説明

五徳縫い水防工法およびそれに用いられる管状部材

【課題】五徳縫い水防工法に用いられる杭部材の打ち込みを容易にすること。
【解決手段】五徳縫い水防工法において、亀裂1の周囲の法面2に杭部材10を打ち込む前に、管状部材20を打ち込んで打ち込み用孔19を形成し、その後杭部材10を打ち込んで五徳縫い水防工法を実施する。管状部材20は、先端部21がその軸方向と直交する方向に対して斜めに切り取られた形状を有して形成され、後端部22には、打ち込みの際の強度を高めるための補強部材23が接合された構造を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水防工法およびそれに用いられる管状部材に関し、特に五徳縫いと呼ばれる水防工法およびそれに用いられる管状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
河川の堤防などの法面に生じた亀裂対策の水防工法として、いわゆる五徳縫い水防工法が知られている。この五徳縫い水防工法においては、亀裂が生じた法面に対して亀裂箇所を囲むように竹などからなる杭部材を打ち込み、この杭部材を地中深くに到達させる必要がある。このような杭部材を地中に打ち込むものとしては、多目的留杭(例えば、特許文献1(第1−3頁、第1−3図)参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−71242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されている従来技術の多目的留杭では、杭部材の他に当り金、ハンドル、落下分銅、引綱、引き上げバネ、アタッチメント等の各部材が必要となるため、構成が複雑となるとともにコストがかかるという問題がある。
【0005】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、五徳縫い水防工法に用いられる杭部材の打ち込みを容易に行うことができるようになる五徳縫い水防工法およびそれに用いられる管状部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる五徳縫い水防工法は、法面に生じた亀裂の拡大を防止する五徳縫い水防工法において、前記法面に杭部材を打ち込む工程に先立って、前記法面にあらかじめ管状部材を打ち込んで前記杭部材の打ち込み用孔を形成する工程を備えたことを特徴とする。
【0007】
この発明にかかる五徳縫い水防工法において、前記打ち込み用孔を形成する工程は、例えば紐状部材を前記管状部材に結び付ける工程と、この工程にて結び付けられた紐状部材を前記管状部材を作用点とする少なくとも一の直線方向に均等な力で引っ張り、前記管状部材を前記法面に対して打ち込み可能に立接させる工程と、この工程で立接された管状部材を前記法面下の地盤に対し所定深さまで打ち込む工程と、この工程で打ち込まれた管状部材を前記法面上に引き抜く工程とを含むように構成するようにしてもよい。
【0008】
この発明にかかる管状部材は、上記発明にかかる五徳縫い水防工法に用いられる管状部材であって、軸方向と直交する方向に対して先端部が所定の角度で斜めに切り取られた形状を有することを特徴とする。
【0009】
この発明にかかる管状部材において、前記先端部と軸方向の反対側に位置する後端部に、補強部材が接合されており、前記補強部材を含めた全体の表面に防錆処理が施されているように構成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、五徳縫い水防工法に用いられる杭部材の打ち込みを容易に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】五徳縫い水防工法の概要を説明するための説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる五徳縫い水防工法に用いられる管状部材を説明するための説明図である。
【図3】同五徳縫い水防工法の作業工程の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面を参照して、この発明にかかる五徳縫い水防工法およびそれに用いられる管状部材の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は、五徳縫い水防工法の概要を説明するための説明図である。また、図2は、本発明の一実施形態にかかる五徳縫い水防工法に用いられる管状部材を説明するための説明図である。さらに、図3は、同五徳縫い水防工法の作業工程の例を示すフローチャートである。
