説明

二層構造布バネ材

【課題】強い破断強力と高い引裂き強力を有し、刃物等による傷や、タバコの火等によって空いた穴部分において、切断された糸が圧縮等の外力により編始め方向に連続的に解れる現象(ラン)が発生し難く安全性の高い布バネ用布帛であって、厚み方向にソフトなクッション性を有し人体とのフィット性に優れた二層構造布バネ材を提供する。
【解決手段】表裏二層の編地をマルチフィラメント糸100%にて連結して構成され、仕上生地の厚みが2.0〜5.0mmの二層構造布バネ材であり、該編地のタテ方向及びヨコ方向の破断強力が600N以上であり、かつ、引裂き強力が150N以上であることを特徴とする二層構造布バネ材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シート用クッション材として好適な二層構造布バネ材に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1には、立体編物からなる布バネ材として、タテ・ヨコの伸度が規定されて、高引裂き強力の布バネ材が開示されている。かかる布バネ材は、厚み方向のクッション性を向上させるため、連結糸としてモノフィラメントを使用している。しかしながら連結糸としてモノフィラメントを使用すると生地の厚みが厚い為、生地の運搬、保管、裁断、縫製等の取り扱い性に問題がある。加えて、連結糸にモノフィラメントが含まれている為、刃物等による傷や、タバコの火等によって空いた穴よりランが発生する。また、表裏面に発生しやすいヒケ(モノフィラメントの飛び出しにより、鋭利な物で引っ掛けた時モノフィラメントが引っ掛かり、モノフィラメントが表裏面の編地よりスベリ出てモノフィラメント糸が突っ張って窪んだ状態)が解消されない。
【0003】
以下の特許文献2には、表組織、裏組織及び表裏の組織を連結する連結糸からなる編物であって、表組織と連結糸を構成する糸条はポリエステルマルチフィラメント糸であり、裏面を構成する糸条は吸湿性合成繊維糸である吸湿性立体構造編物が開示されている。かかる立体構造編物は、一般衣料やスポーツ衣料に用いられる編地であって、生地の破断強力、引裂き強力、張設圧縮変化等については何ら考慮されておらず二層構造編地としては不十分なものである。
【0004】
以下の特許文献3には、表裏両面基布が連結されてなる立体構造布帛の連結糸が、マルチフィラメント糸及びモノフィラメン状繊維から構成された立体構造成形物が開示されている。この立体構造成形物は、樹脂成形用基布となる立体構造布帛であって、立体構造とする目的は、その樹脂成形物の表裏面間距離の保持をすることであり、生地の破断強力、引裂き強力、張設圧縮変化等については何ら考慮されておらず、二層構造布バネ材としては、その性能は十分なものでない。
【0005】
表裏二層を連結する連結糸にモノフィラメントを使用すると、表面又は裏面の編地と連結するモノフィラメントがスリップするため、編目が解けてランが発生する。また、連結糸のモノフィラメントの剛性が高いため、表面又は裏面の編地からモノフィラメントが飛び出し、生機以降の取り扱い時にモノフィラメントのヒケが発生し編地の表面品位が劣ったものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/034684号公報
【特許文献2】特開2004−3095号公報
【特許文献3】特開平6−305064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来の技術の問題点を解決し、強い破断強力と高い引裂き強力を有し、刃物等による傷やタバコの火等によって空いた穴部分において、切断された糸が圧縮等の外力により編始め方向に連続的に解れる現象(ラン)が発生し難く、かつ、安全性の高い布バネ用布帛であって、厚み方向にソフトなクッション性を有し、人体とのフィット性に優れた二層構造布バネ材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、二層構造編地の連結に用いる糸及び繊度、特定の地組織からなる地編地におけるタテ方向とヨコ方向の破断強力及び引裂き特性、並びに張設圧縮変化について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本願発明は、以下の通りである。
【0010】
(1)表裏二層の編地がマルチフィラメント糸100%の連結糸により連結されて構成された二層構造布バネ材であって、仕上生地の厚みが2.0〜5.0mmであり、該編地のタテ方向及びヨコ方向の破断強力が600N以上であり、かつ、引裂き強力が150N以上であることを特徴とする二層構造布バネ材。
