説明

人体模型

【課題】棘上筋及び棘下筋が上腕骨上部に正しく結合した肩関節の人体模型を提供する。
【解決手段】人体模型10は、人体の肩関節を模倣した人体模型であって、肩甲骨を模倣した肩甲骨部品1と上腕骨上部を模倣した上腕骨上部部品2を備える。又、人体模型10は、棘上筋を模倣した棘上筋部品3と棘下筋を模倣した棘下筋部品4を備える。棘上筋部品3は、先端部32を上腕骨上部部品2の大結節部2aの上部に固定している。棘下筋部品4は、帯状に延びる先端部42の一辺が棘上筋部品3の先端縁と境界をなしている。更に、棘下筋部品4は、先端部42が上腕骨上部部品2の大結節部2aを覆うように、大結節部2aに着脱自在に係止している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体模型に関する。特に、回旋筋腱板(Rotator Cuff:ローテーターカフ)付きの肩関節の人体模型に関する。
【背景技術】
【0002】
人体模型は、解剖学的知見に基づいて、人体の構造を立体的に再現している。人体模型は、医療関係者を訓練及び教育するのに役立てることができる。又、人体模型は、患者及びその関係者に治療を説明するためにも用いられている。
【0003】
このような人体模型として、例えば、安定した表面上の比較的小さな領域で支持体に安定的に支持された解剖学的模型構造を有する実演模型アッセンブリが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1による解剖学的模型構造は、患者の解剖学的構造、望ましくは脊柱の複製であり、少なくとも部分的にかつ取り外し可能に支持体に埋め込まれている。
【0004】
解剖学的には、人体の肩関節(肩甲上腕関節)は、上腕骨上部、鎖骨、肩甲骨から構成されている。回旋筋腱板は、上腕骨上部の大結節に付着して腕を外旋させる棘上筋(Supraspinatus)・棘下筋(Infraspinatus)・小円筋と、上腕骨上部の小結節に付着して内旋させる肩甲下筋の四つの筋腱より構成されている。
【特許文献1】特表2005−512131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回旋筋腱板のフットプリント(結合態様)に関して、従来、棘上筋は、回旋筋腱板の断裂に最も関係する筋腱であると信じられていた。しかし、棘下筋の萎縮は、最小から中間サイズの回旋筋腱板の断裂を有する患者にしばしば観測されていた。そして、この事実は、棘上筋と棘下筋の解剖学的結合構造についての流布された理解では、到底説明できなかった。したがって、棘上筋と棘下筋の腱について、上腕の結合構造(Humeral Insertion)を再調査した。
【0006】
そして、多くの検体の肩を調査した結果、上腕骨の大結節における棘上筋のフットプリントは、以前信じられていたものより、充分小さいものであった。又、上腕骨の大結節のこの領域は、棘下筋の相当量が事実上占有していた。
【0007】
つまり、棘上筋の腱によってのみ生ずる従来の考えによる回旋筋腱板の断裂は、かなりの棘下筋の要素も含むことをこの事実が示している。
【0008】
回旋筋腱板の断裂は、加齢による変性変化、又は損傷の結果として高齢の患者にしばしば発生している。そして、回旋筋腱板の断裂は、肩を機能不全に至らしめる。したがって、機能回復するための適切な外科治療を容易とするために、断裂の正確な位置と範囲を特定することが重要となっている。
【0009】
断裂は、超音波検査とMRIを用いて手術前に鑑定され、手術所見に基づいて診断される。両検査において、損傷した腱を究明するために、大結節と小結節の骨の表面の撮像は、多くの場合、重要な検出事項である。
【0010】
殆どの解剖学の教科書には、「棘上筋は、上腕骨大結節の最高位置に結合し、棘下筋は、上腕骨大結節の中間位置に結合している」と記載している。
