説明

二酸化炭素の固定化方法および植物の栽培方法

【課題】二酸化炭素の吸着、固定化が容易に行われ、低コストで、大掛かりな装置を必要としない大気中の二酸化炭素の固定化方法および植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】多孔質材に吸着された二酸化炭素をバクテリアおよび/または植物と共存させて有機物に変換させる大気中の二酸化炭素の固定化方法、および植物有用成分および/または植物有用バクテリアを担持した多孔質材、あるいは火力発電所などの排ガスを吸着した多孔質材を散布した土壌に植物を生育させる植物の栽培方法。多孔質材としてはバイオマス由来の炭化物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の固定化方法に関し、詳細には大気中の二酸化炭素の固定化方法およびこれを応用した植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の主たる原因となる二酸化炭素等の温室効果ガスは、化石燃料消費量の増大に伴い、大気中の濃度が増加している。排出を抑制せずに現在の消費を続けると、100年後には地球上の平均気温が約2℃上昇し、異常気象の発生、生体系の混乱や食料生産の変化、海面の上昇による陸地の減少等、人々の生活に深刻な影響がでることが予想されるため、大気中の二酸化炭素濃度の低減を目的として、火力発電所などから排出される二酸化炭素の排出抑制とともに大気中の二酸化炭素を除去することが課題となっている。
【0003】
二酸化炭素の除去に関しては、例えば、吸着材に吸着させた二酸化炭素の処分方法として、二酸化炭素を地中や海洋に貯留する方法のほか、化学反応により、水素および二酸化炭素を含有するガスからジメチルエーテルを製造する方法(特許文献1等)や二酸化炭素とメタンまたは水素を反応ガス源として高機能性炭素に変換する方法(特許文献2等)などの二酸化炭素を固定化して再資源化する種々の方法が知られている。
【0004】
また、廃棄物の処理に、空気中の二酸化炭素を固定して生育する微生物を用いる方法も研究されている。例えば、特許文献3には、無機物を酸化する際のエネルギーで空気中の二酸化炭素を固定して生育する独立栄養細菌を含有する培養液中に、除去・回収すべき金属部を含む廃棄物を浸漬することで、該廃棄物中の金属の除去および回収を行う方法が提案されている。
【特許文献1】特開2001−70793号公報
【特許文献2】特開2001−187333号公報
【特許文献3】特開平9−302423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、二酸化炭素の除去方法として上記に挙げた再資源化技術や固定化技術は、いずれも大掛かりな装置やエネルギーが必要で、かつ高コストである。一方、大量の二酸化炭素の排出を抑制するため、二酸化炭素対策はなるべく低コストであることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、大気中の二酸化炭素の吸着・固定化が容易で、低コストで、大掛かりな装置を必要としない二酸化炭素の固定化方法およびそれを応用する植物の栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、二酸化炭素濃度が希薄であっても、生物を利用して二酸化炭素を固定すれば、二酸化炭素をゆっくりではあるものの容易に吸着、吸収させて固定でき、大気中から除去することもできることに想到し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、多孔質材に吸着させた二酸化炭素をバクテリアおよび/または植物と共存させて、有機物に変換させることを特徴とする二酸化炭素の固定化方法を提供する。また、本発明は、植物有用成分および植物有用バクテリアのうちの少なくとも1種を担持した多孔質材および/または二酸化炭素を吸着した多孔質材を散布した土壌に植物を生育させることを特徴とする植物の栽培方法を提供する。これらの発明において、多孔質材としてはバイオマス由来の炭化物が好適に使用される。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、二酸化炭素を吸着した多孔質材とバクテリアおよび/または植物とが共存することとなり、多孔質材に吸着された二酸化炭素をバクテリアや植物がそれらの体内に取り込み、バクテリアの同化作用および植物の光合成作用により有機物に変換することができ、変換有機物によって大気中の二酸化炭素が固定化されるので、特別な操作および特別な装置を必要とせず、容易に、低コストで行うことができる。
