説明

人工呼吸器及びその運転方法

【課題】小型かつ低消費電力の人工呼吸器及びその運転方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る人工呼吸器100において、制御部17は、弁機構5,8の駆動を制御することで、リザーバタンク4内に貯留された吸気用気体を患者へ送出する第1の状態と、患者の呼気を解放する第2の状態とを交互に切り替える。加圧ポンプ1は、吸気により生じたリザーバタンク4内の圧力低下を呼気時間で回復させる吐出性能を有する。ここで、呼気時間(第2の時間)は吸気時間(第1の時間)以上の長さに設定されることで、必要とされる吸気空気を小容量の加圧ポンプでリザーバタンク4へ供給することが可能となる。これにより、加圧ポンプ1及びリザーバタンク4の容量を小さくすることができるとともに、加圧ポンプ1の駆動電力の削減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蘇生処置で人工呼吸を使用者(患者)に施す際の吸気用気体(吸気ガス)を供給する人工呼吸器及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動体外式除細動器(AED)は、医師、救急救命士、看護士等の医療従事者でない一般市民も使用できるようになり、空港、駅、ビルなどの人の集まる場所に広く配置され、救命率上昇に役立っている。蘇生処置では、心臓停止と呼吸停止に対応しなくてはならない。心臓停止に対しては、AEDは有効であるが、呼吸停止に対しては、人工呼吸(マウスツーマウス法等)に頼らなければならないのが現状である。そこで、移動容易な小型の救急対応型の人工呼吸器がAEDとともに広く普及すれば、救命率をさらに高めることが可能となる。
【0003】
一般に普及している人工呼吸器は、医療従事者が使用することを前提としており、呼吸パターンの設定、吸気圧力、酸素濃度、呼気CO濃度等を患者に合わせて設定または自動設定する仕組みとなっていることから、大型の装置となっている。さらに、吸気ガスの供給は、病院の基幹設備を使用するか、移動対応型であっても圧縮空気容器、圧縮酸素容器を使用するものがほとんどであるため、人工呼吸器を容易に移動使用することができない。
【0004】
人工呼吸器をAEDと併設することを前提とすると、装置の小型化、軽量化が重要となる。吸気ガスを供給する方法としては、圧力容器を利用する方法がある。この場合、一回の吸気量を0.5L、呼吸回数を12回/分、処置時間を60分とすると、必要な空気量は360Lとなる。ガス圧力を10MPaとするとガス容積は3.6Lとなり、市販の圧力容器を使用すると10Lの容器となり、12kg程度の重量となるので、容易に移動できない。
【0005】
一方、下記特許文献1には、携帯可能な人工呼吸器が開示されている。この人工呼吸器において、吸気ガスはデュアルヘッドの空気圧縮機で生成する。呼吸の切り替えは、空気駆動弁が採用されており、この弁の駆動用圧縮空気を生成するためにシングルヘッドの空気圧縮機が組み込まれている。これら2つの空気圧縮機を交互に運転することで、呼吸パターンを形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−525273号公報(段落[0036]−[0039])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、AEDと同様に、移動容易な小型の救急対応型の人工呼吸器の普及が強く要請されており、このような要請に応えるためには、定置場所から容易に移動できる程度の小型・軽量化と低消費電力化といった種々の技術的課題を克服する必要がある。しかし、上記特許文献1に開示されている人工呼吸器では、このような課題の克服に不十分である。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、小型かつ低消費電力の人工呼吸器及びその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る人工呼吸器は、マスクと、リザーバタンクと、弁機構と、制御部と、加圧ポンプとを具備する。