【0011】
そして、多くの市販の回旋筋腱板付きの肩関節の模型は、棘上筋の多くが上腕骨大結節に結合し、棘下筋の僅かが上腕骨大結節に結合して構成されている。このように構成された肩関節の模型は、回旋筋腱板の正しい構成を反映していないので、回旋筋腱板の断裂の外科治療を困難としている。又、回旋筋腱板の構造の正しい理解を困難としている。
【0012】
正しい構造の回旋筋腱板付きの肩関節の模型を実現できれば、医療関係者を訓練及び教育するのに役立てることができる。正しい構造の回旋筋腱板付きの肩関節の模型を実現できれば、患者及びその関係者に断裂の治療を正しく理解してもらうことも可能になる。そして、以上のことが本発明の課題といってよい。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、少なくとも棘上筋及び棘下筋が上腕骨上部の大結節に正しく結合した回旋筋腱板付きの肩関節の人体模型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、棘上筋が肩甲骨の棘上窩、棘上筋膜の内面から起始し、肩峰の下を外方へ走り、上腕骨大結節の上部へ至り結合しており、棘下筋が肩甲骨の棘下窩、棘上筋膜の広範囲の内面から起始し、筋束は集中して外方に向かい、上腕骨大結節の前部へ至り、この棘下筋の終端部が上腕骨大結節に伸縮自在に結合していることを発見し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のようなものを提供する。
【0015】
(1) 人体の肩関節を模倣した人体模型であって、肩甲骨を模倣した肩甲骨部品と、上腕骨上部を模倣した上腕骨上部部品と、棘上筋を模倣した棘上筋部品と、棘下筋を模倣した棘下筋部品と、を備え、前記棘上筋部品は、基端部が前記肩甲骨部品の棘上窩部に固定され、先端部が前記上腕骨上部部品の大結節部の上部に固定され、前記棘下筋部品は、基端部が前記肩甲骨部品の棘下窩部に固定され、帯状に延びる先端部の一辺が前記棘上筋部品の先端縁と境界をなし、かつ当該先端部が前記上腕骨上部部品の大結節部を覆うように当該大結節部に係止されている人体模型。
【0016】
(1)の発明による人体模型は、人体の肩関節を模倣した人体模型であって、肩甲骨部品と上腕骨上部部品を備えている。肩甲骨部品は、肩甲骨を模倣している。上腕骨上部部品は、上腕骨上部を模倣している。
【0017】
又、(1)の発明による人体模型は、棘上筋部品と棘下筋部品を備えている。棘上筋部品は、棘上筋を模倣している。棘下筋部品は、棘下筋を模倣している。
【0018】
棘上筋部品は、基端部を肩甲骨部品の棘上窩部に固定している。又、棘上筋部品は、先端部を上腕骨上部部品の大結節部の上部に固定している。
【0019】
棘下筋部品は、基端部を肩甲骨部品の棘下窩部に固定している。又、棘下筋部品は、帯状に延びる先端部の一辺が棘上筋部品の先端縁と境界をなしている。更に、棘下筋部品は、先端部が上腕骨上部部品の大結節部を覆うように、大結節部に係止している。
【0020】
解剖学的には、人体の肩関節は、上腕骨上部、鎖骨、肩甲骨から構成されている。したがって、(1)の発明による人体模型は、鎖骨を模倣した鎖骨部品を備えることを必ずしも排除しない。又、(1)の発明による人体模型は、右の肩関節の模型であってもよく、左の肩関節の模型であってもよく、左右の肩関節を備える模型であってもよい。
【0021】
ここで、肩甲骨部品は肩甲骨を模倣しているとは、肩甲骨部品が人体の肩甲骨の特徴的な形状や各部位の配置をまねしていることであってよく、必ずしも略同一な複製(Replica)でなくてもよく、相似形に縮小された模型(Model)であってもよい。肩甲骨部品は、他の模倣部品を取り付けるために、ねじ穴を設けてもよく、嵌合穴や段差又は突起を設けてもよい。
