人工喉頭
【課題】構造簡易にして希望する高さの音声を得ることができる人工喉頭を提供する。
【解決手段】呼気を導入する挿入孔4を有する本体たる筒体2と、挿入孔4に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストン3と、ピストン3の他側において挿入孔4と外部とを連通する流出孔8と、この流出孔8から流出した呼気により振動すると共に、ピストン3の一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜11とを備える。挿入孔4に呼気を導入すると、その圧力によりピストン3が一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11を振動する。このようにピストン3は呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜11の張力と釣合う位置で停止し、弾性振動体膜11の振動は張力と長さ、特に張力により変化するから、呼気圧により振動数を変えることができる。
【解決手段】呼気を導入する挿入孔4を有する本体たる筒体2と、挿入孔4に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストン3と、ピストン3の他側において挿入孔4と外部とを連通する流出孔8と、この流出孔8から流出した呼気により振動すると共に、ピストン3の一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜11とを備える。挿入孔4に呼気を導入すると、その圧力によりピストン3が一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11を振動する。このようにピストン3は呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜11の張力と釣合う位置で停止し、弾性振動体膜11の振動は張力と長さ、特に張力により変化するから、呼気圧により振動数を変えることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工喉頭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の代用音声獲得方法として、食道発声法,人工喉笛を用いる方法,電気式人工喉頭を用いる方法やTEシャント発声法などが挙げられる。
【0003】
さらに、上記の方法に加え、呼気で駆動される適宜な音源をシャント弁内部に設ける試みが近年なされており、そのシャント弁は咽頭部と気管と間に介在し咽頭部に連通する気道に設けられ、図12に示すように、気管食道壁に一方向のみ呼気が流れるシャントバルブ101を設け、永久気管孔102を塞いで呼気を食道103に導いて使用され、前記シャントバルブ内に発声体を設ける(例えば、特許文献1及び特許文献2)ことにより、代用音声を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−116200号公報
【特許文献2】特開平1−217400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の代用音声は音声持続時間,抑制,基本周波数,外観,利便性など解決されるべき課題が多く、新しい体内埋込型代用音源の需要は非常に大きい。
【0006】
また、TEシャント弁内蔵型の音源は極めて小型でなくてはならず、健常者と同様な周波数特性を得ることは容易ではない。また、唾液や体液,飲食物の流入があった場合でも安定して動作することが求められることから、構造は簡易でなくてはならない。
【0007】
そこで、本発明は、構造簡易にして呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能な人工喉頭を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の人工喉頭は、上記目的を達成するために、呼気が通過する人工喉頭において、呼気を導入する挿入孔を有する本体と、前記挿入孔に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストンと、前記挿入孔と外部とを連通する流出孔と、この流出孔から流出した呼気により振動すると共に、前記ピストンの一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜とを備えることを特徴とする。
【0009】
挿入孔に呼気を導入すると、その圧力によりピストンが一側に押され、弾性振動体膜が伸び、呼気が流出孔を通り、弾性振動体膜を振動する。このようにピストンは呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜の張力と釣合う位置で停止し、弾性振動体膜の振動は張力と長さ、特に張力により変化するから、呼気圧により振動数を変えることができる。しがたって、呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能となる。
【0010】
(2)また、上記の人工喉頭において、前記流出孔を覆うように前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする。
【0011】
これにより呼気が流出孔を通り、弾性振動体膜と本体との間に隙間を作って外部に流れ出す際、前記弾性振動体膜を振動させることができる。
【0012】
(3)また、上記の人工喉頭において、前記挿入孔の一側に外部に連通する開孔部を設け、この開孔部に前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする。
【0013】
呼気圧によりピストンが開孔部から一側に移動し、この開孔部に設けた弾性振動体膜に張力を付与することができる。
【0014】
(4)また、上記の人工喉頭において、前記弾性振動体膜に該弾性振動体膜より比重の大きな粉末を混入したことを特徴とする。
【0015】
使用条件から弾性振動体膜を長くすることは困難であるが、金属粉末を混入することにより弾性振動体膜の線密度を大きくして、固有振動数を下げることができる。
【0016】
(5)また、上記の人工喉頭において、前記粉末がタングステン粉末であることを特徴とする。