請求項2記載の発明によれば、多孔質材としてバイオマス由来の炭化物を用いることにより、前記に加え、バイオマスに固定された二酸化炭素に由来する炭素を利用するので、結果的に大気中の二酸化炭素濃度を低減させることができる。
請求項3記載の発明によれば、植物有用成分および/または植物有用バクテリアを担持させた多孔質材を散布した土壌に植物を生育させることにより、有用成分やバクテリアの産生する有用成分を吸収させて植物の生育を促進することができ、ゆっくりではあるものの二酸化炭素の固定化・除去を容易に、効率的にしかも低コストで行うことができる。また、火力発電所などの高濃度の二酸化炭素を含む排ガスを吸着した多孔質を散布した土壌に植物を生育させることによっても、ゆっくりではあるものの二酸化炭素の固定化・除去を容易に、効率的にしかも低コストで行うことができる。これらによって、植物の生育を促進することができるので、環境緑化の促進に資することができる。
請求項4記載の発明によれば、請求項3の効果および請求項2の効果に加え、固定化された炭素を自然界の炭素循環系に戻すことになり、再資源化に有効であり、地球環境的にも好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、多孔質材としては、多くの連続した微細孔を有するものであれば、例えば、球形、顆粒形、サイコロ形、粉末、ペレット、ビーズ、ハニカム、格子、スパイラルまたはシート状などの形状であってもよく、形状に限定されない。また、多孔質材の微細孔の孔径や分岐の多少などの孔の構造について制限はなく、本発明において、植物有用成分を担持させる場合には、有用成分の種類や放出速度により、選択することができる。例えば、細孔で多分岐のものほど有用成分を徐放し、持続的に植物に利用させることができ、一方、比較的太い孔や分岐の少ないものは有用成分等が早く浸み出し、即効性を期待することができる。
【0011】
多孔質材としては、例えば、ゼオライト、シリカ、ミクロポーラスシリケート、アルミノシリケート、シリカ−チタニア、各種の粘土焼成物、セラミック、ゲル、ガラスなどの無機多孔質材;シリコーンゴム、酢酸セルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、フッ素系ポリマー、ジメチルシクロヘキサン系ポリマー、メタクリル酸エステル系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、架橋ポリアクリル酸ナトリウムなどの樹脂、あるいはこれらの樹脂に発泡処理、酸・アルカリ処理、中性子線、レーザー、電子線、RIなどの照射エッチング処理、プラズマ処理、架橋共重合処理、粒子融着処理などを施した有機高分子多孔質材;活性炭などのバイオマス由来の炭化物などを用いることができる。これらのなかでも循環型社会の構築に適応するバイオマス由来の炭化物が好ましく使用される。
【0012】
バイオマスとは、石炭や石油等の化石燃料を除いた生物由来の有機資源を意味し、樹木や農作物、海藻・魚介類、またはこれらを利用した後の有機性廃棄物などをも含む再生可能な有機資源である。これらのうち、樹木や農作物、海藻などの植物は、大気中の二酸化炭素を体内に取り込み、光合成作用により、有機物に変換して固定しており、その植物の摂取を通じて、魚介類などの動物もその体内に二酸化炭素を固定した有機物を蓄積している。
【0013】
本発明において好ましく使用されるバイオマス由来の炭化物としては、植物由来炭化物、動物由来炭化物、食物由来炭化物、活性炭を挙げることができる。これらのうち、植物由来炭化物としては、例えば、木、竹、草、ダム塵芥、農作物残渣などの炭化物が挙げられる。木の炭化物には伐採木や流木の炭化物も包含される。農作物残渣の炭化物としては、例えば、籾殻やヤシ殻などの収穫残渣やヤシのような油糧植物の絞り粕などの炭化物が挙げられる。動物由来炭化物としては、例えば、肉牛や鶏など家畜の糞の炭化物などが挙げられる。また、食物由来炭化物としては、例えば、生ゴミ、水産加工工場などの食品工場の廃棄物などの炭化物が挙げられる。活性炭としては、例えば、やしがら活性炭、石炭系活性炭などが挙げられる。