【0022】
同様に、上腕骨上部部品は上腕骨上部を模倣しているとは、上腕骨上部部品が人体の上腕骨上部の特徴的な形状や各部位の配置をまねしていることであってよく、必ずしも略同一な複製(Replica)でなくてもよく、相似形に縮小された模型(Model)であってもよい。上腕骨上部部品は、他の模倣部品を取り付けるために、ねじ穴を設けてもよく、嵌合穴や段差又は突起を設けてもよい。
【0023】
肩甲骨部品及び上腕骨上部部品は、木材から製作されてよく、石膏を硬化して製作してもよく、結果物として固体であれば素材は限定されない。量産するためには、合成樹脂を成形することが好ましく、所望の形状の肩甲骨部品及び上腕骨上部部品を得ることができる。硬質の化学ゴムも前記合成樹脂に含まれる。
【0024】
棘上筋及び棘下筋は、骨格筋に分類され、又、意識して動かすことが可能な随意筋にも分類されている。そして、棘上筋部品及び棘上筋部品は、軟部組織からなる骨格筋を模倣しているので、軟質の化学ゴムからなることが好ましい。
【0025】
解剖学において、骨格筋が骨に付着する部分の筋肉主体部寄りにある結合組織は、「腱」と定義され、人体の骨格筋に付属して存在している。骨格筋は全体的に赤色を示し、腱は白色を示す、とされるので、棘上筋部品及び棘下筋部品を赤色に彩色し、腱の部位を白色に彩色することが好ましい。
【0026】
しかし、肩甲骨部品及び上腕骨上部部品を白色に彩色し、棘上筋部品及び棘下筋部品を全体に赤色に彩色した方が、筋肉と骨の区別が一別できて、より好ましい。棘上筋部品又は棘下筋部品の基端部及び先端部を肩甲骨部品又は上腕骨上部部品に固定又は係止することにより、腱の部分であることを想起できる。
【0027】
棘上筋部品は、基端部及び先端部を肩甲骨部品及び上腕骨上部部品に固定するとは、剥離困難に固定することを意味しない。棘上筋部品は、ビスなど締結具を用いて着脱自在に固定することが好ましい。又、棘上筋部品は、後述するように、面ファスナを用いて着脱自在に固定することが好ましい。
【0028】
同様に、棘下筋部品は、基端部を肩甲骨部品に固定するとは、剥離困難に固定することを意味しない。棘下筋部品は、ビスなど締結具を用いて着脱自在に固定することが好ましい。又、棘下筋部品は、後述するように、面ファスナを用いて着脱自在に固定することが好ましい。
【0029】
一方、棘下筋部品が大結節部に、例えば着脱自在に係止する態様としては、大結節部に突起を設け、棘下筋部品の先端部に係止穴を設け、突起に係止穴を係止してもよい。棘下筋部品の先端部を引っ張り、係止することが好ましい。
【0030】
(1)の発明による人体模型は、本発明者らが発見した、人体の肩における棘上筋と棘下筋の付着位置を模倣している。そして、棘下筋部品は、帯状に延びる先端部の一辺が棘上筋部品の先端縁と境界をなし、かつ先端部が上腕骨上部部品の大結節部を覆うように、大結節部に係止しているので、棘上筋より棘下筋の方が充分に肩の旋回に作用していることを理解できる。つまり、棘下筋は、回旋筋腱板の断裂に最も関係する筋腱であることが理解できる。
【0031】
このように、(1)の発明による人体模型は、人体の肩における棘上筋と棘下筋の付着位置について、正しい構造の回旋筋腱板付きの肩関節の模型を実現しているので、医療関係者を訓練及び教育するのに役立てることができる。又、(1)の発明による人体模型は、患者及びその関係者に断裂の治療を正しく理解してもらうことも可能になる。
【0032】
(2) 前記棘下筋部品の先端部は、一方が前記大結節部の高位に着脱自在に係止され、他方が前記大結節部の中位に着脱自在に係止されている(1)記載の人体模型。
【0033】
(3) 前記棘上筋部品及び棘下筋部品は、伸縮自在な部材からなる(1)又は(2)記載の人体模型。
【0034】
