説明

人工心臓ポンプの血管接続装置およびこれを備えた人工心臓ポンプ

【課題】人工心臓ポンプと人工血管との接続部における段差や隙間の発生と、人工血管のよじれや曲り等の発生を防止して血栓の生成を抑制する。
【解決手段】血管接続装置1は、人工心臓ポンプ2側に設けられる差込筒部材5と、人工血管3の末端部が内周部に縫合される外筒部材6と、人工血管3を介して外筒部材6の内周部に密に挿入され、その内周面が人工血管3の内周面と段差無く繋がるように形成されて、該人工血管3が接続される側とは反対側の端部が差込筒部材5に差し込まれて水密的に連結される内筒部材7と、外筒部材6および内筒部材7を人工心臓ポンプ2に接続する接続部材8と、外筒部材6と内筒部材7の先端部の軸方向位置を揃える先端位置決め手段9とを有してなることを特徴とする。人工血管3の末端部は、外筒部材6の内周部に形成された血管外周保持面20と、内筒部材7の外周部に形成された血管内周保持面31との間に挟持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工心臓ポンプと人工血管との接続部における血栓の形成を抑制するようにした人工心臓ポンプの血管接続装置およびこれを備えた人工心臓ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
心不全の治療手段の一つとして、機械的補助循環装置を用いた治療が成果を上げている。例えば、患者自身の心臓だけでは十分な血液循環を維持することができない場合に、人工心臓ポンプを付加して生体心臓の働きを補助し、血液循環機能を維持するものである。この場合は、生体心臓の心室と人工心臓ポンプとの間、および人工心臓ポンプと動脈との間が人工血管で接続される。
【0003】
人工心臓ポンプと人工血管との接続部において、段差や、人工血管のよじれ(よれ)、折れ等が発生すると、この部位に血液の流れが滞る鬱滞領域が形成され、血液が凝固して血栓が生成されやすい。このような血栓は徐々に成長して人工血管を梗塞させる虞があるため、段差等をできるだけ小さくすることが血栓の生成を抑制する上で望ましい。
【0004】
従来、例えば特許文献1に記載されている人工心臓用コネクタがあった。この人工心臓用コネクタは、同文献1の図1および図3に開示されているように、本体部と内筒部と外筒部とを有しており、本体部のテーパー状に形成されたノズル部分に人工血管が挿入され、この挿入部を囲むように内筒部が環装され、その上から外筒部が環装されて、この外筒部が本体部に締結されることにより、外筒部が内筒部を径方向内側に押圧し、さらに内筒部が人工血管を外周側から圧迫し、これによって人工血管が本体部の外周面に押し付けられ、コネクタと人工血管との接続部に段差や隙間が発生することが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−126463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この従来の人工心臓用コネクタは、その外筒部の先端位置と内筒部の先端位置との位置関係によっては、必ずしもコネクタと人工血管との接続部に段差や隙間が発生しないとは限らず、接続部における血栓の生成を完全に防止することができなかった。
【0007】
しかも、本体部のノズル部分がテーパー状に形成されており、この部分に人工血管が挿入され、その周囲が内筒部と外筒部により圧迫される構造であったため、人工血管に多大な圧迫力が作用し、この点でも人工血管がねじれたり、段部が発生したりする懸念があった。また、人工血管の耐久性が低下する虞もあった。
【0008】
さらに、外筒部を緩めて人工血管を人工心臓ポンプから抜脱する時には、本体部から人工血管のみが抜けてしまう構造であったため、人工血管の管厚が薄い場合や、人工血管の端部が変形しているような場合には再接続が困難になり、例えば秒を争う手術中に人工血管の抜脱と再接続とを繰り返す必要がある場合には、接続に手間取り、好ましからざる状況になる懸念があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、簡素な構造により、人工心臓ポンプと人工血管との接続部における段差や隙間の発生と、人工血管のよじれや曲り等の発生を防止して血栓の生成を抑制するとともに、人工血管の耐久性低下を回避し、併せて人工心臓ポンプからの人工血管の抜脱と再接続とを容易にし、人工心臓ポンプの信頼性を高めることのできる人工心臓ポンプの血管接続装置およびこれを備えた人工心臓ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