【0014】
本発明における多孔質材としてバイオマス由来の炭化物を使用すると、バイオマスの体内に固定化された二酸化炭素に由来する炭素を使用することとなり、結果的に大気中の二酸化炭素の除去または固定化に貢献することとなる。また、バイオマスを炭化させて得られるので、バイオマスが腐敗したり、バイオマスを燃焼させることによる二酸化炭素の発生がなく、結果的に大気中に放出される二酸化炭素の濃度を減少させることができる。
【0015】
本発明において好ましく用いられるバイオマス由来の炭化物は、その炭化方法に限定されず、いずれの方法によるものであってもよい。バイオマスの炭化条件は、従来公知の炭化処理方法またはそれに準ずる方法に従って行えば良く、炭など従来公知のバイオマス由来の炭化物を使用することもできる。担持させる有用成分やそれらの所望する放出速度などを考慮して、多孔質材の孔径を選択し、おおよそ0.4〜20nm程度の孔径になるように炭化条件を調整することによって、二酸化炭素の吸着効率を高めることができる。さらにバクテリアの担持には、バクテリアの大きさが0.1μm〜5μm位であることを考慮し、0.1μm〜100μm程度のマクロ孔があるのが望ましい。バイオマス由来の炭化物は単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。さらには、シリカやゼオライトを添加することによって、二酸化炭素の吸着効率を高めることもできる。
【0016】
バイオマスの炭化処理は内燃式と外燃式に大別され、内燃式は炉内で原料の一部を燃焼し、その熱によって炭化温度を維持するもので、炭化中に発生するタールや可燃ガスを燃焼する自燃式もこれに含まれる。外燃式は炉の外側を灯油バーナなどで加熱する間接型である。炭化は通常、空気の供給を制限または遮断し、あるいは不活性ガス中で行われる。
【0017】
炭化処理に使用する炭化炉は、従来公知のもので良い。炭化炉は回分式と連続式に大別され、回分式には簡易式や平炉式等の開放型、炭窯式やトロリー式、かくはん式等の密閉型、連続式にはロータリー式や反復揺動式等の回転型、流動床式や多段かくはん式等の縦型、かくはん式やスクリュー式等の横型などがある。
【0018】
炭化処理条件は、バイオマスの種類や炭化炉の種類等によって異なるため、特に限定されない。木材の場合、一般に400〜500℃で炭化処理することにより乾留炭や平炉炭等が得られ、600〜700℃で炭化処理することにより黒炭が得られ、1000℃前後で炭化処理することにより白炭(ウバメガシの白炭を「備長炭」という)が得られる。木材以外のバイオマスの場合、400〜600℃程度で炭化した炭化物が通常用いられる。炭化温度が高い場合は、炭化度合いは進行するが炭化物の収率が低くなったり、揮発分が除去されるため燃えにくくなる等、炭化物を燃料として利用する場合に好ましくないことから、炭化温度は400〜600℃の範囲が好ましい。
【0019】
さらに、上記の炭化処理方法に加えて、バイオマスを高温高圧の熱水中で熱分解させる水熱液化により得られたバイオマス由来の炭化物を使用することもできる。具体的には、バイオマスを、水の存在下、飽和蒸気圧以上の圧力で改質処理してバイオマスを改質する工程、改質工程で得られた改質反応物を固形成分と液体成分に分離する工程により得られるもの等を挙げることができる。この場合、バイオマス原料に添加する水の量は、セルロース系バイオマス原料が元々含有する水分量によっても異なるが、バイオマス原料に対して質量(ドライベース)で、1〜20倍程度加えるのが好ましく、3〜15倍程度とするのがより好ましい。
【0020】
改質工程における処理温度は250〜380℃であることが好ましく、270〜350℃であることがより好ましい。操作圧力としては、水の飽和蒸気圧より0.5〜5MPa高くするのが好ましく、1〜3MPa高くするのがより好ましい。改質工程における処理時間は特に限定されるものではないが、5分〜120分であることが好ましく、10分〜60分であることがより好ましい。処理時間は処理時間とのかね合いであり、処理時間が高ければ短い処理時間とし、処理温度が低ければ長い処理時間とすればよい。改質工程は、オートクレーブなどを用いたバッチ処理であってもよく、1つ又は2以上の反応帯域からなる連続式反応装置であってもよい。
【0021】
