説明

人工網膜補綴装置

【課題】光刺激に基づく現実的な人工補綴装置として使用可能な実際のシステムを提供する。
【解決手段】人工網膜補綴装置は、画像を撮像する画像撮像手段(20)と、複数の光の経路を規定し、光ビームを網膜上の各位置に向けて光の経路それぞれに沿って方向付ける光発生手段(30)と、撮像された画像を処理し、光の経路のグループに沿って光ビームの刺激アレーを発生させるように光発生手段を制御する制御手段(24)とを備え、このグループは撮像された画像に依存することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工網膜補綴装置、および部分的または完全な視力の喪失を克服するような人工網膜補綴装置の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
米国の盲目の定義(良い方の目の最良矯正視力が20/200未満)によれば、40才を超えた米国人とヨーロッパ人の約0.8%が盲目である。網膜色素変性症と集合的に分類される網膜ジストロフィにより、その人口の約0.04%が視力低下と全盲に苦しんでいる。更に50代以上の1〜2%および80代以上の25%が加齢性黄斑変性症(AMD)による弱視を患っている。AMDは年齢と共に劇的に増加しており、ヨーロッパ系米国人の間における盲目の主な原因となっている(米国では約200万件の症例がある)。これらの疾病は桿体光受容器と錐体光受容器の障害を主因とする光感受性の喪失をもたらし、今までの医学的介入は期待に応えたものとなっていない。目が自己修復されうる機構はわかっていない。これらの疾病のほとんどについて発病を十分に遅らせることのできる薬品はなく、失われた視力を回復させることができるものもない。幹細胞の治療は複雑であり、治療が実現するのは何十年も先のことと考えられる。従って、人工移植は現在、失われた視力の一部を回復させることのできる唯一の方法である。
【0003】
治療法として人口網膜を実施する多くの試みがなされた。これらは通常、網膜(桿体と錐体)の機能しなくなった光を認識する構造を能動的に代替するシリコンチップであった。今まで、この移植には網膜下刺激型と網膜上刺激型の2つの方式があった。網膜下刺激型の移植物は網膜層の下に配置され、通常、網膜に残っている信号処理層を刺激しようとするものであるマイクロ・フォト・ダイオード・アレイから成る。網膜上刺激型のチップは網膜の表面上に配置され、網膜神経節細胞(RGC)層を刺激しようとするものである。この場合、迂回される網膜層の画像処理を再現するため、この画像処理を付加する必要がある。網膜ジストロフィのほとんどの種類で、光受容器は失われるが、RGC、つまり網膜ネットワークの出力ニューロンは残存し、(外側膝状体を経由して一次視覚野に至る)視覚脳の網膜受容野への投影を行う。
【0004】
目全体を迂回し、脳の視覚野上に直接、電極のグリッドを移植することも可能である。更なる可能性は視神経を刺激することである。これらの手法は両方ともはるかに、より侵襲的である。また、感染や、てんかん発作による危険性がはるかにより高くなるという問題がある。網膜上移植と同様に、画像形成、認識、刺激に加え、画像処理が必要である。それでもなお、これらの侵襲的な性質にも関わらず、これらの移植形態は積極的に研究されている。
【0005】
人口網膜は不治の網膜ジストロフィの患者に対する現実的、短期的な可能性を示すものである。しかしながら、これまで移植されてきた硬質シリコン構造は、それ自体に問題がある。網膜下移植の場合、不浸透性のシリコン構造は残っている網膜処理層の劣化を速めうる。より柔軟な基板では試みられてきたものの、目が曲線からなっているという特性が、網膜のあらゆる重要な位置をカバーすることを非常に難しくしている。さらに、これらの装置にとって消費電力の問題は非常に重要である。電源ケーブルの導入が難しく、例えばRFリンクによる電力伝送では常に十分な電力を供給して十分な量の刺激点を稼動させることができない。更に、この移植は神経節細胞内に電流を流入させるために使用する侵襲的な電極を含んでおり、残っていて機能する組織の更なる劣化を引き起こすこともある。
【0006】
このため、本発明は電極を使用するのではなく、光刺激に基づく人工補綴装置に関する。本発明の実施形態のいくつかは神経系細胞を光活性化するものであり、いくつかの実施形態は光を認識する方法と、網膜処理層の機能を模して信号を処理する方法と、発光ダイオードを使用して神経節細胞を刺激する方法とを含む。