【0017】
タングステンは比重が大きく、化学的に安定しているから、使用に適したものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の人工喉頭によれば、構造簡易にして希望する高さの音声を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1を示す人工喉頭の一部切り欠き斜視図である。
【図2】同上、断面図である。
【図3】同上、側面図である。
【図4】同上、実験装置の断面説明図である。
【図5】同上、周波数と音圧レベルの関係を示すグラフ図である。
【図6】同上、実験結果を示すグラフ図である。
【図7】本発明の実施例2を示す人工喉頭の断面図である。
【図8】同上、図7のA−A線断面図である。
【図9】同上、側面図である。
【図10】同上、ピストンが可動と固定の場合で駆動圧力と周波数の関係を示すグラフ図である。
【図11】同上、金属粉末の混入量を変えた場合の駆動圧力と周波数の関係を示すグラフ図である。
【図12】従来例を示すヒト頭頚部の正中断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な人工喉頭を採用することにより、従来にない人工喉頭が得られ、その人工喉頭について記述する。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して説明する。図1〜図6は本発明の実施例1を示し、同図に示すように、人工喉頭1は、略円筒状をなす本体たる筒体2と、この筒体2にスライド可能に挿入されたピストン3とを備える。前記筒体2内の長さ方向一側には前記ピストン3を挿入する挿入孔4を設け、この挿入孔4の一側には開孔部4Kが設けられ、前記筒体2内の長さ方向他側には前記挿入孔4に連通する呼気導入孔5が設けられている。尚、前記筒体2の大きさは、例えば外径が10mm,長さが20mm程度であり、前記人工喉頭1は、咽頭部と気管と間に介在し咽頭部に連通する気道に設けられ、該気道に設けた前記シャント弁の外ケース内に設けることができる。
【0022】
前記呼気導入孔5は円形をなし、この呼気導入孔5は前記挿入孔4より小さく、それら呼気導入孔5とは前記挿入孔4との間には段部7が形成されている。また、前記筒体2の径方向両側には平坦面6,6が形成されている。
【0023】
前記ピストン3は、前記挿入孔4に嵌入してスライド可能に設けられたピストン本体3Aと、前記段部7に当接する当接部3Bと、それらピストン本体3Aと当接部3Bとを連結する棒状の連結部3Cとからなり、前記ピストン本体3Aは、断面略十字型をなし、前記挿入孔4との間に隙間が設けられ、前記呼気導入孔5から導入した呼気が、前記ピストン本体3Aを押すように構成している。また、前記挿入孔4の長さ方向略中央には、筒体2の内外を貫通する流出孔8が設けられ、この流出孔8は、一方の前記平坦部6に開口している。尚、図2に示すように、当接部3Bが前記段部7に当接した位置がピストン3の初期位置である。
【0024】
前記人工喉頭1は、前記流出孔8と前記ピストン本体3Aの一側面3Mとを覆う帯状の弾性振動体膜11を備え、この弾性振動体膜11は略一定厚さで略一定厚さの帯状をなす。前記弾性振動体膜11は、一端11Aを筒体2の一側の平坦部6の流出孔8位置より他側に接着等により固定し、他端11Bを前記ピストン3の他側の平坦部6に接着等により固定し、一端11Aと他端11B間は固定されていない。このように弾性振動体膜11と流出孔8とを平坦部6,6に配置することにより、筒体2を円筒状の外ケースに収納した場合、この外ケースと筒体2との間の空間に弾性振動体膜11と流出孔8を配置することができ、音の発生空間を形成できる。
【0025】
したがって、呼気導入孔5から呼気を導入すると、その圧力によりピストン本体3Aが一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11と筒体2との間に隙間を作って外部に流れ出す際、前記弾性振動体膜11が振動する。
【0026】
このようにピストン3は呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜11の張力と釣合う位置で停止する。弾性振動体膜11の振動は弦の自励振動に近似できると考えられ、その固有振動数fnは下記の数1で表される。
【0027】
【数1】
【0028】
上記数1において、Tは張力,Lは長さ,ρは線密度である。
【0029】
張力Tは呼気圧に応じて変化するため、本人工喉頭1は呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能である。弾性振動体膜11は、柔軟且つ高強度,さらに適切な弾性率があることが求められる。幾つかの素材を試行した結果、シリコーンゴム(X−32−242,信越化学工業(株)社製,硬化後硬度12(デュロメータA),引張り強さ15kPa)を採用した。液状の原料を自作の型を用いて厚さ0.5mmに成型した後、幅5mm,長さ12mmに切り出して弾性振動体膜11を形成した。同弾性振動体膜11を単独で用いた場合、振動数は非常に高く、一般的な声の周波数である男性約130Hz,女性約200Hzに比べて不適当であった。これは長さLと線密度ρが小さいためであるが、長さLの増加は使用条件から困難である。故に、機械的性質を保持しつつ腺密度ρを効果的に増加させるため、粒径2μmのタングステン粉末をシリコーンゴムに混入した。その混入量は、予備試験の結果から7重量%とした。尚、振動周波数は、弾性振動体膜11の初期張力からも影響を受けるため、弾性振動体膜11を筒体2に接着する際に極力張力を与えないように注意した。
【0030】
図4に示すように、実験は、密閉状の空気室51の上部に人工喉頭1を保持し、コンプレッサ52により呼気に相当する駆動空気を、減圧器53に送ると共に調圧し、次いで、駆動空気を流量計54,前記空気室51を経て、呼気導入孔5から人工喉頭1に導く方式を採用した。人工喉頭1との共鳴を防ぐために空気室51の内壁に吸音材55を貼り付け、内部圧力を人工喉頭1の駆動圧力と見なして空気圧センサ56により測定した。人工喉頭1の音圧レベル測定と録音のために人工喉頭1から300mm離れた位置に騒音計57とマイクロフォン58をそれぞれ設置した。それら空気圧センサ56,騒音計57及びマイクロフォン58から得られる電圧出力をA/D変換器59によりサンプリング周波数20kHzでコンピュータ61に記録した。実験終了後、Hamming窓を掛けたFFT解析により音声波形の周波数解析を行った。尚、図中、60はマイクロフォン58のデータを増幅する増幅器、61はパーソナルコンピュータである。
