説明

人工干潟の造成方法及び人工干潟

【課題】自然本来の食物連鎖を持続的に維持する機能を備えた人工干潟の造成方法及び人工干潟を提供する。
【解決手段】潮間帯域の上下にわたり緩やかに傾斜する沿岸土6上の該潮間帯域に湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる干潟底質土10を客土し、低潮時における底質土10の太陽放射熱吸収と高潮時における該底質土10から海水1への熱伝達との繰り返しにより沿岸の海水1の温度を高める。好ましくは、干潟底質土10の湿潤時の明度を白色より黒色に近いものとし、底質土10の色をカーボン粒体、色素混入コンクリート粒体及び/又は硫化物混入浚渫土の混合により調整する。更に好ましくは、沿岸土6を開口付き消波壁4で囲み、消波壁4外から沿岸土6への波浪を抑えつつ消波壁4内の海水1の温度を高める。消波壁4内の干潮時における海面面積を満潮時における海面面積の40%以下とすることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工干潟の造成方法及び人工干潟に関し、とくに多様な生物が持続的に生息できる人工干潟の造成方法及び人工干潟に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸・海岸域やそれに付随する陸域に至る周辺がコンクリート等による人工構造物で構築されることにより、沿岸域の生物の生息環境が破壊され、生物資源が著しく衰弱していることが問題となっている。最近では、生物が生息する豊かな海岸・沿岸域を再生するために、人工の干潟や藻場等の保全・再生が積極的に進められている。とくに干潟は、水と陸と大気とが接触する多様な生物の生息場所であり、水質の浄化、気候変化の緩和、渡り鳥の休息・餌場等の機能を持つ場所としても重要である。
【0003】
従来の人工干潟の保全・再生方法の一例は、山砂や航路浚渫土等の土砂を海中や陸上に投入し、その上にスプレッダー等を用いて細砂を散布して人工干潟を施工するものである。また特許文献1は、複数の原料タンクにそれぞれ砂、細粒分、軽量材料、有機物、腐植土、肥料、バクテリア、稚貝、種子のうち任意のものを入れ、これらを生物の生息可能な地盤高や平面配置に応じて所望の育成対象生物の生息条件に最適な底質を提供できる砂となるよう混合装置によってブレンドし、散布装置によって干潟造成海域に散布する干潟被覆砂の製造方法及び装置を提案している。
【0004】
【特許文献1】特開2000−314116公報
【非特許文献1】新保裕美ほか「干潟における生物生息環境の定量的評価に関する研究−多毛類を対象として−」土木学会海岸工学論文集、第48巻、p1321-1325
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の人工干潟の保全・再生方法は、主に育成対象の生物に対し適正と思われる底質を提供するという観点等から干潟底質の粒径等を選択している過ぎず、その生物の生息・増殖に係る他の要因、とくに食物連鎖を考慮していない問題点がある。自然の干潟や浅場では、植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、これらのプランクトンを例えばカニ等の甲殻類やゴカイ等の多毛類、マハゼ・ウナギ等の稚魚や小魚が食べ、更にこれらを大型魚や鳥類が餌にするという食物連鎖が形成されている。豊かな沿岸域を持続的に維持するためには食物連鎖を形成する多様な生物を偏りなく育成することが重要である。
【0006】
例えば、自然の沿岸域や浅場の水産資源として我が国の代表種であるマハゼやウナギの生息を図るためには、その餌となる貝類・甲殻類・多毛類等の小動物の増殖を図る必要があり、更にこれらの小動物の餌となるプランクトンの増殖が必要である。すなわち、マハゼやウナギという特定の生物の生息を図る場合であっても、単に底質をこれらの生物に適するものとするだけでは十分ではなく、その生物に関係する食物連鎖を構成する多様な生物が生息できる環境を作る必要がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、自然本来の食物連鎖を持続的に維持する機能を備えた人工干潟の造成方法及び人工干潟を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は自然の干潟や浅場の温熱環境、とくに水温に注目した。