【0011】
(2)前記表裏二層の内、いずれか一方の前記編地が、少なくとも2枚筬以上のニットループ組織で構成され、一方の筬は鎖編又は2針以下のトリコット編で構成され、他方の筬は1針以上8針振り以下のトリコット編で構成されている前記(1)に記載の二層構造布バネ材。
【0012】
(3)タテ方向に挿入されたタテ糸が他方の鎖編又はトリコット編に対し同方向又は異方向に経挿入されている、前記(1)又は前記(2)に記載の二層構造布バネ材。
【0013】
(4)前記表裏二層の前記編地を連結するマルチフィラメント糸の繊度が、50dtex以上1000dtex以下である、前記(1)〜前記(3)のいずれかに記載の二層構造布バネ材。
【0014】
(5)前記表裏二層の前記編地を連結するマルチフィラメント糸が嵩高加工糸である、前記(1)〜前記(4)のいずれかに記載の二層構造布バネ材。
【0015】
(6)前記表裏二層の前記編地をマルチフィラメントにて連結して構成され、該マルチフィラメントの連結糸と表面の糸で構成される編地のカバーファクターが5×104以上5×105以下である、前記(1)〜前記(5)のいずれかに記載の二層構造布バネ材。
【0016】
(7)張設圧縮引裂き量が20mm以内である、前記(1)〜前記(6)のいずれかに記載の二層構造布バネ材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二層構造布バネ材は、強い破断強力と高い引裂き強力を有し、刃物等による傷やタバコの火等によって空いた穴部分において、切断された糸が圧縮等の外力により編始め方向に連続的に解れる現象(ラン)が発生し難く、かつ、安全性の高い布バネ材であって、厚み方向にソフトなクッション性を有し人体とのフィット性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0019】
本発明に係る二層構造布バネ材は、略4角形、多角形などの各種形状のフレームに縫製、樹脂成型、ボルト止め等の各種方法で張設することにより、面状のクッション材を形成し、二層構造布バネ材の伸長特性により人が座った際のクッション性を発現させる。クッション材はフレームと布バネ用布帛のみで形成してもよいが、必要に応じて布バネ用布帛の上に立体編物、硬綿、不織布等の繊維状クッション材やウレタン、表皮材等を積層したクッション材としてもよい。
【0020】
本発明に係る二層構造布バネ材は、表裏二層の編地をマルチフィラメント糸100%の連結糸により連結して構成される。連結糸のマルチフィラメント糸は、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維が上げられるが特に限定するものではない。繊維の形態は、未加工糸、紡績糸、撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等いずれのものを採用してもよいが、好ましくは仮撚加工を施された嵩高加工糸であり、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート繊維に嵩高加工を施した、仮撚加工糸である。ソフトなクッション性向上の為にも仮撚加工糸が好ましい。用いる糸の繊度は、好ましくは50〜1000dtexであり、より好ましくは80〜600dtexであり、更に好ましくは100〜350dtexである。
【0021】
本発明に係る二層構造布バネ材は、軽量・薄手であってソフトなクッション性を得るためには、仕上生地の厚みは、2.0〜5.0mmである。輸送性の向上及び裁断性の向上の観点から、該厚みは、好ましくは2.0〜3.0mmである。本明細書中、「裁断性」とは、裁断時のクズ(カット時に発生する生地切れカス等)の発生量及び裁断にかかる負荷等を考慮した裁断性を意味する。
【0022】
本発明においては、二層構造編地の内、いずれか一方の編地が少なくとも2枚筬以上のニットループ組織からなる地組織で構成されるが、ここでいうニットループ組織とは、トリコット編のように必ずニットループを形成する編組織をいう。破断強力と引裂き強力を向上させるには、少なくとも一方の筬は鎖編又は1針以上2針振り以下のトリコット編でニットループを構成する。他方の筬は1針振り以上8針振り以下のトリコット編にすることが好ましく、これにより切れ糸が編始め方向に連続的に解れる(ラン発生)が、防止することができる。
【0023】
