説明

亜鉛浸出残渣等の処理方法

【課題】
湿式亜鉛製錬において発生した亜鉛浸出残渣をSOを用いて還元加圧浸出することにより発生した浸出残渣などを浸出原料として,Snとレアメタル(特にIn)を高い回収率で浸出回収できる処理方法を提供する。
【解決手段】
湿式亜鉛製錬において発生した亜鉛浸出残渣をSOを用いて還元加圧浸出することにより発生した浸出残渣などを浸出原料とし,硫酸と塩酸との混合溶液,硫酸に塩化物塩を混合した混合溶液,または硫酸と塩酸に塩化物塩を混合した混合溶液の何れかを浸出元液として,温度60℃以上の条件で浸出処理することを特徴とする亜鉛浸出残渣等の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,湿式亜鉛製錬において発生した亜鉛浸出残渣などといった少なくともInまたはSnを含む被処理物からInやSnを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式亜鉛製錬においては,ZnS主体の亜鉛精鉱を焙焼して酸に可溶なZnOの形態に変え,これを硫酸で浸出し,得られたZnリッチの浸出尾液は電解工程へ供される。一方,硫酸浸出で生じた亜鉛浸出残渣は,SOを用いた還元加圧浸出法を採用することにより,硫酸浸出だけでは回収できなかったフェライト系のZnやFe,レアメタルなどの有価金属を浸出させて回収している(特許文献1参照)。また,こうして有価金属を浸出回収した後の浸出残渣は,更に銀や鉛の原料として利用される(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭56−164018号公報
【特許文献2】特開平7−62454号公報
【0004】
しかしながら,亜鉛浸出残渣をSOで還元加圧浸出して有価金属を浸出回収した場合,残った浸出残渣中にはレアメタルがまだ相当量残されており,中でも付加価値の高いInのロスが大きい。例えば亜鉛浸出残渣をSOで加圧浸出した場合,ZnやFeの浸出率が95%程度であるのに対して,Inの浸出率は88〜90%程度と低い。
【0005】
また優良な亜鉛鉱石の枯渇化により,今後は不純物としてSnを含有した高Sn品位の亜鉛精鉱の処理が必要となることが予想される。亜鉛浸出残渣をSOで還元加圧浸出した場合,Sn浸出率は10%程度以下に過ぎない。Znその他の有価金属を回収した後の浸出残渣は,次に銀や鉛の精錬工程に送られるが,特にSnは,鉛電解において不純物として製品に混入し易いため,浸出残渣中のSn品位の更なる低減が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は,湿式亜鉛製錬において発生した亜鉛浸出残渣などといった少なくともInまたはSnを含む被処理物からSnとレアメタル(特にIn)を高い浸出率で浸出回収できる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来は塩酸や塩化物塩を含む浸出元液は亜鉛製錬工程へClが混入すると,設備の腐食やメタル亜鉛の生産性及び品質の低下の原因となるため,使用されていなかった。本発明では,Clを含んだ液を亜鉛製錬本工程と切り離した別系統処理することにより解決した。即ち本発明によれば,湿式亜鉛製錬において発生した亜鉛浸出残渣をSOを用いて還元加圧浸出することにより発生した浸出残渣などといった少なくともInまたはSnを含む被処理物を浸出原料とし,硫酸と塩酸との混合溶液,硫酸に塩化物塩を混合した混合溶液,または硫酸と塩酸に塩化物塩を混合した混合溶液の何れかを浸出元液として,温度60℃以上の条件で浸出処理することを特徴とする,亜鉛浸出残渣等の処理方法が提供される。
【0008】
前記浸出元液における硫酸濃度は,100g/リットル以上であることが好ましい。また,前記浸出元液において混合された塩化物塩は,例えばNaCl,KClまたはCaClの1種以上である。また,前記浸出元液におけるCl量は,前記浸出原料に含まれるSnの当量の1倍以上であり,かつ10等量以下であることが好ましい。
【0009】
