説明

交流計器試験電源用発振装置

【課題】波形ひずみを極力減少した出力を供給できる電力計試験電源用発振装置を提供すること。
【解決手段】基準波形の振幅情報を記憶した基準波形メモリ(112,122)と、試験されるべき計器から対象波形の所定電気角ごとの振幅情報を取り出す波形検出手段(202)と、前記波形検出手段から取り出した対象波形情報を前記基準波形情報と比較して差信号を検出する減算器(116)と、前記減算器からの差信号により前記基準波形情報を修正するための修正情報を記憶する補正波形メモリ(113)と、前記基準波形メモリからの基準波形情報を前記補正波形メモリからの修正情報により修正して出力情報を形成する加算器(114)とをそなえ、前記出力情報に基づく出力を形成する交流計器試験電源用発振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流計器試験電源用発振装置に係わり、とくに電力量計を試験するための電源に用いる発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電力量計は、所定期間使用したとき検定を受けることが義務付けられており、所定の検定がなされる。検定すべき電力量計の数は膨大であるから、ある数を纏めて検定するのが通例であり、虚負荷試験により検定を行なう。
【0003】
これは、図4に示されるように、電力量計の電流コイルCiと電圧コイルCvとを分離し、電流コイルCiを直列接続して虚負荷電源の電流源から通電し、かつ並列接続された電圧コイルCvに電圧源から電圧を与えることにより試験を行うものである。図4(a)は電力量計が1台の場合、図4(b)は2台の場合の接続図である。
【0004】
この試験をするには、電力量計中で電圧コイルCvに接続されている電流コイルCiを電圧コイルCvから切り離し、また電流コイルCi同士を直接接続してから通電する必要がある。
【0005】
図5は、従来の虚負荷電源装置の構成を示すブロック図である。演算装置11と組み合わされた発振器12から電圧信号vを電圧増幅器13に、電流信号iを電圧電流変換増幅器14に与え、これら両増幅器13,14の出力を電力量計Xに供給して電圧測定値V、電流測定値Iを得る。これら電圧Vおよび電流Iを電力計16に与えて電力値を取り出し、演算装置11に帰還して発振器12を制御する。
【0006】
この際、電力計16は、与えられた電圧測定値V、電流測定値Iを積分して平均化し、得た値を帰還信号として演算装置11に与える。このため、制御動作はある遅れを以って行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-285982号公報
【特許文献2】特開2000-278987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、虚負荷電源装置10は、発振器12の信号を電圧増幅器13および電圧電流変換増幅器14により増幅して出力する電圧源および電流源を構成する。この出力は、検出器により実効値および位相角を検出し、演算装置11を介して発振器12の振幅および位相角を発振器12に帰還制御することで設定精度を補償している。
【0009】
この補償を確実に行なうには、検出器として高価な電圧計、電流計、電力計を用いる必要があり、コスト的な問題がある。また、帰還制御は波形ひずみを補償するには応答速度が不十分であり、その結果ひずみの多い波形を出力している。
【0010】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、波形ひずみを極力減少した出力を供給できる電力計試験電源用発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的達成のため、本発明では、
基準波形の振幅情報を記憶した基準波形メモリと、
試験されるべき計器から対象波形の所定電気角ごとの振幅情報を取り出す波形検出手段と、
前記波形検出手段から取り出した対象波形情報を前記基準波形情報と比較して差信号を検出する減算器と、
前記減算器からの差信号により前記基準波形情報を修正するための修正情報を記憶する補正波形メモリと、
前記基準波形メモリからの基準波形情報を前記補正波形メモリからの修正情報により修正して出力情報を形成する加算器とをそなえ、
前記出力情報に基づく出力を形成することを特徴とする交流計器試験電源用発振装置、
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のように、計器を検定するにつき対象計器から対象波形の所定電気角ごとの振幅情報を取り出して基準波形情報と比較して得た差分を補償し出力を形成するようにしたため、いわゆる瞬時補正された波形出力を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例の基本構成を示す説明図。
【図2】図1に示した実施例の構成要素を示すブロック図。
【図3】図3(a)、(b)は本発明の2つの実施例を示すブロック図。
【図4】従来の虚負荷電源装置の構成を示すブロック図。
【図5】図5(a)、(b)は、交流電力量計を検定する際に用いる虚負荷電源装置の構成を示す結線図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の基本概念を示している。すなわち、測定されるべき電力量計Xに与えられる電圧V、電流Iが遅れ動作を伴った何らかの要素を経ることなく発振器100に帰還され、発振器100の出力vが電圧増幅器200に、同じくiが電圧電流変換増幅器300に与えられて電力量計Xに供給される。
【0016】
このため、発振器100は電圧V、電流Iを遅れなく受け取り、その出力v,iを形成して電圧増幅器200、電圧電流変換増幅器300に与える。
【0017】
図2は、図1に示した試験電源を構成する要素を示すために、実際に用いられる要素群とそれらを結ぶ線とを描いた説明図である。この装置は、切換器101が組み合わされた波形メモリ付きPLD102としての発振器100、D/A変換器201,301およびA/D変換器202,302、および装置各部にサンプリング・クロック信号を与えるクロック発生器CLKにより構成される。
【0018】
切換器101は、発振器100の形成する出力周波数を選択するもので、例えば50Hz、60Hzの選択を行なう。波形メモリ付きPLD102は、切換器101により選択された一方の周波数、例えば50Hzの正弦波信号を形成しD/A変換器201,301を介して被検電力量計Xに電圧Vout、電流Ioutとして与える。