干潟や浅場は水深が極めて浅いため大気からの熱の影響を受けやすいことが知られているが、本発明者は自然の干潟の調査により、干潟沖合の水温が大気の温度(気温)よりも低温となる3月下旬から6月中旬にかけて、干潟の水温は逆に大気温度より高温になっていることを見出した。表1は、東京湾の干潟における1月から8月にかけての干潟及び干潟沖合の水温と気温との関係を示す調査結果を示す。
【0009】
【表1】

【0010】
干潟で生息するプランクトンや甲殻類、多毛類等の小動物は外界の温度に従って体温が変化する変温動物であり、海水温度の上昇により成長・増殖が促進される。表1に示すように自然の干潟では、3月から6月にかけて水温が干潟外の水域に比し2〜8℃程度高まることにより、春から夏にかけて前記プランクトンや小動物の成長・増殖が促進され、干潟の生物の生態を干潟外の水域と比較して100〜1000倍程度高めている。自然の干潟における多様な生物による食物連鎖は、このような干潟の温熱環境に基づく結果であると考えられる。
【0011】
本発明者は、干潟の水温が気温より高くなる要因の1つは干潟底質土による太陽放射の吸収にあることを見出した。干潟では、潮が引いた低潮時に干出した干潟地盤が太陽光線を受けて暖められ、その干出地盤上へ高潮時に押し寄せる海水が徐々に暖められる。この潮汐変化による干潟地盤の太陽放射熱吸収と干潟底質から海水への熱伝達との繰り返しにより、気温に対し干潟の海水温度が高温になる。更に本発明者は、干潟の海水温度を高めるためには干潟底質土の湿潤時の色が重要であることを見出し、この知見に基づく更なる研究・開発の結果、本発明の完成に至ったものである。
【0012】
図1の実施例を参照するに、本発明の人工干潟の造成方法は、潮間帯域の上下にわたり緩やかに傾斜する沿岸土6上の該潮間帯域に湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる干潟底質土10を客土し、低潮時における底質土10の太陽放射熱吸収と高潮時における該底質土10から海水1への熱伝達との繰り返しにより沿岸の海水1の温度を高めてなるものである。
【0013】
また、図1の実施例を参照するに、本発明の人工干潟は、潮間帯域の上下にわたり緩やかに傾斜させて敷設した沿岸土6、及び沿岸土6の潮間帯域に客土した湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる干潟底質土10を備え、低潮時における底質土10の太陽放射熱吸収と高潮時における該底質土10から海水1への熱伝達との繰り返しにより沿岸の海水1の温度を高めてなるものである。
【0014】
好ましくは、干潟底質土10の湿潤時の明度を白色より黒色に近いものとする。干潟底質土10を干潟生物の生息に適する粒度とし、底質土10の色をカーボン粒体、色素混入コンクリート粒体及び/又は硫化物混入浚渫土の混合により調整することができる。
【0015】
更に好ましくは、沿岸土6を開口付き消波壁4で囲み、消波壁4外から沿岸土6への波浪を抑えつつ消波壁4内の海水1の温度を高める。この場合、消波壁4内の干潮時における海面面積を満潮時における海面面積の40%以下とすることが望ましい。また、消波壁4を湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる材料製とし、消波壁4の吸収した太陽放射熱により前記沿岸の海水1の温度を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の人工干潟の造成方法及び人工干潟は、潮間帯域の上下にわたり緩やかに傾斜する沿岸土上の該潮間帯域に湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる干潟底質土を客土し、低潮時における前記底質土の太陽放射熱吸収と高潮時における該底質土から海水への熱伝達との繰り返しにより沿岸の海水温度を高めるので、次の顕著な効果を奏する。
