説明

人工毛髪用異形断面繊維

【目的】 従来よりも嵩高性を向上し、且つソフトな感触を有する人工毛髪用繊維を提供する。
【構成】 断面が、中央連結部から三方へ突出部を有し、少なくとも一つの突出部が中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、このくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 と最もくびれた部分の幅W2 との比W1 /W2 が1.05〜2.0の範囲で、突出部先端部までの長さRと最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 との比R/W1 が1.10〜5.0の範囲である異形断面繊維。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ブレード、エクステンションヘアー等の頭髪装飾用として用いられる、ソフトで嵩高性に優れた人工毛髪用繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、毛髪用に使用される合成繊維としては、モダクリル繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等がある。従来、これらの繊維を用いて、かつら、ヘアピース等の人工毛髪用商品に加工する場合に、その商品性にあった繊維の断面形状が研究され、改良が重ねられてきた。例えば、特開昭55−76102号等では、略星形やまゆ型等の断面によって人毛に近い性質を出すことが提案され、又、実開昭58−65316号では、中心部から放射状に配列した3〜6個のT字型突起から構成される中空断面により、広い範囲のスタイルに適応できる繊維を提案している。一般的に、円形に近い充実した断面形状の繊維を用いると、ソフト感やストレートスタイルには好適であるが、嵩高性の必要なブレードの如く頭髪装飾商品には適さないものである。
【0003】そこで本発明者らは、嵩高感に富むブレードの如き頭髪装飾商品を得る毛髪用繊維を鋭意検討した結果、断面の改良により嵩高性を改良する繊維の開発に成功し、実開昭56−42980号にその技術を開示した。確かに、この三叉状Y字型は、ある程度の嵩高性は得られるものの、中央部分から突き出る部分が略矩形であって、触感のやや硬い繊維となったり、例えばアクリル系繊維等のように湿式紡糸法の場合には矩形形状を得るのが技術的に困難という問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の目的は、人工毛髪用繊維として、従来よりも嵩高性を向上し、且つソフトな感触を付与することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の目的を達成するために、合成繊維からなる人工毛髪用繊維の各種断面形状を検討した結果、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも1つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、この最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 と前記最もくびれた部分の幅W2 との比W1 /W2 、及び、突出部先端部までの長さRと前記最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 との比R/W1 とを特定の範囲内とすることにより、従来よりも嵩高性が向上し、ソフトな感触を付与出来ることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】即ち、本発明は、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも1つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、この最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 と前記最もくびれた部分の幅W2 との比W1 /W2 が1.05〜2.0の範囲内であり、且つ前記突出部先端部までの長さRと前記最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 との比R/W1 が1.10〜5.0の範囲であることを特徴とする。
【0007】ここで、前記繊維断面における中央連結部の中心とは、図1に示すように、繊維断面における中央連結部の内接円の中心Oをいい、突出部の先端部とは突出部における前記中央連結部の中心Oから最も離れた点A1 〜A3 をいう。又、突出部の最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 、及び最もくびれた部分の幅W2 とは、中央連結部の中心Oと各突出部の先端A1 〜A3 とを結ぶ直線と直交する方向における各部の幅W11〜W13、W21〜W23をいう。
【0008】更に、突出部の少なくとも2つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、かつ最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 の最大値W1 max と最小値W1 min との比W1 max /W1 min は1.05〜1.7、又、中央連結部の中心から各突出部先端部までの長さRの最大値Rmax と最小値Rmin との比Rmax /Rmin が1.05〜1.5の範囲であることが好ましい。
【0009】ここで、突出部の最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 の最大値W1 max と最小値W1 min とは、例えば、図1における各突出部における最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W11〜W13のうちで最大の値と最小の値をいい、連結部の中心から突出部先端部までの長さRの最大値Rmax と最小値Rmin とは、連結部の中心Oから各突出部の先端部A1 〜A3 までの長さR1 〜R3 のうちの最大値と最小値をいう。
【0010】又、請求項3に係る人工毛髪用異形断面繊維は、請求項1又は請求項2に係る人工毛髪用繊維であって、合成繊維の単糸繊度が25〜75d(デニール)のものである。
【0011】更に、請求項4、5に係る人工毛髪用異形断面繊維は、請求項1〜請求項3に係る人工毛髪用繊維を、ブレート、エスクテンションヘアー等の頭髪装飾用として用いるというものである。
