説明

人工呼吸補助具

【課題】傷病者と救助者の接触が常に遮断できるようにした人工呼吸補助具を提供する。
【解決手段】被人工呼吸者の口の周囲に被せられる柔軟な円形のシート3からなるカバーと、このカバーの中央部に貫通された円形の断面形状を持ち一定方向にのみ通気可能な弁体13とを備えた筒状体から構成された人工呼吸補助具であって、前記筒状体の上記カバーの表面側に位置する表面構成物と、カバーの裏面側に突出した裏面構成体との間に、複数個から成る柔軟なシートを貫通する針状物6を持つ人工呼吸補助具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工呼吸法として一般的に行われているマウスツーマウスを行う場合に、人工呼吸の被人工呼吸者(傷病者)の口と救助者(救助者)の口が直接に接触することなく行える人工呼吸補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
呼吸停止、心臓停止または仮死状態になった傷病者を救助するための救急蘇生法のとして、医師以外の専門外の者であっても行うことが出来る心肺蘇生法が重要である。この心肺蘇生法では傷病者の気道を確保したのちに、傷病者の鼻孔を塞ぎ傷病者の口に息を直接吹き込むマウスツーマウス人工呼吸を行い、同時に心臓マッサージを交互に行い蘇生を目指す手法である。
しかし上記のマウスツーマウス人工呼吸法は、どこでも、誰にでも施行する必要が出てくる可能性があるが、救助者は傷病者の口に直接触れるため、傷病者が伝染性の疾患を持っていた場合に救助者は感染する恐れがあり、一刻も早急に人工呼吸を行う必要がある場合に、人工呼吸をためらう可能性が出てくる。そのために口の周辺を覆う柔軟なシートの中央部に呼気吹き込み口を設けた人工呼吸用具が知られている。
【0003】
例えば特許文献1にはシートと弁を有した人工呼吸装置が開示されており、救助者の感染予防が行われている。特許文献2にはシートと救助者の呼気を一方的に傷病者に送るための弁、並びに傷病者の呼気が救助者に入らないようにするための袋体を有した人工呼吸装置が開示されている。特許文献3にはシートと2段の切れ込みを持ったシートからなる空気の吹き込み孔を持った人工呼吸装置が開示されており、この発明では一回の呼気の送り込み量が少なくても、数回に分けて呼気の送り込みができるとされている。特許文献4にはシートと弁を有した人工呼吸装置が開示されており、この発明ではシートが破れにくいあるいは弁体がはずれることを防止することが行われている。
いずれの発明とも救助者の感染を防止するため、傷病者との直接的な接触が無く、また救助者の呼気は傷病者に送られるが傷病者からの呼気は救助者に送られない構造を有している。
しかしこの様な人工呼吸装置はいかなる時にもすぐに対応でき無くてはならず、そのためにはできるだけ多くの人が持つことが必要となる。そのためには本装置を安価に提供することが重要となる。
【特許文献1】特公平5−64074公報
【特許文献2】特開平7−246239公報
【特許文献3】特開平8−229146公報
【特許文献4】特願2002−12603公報(平成14年4月26日 )
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、安価に製造し広く普及させるために、製造工程を簡易にし、かつ感染防止を確実なものとするためにシートと筒状体がずれることなく傷病者と救助者の接触が常に遮断できることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、被人工呼吸者の口の周囲に被せられる柔軟な円形のシートからなるカバーと、このカバーの中央部に貫通された円形の断面形状を持ち一定方向にのみ通気可能な弁体とを備えた筒状体から構成された人工呼吸補助具であって、前記筒状体の上記カバーの表面側に位置する表面構成物と、カバーの裏面側に突出した裏面構成体との間に、複数個から成る柔軟なシートを貫通する針状物を持つことを特徴とする人工呼吸補助具である。
【発明の効果】
【0006】