【0017】
(イ)自然の干潟に近い温熱環境を維持することができ、干潟生物の育成に必要な食物連鎖を持続的に維持できる。
(ロ)春から夏にかけて沿岸の海水温度を高めることができ、食物連鎖の下位及び中位を構成するプランクトンや小動物の成長・増殖を著しく促進することができる。
(ハ)プランクトンや小動物を飼とするマハゼやウナギ等の魚類の持続的な生息を図ることができ、水産資源が豊かな沿岸域の再生への寄与が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、直立護岸3に接する直線状の海岸線の保全・再生に本発明を適用した実施例を示す。図示例では、護岸3の海側に岸2から沖へ向かう方向へ緩やかに下降傾斜させて沿岸土6を敷設し、沿岸土6の潮間帯域(高潮線HWLと低潮線LWLとの間の地域)へ湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる干潟底質土10を客土する。但し、本発明は人工的に造成した沿岸土6への適用に限定されず、例えば生態系が衰弱した天然の沿岸土6に本発明を適用して干潟の保全・再生を図ることも期待できる。
【0019】
干潟底質土10として、水分を含んで変色した場合に明度が白色より黒色に近くなる材料を使用することができる。本発明者は、黒色を0とし白色を100として無彩色を100等分したコダック社のグレースケール(Gray Scale)を用いて自然の干潟を調査した結果、干潟底質土10の明度が湿潤時に50以下となることを見出した。例えば、有明海干潟の底質土の明度は乾燥状態では56〜61程度であるが、水分を含むと37〜40程度となる。また、葉山地域の天然干潟では底質土の明度が乾燥状態では67〜74程度であるのに対し、湿潤状態では43〜47程度となる。潮汐を繰り返す干潟では、湿潤時の明度が温熱環境の形成にとって重要である。
【0020】
湿潤時に明度が50以下となる干潟底質土10は、低潮時に大気中に露出されて太陽放射を吸収して高温となり、吸収した熱を高潮時に冠水する海水1へ伝達し、潮汐の繰り返しにより沿岸の海水1の温度を上昇させる。本発明では、干潟底質土10が吸収する熱量と高潮時に押し寄せる海水1の量とを適宜設計することにより海水1の上昇温度を調節することが可能であり、沿岸の海水温度を所望の干潟生物11の育成に必要な食物連鎖が維持できる水温にまで上昇させる道を開くことができる。
【0021】
干潟底質土10による吸収熱量は、干潟底質土10の湿潤時の明度により調整できる。干潟底質土10の湿潤時の明度は、含浸時に黒っぽい色となる適当な粒体を混合することにより調整可能であるが、例えばカーボン粒体、色素混入コンクリート粒体、硫化物混入浚渫土等の混合により調整できる。すなわち、干潟底質土10が吸収する熱量をカーボン粒体等の混合量により調整できる。
【0022】
また、図示例のように沿岸土6を囲む開口付き消波壁4を設けた場合は、高潮時に押し寄せる海水1の量を、消波壁4の内側における満潮時の海面と干潮時の海面との面積比率により調整できる。例えば風速10m以上の強風に対し沖合で発生する風波浪が干潟に押し寄せると、干潟底質土10により暖められた海水1が冷却され、干潟の温熱環境が壊される場合がある。そのため図示例のように消波壁4により沖合の波浪の影響を受け難い水域を形成し、消波壁4の内側で温熱環境を維持することが望ましい。波浪の影響を避けるため、消波壁4の内側水域の沖合に臨む開口の大きさを消波壁4の海面と接する長さの50%以下とすることが望ましい。開口の大きさが50%以上となると、波浪の影響を直接受け易くなり、水温の高温化現象は低下する。
【0023】
例えば、消波壁4の内側の干潮時における海面面積を、満潮時における海面面積の40%以下とする。この40%にはミヨすじ等の海底の溝を含めることができる。干出する60%以上の部分に干潟底質土10を客土し、太陽光の輻射熱を受けて高温化する部分とすることにより、消波壁4の内側に干潟生物11の育成に必要な温熱環境が維持できる。但し、干潮時と満潮時の海面の比率はこの例に限定されない。また、冬季は干出部分が低温化して水域全体を低温化する。自然の干潟は春から夏にかけて暖かく、冬は冷たくなる特性を有しており、高温期で生息する生物は低温期には消失して干潟海底内に隙間ができ、次の高温期若しくは春に次世代の増殖空間となる。冬季に干潟部分を低温化することにより、このような自然淘汰システムを形成することができる。