多針振りの振り幅は3針振りから8針振りが好ましい。一方が3針振り以上、かつ、他方が9針以上の筬振りにすると製編性が劣り、製造が困難となり、経方向に生地が伸び生地の回復性が劣る。破断強力と引裂き強力の抵抗力に加え、さらに編目の変形(組織変形)を抑え、伸長回復性の良好な編地とするには地組織の少なくとも1枚の筬は鎖編か2針振り以内のトリコット編でニットループを構成することが必要である。また、これらの少なくとも2枚筬の地組織に挿入糸が絡み合うことにより、さらに十分な破断強力と引裂き強力の抵抗力と伸長回復性が得られる。
【0024】
一方の鎖編又はトリコット編が前筬で他方のトリコット編が後筬であることが好ましく、一方のトリコット編と他方のトリコット編は伸び過ぎを抑え、伸長回復性を良好にするため異方向振りが好ましい。また、ランの発生を防止する性能を上げるために、鎖編又はトリコット編と挿入糸は、同方向振りが好ましく、さらにタテ方向の伸び過ぎを抑えるためには異方向振りが好ましい。
【0025】
本発明に係る二層構造布バネ材は、張設状態で人の体重を支え、かつ、勢いよく膝をつく行為や、衝突時等の衝撃力が加わった際に十分抵抗できる強度を有することが好ましい。このためには、破断強力が600N以上であり、かつ、引裂き強力が150N以上であることが必要である。本発明に係る布バネ用布帛の破断強力は、600N以上であり、好ましくは、1000N以上であり、より好ましくは、1200N以上である。また、本発明に係る二層構造布バネ材の引裂き強力は、150N以上であり、好ましくは、200N以上であり、より好ましくは、250N以上である。
【0026】
本発明に係る二層構造編地の一方の面の組織を構成する繊維の繊度は、破断強力と引裂き強力を向上させる点から、250〜1300dtexが好ましく、より好ましくは400〜1300dtexである。地組織を構成する繊維の繊度が250dtex未満の場合は、破断強力及び引裂き強力が劣ると共に、編目の変形(組織変形)が大きく、伸び過ぎて回復性が低下する。また、地組織が2枚筬以上のニットループ組織で構成されない場合も破断強力と引裂き強力が低下する。逆に、地組織を構成する繊維の繊度が2000dtexを超えると製編性に劣るため製造が困難となる。
【0027】
本発明に係る、二層構造編地の他方面を構成する編地のカバーファクターは5×104以上5×105以下であることが好ましく、表面品位の向上特に、表面のヒケの改善のためには、105以上3×105以下であることがより好ましい。これらの範囲のカバーファクターであれば、編地の編組織内に連結糸のマルチフィラメントが強固に押さえ込まれ、連結糸のマルチフィラメントが鋭利な物等により引き出され難く、編地の品位及び安定性も良いものとなる。
【0028】
カバーファクターは以下の式により求められる。
カバーファクター=(連結糸の使用総繊度+表面糸の使用総繊度)×コース×ウエル
式中、総繊度は、dtexであり、コース及びウエルは、1inch当たりのループ数(個)であり、そして、単位は、dtex個/inch2である。
【0029】
二層構造布バネ材が座席の座部や背部を形成する際に着座時の人体へのフィット感及び安定な座り心地を得るためには、本発明二層構造布バネ材を張設して座席フレームに緊張状態又は弛ませた状態で張ることによって、編目の変形(組織変形)が少ない編組織にする必要がある。このためにはタテ方向及び/又はヨコ方向に挿入糸を編み込むことが好ましい。
【0030】
タテ方向に挿入糸を編み込む場合は、トリコット編等の組織で編まれる裏面のニードルループとシンカーループの間に1コース当り3針振り以下の振り幅で挿入された状態、又は経編地の長さ方向に連なる地糸のシンカーループの間を上下しながら挿入させた状態で、立体編物の全長に渡り挿入糸を直線状か又はジグザグに近い状態で挿入することが好ましい。ヨコ方向に挿入糸を編み込む場合には、トリコット編等の組織で編まれる地糸のニードルループとシンカーループの間に、経編地の全幅に渡るように挿入糸を直線に近い状態で挿入することが好ましい。
【0031】
挿入糸を編み込む方法は、タテ方向の挿入であれば編組織によって挿入することができ、この際、編目の変形(組織変形)を抑えるための地組織の多針振りトリコット編みのアンダーラップ方向に対して異方向に挿入することが好ましい。振り幅は、1コース当り3針以下とすることが好ましく、3針振りよりも2針振りまたは1針振りがより好ましい。またヨコ方向の挿入であれば、緯糸挿入装置を装備したラッシェル編機を用いて緯糸挿入することができる。
【0032】