(4) 前記棘下筋部品は、基端部を前記肩甲骨部品に着脱自在に固定する第1面ファスナと、先端部を前記上腕骨上部部品に着脱自在に固定する第2面ファスナと、を有する(2)又は(3)記載の人体模型。
【0035】
(5) 前記肩甲骨部品と前記上腕骨上部部品の少なくとも一方を固定する基台と、この基台を囲うカバーと、このカバーに部分的に設けられて関節部を視認可能な透明カバーと、を更に備え、前記透明カバーは、内視鏡又は手術用器具を挿入可能な複数の孔を有する(1)から(4)のいずれかに記載の人体模型。
【0036】
(5)の発明による人体模型は、複数の孔に内視鏡又は手術用器具を挿入して、内視鏡手術(メスで穴をあけカメラで観察し、処置する手術)を訓練できる。内視鏡手術は、切開手術と比べて、正常な皮膚や筋肉などの組織の損傷が少なく、傷が目立たない、痛みが少ない、動きの制限が少ないなどの利点がある、とされている。この場合、棘下筋部品を伸縮が自在な布体とすることにより、断裂の内視鏡手術を好適に訓練できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明による人体模型は、棘下筋部品が帯状に延びる先端部の一辺を棘上筋部品の先端縁と境界をなし、かつ先端部が上腕骨上部部品の大結節部を覆うように、大結節部に係止しているので、棘上筋より棘下筋の方が充分に肩の旋回に作用していることを理解できる。本発明による人体模型は、棘下筋が回旋筋腱板の断裂に最も関係する筋腱であることが理解できる。
【0038】
本発明による人体模型は、人体の肩における棘上筋と棘下筋の付着位置について、正しい構造の回旋筋腱板付きの肩関節の模型を実現しているので、医療関係者を訓練及び教育するのに役立てることができる。又、本発明による人体模型は、患者及びその関係者に断裂の治療を正しく理解してもらうことも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0040】
図1は、右肩の上面の撮像図である。図2は、右肩の上面の撮像図である。図3は、右肩の上面の撮像図である。図4は、右肩の上面の撮像図である。
【0041】
図5は、右肩にある肩甲骨の正面図である。図6は、右肩にある肩甲骨の背面図である。図7は、右肩にある肩甲骨の左面図である。図8は、右腕を構成する上腕骨の正面図であり、上腕骨の下部の図示を省略している。図9は、右腕を構成する上腕骨の背面図であり、上腕骨の下部の図示を省略している。
【0042】
図10は、本発明の一実施形態による人体模型の斜視図であり、人体模型を背面側から観ている。図11は、前記実施形態による人体模型の正面図である。図12は、前記実施形態による人体模型の背面図である。図13は、前記実施形態による人体模型の右側面図である。
【0043】
図14は、本発明の別の実施形態による人体模型の斜視図であり、別の実施形態による人体模型を背面側から観ている。
【0044】
最初に、本発明者らによる最新の発見に基づく回旋筋腱板の構成を説明する。図1及び図2は、肩峰が剥離されており、大結節に付着する棘上筋及び棘下筋における筋肉及び腱の組織を示している。図1を参照すると、結合組織は、星印で示された付着物近傍の棘上筋SSP及び棘下筋ISPを覆っている。これらの結合組織は、棘下筋ISPから棘上筋SSPを分離が困難に作られている。
【0045】
図2を参照すると、前記結合組織を除去した後には、図中矢印で示した棘上筋SSPの前縁が鮮明に確認された。なお、図1及び図2において、符号Bgは二頭筋溝、符号CPは烏口突起、符号GTは大結節、符号PMiは小胸筋、符号SSは肩甲棘をそれぞれ示している。又、図1及び図2において、直交座標軸Antの方向は、人体の前を示し、直交座標軸Medの方向は、人体の正中を示している。
【0046】