即ち、本発明の第1の態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置は、人工心臓ポンプ側に設けられる差込筒部材と、人工血管の末端部が内周部に縫合される外筒部材と、前記人工血管を介して前記外筒部材の内周部に密に挿入され、その内周面が前記人工血管の内周面と段差無く繋がるように形成されて、該人工血管が接続される側とは反対側の端部が前記差込筒部材に差し込まれて水密的に連結される内筒部材と、前記外筒部材および前記内筒部材を人工心臓ポンプに接続する接続部材と、前記外筒部材と前記内筒部材の先端部の軸方向位置を揃える先端位置決め手段とを有してなることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、先端位置決め手段により、外筒部材と内筒部材の先端部の軸方向位置が揃えられ、この外筒部材と内筒部材の間に人工血管が挟まれて保持されるため、人工血管の接続部に段差や隙間が発生したり、人工血管のよじれや曲りが発生したりすることが防止され、血栓の生成が抑制される。
【0012】
つまり、外筒部材の先端と内筒部材の先端との軸方向位置がずれていると、人工血管の外周面と外筒部材の内周面との間、または人工血管の内周面と内筒部材の外周面との間に袋状の弛みができ、この部分に人工血管の段差やよじれ、曲りが発生しやすくなるが、外筒部材と内筒部材の先端部の軸方向位置が揃っていれば、このような事態を予防して、血栓の生成を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の第2の態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置は、前記第1の態様において、前記人工血管の末端部は、前記外筒部材の内周部に形成された血管外周保持面と、前記内筒部材の外周部に形成された血管内周保持面との間に挟持され、前記血管外周保持面と前記血管内周保持面は、それぞれ軸方向に径が一定で、互いに平行する円筒面状であり、これら両保持面間の間隙寸法は、前記人工血管の管壁の厚さと同等に設定されていることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、外筒部材の内周部に縫合された弾力性のある人工血管が、外筒部材の内周部(血管外周保持面)と内筒部材の外周部(血管内周保持面)との間に適度な圧力で挟持されるため、人工血管に多大な圧迫力が加わらず、人工血管にねじれや段部が発生したり、人工血管の耐久性が低下したりする懸念を排除することができる。
【0015】
また、本発明の第3の態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置は、前記第2の態様において、前記人工血管の末端部を前記外筒部材の内周面に縫合する縫合糸を収容するために、前記血管外周保持面に続いて、該血管外周保持面よりも内径の大きな縫合糸収容段部を形成したことを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、外筒部材の内周面(血管外周保持面)と内筒部材の外周面(血管内周保持面)との間に人工血管と共に縫合糸が噛み込まない。このため、外筒部材への内筒部材の挿入を容易にするとともに、縫合糸の噛み込みによる人工血管の損傷を防止することができる。
【0017】
また、本発明の第4の態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置は、前記第1〜第3の何れかの態様において、前記先端位置決め手段は、前記外筒部材の外周部に設けられた第1の外周フランジと、前記内筒部材の外周部に設けられて前記第1の外周フランジの背面に当接する第2の外周フランジと、袋ナット状に形成された前記接続部材に設けられて前記外周フランジの前面に当接する内周フランジと、を備えて構成されるとともに、前記外筒部材の先端から前記第1の外周フランジの後面までの長さと、前記内筒部材の先端から前記第2の外周フランジの前面までの長さを一致させたことを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、外筒部材に内筒部材が挿入されて、外筒部材の第1の外周フランジと内筒部材の第2の外周フランジとが当接すれば、外筒部材と内筒部材の先端部の軸方向位置が揃えられ、この状態で接続部材の内周フランジにより外筒部材と内筒部材とが人工心臓ポンプに締結される。このため、簡素な構成により、外筒部材と内筒部材の先端位置を揃えて人工血管との接続部における段差や隙間の発生を防止することができる。
【0019】