二層構造布バネ材の表裏面二層の内の一方の地組織または挿入糸に用いられる繊維とは、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維その他、任意の繊維が挙げられる。繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定型なものでもよい。繊維の形態は、未加工糸、紡績糸、撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等いずれのものを採用してもよい。但し、地組織の用いる糸については、できるだけ編目を締めて編目の変形を抑える点から、原糸(未加工糸)を用いることが好ましく、さらに仕上げ加工時に出来るだけ編目を締める点からは、160℃の乾熱収縮率が5〜20%であることが好ましく、7〜16%であることがより好ましい。
【0033】
本発明に係る布バネ用布帛の破断強力を600N以上、及び引裂き強力を150N以上にするには、好ましくは4cN/dtex以上、より好ましくは5cN/dtex、更に好ましくは6cN/dtex以上の強度を有する繊維を少なくとも一方面の地組織の一部に用いて経編地を構成することが好ましい。
【0034】
尚、タテ方向又はヨコ方向の挿入糸に用いる繊維については、伸長回復性を向上させ、長期間、人が座った後の塑性を抑える上で、ポリメチレンテレフタレート繊維、またはポリエーテルエステル系弾性糸等の弾性繊維を用いることが好ましい。さらに挿入糸は、人が座った際に局部的な落ち込みを防止し安定した着座感を得るための面剛性を付与する上で、300〜3000dtexのモノフィラメントが好ましい。なお、モノフィラメントが挿入糸として用いられる場合は、モノフィラメントがスリップして組織変形したり、着座後の塑性変形を防止するために、モノフィラメントが地組織に接着されていてもよい。接着の方法は、モノフィラメント表面を低融点のポリマーで覆った鞘芯モノフィラメントを用い、編地を編成した後に、ヒートセット等で熱融着させる方法が好ましい。
【0035】
本発明に係る二層構造布バネ材は、フレームに張設して座部及び/又は背部を形成する座席に好適に用いられるが、二層構造布バネ材をフレームに張設する状態は限定されるものでなく、二層構造布バネ材の周囲または少なくとも2辺を背部または座部のフレームに緊張状態または弛ませた状態で張ることにより、二層構造布バネ材が座部や背部を形成すればよい。
【0036】
フレームへの二層構造布バネ材の固定方法は任意の方法を用いることができる。例えば、特開2002−219985号公報に記載されているように、編地末端部に断面略U字状で溝部を有するプレート部材を固着し、該プレート部材の溝部を適宜のフレーム材に係合する方法、二層構造布バネ材の端末部を溶着、縫製、樹脂加工等により処理した後、端部を押さえ部材等で押さえてボルト止め等でフレームに固定する方法、端部を折り返して縫製した空洞の中に金属棒を通し、金属棒をフレームに固定する方法等、任意の方法を用いることができる。なお、本発明の二層構造布バネ材をコイルスプリング、トーションバー等の金属ばねを介しフレームに固定する方法等を用いることにより、よりストローク感のあるクッション性が付与できる。
【0037】
本発明に係る二層構造布バネ材の経編地は、ラッシェル編機を用いて編成することが好ましく、編機のゲージは9ゲージから28ゲージまでが好ましく用いられる。
【0038】
二層構造布バネ材の目付は、目的に応じて任意に設定できるが、好ましくは300〜1500g/m2、より好ましくは600〜1200g/m2である。更に好ましくは、600〜900g/m2である。
【0039】
二層構造布バネ材の経編地の仕上加工方法としては、生機を精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上ることができるが、精練や染色工程を省いて生機をヒートセットのみで仕上ることもできる。また仕上セット時には本発明の目的を損なわなければ、通常の繊維加工に用いられている樹脂加工、吸水加工、制電加工、抗菌加工、難燃加工などの仕上加工を適用できる。仕上セットで用いる熱処理機としては、ピンテンター、クリップテンター、ショートループドライヤー、シュリンクサーファアードライヤー、ドラムドライヤー、連続又はバッチ式タンブラー等が使用できる。仕上加工後の布バネ用布帛は、融着、縫製、樹脂加工等の手段で端部を処理したり、熱成型等により所望の形状に加工して張設タイプの座席等に用いることができる。
【0040】
二層構造布バネ材の取り扱いにおいて、はさみ又は裁断機にて生地を所望の大きさにカットする際に出るカットクズの対策としては、仕上生地にラミネート等のコーティング処理をする方法や、予め熱融着する糸を編み込んで、カットクズの発生を対策する方法が用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、本説明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の各特性の評価方法および測定は下記の方法で行った。