【0024】
干潮時と満潮時の海面の面積比率は、例えば沿岸土6を敷設するときの傾斜角度により調整可能である。図示例では沿岸土6を1/100〜1/200程度の緩やかな傾斜角度としているが、岸2から海底へ向かう沿岸土6を例えば2〜5段程度の階段状に下降傾斜させ、各階段部分に土留めを施し、高潮線HWLと低潮線LWLとの間に冠水時間が異なる複数の階段部分を設けてもよい。この場合は、階段部分毎に各々の冠水時間に適応する干潟生物種に適した干潟底質土10を客土してもよい。
【0025】
例えば、我が国の干潟における代表的生物の1つであるゴカイの生息条件として、底質の粒径(通過質量百分率50%の中央粒径D50)0.1〜0.2mm、泥分率(粒径0.074mm以下のシルト・粘土分の質量割合)15〜20%、強熱減量2.0〜3.0%、水温29℃が適しているとの報告がある(非特許文献1)。図1に示す人工干潟において、消波壁4の内側の干潮時と満潮時との面積比率とが所要比率となるように沿岸土6の傾斜角度を定め、有機物や腐植土を含む泥、砂、礫等とカーボン粒体、色素混入コンクリート粒体、硫化物混入浚渫土等とを混合してゴカイに適する粒度・泥分率・強熱減量で湿潤時に50以上の所要の明度となる干潟底質土10を調製し、その干潟底質土10を沿岸土6の干潮帯域に客土することにより、干潟の海水温度をゴガイに適する温度に維持することが期待できる。
【0026】
また、図示例のように消波壁4を設けた場合は、消波壁4を湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる材料製とし、消波壁4の吸収した太陽放射熱により沿岸の海水温度を高めることも期待できる。例えば、消波壁4を湿潤時に明度が50以下となる色素混入コンクリート製とし、混入する色素の量により湿潤時の明度を調整してもよい。また、色の調整が難しくなるが、消波壁4を適当な色の自然石としてもよい。
【0027】
本発明によれば、自然の干潟に近い温熱環境を維持することができるので、干潟生物11の育成に必要な食物連鎖を持続的に維持することが可能である。特に食物連鎖の下位及び中位を構成する生物種、例えばバクテリア、細菌、底質上に生育する珪藻や緑藻等植物プランクトンを含む藻類、そしてこれらを飼にする動物プランクトンや貝類、甲殻類、多毛類等の動物の生育が期待できる。従って、これらの藻類や動物群を飼とするマハゼやウナギ等の魚類が持続的に生息できる干潟とすることができ、これら水産資源が豊かな海岸・沿岸域の再生への寄与が期待できる。
【0028】
こうして本発明の目的である「自然本来の食物連鎖を持続的に維持する機能を備えた人工干潟の造成方法及び人工干潟」の提供を達成できる。
【0029】
なお、湿潤時に明度50以下となる干潟底質土10や消波壁4は、太陽放射を吸収して高温となるだけでなく、太陽光とくに紫外線の照り返しを低減する効果を有する。よって本発明は、干潟底質土10を湿潤時に明度50以下とすることにより、干出時の干潟底質土10を照り返しの少ない小動物等の生息に適する環境とすることが可能である。
【実施例1】
【0030】
図1の実施例では、沿岸土6の高潮線HWLより高い冠水しない部分に湿生植物13の生育に適する粒度の砂質土12を客土している。多様な生物が生息できる沿岸域を再生するためには、干潟生物11の生息環境である干潟だけでなく、ヨシやナガミノオニシバ、クサヨシ、アイアシ、ギシギシ、フクド、ウラギク、シオクグ(カヤツリグサ科)、ホウキギク等の湿生植物12の生息環境(以下、ヨシ原という。)を併せて形成することが望ましい。例えばヨシの生息には粒径0.2mm程度の土壌が好ましく、粒径が大き過ぎる礫や岩石、粒径が小さ過ぎるシルトや粘土質では不適切であるとの報告がある。このため、沿岸土6上にヨシを生息させる場合は、沿岸土6の潮間帯域より高い部位に粒径0.02〜0.3mm程度の砂質土を客土する。
【0031】