また、本発明の第5の態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置は、前記第1〜第4の何れかの態様において、前記外筒部材と、前記内筒部材との間に、これら両部材の軸方向への相対移動を規制する相対移動規制手段を設けたことを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、人工心臓ポンプから人工血管を抜脱する際において、接続部材による接続を解き、外筒部材を掴んで人工心臓ポンプから引き抜けば、相対移動規制手段の働きによって外筒部材と共に内筒部材も引き抜かれる。このため、人工心臓ポンプ側に内筒部材が残されて外筒部材だけが引き抜かれてしまうことが防止され、人工心臓ポンプからの人工血管の抜脱と再接続とが容易になる。
【0021】
また、本発明の第6の態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置は、前記第5の態様において、前記相対移動規制手段は、前記外筒部材の内周面に突出し、径方向に移動可能な嵌合凸部と、前記内筒部材の外周面に形成されて前記嵌合凸部が嵌合する嵌合凹部とを備えてなり、該嵌合凸部と嵌合凹部との嵌合は、前記接続部材による接続を取り外して前記嵌合凸部を径方向外側に移動させることにより解除されることを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、簡素な構成により、外筒部材と内筒部材との間における軸方向への相対移動を規制し、人工心臓ポンプからの人工血管の抜脱と再接続とを容易にすることができる。
【0023】
また、本発明の第7の態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置は、前記第1〜第6の何れかの態様において、前記外筒部材の先端付近に、前記人工血管の外周を覆う保護チューブの端部を連結可能にする連結形状が設けられていることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、保護チューブを容易に外筒部材の先端付近に連結可能にして、人工血管のよじれや曲り等の発生を防止し、血栓の生成を抑制することができる。
【0025】
また、本発明に係る人工心臓ポンプは、上記第1〜第7の何れかの態様に係る人工心臓ポンプの血管接続装置を備えたことを特徴とする。これにより、人工心臓ポンプの信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本発明に係る人工心臓ポンプの血管接続装置およびこれを備えた人工心臓ポンプによれば、簡素な構造により、人工心臓ポンプと人工血管との接続部における段差や隙間の発生と、人工血管のよじれや曲り等の発生を防止して血栓の生成を抑制するとともに、人工血管の耐久性低下を回避し、併せて人工心臓ポンプからの人工血管の抜脱と再接続とを容易にし、人工心臓ポンプの信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る血管接続装置を示す縦断面図である。
【図2】同実施形態に係る図1のII部拡大図である。
【図3】同実施形態に係る血管接続装置を示す斜視図である。
【図4】同実施形態に係る血管接続装置を示す分解斜視図である。
【図5】外筒部材の部分斜視図である。
【図6】外筒部材の先端よりも内筒部材の先端の方が短かい場合を示す縦断面図である。
【図7】外筒部材の先端よりも内筒部材の先端の方が長い場合を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る血管接続装置1を示す縦断面図である。
この血管接続装置1は、人工心臓ポンプ2と人工血管3との接続部をなすコネクタであり、人工心臓ポンプ2側に固定される差込筒部材5と、外筒部材6と、内筒部材7と、接続部材8と、先端位置決め手段9と、相対移動規制手段10とを備えて構成されている。上記各部材5,6,7,8は、生体用チタン、もしくはPEEK(Poly Ether Ether Ketone)樹脂等の材質により形成される。
【0030】
差込筒部材5は人工心臓ポンプ2の端面に一体的に設けられており、その軸中心部に、血液を吸入または吐出する流体通路12が形成され、この流体通路12の外方側の端部に、内筒部材7が差し込まれる一段内径の大きな差込部13が形成され、この差込部13の外周には接続部材8が締結される雄ネジ部14が形成されている。なお、差込筒部材5の基部は拡径され、スパナ等の工具を掛止する工具掛止部15として、例えば六角形または八角形の角柱状に形成されている。
【0031】
