説明

亜鉛めっき加工用後処理剤およびこれを用いて表面処理した亜鉛めっき加工材

【課題】鋼管、道路(ガードレールや支柱)、グレーチング、橋梁、鉄塔、鉄道公舎、継ぎ手など主には屋外で使用される建材に用いられる亜鉛めっき加工材の表面外観を損なわない皮膜処理外観を得て、耐食性や後工程での化成反応性を付与でき、かつクロムを含まない環境に優しい皮膜を形成させる為に用いる後処理剤並びにそれを用いて表面処理した亜鉛めっき加工材を提供する。
【解決手段】ジルコニウム、チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(A)と、バナジウム、モリブデン、タングステンから選ばれる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(B)と、リンから選ばれる無機化合物(C)とを含有し、その配合比を限定した後処理剤および後処理剤によって皮膜処理した亜鉛めっき加工鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき加工を施した鋼材の表面に処理した後でも仕上がり外観を損なうことなく、耐食性や後工程での化成反応性を付与でき、かつクロムを含まない環境に優しい皮膜を形成させる為に用いる後処理剤並びにそれを用いて表面処理した亜鉛めっき加工材に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっきは鋼材に耐久性をもたせ、長寿命化させる一般的な方法である。すなわち、耐食性向上を目的に施されているものであるが、このめっき自体は大気中の酸素、水分、排気ガス成分、等によって酸化腐食され、外観上は亜鉛の白錆が発生し、最終的には鉄の赤錆が発生する。鋼材の耐久性以外、亜鉛の白錆を少しでも遅延させる一時防錆性が重要となる。この一時防錆性とは耐久性はもとより、亜鉛めっきの外観を白錆の発生で損なわせない意匠性も含めて考えられている。亜鉛めっきの腐食を防止する方法として、従来、クロメート処理と呼ばれる6価クロムを主体とする処理が施されてきた。クロメート処理自体はめっきに対して優れた耐食性を発揮するものであるが、昨今の環境負荷物質である6価クロムを含んでいる為、家電分野を中心としたRoHS指令(家電、コンピューター、通信機器などの電気電子機器類について有害な化学物質の使用を禁止するという欧州理事会指令)、自動車分野を中心としたELV指令(使用済自動車に関する欧州理事会指令)、などにより有害物質の使用を控える、もしくは禁止する動きになっている。
【0003】
一方、家電や自動車分野以外で主には建築分野ではRoHS指令やELV指令という規制がない為、現段階、6価クロムを使用している。しかしながら、環境保全の気運が日々強まっており、自主的に環境負荷物質の使用を控える動きが見られるようになってきた。また、亜鉛めっき加工材を扱う建築分野においては、橋梁、送電鉄塔、道路外壁等に使用され、材料の締結方法として高力ボルト摩擦接合が一般的である。この方法は、接合面のすべり係数が大きい程、材料の狂いは少なく、安全である。そのため、亜鉛めっき加工材には接合面に化成処理を施し、すべり係数を大きくしている。この化成処理は、りん酸塩処理を指す。亜鉛めっき上に絶縁性の高い皮膜やりん酸塩の形成を阻害するような皮膜が存在すると亜鉛めっき上に結晶状のりん酸塩皮膜を形成させることができず、結果的に接合時にボルトが適切に締結できない。また、締結した場合でも施工後にボルトが緩み易くなり、安全性に問題をきたすことがある。この化成処理は施工時に簡易的に塗布型りん酸塩の処理剤をスプレーや刷毛塗り処理をして、表面粗さを付与するものである。そこで、すべり係数を高くするよう後処理剤により、適度な皮膜を形成させる必要がある。
【0004】
もう1つ、亜鉛めっき加工材を後処理剤で表面処理する場合、通常、浸漬処理することが殆どである。この浸漬処理では、後処理槽から亜鉛めっき加工材を引き上げて自然乾燥することが多く、仕上がり外観において亜鉛めっきの外観を損なわないことが重要である。すなわち、意匠性という観点から、後処理後の外観を可能な限り均一にする技術が必要なのである。
【0005】
6価クロムを含まない処理液を用いる方法としては、特開2003−147544号公報には、pHが2.5〜7.0で3価クロム及びフッ素化合物を含有する処理液が開示されているが、この方法では6価クロムと比較すると耐食性が劣るという欠点を有している。
【0006】
クロム化合物自体を含まない処理液を用いる方法としては、特開平10−60233号公報には、特定構造の変性ビスフェノールAエポキシ樹脂又はその誘導体を含有する水性防錆剤を鋼板上に塗布した後に加熱、乾燥させる方法、特開2002−146554号公報には、亜鉛めっき鋼材の表面にバナジン酸塩及び水溶性アクリル樹脂を含有する水溶液を接触させて鋼材表面を防食する方法、等が開示されているが、これらの方法では我々が求めている後工程での化成反応性が不十分であった。また、浸漬処理した場合の皮膜処理外観は均一にならず、亜鉛めっきの色調を損なう。
【0007】
特開平8−35084号公報には、金属面に接触する水溶液に添加する金属防錆剤であって、リン酸三ナトリウム(無水):10〜20w/v%、重合リン酸塩:5〜15w/v%及び1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸:10〜15w/v%の水溶液にリン酸を加えてpH:5〜7に調整した金属防錆剤が開示されているが、この方法では6価クロムと比較すると耐食性が劣るという欠点を有している。