【0031】
図5に、一例として駆動圧力4.0kPa時の音声波形とFFT解析結果を示す。FFT解析から幾つかのピーク周波数が得られ、最も低い周波数を基本周波数f0として、供給圧力や流量との相関を調べた。尚、図5の下段のグラフで50Hz毎に見られるピークは電源ノイズに起因するものである。測定では、空気圧センサ56の表示値を参考にして0.5kPaずつ圧力を増加させ、その都度4秒間データを記録し、それを3回試行した。
【0032】
図6に測定された駆動圧力,空気流量,音圧レベル相互の関係を示す。発生音周波数のプロットポイントがやや散在する傾向が見受けられるが、概ね駆動圧力に比例して制御されている。また、周波数は約175kHz付近を中心にして変化しており、タングステン粉末を混入した効果が期待どおりであった。周波数の変動範囲は、当初の目標値1オクターブ(周波数比で2倍)以下となった。連続した音声発生時の駆動圧は約2〜5kPaであり、人の発生時の呼気圧約0.5〜2kPaと比べてやや高い値であった。
【0033】
本実施例の人工喉頭1は、音高とその制御性,音量,空気流量について良好な特性を示し、単純な構造と簡易な振動形態を採用しているため、実使用時での異物や水分混入防止の点で優れ、抑揚制御が可能な体内埋込型人工喉頭として実用性に優れたものとなる。
【0034】
このように本実施例では、請求項1に対応して、気道に設けられ呼気が通過する人工喉頭1において、呼気を導入する挿入孔4を有する本体たる筒体2と、挿入孔4に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストン3と、ピストン3の他側において挿入孔4と外部とを連通する流出孔8と、この流出孔8から流出した呼気により振動すると共に、ピストン3の一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜11とを備えるから、挿入孔4に呼気を導入すると、その圧力によりピストン3が一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11を振動する。このようにピストン3は呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜11の張力と釣合う位置で停止し、弾性振動体膜11の振動は張力と長さ、特に張力により変化するから、呼気圧により振動数を変えることができる。しがたって、呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能となる。
【0035】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、流出孔8を覆うように弾性振動体膜11を設けたから、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11と本体たる筒体2との間に隙間を作って外部に流れ出す際、弾性振動体膜11を振動させることができる。
【0036】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、挿入孔4の一側に外部に連通する開孔部4Kを設け、この開孔部4Kに弾性振動体膜11を設けたから、呼気圧によりピストン3が開孔部4Kから一側に移動し、この開孔部4Kに設けた弾性振動体膜11に張力を付与することができる。
【0037】
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、弾性振動体膜11に該弾性振動体膜11より比重の大きな粉末を混入したから、使用条件から弾性振動体膜を長くすることは困難であるが、比重の大きな粉末を混入することにより弾性振動体膜11の線密度を大きくして、固有振動数を下げることができる。この場合、粉末は比重が大きければ金属に限らず、炭化タングステンのような安定炭化物やセラミックなどでもよい。
【0038】
また、このように本実施例では、請求項5に対応して、前記粉末がタングステン粉末であるから、タングステンは比重が大きく、化学的に安定しているから、使用に適したものとなる。
【実施例2】
【0039】
以下、本発明の実施例2を図7〜図11を参照して説明する。尚、上記実施例1と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。同図に示すように、人工喉頭21は、筒状をなす筒体22と、この筒体22にスライド可能に挿入されたピストン23とを備える。前記筒体22内の長さ方向一側には前記ピストン23を挿入する挿入孔24を設け、この挿入孔24に一側には開孔部24Kが設けられ、前記筒体22内の長さ方向他側には前記挿入孔24に連通する呼気導入孔25が設けられている。
【0040】
前記筒体22の径方向一側には平坦面26が形成されている。前記呼気導入孔25は円形をなし、この呼気導入孔25は前記挿入孔24より大きく、それら呼気導入孔25とは前記挿入孔24との間には段部27が形成されている。前記挿入孔24は、半円状の円弧内面24Aと前記平坦部26とほぼ平行な平坦内面24Bとを湾曲内面24C,24Cにより連結した形状をなす。また、前記挿入孔24の長さ方向略中央には、筒体22の内外を貫通する流出孔28が設けられている。
【0041】
前記ピストン23は、半円状の円弧外面23Aと前記平坦部26に対応する平坦外面24Bとを湾曲外面23C,23Cにより連結した形状をなし、その外形は前記挿入孔24の形状に対応している。また、前記ピストン23は、前記呼気導入孔25と前記流出孔28とを連通する連通溝29が形成され、この連通溝29はピストン3の長さ方向一側に開孔して前記呼気導入孔25に連通し、その長さ方向他側は閉塞部29Aにより閉塞している。この連通溝29は、図8に示すように、断面方形をなし、前記呼気導入孔25に連通する。尚、ピストン23が前記段部27に当接した位置がピストン23の初期位置であり、初期位置で、連通溝29が流出孔28に連通する。
【0042】