外筒部材6は、図2〜図4にも示すように、略円筒状の内筒受入管17と、その後部側(人工心臓ポンプ2側)端部外周に一体に形成された外周フランジ18(第1の外周フランジ)と、この外周フランジ18の内周側に突出する内周フランジ状の嵌合凸部19とを有して形成されている。内筒受入管17の内側には、軸方向に内径が一定で所定の軸方向長さを有する円筒面状の血管外周保持面20が形成され、この血管外周保持面20の後部に続いて、血管外周保持面20よりも内径の大きな縫合糸収容段部21が形成されている。血管外周保持面20と縫合糸収容段部21との境目はテーパー状に形成されている。さらに、外筒部材6(内筒受入管17)の先端付近外周部には外周フランジ状の保護チューブ連結フランジ22(連結形状)が設けられている。
【0032】
図4に示すように、外筒部材6の後端部から、軸方向前端側に延びる複数のスリット23が形成され、外周フランジ18と嵌合凸部19と縫合糸収容段部21の部分が周方向に複数分割されている。これらの部分18,19,21は、図2中に想像線で示すように、径方向外側に引き起こして開放位置19aに移動させることができる。
【0033】
図5は、2本のスリット23の間に位置する外周フランジ18と嵌合凸部19と縫合糸収容段部21の部分斜視図である。スリット23により複数に分割された縫合糸収容段部21には、それぞれ縫合糸挿通孔24が形成されている。そして、図1に示すように、人工血管3の末端部が外筒部材6の内周部に縫合糸25で縫合される。この縫合糸25は縫合糸挿通孔24に挿通されて人工血管3を外筒部材6に固定する。
【0034】
一方、内筒部材7は、略円筒状の挿入管27と、この挿入管27の後部に続く差込管28と、挿入管27および差込管28の境界部に位置する外周フランジ29(第2の外周フランジ)とを有して形成されている。外周フランジ29は、後述の如く内筒部材7が外筒部材6に挿入された時に、外筒部材6の外周フランジ18の背面に当接する。
【0035】
挿入管27と差込管28の内部には、差込筒部材5の流体通路12と同じ内径の流体通路30が形成されている。この流体通路30の先端側の内径は外方に向かって滑らかに拡径され、これにより挿入管27の肉厚が先端側に向かって漸減し、流体通路30の内周面が人工血管3の内周面と段差無く繋がるようになっている。
【0036】
挿入管27の外周部には、軸方向に外径が一定で所定の軸方向長さを有する円筒面状の血管内周保持面31が形成されている。この血管内周保持面31と、外筒部材6の血管外周保持面20とは、互いに平行し、これら両保持面20,31間の間隙寸法T(図2参照)が、人工血管3の管壁の厚さと同等になるように、血管外周保持面20の内径寸法D1と血管内周保持面31の外径寸法D2とが設定されている。
【0037】
また、挿入管27と外周フランジ29との間には、外周溝状の嵌合凹部32が形成されている。この嵌合凹部32には外筒部材6の嵌合凸部19が嵌合する。さらに、差込管28の外周面にはO−リング33が環装されている(図1参照)。
【0038】
内筒部材7の挿入管27は、人工血管3を介して外筒部材6の内周部に密に挿入される。即ち、まず人工血管3の末端部が外筒部材6の内周面に挿入されて縫合糸25により縫合される。次に、この外筒部材6の後端の嵌合凸部19を開放位置19aに移動させた状態で、内筒部材7の挿入管27が外筒部材6の後端部側から挿入され、外周フランジ29の前面が外周フランジ18の背面に当接するまで内筒部材7が押し込まれる。これにより、人工血管3の末端部が、外筒部材6内周の血管外周保持面20と、内筒部材7外周の血管内周保持面31との間に密に挟持される。
【0039】
前述のように、血管内周保持面31と血管外周保持面20との間の間隙寸法Tは、人工血管3の管壁の厚さと同等になるように設定されるが、外筒部材6の内周面に縫合された人工血管3の内周部に内筒部材7を密に、且つ滑らかに挿入できるように設定するのが望ましい。
【0040】
このように内筒部材7が外筒部材6に挿入される際、人工血管3を外筒部材6に縫合している縫合糸25は、外筒部材6の縫合糸収容段部21と、内筒部材7の挿入管27の外周面(血管内周保持面31)との間にできる環状の空間Sに収容される。このため、縫合糸25により内筒部材7の外筒部材6への挿入が妨げられることはない。
【0041】
また、外筒部材6の血管外周保持面20と縫合糸収容段部21との境目がテーパー状に形成されているため、内筒部材7を外筒部材6に挿入する際に、内筒部材7の先端部が血管外周保持面20の内側に誘導されやすく、内筒部材7の挿入が容易になっている。
【0042】