【0008】
特開2006−9121号公報には、(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液の固形分100質量部に基づいて、(B)有機リン酸化合物1〜400質量部、(C)水溶性又は水分散性有機樹脂を固形分で10〜2,000質量部、(D)バナジン酸化合物1〜400質量部、(E)弗化ジルコニウム化合物1〜400質量部及び(F)炭酸ジルコニウム化合物1〜400質量部を含有してなることを特徴とする金属表面処理組成物が開示されているが、この方法では耐食性と後工程での化成反応性の両立が難しかった。
【0009】
特許3851106号公報には、少なくとも1種のバナジウム化合物(A)と、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン及びセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(B)とを含有することを特徴とする金属表面処理剤、物性のさらなる改良のために、5価バナジウムイオンの全バナジウムに対する割合を規定したり、特定官能基を有する有機化合物やエッチング材や水溶性高分子または/及び水系エマルション樹脂を含有させることを特徴とする金属表面処理方法及び表面処理金属材料と開示されている。この方法では亜鉛めっき加工材の表面処理後の皮膜外観を均一にして耐食性を付与しつつ、すべり係数が0.4以上とすることの両立が難しかった。
【0010】
従って、亜鉛めっき加工を施した鋼材に後処理し、均一な皮膜外観、優れた耐食性を発揮し、後工程での化成反応性の全てを満足でき、かつクロムを含まない皮膜を形成させる為に用いる後処理剤が得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−147544号公報
【特許文献2】特開平10−60233号公報
【特許文献3】特開2002−146554号公報
【特許文献4】特開平8−35084号公報
【特許文献5】特開2006−9121号公報
【特許文献6】特許3851106号公報
【特許文献7】特開2004−232040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術の抱える問題を解決するためのものであって、鋼管、道路(ガードレールや支柱)、グレーチング、橋梁、鉄塔、鉄道公舎、継ぎ手など主には屋外で使用される建材に用いられる亜鉛めっき加工材の表面外観を損なわない皮膜処理外観を得て、耐食性や後工程での化成反応性を付与でき、かつクロムを含まない環境に優しい皮膜を形成させる為に用いる後処理剤並びにそれを用いて表面処理した亜鉛めっき加工材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、特定の化合物を必須成分とし、その配合比を限定した後処理剤を用いて亜鉛めっき加工鋼材を処理することにより、仕上がり外観を損なうことなく、耐食性や後工程での化成反応性を持つ皮膜が得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、ジルコニウム、チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(A)と、バナジウム、モリブデン、タングステンから選ばれる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(B)と、リンから選ばれる無機化合物(C)とを含有し、且つ、化合物の質量比がA/(B+C)=0.8〜4.5、B/(A+C)=0.15〜0.7であって、pH7〜11からなる亜鉛めっき加工用後処理剤に関する。また、化合物(A)がジルコニウム化合物であり、さらには化合物(B)がバナジウム化合物であり、4価バナジウム化合物である亜鉛めっき加工用後処理剤であることが好ましい。また、珪素化合物(D)を更に含有し、化合物の質量比がD/(A+B+C)=0.1〜5.0であることが好ましく、有機ホスホン酸およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物(E)を更に含有し、化合物の質量比がE/(A+B+C)=0.05〜5.0であることが好ましく、アニオン性若しくはノニオン性を有する水性樹脂化合物(F)を更に含有し、化合物の質量比がF/(A+B+C)=0.01〜3.5であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は亜鉛めっき加工材の表面を該後処理剤で処理した亜鉛めっき加工材に関する。さらに、温度が20〜80℃である該後処理剤を接触させて表面処理することが好ましく、表面処理した後、水洗いをせずに皮膜を形成させることが好ましい。
【0015】