【0012】本発明の人工毛髪用繊維を構成する合成繊維としては、モダクリル系、塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系等、特に限定されるものではないが、目的とするソフトで嵩高性のある品質を得るには、ヤング率の比較的小さいモダクリル系繊維、塩化ビニル系繊維等が捲縮を付与したりする加工性や、ソフト感の上で適しており、更に、嵩高性の点では、ポリマー比重の小さいモダクリル系繊維がより好ましい。ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維は、強度が強いために感触が硬く感じられ、又、頭髪装飾用として用いる場合は、商品の取扱い上、難燃性であることが強く求められることから、これら易燃性であるポリオレフィン系繊維は、好ましくない面もあるが、ホリマー比重の点においては、ポリオレフィン系繊維が優れており、本発明の断面形状を適用すれば嵩高性のある毛髪用繊維が得られる。
【0013】本発明の人工毛髪用繊維を製造するにあたって、用いられる紡糸ノズルは、紡糸方法やポリマーの種類によって適宜選択すればよいが、例えば、溶融紡糸法や乾式紡糸法を用いる場合は、本発明の目的とする繊維の断面形状にほぼ近い孔形状の紡糸ノズルを用いることが望ましい。又、湿式紡糸法による場合も同様であるが、例えばモダクリル繊維を作る湿式紡糸法の場合は必ずしも目的とする繊維の断面形状通りの孔形状である必要はなく、中央連結部からの突出部分にくびれの無いノズル孔形状を用いた場合でも紡糸ドラフトを1.5〜2.0倍程度に高くすれば、目的とする断面形状の繊維が得られることも見いだされた。
【0014】本発明の人工毛髪用繊維における単糸繊度は、ポリマーの素材により適切な範囲が異なるが、人毛の繊度等から検討した結果、25〜75dの範囲が好ましい。更に、ソフトな感触を強調するためには、25〜40dの範囲がより好ましい。75dを越えて太い場合は、繊維の剛性が強くなり、ブレード等の商品に加工し難い場合があり、又、触感も不自然なものとなることがある。逆に、25dを超えて細い場合は柔らかすぎるために嵩高性が乏しくなることがある等の問題があるため、適切な繊度を選択することは必要である。
【0015】本発明の繊維の断面形状において、図1に示す各部分のうち、W1 /W2 と、R/W1 がそれぞれ1.05〜2.0、及び1.10〜5.0の範囲内であることが必要であるが、前者のより好ましい範囲は1.05〜1.5であり、後者のより好ましい範囲は2.0〜4.0である。W1 /W2 が1.05より小さい場合は、捲縮等の後加工で繊維が割れやすくなり、逆に2.0より大きくなると断面の全体の大きさのバランスが崩れ、最もくびれた部分の幅W2 が極端に細くなるため、繊維の製造の段階で割れやすいという問題が起こり、目標とする嵩高性が達成されなくなる。又、R/W1 が1.10より小さい場合は、突出部としての面積効果が無くなり、逆に5.0より大きい場合は突出部の幅W1 が細くなりすぎるために、屈曲したりして結局は嵩高性への効果が発揮されず目標とする嵩高性が達成できない。
【0016】本発明の人工毛髪用異形断面繊維を、ブレード、エクステンションヘアー等の頭髪装飾とする際、多くの場合、ギアークリンプ等の捲縮加工を施して略波形の繊維束を形成する。捲縮は直線距離100mmの間に山と谷との繰り返し単位で5〜15個の波形形状を付与することが好ましい。又、山の高さと谷の深さの合計が5〜12mmであることが好ましい。
【0017】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明する。尚、特に断りの無い限り、デニールはdと略号で表示する。
【0018】<実施例1>アクリロニトリル49重量%−塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、図2に示したような、中央連結部から三方へ矩形状突出部を有する略Y字型紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.7であった。得られた繊維は溶剤の残っている状態で2倍の延伸を施し、次いで120℃で乾燥後2.5倍の熱延伸を施し、更に乾燥よりも高温度で乾熱処理を施した。得られた繊維は、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも一つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、単繊維の繊度は32dである。この繊維の断面の寸法を表1に示した。
【0019】次に、上記のようにして得られた繊維に、直線距離100mmの間に山と谷の繰り返し単位で平均10個、山の高さと谷の深さとの合計が平均で7mmとなるギアークリンプ加工を施し、略波形の繊維束とした後、代表的なブレードである、5g×30段(レギュラーサイズ)の三つ編み商品を作成し、ブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った結果を表1に示した。
【0020】<比較例1>実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、前記の図2に示した紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液中に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.2であった。得られた繊維は実施例1と同様の方法で乾燥〜延伸〜熱処理を施した。得られた繊維は、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも一つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、単繊維の繊度は45dである。この繊維の断面の寸法、及び、実施例1と同様にしてブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った結果を表1に示した。
【0021】<比較例2>実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、丸形(φ0.3mm径)紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.2であった。得られた繊維は実施例1と同様の方法で乾燥〜延伸〜熱処理を施した。得られた繊維は、断面が偏平型であり、単繊維の繊度は32dである。この繊維の断面形状、及び、実施例1と同様にしてブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った結果を表1に示した。この繊維は、断面が偏平に近くなり、嵩高感のない繊維であった。