さらに、内筒部材7の差込管28が差込筒部材5の差込部13に差し込まれ、O−リング33によるシール作用によって水密的に連結される。そして、外筒部材6および内筒部材7を人工心臓ポンプ2(差込筒部材5)に接続する接続部材8が袋ナット状に形成されており、その内周に形成された雌ネジ部36が差込筒部材5の雄ネジ部14に締結される。
【0043】
また、接続部材8に形成された内周フランジ37が、外筒部材6の外周フランジ18の前面に当接するとともに、この内周フランジ37の内周部が、外周フランジ18の外周を囲むように形成された段部38に係合し、前記したように複数のスリット23によって開放位置19aに移動可能とされた外周フランジ18および嵌合凸部19が開放位置19a側に移動することが規制される。
【0044】
このため、接続部材8が差込筒部材5に締め込まれることにより、外筒部材6の外周フランジ18と、内筒部材7の外周フランジ29とが、接続部材8の内周フランジ37によって差込筒部材5側に押圧されると同時に、外筒部材6の嵌合凸部19が内筒部材7の嵌合凹部32に嵌合し、かくして人工血管3が人工心臓ポンプ2に接続される。
【0045】
そして、先端位置決め手段9は、外筒部材6の外周フランジ18と、内筒部材7の外周フランジ29と、接続部材8の内周フランジ37とによって構成されている。また、図2に示すように、外筒部材6の先端から外周フランジ18の後面までの長さL1と、内筒部材7の先端から外周フランジ29の前面までの長さL2とが一致するように設定されている。
【0046】
このため、外筒部材6に内筒部材7が挿入されて、外周フランジ18と外周フランジ29とが当接した時点で、外筒部材6の先端部と内筒部材7の先端部の軸方向位置が揃えられ、この状態で接続部材8の内周フランジ37により外筒部材6と内筒部材7とが差込筒部材5に締結される。なお、接続部材8と差込筒部材5は、スパナ等の工具を用いて互いに締結される。
【0047】
また、外筒部材6の内周面に設けられた嵌合凸部19と、内筒部材7の外周面に形成された嵌合凹部32とにより、相対移動規制手段10が構成されている。この相対移動規制手段10は、外筒部材6と内筒部材7との間における軸方向への相対移動を規制するものである。つまり、外筒部材6に内筒部材7が挿入され、外周フランジ18と外周フランジ29とが当接すると同時に、嵌合凸部19が嵌合凹部32に嵌合し、これによって外筒部材6に対する内筒部材7の軸方向への相対移動が規制される。この嵌合凸部19と嵌合凹部32との嵌合は、接続部材8による接続を取り外して嵌合凸部19を径方向外側の開放位置19aに移動させることにより解除することができる。
【0048】
また、人工血管3の外周には軟質樹脂性の保護チューブ41が巻装され、人工血管3が屈折すること等が防止されるが、この保護チューブ41の端部が、外筒部材6の先端付近に形成された保護チューブ連結フランジ22に嵌合される。
【0049】
人工心臓ポンプ2から人工血管3を抜脱する際には、人工心臓ポンプ2に固定されている差込筒部材5から接続部材8を緩めて、外筒部材6の部分を把持して軸方向に引き抜く。この時には、相対移動規制手段10により外筒部材6と内筒部材7との間における軸方向への相対移動が規制されているため、外筒部材6と共に内筒部材7と接続部材8と人工血管3と保護チューブ41とが一体となって抜脱される。したがって、例えば内筒部材7と人工血管3とが差込筒部材5側に残されたままで、外筒部材6と保護チューブ41のみが抜けてしまうといった事態に陥る懸念がない。
【0050】
以上のように、この血管接続装置1は、人工血管3の末端部が内周部に縫合される外筒部材6と、人工血管3を挟むようにして外筒部材6の内周部に密に挿入される内筒部材7と、これら外筒部材6と内筒部材7の先端部の軸方向位置を揃える先端位置決め手段9とを備えて構成されている。
【0051】
このため、先端位置決め手段9により、外筒部材6と内筒部材7の先端部の軸方向位置が揃えられ、この外筒部材6と内筒部材7の間に人工血管3が挟まれて保持されるため、人工血管3の接続部に段差や隙間が発生したり、人工血管3のよじれや曲りが発生したりすることが防止され、人工血管3と、内筒部材7の流体通路30との境界部において血栓が生成されることが抑制される。
【0052】
つまり、例えば図6に示すように外筒部材6の先端よりも内筒部材7の先端の方が短かったり、図7に示すように外筒部材6の先端よりも内筒部材7の先端の方が長かったりして、外筒部材6の先端と内筒部材7の先端との軸方向位置がずれていると、人工血管3の外周面と外筒部材6の内周面との間、または人工血管3の内周面と内筒部材7の外周面との間に、段差Xや隙間Y、あるいは弛みZ等ができ、この付近に人工血管3のよじれや曲りが発生しやすくなり、血栓が生成されやすくなる。しかし、外筒部材6と内筒部材7の先端部の軸方向位置が揃っていれば、このような事態を予防して、血栓の発生を抑制することができる。