上記マスクは、患者に装着されるためのものである。上記リザーバタンクは、吸気用気体を貯留する。上記弁機構は、上記マスクと上記リザーバタンクとの間に接続され、第1の状態と第2の状態とを有する。上記第1の状態は、上記リザーバタンク内の上記吸気用気体を上記マスクに送出する。上記第2の状態は、上記マスクから排出される上記患者の呼気を解放する。上記制御部は、上記第1の状態と上記第2の状態とを交互に切り替え可能である。上記制御部は、上記第1の状態が第1の時間維持され、上記第2の状態が上記第1の時間以上の長さを有する第2の時間維持されるように上記弁機構の駆動を制御する。上記加圧ポンプは、上記リザーバタンクに接続され、上記第1の時間で消費された上記吸気用気体を上記第2の時間内に補充する。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る人工呼吸器の運転方法は、患者に装着されたマスクへリザーバタンク内の吸気用気体を第1の時間送出する工程を含む。上記患者の呼気は、上記リザーバタンクと上記マスクとの連通を上記第1の時間以上の長さを有する第2の時間遮断した状態で、解放される。上記リザーバタンクに接続された加圧ポンプにより、上記第1の時間で消費された上記吸気用気体が前記第2の時間内に補充される。上記リザーバタンク内の吸気用気体は、上記マスクへ上記第1の時間送出される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工呼吸器の呼吸パターンを示す図である。
【図2】加圧ポンプから直接マスクに吸気ガスを送る場合のガス供給系の配管構成図である。
【図3】加圧ポンプからリザーバタンクを介してマスクに吸気ガスを送る場合のガス供給系の配管構成図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるリザーバタンク内のガス量の時間変化を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるリザーバタンク内の圧力の時間変化を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る人工呼吸器の全体構成を示す配管構成図である。
【図7】本発明の一実施形態に用いられる加圧ポンプの性能を示す図であって、回転数を変化させたときの吐出流量と圧力との関係を表している。
【図8】本発明の一実施形態に係る人工呼吸器の消費電力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る人工呼吸器は、マスクと、リザーバタンクと、弁機構と、制御部と、加圧ポンプとを具備する。
【0013】
マスクは、例えば患者の口及び鼻を覆うように装着される。制御部は、弁機構の駆動を制御することで、リザーバタンク内に貯留された吸気用気体を患者へ送出する第1の状態と、患者の呼気を解放する第2の状態とを交互に切り替える。加圧ポンプは、吸気により生じたリザーバタンク内の圧力低下を呼気時間で回復させる吐出性能を有する。ここで、呼気時間(第2の時間)は吸気時間(第1の時間)以上の長さに設定されることで、必要とされる吸気用気体を小容量の加圧ポンプでリザーバタンクへ供給することが可能となる。これにより、加圧ポンプ及びリザーバタンクの容量を小さくすることができるとともに、加圧ポンプの駆動電力の削減を図ることができる。したがって、上記人工呼吸器によれば、小型化及び低消費電力化を図ることが可能となる。
【0014】
上記人工呼吸器は、蓄電池と、筐体とをさらに具備してもよい。上記蓄電池は、上記弁機構、上記制御部及び上記加圧ポンプにそれぞれ電力を供給する。上記筐体は、上記蓄電池、上記マスク、上記リザーバタンク、上記弁機構、上記制御部及び上記加圧ポンプをそれぞれ収容する。
これにより、所定の定置場所への人工呼吸器の設置、及び定置場所からの人工呼吸器の移動を容易に行うことが可能となる。
【0015】
上記人工呼吸器は、当該人工呼吸器の操作手順を音声又は映像にて案内する案内手段をさらに具備してもよい。
これにより、医療従事者以外の一般市民による人工呼吸器の操作が可能となる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る人工呼吸器の運転方法は、患者に装着されたマスクへリザーバタンク内の吸気用気体を第1の時間送出する。第1の時間で消費された吸気用気体は、リザーバタンクに接続された加圧ポンプにより、第1の時間以上の長さを有する第2の時間内に補充される。
【0017】
上記人工呼吸器の運転方法によれば、加圧ポンプ及びリザーバタンクの容量を小さくすることができるとともに、加圧ポンプの駆動電力の削減を図ることができる。これにより、人工呼吸器の小型化及び低消費電力化を図ることが可能となる。
【0018】
また、上記加圧ポンプを、上記第1の時間から上記第2の時間にかけて一定回転数で連続的に運転することで、加圧ポンプを間欠的に運転する場合よりも消費電力の低減を図ることが可能となる。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下、具体的に数値を挙げて説明するが、本発明は勿論、これらの数値に限定されない。