改質工程により得られる改質反応物は、分離工程において、固体成分と液体成分とに分離される。分離工程では、固体成分が液体成分から分離され、水分量が多い場合には必要に応じて加熱乾燥される。分離工程により、バイオマス由来の炭化物が固体成分として得られる。
【0022】
本発明は、このような多孔質材に吸着させた二酸化炭素をバクテリアおよび/または植物と共存させて、それらの体内で有機物に変換させる二酸化炭素の固定化方法である。大気中の二酸化炭素濃度は極めて希薄なので、バクテリアの作用や植物の光合成作用を利用することにより固定化する方法が好適である。火力発電所などの排ガス、製鉄所副生ガス、廃プラスチックや木質系バイオマスの燃焼排ガスのような高濃度の二酸化炭素を多孔質材に吸着させてもよい。
【0023】
多孔質材には二酸化炭素を吸着することができ、炭酸同化バクテリアを多孔質材に担持させ、または多孔質材の近くに生育させて共存させる場合には、多孔質材に吸着した二酸化炭素をバクテリアの作用により有機物に変換することができる。多孔質材に吸着されていた二酸化炭素が消費されると、多孔質材には、また新たな二酸化炭素を吸着することができるので、継続的な二酸化炭素の吸着を期待することができるとともに、多孔質材の吸着材としての再生または継続使用が可能となる。このようにして、特別な操作等を必要とせず、大気中の二酸化炭素を容易に除去・固定化することができる。多孔質材の吸着能力が孔質の崩れ、詰り、バクテリアの減少、拡散などで低下したとき、新たな多孔質材を散布することにより、二酸化炭素の吸着能力を高め、固定化効率を高めることができる。
【0024】
一方、多孔質材を植物と共存させた場合には、多孔質材に吸着された二酸化炭素が炭酸イオンの形で雨水や地下水に溶解して土壌中に浸み込み、植物の根から吸収され、植物体内で光合成作用により有機物に変換されて固定化される。さらには、バクテリアおよび植物はそれぞれ大気中の二酸化炭素を吸収し、炭酸同化作用により体内に有機物として固定化することにより、大気中の二酸化炭素濃度を低減させることができる。
【0025】
本発明において、植物としては特に限定されるものではないが、根からの炭酸イオンのより迅速な効率よい吸収、固定という観点からは、根が発達しやすい植物や成長の早い植物が好適である。このような植物としては、例えば、オオムギ、アルファルファ、セスバニア、テンサイ、ナタネ、ソバ、イチリンソウ属(イチリンソウ、ニリンソウ、、キクザキイチゲ、アズマイチゲ)、カタクリ、クレマチス、デルフィニューム、スイトピー、カスミソウ、Afriplex vesicaria(潅木)、Haloxylon ammmodendron(潅木)、麻黄(ヤダチマオウ、シナマオウ、フタンタマオウ)、スギナ等を挙げることができる。
【0026】
これらの方法において、多孔質材として、バイオマス由来の炭化物を用いると、多孔質材そのものがバイオマスに固定された二酸化炭素に由来するから、大気中の二酸化炭素の除去または固定化に極めて効果的ということができる。
【0027】
本発明において、共存させるバクテリアとしては、水素細菌、硫黄細菌、硝酸細菌、亜硝酸細菌、鉄細菌などの独立栄養細菌が好ましい。これらは細胞内の全ての有機代謝物質を二酸化炭素を還元して合成し、一切栄養素として有機物を要求しないので二酸化炭素の固定化に好適である。後記する光合成細菌を用いることもできる。
【0028】
多孔質材とバクテリアとの共存は、例えば、多孔質材にバクテリアを担持させ、あるいは多孔質材とバクテリアを同時に、土壌表面に散布したり、土壌中にすき込むことにより、行うことができる。多孔質材と植物との共存方法としては、例えば、植物の生育している土壌の表面に二酸化炭素を吸着した多孔質材を散布し、または土壌中に多孔質材をすきこむ(以下、両形態を含めて、「散布」または「土壌散布」という)方法を挙げることができる。バクテリアおよび植物との共存方法としては、例えば、バクテリアを付着させた多孔質材を散布した土壌に植物を生育させる方法、バクテリアと多孔質材をそれぞれ同じ土壌に散布し、その土壌に植物を生育させる方法などを挙げることができる。
【0029】
本発明は、また、植物有用成分および植物有用バクテリアのうち少なくとも1種を担持した多孔質材および/または二酸化炭素を吸着した多孔質材を散布した土壌に植物を生育させることを特徴とする植物の栽培方法を提供する。本発明においても前記発明と同様に、バクテリアの作用や植物の光合成作用を利用して二酸化炭素の有機物への変換による固定化または大気からの除去を行わせる。