【0042】
(1)破断強力の測定
島津社製オートグラフ引張試験機を使用し、試料長200mm、試験片の幅40mm、引張速度50mm/minで試験片測定試料長100mm間にて測定し、その時得られた最高の破断強力を測定値とした。
【0043】
(2)引裂き強力の測定
島津社製オートグラフ引張試験機を使用し、試料長250mm、試験片の幅50mm、引張速度200mm/minで試験片幅方向の真中、すなわち25mmのところより垂直に試験片長さ方向に100mm切れ込みを入れ、幅25mmで切れ込んだ100mm長さに、つかみ幅50mmで上下につかみ試験片測定試料長100mm間にて測定し、その時得られた最高の引裂き強力を測定値とした。
【0044】
(3)厚み方向のソフトなクッション性(フィット感、幅入りによる違和感、安定感)
張設座席は、座部が幅520mm、奥行き470mm、高さ320mmの口型金属パイプ材からなる座席フレーム(背もたれなし)を作製した。幅500mm×長さ570mmの二層構造布バネ材のタテ方向の長さ方向の両端2辺の全幅にポリブチレンテレフタレート樹脂製の略U字型プレートを縫製で取り付けた。二層構造布バネ材の一方の略U字型プレートを座席フレーム前縁下に取り付けた金属製略U字型のプレートとかみ合わせ、二層構造布バネ材の幅全体に10kgの荷重をかけて張力を付与した状態で座席フレームの前後に二層構造布バネ材を張り、座席フレームの後ろ縁下の金属製略U字型プレート二層構造布バネ材の樹脂製略U字状プレートとかみ合わせて二層構造布バネ材と張設した。10kgの張力により金属製略U字プレートと樹脂製略U字プレートの位置がずれる場合は、金属製樹脂略U字型プレートのボルト止めした位置をずらせて調節した。二層構造布バネ材の長さ方向膝の向きを合わせて、座席の上に体重65kgの男性が10分間座った後、退席した。
【0045】
着座時の座り心地を評価した。二層構造布バネ材の座り心地としてソフトなクッション性を、◎「適度なソフト感でクッション性に優れる。」、○「ソフト感がやや高めか、或いはやや硬めでクッション性に優れる。」、△「ソフト感がかなり高いか、或いはかなり硬めでクッション性に劣る。」、×「ソフトすぎて、或いは硬すぎてクッション性に劣る。」の4段階で相対評価をした。
【0046】
(4)張設圧縮引裂き量
厚み5mm、40cm角の金属板の土台の4隅に高さ15cmの等辺山形鋼の足を溶接し、さらに足の上に、厚み5mm、長さ40cm、幅5.5cmの2枚の金属板を、土台の向かい合う2辺と平行に溶接して、2辺の二層構造布バネ材固定部を持つ張設用フレームを作成した。この2辺の二層構造布バネ材固定部の上面に40番のサンドペーパーを両面テープで貼り付けて滑り止めを付与した。一方、厚み5mm、長さ40cm、幅5.5mmの2枚の金属板のそれぞれの下面に40番のサンドペーパーを両面テープで貼り付けて滑り止めを付与した二層構造布バネ材抑え材を作成した。二層構造布バネ材を40cm角にカットし、中央部にバイヤス(45度)方向に長さ25.4mmの傷を入れた資料を3枚準備した。
【0047】
2辺の二層構造布バネ材固定部と押さえ材との間に、二層構造布バネ材を弛まないように挟み、計6箇所を万力で固定して張設した。
【0048】
島津オートグラフAG−B型(島津製作所製)を用いて、直系100mmの金属製の半球状圧縮冶具により、張設した二層構造布バネ材の中央部(25.4mmの傷の部分)を50mm/分の速度で圧縮し、最初に900Nの荷重を掛けて測定し、その後2225Nの荷重を掛けて、その後除重した後、二層構造布バネ材を金属枠から取り外し傷の大きさ(最大避けた長さ又は大きさ)を測定した。測定は、3回実施して平均値を求めた。
【0049】
(5)ラン発生
上記(4)の測定を行った後、傷の部分より編目方向(タテ、ヨコ、ナナメ方向)の最長にランが走った長さを測定した。
【0050】
(6)スナッキング性
二層構造布バネ材の表裏面のヒケ発生具合を測定するための方法として、JIS L1058D4法のスナッキング測定法にて評価した。表裏面及びタテ・ヨコ方向の最もヒケが発生している最悪のスナッキング性をデーターとして採取した。
【0051】
(7)裁断性
仕上生地をタテ方向とヨコ方向の二方向にそれぞれ5m間隔に鋏にて裁断を行った。裁断する際には黒板板を下に敷き、裁断による負荷とクズの発生量から目視評価によって、◎「負荷なく、クズの発生が少ない。」、○「負荷なく、クズの発生がある。」、△「負荷が有り、クズの発生がある。」、×「裁断に負荷が掛かり、切りづらい、切った後のクズ発生が多い。」の4段階で相対評価をした。