また、亜鉛めっきの表面に該後処理剤を接触させて表面処理した後の処理外観が、処理前と同じめっき外観を有する亜鉛めっき加工材に関する。また、片面の亜鉛めっき付着量が80〜1000g/mであり、該後処理剤を接触させて表面処理した後に更にりん酸塩化成処理された後のすべり係数が0.4以上である亜鉛めっき加工材に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の後処理剤を用いて表面処理することにより、亜鉛めっき加工材の表面外観を殆ど変えずに仕上がりの良好な皮膜処理外観が得られ、耐食性、後工程での化成反応性を付与でき、かつクロムを含まない環境に優しい皮膜を形成させることができる。化合物(A)は亜鉛めっきの上に皮膜形成されるときにめっき界面で反応して難溶性の塩を形成すると同時に金属酸化物のネットワークを形成し、バリア性の高い皮膜を得る。これによって耐食性を向上できる。しかしながら、この効果のみでは不十分であるため、酸化力が高い金属化合物(B)を含有させて亜鉛めっきの表面を不活性化させることができ、防錆力を補強することができる。また、界面に不溶性の金属塩を形成することができる。これによって実用レベルの耐食性を発揮することが可能となる。さらには皮膜形成時に亜鉛めっきのエッチングを抑制することで亜鉛のエッチングによる皮膜処理外観の白ムラを抑制することができる。化合物(C)は、後工程ですべり係数調整を行うための化成処理性のコントロールで必要となる。特に形成する皮膜と酸性の化成処理剤が接触したときに、皮膜の一部を流去させ、化成処理剤に含まれるリン酸塩の結晶粒子を形成させて粗さを持たせる。皮膜の流去性が乏しいと、リン酸塩の形成が不十分となり、所望のすべり係数が得られない。本発明の化合物(A)、(B)および(C)の効果、作用の詳細についてはさらに後述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に用いるジルコニウム或いはチタンを含む化合物(A)としては、酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸もしくは有機酸との塩などが挙げられる。例えば、ジルコニウム化合物としては、塩基性炭酸ジルコニウム{Zr(CO)(OH)}、水酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム{(CHCOZr}、炭酸ジルコニウムアンモニウム{(NH42[Zr(CO32(OH)2]}、炭酸ジルコニウムカリウム{K[Zr(OH)(CO]}、炭酸ジルコニウムナトリウム{Na[Zr(OH)(CO]}、ジルコニウムアセテート、ヘキサフルオロジルコニウム水素酸およびその塩、ジルコニアゾル等が挙げられる。
【0018】
チタン化合物としては、硫酸チタニル{TiOSO4}、チタンラクテート、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン{(C5722Ti[OCH(CH322}、乳酸とチタニウムアルコキシドとの反応物、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン{Ti(OCHCHCHCH[OCN(COH)}、チタンテトライソプロポキシド、ヘキサフルオロチタニウム水素酸およびその塩、チタニアゾル、酸化チタン等が挙げられる。
【0019】
ジルコニウム化合物とチタン化合物ではジルコニウム化合物の方が耐食性の点からより好ましい。さらにはジルコニウム化合物のなかでは、塩基性炭酸ジルコニウム及びその塩が特に好適である。例えば、塩基性炭酸ジルコニウム{Zr(CO)(OH)}、炭酸ジルコニウムアンモニウム{(NH42[Zr(CO32(OH)2]}、炭酸ジルコニウムカリウム{K[Zr(OH)(CO]}、炭酸ジルコニウムナトリウム{Na[Zr(OH)(CO]}を用いるのが好適である。
【0020】
本発明に用いるバナジウム、モリブデン、タングステンを含む化合物(B)としては、酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸もしくは有機酸との塩などが挙げられる。例えば、バナジウム化合物としては、五酸化バナジウム{V25}、メタバナジン酸{HVO3}、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム{VOCl3}、三酸化バナジウム{V23}、二酸化バナジウム{VO2}、オキシ硫酸バナジウム{VOSO4}、バナジウムオキシアセチルアセトネート{VO(OC(CH3)=CHCOCH3)}2}、バナジウムアセチルアセトネート{V(OC(CH3)=CHCOCH33}、三塩化バナジウム{VCl3}、リンバナドモリブデン酸{H15−X[PV12−xMoxO40]・nH2O(6<x<12,n<30)}、硫酸バナジウム{VSO4・7H2O}、二塩化バナジウム{VCl2}、酸化バナジウム{VO}、しゅう酸酸化バナジウム{V(C)O}等が挙げられる。
【0021】
モリブデン化合物としては、モリブデン酸(H2MoO4)、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブドリン酸化合物(例えば、モリブドリン酸アンモニウム{(NH43[PO4Mo1236]・3H2O}、モリブドリン酸ナトリウム{Na3(PO4・12MoO3)・nH2O}、等が挙げられる。
【0022】
タングステン化合物としては、メタタングステン酸{H6(H21240)}、メタタングステン酸アンモニウム{(NH46(H21240)}、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸{H10(W124610)}、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸ナトリウム{NaHPMo12O・nHO}等が挙げられる。