図3及び図4は、棘上筋及び棘下筋における腱の付着物を示している。図3を参照すると、棘上筋SSPは、無傷で残す一方、棘下筋は、その大部分を上腕から剥離している。アスタリスク*で示した線分は、棘上筋と棘下筋の付着領域の境界を示している。
【0047】
図4を参照すると、棘上筋は、上腕から剥離している。又、棘上筋の付着領域が観察可能である。そして、棘上筋及び棘下筋の除去後に、その関節包が無傷であることが注目される。なお、図3及び図4において、符号Bgは二頭筋溝、符号GTは大結節をそれぞれ示している。
【0048】
次に、図5から図9に示された肩甲骨及び上腕骨上部も参照しながら、本発明者らの調査結果を説明する。図1から図4において、棘上筋及び棘下筋の上腕付着物は、棘上筋及び棘下筋の解剖に関して、全ての標本が同じパターンであった。
【0049】
図5から図7を参照すると、棘上筋は、棘上窩及び肩甲棘の上部表面から始まり、外側に至っている。棘下筋は、棘下窩及び肩甲棘の下部表面の双方から始まり、上外側に至っている。
【0050】
棘上筋及び棘下筋は、それらの付着物が一体の構造体として、上腕骨に結合していると思われていた。しかし、全ての標本において、烏口上腕靭帯及び緩やかな結合組織の残存物は、図1及び図2及び棘下筋の付着物近傍の棘上筋及び棘下筋を覆っていた。棘下筋の前縁は、端を発し、二つの筋肉の境界がはっきりとしていた(図1及び図2参照)。
【0051】
図1及び図2において、棘下筋の前縁は、その後部より僅かに隆起しており、棘上筋の縁に隣接している。棘下筋の前部は、棘上筋の後側部を部分的に覆っている(図2参照)。
【0052】
次に、棘下筋を肩甲骨及び上腕骨から無傷で解離した。この過程において、棘上筋と棘下筋の下にある関節包は、損傷されていなかった。大結節の上部表面は、高位、中位、低位の三つの停止部を特徴とすると言われている。発明者らは、棘下筋の上腕付着物が高位の停止部の約半分及び中位の停止部の全てを封鎖していることを発見した。図3において、棘下筋の上腕付着物の最前部領域は、大結節の高位の停止部の前縁まで到達していた。
【0053】
次に、発明者らは、肩甲骨及び上腕骨から棘上筋を剥離した。この過程の間において無傷で保障された横たわる関節包から、棘上筋を分離できた。この棘上筋は、大結節の高位の停止部の前中央部に挿入されていることが発見された。
【0054】
棘上筋のフットプリントは、関節表面に沿って横たわる底辺を一辺とする正三角形の形状であった。棘上筋のフットプリントは、前方に拡大され、後方に狭められていた(図4参照)。大結節において、棘上筋と棘下筋のフットプリントは、全ての標本が同じパターンを示した。
【0055】
次に、本発明の実施形態による人体模型の構成を説明する。図10から図13に示された人体模型10は、人体の右肩の関節を模倣している。図10から図13を参照すると、人体模型10は、肩甲骨部品1と上腕骨上部部品2を備えている。肩甲骨部品1は、肩甲骨を模倣している。上腕骨上部部品2は、肩甲骨と旋回自在に連結する上腕骨上部を模倣している。
【0056】
又、図10から図13を参照すると、人体模型10は、棘上筋部品3と棘下筋部品4を備えている。棘上筋部品3は、棘上筋を模倣している。棘上筋は、肩甲骨の棘上窩、及び棘上筋膜の内面から起始し、肩峰の下を外方へ走り、上腕骨上部の大結節の上部へ至っている。
【0057】
図10から図13を参照すると、棘上筋部品3は、基端部31を肩甲骨部品1の棘上窩部1aに固定している。又、棘上筋部品3は、先端部32を上腕骨上部部品2の大結節部2aの上部に固定している。
【0058】
図10から図13を参照すると、棘下筋部品4は、基端部41を肩甲骨部品1の棘下窩部1bに固定している。又、棘下筋部品4は、帯状に延びる先端部42の一辺が棘上筋部品3の先端縁と境界をなしている。更に、棘下筋部品4は、先端部42が上腕骨上部部品2の大結節部2aを覆うように、大結節部2aに着脱自在に係止している。
