【0019】
これらの実験は4回のシリーズで行い、各シリーズはそれぞれ138℃、155℃、170℃そして180℃の温度で実行した。これら温度は全て、NH4F.HFの融点を上回っている。1シリーズにつき6回の実験を行い、それぞれ、1分、2分、5分、10分、20分、30分に設定した反応時間が経過した時点で終了した(図2)。
いずれの実験においても、先ず、NH4F.HFをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の反応容器または坩堝に置き、炉の中で設定温度まで予熱して、完全に溶解させる。
【0020】
その後、坩堝を一時的に炉から取り出し、正確に計量したPDZを溶解したNH4F.HFに加える。
その後、坩堝を炉に戻し、設定した反応時間が終わるのを待って坩堝とその内容物とを炉から取り出し、換気フードの中で室温まで冷却した。冷却後、坩堝の内容物を水に溶かし、得られた溶液を濾過した。用いた濾過紙を乾燥させた上で重さを量り、反応状況の組合せの各々について、濾過紙に残った分量に基づき、PDZから(NH4)3ZrFおよび(NH4)2SiF6への転換量を求めた(図2)。
【0021】
その結果、約5分の反応時間または反応期間で、ほぼ完全な転換が達成されたことが分かった。出発物質のPDZのうち残留物質として残った非解離ジルコンの割合は6%に過ぎなかった。これは、全ての反応生成物および余剰物のNH4F.HFが水溶性だからである。約5分が経過した後も残留物質の量の減少が観察されたことについては、最後に残る6%の非解離ジルコンでは転換が遅くなることによる。
【0022】
出発物質として非解離ジルコンを用い、反応ステップ(ステージ)18を180℃の温度で30分間という条件で繰り返した。その結果、この条件の下では、非解離ジルコンはほとんどNH4F.HFと反応しないことが分かった。
このように、出願人が確認したところでは、本発明は予想を上回る形で、ジルコニウム含有材料(具体的には、非分離状態のジルコン)から費用効果のよい方法で有用なジルコニウムを含む生成物を取得できる。そして、当該生成物を更に処理することで、ジルコニウム金属などの最終生成物を得ることもできる。
【0023】
さらに、本発明はジルコニウム含有材料の選鉱に無水ルートを提供し、それによって無水ZrF4の製造を可能にする。ZrF4は、数多くの用途において、(含水のZrF4.H2Oよりも)好適な前駆物質である。含水のZrF4.H2Oは、同じ材料を含水可溶化(hydrous solubilization)ルートを用いて処理する際に形成される(従来は、このやり方であった)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム系材料を処理する処理プロセスであって、
反応ステップにおいて、酸化ジルコニウム系材料を二フッ化アンモニウム、NH4F.HFと反応させて、フッ化ジルコン(fluorozirconic)アンモニウム化合物を生成する処理が含まれること、
を特徴とする処理プロセス。
【請求項2】
酸化ジルコニウム系材料は解離ジルコン、ZrO2.SiO2であって、反応ステップは下記の反応1.1に従って進行し、
ZrO2.SiO2 + NH4F.HF → (NH4)3ZrF7 +(NH4)2SiF6 + H2O (反応1.1)
当該反応1.1において、(NH4)3ZrF7および(NH4)2SiF6が反応生成物として生成されること、
を特徴とする請求項1に記載の処理プロセス。
【請求項3】
酸化ジルコニウム系材料は、少なくとも部分的に脱シリカ処理(desilicated)された解離ジルコンであって、当該解離ジルコンは脱シリカ処理された酸化ジルコニウム成分、ZrO2を有し、当該脱シリカ処理された酸化ジルコニウム成分は、反応ステップにおいて下記の反応1.2に従って反応し、
ZrO2 + NH4F.HF → (NH4)3ZrF7 + H2O (反応1.2)
当該反応1.2において、(NH4)3ZrF7は反応生成物として生成されること、
を特徴とする請求項1に記載の処理プロセス。
【請求項4】
反応は250℃未満の温度で生じさせられること、
を特徴とする請求項2または3に記載の処理プロセス。
【請求項5】
反応は、2分から3時間の間の反応時間にわたって実行されること、
を特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の処理プロセス。
【請求項6】
反応時間は5分から30分の間であること、
を特徴とする請求項5に記載の処理プロセス。
【請求項7】
反応1.1の反応生成物を熱処理して熱分解を生じさせることによって、フッ化ジルコニウム、ZrF4の無水異種同形体を形成する処理を含むこと、
を特徴とする請求項2に記載の処理プロセス。
【請求項8】
熱処理には、反応ステップに続いて実行される第1の熱処理ステップが含まれ、当該第1の熱処理ステップでは、下記の反応2に示すように、250℃から300℃の間の温度で(NH4)2SiF6の揮発が生じさせられ、反応2とは、
(NH4)2SiF6(s) → (NH4)2SiF6(g) (反応2)
であること、
を特徴とする請求項7に記載の処理プロセス。
【請求項9】
第1の熱処理ステップに続いて実行される第2の熱処理ステップを更に含み、当該第2の熱処理ステップでは、下記の反応3により、300℃超の温度で(NH4)3ZrF7の熱分解が生じさせられ、反応3とは、
(NH4)3ZrF7 → ZrF4 + 3NH3 + 3HF (反応3)
であること、
を特徴とする請求項8に記載の処理プロセス。
【請求項10】
気相の成分の損失を防ぐために密閉反応器において実行されること、
を特徴とする請求項9に記載の処理プロセス。
【請求項11】
反応器は、3つの異なる温度区域を隣接する状態で有し、
反応ステップ、第1の熱処理ステップ、第2の熱処理ステップの各々が別々の温度区域において実行され、反応生成物は1つの温度区域から次の温度区域へと順番に送られて行き、
反応ステップは第1の比較的低温の第1の温度区域において実行され、第1の熱処理ステップは、第1の温度区域地帯よりも高温の第2の温度区域において実行され、第2の熱処理ステップは、第2の温度区域に隣接し、第2の温度区域よりも高温である第3の温度区域において実行されること、
を特徴とする請求項10に記載の処理プロセス。
【請求項12】
反応器が回転炉であること、
を特徴とする請求項10または11に記載の処理プロセス。
【請求項13】
反応1.2の反応生成物を熱反応させて熱分解を生じさせることによって、フッ化ジルコニウム、ZrF4の無水異種同形体を形成する処理を含むこと、
を特徴とする請求項3に記載の処理プロセス。
【請求項14】
熱処理には、下記の反応3により、300℃超の温度で(NH4)3ZrF7を熱分解する処理が含まれ、反応3とは、
(NH4)3ZrF7 → ZrF4 + 3NH3 + 3HF (反応3)
であること、
を特徴とする請求項13に記載の処理プロセス。
【請求項15】
気相の成分の損失を防ぐために密閉反応器において実行されること、
を特徴とする請求項13または14に記載の処理プロセス。
【請求項16】
反応器が回転炉であること、
を特徴とする請求項に記載の処理プロセス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−500234(P2013−500234A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522326(P2012−522326)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053448
【国際公開番号】WO2011/013085
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(508160923)ザ サウス アフリカン ニュークリア エナジー コーポレーション リミテッド (4)
【Fターム(参考)】