【0052】
[実施例1]
6枚筬を装備した14ゲージ、釜間5mmのダブルラッシェル編機を用いた。表側の編地を形成する2枚の筬(L1、L2)及び表裏面を連結する筬(L3)には、167デシテックス/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚糸を供給し、裏面の編地を形成する筬(L4、L5)には、688dtex/192フィラメント、乾熱収縮率12.9%のポリエチレンテレフタレート繊維の原糸を供給し、挿入糸用の筬(L6)からはソロテックス社製、390dtexのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントを2本引き揃えて供給した。
【0053】
以下に示す編組織で、機上コース15.02c/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を有り幅で170℃×3分で乾熱ヒートセットし、二層構造布バネ材を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0054】
(編組織)
L1:1011/1211//(オールイン)
L2:1211/1011//(オールイン)
L3:1210/2123//(オールイン)
L4:1110/0001//(オールイン)
L5:3310/3356//(オールイン)
L6:4444/0000//(オールイン)
得られた二層構造布バネ材は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、完全に元通りに回復する回復性を示した。
【0055】
[実施例2]
実施例1において、地組織を編成するL4の編組織を以下とした以外は、実施例1と同様にした二層構造布バネ材を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。得られた二層構造布バネ材は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、完全に元通りに回復する回復性を示した。
【0056】
(編組織)
L4:1110/1123//
【0057】
[実施例3]
実施例1において、表側の編地を形成する2枚の筬(L1、L2)及び表裏面を連結する筬(L3)には、500dtex144フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚糸を供給した以外は、実施例1と同様にした二層構造布バネ材を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0058】
得られた二層構造布バネ材は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が殆ど無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、ほぼ元通りに回復する回復性を示した。
【0059】
[実施例4]
実施例1において、表側の編地を形成する2枚の筬(L1、L2)及び表裏面を連結する筬(L3)には、330dtex96フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚糸を供給し、地組織を編成するL5の編組織を以下とした以外は、実施例1と同様にした二層構造布バネ材を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0060】
得られた二層構造布バネ材は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が殆ど無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、ほぼ元通りに回復する回復性を示した。
【0061】
(編組織)
L5:3310/3345//
【0062】
[実施例5]
実施例1において、表裏面を連結する筬(L3)に33dtex12フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の糸を供給した以外は、実施例1と同様にした布バネ用布帛を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0063】