【0059】
図10を参照すると、人体模型10は、三角筋を模倣した三角筋部品5を備えている。三角筋部品5の肩峰部は、その基端部が肩甲骨部品1の肩峰部1cに固定されている。三角筋部品5の肩峰部は、その先端部を中断している。三角筋肩の肩峰部は、上腕を外転できる。なお、図11から図13において、三角筋部品5は、図示を省略している。
【0060】
図11を参照すると、人体模型10は、肩甲下筋を模倣した肩甲下筋部品6を備えている。肩甲下筋部品6は、その基端部61が肩甲骨部品1の肩甲下窩部1dに固定されている。肩甲下筋部品6は、その筋束が三角形に集まって外方へ向かい、先端部62が上腕骨上部部品2の小結節部2bに着脱自在に係止している。肩甲下筋は、肩関節を内旋及び水平屈曲できる。
【0061】
図11又は図13を参照すると、人体模型10は、小円筋を模倣した小円筋部品7を備えている。小円筋部品7は、その基端部が肩甲骨部品1の後面外側縁上部1eに固定され、上腕骨上部部品2の大結節部2aと小結節部2bの間を通過している。小円筋は大結節の下部に停止するが、図示した小円筋部品7は、固定していない。小円筋は、肩関節を外旋、又は内転できる。
【0062】
図10から図13において、棘上筋部品3、棘下筋部品4、肩甲下筋部品6、及び小円筋部品7は、肩甲骨部品1に対して上腕骨上部部品2を旋回させる回旋筋腱板を構成している。つまり、人体模型10は、ローテーターカフ付きの肩関節の人体模型である。
【0063】
次に、構成を補足しながら、本発明の実施形態による人体模型の作用を説明する。
【0064】
図10から図12を参照すると、棘上筋部品3は、基端部31を肩甲骨部品1の棘上窩部1aに図示しないビスで固定している。又、棘上筋部品3は、先端部32を上腕骨上部部品2の大結節部2aの上部にビス321で固定している。
【0065】
図10から図12において、棘上筋部品3は、軟質の合成樹脂から形成されている。上腕骨上部部品2を動かすと、棘上筋部品3が伸縮するので、棘上筋が上腕の外転(体肢を身体の中心面から遠ざける)に作用していることを理解できる。
【0066】
図10から図12を参照すると、棘下筋部品4は、基端部41を肩甲骨部品1の棘下窩部1bに二つのビス411で固定している。又、棘下筋部品4は、帯状に延びる先端部42の一辺が棘上筋部品3の先端縁と境界をなしている(図13参照)。
【0067】
図13を参照すると、棘下筋部品4の先端部42は、上腕骨上部部品2の大結節部2aを覆うように、大結節部2aから突出した二つのフック242に着脱自在に係止している。棘下筋部品4の先端部42は、一方が大結節部2aの高位にあるフック242に着脱自在に係止され、他方が大結節部2aの中位にあるフック242に着脱自在に係止されている。棘下筋部品4は、軟質の合成樹脂から形成されている。上腕骨上部部品2を動かすと、棘下筋部品4が伸縮するので、棘下筋が上腕の外旋(肩関節の場合は肘を屈曲して前方に伸ばした前腕を内方へ移動する)に作用していることを理解できる。
【0068】
図11を参照すると、肩甲下筋部品6の基端部61を肩甲骨部品1の肩甲下窩部1dにビス611で固定している。一方、肩甲下筋部品6の先端部62は、上腕骨上部部品2の小結節部2bから突出したフック262に着脱自在に係止している。
【0069】
図11を参照すると、肩甲下筋部品6は、軟質の合成樹脂から形成されている。上腕骨上部部品2を動かすと、肩甲下筋部品6が伸縮するので、肩甲下筋が上腕の内旋(肩関節の場合は肘を屈曲して前方に伸ばした前腕を外方へ移動する)及び水平屈曲に作用していることを理解できる。
【0070】
従来の市販の回旋筋腱板付きの肩関節の人体模型は、棘上筋部品の先端部を上腕骨上部部品2の大結節部2aを覆うように固定していた(図13参照)。又、従来の人体模型は、棘下筋部品の先端部を上腕骨上部部品2の大結節部2aの後部にフックで係止していた(図13参照)。棘上筋の腱が殆ど上腕骨上部の大結節部に結合している、と理解されていたからである。したがって、回旋筋腱板の断裂は、棘上筋の損傷によるものと理解されていた。
【0071】
一方、図13を参照すると、本発明の実施形態による人体模型10は、棘上筋部品3の先端部32を上腕骨上部部品2の大結節部2aの上部に固定している。又、棘下筋部品4は、帯状に延びる先端部42の一辺が棘上筋部品3の先端縁と境界をなしている。更に、棘下筋部品4の先端部42は、上腕骨上部部品2の大結節部2aを覆うように、大結節部2aから突出したフック242に着脱自在に係止している。
【0072】
本発明の実施形態による人体模型10は、本発明者らの発見に基づいて、製作されている。人体模型10は、棘下筋の腱が殆ど上腕骨上部の大結節部に結合していることを理解するのが容易である。又、回旋筋腱板の断裂は、棘下筋の損傷によるものであることを正しく理解できる。
【0073】
このように、本発明の実施形態による人体模型10は、人体の肩における棘上筋と棘下筋の付着位置について、正しい構造の回旋筋腱板付きの肩関節の模型を実現しているので、医療関係者を訓練及び教育するのに役立てることができる。又、本発明の実施形態による人体模型10は、患者及びその関係者に断裂の治療を正しく理解してもらうことも可能になる。
【0074】
次に、本発明の別の実施形態による人体模型の構成を説明する。なお、別の実施形態において、先の実施形態で使用された符号と同じ符号の構成品は、その作用を同一とするので説明を割愛する場合がある。
【0075】
図14を参照すると、別の実施形態による人体模型100は、人体の右肩の関節を模倣している。人体模型100は、肩甲骨部品1と上腕骨上部部品2を備えている。又、人体模型100は、棘上筋部品3と棘下筋部品4を備えている。
【0076】
図14を参照すると、棘下筋部品4は、第1面ファスナ41fと第2面ファスナ42fを一方の面に取り付けている。第1面ファスナ41fは、棘下筋部品4の基端部41を肩甲骨部品1に着脱自在に固定できる。第2面ファスナ42fは、棘下筋部品4の上腕骨上部部品2に着脱自在に固定できる。
【0077】
図14を参照すると、人体模型100は、L字状の基台8と基台8を覆うカバー91を備えている。基台8は、肩甲骨部品1の端面、及び上腕骨上部部品2の端面をビスなどの締結具(図示せず)で着脱自在に固定している。
【0078】
図14を参照すると、更に、人体模型100は、カバー91に部分的に設けて、人体模型100の関節部を視認可能な透明カバー92を備えている。透明カバー92は、内視鏡又は手術用器具(いずれも図示せず)を挿入可能な複数の孔92aを開口している。
【0079】
次に、本発明の別の実施形態による人体模型の作用を説明する。
【0080】
図14を参照すると、基台8は、その水平台及び垂直台に複数の吸盤8aを分散配置しているので、人体模型100を机上又は壁に固定できる。
【0081】
又、図14を参照すると、人体模型100は、複数の孔に内視鏡又は手術用器具を挿入して、医療関係者が内視鏡手術を訓練できる。例えば、棘下筋部品4を伸縮が自在な布体とすることにより、この棘下筋部品4を基端部41から先端部42に向けて引っ張る、断裂の内視鏡手術を訓練できる。
【0082】
本発明の別の実施形態による人体模型100は、棘下筋部品4が帯状に延びる先端部42の一辺を棘上筋部品3の先端縁と境界をなし、棘下筋部品4の先端部42が上腕骨上部部品2の大結節部2aを覆うように、大結節部2aに着脱自在に係止しているので、棘上筋より棘下筋の方が充分に肩の旋回に作用していることを理解できる。そして、棘下筋に起因する断裂の内視鏡手術を訓練できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】右肩の上面の撮像図である。
【図2】右肩の上面の撮像図である。
【図3】右肩の上面の撮像図である。
【図4】右肩の上面の撮像図である。
【図5】右肩にある肩甲骨の正面図である。
【図6】右肩にある肩甲骨の背面図である。
【図7】右肩にある肩甲骨の左面図である。
【図8】右腕を構成する上腕骨の正面図であり、上腕骨の下部の図示を省略している。
【図9】右腕を構成する上腕骨の背面図であり、上腕骨の下部の図示を省略している。
【図10】本発明の一実施形態による人体模型の斜視図であり、人体模型を背面側から観ている。
【図11】前記実施形態による人体模型の正面図である。
【図12】前記実施形態による人体模型の背面図である。
【図13】前記実施形態による人体模型の右側面図である。
【図14】本発明の別の実施形態による人体模型の斜視図であり、別の実施形態による人体模型を背面側から観ている。
【符号の説明】
【0084】
1 肩甲骨部品
1a 棘上窩部
1b 棘下窩部
2 上腕骨上部部品
2a 大結節部
3 棘上筋部品
4 棘下筋部品
10・100 人体模型
31 基端部(棘上筋部品3の基端部)
32 先端部(棘上筋部品3の先端部)
41 基端部(棘下筋部品4の基端部)
42 先端部(棘下筋部品4の先端部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の肩関節を模倣した人体模型であって、
肩甲骨を模倣した肩甲骨部品と、
上腕骨上部を模倣した上腕骨上部部品と、
棘上筋を模倣した棘上筋部品と、
棘下筋を模倣した棘下筋部品と、を備え、
前記棘上筋部品は、基端部が前記肩甲骨部品の棘上窩部に固定され、先端部が前記上腕骨上部部品の大結節部の上部に固定され、
前記棘下筋部品は、基端部が前記肩甲骨部品の棘下窩部に固定され、帯状に延びる先端部の一辺が前記棘上筋部品の先端縁と境界をなし、かつ当該先端部が前記上腕骨上部部品の大結節部を覆うように当該大結節部に係止されている人体模型。
【請求項2】
前記棘下筋部品の先端部は、一方が前記大結節部の高位に着脱自在に係止され、他方が前記大結節部の中位に着脱自在に係止されている請求項1記載の人体模型。
【請求項3】
前記棘上筋部品及び棘下筋部品は、伸縮自在な部材からなる請求項1又は2記載の人体模型。
【請求項4】
前記棘下筋部品は、基端部を前記肩甲骨部品に着脱自在に固定する第1面ファスナと、先端部を前記上腕骨上部部品に着脱自在に固定する第2面ファスナと、を有する請求項2又は3記載の人体模型。
【請求項5】
前記肩甲骨部品及び前記上腕骨上部部品の少なくとも一方を固定する基台と、
前記基台を囲うカバーと、
前記カバーに部分的に設けられて関節部を視認可能な透明カバーと、を更に備え、
前記透明カバーは、内視鏡又は手術用器具を挿入可能な複数の孔を有する請求項1から4のいずれかに記載の人体模型。

【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−113032(P2010−113032A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283656(P2008−283656)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年5月1日発行の『The Journal of Bone and Joint Surgery(J Bone Joint Surg Am.2008;90:962−969.)』(発行者:The Journal of Bone and Joint Surgery Incorporated)にて発表。
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】