【0020】
本発明の一実施形態に係る人工呼吸器は、容量の比較的小さな加圧ポンプを使用することで、装置の小型化、軽量化を実現するようにしている。誰でも使える救急用途での人工呼吸器を目指す場合、吸気量(換気量)、呼吸回数、吸気と呼気の比率、吸気圧力の設定は、使用者(患者)に合わせて最適化することは非常に困難である。そこで、呼吸パターンは、安全性を考慮し1つのパターンとする。ただし、吸気量は、小児と大人とで選択できるようにする。気道内圧力が40cmH2Oを越えると気管や肺に障害を及ぼす可能性があるため、吸気圧力は、典型的には、10〜30cmH2Oに設定され、本実施形態では、30cmH2Oに設定される。呼吸数は12回/分、吸気時間と呼気時間との比率は1:2、吸気量(換気量)は0.5Lとする。
【0021】
図1は、呼吸パターンを示したものである。ただし、圧力(縦軸)は絶対圧力とし、パスカル(Pa)で表している。また、後述の議論では、流量は0℃、1気圧を基準としたNL/minで表記している。呼吸数が12回/分、吸気時間と呼気時間の比率が1:2であることから、呼吸間隔は5秒、吸気時間は1.66秒、呼気時間は3.33秒となる。
【0022】
図2は、加圧ポンプ1を常時運転し、流量調節用オリフィス2を介して電磁弁3で呼吸の切り替えを行う場合を示した。換気量は20℃で0.5L、圧力は30cmH2O=104.264kPaであるから、1回の吸気で消費されるガス量G1は、
G1=換気量×圧力=0.5×104.26=52.13kPa・L …(1)
となる。この換気が1.66秒で行われるので、ガス流量Q1は、
Q1=(G1/1.66)×60
=(52.13/1.66)×60=1884kPa・L/min …(2)
となる。1気圧20℃に換算すると、
1884/101.3=18.6L/min …(3)
となる。0℃、1気圧の標準状態にすると、
18.6×(273/293)=17.33NL/min …(4)
となる。この流量を満足できる加圧ポンプの消費電力は、ポンプの構造、駆動モータの効率により大きく変わるが、30W〜50W程度であり、駆動のための蓄電池は大きなものを用意する必要がある。
【0023】
上記の問題を解決するために、呼気時間は、加圧ポンプを停止させる運転方法が考えられる。呼吸時間の2/3は停止できるので、蓄電池の容量を小さくすることができる。ただし、加圧ポンプの起動時には、大きな起動電流を必要とすることから、短時間に大きな電流を流せる蓄電池が必要となることと、一般の加圧ポンプは、連続運転を前提として作られているので、繰り返し起動を行うと機械的寿命が短くなるという問題が生じる。
【0024】
そこで、本実施形態では、以下のようにして上記の問題を解消するようにしている。すなわち、図1の呼吸パターンにおいて、呼吸間隔は5秒間に対して吸気時間は1.66秒、呼気時間は吸気時間よりも長い3.33秒である。従って、吸気ガスを準備する時間は5秒間かけてよいことになる。そこで、図3に示すガス溜め(リザーバタンク)4を使用し、呼気時間の3.33秒の間にリザーバタンクに吸気ガスを溜め込む方法を考える。この場合、加圧ポンプは連続して運転される。
【0025】
加圧ポンプに求められる吐出ガス量をQ2(kPa・L/min)とすると、
G1=(5/60)×Q2 …(5)
となる。(1)式より、
Q2=625.56kPa・L/min …(6)
20℃、1気圧に換算すると、
625.56/101.3=6.17L/min …(7)
となる。これを0℃、1気圧の標準状態とすると、
6.17×(273/293)=5.75NL/min …(8)
となる。上記の計算により、リザーバタンクを使用することで、リザーバタンクを使用しない場合と比較すると、(4)式より、17.33NL/minの加圧ポンプから、5.75NL/minの加圧ポンプへと小型化できる。
【0026】
次に、リザーバタンク4の容量を求める。図3を参照して、リザーバタンク4の出口側に減圧弁6が接続され、減圧弁6の出口側にマスク(図示略)に連絡する電磁弁5が接続されている。電磁弁5は、呼吸のタイミングで連通状態及び遮断状態が切り替えられる。
【0027】
図3の例において、リザーバタンク4の容量は、減圧弁6を介してマスクに吸気ガスが供給されることから、吸気ガスを消費した時点において、減圧弁6を安定動作させる圧力が残っていなければならない。ここでは、吸気圧力104.26kPa(30cmH2O)を最低圧力とする。リザーバタンク4内のガス量をG(kPa・L)とすると、吸気終了時のリザーバタンク内のガス量は、吸気ガスとして消費される一方、加圧ポンプ1からガスが供給されるので、