【0023】
バナジウム化合物、モリブデン化合物、タングステン化合物では、バナジウム化合物が耐食性の点からより好ましく、4価のバナジウム化合物であることがより好ましく、4価のバナジウム錯化合物であることが特に好ましい。前記のバナジウム化合物で2価〜3価であると酸化力が小さく、4価と比べて耐食性を向上させる効果が小さい。また、5価であると酸化力は大きいが形成した皮膜に水が存在すると溶解しやすいため、腐食環境下で徐々に流去し、耐食性を向上させる効果が4価と比べて小さい。4価は酸化力があり、皮膜からの流去が5価より少ないといえる。これにより、耐食性において好適である。また、本発明の実施に際して列記する代表的なバナジウム化合物は少なくとも形成する皮膜に存在する量が過剰になると皮膜外観に黄色乃至褐色ムラが発生し、それを回避するために後処理剤に含有する配合量を少なくする必要がある。但し、4価はその影響が極めて小さい。すなわち、他の価数のバナジウム化合物と比べて存在量が多くても皮膜外観の黄色乃至褐色ムラが発生しにくいのである。また、酸化力が大きいと後処理剤が亜鉛めっき上で皮膜を形成するときに、後処理剤の亜鉛めっきに対するエッチングを抑制し、形成する皮膜の白化を抑制する。このような点から、バナジウム化合物は、モリブデン化合物やタングステン化合物より好ましく、更にはバナジウムの価数は4価以上が好ましい。すなわち、総合的に4価のバナジウム化合物が本発明に用いる化合物(B)のなかでは好適であるといえる。
【0024】
リンから選ばれる無機化合物(C)としては、無機リン酸及びその塩が好適である。例えば、オルトリン酸、メタリン酸、縮合リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサメタリン酸およびその塩が挙げられる。例えば、重リン酸マグネシウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸ヒドロキシルアンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸ニッケル、リン酸コバルト等が挙げられる。これらのなかでは、耐食性の観点から選ぶと、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムが好ましく、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸三アンモニウムがより好ましい。
【0025】
無機化合物(C)は化成反応性を発現させるために必要な成分である。本発明により形成された皮膜に無機化合物(C)が含有すると、摩擦係数を調整するために実施する化成反応性に有効である。無機化合物(C)、すなわちリン化合物が存在すると、酸性のリン酸塩処理剤に接触する(化成処理)とリン化合物の一部が皮膜から溶解することでリン酸塩の結晶が析出し易くなる。さらには、皮膜が溶解する過程で一部、亜鉛めっき表面が露出し、その部位でリン酸塩の結晶が析出し易くなる。無機化合物(C)はこのような作用によって必要となる。
【0026】
化成反応させた後に本発明の後処理材のすべり係数を測定することによって、厳密には化成反応性を判断できるが、簡易的には外観的にグレー色に変化することで判断することも可能である。後処理材が化成反応後にグレー色に変化することが好ましい。
【0027】
後処理剤に含まれる化合物(A)〜(C)の質量比について、A/(B+C)=0.8〜4.5とする必要がある。本範囲において、1.0〜4.0とすることが好ましく、1.2〜3.5とすることがより好ましい。本範囲は耐食性、化成反応性において重要である。本範囲を下回ると化合物(A)のもつ皮膜のバリア性が乏しくなり、耐食性が低下する。また、本範囲を超えると無機化合物(C)の溶解性が乏しくなり、化成反応性が低下する。同時に化合物(B)の溶解性が乏しくなり、耐食性が低下する。化合物(B)を適度に溶解させていくことが耐食性を発揮させるうえで重要となる。
【0028】
さらに、B/(A+C)=0.15〜0.7とする必要がある。本範囲において、0.15〜0.65とすることが好ましく、0.15〜0.6とすることがより好ましく、0.15〜0.4とすることが更に好ましい。化合物(B)そのものは着色し易い成分であるため、皮膜処理外観を良くするためには本範囲にする必要がある。本範囲を下回ると酸化力が乏しく、亜鉛めっき上に皮膜を形成するときに亜鉛のエッチングが大きくなり、皮膜処理外観に白色ムラがでてくる。また、本範囲を上回ると化合物(B)の存在量が多くなり、着色の影響度が大きくなる。そのため、黄色や褐色ムラの不具合が生じる。
【0029】
