説明

人工空気製造装置

【課題】 半導体製造工場あるいは液晶製造工場などに多用されるCDAプロセスのバックアップ用として利用される、効率性および信頼性の高い人工空気製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 液化酸素の貯留手段11とその気化手段12、液化窒素の貯留手段13とその気化手段14、気化した酸素および窒素を混合する混合手段15を有する人工空気製造装置Aであって、空気を圧縮する圧縮手段1と該空気を水分除去する乾燥手段とを有する圧縮乾燥空気製造プロセスSと、該プロセスの緊急時に作動する制御弁Vnを介して接続することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工空気製造装置に関するもので、詳細には、半導体製造工場あるいは液晶製造工場などに多用される圧縮乾燥空気製造プロセスのバックアップ用として利用される人工空気製造装置に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場あるいは液晶製造工場などにおいては、各工程における洗浄用あるいはパージ用などとして、液化窒素を気化した純窒素が大量に利用されていたが、近年それに代わり、安価な圧縮乾燥空気(CDA)の利用が増加してきている。
【0003】
こうした要求に応じて、工場敷地内に空気を原料とする窒素ガス製造用空気分離装置が設置されることが多くなり、かかる空気分離装置としては、図4に示す型式のものが広く知られている。図4の空気分離装置においては、まず原料空気を圧縮機1で圧縮した後、触媒塔2及び除炭乾燥塔3を通すことで原料空気から水素、一酸化炭素、二酸化炭素及び水等を除去する。次いで、この原料空気をコールドボックス4内の熱交換器5で熱交換して冷却し、精溜塔6内で精溜分離して高純度の窒素ガスとする。この高純度窒素ガスは、熱交換器5に通された原料空気を冷却する冷熱源として用いられた後、常温の製品高純度窒素ガスとして取り出される。また、高純度窒素ガスの他、水及び二酸化炭素等が除去された圧縮乾燥空気も半導体製造装置等で必要とされるため、除炭乾燥塔3を通過した原料空気の一部を配管7から導出し、これを製品圧縮乾燥空気として取り出すこととしている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3472631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のような窒素ガス製造用空気分離装置およびCDAプロセスでは、以下のような課題が生じることがある。なお、ここでいう「CDAプロセス」とは、少なくとも圧縮手段および乾燥手段を有するプロセスをいい、他にメタンや二酸化炭素あるいは各種炭化水素などを除去・処理を行うプロセスを有する場合を含む広い概念をいう。
【0005】
CDAプロセスは、クリーンルーム用清浄空気など人が関与する場に供給するガスの製造などに用いることが多く、通常窒素による代用はできない。従って、十分な信頼性のあるCDAの供給を確保するためにはバックアップが必要となり、同一仕様のCDAプロセスを2つ重複して設置する方法が採られていた。しかし、これは施設面・コスト面において2倍の負担を負うこととなり、設備の稼動効率も悪いことから、効率的なバックアップシステムの要請があった。
【0006】
特に、最近の半導体製造プロセスの大型化に伴い、CDAプロセスの大型化が進み、信頼性とともに、設備の簡便性、効率化および低コスト化の要請が強まってきた。
【0007】
本発明の目的は、半導体製造工場あるいは液晶製造工場などに多用されるCDAプロセスのバックアップ用として利用される、効率性および信頼性の高い人工空気製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す人工空気製造装置により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、液化酸素の貯留手段とその気化手段、液化窒素の貯留手段とその気化手段、気化した酸素および窒素を混合する混合手段を有する人工空気製造装置であって、空気を圧縮する圧縮手段と該空気を水分除去する乾燥手段を有する圧縮乾燥空気製造プロセスと、該プロセスの緊急時に作動する制御弁を介して接続することを特徴とする。
【0010】