前記浸出原料を浸出処理した浸出尾液の一部または全部を,前記浸出元液として再利用することもできる。また,前記浸出原料を浸出処理した浸出尾液を,中和剤によりpH 4〜9に調整した後,沈澱物を回収しても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,湿式亜鉛製錬において発生した亜鉛浸出残渣をSOを用いて還元加圧浸出することにより発生した浸出残渣などといった少なくともInまたはSnを含む被処理物を浸出原料として,SnとIn等のレアメタルを高い浸出率で回収することが可能となる。これにより,Inロスが減少する。また,浸出残渣中のSn品位を低減することにより,後の銀や鉛の精錬工程における不純物の低減を図ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に示すように,湿式亜鉛製錬においては,亜鉛精鉱を焙焼して得たZnOを硫酸で浸出し,得られたZnリッチの浸出尾液は電解工程へ供される。一方,硫酸浸出で生じた亜鉛浸出残渣は,更にSOを用いて還元加圧浸出され,浸出尾液は有価金属の回収工程へ供される。また有価金属を浸出回収した後の浸出残渣は,本発明における浸出原料となる。かような浸出原料は,鉛を主成分とし,Agなども含有するが,その他にInやSnもまだ少なからず含んでおり,そのまま鉛や銀の原料として利用したのでは,Inのロスを生じてしまう。またSn品位が高いと,銀や鉛の精錬工程において不純物として混入し易いため生産性を落すことになる。
【0012】
そこで本発明では,このようにInやSnをまだ含んでいる浸出原料を,硫酸と塩酸との混合溶液,硫酸に塩化物塩を混合した混合溶液,または硫酸と塩酸に塩化物塩を混合した混合溶液の何れかを浸出元液として,更に浸出処理する。硫酸に塩化物塩を混合する場合,及び硫酸と塩酸に塩化物塩を混合する場合,混合する塩化物塩として,例えばNaCl,KClまたはCaClの1種以上を用いることができる。
【0013】
ここで,浸出原料を浸出処理する浸出元液にあっては,硫酸濃度が100g/リットル以上であることが好ましい。浸出元液における硫酸濃度が100g/リットル以下の場合,Snが殆ど浸出されないからである。
【0014】
また浸出元液には,塩酸由来または塩化物塩由来のClが存在することになるが,浸出元液におけるCl量は,Snを溶解させるのに最低必要な量(1倍当量)以上で,かつ10倍等量以下,好ましくは5倍等量以下が望ましい。Clを大量に添加しすぎる銀や鉛精錬用の銀や鉛まで浸出させることになってしまう。
【0015】
また,かような浸出元液によって前記浸出原料を浸出処理するにあたり,温度は60℃以上とする。60℃以下では,Inの浸出が殆ど進まなくなってしまう。
【0016】
こうして浸出処理することにより,前述の浸出原料中に存在していたSnの大部分を浸出させ,Inの殆ど全部を浸出させることが可能となる。そして,このように浸出原料を浸出処理したことによってZn,Feなどと共にSn,In等を含んだ浸出尾液を,中和剤によりpH 4〜9に調整した後,沈澱物を回収することにより,Inなどの有価金属を少ないロスで回収することができるようになる。
【0017】
また,このように浸出原料を浸出処理した後の浸出尾液は,高い濃度の硫酸およびClイオンを含んでおり,その一部または全部を浸出原料を浸出処理するための浸出元液として再利用することもできる。その場合,浸出原料を浸出処理した後の浸出尾液の一部を抜き出して浸出原料を浸出処理するための浸出元液として再利用し,残りは中和剤によりpH 4〜9に調整した後,沈澱物を回収することにより,Inなどの有価金属を回収しても良い。なお中和後の液は,有価金属および重金属が殆ど入っていていないため,廃水処理施設へ送られ処理される。
【0018】
一方,浸出原料を浸出処理した後の浸出残渣は,更に銀や鉛の原料として利用される。本発明によれば,このようにInなどの有価金属の回収ロスを低減できることに加え,浸出残渣中のSn品位を低減することにより,後の銀や鉛の精錬工程における不純物処理の負荷軽減を図ることができるようになる。
【0019】
なお,以上では湿式亜鉛製錬においてZnOを硫酸浸出して生じた亜鉛浸出残渣を更にSOで還元加圧浸出した後の浸出残渣を浸出原料とした例を説明したが,本発明では,亜鉛精鉱を酸素とFe3+を用いて直接浸出することにより発生した浸出残渣を浸出原料とすることもできる。また亜鉛精鉱を直接浸出する場合,高圧の酸素と150℃以上の温度で行う加圧浸出法を用いても良い。
【実施例】
【0020】
亜鉛精鉱を焙焼したZnOを硫酸浸出して得た亜鉛浸出残渣を更にSOで加圧浸出して有価金属を浸出回収した後の浸出残渣を浸出原料とした。表1に実施例の浸出原料とした浸出残渣の品位と対鉱石での浸出率を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
(実施例1)
先ず,この浸出原料(wet状態)386gに濃度500g/リットルの希硫酸1リットルを加え,更にNaCl 29gを添加し,リパルプした。こうして得たスラリーを大気圧下で,温度90℃,2hrの加熱を行った。所定の時期にスラリーの一部を取り出してろ過,洗浄した残渣から浸出率を測定した結果を図2に示す。60,120minを経過した時点におけるSn及びInの浸出率は各々85%と90%,鉱石から換算した総合浸出率は各々86%,99%であった。
【0023】