皮膜処理外観をさらに向上させるために、珪素化合物(D)を後処理剤に含有させることが好ましい。例えば、SiOを水に分散した湿式シリカゾルや乾式シリカゾル、SiO2・nMb2O(ここで、nは1〜5であり、Mbはアルカリ金属である)で示される無機珪素化合物、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリキシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリキシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン等のテトラ又はトリメトキシシラン等を挙げることができる。また、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン等のテトラ又はトリメトキシシラン等のテトラ又はトリメトキシシランと、グリシドールとの脱メタノール反応により得られるグリシジル基含有メトキシシランの部分縮合物であっても構わない。
【0030】
珪素化合物(D)の含有量について、質量比がD/(A+B+C)=0.1〜5.0の範囲であることが効果を発現させるうえで好ましい。本範囲を下回ると十分な効果が得られない。また、本範囲を超えると皮膜の連続性がなくなって脆弱となり、耐食性を低下させる場合がある。従って、皮膜処理外観を向上させるためには本範囲とするのが好適である。
【0031】
皮膜処理外観を向上させるために、有機ホスホン酸やリン酸エステルのいずれかの化合物(E)を後処理剤に含有させることが好ましい。当該化合物(E)を含有させると、化合物(B)とキレートすることで形成する皮膜の黄色乃至褐色の度合いを抑制することができ、皮膜処理外観が向上する。例えば、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸、2−ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミン−N,N,N´,N´−テトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミン−N,N,N´,N´−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン−N,N,N´,N´´,N´´−ペンタ(メチレンホスホン酸)、2−ホスホン酸ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、イノシトールヘキサホスホン酸、フィチン酸等の有機ホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1´−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、フィチン酸等の有機リン酸等が挙げられる。
【0032】
化合物(E)の含有量について、化合物の質量比がE/(A+B+C)=0.05〜5.0の範囲であることが効果を発現させるうえで好ましい。本範囲を下回ると十分な効果が得られない。また、本範囲を超えると皮膜の連続性がなくなって脆弱となり、耐食性を低下させる場合がある。従って、皮膜処理外観を向上させるためには本範囲とするのが好適である。
【0033】
耐食性を向上させるために、アニオン性若しくはノニオン性を有する水性樹脂化合物(F)を後処理剤に含有させることが好ましい。特に限定するものではないが、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。このなかでは、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂を用いるのがより好ましい。
【0034】
化合物(F)の含有量について、化合物の質量比がE/(A+B+C)=0.05〜5.0の範囲であることが効果を発現させるうえで好ましい。本範囲を下回ると十分な効果が得られない。また、本範囲を超えると耐食性の観点からは好ましいが、皮膜のバリア性が向上するために化成処理性が低下する。従って、耐食性を向上し、化成処理性を維持させるためには本範囲とするのが好適である。
【0035】
ここで、本発明に係る亜鉛めっき加工用後処理剤での必須成分である化合物(A)及び化合物(C)は、いずれもアンモニウム塩であることが好適である。そして、より好適な態様として、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)として、それぞれ塩基性炭酸ジルコニウムのアンモニウム塩(例えば炭酸ジルコニウムアンモニウム)、4価のバナジウム化合物、無機リン酸のアンモニウム塩(例えば、リン酸三アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム)を挙げることができる。その理由は、化合物(A)と化合物(C)のカウンターカチオンがアンモニウムイオンであると皮膜形成時に揮散するため、皮膜の連続性が失われにくくなる。そのため、耐食性や皮膜処理外観においては所望の性能が得やすい。
【0036】
本発明の後処理剤の液体媒体としては水が好適である。尚、液体媒体が水である場合、液体媒体として水以外の他の水系溶媒(例えば、後述するような水溶性のアルコール類)を含有していてもよい。また、液体媒体が水である場合、前述の必須成分である化合物(A)〜(C)は、典型的には溶解した状態で水中に存在している。但し、部分的に溶解していないものが存在していたり、分散状態(例えばコロイド状態)で存在している態様でもよい。
【0037】