また、自然のヨシ原では、後背地から淡水が地下水として供給され、淡水と海水1とが交じり合う汽水域が形成されている。図示例では、砂質土12の岸側から淡水16を供給することにより、砂質土12上に淡水16と海水1とが交じり合う汽水域を形成し、高潮線HWLより高い部分をヨシ原としている。但し、淡水16の供給量が多すぎると海水1が冷却され干潟の温熱環境が壊されるので、消波壁4の内側の水域全体量に対して淡水16の供給量を20%以内とすることが望ましい。
【0032】
更に図示例では、沿岸土6上の低潮線LWLより低い部位に藻類の生息に適する藻場底質土14を客土している。藻場底質土14を客土することにより、沿岸土6上にヨシ原・干潟・藻場という複数の生物生息環境を空間的に連ねて一体的に育成することが可能となり、自然に極めて近い健全な沿岸域の育成が期待できる。必要に応じて、木杭や岩等の準構造物を用いて、沿岸土6上に客土した砂質土12、干潟底質土10、藻場底質土14を土留めしてもよい。
【0033】
図2は、海面と接する岸2に太陽放射の吸収率が高い色の護岸3を設け、岸2と平行に消波壁4を設け、護岸3と消波壁4との間に岸2に沿って下降傾斜させて敷設した沿岸土6に本発明を適用した実施例を示す。本発明では、太陽放射を吸収する広い面積で緩やかな勾配の干潟底質土10を必要とするため、例えば護岸3の海側前面の水域が狭い場合は、図1の方法では人工干潟の造成が難しい場合がある。図2の実施例では、沿岸土6を岸から沖へ向かう方向に代えて岸に沿って敷設している。このように岸と平行に干潟を造成すれば、護岸前面の水域が狭い場合でも、護岸3の前面に適当な勾配の広い干潟底質土10を客土することできる。
【0034】
図2の実施例では、上述した消波壁4だけでなく護岸3をも湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる材料製とすることにより、消波壁4と護岸3の吸収した太陽放射熱により沿岸の海水温度を高めることも期待できる。この場合、護岸3を上述した消波壁4と同様の色素混入コンクリート製とし、混入する色素の量により湿潤時の明度を調整することができる。
【0035】
また図2では、図3に示すように護岸3と岸との間に生物のすみかとなる栗石、砂、土砂、シルト、良質土、貝殻、コンクリート廃材等の裏込め材20を設け、護岸3に厚さ方向の貫通孔21を生物出入口として穿つことが望ましい。高潮時に貫通孔21から裏込め材20へ海水1が進入し、低潮時に裏込め材20から貫通孔21へ徐々に海水1が流出するので、裏込め材20を生物の生息に適した湿潤環境に維持できる。また護岸3を太陽放射の吸収率が高い材料製とすることにより護岸3の表面からの紫外線の照り返しを抑え、貫通孔21を介してカニ類等の小動物が裏込め材20へ入り込み、裏込め材20の石の隙間や土砂に掘った穴を生息場所としてカニ類等の定着を図ることができる。護岸3の頂上より陸域部分も、土留め等の構造体は湿潤する材料を用い、土留め空間の目地に陸域生息ガニ類の生活空間を設けることができる。
【0036】
図4は、本発明を用いて造成した人工湿地帯の実施例を示す。本発明によれば、マハゼやウナギ等の魚類が持続的に生息できる沿岸域を造成することができ、図3のように、この沿岸域の周辺に植物8を植えて公園とし、遊歩道・サイクリングロード6等を設けることにより、人工湿地帯で生息するマハゼやウナギ等を水産資源として利用する人間が親しむことができる豊かな沿岸域とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】本発明の他の実施例の説明図である。
【図3】図2で用いる護岸の断面図の一例である。
【図4】本発明の更に他の実施例の説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1…海水 2…岸
3…護岸 4…消波壁
5…人工河川 6…歩道・サイクリングロード
8…植物
10…干潟底質土 11…干潟生物
12…砂質土 13…湿生植物
14…藻場底質土
16…淡水