G−G1+Q2×(1.66/60) …(9)
となる。なお、呼気終了時のガス量は、吸気終了時のガス量にQ2×(3.33/60)が加えられたものとなる。従って、吸気終了時のリザーバタンクのガス量低下(ΔQ)は、(9)式より、34.83kPa・Lとなる。図4に、時間に対するリザーバタンクのガス量変化を示す。
【0028】
リザーバタンク4の圧力は、タンク容積をVとすると、
P=G/V …(10)
で示される。ここで、リザーバタンク容量を1L、初期圧力を141.3kPa(40kPaG)とした場合の圧力変化を図5に示す。吸気ガスが消費されることによる圧力変化は、
ΔP=G/V=34.83/1=34.83kPa
となり、吸気終了時の圧力は、141.26−34.83=106.43kPaとなり、最低吸気圧力104.26kPaを満足できる。
【0029】
図6は、本発明の一実施形態に係る人工呼吸器の全体を示す概略図である。
【0030】
本実施形態の人工呼吸器100は、ガス供給系、制御系、電源供給系等を収容する筐体23を備える。筐体23は、屋内又は屋外の所定場所に設置されたベース24に対して着脱自在に取り付けられており、使用時にベース24から取り外されて使用場所まで移動される。筐体23の大きさは、例えば、縦、横及び高さがそれぞれ35cm程度である。
【0031】
ベース24は、商用電源等の電力供給源に接続された充電器22を備えている。筐体23は、電源供給系を構成する蓄電池20を内蔵しており、ベース24に設置されることでコンダクタ21を介して蓄電池20を充電可能である。蓄電池20としては、例えば、容量が3AHのニッケル水素電池(24V)が使用可能である。
【0032】
人工呼吸器100のガス供給系は、加圧ポンプ1、リザーバタンク4、減圧弁6、吸気用電磁弁5、呼気用電磁弁8、マスク15を有する。加圧ポンプ1は、リザーバタンク4に接続されており、空気を圧縮することで生成された吸気ガス(吸気用気体)をリザーバタンク4へ供給する。加圧ポンプ1としては、例えば、ダイアフラム型のポンプが使用される。加圧ポンプ1は、DCブラシレスモータ1Mで駆動される。モータ1Mは、ドライバ16を介して蓄電池20から駆動電力が供給され、制御部17からの指令に基づいて出力波形を変化させることで加圧ポンプ1を任意の回転速度で運転させる。
【0033】
加圧ポンプの流量と吐出圧力(揚程)との関係を図7に示す。上述したように、加圧ポンプ1は、圧力141.3kPa(大気圧を基準とした場合の圧力は40kPaG)で、5.75NL/minの能力を有していればよい(式(8))。図7に示す特性を有する加圧ポンプ(アルバック機工株式会社製(商品名「DFC-4-2」))は、回転数3100min-1(rpm)で、圧力40kPaにおいて5.75NL/minの吐出流量を有しているため、十分に目的を達成することができる。この運転条件での消費電力は、13Wであった。
【0034】
加圧ポンプ1は停止している時間が非常に長く、吸気ガスを直ちに供給できるようにリザーバタンク4内の吸気ガスは、加圧された状態で貯留されている。一般に、ダイアフラムポンプは、吸気弁及び排気弁を有しているので、リザーバタンクを加圧したまま停止させると、吐出弁が圧力により押し付けられることで固着し、起動時に吸気ガスを発生させることができなくなるおそれがある。そこで本実施形態では、加圧ポンプ1とリザーバタンク4との間に、リザーバタンク4から加圧ポンプ1への吸気ガスの逆流を防止する逆止弁10が取り付けられている。また、加圧ポンプ1と逆止弁10との間には大気開放用電磁弁9が取り付けられており、ポンプ停止時に圧力を逃がし、吐出弁に吸気ガスの圧力が加わらないように構成されている。大気開放用電磁弁9は、制御部17によって駆動される。
【0035】
リザーバタンク4は、リリーフ弁11を有している。リザーバタンク4の容量は例えば1Lであり、リザーバタンク4の内圧が40kPaG以上となるとリリーフ弁11が開放される。これにより、加圧ポンプ1の過負荷が防止される。
【0036】
リザーバタンク4の下流側には減圧弁6が取り付けられ、減圧弁6の下流側が104.26kPa(3kPaG)に保たれる。減圧弁6の下流側には、流量計7を介して吸気用電磁弁5が接続されている。吸気用電磁弁5は、リザーバタンク4内の吸気ガスをマスク15へ送出する供給弁として機能する。吸気用電磁弁5は連通及び遮断の2位置を有し、吸気時は連通位置に、呼気時は遮断位置にそれぞれ切り替えられる。吸気用電磁弁5の切り替えは制御部17によって制御される。吸気用電磁弁5を通過した吸気ガスは、第1の管路25を介してマスク15へ送出される。
【0037】