【0030】
図1に本発明に係る植物の栽培方法の概略を示す。図1において、「炭化バイオマス」は多孔質材として好ましく使用されるバイオマス由来の炭化物を示す。
【0031】
図1に示すとおり、バイオマスを炭化して得られた炭化バイオマス(1)を、有用成分担持炭化バイオマス(2)、バクテリア担持炭化バイオマス(3)、有用成分およびバクテリア担持炭化バイオマス(4)または二酸化炭素を吸着した炭化バイオマス(5)とし、それらのいずれかをまたは併用して土壌表面に散布し(6)、または土壌中にすきこむ(7)。炭化バイオマスに担持された有用成分が徐放され、バクテリアの作用で土壌が活性化され(8)、それらを利用し、また大気中の二酸化炭素を光合成して植物が生育する。また、土壌散布されたそれぞれの炭化バイオマスはその後も二酸化炭素を吸着できる(9)。一方植物は、バクテリアが二酸化炭素を変換して生成した有機物(10)を根から吸収し、同時に大気中の二酸化炭素を吸収し、それらを体内に固定する(11)。なお、文中のカッコ内の番号は図1における円つき番号である。
【0032】
本発明を更に詳細に説明する。本発明において、多孔質材に担持させる植物有用成分としては、植物の生育に有用な肥料、例えば、窒素、リン、カリウム、ミネラル、アルギン酸などの多糖類、ビタミン、アミノ酸、植物成長ホルモン作用を有する天然物質、 などを挙げることができる。
【0033】
また、植物有用バクテリアとしては、植物の生育に有用なバクテリア(Effective Microorganisms)をいい、植物に有用な成分を産生し、または土壌を活性化するバクテリアを含む。植物有用バクテリアとして、二酸化炭素を主要な炭素源として利用する独立栄養細菌などのバクテリアを担持させると、バクテリアの作用により二酸化炭素が植物に利用されやすい有機物に変換されるため、二酸化炭素の固定化効率が向上し、好ましい。このようなバクテリアとしては、例えば、シアノバクテリア、紅色細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、ヘリアバクテリアなどの光合成細菌などの有用微生物群やアゾトバクターなどの窒素固定菌、VA菌根菌などの菌根菌を挙げることができる。
【0034】
これらの植物有用成分や植物有用バクテリアを担持させた多孔質材や二酸化炭素を吸着した多孔質材は、肥料や土壌改良材として農地や緑化対象地に散布される。担持させる有用成分の種類や濃度およびバクテリアの種類等は、散布場所や栽培される植物に応じて適宜選択することができる。これらを担持させる多孔質材は、植物有用成分と有用バクテリアを同時に担持させることができ、またそれぞれ別の多孔質材に担持させてそれらを併用して散布してもよい。さらにはいずれか一方のみを担持させて散布してもよい。さらには、前記した火力発電所などの排ガスのような高濃度の二酸化炭素を吸着させた多孔質材を散布してもよく、このような多孔質材と前記有用成分やバクテリアのうちの少なくとも1種を担持した多孔質材の少なくとも1種とを併用してもよい。
【0035】
植物有用成分や有用バクテリアの担持は、例えば、植物有用成分やバクテリアの水溶液または水分散液に多孔質材を浸漬し、または多孔質材にそれらの水溶液を散布するなどの方法により容易に行うことができる。このようにして担持させた多孔質材は湿ったまま、あるいは乾燥させて土壌散布することができる。湿った状態での散布は、より即効性が増し、一方、乾燥させると保存性が向上する。
【0036】
本発明においても、多孔質材としては、前記発明同様、バイオマス由来の炭化物が好ましく使用される。炭化物が土壌改良材として有用であることは古くから知られているが、植物有用成分は炭化物に担持させることにより、単独で散布した場合よりも、放出速度を調整することができるのでその作用を持続させることができる効果を併せて奏する。また、バクテリアを担持させた場合、バクテリアは既に繁殖の拠点に存在するため、より早く増殖し、効果を発揮することが可能となる。また、多孔質材に吸着された二酸化炭素は大気中、土壌中の二酸化炭素に比べて高濃度であり、容易にバクテリアや植物の作用を受ける。
【0037】