前記人工喉頭21は、前記流出孔28の外部を覆う前記弾性振動体膜11を備え、この弾性振動体膜11は、一端11Aを前記平坦部26の流出孔8位置より一側に接着等により固定し、他端11Bを前記ピストン23の一側面23Mに接着等により固定し、一端11Aと他端11B間は固定されていない。
【0043】
次に、図10及び図11を用いて金属粉末であるタングステンの混入効果について説明する。図10は、駆動圧力と周波数との関係を示し、ピストン23が初期位置に固定された「固定」の場合と、ピストン23がスライド可能な「可動」の場合を示し、「可動」の場合、駆動圧力の上昇に伴い、周波数が上昇することが分かる。尚、「固定」「可動」の両者とも弾性振動体膜11は厚さ0.5mm,タングステン粉末を22重量%混入したものを使用している。図11は、ピストン23が可動でタングステン粉末の混入量を変えたものを示し、弾性振動体膜11は厚さ0.5mmで、タングステン粉末の混入量は、上から0重量%,2重量%,12重量%,22重量%を示す。このグラフから、タングステン粉末の混入量が増加することにより、周波数が下がることが確認された。
【0044】
したがって、呼気導入孔25から呼気を導入すると、その圧力によりピストン23が一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔28を通り、弾性振動体膜11と筒体22との間に隙間を作って外部に流れ出す際、前記弾性振動体膜11が振動する。
【0045】
このように呼気導入孔25から導かれた呼気は、ピストン3の連通溝29を通過し、流出孔より排出される。流出孔28は弾性振動体膜11により非稼動時は閉じられているが、呼気の圧力が加わることで平坦面26との間に隙間を形成するが、この際、弾性体である弾性振動体膜11の復元力,呼気圧力,呼気排出流体力(ベルヌーイ力)との関連により振動し、呼気を断続的に流通・遮断することで音源となす。尚、弾性振動体膜11は両端部11A,11Bでそれぞれ筒体22,ピストン23に接着等により固定される。ピストン23は、呼気圧が加わらない状態では、段部27に突き当たって停止しているが、呼気圧が加わると、弾性振動体膜11の長軸方向張力と釣合う位置まで摺動し、停止する。故に、弾性振動体膜11の長軸方向の張力は、振動を引き起こす呼気の圧力に応じて比例的に変化し、従って、振動周波数も同様に呼気圧にほぼ比例して変化する(実際は張力の平方根に比例するが、実使用域においてはほぼ線形と見なして差し支えない)。これにより、使用者が意識的,無意識的に呼気圧を変化させることで、音声に容易に抑揚を付加させられる。
【0046】
これにより喉頭全摘出者が、手術後に代用音声を獲得する手段として、気管壁食道側に一方向弁である人工喉頭21を設け、呼気を食道に導く際、人工喉頭21に呼気によって駆動させる音源を内蔵し、且つ呼気圧力に応じた音源周波数変化を惹起することにより、使用者の意思に応じて音声に抑揚を付加することができる。
【0047】
本発明の人工喉頭21は部品点数も少なく、安価に製造可能であり、且つそれ自体が一方向弁機能を有しているため、日常生活における飲食物,唾液や体液などの分泌物等の流入に対しても機能的に極めて頑健である。
【0048】
また、音源となる弾性振動体膜11は、例えば比重約19のタングステン粉末を混入することにより製作時に密度を調整し、老若男女を問わず、適切な音高を選択可能である。また、少なくとも、粒径1〜3μm,好ましくは粒径2μmのタングステン粉末をシリコーンゴムに1%〜20%超程度混入しても弾性率にほとんど影響を与えない。
【0049】
従来のTEシャント弁内蔵型の音源は極めて小型でなくてはならず、所望の周波数を得ることは容易ではない。また、唾液や体液,飲食物の流入があった場合でも安定して動作することが求められることから、構造は簡素でなくてはならない。本実施例の人工喉頭21はこれらの要求を高次元で満たすことが可能である。即ち、部品は、筒体22とピストン23と弾性振動体膜11の3点のみで構成され、且つ構造が単純であるため、製造が容易・安価であり、さらに音源である弾性振動体膜11は呼気流に対して一方向弁として働き、また、仮に何等かの流入物が混入しても呼気により自然に排除可能である。唯一の可動部としてピストンを設けているが、仮にピストン23が何等かの理由で固着したとしても、発声機能が失われることはない。また、弾性振動体膜11の質量増加の目的でタングステン粉末を用いているが、タングステン自体の人体への毒性は認められていないようである。さらに、弾性振動体膜11の作成時にタングステン粉末の混入率を変化させることで音声高さを調整できるため、男女,あるいは老若問わず、希望する高さの音声を得ることが容易である。
【0050】
このように本実施例では、請求項1に対応して、気道に設けられ呼気が通過する人工喉頭21において、呼気を導入する挿入孔24を有する本体たる筒体22と、挿入孔24に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストン23と、ピストン23の他側において挿入孔24と外部とを連通する流出孔28と、この流出孔28から流出した呼気により振動すると共に、ピストン23の一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜11とを備えるから、上記実施例1と同様な作用・効果を奏する。
【0051】
尚、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、弾性振動体膜は実施例に限定されず、弾性を有し、振動するものであれば、各種のものを用いることができる。また、人工喉頭は体内埋込型に限定されず、体外で使用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 人工喉頭
2 筒体
3 ピストン
4 挿入孔
8 流出孔
11 弾性振動体膜
11A 一端
11B 他端
21 人工喉頭
22 筒体
23 ピストン
24 挿入孔
28 流出孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工喉頭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の代用音声獲得方法として、食道発声法,人工喉笛を用いる方法,電気式人工喉頭を用いる方法やTEシャント発声法などが挙げられる。
【0003】