【0022】<実施例2>実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、図3R>3に示すような、中央連結部から三方へ先端に向かうほど幅広となる台形状突出部を有する紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.2であった。得られた繊維は実施例1と同様の方法で乾燥〜延伸〜熱処理を施した。得られた繊維は、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも一つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、単繊維の繊度は32dである。この繊維の断面の寸法、及び、実施例1と同様にしてブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った結果を表1に示した。この場合、紡糸ドラフトが低いが、ノズルを工夫することにより、目的の断面が得られている。
【0023】<実施例3>実施例1と同様の共重合体樹脂をアセトンに溶解して28重量%の紡糸原液とし、前記図3に示した紡糸ノズルを通して30重量%アセトン水溶液に紡糸した。この時の紡糸ドラフトは1.7であった。得られた繊維は実施例1と同様の方法で乾燥〜延伸〜熱処理を施した。得られた繊維は、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも一つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、単繊維の繊度は32dである。得られた繊維の断面の寸法、及び、実施例1と同様にしてブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った結果を表1に示した。
【0024】<実施例4>滑剤として、ステアリン酸マグネシウムを0.1重量%添加した極限粘度が0.53のポリエチレンテレフタレートを溶融押し出し機にて図4R>4に示すような、中央連結部から三方へ突出した突出部の先端に膨出部を有する形状で、20Hole×φ0.5mm相当の紡糸ノブルから紡糸筒へ溶融紡糸した。紡糸温度は270〜285℃で引取速度は100m/minで行った。得られた繊維を引き続き75℃熱水中にて2倍延伸し、更に85℃熱水中にて2.5倍延伸し、140℃ヒーターロールにて熱処理を施した。得られた繊維は、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも一つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、単繊度は35dである。この繊維の断面の寸法、及び、実施例1と同様にしてブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った結果を表1に示した。
【0025】<実施例5>ポリプロピレン(MI(JIS K7210によるメルトインデックス)=10g/10min)を溶融押し出し機にて前記図4に示した形状で20Hole×φ0.5mm相当の紡糸ノブルから紡糸筒へ溶融紡糸した。紡糸温度は240〜265℃で、引取速度は100m/minであった。得られた繊維を更に4倍延伸した。得られた繊維は、断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも一つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、単繊度は40dである。この繊維の断面の寸法、及び、実施例1と同様にしてブレードとしての嵩高性とソフト感について官能評価を行った結果を表1に示した。
【0026】
【表1】


【0027】
【発明の効果】表1、表2から明らかなように、本発明で規定する断面形状とすれば、嵩高性に優れ、ソフトな感触の毛髪用繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る繊維の断面形状の寸法説明図である。
【図2】 実施例1の繊維を得るためのノズル孔形状を示す断面図。
【図3】 実施例2、3の繊維を得るためのノズル孔形状を示す断面図。
【図4】 実施例4、5の繊維を得るためのノズル孔形状を示す断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 合成繊維の断面が、1つの中央連結部から三方へ突出部を有し、前記突出部の少なくとも一つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、この最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 と前記最もくびれた部分の幅W2 との比W1 /W2 が1.05〜2.0の範囲であり、且つ前記突出部先端部までの長さRと前記最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1 との比R/W1 が1.10〜5.0の範囲であることを特徴とする人工毛髪用異形断面繊維。
【請求項2】 突出部の少なくとも2つが、前記中央連結部の中心から当該突出部先端部までの長さRの二分の一より先端に近い部分で最もくびれており、且つこの最もくびれた部分より先端寄りの部分のうちで最も幅広な部分の幅W1の最大値W1 max と最小値W1 min との比W1 max /W1 min が1.05〜1.7の範囲であり、且つ連結部の中心から各突出部先端部までの長さRの最大値Rmax と最小値Rmin との比Rmax /Rmin が1.05〜1.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪用異形断面繊維。
【請求項3】 合成繊維の単糸繊度が25〜75dである請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用異形断面繊維。
【請求項4】 合成繊維が頭髪装飾用である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】 頭髪装飾がブレード、エクステンションヘアーである請求項4に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】 請求項1〜請求項5に記載の繊維に、直線距離100mmの間に山と谷との繰り返し単位で5〜15個の波形形状を有し前記山の高さと谷の深さの合計が5〜12mmである捲縮加工を施して繊維束としてなる頭飾用繊維束。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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