20…裏込め材 21…生物出入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潮間帯域の上下にわたり緩やかに傾斜する沿岸土上の該潮間帯域に湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる干潟底質土を客土し、低潮時における前記底質土の太陽放射熱吸収と高潮時における該底質土から海水への熱伝達との繰り返しにより沿岸の海水温度を高めてなる人工干潟の造成方法。
【請求項2】
請求項1の造成方法において、前記干潟底質土の湿潤時の明度を白色より黒色に近いものとしてなる人工干潟の造成方法。
【請求項3】
請求項2の造成方法において、前記干潟底質土を干潟生物の生息に適する粒度とし、該底質土の色をカーボン粒体、色素混入コンクリート粒体及び/又は硫化物混入浚渫土の混合により調整してしてなる人工干潟の造成方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの造成方法において、前記潮間帯域より高い沿岸土上に湿生植物の生育に適する粒度の砂質土を客土し、該砂質土の岸側から該砂質土上に淡水を供給してなる人工干潟の造成方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかの造成方法において、前記沿岸土を開口付き消波壁で囲み、消波壁外から沿岸土への波浪を抑えつつ消波壁内の海水温度を高めてなる人工干潟の造成方法。
【請求項6】
請求項5の造成方法において、前記消波壁内の干潮時における海面面積を満潮時における海面面積の40%以下としてなる人工干潟の造成方法。
【請求項7】
請求項5又は6の造成方法において、前記消波壁を湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる材料製とし、前記消波壁の吸収した太陽放射熱により前記沿岸の海水温度を高めてなる人工干潟の造成方法。
【請求項8】
請求項5から7の何れかの造成方法において、海面と接する岸に太陽放射の吸収率が高い色の護岸を設けると共に前記消波壁を岸と平行に設け、前記沿岸土を護岸と消波壁との間に岸に沿って下降傾斜させて敷設し、前記護岸の吸収した太陽放射熱により護岸と消波壁との間の海水温度を高めてなる人工干潟の造成方法。
【請求項9】
請求項8の造成方法において、前記岸と護岸との間に生物のすみかとなる裏込め材を設け、前記護岸に厚さ方向の貫通孔を生物出入口として穿ってなる人工干潟の造成方法。
【請求項10】
潮間帯域の上下にわたり緩やかに傾斜させて敷設した沿岸土、及び前記沿岸土の潮間帯域に客土した湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる干潟底質土を備え、低潮時における前記底質土の太陽放射熱吸収と高潮時における該底質土から海水への熱伝達との繰り返しにより沿岸の海水温度を高めてなる人工干潟。
【請求項11】
請求項10の人工干潟において、前記干潟底質土の湿潤時の明度を白色より黒色に近いものとしてなる人工干潟。
【請求項12】
請求項11の人工干潟において、前記干潟底質土を干潟生物の生息に適する粒度とし且つカーボン粒体、色素混入コンクリート粒体及び/又は硫化物混入浚渫土を混合してなる人工干潟。
【請求項13】
請求項10から12の何れかの人工干潟において、前記沿岸土を囲む開口付き消波壁を設けてなる人工干潟。
【請求項14】
請求項13の人工干潟において、前記消波壁内の干潮時における海面面積を満潮時における海面面積の40%以下としてなる人工干潟。
【請求項15】
請求項13又は14の人工干潟において、前記消波壁を湿潤時に太陽放射の吸収率が高い色となる材料製としてなる人工干潟。
【請求項16】
請求項13から15の何れかの人工干潟において、海面と接する岸に太陽放射の吸収率が高い色の護岸を設け、前記消波壁を岸と平行に設け、前記沿岸土を護岸と消波壁との間に岸に沿って下降傾斜させて敷設してなる人工干潟。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−231543(P2007−231543A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51907(P2006−51907)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】