第1の管路25は、吸気用電磁弁5とマスク15との間を連結し、少なくとも一部は可撓性のある配管部材で構成されてもよい。第1の管路25は、非使用時は筐体23に収容され、使用時にマスク15と共に筐体23から引き出される。第1の管路25には、フィルタ12と、リリーフ弁13と、圧力計14が取り付けられている。リリーフ弁13は、患者の気道が閉塞された場合などのように、第1の管路25が所定の異常圧力値に達したときに開放される。
【0038】
また、第1の管路25には、呼気用電磁弁8に連絡する第2の配管26が接続されている。呼気用電磁弁8は連通及び遮断の2位置を有し、吸気時は遮断位置に、呼気時は連通位置にそれぞれ切り替えられる。呼気用電磁弁8の切り替えは制御部17によって制御される。
【0039】
制御部17は、人工呼吸器100の制御系を構成する。制御部17は、コンピュータで構成され、加圧ポンプ1(ドライバ16)、吸気用電磁弁5、呼気用電磁弁8及び大気開放用電磁弁9の駆動を制御する。ここで、吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8は本発明に係る「弁機構」を構成する。制御部17は、吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8の切り替えを同期して制御することで、患者へ吸気ガスを送出する状態(第1の状態)と、患者から呼気を排出する状態(第2の状態)とを交互に切り替える。
【0040】
また、制御部17は、流量計7、圧力計14の出力に基づいて、ガス供給系の動作を監視する。例えば、制御部17は、吸気時に、圧力計14によって所定圧力が検出されない場合、マスク15の装着不良と判定し、表示部18又はスピーカ19を介して所定のアナウンスを出力することで、使用者に注意を促す。一方、制御部17は、定められた呼吸回数を経過した後、吸気用電磁弁5と、呼気用電磁弁8の両方を閉じ、そのときの圧力計14の出力をモニタすることで、患者の自立呼吸の回復を検出するように構成されていてもよい。
【0041】
表示部18は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等によって構成され、制御部17によって表示制御される。表示部18は、制御部17の出力に基づいて、患者の状況、マスクの装着状況を表示する。さらに、制御部17は、表示部18に当該人工呼吸器100の操作手順(マスクの装着手順、蘇生手順など)を表示させる。このとき、スピーカ19を用いた音声での案内が同時に行われてもよい。これにより、医療従事者以外の一般市民による救急対応処置が可能となる。なお、上記表示部18及びスピーカ19は、本発明に係る「案内手段」を構成する。
【0042】
次に、以上のように構成される本実施形態の人工呼吸器100の動作を説明する。
【0043】
不使用時、吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8は図6に示すようにそれぞれ遮断位置及び連通位置にある。リザーバタンク4には、あらかじめ、141.3kPaの吸気ガスが貯留されている。また、減圧弁6と吸気用電磁弁5との間のガス圧力は104.26kPaに維持されている。
【0044】
使用時、マスク15は患者に装着される。制御部17は、吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8の駆動を制御して、患者への吸気ガスの供給と呼気の排出を交互に切り替える。本実施形態では、図1に示した呼吸パターンに従って吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8を駆動する。呼吸間隔5秒に対して、吸気時間は1.66秒、呼気時間は3.33秒であり、呼気時間は吸気時間よりも長く設定されている。制御部17は、使用開始と同時に加圧ポンプ1を一定回転数(3100rpm)で連続的に運転する。
【0045】
加圧ポンプ1は、図4及び図5を参照して説明したように、最低吸気圧力(104.26kPa)を保持しつつ、呼気時間の終了までの間に、吸気時に消費されたガス量を補充する。したがって、リザーバタンク4には常に吸気に必要なガス量が確保される。特に本実施形態によれば、吸気時間よりも呼気時間が長く設定されているため、加圧ポンプ1を小容量のポンプで構成することができ、ポンプの小型化、軽量化及び低消費電力化を図ることができる。また、リザーバタンク4に大きな容量は必要とされず、1L程度の小型タンクを用いることができ、装置の小型化、軽量化に大きく貢献することができる。
【0046】