さらに、上記の方法に加え、呼気で駆動される適宜な音源をシャント弁内部に設ける試みが近年なされており、そのシャント弁は咽頭部と気管と間に介在し咽頭部に連通する気道に設けられ、図12に示すように、気管食道壁に一方向のみ呼気が流れるシャントバルブ101を設け、永久気管孔102を塞いで呼気を食道103に導いて使用され、前記シャントバルブ内に発声体を設ける(例えば、特許文献1及び特許文献2)ことにより、代用音声を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−116200号公報
【特許文献2】特開平1−217400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の代用音声は音声持続時間,抑制,基本周波数,外観,利便性など解決されるべき課題が多く、新しい体内埋込型代用音源の需要は非常に大きい。
【0006】
また、TEシャント弁内蔵型の音源は極めて小型でなくてはならず、健常者と同様な周波数特性を得ることは容易ではない。また、唾液や体液,飲食物の流入があった場合でも安定して動作することが求められることから、構造は簡易でなくてはならない。
【0007】
そこで、本発明は、構造簡易にして呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能な人工喉頭を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の人工喉頭は、上記目的を達成するために、呼気が通過する人工喉頭において、呼気を導入する挿入孔を有する本体と、前記挿入孔に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストンと、前記挿入孔と外部とを連通する流出孔と、この流出孔から流出した呼気により振動すると共に、前記ピストンの一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜とを備えることを特徴とする。
【0009】
挿入孔に呼気を導入すると、その圧力によりピストンが一側に押され、弾性振動体膜が伸び、呼気が流出孔を通り、弾性振動体膜を振動する。このようにピストンは呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜の張力と釣合う位置で停止し、弾性振動体膜の振動は張力と長さ、特に張力により変化するから、呼気圧により振動数を変えることができる。しがたって、呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能となる。
【0010】
(2)また、上記の人工喉頭において、前記流出孔を覆うように前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする。
【0011】
これにより呼気が流出孔を通り、弾性振動体膜と本体との間に隙間を作って外部に流れ出す際、前記弾性振動体膜を振動させることができる。
【0012】
(3)また、上記の人工喉頭において、前記挿入孔の一側に外部に連通する開孔部を設け、この開孔部に前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする。
【0013】
呼気圧によりピストンが開孔部から一側に移動し、この開孔部に設けた弾性振動体膜に張力を付与することができる。
【0014】
(4)また、上記の人工喉頭において、前記弾性振動体膜に該弾性振動体膜より比重の大きな粉末を混入したことを特徴とする。
【0015】
使用条件から弾性振動体膜を長くすることは困難であるが、金属粉末を混入することにより弾性振動体膜の線密度を大きくして、固有振動数を下げることができる。
【0016】
(5)また、上記の人工喉頭において、前記粉末がタングステン粉末であることを特徴とする。
【0017】
タングステンは比重が大きく、化学的に安定しているから、使用に適したものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の人工喉頭によれば、構造簡易にして希望する高さの音声を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1を示す人工喉頭の一部切り欠き斜視図である。
【図2】同上、断面図である。
【図3】同上、側面図である。
【図4】同上、実験装置の断面説明図である。
【図5】同上、周波数と音圧レベルの関係を示すグラフ図である。
【図6】同上、実験結果を示すグラフ図である。
【図7】本発明の実施例2を示す人工喉頭の断面図である。
【図8】同上、図7のA−A線断面図である。
【図9】同上、側面図である。
【図10】同上、ピストンが可動と固定の場合で駆動圧力と周波数の関係を示すグラフ図である。
【図11】同上、金属粉末の混入量を変えた場合の駆動圧力と周波数の関係を示すグラフ図である。
【図12】従来例を示すヒト頭頚部の正中断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な人工喉頭を採用することにより、従来にない人工喉頭が得られ、その人工喉頭について記述する。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して説明する。図1〜図6は本発明の実施例1を示し、同図に示すように、人工喉頭1は、略円筒状をなす本体たる筒体2と、この筒体2にスライド可能に挿入されたピストン3とを備える。前記筒体2内の長さ方向一側には前記ピストン3を挿入する挿入孔4を設け、この挿入孔4の一側には開孔部4Kが設けられ、前記筒体2内の長さ方向他側には前記挿入孔4に連通する呼気導入孔5が設けられている。尚、前記筒体2の大きさは、例えば外径が10mm,長さが20mm程度であり、前記人工喉頭1は、咽頭部と気管と間に介在し咽頭部に連通する気道に設けられ、該気道に設けた前記シャント弁の外ケース内に設けることができる。
【0022】
前記呼気導入孔5は円形をなし、この呼気導入孔5は前記挿入孔4より小さく、それら呼気導入孔5とは前記挿入孔4との間には段部7が形成されている。また、前記筒体2の径方向両側には平坦面6,6が形成されている。
【0023】