本発明の後処理剤は、pH7〜11(好適にはpH7.5〜10、より好適には8〜9.5)とすることが屋外暴露での白ムラを防止するために必要である。酸性後処理の場合、後処理後に水洗しないと酸成分が残存して実使用下(本発明での実証では暴露試験)で後処理の皮膜処理材が、水分と酸成分によって亜鉛めっきが酸化、エッチングされることで亜鉛酸化物が生じたり、皮膜の連続性が失われることにより、白化する不具合が発生してしまうからである。更には、pHが高いと後処理剤と亜鉛めっきのエッチングが過多となり、白化が生じる。pHが低いと後処理安定性の確保が困難となる。加えて、長期の液安定性を維持するためにも必要である。pHが低い場合、形成した皮膜に水を介在させると酸成分が亜鉛めっきの表面の一部をエッチングし、耐食性の低下を招いてしまう。
【0038】
本発明の後処理剤は、後処理液の安定化のためにpH調整剤を添加しても良い。pH調整剤としては、特に限定するものではないが、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸、硫酸アンモニウム、塩酸、塩化アンモニウム等が挙げられる。
【0039】
本発明の後処理剤には、塗工性を調整する目的で増粘剤、レベリング剤、濡れ性向上剤、消泡剤、界面活性剤、水溶性のアルコール類、セロソルブ系溶剤等を含有しても構わない。また、防腐剤、抗菌剤、着色剤、傷付き防止剤、潤滑剤などを含有していてもよい。また、ベンゾトリアゾール、グアニジン系化合物、ヒンダードアミンなどを含有してもよい。尚、本発明の後処理剤は、タンニン酸、没食子酸など芳香環を有する有機酸をはじめとする有機酸を含有しないことが好適である。当該組成においてこのような有機酸が存在すると皮膜処理外観が悪くなる。尚、ここで、「含有しない」とは、「実質的に含有しない」を意味し、完全に含有していない場合のみならず、微量程度存在している場合をも包含する。
【0040】
本発明の処理剤は、化合物(A)と化合物(B)と化合物(C)の組み合わせにより、皮膜処理外観、耐食性と後工程の化成反応性を得ることができるが、これらの化合物を単に混合するだけではなく、公知の化学反応を用いて後処理剤を調整しても構わない。
【0041】
次に本発明の後処理剤の表面処理方法としては、特に限定するものではないが、めっき加工後の冷却工程で行う浸漬処理、スプレー処理、刷毛塗り処理、静電塗装処理、などが挙げられる。これらの処理に際して、鋼材表面に油分、汚れなどが付着している場合にはアルカリ脱脂剤、酸性脱脂剤で洗浄して、その後に湯洗もしくは水洗を行い、表面状態を清浄にする事が好ましい。尚、本発明の処理剤を適用する亜鉛めっき加工材のめっき加工方法や亜鉛以外のめっき成分としては特に限定するものではない。合金成分としてアルミニウム、マグネシウム、珪素等が含有しても構わない。
【0042】
また、亜鉛めっき加工材の形状については特に限定するものではないが、例えば、H鋼、ガードレール、コルゲートパイプ、建造物の柱や梁、防音壁支柱、標識柱、照明柱、大型の橋桁橋梁、跨線橋などの橋梁、鉄筋、電力鉄塔などに使用される架線金物やボルト・ナットなどの小物部品、太陽電池な小型風力発電装置の架台、屋外露出型鉄骨等、亜鉛めっき加工を施す全ての建築材料が挙げられる。
【0043】
後処理剤の乾燥方法としては、一番経済的なのはめっき加工後の予熱を利用する方法であり、亜鉛めっき加工材を浸漬して、そのまま放置する事により乾燥する事が出来る。すなわち、後処理後に水洗などの洗浄工程が一切必要ない。乾燥の際に亜鉛めっき加工材の表面に付着している水分を効率よく飛ばす為の風を送っても良い。また、生産効率を上げる為に後処理剤自体を加熱する事も可能である。その際の後処理剤の温度としては、特に限定するものではないが、20〜80℃が好ましく、30〜80℃がより好ましく、特に好ましくは35〜75℃である。処理工程上、亜鉛めっき加工後の予熱を利用するのが難しい場合には、後処理剤に含まれる水分を蒸発させることが出来る乾燥設備を利用するのが好ましい。その場合の乾燥設備としては、特に限定するものではないが、熱風乾燥設備、誘導加熱式乾燥設備、赤外線ヒーター乾燥設備、近赤外ヒーター乾燥設備、等が挙げられる。これら乾燥設備を用いた場合の乾燥温度としては、特に限定するものではないが、亜鉛めっき加工材表面の到達温度として40〜200℃であることが好ましく、より好ましくは40〜150℃である。
【0044】
後処理剤により形成される皮膜処理外観としては、表面処理方法、乾燥工程に関わらず、亜鉛めっきの外観を損なうことなく、均一な皮膜処理外観にすることが出来る。
【0045】
後処理剤により形成される皮膜は、化成反応後のすべり耐力(建築工事標準仕様書
JASS6 鉄骨工事による)で、本発明の後処理剤であればすべり係数が0.4以上となり、すべり耐力を得られることが出来る。
【0046】
処理剤により形成される皮膜の付着量としては、乾燥皮膜質量で0.05〜10g/mであることが好ましく、より好ましくは0.05〜5g/mである。乾燥皮膜質量が0.1g/m未満の場合には充分な耐食性が得られず、一方、10g/mを超える場合には皮膜にクラックが生じ皮膜自体の密着性が低下し、耐食性の低下を招く場合がある。また、皮膜処理外観も低下する場合がある。
【0047】
後処理剤の全固形分濃度としては、特に限定するものではないが、1〜500g/Lの範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜400g/Lである。処理剤の全固形分濃度が1g/L未満の場合には、耐食性が不十分であり、一方、500g/Lを超える場合には後処理剤により得られる皮膜にクラックが生じ皮膜自体の密着性が低下する場合がある。