図8に、加圧ポンプ1、吸気用電磁弁5、呼気用電磁弁8、制御部17、表示部18、流量計7、圧力計14、大気開放用電磁弁9の消費電力の一例を示す。吸気用電磁弁5及び呼気用電磁弁8は交互に駆動されるため、消費電力はこれらの合計値で示されている。また、圧力損失を小さく抑える必要があることから、各電磁弁5,8,9に比較的大型のものを使用する場合を例に挙げた。
【0047】
本実施形態において、装置全体の消費電力は、約62Wである。蓄電池20の電圧が24Vである場合、電流値は2.58Aとなる。この場合、3AHの蓄電池20を用いることで、1.1時間の運転が可能である。本実施形態の人工呼吸器100は、救急用の呼吸器であり、例えば救急車が到着するまでの間運転できればよいので、上記の運転時間で十分に目的を達成することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0049】
例えば以上の実施形態では、吸気時間(第1の時間)と呼気時間(第2の時間)の比率を1:2とし、呼気時間を吸気時間よりも長く設定したが、これに限らず、呼気時間を吸気時間と同等の長さに設定してもよい。また、呼気時間が吸気時間と同等以上であることを条件として、上記比率は適宜変更することが可能である。同様に、単位時間あたりの呼吸回数、吸気ガス量、最低吸気圧力等も適宜変更することが可能であり、これらの条件に応じて加圧ポンプとして適宜のポンプを選定することができる。
【0050】
また、以上の実施形態では、吸気と呼気を切り替える弁機構として、一対の2ポート2位置電磁弁5,8を用いたが、これに限られない。例えば、リザーバタンクからマスク側へ吸気ガスを送出する第1の位置と、リザーバタンクとマスクとの間を遮断する第2の位置と、マスクを大気に開放する第3の位置を有する、3ポート3位置電磁弁を上記弁機構として用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…加圧ポンプ
4…リザーバタンク
5…吸気用電磁弁
6…減圧弁
8…呼気用電磁弁
15…マスク
17…制御部
18…表示部
19…スピーカ
20…蓄電池
23…筐体
100…人工呼吸器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に装着されるマスクと、
吸気用気体を貯留するリザーバタンクと、
前記リザーバタンク内の前記吸気用気体を前記マスクに送出する第1の状態と、前記マスクから排出される前記患者の呼気を解放する第2の状態とを有する、前記マスクと前記リザーバタンクとの間に接続された弁機構と、
前記第1の状態と前記第2の状態とを交互に切り替え可能であり、前記第1の状態が第1の時間維持され、前記第2の状態が前記第1の時間以上の長さを有する第2の時間維持されるように前記弁機構の駆動を制御する制御部と、
前記第1の時間で消費された前記吸気用気体を前記第2の時間内に補充する、前記リザーバタンクに接続された加圧ポンプと
を具備する人工呼吸器。
【請求項2】
請求項1に記載の人工呼吸器であって、
前記弁機構、前記制御部及び前記加圧ポンプにそれぞれ電力を供給する蓄電池と、
前記蓄電池、前記マスク、前記リザーバタンク、前記弁機構、前記制御部及び前記加圧ポンプをそれぞれ収容する筐体とをさらに具備する
人工呼吸器。
【請求項3】
請求項2に記載の人工呼吸器であって、
前記人工呼吸器の操作手順を音声又は映像にて案内する案内手段をさらに具備する
人工呼吸器。
【請求項4】
患者に装着されたマスクへリザーバタンク内の吸気用気体を第1の時間送出し、
前記リザーバタンクと前記マスクとの連通を前記第1の時間以上の長さを有する第2の時間遮断した状態で、前記患者の呼気を解放し、
前記リザーバタンクに接続された加圧ポンプにより、前記第1の時間で消費された前記吸気用気体を前記第2の時間内に補充し、
前記マスクへ前記リザーバタンク内の吸気用気体を前記第1の時間送出する
人工呼吸器の運転方法。
【請求項5】
請求項4に記載の人工呼吸器の運転方法であって、
前記加圧ポンプは、前記第1の時間から前記第2の時間にかけて一定回転数で連続的に運転される
人工呼吸器の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−45625(P2011−45625A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197889(P2009−197889)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(591268623)アルバック機工株式会社 (14)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)