前記ピストン3は、前記挿入孔4に嵌入してスライド可能に設けられたピストン本体3Aと、前記段部7に当接する当接部3Bと、それらピストン本体3Aと当接部3Bとを連結する棒状の連結部3Cとからなり、前記ピストン本体3Aは、断面略十字型をなし、前記挿入孔4との間に隙間が設けられ、前記呼気導入孔5から導入した呼気が、前記ピストン本体3Aを押すように構成している。また、前記挿入孔4の長さ方向略中央には、筒体2の内外を貫通する流出孔8が設けられ、この流出孔8は、一方の前記平坦部6に開口している。尚、図2に示すように、当接部3Bが前記段部7に当接した位置がピストン3の初期位置である。
【0024】
前記人工喉頭1は、前記流出孔8と前記ピストン本体3Aの一側面3Mとを覆う帯状の弾性振動体膜11を備え、この弾性振動体膜11は略一定厚さで略一定厚さの帯状をなす。前記弾性振動体膜11は、一端11Aを筒体2の一側の平坦部6の流出孔8位置より他側に接着等により固定し、他端11Bを前記ピストン3の他側の平坦部6に接着等により固定し、一端11Aと他端11B間は固定されていない。このように弾性振動体膜11と流出孔8とを平坦部6,6に配置することにより、筒体2を円筒状の外ケースに収納した場合、この外ケースと筒体2との間の空間に弾性振動体膜11と流出孔8を配置することができ、音の発生空間を形成できる。
【0025】
したがって、呼気導入孔5から呼気を導入すると、その圧力によりピストン本体3Aが一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11と筒体2との間に隙間を作って外部に流れ出す際、前記弾性振動体膜11が振動する。
【0026】
このようにピストン3は呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜11の張力と釣合う位置で停止する。弾性振動体膜11の振動は弦の自励振動に近似できると考えられ、その固有振動数fnは下記の数1で表される。
【0027】
【数1】
【0028】
上記数1において、Tは張力,Lは長さ,ρは線密度である。
【0029】
張力Tは呼気圧に応じて変化するため、本人工喉頭1は呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能である。弾性振動体膜11は、柔軟且つ高強度,さらに適切な弾性率があることが求められる。幾つかの素材を試行した結果、シリコーンゴム(X−32−242,信越化学工業(株)社製,硬化後硬度12(デュロメータA),引張り強さ15kPa)を採用した。液状の原料を自作の型を用いて厚さ0.5mmに成型した後、幅5mm,長さ12mmに切り出して弾性振動体膜11を形成した。同弾性振動体膜11を単独で用いた場合、振動数は非常に高く、一般的な声の周波数である男性約130Hz,女性約200Hzに比べて不適当であった。これは長さLと線密度ρが小さいためであるが、長さLの増加は使用条件から困難である。故に、機械的性質を保持しつつ腺密度ρを効果的に増加させるため、粒径2μmのタングステン粉末をシリコーンゴムに混入した。その混入量は、予備試験の結果から7重量%とした。尚、振動周波数は、弾性振動体膜11の初期張力からも影響を受けるため、弾性振動体膜11を筒体2に接着する際に極力張力を与えないように注意した。
【0030】
図4に示すように、実験は、密閉状の空気室51の上部に人工喉頭1を保持し、コンプレッサ52により呼気に相当する駆動空気を、減圧器53に送ると共に調圧し、次いで、駆動空気を流量計54,前記空気室51を経て、呼気導入孔5から人工喉頭1に導く方式を採用した。人工喉頭1との共鳴を防ぐために空気室51の内壁に吸音材55を貼り付け、内部圧力を人工喉頭1の駆動圧力と見なして空気圧センサ56により測定した。人工喉頭1の音圧レベル測定と録音のために人工喉頭1から300mm離れた位置に騒音計57とマイクロフォン58をそれぞれ設置した。それら空気圧センサ56,騒音計57及びマイクロフォン58から得られる電圧出力をA/D変換器59によりサンプリング周波数20kHzでコンピュータ61に記録した。実験終了後、Hamming窓を掛けたFFT解析により音声波形の周波数解析を行った。尚、図中、60はマイクロフォン58のデータを増幅する増幅器、61はパーソナルコンピュータである。
【0031】
図5に、一例として駆動圧力4.0kPa時の音声波形とFFT解析結果を示す。FFT解析から幾つかのピーク周波数が得られ、最も低い周波数を基本周波数f0として、供給圧力や流量との相関を調べた。尚、図5の下段のグラフで50Hz毎に見られるピークは電源ノイズに起因するものである。測定では、空気圧センサ56の表示値を参考にして0.5kPaずつ圧力を増加させ、その都度4秒間データを記録し、それを3回試行した。
【0032】
図6に測定された駆動圧力,空気流量,音圧レベル相互の関係を示す。発生音周波数のプロットポイントがやや散在する傾向が見受けられるが、概ね駆動圧力に比例して制御されている。また、周波数は約175kHz付近を中心にして変化しており、タングステン粉末を混入した効果が期待どおりであった。周波数の変動範囲は、当初の目標値1オクターブ(周波数比で2倍)以下となった。連続した音声発生時の駆動圧は約2〜5kPaであり、人の発生時の呼気圧約0.5〜2kPaと比べてやや高い値であった。
【0033】
本実施例の人工喉頭1は、音高とその制御性,音量,空気流量について良好な特性を示し、単純な構造と簡易な振動形態を採用しているため、実使用時での異物や水分混入防止の点で優れ、抑揚制御が可能な体内埋込型人工喉頭として実用性に優れたものとなる。
【0034】
このように本実施例では、請求項1に対応して、気道に設けられ呼気が通過する人工喉頭1において、呼気を導入する挿入孔4を有する本体たる筒体2と、挿入孔4に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストン3と、ピストン3の他側において挿入孔4と外部とを連通する流出孔8と、この流出孔8から流出した呼気により振動すると共に、ピストン3の一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜11とを備えるから、挿入孔4に呼気を導入すると、その圧力によりピストン3が一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11を振動する。このようにピストン3は呼気圧を受けて一側に押され、弾性振動体膜11の張力と釣合う位置で停止し、弾性振動体膜11の振動は張力と長さ、特に張力により変化するから、呼気圧により振動数を変えることができる。しがたって、呼気圧を変化させることにより容易に抑揚制御が可能となる。