【0053】
また、この血管接続装置1は、人工血管3の末端部が、外筒部材6の内周部に形成された血管外周保持面20と、内筒部材7の外周部に形成された血管内周保持面31との間に挟持され、血管外周保持面20と血管内周保持面31は、それぞれ軸方向に径が一定で、互いに平行する円筒面状であり、これら両保持面20,31間の間隙寸法Tが、人工血管3の管壁の厚さと同等に設定されているため、外筒部材6の内周部に縫合された弾力性のある人工血管3が、外筒部材6の内周部(血管外周保持面20)と内筒部材7の外周部(血管内周保持面31)との間に適度な圧力で挟持される。このため、人工血管3に多大な圧迫力が加わらず、人工血管3にねじれや段部が発生したり、人工血管3の耐久性が低下したりする懸念を排除することができる。なお、接続部材8による締結力が人工血管3に及ぶこともない。
【0054】
さらに、この血管接続装置1は、人工血管3の末端部を外筒部材6の内周面に縫合する縫合糸25を収容するために、血管外周保持面20に続いて、この血管外周保持面20よりも内径の大きな縫合糸収容段部21を形成したため、外筒部材6の内周面(血管外周保持面20)と内筒部材7の外周面(血管内周保持面31)との間に人工血管3と共に縫合糸25が噛み込まない。このため、外筒部材6への内筒部材7の挿入を容易にするとともに、縫合糸25の噛み込みによる人工血管3の損傷を防止することができる。
【0055】
また、先端位置決め手段9が、外筒部材6の外周部に設けられた外周フランジ18と、内筒部材7の外周部に設けられて外周フランジ18の背面に当接する外周フランジ29と、袋ナット状に形成された接続部材8に設けられて外周フランジ18の前面に当接する内周フランジ37とを備えて構成されるとともに、外筒部材6の先端から外周フランジ18の後面までの長さL1と、内筒部材7の先端から外周フランジ29の前面までの長さL2とを一致させている。
【0056】
このため、外筒部材6に内筒部材7が挿入されて、外筒部材6の外周フランジ18と内筒部材7の外周フランジ29とが当接すれば、外筒部材6と内筒部材7の先端部の軸方向位置が揃えられ、この状態で接続部材8の内周フランジ37により外筒部材6と内筒部材7とが人工心臓ポンプ2(差込筒部材5)に締結される。このため、簡素な構成により、外筒部材6と内筒部材7の先端位置を揃えて人工血管3との接続部における段差や隙間の発生を防止することができる。
【0057】
さらに、この血管接続装置1は、外筒部材6と、内筒部材7との間に、これら両部材6,7の軸方向への相対移動を規制する相対移動規制手段10を設けたため、人工心臓ポンプ2から人工血管3を抜脱する際において、接続部材8による接続を解き、外筒部材6を掴んで人工心臓ポンプ2から引き抜けば、相対移動規制手段10の働きによって外筒部材6と共に内筒部材7も引き抜かれる。このため、人工心臓ポンプ2側に内筒部材7が残されて外筒部材6だけが引き抜かれてしまうことが防止され、人工心臓ポンプ2からの人工血管3の抜脱と再接続とが容易になる。
【0058】
また、この相対移動規制手段10が、外筒部材6の内周面に突出し、径方向に移動可能な嵌合凸部19と、内筒部材7の外周面に形成されて嵌合凸部19が嵌合する嵌合凹部32とを備えてなり、嵌合凸部19と嵌合凹部32との嵌合は、接続部材8による接続を取り外して嵌合凸部19を径方向外側の開放位置19aに移動させることにより解除されるように構成されたため、簡素な構成により、外筒部材6と内筒部材7との間における軸方向への相対移動を規制し、人工心臓ポンプ2からの人工血管3の抜脱と再接続とを容易にすることができる。
【0059】
さらに、外筒部材6の先端付近に、人工血管3の外周を覆う保護チューブ41の端部を連結可能にする連結形状としての保護チューブ連結フランジ22が設けられているため、保護チューブ41を容易に外筒部材6の先端付近に連結可能にして、人工血管3のよじれや曲り等の発生を防止し、血栓の生成を効果的に抑制することができる。
【0060】
そして、以上のように構成された血管接続装置1を人工心臓ポンプ2に備え付けることにより、人工心臓ポンプ2の信頼性を飛躍的に高めることができる。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態の態様のみに限定されないことは言うまでもなく、特許請求の範囲を逸脱しない程度の変更を加えることが考えられる。
【符号の説明】
【0062】
1 血管接続装置
2 人工心臓ポンプ