即ち、本発明は具体的には柔軟なシートと筒状体の固定に、シートを貫通することの出来る複数の針状物を用いることで製造前にシートに必要な孔あけ加工を行うことなく、シートと筒状体を確実に固定することが可能となり、製造工程の簡素化がはかれるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の人工呼吸補助具を用いてマウスツーマウス人工呼吸を行うには、カバーの裏面に突出した筒状体を傷病者の口に挿入し、カバーを傷病者の口部の周囲に被せた後に、カバーの表面側から筒状体内に息が吹き込み実施される。筒状体内部に設置された柔軟な弁体は端部で筒状体に固定され通常は閉塞されているが、救助者の呼気が筒状体表面より吹き込まれた場合には、弁体を変形されることで筒状体との間に隙間が出来、呼気が筒状体の通気路を通り傷病者の気道内に吹き込まれる。一方、傷病者から吐き出された空気は、前記の柔軟なシートが閉じることにより施工者に吸い込まれることはない。
【0008】
筒状体はシートの表面から裏面に貫通した筒壁構造で、その中心部はシートも含め孔となっており、孔の中には上記の弁が設けられる。
筒状体は大きくは表面側に位置する表面構成物(または上部構成物という)と、カバーの裏面側に突出した裏面構成体(または下部構成物ともいう)の2つ構成体からなる。この構造物は通常使用されるプラスチックを原料として製造する事が可能である。
2つの構成物は孔周囲に設けられた嵌合構造によりはめ込み固定が可能となっている。この嵌合部は接着は必要はないが、接着剤等を用いて接着する事も可能である。嵌合部の構造としては2つの構造物をはめあわせる際には通過できるが、嵌合後はその切り込みによって2つの構造物が固定され、分離ができない構造で有れば良い。また嵌合部は部分的に数カ所設けても良いし、円周上全体に設けても良い。
【0009】
この嵌合部の外周状に複数個から成る柔軟なシートを貫通する針状物を設ける。この針状物は表面構成物、あるいは裏面構成体のいずれに設けられても良いが、この針状物を持たない側の構造物には、この針状物を収納できる孔を設ける必要がある。この針状物はこの針状物が貫通する孔を持たない柔軟なシートを、製造時に突き破り製造されるため、シートを貫通させやすい形状が望ましい。具体的に先端をとがらす、あるいは段階的に先端を細くする等の方法を挙げることが出来るが特に制限はない。
【0010】
針状物の本数はシートの固定が可能であれば問題はなく、具体的には4本以上が望ましい。また針状物の直径は複数個の針状物が設けられれば問題はないが、具体的には太いところで直径0.5mm〜3mmの範囲であれば良い。
嵌合部と針状物は同一円周上に設けることはできず、別々の円周上に設けることになるが、嵌合部がある円周が針状物の有る円周の内側にあることがシートの固定から望ましい。
筒状体に設けられる通気可能な柔軟な材料からなる弁体については、救助者の呼気がシート表面側より通過でき、傷病者の呼気が遮断されることが必要である。またできる限り呼気を傷病者に吹き込む際に抵抗が少ないことが望ましく、そのために弁体材料の固定は中心部ではなく、中心より偏位、すなわち周辺部で一カ所、あるいはそれ以上の箇所で固定する事によって、呼気吹き込み時の抵抗を減らすことができる。弁体の材料としては特に制限はないが、具体的にはポリウレタン、ポリ塩化ビニル、シリコーン等を挙げることが出来る。
【0011】
本発明のカバーおよび筒状体は円形をしており緊急を要する使用時に、本人工呼吸補助具の向きを気にすることなく使用することが出来る。
本発明品を製造する際には、円形のシートに筒状体の内部孔の直径とほぼ同じ直径の孔を開け、そこに表面、裏面構成体のうち針状物を持たない構成物を位置させた後に、針状物を持つ構成体をシートを突き破り、更にそのまま一方の構成体と嵌合させることによって本人工補助具を製造することができる。
この人工呼吸用補助具は、柔軟なシートと突起を持たない筒状体から構成されているため、小さく折り畳み小型の容器に収納出来るため常に持つことに支障はない。そのため緊急時に取り出して即座に使用することができる。また、カバーの裏面から突出した弁体を傷病者の口に挿入して使用するので、一人で心肺蘇生法を実施して心臓マッサージと人工呼吸の両方を行う場合に、救助者が心臓マッサージを行うために弁体から口を離しても、この弁体が傷病者の口からずれたり、抜け落ちたりすることがなく、使い勝手の良いものとなる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の一例について実施例について図面によって説明する。