【0035】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、流出孔8を覆うように弾性振動体膜11を設けたから、呼気が流出孔8を通り、弾性振動体膜11と本体たる筒体2との間に隙間を作って外部に流れ出す際、弾性振動体膜11を振動させることができる。
【0036】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、挿入孔4の一側に外部に連通する開孔部4Kを設け、この開孔部4Kに弾性振動体膜11を設けたから、呼気圧によりピストン3が開孔部4Kから一側に移動し、この開孔部4Kに設けた弾性振動体膜11に張力を付与することができる。
【0037】
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、弾性振動体膜11に該弾性振動体膜11より比重の大きな粉末を混入したから、使用条件から弾性振動体膜を長くすることは困難であるが、比重の大きな粉末を混入することにより弾性振動体膜11の線密度を大きくして、固有振動数を下げることができる。この場合、粉末は比重が大きければ金属に限らず、炭化タングステンのような安定炭化物やセラミックなどでもよい。
【0038】
また、このように本実施例では、請求項5に対応して、前記粉末がタングステン粉末であるから、タングステンは比重が大きく、化学的に安定しているから、使用に適したものとなる。
【実施例2】
【0039】
以下、本発明の実施例2を図7〜図11を参照して説明する。尚、上記実施例1と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。同図に示すように、人工喉頭21は、筒状をなす筒体22と、この筒体22にスライド可能に挿入されたピストン23とを備える。前記筒体22内の長さ方向一側には前記ピストン23を挿入する挿入孔24を設け、この挿入孔24に一側には開孔部24Kが設けられ、前記筒体22内の長さ方向他側には前記挿入孔24に連通する呼気導入孔25が設けられている。
【0040】
前記筒体22の径方向一側には平坦面26が形成されている。前記呼気導入孔25は円形をなし、この呼気導入孔25は前記挿入孔24より大きく、それら呼気導入孔25とは前記挿入孔24との間には段部27が形成されている。前記挿入孔24は、半円状の円弧内面24Aと前記平坦部26とほぼ平行な平坦内面24Bとを湾曲内面24C,24Cにより連結した形状をなす。また、前記挿入孔24の長さ方向略中央には、筒体22の内外を貫通する流出孔28が設けられている。
【0041】
前記ピストン23は、半円状の円弧外面23Aと前記平坦部26に対応する平坦外面24Bとを湾曲外面23C,23Cにより連結した形状をなし、その外形は前記挿入孔24の形状に対応している。また、前記ピストン23は、前記呼気導入孔25と前記流出孔28とを連通する連通溝29が形成され、この連通溝29はピストン3の長さ方向一側に開孔して前記呼気導入孔25に連通し、その長さ方向他側は閉塞部29Aにより閉塞している。この連通溝29は、図8に示すように、断面方形をなし、前記呼気導入孔25に連通する。尚、ピストン23が前記段部27に当接した位置がピストン23の初期位置であり、初期位置で、連通溝29が流出孔28に連通する。
【0042】
前記人工喉頭21は、前記流出孔28の外部を覆う前記弾性振動体膜11を備え、この弾性振動体膜11は、一端11Aを前記平坦部26の流出孔8位置より一側に接着等により固定し、他端11Bを前記ピストン23の一側面23Mに接着等により固定し、一端11Aと他端11B間は固定されていない。
【0043】
次に、図10及び図11を用いて金属粉末であるタングステンの混入効果について説明する。図10は、駆動圧力と周波数との関係を示し、ピストン23が初期位置に固定された「固定」の場合と、ピストン23がスライド可能な「可動」の場合を示し、「可動」の場合、駆動圧力の上昇に伴い、周波数が上昇することが分かる。尚、「固定」「可動」の両者とも弾性振動体膜11は厚さ0.5mm,タングステン粉末を22重量%混入したものを使用している。図11は、ピストン23が可動でタングステン粉末の混入量を変えたものを示し、弾性振動体膜11は厚さ0.5mmで、タングステン粉末の混入量は、上から0重量%,2重量%,12重量%,22重量%を示す。このグラフから、タングステン粉末の混入量が増加することにより、周波数が下がることが確認された。
【0044】
したがって、呼気導入孔25から呼気を導入すると、その圧力によりピストン23が一側に押され、弾性振動体膜11が伸び、呼気が流出孔28を通り、弾性振動体膜11と筒体22との間に隙間を作って外部に流れ出す際、前記弾性振動体膜11が振動する。
【0045】
このように呼気導入孔25から導かれた呼気は、ピストン3の連通溝29を通過し、流出孔より排出される。流出孔28は弾性振動体膜11により非稼動時は閉じられているが、呼気の圧力が加わることで平坦面26との間に隙間を形成するが、この際、弾性体である弾性振動体膜11の復元力,呼気圧力,呼気排出流体力(ベルヌーイ力)との関連により振動し、呼気を断続的に流通・遮断することで音源となす。尚、弾性振動体膜11は両端部11A,11Bでそれぞれ筒体22,ピストン23に接着等により固定される。ピストン23は、呼気圧が加わらない状態では、段部27に突き当たって停止しているが、呼気圧が加わると、弾性振動体膜11の長軸方向張力と釣合う位置まで摺動し、停止する。故に、弾性振動体膜11の長軸方向の張力は、振動を引き起こす呼気の圧力に応じて比例的に変化し、従って、振動周波数も同様に呼気圧にほぼ比例して変化する(実際は張力の平方根に比例するが、実使用域においてはほぼ線形と見なして差し支えない)。これにより、使用者が意識的,無意識的に呼気圧を変化させることで、音声に容易に抑揚を付加させられる。
【0046】
これにより喉頭全摘出者が、手術後に代用音声を獲得する手段として、気管壁食道側に一方向弁である人工喉頭21を設け、呼気を食道に導く際、人工喉頭21に呼気によって駆動させる音源を内蔵し、且つ呼気圧力に応じた音源周波数変化を惹起することにより、使用者の意思に応じて音声に抑揚を付加することができる。
【0047】
本発明の人工喉頭21は部品点数も少なく、安価に製造可能であり、且つそれ自体が一方向弁機能を有しているため、日常生活における飲食物,唾液や体液などの分泌物等の流入に対しても機能的に極めて頑健である。