本発明において、多孔質材は土壌散布された後、担持している植物有用成分や吸着した二酸化炭素を徐放する一方で大気中または土壌中の二酸化炭素を継続的に吸着することができる。多孔質材に吸着された二酸化炭素は炭酸イオンとなって雨水などに溶解し、バクテリアまたは植物の根から吸収され、それらの体内で有機物に変換されて固定される。バクテリアの体内で変換され産生した有機物は水中に排出されると植物の根から吸収され、植物の養分となり、体内に固定される。多孔質材に担持した有用成分が消費され、二酸化炭素の吸着能力が低下したとき、新たな多孔質材を散布することにより、二酸化炭素の吸着能力を高め、固定化効率を高めることができる。
【0038】
バクテリアおよび植物は、多孔質材に吸着された二酸化炭素を利用すると同時に、それぞれ大気中または土壌中の二酸化炭素を吸収し、炭酸同化作用を行い、それぞれの体内に固定化する。本発明においては、植物は土壌散布された多孔質材に吸着された二酸化炭素、有用成分およびバクテリアの産生する有用な有機物のうちの少なくともいずれかを養分として利用するとともに、大気中の二酸化炭素を取り込み、光合成作用を促進させ、生育を促進される。
【0039】
本発明においては、前記のような多孔質材を散布した土壌にバクテリアおよび/または植物を生育させ、それらの作用を利用することにより、大気中の二酸化炭素の除去・固定化を、特別な操作、装置を用いることなく、低コストで、ゆっくりではあるが、容易に、しかも効率的に行い、植物を栽培することができる。さらには、成長した植物は環境緑化のために維持することができるほか、森林資源として、原料パルプ、バイオマスエネルギー等に有効利用することができる。
【0040】
また、前記発明と同様に、バイオマス由来の炭化物はバイオマスが固定した二酸化炭素に由来するから、バイオマス由来の炭化物を利用することは大気中の二酸化炭素の低減に貢献できることを意味する。また、固定化された炭素を自然界の炭素循環系に戻すこととなり、再資源化に有効であり、地球環境的にも好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、バイオマス由来の炭化物などの多孔質材に、二酸化炭素を吸着させたり、或いは植物有用成分および/または植物有用バクテリアを担持させたりして、これを散布した土壌に植物を生育させるので、地球環境保護に大いに役立つことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】請求項3記載の植物の栽培方法の概略を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材に吸着させた二酸化炭素をバクテリアおよび/または植物と共存させて、有機物に変換させることを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
前記多孔質材がバイオマス由来の炭化物である請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
植物有用成分および植物有用バクテリアのうちの少なくとも1種を担持した多孔質材および/または二酸化炭素を吸着した多孔質材を散布した土壌に植物を生育させることを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項4】
前記多孔質材がバイオマス由来の炭化物である請求項3に記載の植物の栽培方法。
【請求項5】
前記バイオマス由来の炭化物が、植物由来炭化物、動物由来炭化物、食物由来炭化物および活性炭の少なくともいずれかである請求項4に記載の植物の栽培方法。
【請求項6】
前記植物由来の炭化物が、木、竹、草、ダム塵芥、籾殻、ヤシ殻、油糧植物の絞りかす、の少なくともいずれかの炭化物である請求項5に記載の植物の栽培方法。
【請求項7】
前記動物由来の炭化物が、家畜糞の炭化物である請求項5に記載の植物の栽培方法。
【請求項8】
前記食物由来の炭化物が、生ゴミまたは食品工場廃棄物のいずれかの炭化物である請求項5に記載の植物の栽培方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−112669(P2007−112669A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306608(P2005−306608)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】