図1は本発明にかかる人工呼吸補助具の側面断面図であって、該人工呼吸補助具は表面構成体(上部構成体)1と裏面構成体(下部構成体)2とよりなり、その境界面にシート3が存在する。このシート3は上部構成体1と下部構成体2とからなる嵌合部によって固定されている。図2は上部構成体の上面平面図図3はその底面の平面図、図4は図2のXX線の側面断面図である。上部構成体1は円筒形でその中央部に窪み部4を有すると共にその外縁部5に下方に針状物6を突設し、底面7には弁体を固定するための凸部8を有する。図5は裏面構成体(下部構成体)2の平面図、図6は図2のYY線の断面図、図7は図2のZZ線の断面図である。下部構成体2の外縁部9には上部構成体1の外縁部のある針状物6を収納する孔10を有し、また、下部構成体2の中央部には隔壁部12を設け、隔壁の中心より一方に偏った位置に弁体13を固定するための凹部11がある。
上部構成体1と下部構成体2とを組み立てるに際して、上部構成体1と下部構成体2とを嵌合部14で嵌合させ、上部構成体1の針状物8はシート3を突き破って下部構成体2にある針状物収納用孔10に突入させ、また、上部構成体の弁体固定用の凸部8を弁体を挟んで下部構成体2の凹部11に嵌合させる。このように構成されている人工呼吸補助具の斜視図を図8に示す。
この人工呼吸補助具を使用するに際しては施工者と傷病者との間にはシートが介在しているので直接接することはなく、弁体は偏心して固定されているので施工者から吐き出された空気は容易に呼気を傷病者に供給することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる人工呼吸補助具の側断面図
【図2】上部構成体の上面平面図
【図3】上部構成体の底面平面図
【図4】上部構成体の図2のXX線の側面断面図
【図5】下部構成体の上面平面図
【図6】下部構成体の図5のYY線の側面断面図
【図7】下部構成体の図5のZZ線の側面断面図
【図8】本発明にかかる人工呼吸補助具の斜視図
【符号の説明】
【0014】
1 上部構成体 2 下部構成体 3 シート 4 窪み部
5 上部構成体の外縁部 6 針状物 7 上部構成体の底面
8 弁体固定用凸部 9 下部構成体の外縁部 10 針状物収納用孔
11 弁体固定用凹部 12 隔壁部 13 弁体 14 嵌合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被人工呼吸者の口の周囲に被せられる柔軟な円形のシートからなるカバーと、このカバーの中央部に貫通された円形の断面形状を持ち一定方向にのみ通気可能な弁体とを備えた筒状体から構成された人工呼吸補助具であって、前記筒状体の上記カバーの表面側に位置する表面構成物と、カバーの裏面側に突出した裏面構成体との間に、複数個から成る柔軟なシートを貫通する針状物を持つことを特徴とする人工呼吸補助具。
【請求項2】
請求項1において、一定方向にのみ通気可能な弁体が柔軟な材料からなり、中心部より偏位した位置において固定されたことを特徴とする請求項1記載の人工呼吸補助具。
【請求項3】
請求項1において複数個から成る柔軟なシートを貫通する針状物が円周状に筒状体の開口部外周囲に配置され、その内側に表面側に位置する表面構成物と、裏面側に突出した裏面構成体を固定するための嵌合部を有することを特徴とする請求項1記載の人工呼吸補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−346237(P2006−346237A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177402(P2005−177402)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)