【0048】
また、音源となる弾性振動体膜11は、例えば比重約19のタングステン粉末を混入することにより製作時に密度を調整し、老若男女を問わず、適切な音高を選択可能である。また、少なくとも、粒径1〜3μm,好ましくは粒径2μmのタングステン粉末をシリコーンゴムに1%〜20%超程度混入しても弾性率にほとんど影響を与えない。
【0049】
従来のTEシャント弁内蔵型の音源は極めて小型でなくてはならず、所望の周波数を得ることは容易ではない。また、唾液や体液,飲食物の流入があった場合でも安定して動作することが求められることから、構造は簡素でなくてはならない。本実施例の人工喉頭21はこれらの要求を高次元で満たすことが可能である。即ち、部品は、筒体22とピストン23と弾性振動体膜11の3点のみで構成され、且つ構造が単純であるため、製造が容易・安価であり、さらに音源である弾性振動体膜11は呼気流に対して一方向弁として働き、また、仮に何等かの流入物が混入しても呼気により自然に排除可能である。唯一の可動部としてピストンを設けているが、仮にピストン23が何等かの理由で固着したとしても、発声機能が失われることはない。また、弾性振動体膜11の質量増加の目的でタングステン粉末を用いているが、タングステン自体の人体への毒性は認められていないようである。さらに、弾性振動体膜11の作成時にタングステン粉末の混入率を変化させることで音声高さを調整できるため、男女,あるいは老若問わず、希望する高さの音声を得ることが容易である。
【0050】
このように本実施例では、請求項1に対応して、気道に設けられ呼気が通過する人工喉頭21において、呼気を導入する挿入孔24を有する本体たる筒体22と、挿入孔24に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストン23と、ピストン23の他側において挿入孔24と外部とを連通する流出孔28と、この流出孔28から流出した呼気により振動すると共に、ピストン23の一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜11とを備えるから、上記実施例1と同様な作用・効果を奏する。
【0051】
尚、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、弾性振動体膜は実施例に限定されず、弾性を有し、振動するものであれば、各種のものを用いることができる。また、人工喉頭は体内埋込型に限定されず、体外で使用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 人工喉頭
2 筒体
3 ピストン
4 挿入孔
8 流出孔
11 弾性振動体膜
11A 一端
11B 他端
21 人工喉頭
22 筒体
23 ピストン
24 挿入孔
28 流出孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気が通過する人工喉頭において、呼気を導入する挿入孔を有する本体と、前記挿入孔に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストンと、前記挿入孔と外部とを連通する流出孔と、この流出孔から流出した呼気により振動すると共に、前記ピストンの一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜とを備えることを特徴とする人工喉頭。
【請求項2】
前記流出孔を覆うように前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の人工喉頭。
【請求項3】
前記挿入孔の一側に外部に連通する開孔部を設け、この開孔部に前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の人工喉頭。
【請求項4】
前記弾性振動体膜に該弾性振動体膜より比重の大きな粉末を混入したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の人工喉頭。
【請求項5】
前記粉末がタングステン粉末であることを特徴とする請求項4記載の人工喉頭。
【請求項1】
呼気が通過する人工喉頭において、呼気を導入する挿入孔を有する本体と、前記挿入孔に移動可能に挿入され呼気圧により一側に移動するピストンと、前記挿入孔と外部とを連通する流出孔と、この流出孔から流出した呼気により振動すると共に、前記ピストンの一側への移動により張力が変化する弾性振動体膜とを備えることを特徴とする人工喉頭。
【請求項2】
前記流出孔を覆うように前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の人工喉頭。
【請求項3】
前記挿入孔の一側に外部に連通する開孔部を設け、この開孔部に前記弾性振動体膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の人工喉頭。
【請求項4】
前記弾性振動体膜に該弾性振動体膜より比重の大きな粉末を混入したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の人工喉頭。
【請求項5】
前記粉末がタングステン粉末であることを特徴とする請求項4記載の人工喉頭。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−252876(P2010−252876A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103458(P2009−103458)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第21回バイオエンジニアリング講演会講演論文集の表紙、目次、395〜396頁及び奥付
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第21回バイオエンジニアリング講演会講演論文集の表紙、目次、395〜396頁及び奥付
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
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