緊急用の人工空気は、常時全く必要とされず、緊急時には大量に必要とされるという特殊性を有する。一方、従来から医療機関においては、供給する空気の高い清浄性あるいは高濃度酸素の必要性などの観点から、少量の清浄空気の供給が可能な人工空気製造装置として、液体酸素と液体窒素を混合して清浄な空気を作製する装置が開発され商品化されていた。本発明は、こうした装置の考え方を利用し、CDAのバックアップ用として最大の要請である緊急時の適用が可能な機能を有する装置を提供するものである。具体的には、本発明の人工空気製造装置をCDAプロセスと制御弁を介して接続することによって、CDA緊急停止の信号を受けた場合、直ちに制御弁を作動し、CDAプロセスに対して装置で作製された清浄な人工空気を供給することが可能となる。特に貯留時には容積が小さく使用時には必要な容量の供出が可能な液化酸素および窒素を利用することによって、CDAプロセスの緊急時に対応可能な、効率性および信頼性の高い人工空気製造装置を提供することが可能となる。このように、CDAプロセスと人工空気製造装置を組み合わせることによって、双方の機能を最大限に生かしつつ、緊急時のCDAプロセスのバックアップを迅速かつ適切に行うことができる。
【0011】
本発明は、上記人工空気製造装置であって、前記プロセスの緊急時に、初期的にバックアップ可能な圧力および容量を有する人工空気ホルダを、前記混合手段と前記制御弁とを接続する流路中に設けることを特徴とする。
【0012】
一般に、CDAは事業所単位に使用されるもので、常時の大量の処理済の空気が使用されている。従って、CDAの緊急事態においては、一時的に非常に大量のバックアップ用の所定圧力の清浄空気を必要とする。本発明は、こうした要請に対応が可能なように、CDAプロセスの緊急時に必要な容量の人工空気ホルダを設けて所定圧の清浄空気を貯留し、制御弁を介してCDAに一気に供給することを可能とした。
【0013】
本発明は、上記人工空気製造装置であって、前記人工空気ホルダからのバックアップと同時に前記人工空気の作製を準備し、所定の準備時間経過後、前記混合手段からの人工空気を自動的に人工空気ホルダに供給することを特徴とする。
【0014】
上記のように、CDAプロセスの緊急時におけるバックアップとして、第1次的には人工空気ホルダに貯蔵された人工空気を供出することで対応が可能である。しかしながら、通常CDAプロセスの回復には時間がかかることから、第2次的なバックアップを必要とすることが多い。本発明は、こうした要請にも対応して十分なバックアップが維持できるように、人工空気ホルダからの供出と同時に人工空気の作製を準備し、迅速に人工空気ホルダへの供給できる機能を有する装置を形成した。これによって、CDAプロセスの緊急状態が長引いても、円滑にバックアップ用の人工空気製造装置を提供することが可能となる。
【0015】
本発明は、上記人工空気製造装置であって、前記混合手段と前記制御弁とを接続する流路中に、開閉弁を有するバイパス流路を設けることを特徴とする。
【0016】
上記の第2次的バックアップにおいて、人工空気の作製には、窒素と酸素を正確に混合する必要があり、混合条件の安定化および空気成分濃度の安定化に所定の時間を必要とする。従って、人工空気ホルダからの供出開始と同時に人工空気の作製を開始し、その安定化に必要な時間の間バイパス流路から不安定な人工空気を排出し、安定化後に人工空気ホルダに供給することで、円滑に第2次的バックアップを行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係る人工空気製造装置を適用することによって、非常に効率的かつ円滑なバックアップシステムを有するCDAプロセスを実現することができる。つまり、CDAプロセスと人工空気製造装置を組み合わせることによって、双方の機能を最大限に生かしつつ、緊急時のCDAプロセスのバックアップを迅速かつ適切に行うことができる。
【0018】
また、こうしたCDAプロセスのバックアップにおいて、特に緊急時に迅速かつ的確に対応可能な手法として、人工空気ホルダやバイパス流路などを機能的に作動させることによって、効率性および信頼性の高い人工空気製造装置を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に、本発明に係る人工空気製造装置をCDAプロセスと組み合わせた清浄空気および高純度窒素供給システムの1の構成例を示す。原料空気を基に精製空気および高純度窒素を作製するプロセスとともに、複数のCDAプロセスを有する空気分離装置Sに対し、該CDAプロセスのバックアップとして人工空気製造装置Aが制御弁V、V、Vを介して接続している。