(実施例2)
実施例1と同じ浸出原料(wet状態)386gに濃度500g/リットルの希硫酸1リットルを加え,更にNaCl 5gを添加してリパルプした。こうして得たスラリーを大気圧下で,温度90℃,2hrの加熱を行った。所定の時期にスラリーの一部を取り出してろ過,洗浄した残渣から浸出率を測定した結果を図3に示す。60,120minを経過した時点におけるSn及びInの浸出率は各々35%(総合3%),62%(総合96%)であった。
【0024】
(比較例)
実施例1と同じ浸出原料(wet状態)386gに濃度500g/リットルの希硫酸1リットルを加えリパルプした。こうして得たスラリーを大気圧下で,温度90℃,2hrの加熱を行った。所定の時期にスラリーの一部を取り出してろ過,洗浄した残渣から浸出率を測定した結果を図4に示す。60,120minを経過した時点におけるSn及びInの浸出率は各々15%(総合20%),35%(総合93%)であった。
【0025】
(実施例3)
実施例1と同じ浸出原料(wet状態)386gに所定濃度の希硫酸1リットルを加え,更にNaCl29g添加してリパルプした。こうして得たスラリーを大気圧下,温度40,60,90℃の各温度でそれぞれ2hr浸出後にろ過,洗浄した残渣から浸出率を測定した。各浸出温度に対する浸出率は図5のようになった。浸出温度40℃ではSnおよびInの浸出率は10%以下であった。
【0026】
(実施例4)
実施例1と同じ浸出原料(wet状態)386gに濃度70,100,200,500g/リットルの各希硫酸1リットルをそれぞれ加え,更にNaCl29g添加してリパルプした。こうして得た各スラリーを大気圧下,温度90℃でそれぞれ2hr浸出後にろ過,洗浄した残渣から浸出率を測定した。各硫酸濃度に対する浸出率は図6のようになった。硫酸濃度100g/リットルでのSn及びInの浸出率は各々20%(総合25%),42%(総合94%)であった。浸出原料を浸出処理する浸出元液にあっては,硫酸濃度が100g/リットル以上であることが好ましい。浸出元液における硫酸濃度が100g/リットル未満の場合,Snが殆ど浸出されない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は,湿式亜鉛製錬において発生する亜鉛浸出残渣の処理などに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】発明の実施の形態にかかる処理方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】実施例1における経過時間と浸出率の関係を示すグラフである。
【図3】実施例2における経過時間と浸出率の関係を示すグラフである。
【図4】比較例における経過時間と浸出率の関係を示すグラフである。
【図5】実施例3における浸出温度と浸出率の関係を示すグラフである。
【図6】実施例4における硫酸濃度と浸出率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともInまたはSnを含む被処理物を浸出原料とし,硫酸と塩酸との混合溶液,硫酸に塩化物塩を混合した混合溶液,または硫酸と塩酸に塩化物塩を混合した混合溶液の何れかを浸出元液として,温度60℃以上の条件で浸出処理することを特徴とする,In及び/またはSnの分離方法。
【請求項2】
前記浸出元液における硫酸濃度が,100g/リットル以上であることを特徴とする,請求項1に記載のIn及び/またはSnの分離方法。
【請求項3】
前記浸出元液において混合された塩化物塩が,NaCl,KClまたはCaClの1種以上であることを特徴とする,請求項1または2に記載のIn及び/またはSnの分離方法。
【請求項4】
前記浸出元液におけるCl量が,前記浸出原料に含まれるSnの当量の1倍以上であり,かつ10倍当量以下であることを特徴とする,請求項1,2または3に記載のIn及び/またはSnの分離方法。
【請求項5】
前記浸出原料を浸出処理した浸出尾液の一部または全部を,前記浸出元液として再利用することを特徴とする,請求項1,2,3または4に記載のIn及び/またはSnの分離方法。
【請求項6】
前記浸出原料を浸出処理した浸出尾液を,中和剤によりpH 4〜9に調整した後,沈澱物を回収することを特徴とする,請求項1,2,3または4に記載のIn及び/またはSnの分離方法。
【請求項7】
湿式亜鉛製錬において発生した亜鉛浸出残渣をS0を用いて還元加圧浸出することにより発生した浸出残渣を浸出原料とすることを特徴とする,請求項1,2,3,4,5または6に記載のIn及び/またはSnの分離方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate