説明

人工呼吸器をつけている患者の呼気中の希ガスの膜分離による保持

本発明は、気体混合物、特に、人工呼吸器をつけている患者の呼吸ガスの処理に関する。
本発明による方法は、特に、人工呼吸器をつけている患者の呼気中の希ガスを保持するための、選択的に気体を分離する膜の使用に関する。その気体分離膜は、人工呼吸器に組み込まれた能動的分離器である。その分離膜は、選択的に希ガスを保持することにより、呼気の残余の残りから希ガスを分離する。
よって、麻酔剤としての希ガス、特にキセノンを、好ましくは低損失でできるだけ簡便に適用することを可能とする人工呼吸器を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体混合物の処理、特に、人工呼吸器をつけている患者の呼気中の希ガスの保持に関する。特に、本発明は、人工呼吸器をつけている患者の呼吸ガス中の希ガスを保持するための、選択的に気体を分離する膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
希ガスのうちでキセノンのみが、標準気圧状態において麻酔効果を示す。この効果は、1941年にロシア人科学者ニコライ ワシリエビッチ ラザレフ(Nikolay Vasilievich Lazarev)によって実証された。
【0003】
キセノンの麻酔効果は、亜酸化窒素のそれよりも1.5倍強い。その極めて低い血液溶解性のために、キセノンは、これまでに知られている他の全ての麻酔剤よりも素早く吐出される。加えて、キセノンは、オゾン層に有害でなく温室効果ガスでもないので、環境を損なわない。キセノンは、不燃性であり且つ妊婦に対し無害である。その麻酔特性のみならず、キセノンは患者の脳機能の保護に有益である。キセノンによる麻酔状態の間、患者の循環状態は極めて安定した状態を保つので、キセノンは特に心臓血管の疾患を患っている患者に適している。
【0004】
キセノンは、その特性によって、他の麻酔剤に比し、特定の適応症について長所を示す。材料費はたしかに高くなるであろう。しかしながら、治療の総費用は、副作用が小さいこと及びキセノン使用中における器官についての保護特性等の有利な活性の特性によって顕著に低減するであろう。
【0005】
医療における適用については、キセノンの製造は将来顕著に増加するであろう。しかし、その化学特性と低い利用可能性及びその製造に用いられるコストにより、キセノンは亜酸化窒素や従来の麻酔剤の代替物ではなくそれらを補完するものである。
【0006】
コスト削減の一つの可能性は、使用済みキセノンをリサイクルして再使用することになろう。
【0007】
先行技術として、いくつかの低温プロセス(cryogenic processes)が存在する。
【0008】
DE 44 11 533 C1には、キセノン用の回収装置を有する麻酔器具が記載されている。その回収装置においては、予め精製された呼気が、圧縮され、冷却装置に含まれている圧力容器内に導入される。その圧力容器は、回収されたキセノンが液化されるようにするために、冷却装置によって冷却される。キセノンは、呼気から、圧力容器内で液体の状態で収集される。そこから、そのキセノンは患者へ戻される。
【0009】
WO 98/18718には、麻酔システムにおいてキセノンを精製して回収する器具及び方法が記載されており、キセノンは、精製後、冷却容器内において液体状態で収集され、患者へ戻される。
【0010】
DE 196 35 002 A1には、麻酔ガスからのキセノンのオンライン回収の方法が記載されており、呼気は冷却面に接し、その温度は、回収される成分の融点より低い。これにより、キセノンは凍結によって分離され、不純物は真空内で頂部ガスの上方へ回収される。
【0011】
WO 01/24858 Aには、気体、特に吐息又は麻酔器具からの排出ガスのような湿気のある気体がリサイクルのために収集され得るシステム及び方法が記載されている。その気体は、圧縮容器内で、冷間加工された(cold-worked)又は圧縮された気体のような圧縮された形態に変換される。
【0012】
前述のシステムは、麻酔システムの一部であり、麻酔状態において患者にキセノンを直接再循環させようとするものである。それらのシステム及び方法は、器具及びコストに関しいくつかの問題を伴う。
【0013】
そのため、近頃は、より簡単で安価なキセノンのリサイクルが可能な代案が検討されている。
【0014】
これに関し、適切な半透膜による気体分離、いわゆる選択的気体分離膜が重要な役割を果たす。
【0015】
液体の、気体状の及び蒸気質の流体混合物の、膜による分離は、種々のプロセスにおいて知られている。適用された流体の成分の少なくとも一つは、膜により保持され、いわゆる未透過物(retentate)の形で排出される。流体混合物の少なくとも他の一つの成分は、膜に浸透し得、次いで、膜の他方の側に透過物として排出される。
【0016】
しかしながら、近時において、十分に薄く、従って十分に透過し得、空孔がなく機械的に安定な気体分離用フィルムを製造することができる技術が開発された。これらのタイプの膜は、多孔質の支持層上の、非常に薄くて非多孔性の気体選択性フィルムに基づく。
【0017】
先行技術、例えばEP 428 052によれば、半透性の複合膜である気体分離膜が知られている。
【0018】
DE 697 17 215 T2は、プラズマディスプレイのシール炉からの、膜分離による気体回収、特に希ガス回収の方法を開示している。
【0019】
DE 103 00 141 A1は、閉じた又は部分的に閉じた空間内で、気体精製膜システムによって同時に二酸化炭素濃度を低下させることによる、空気からの酸素富化法について述べている。使用された膜は、例えばポリスルホン、ポリオクチルメチルシロキサン、ポリエーテルイミド、シリコーン、エチルセルロース、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルフォン、ポリカーボネート、或いはこれらの組み合わせによる活性層を有する。
【0020】
EP 1 086 973 A2によれば、ポリイミドのフィルム、塗膜及び膜による、多数の流体分離の用途に適用される気体分離手段が知られている。
【0021】
人工呼吸器をつけている患者の呼気中の希ガスの保持のための気体分離膜の使用は、これまでに記述されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】DE 44 11 533 C1
【特許文献2】WO 98/18718
【特許文献3】DE 196 35 002 A1
【特許文献4】WO 01/24858 A
【特許文献5】EP 428 052
【特許文献6】DE 697 17 215 T2
【特許文献7】DE 103 00 141 A1
【特許文献8】EP 1 086 973 A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明の目的は、できるだけキセノンの損失を少なくしながら、気体混合物、例えば患者の呼吸ガス中の希ガス、特にキセノンの保持に有用な簡便な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的は、人工呼吸器をつけている患者の呼気に含まれる希ガスの回収のための選択性を有する気体分離膜を、特許出願DE 10 2005 032977に記載されている、気体混合物の処理のための装置及び方法との組み合わせにおいて使用することにより解決される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の利点は、特許出願DE 10 2005 032977に記載されている人工呼吸器のための差し込み式装置(plug-in)に用いられる、希ガスに対し選択性のある選択的気体分離膜を使用することにより、患者の人工呼吸のための鎮静剤としての希ガス、特にキセノンの使用を、低コストで可能とすることである。これにより得られるいくつかの器具を用いる効果により、希ガスについての支出が、その希ガスの回収により最小限に削減され得る人工呼吸器を提供することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
希ガス成分を呼気から分離するために用いられる気体分離膜は、目的とする希ガス又は希ガス混合物に対し比較的低い透過性を特徴とすべきである。加えて、その気体分離膜は、気体混合物から分離される目的成分に対し高い分離度を特徴とすべきである。特に、気体分離膜は、膜の分離特性が吐出気体に含まれる湿気により影響されないように選択されるべきである。
【0027】
分離されるべき希ガス及び希ガス混合物が不浸透性の、本発明において使用される気体分離膜は、従来知られている。そのような気体分離膜の使用の例は、Membrane Handbook, Winston Ho und Kamalesch Sirkar, Springer 1992のような当業者に知られているいくつかの刊行物中に見つけることができる。
【0028】
好ましい気体分離膜は、例えば、DE 100 51 910 A1に記載されているように流体の分離及び精製に有用な酸化物および/または非酸化物セラミクスに基づく、柔軟性がある多孔性の膜のような微多孔膜である。
【0029】
本発明において使用されるより好ましい気体分離膜は、微多孔炭素膜(microporous carbon membranes)である。炭素膜、その製法、及び種々の気体の分離のためのその使用は、例えばUS 4 685 940、UK 2 207 666、EP 621 071 B1及びEP 0 621 071 B1において、技術的に知られている。
【0030】
本発明によれば、気体分離膜は、患者からの呼気が周囲に放出される人工呼吸器において用いられる(主な気体混合物の開循環流れ)。もし、キセノンなどの希ガスのような患者を鎮静するのに有用な成分が呼吸ガスの主成分に加えられるのであれば、希ガス成分の不使用部分をリサイクルし、そのガスを患者に再供給することが望ましい。これは、呼気の他の成分から希ガス成分を分離して希ガスの回収を可能とするための選択素子を要する。
【0031】
これは、挿管チューブと吐出気体の開放出口の間の吐出気体の気体経路に、上記選択素子を有する差し込み式の装置を必要とする。そのような、患者のための人工呼吸器において使用される差し込み式の装置は、特許出願DE 10 2005 032977及びPCT/EP2006/05376において開示されている。
【0032】
本発明による差し込み式気体選択素子は、希ガス成分が吐息ガス成分の残部から分離されて新鮮な呼吸ガス混合物に加えられるように、選択性を有する半透性の気体分離膜を使用することを含み、それにより、希ガス部分は状況に応じ新たに調整され、このように処理された呼吸ガスが患者へ再供給される。
【0033】
例えば希ガス成分は、希ガスに対し選択的に浸透性を有する膜によって呼気チューブから分離され、呼気ガスの残部は、周囲に放出される。制御可能な供給調整器を越えて排出された新たな呼吸ガスのための希ガスが、貯留部から混合室に加えられ、その混合室に対し、選択素子を含む差し込み式装置が直列に連結されている。呼気ガスから分離された希ガス成分は、この貯留部に再供給され得る。この際、患者に対し再供給される気体混合物中の希ガス成分の量をセンサーによって測定することが必要である。これは、混合室内、又は混合室への供給ライン内、例えば挿管チューブ内の何れにおいても行われてよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工呼吸器をつけている患者の呼気に含まれている希ガスの回収のための気体分離膜の使用。
【請求項2】
希ガスが、ヘリウム、ネオン、クリプトン、アルゴン、キセノン、及びそれらの混合物からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
希ガスがキセノンであることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項4】
気体分離膜が微多孔膜であることを特徴とする前記請求項の一つに記載の使用。
【請求項5】
気体分離膜がカーボン分子ふるい膜であることを特徴とする請求項4記載の使用。
【請求項6】
気体分離膜が人工呼吸器の一部であることを特徴とする前記請求項の何れか一つに記載の使用。

【公表番号】特表2009−544382(P2009−544382A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521275(P2009−521275)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057720
【国際公開番号】WO2008/012350
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(508006609)
【氏名又は名称原語表記】SCHMIDT, Klaus
【住所又は居所原語表記】Im Jacklbauernfeld 10,89312 Gunzburg,Germany