【0048】
後処理剤の粘度としては、特に限定するものではないが、亜鉛めっき加工材を浸漬する事により、乾燥皮膜質量のバラツキが少なくなる範囲である事が望ましく、粘度(B型粘度計)としては500mPa・s以下である事が好ましく、より好ましくは250mPa・s以下であり、さらに好ましくは100mPa・s以下である。処理剤の粘度が500mPa・sを超える場合には、めっき加工建築材料を浸漬した後に引き上げた際に液溜まり部が発生しやすく、また、乾燥皮膜質量のバラツキが大きくなるので好ましくない。
【実施例】
【0049】
次に実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本実施例は単なる一例であり、本発明を限定するものではない。実施例、比較例において使用した亜鉛めっき鋼材、化合物、後処理剤、後処理剤にて表面処理した亜鉛めっき鋼材、評価方法は次の通りである。
【0050】
1.素材
使用した素材を以下に記す。通常、建築材料用亜鉛めっき加工品は形状物であることが殆どであるが、本試験においては板を素材として用いた。なお、素材の形状が変わっても、本発明が発現する効果については何の影響も及ぼさない。

a:溶融亜鉛めっき鋼板(JIS H 8641 HDZ35に準ずる)、スパングル小
寸法:700mm×150mm×1.6mm(板厚)両面めっき付着量360g/m
b:溶融亜鉛めっき鋼板(JIS H 8641 HDZ55に準ずる)
寸法:700mm×150mm×6mm(板厚) 両面めっき付着量720g/m
c:溶融亜鉛めっき鋼板(市販品)
寸法:700mm×150mm×1mm(板厚) 両面めっき付着量160g/m

【0051】
2.化合物
使用した化合物(A)を以下に記す。
A1:炭酸ジルコニウムカリウム
A2:炭酸ジルコニウムアンモニウム
A3:ジルコニアゾル
A4:ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン
A5:チタンラクテートアンモニウム塩
【0052】
使用した化合物(B)を以下に記す。
B1:メタバナジン酸アンモニウム
B2:バナジルアセチルアセトナート
B3:オキシ蓚酸バナジウム
B4:モリブデン酸アンモニウム
B5:メタタングステン酸アンモニウム
【0053】
使用した化合物(C)を以下に記す。
C1:リン酸三アンモニウム
C2:リン酸水素ニアンモニウム
C3:ピロリン酸ソーダ
【0054】
使用した化合物(D)を以下に記す。
D1:コロイダルシリカ
D2:気相シリカ
D3:3−グリキシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0055】
使用した化合物(E)を以下に記す。
E1:1−ヒドロキシエチリデン1、1−ジホスホン酸アンモニウム
E2:ニトリロトリス(メチレンホスホン酸アンモニウム)
E3:2−ホスホンブタントリカルボン酸アンモニウム
【0056】
使用した化合物(F)を以下に記す。
F1:アクリル樹脂(日本触媒(株)製、アクアリックHL)
F2:アクリル樹脂(昭和高分子(株)製、ポリゾールAP−1058)
F3:ウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックスE2500)
F4:エチレンアクリル酸共重合物(東邦化学(株)製、ハイテックS3121)
【0057】
3.後処理剤
後処理剤の詳細を表1に示す。処理液は、脱イオン水に化合物(A)〜(F)を順次添加し、固形分濃度を15g/Lになるように調整して製造した。(A)〜(F)添加毎にそれぞれ30分間プロペラ攪拌機で撹拌した。
【0058】
4.処理材の作製方法
処理材の作製方法を以下に記す。
(1)脱脂
素材の表面を清浄にするため、日本パーカライジング(株)製ファインクリーナーFC−315(20g/L建浴、60℃、30秒スプレー、浸漬)で素材の表面に付着した汚れを除去した。続いて、流水中に10秒浸漬し、更に75℃の温水に30秒間浸漬し、自然乾燥した。これにより、亜鉛めっき表面を清浄にした。
(2)本発明の処理剤の処理方法
処理I:60℃に加温した処理剤に素材を1分間浸漬した後に取り出し、吊り下げた状態で自然乾燥した。
処理II:20℃に加温した処理剤に素材を1分間浸漬した後に取り出し、吊り下げた状態で自然乾燥した。
処理III:80℃に加温した処理剤に素材を1分間浸漬した後に取り出し、吊り下げた状態で自然乾燥した。
後処理剤は素材表面に後処理剤が付着するウエット量を精密天秤により計算すると、ウエット量は片面で25g/mであった。その為、後処理剤した後の乾燥皮膜量は0.4g/mと計算できる。
【0059】
5.評価方法
(1)皮膜処理外観
処理剤により形成される皮膜の処理外観を目視評価した。
評価基準: ○以上は実用レベル
◎+:めっき外観とほぼ同じであり、皮膜処理後も殆ど変化しない
◎:めっき外観とほぼ同じであるが、目視する角度によっては極僅かに色調ムラがある。
○:めっき外観とほぼ同じであるが、極僅かに色調ムラがある程度である。
△:めっき外観と異なる部位があり、その部位が薄く白色或いは黄色である。
×:めっき外観と異なる部位が多く、明らかに白色或いは黄色である。
(2)塩水噴霧試験