【0014】
図1に示すように、五徳縫い水防工法は、堤防などの法面2や法先などに生じた亀裂1の拡大や、法面2そのものの崩壊などを防止するために施される水防工法である。この五徳縫い水防工法においては、亀裂1の周囲に竹などの弾性力を有する杭部材10が、三角形状あるいは四角形状で各辺が1mm位の間隔となるように打ち込まれて設置されている。
【0015】
このとき、杭部材10の法面2下の地盤内への設置深さは、亀裂1の状態などにより適宜決定されるが、例えば30cm〜40cm位となるように設定されている。各杭部材10は、法面2上の高さ1.2m〜1.5m位のところで、かつ各杭部材10の撓み方が均等となる箇所にてロープ11により一つに束ねられている。
【0016】
また、各杭部材10が束ねられた箇所の上には、おもりとしての土嚢12が設置される。このように、五徳縫い水防工法は、亀裂1の拡大等を杭部材10の弾性力で抑えるようにした水防工法である。なお、法面2や地盤が軟弱な状態のときは、各杭部材10の法面2への設置箇所上に、補強用の土嚢13をさらに設置して施工箇所の強度を確保するようにしている。
【0017】
ここで、法面2に打ち込まれる杭部材10は、例えばその先端が斜めに切り取られた形状で構成され、法面2および地盤へ打ち込みやすくするための工夫がなされているのが一般的である。しかし、地盤が固い場合や法面2が軟弱すぎる場合などには、その打ち込み容易性が極端に低下し、多人数(例えば、10人前後)で施工作業を行ったとしても、多大な打ち込み力が要求されたりと、大変な重労働となる場合があった。
【0018】
そこで、本実施形態にかかる五徳縫い水防工法では、法面2に杭部材10を打ち込む工程に先立って、法面2の杭部材打ち込み箇所に、あらかじめ図2に示す管状部材20を打ち込んで、杭部材10の打ち込み用孔19(図1参照)を形成する工程を実施するようにしている。
【0019】
これにより、地盤が固い場合や法面2が軟弱すぎる場合などであっても、杭部材10の法面2への打ち込みを多大な打ち込み力を要求されずに容易に行うことができるようになり、各杭部材10を確実に打ち込み用孔19内に設置して、五徳縫い水防工法の施工作業を容易化することができるようになる。
【0020】
打ち込み用孔19を形成するための管状部材20は、図2に示すように、円柱状あるいは筒状に形成された一般構造用炭素鋼鋼管(例えば、JIS G 3444/STK500)などの金属材料からなり、その軸方向と直交する方向に対して先端部21が斜め45°あるいは60°に切り取られた形状を有している。
【0021】
また、管状部材20は、先端部21と軸方向の反対側に位置する後端部22に、一般構造用圧延鋼材(例えば、JIS G 3101:2004/SS400)などの金属材料からなり、打ち込みの際の強度を高めるための補強部材23が、全周溶接等により接合された構造からなる。なお、この管状部材20の補強部材23を含めた全体の表面には、例えば防錆剤が塗布されるなどして、防錆処理が施されている。
【0022】
この管状部材20は、具体的には、五徳縫い水防工法の施工作業の容易性を考慮して、その重量が5kgとなっており、先端部21から補強部材23までの長さが約800mm、直径φが約50mmとなるように成形され、筒状に形成された場合はその周壁の厚さが約2.5mmで、補強部材23の軸方向の厚さtは約8.5mmとなっている。
【0023】
このように構成された管状部材20を用いた五徳縫い水防工法は、例えば次のように実施される。図3に示すように、まず、亀裂1の周囲の法面2上にて、杭部材10の打ち込み箇所を決定する(ステップS101)。地盤が固い場合は先端角度60°、それよりも軟弱な場合は先端角度45°の管状部材20を用いる。次に、管状部材20の後端部22の近傍位置に、ロープ11を結び付けて固定する(ステップS102)。
【0024】
ここで、ロープ11を管状部材20に固定する方法としては、いわゆる固め止め結びや杭結び(パイル・ヒッチ)を用いることができる。固め止め結びは、(1)一本のロープ11を管状部材20の周方向に一巻きし、(2)巻いた部分を少し弛ませて、弛ませた部分を環状となるように保持したまま一方のロープ11の上方から下方を通って一回転くぐらせ、(3)くぐらせた部分の環状箇所を上方に返して管状部材20にかけて、ロープ11の両端をそれぞれ一の直線方向の両側に引っ張ることにより行うことができる。