【0019】
被検電力量計Xで所定電気角ごとに取り出された電圧Vin、電流Iinは、A/D変換器202,302を介して波形メモリ付きPLD102に帰還され、正弦波の波形制御に用いられる。
【0020】
ここで、被検電力量計XからA/D変換器202,302への入力Vin,Iinに含まれる高次調波のうち不要なものは、ひずみ成分として除去しておくことが望ましい。それには、入力Vinにひずみ成分となる高次調波を含めておき、この入力Vinを波形メモリ付きPLD102に与えて必要な修正を行なわせることにより正弦波信号を形成する。
【0021】
この高次調波は、D/A変換器201の出力側に接続される電圧増幅器(図示せず)および電圧電流変換増幅器(図示せず)に設けられた出力変圧器および出力変流器、ならびに被検電力量計に内蔵された変成器の磁化特性に起因するものであるからほぼ第11次高調波以下のものに限られ、それよりもさらに高次の調波は無視し得る程度含まれるだけである。
【0022】
そのため、A/D変換器202,302の入力部には、基本波成分から第11次高調波までの信号を同一レベルで通すローパスフィルタ(図示せず)を挿入しておくとよい。なお、入力Vin中には、出力電圧Vout中に含まれるサンプリングクロック(数100kHz)が含まれているが、当然ながらこれもローパスフィルタで除去される。
【0023】
図3(a),(b)は、本発明の実施例としての2つの構成例を示したものであり、何れも波形メモリ付きPLDを用いるものであるが、内部接続が相違する。図2に示したクロック回路は、図示省略している。
【0024】
[実施例1の構成]
図3(a)は、第1の実施例を示している。この実施例は、PLD102に内蔵されるプロセッサCPUの出力Vsを基準波形メモリ112に与え、基準波形メモリ112の出力を加算器114および減算器116に与える接続としている。
【0025】
減算器116は、補正波形メモリ113に与えるべき偏差信号、つまり基準信号Vsと帰還信号Vinとの偏差Δv(=Vs−Vin)を形成するものであり、この偏差Δvに基づき補正波形メモリ113が修正信号ΔVoutを形成する。
【0026】
そして、基準信号Vsを修正信号ΔVoutにより修正して出力電圧Voutが得られ、コントローラ115でデジタルデータに変換され、D/A変換器201でアナログ変換されて出力される。
【0027】
一方、入力電圧Vinは、図示しない被試験電力量計から取り出された電圧である。この入力電圧Vinは、ローパスフィルタ202Aで高次調波(例えば第12次以上の高調波)が除去されてそれより低次(第11次以下)の調波および基本波分のみがA/D変換器202に供給され、デジタル信号に変換されてコントローラ115に与えられる。
【0028】
[実施例2の構成]
図3(b)は、第2の実施例を示している。この実施例は、コントローラ125の帰還信号出力VinをCPU121に与えて、CPU121の内部で基準電圧Vsから帰還信号Vinを減算して偏差Δvを形成し、補正波形メモリ123に与えるようにしている。つまり、図3(a)における減算器116をCPU121内に取り込んだ構成としている。
【0029】
[動作]
図3(a),(b)に示した回路は、何れもサンプリング・クロックの周波数で定まる所定電気角ごとに振幅制御した出力を形成する。すなわち、コントローラ115,125が、A/D変換器202から所定電気角ごとに逐時的な振幅データ(DATA)を得て逐時的に変化する振幅出力Vinを出力する。
【0030】
この結果、コントローラ115,125の出力(DATA)は、所定電気角ごとに変化し、D/A変換器201の出力Voutが所定電気角ごとに逐時変化する。
【0031】
所定電気角は、小さく選ぶほど逐時制御性が増し、より精密な波形制御ができる。例えば所定電気角を1度とすれば、1Hzの波形が360個/秒に時分割される。
【0032】
これは、1/360秒ごとに振幅制御する速応制御となり、正確な正弦波を得ることができる。したがって、電気角を所望波形の実現のために必要な程度の値に設定することにより高い精度の波形制御が実現できる。
【符号の説明】
【0033】
10 虚負荷電源装置、11 演算装置、12 発振器、13 電圧増幅器、
14 電圧電流変換増幅器、15 変流器、16 電力計、100 発振器、
101 切換器、102 PLD、111,121 CPU、
112,122 基準波形メモリ、113,123 補正波形メモリ、
114,124 加算器、115,125 コントローラ、116 減算器、
200 電圧増幅器、201,301 D/A変換器、
202,302 A/D変換器、300 電圧電流変換増幅器、
CLK クロック発生器。
【0034】
Vs 電圧基準波形、Vin 入力電圧、Δv 偏差、ΔVout 出力信号、
Vout 出力電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準波形の振幅情報を記憶した基準波形メモリと、
試験されるべき計器から対象波形の所定電気角ごとの振幅情報を取り出す波形検出手段と、
前記波形検出手段から取り出した対象波形情報を前記基準波形情報と比較して差信号を検出する減算器と、
前記減算器からの差信号により前記基準波形情報を修正するための修正情報を記憶する補正波形メモリと、
前記基準波形メモリからの基準波形情報を前記補正波形メモリからの修正情報により修正して出力情報を形成する加算器とをそなえ、
前記出力情報に基づく出力を形成する交流計器試験電源用発振装置。
【請求項2】
請求項1記載の交流計器試験電源用発振装置において、
前記基準波形メモリ、前記減算器、前記補正波形メモリおよび前記加算器は、プログラマブル・ロジック・デバイスにより構成されたことを特徴とする交流計器試験電源用発振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−225798(P2012−225798A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94148(P2011−94148)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(390031196)日本電気計器検定所 (17)