【0021】
空気分離装置Sにおいては、図4およびその説明として既述の機能によって製品高純度窒素ガスおよび製品圧縮乾燥空気が取り出されるとともに、乾燥手段8aのみで処理されるCDA1、乾燥および除メタン手段8bで処理されるCDA2、乾燥、除メタンおよび除二酸化炭素手段で処理されるCDA3が供出される。CDAは製品圧縮乾燥空気に比べ、比較的不純物の存在を容認しうる用途に用いられる。これらは、使用される用途に応じ使い分けられる。工場の規模によって様々であるが、CDA全体として5,000〜20,000Nm/hr程度の大容量を使用するCDAを適用対象とする場合に、本発明の有する機能を最大限利用することが可能である。既述のように、こうした使用量に対しては、既存の方法では十分なバックアップができない。なお、図1中の各要素の符号は、図4中の各要素の符号と同じである。
【0022】
空気分離装置Sと接続する人工空気製造装置Aの基本は、液体酸素についての貯留手段11および気化手段12、液体窒素についての貯留手段13および気化手段14、気化された両方のガスを混合して人工空気を作製する混合手段15、その人工空気を貯留する人工空気ホルダ16、該ホルダ16と上記空気分離装置SにおけるCDA1〜3との接続を介する制御弁Vn(V、V、V)、および人工空気の一部が開閉弁17を介して排出するバイパスから構成される。また、後述するように、本発明における人工空気製造装置Aの作動を2つの機能に分けるために、混合手段15と人工空気ホルダ16との中間に開閉弁18が設けられている。
【0023】
混合手段15は、合流した気体を所定時間乱流状態にすることで均一に混合することができる。具体的には、流路に壁面あるいは突起物を設け、気流を衝突させながら一定の空間を通過させる方法などが用いられる。
【0024】
人工空気ホルダ16は、清浄空気を通常常温加圧状態で保存することから、所定の容積を有する耐圧容器で構成される。
【0025】
制御弁Vnは、開閉機能だけでなく絞り機能を有し、CDAへの供給量を制御できることが好適である。
【0026】
次に、緊急事態が発生したときの人工空気製造装置Aの機能および動作を詳述する。
【0027】
(1)第1次的機能
図2は、上記人工空気製造装置Aの詳細を示すもので、太線部がCDAプロセスに緊急事態が発生したときに人工空気製造装置Aが第1次的に機能する要素である。つまり、CDA(図示せず)の緊急停止を検知した場合において、その検知信号を受けて制御弁Vnを作動させると、人工空気ホルダ16に貯留していた高圧の清浄空気が直ちにCDAに供送される。こうして、CDAが停止してもCDAラインに清浄空気が流れ、CDAのバックアップができることとなる。通常、後述する第2次的機能によって供給される人工空気が安定化されるまでの時間、例えば数10秒間、人工空気ホルダ16に貯留していた清浄空気を供給し続ける。
【0028】
このとき、人工空気ホルダ16出口流路に分析計19a(例えば酸素濃度計)を設け、供給する空気の性状を連続監視することが好ましく、異常があれば電磁弁20を介して制御弁Vnを閉とする。さらに、流量計21による流量監視を行うことによって、より安全かつ確実なバックアップが可能となる。
【0029】
また、人工空気ホルダ16は、通常内部圧を例えば約10MPa程度に保持し、CDAへの供給圧を調整するため、圧力調節器22aに基づき制御弁Vnによる圧力制御を行うことが好ましい。
【0030】
なお、図2では、1つのCDAの場合を例示したが、対象とするCDAが複数の場合は、図1に示すように人工空気ホルダ16からの流路を分岐し複数の制御弁V、V、V・・Vnを介して同様の機能および動作とすることが可能である。
【0031】
(2)第2次的機能