【0025】
また、杭結びは、(1)あらかじめロープ11を二つ折りにし、(2)そのまま二重となった状態でロープ11を折り返し部分が一方の二重ロープ11の下方側を通るように管状部材20の周方向に一巻きし、(3)折り返し部分を上方側に戻して環状にした状態で管状部材20にかけて、ロープ11の両端を管状部材20に対する一の方向に引っ張ることにより行うことができる。
【0026】
こうして、ロープ11を管状部材20に固定したら、管状部材20を法面2の打ち込み箇所上に、先端部21が法面2に接した状態のまま立たせ(立接させ)る(ステップS103)。このステップS103においては、上述した固め止め結びや杭結びによってロープ11が管状部材20に固定されているため、例えば作業人数が二人の場合は、管状部材20を作用点とする一の直線方向の両側に均等な力で引っ張ることにより、管状部材20を立接させることが可能となる。
【0027】
なお、作業人数が四人の場合は、上述した固め止め結びや杭結びを、それぞれ管状部材20に対して二回行うことにより、管状部材20を作用点とする一の直線方向の両側、およびこの一の直線方向と異なる他の直線方向の両側の四方向にそれぞれ均等な力で引っ張ることにより、管状部材20を立接させることができる。
【0028】
その後、管状部材20を立接させた状態のまま、ハンマーなどを用いて補強部材23を叩くことにより管状部材20を杭部材10の打ち込み箇所に30cm〜35cm程度打ち込み(ステップS104)、打ち込んだ管状部材20を引き抜くことによって(ステップS105)、法面2から地盤にかけて杭部材10の打ち込み用孔19を形成する。
【0029】
そして、すべての打ち込み箇所に打ち込み用孔19を形成したか否かを判断し(ステップS106)、形成していないと判断した場合(ステップS106のN)は、上記ステップS103に移行してその後の工程を実施するとともに、形成したと判断した場合(ステップS106のY)は、上述した五徳縫い水防工法を実施して(ステップS107)、本フローチャートによる一連の工程を終了する。
【0030】
以上述べたように、本実施形態にかかる五徳縫い水防工法およびそれに用いられる管状部材20によれば、五徳縫い水防工法に用いられる杭部材10の打ち込みを容易に行うことができるようになり、五徳縫い水防工法の施工作業を容易化することができるようになる。
【符号の説明】
【0031】
1 亀裂
2 法面
10 杭部材
11 ロープ
12,13 土嚢
19 打ち込み用孔
20 管状部材
21 先端部
22 後端部
23 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に生じた亀裂の拡大を防止する五徳縫い水防工法において、
前記法面に杭部材を打ち込む工程に先立って、前記法面にあらかじめ管状部材を打ち込んで前記杭部材の打ち込み用孔を形成する工程を備えた
ことを特徴とする五徳縫い水防工法。
【請求項2】
前記打ち込み用孔を形成する工程は、
紐状部材を前記管状部材に結び付ける工程と、
この工程にて結び付けられた紐状部材を前記管状部材を作用点とする少なくとも一の直線方向に均等な力で引っ張り、前記管状部材を前記法面に対して打ち込み可能に立接させる工程と、
この工程で立接された管状部材を前記法面下の地盤に対し所定深さまで打ち込む工程と、
この工程で打ち込まれた管状部材を前記法面上に引き抜く工程とを含む
ことを特徴とする請求項1記載の五徳縫い水防工法。
【請求項3】
請求項1または2記載の五徳縫い水防工法に用いられる管状部材であって、
軸方向と直交する方向に対して先端部が所定の角度で斜めに切り取られた形状を有する
ことを特徴とする管状部材。
【請求項4】
前記先端部と軸方向の反対側に位置する後端部に、補強部材が接合されており、
前記補強部材を含めた全体の表面に防錆処理が施されている
ことを特徴とする請求項3記載の管状部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−111825(P2011−111825A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270206(P2009−270206)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(504469721)常陽建設株式会社 (1)
【Fターム(参考)】