JIS−Z−2371に基づき塩水噴霧試験を行い、24時間後の白錆発生面積で評価した。
評価基準:白錆発生面積 ○以上は実用レベル
◎+:5%未満、◎:5%以上10%未満、○:10%以上30%未満
△:30%以上60%未満、×:60%以上
(3)屋外暴露試験
屋外に30日間、暴露放置した後の白錆発生状況を調べ、白錆発生面積で評価した。
評価基準:白錆発生面積 ○以上は実用レベル
◎+:白錆発生なし、◎:薄白錆が1%未満、○:白錆1%未満
△:白錆1%以上5%未満、×:5%以上
(4)化成反応性
(4)−1 外観変化
日本パーカライジング(株)製リン酸塩処理用化成薬剤パルボンドL15C(A剤250g/L+B剤250g/L、30℃、刷毛塗り)で処理した後に5分間放置し、刷毛塗り部分の表面状態で評価した。変色面積が高いほど概後処理剤で形成された皮膜がリン酸塩処理によって部分的に溶解し、且つリン酸塩皮膜が形成されてグレー色の色調を呈する。
評価基準:刷毛塗り部分のグレー変色面積 ○以上は実用レベル
◎+:100%、◎:95%以上100%未満、○:80%以上95%未満
△:50%以上80%未満、×:50%未満
(4)−2 すべり係数
(4)−1項で化成処理したグレー変色部位を対象に、すべり耐力試験(建築工事標準仕様書 JASS6 鉄骨工事による)ですべり係数を算出した。
評価基準:すべり係数 ○は実用レベル
○:0.40以上、×:0.39未満
【0060】
実施例及び比較例で用いた後処理剤の内容を表1に示す。また、処理材の評価結果を表1に示す。本発明の化合物(A)と化合物(B)を含有する処理剤(実施例1〜31)から形成された皮膜処理材は、皮膜処理外観、耐食性(塩水噴霧試験、屋外暴露試験)及び化成反応性(化成後外観、すべり係数)を示すことが判る。これに比べて、化合物(A)、化合物(B)もしくは化合物(C)を含まない比較例1〜3はいずれかの性能が劣っている。また、本発明の範囲外になる比較例4〜8や特許文献に示される比較例9〜10もいずれかの性能が劣っている。また、クロメート処理である比較例11はいずれの性能も満足するが、6価クロムを含有しているため環境保全という観点からは好ましくない。
本発明の後処理剤はクロムを含まない環境に優しい処理液であり、本発明の後処理剤により亜鉛めっき加工材に表面処理された亜鉛めっき加工材は皮膜処理外観、耐食性、化成反応性、すべり耐力を併せ持っており、本発明の後処理剤及びこれを用いて後処理した亜鉛めっき加工材は産業上の利用価値が極めて大きいものである。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム、チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(A)と、バナジウム、モリブデン、タングステンから選ばれる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(B)と、リンから選ばれる無機化合物(C)とを含有し、且つ、化合物の質量比がA/(B+C)=0.8〜4.5、B/(A+C)=0.15〜0.7であって、pH7〜11からなる亜鉛めっき加工用後処理剤。
【請求項2】
化合物(A)がジルコニウム化合物である請求項1に記載の亜鉛めっき加工用後処理剤。
【請求項3】
化合物(B)がバナジウム化合物である請求項1または2に記載の亜鉛めっき加工用後処理剤。
【請求項4】
化合物(B)が4価バナジウム化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の亜鉛めっき加工用後処理剤。
【請求項5】
珪素化合物(D)を更に含有し、化合物の質量比がD/(A+B+C)=0.1〜5.0である請求項1〜4のいずれか一項に記載の亜鉛めっき加工用後処理剤。
【請求項6】
有機ホスホン酸およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物(E)を更に含有し、化合物の質量比がE/(A+B+C)=0.05〜5.0である請求項1〜5のいずれか一項に記載の亜鉛めっき加工用後処理剤。
【請求項7】
アニオン性若しくはノニオン性を有する水性樹脂化合物(F)を含有し、化合物の質量比がF/(A+B+C)=0.01〜3.5である請求項1〜6のいずれか一項に記載の亜鉛めっき加工用後処理剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載する該後処理剤を接触させて表面処理した亜鉛めっき加工材。
【請求項9】
前記表面処理が、亜鉛めっきの表面に該後処理剤を接触させた後に水洗しない塗布型処理である請求項8に記載の亜鉛めっき加工材。
【請求項10】
片面の亜鉛めっき付着量が80〜1000g/mである請求項8又は9に記載の亜鉛めっき加工材。
【請求項11】
亜鉛めっきの表面に該後処理剤を接触させて表面処理した後に更にりん酸塩化成処理された亜鉛めっき加工材のすべり係数が0.4以上である請求項8〜10のいずれか一項に記載の亜鉛めっき加工材。

【公開番号】特開2010−150626(P2010−150626A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332004(P2008−332004)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】