人工空気製造装置Aが第2次的に機能する場合を図3に示す。図2同様、太線部が作動する主たる構成要素である。上記のように人工空気ホルダ16内の清浄空気がCDAに供出されると同時に、貯留手段11に貯留される液体酸素は、気化手段12によって蒸発し所定の圧力を有する酸素ガスとして混合手段15に導入され、貯留手段13に貯留される液体窒素は、気化手段14によって蒸発し所定の圧力を有する窒素ガスとして混合手段15に導入される。混合手段15内で均一化されたガスが、空気と同等の成分として安定するまで、開閉弁17を開にしてバイパス廃ガスとして大気放風する。作製されたガスの濃度は分析計19b(例えば酸素濃度計)によって連続監視され、その出力から、酸素ガス流路に設けられた流量制御弁23aを、流量調整器24aの設定値を調整することにより制御し、酸素濃度は所定の精度内に制御される。作製されたガスの流量は、混合手段15の後段に設けられた流量調整器24cによって、圧力は圧力調節器22bによって監視される。
【0032】
次に、作製されたガスが、空気と同等の成分される所定の範囲内で(例えば酸素濃度で21〜23vol%)安定した時点で、開閉弁17を閉、開閉弁18を開とする。これによって、バイパス廃ガスとしての大気放風を停止し、作製されたガス(人工空気)が、人工空気ホルダ16に供給され、さらに制御弁Vnを介してCDAに供給される。通常、この安定化および人工空気の供給開始までに必要な時間は、上記のように数10秒以内とすることができ、それまでの人工空気ホルダ16内に貯留されていた人工空気との継続的な供給を円滑に行うことができる。なお、以上の調整動作において、混合手段15からの濃度管理に関連して、バイパス流路からの放風ガス量を当初大量とし、人工空気ホルダ16への供給切換に伴い、少量に制御・変更する方法も好ましい。CDAの負荷変動などに対する影響を低減し、安定な条件での人工空気の供給が可能となる。
【0033】
以上の一連の操作は、自動で行われることが望ましい。
【0034】
なお、貯留手段11,13と混合手段15の間、混合手段15と人工空気ホルダ16の間にはそれぞれ逆止弁26a,26b,26cが設けられ、上流側と下流側のガスとの混合を防止している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
上記の説明においては、本発明をCDAプロセスの緊急時に用いた場合について好ましい実施例に基づき詳述したが、本発明の請求項およびその基礎概念の範囲内で様々な応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る人工空気製造装置とCDAプロセスの組み合わせの構成例を示す説明図
【図2】本発明に係る人工空気製造装置の構成・機能の詳細を例示する説明図
【図3】本発明に係る人工空気製造装置の構成・機能の詳細を例示する説明図
【図4】従来技術に係る空気分離装置の構成を例示する説明図
【符号の説明】
【0037】
1 圧縮手段(圧縮機)
8a,8b,8c 乾燥・処理手段
11、13 貯留手段
12、14 気化手段
15 混合手段
16 人工空気ホルダ
17,18 開閉弁
A 人工空気製造装置
S 空気分離装置
Vn(V,V,V) 制御弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化酸素の貯留手段とその気化手段、液化窒素の貯留手段とその気化手段、気化した酸素および窒素を混合する混合手段を有する人工空気製造装置であって、空気を圧縮する圧縮手段と該空気を水分除去する乾燥手段を有する圧縮乾燥空気製造プロセスと、該プロセスの緊急時に作動する制御弁を介して接続することを特徴とする人工空気製造装置。
【請求項2】
前記プロセスの緊急時に、初期的にバックアップ可能な圧力および容量を有する人工空気ホルダを、前記混合手段と前記制御弁とを接続する流路中に設けることを特徴とする請求項1記載の人工空気製造装置。
【請求項3】
前記人工空気ホルダからのバックアップと同時に前記人工空気の作製を準備し、所定の準備時間経過後、前記混合手段からの人工空気を自動的に人工空気ホルダに供給することを特徴とする請求項1または2記載の人工空気製造装置。
【請求項4】
前記混合手段と前記制御弁とを接続する流路中に、開閉弁を有するバイパス流路を設けることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の人工空気製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57711(P2006−57711A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239730(P2004−239730)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】