3 人工血管
5 差込筒部材
6 外筒部材
7 内筒部材
8 接続部材
9 先端位置決め手段
10 相対移動規制手段
18 外周フランジ(第1の外周フランジ)
19 嵌合凸部
19a 開放位置
20 血管外周保持面
21 縫合糸収容段部
22 保護チューブ連結フランジ(連結形状)
23 スリット
25 縫合糸
29 外周フランジ(第2の外周フランジ)
31 血管内周保持面
32 嵌合凹部
37 内周フランジ
41 保護チューブ
L1 外筒部材の先端から第1の外周フランジの後面までの長さ
L2 内筒部材の先端から第2の外周フランジの前面までの長さ
T 間隙寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工心臓ポンプ側に設けられる差込筒部材と、
人工血管の末端部が内周部に縫合される外筒部材と、
前記人工血管を介して前記外筒部材の内周部に密に挿入され、その内周面が前記人工血管の内周面と段差無く繋がるように形成されて、該人工血管が接続される側とは反対側の端部が前記差込筒部材に差し込まれて水密的に連結される内筒部材と、
前記外筒部材および前記内筒部材を人工心臓ポンプに接続する接続部材と、
前記外筒部材と前記内筒部材の先端部の軸方向位置を揃える先端位置決め手段と、
を有してなることを特徴とする人工心臓ポンプの血管接続装置。
【請求項2】
前記人工血管の末端部は、前記外筒部材の内周部に形成された血管外周保持面と、前記内筒部材の外周部に形成された血管内周保持面との間に挟持され、前記血管外周保持面と前記血管内周保持面は、それぞれ軸方向に径が一定で、互いに平行する円筒面状であり、これら両保持面間の間隙寸法は、前記人工血管の管壁の厚さと同等に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の人工心臓ポンプの血管接続装置。
【請求項3】
前記人工血管の末端部を前記外筒部材の内周面に縫合する縫合糸を収容するために、前記血管外周保持面に続いて、該血管外周保持面よりも内径の大きな縫合糸収容段部を形成したことを特徴とする請求項2に記載の人工心臓ポンプの血管接続装置。
【請求項4】
前記先端位置決め手段は、
前記外筒部材の外周部に設けられた第1の外周フランジと、
前記内筒部材の外周部に設けられて前記第1の外周フランジの背面に当接する第2の外周フランジと、
袋ナット状に形成された前記接続部材に設けられて前記第2の外周フランジの前面に当接する内周フランジと、
を備えて構成されるとともに、
前記外筒部材の先端から前記第1の外周フランジの後面までの長さと、前記内筒部材の先端から前記第2の外周フランジの前面までの長さを一致させたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の人工心臓ポンプの血管接続装置。
【請求項5】
前記外筒部材と、前記内筒部材との間に、これら両部材の軸方向への相対移動を規制する相対移動規制手段を設けたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の人工心臓ポンプの血管接続装置。
【請求項6】
前記相対移動規制手段は、前記外筒部材の内周面に突出し、径方向に移動可能な嵌合凸部と、前記内筒部材の外周面に形成されて前記嵌合凸部が嵌合する嵌合凹部とを備えてなり、該嵌合凸部と嵌合凹部との嵌合は、前記接続部材による接続を取り外して前記嵌合凸部を径方向外側に移動させることにより解除されることを特徴とする請求項5に記載の人工心臓ポンプの血管接続装置。
【請求項7】
前記外筒部材の先端付近に、前記人工血管の外周を覆う保護チューブの端部を連結可能にする連結形状が設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の人工心臓ポンプの血管接続装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の人工心臓ポンプの血管接続装置を備えたことを特徴とする人工心臓ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−177428(P2011−177428A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46691(P2010−46691)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/橋渡し促進技術開発/次世代型高機能血液ポンプシステムの研究開発に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】