得られた二層構造布バネ材は、実施例1に比べ、やや着座安定感と回復性の悪いものであった。
【0064】
[比較例1]
実施例1において、表裏面を連結する筬(L3)に1200dtex300フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の仮撚糸を供給した以外は、実施例1と同様にした布バネ用布帛を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0065】
得られた二層構造布バネ材は、着座安定感は良好であるが二層構造布バネ材としてのフィット感及び座り心地違和感が強い悪いものであった。さらに、編み立て性も悪かった。
【0066】
[比較例2]
実施例1において、裏面の地組織を形成する筬(L4、L5)の編組織を以下にした以外は、実施例1と同様にした二層構造布バネ材を得ようとしたが、編み立て性が悪く、糸切れが多発して生地は得られなかった。
【0067】
(編組織)
L1:2210/2234//
L2:3310/3367//
【0068】
[比較例3]
実施例1において、釜間を3mmにした以外は実施例1と同様にした二層構造布バネ材を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0069】
得られた二層構造布バネ材は、面剛性が無く安定感に劣るとともに、着座後の回復性の悪いものであった。
【0070】
[比較例4]
実施例1において、釜間を14mmにした以外は実施例1と同様にした二層構造布バネ材を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0071】
得られた二層構造布バネ材は、面剛性が無く安定感に劣るとともに、着座後の回復性の悪いものであった。
【0072】
[比較例5]
実施例1において、表裏面を連結する筬(L3)に390dtexポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメント糸を供給した以外は、実施例1と同様にした布バネ用布帛を得た。得られた二層構造布バネ材の諸物性を表1に示す。
【0073】
得られた二層構造布バネ材は、着座安定感と回復性の悪く、モノフィラメントのスベリによる張設圧縮引裂きで生地にランが走ったものであった。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏二層の編地がマルチフィラメント糸100%の連結糸により連結されて構成された二層構造布バネ材であって、仕上生地の厚みが2.0〜5.0mmであり、該編地のタテ方向及びヨコ方向の破断強力が600N以上であり、かつ、引裂き強力が150N以上であることを特徴とする二層構造布バネ材。
【請求項2】
前記表裏二層の内、いずれか一方の前記編地が、少なくとも2枚筬以上のニットループ組織で構成され、一方の筬は鎖編又は2針以下のトリコット編で構成され、他方の筬は1針以上8針振り以下のトリコット編で構成されている、請求項1に記載の二層構造布バネ材。
【請求項3】
タテ方向に挿入されたタテ糸が、他方の鎖編又はトリコット編に対し同方向又は異方向に経挿入されている、請求項1又は2に記載の二層構造布バネ材。
【請求項4】
前記表裏二層の前記編地を連結するマルチフィラメント糸の繊度が50dtex以上1000dtex以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二層構造布バネ材。
【請求項5】
前記表裏二層の前記編地を連結するマルチフィラメント糸が嵩高加工糸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二層構造布バネ材。
【請求項6】
前記表裏二層の前記編地をマルチフィラメントにて連結して構成され、該マルチフィラメントの連結糸と表面の糸で構成される編地のカバーファクターが5×104以上5×105以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二層構造布バネ材。
【請求項7】
張設圧縮引裂き量が20mm以内である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の二層構造布バネ材。

【公開番号】特開2010−275650(P2010−275650A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127739(P2009−127739)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】