【0007】
今までの網膜の移植を行う試みは一般に、機能しなくなった光を認識する網膜色素上皮の構造を能動的に代替するシリコンチップに基づいている。今まで、この移植には網膜下刺激型と網膜上刺激型の2つの方式があった。両方とも眼球内に移植しなければならず(また、網膜下刺激型の構造は網膜下に配置する必要があり、より繊細な手術が要求される)、刺激電極は、これが刺激する細胞と良好な物理的接触をしていなければならない。網膜上刺激型の移植物は神経節細胞を刺激する。
【0008】
神経節細胞刺激に対する公知の解決策の1つは固い電極アレイ(金、銀、プラチナ、酸化イリジウム等)を使用することである。微小電極を硬質シリコン基板上にフォトリソグラフィにより通常作成する。シリコン基板は柔軟な構造の上に加工することができるが、壊れやすい。ポリマーによる電極支持構造を用いれば求められている柔軟性が得られる可能性があり、近頃、この方向における初期段階に、いくらか踏み出している。これらの電極は神経系細胞内へ電流を直接、流入させ、活動電位を誘発する。しかしながら、この技術は侵襲的で、細胞を傷つけ、残っている網膜組織の長期的な劣化プロセスを速めるおそれがある。さらに、電極は一旦挿入されると、その位置は固定されるため、正確な位置決めをミクロン・スケールで制御することは難しい。従って、各電極が最適に配置されるかどうかは運任せとなる可能性がある。
【0009】
このため、本発明は光学的な方法を使用し、いくつかの実施形態ではニューロンを刺激するのに光を使用する。光学的励起により、刺激のエネルギー源を外部に置くことができ、これにより、システムにおける電源の制限を緩和する。さらに、光学的手法により、硬い移植物を使用する場合に一般的な末梢のように、小さな領域ではなく、網膜全体を刺激することが可能である。バイ他,バイ・エー、キュウイ・ジェイ、マ・ワイピー,オルシェフスカヤ・イー、プー・エム、ディゾール・エイエム、パン・ジーエイチ著、「エクトピック・エクスプレッション・オブ・ア・マイクロビアル−タイプ・ロドプシン・レストアーズ・ヴィジュアル・レスポンシズ・イン・マイス・ウィズ・フォトレセプター・ディジェネレーション」,ニューロン50号,23−33頁(2006年)が示すように、感光性の哺乳類の網膜神経節細胞は、視覚野に向けて情景の電気的表現を突発的に通すことができることが知られている。フマユンのグループはフォトシステム・アイ(PSI)−プロテオリポソーム(植物から抽出した物質)を網膜芽細胞腫細胞に体外(インビトロ)で加えることを提案した。これらの方法はグリーンバーム・イー、フマユン・エム、カーチス・ティー、リー・ジェイダブリュ、サンダース・シーエー、ブルース・ビー、リー・アイ著、「ナノスケール・フォトシンセシス、ザ・フォトフィジクス・オブ・ニューラル・セルズ・アンド・アーティフィシャル・サイト」(出典:プロシーディングス・オブ・ザ・アイイーイーイーイーエムビーエス・スペシャル・トピック・コンファレンス・オン・モレキュラー・セルラー・アンド・エンジニアリング、2002、2002年6月6〜9日公開)の83〜85頁と、カーチス・ティー、リー・アイ、オーエン・イーティー、ハマユン・エム、グリ−ンバーム・イー著、「モレキュラー・フォトボルテクス・アンド・ザ・フォト・アクティベーション・オブ・マンマリアン・セルズ」(出典:アイイーイーイー・トランス・ナノバイオサイエンス(2)、2005年6月)の196〜200頁で説明されている。これらは限定された成功をある程度、果たしているが、この研究をインビトロより先に進めるような提案ではない。2005年にハンキンス他が初めて臨床治療方法に発展する可能性のある方法を示した(メリアン・ズイー、ターテリン・イーイー、ベリンガム・ジェイ、ルーカス・アールジェイ、ハンキンス・エムダブリュ著、「アディション・オブ・ヒューマン・メラノプシン・レンダース・マンマリアン・セルズ・フォトレスポンシブ」、ネイチャー433号、2005年、741〜745頁)。この研究では遺伝子工学を使用して光感受性を発生させた。遺伝子変化をもたらすために遺伝子移入方法が提案された。最終的にバイ他は、チャネルロドプシン2を使用することによって、(げっ歯類の)神経節細胞の光増感が実現可能であることを体外で立証した。また、彼らはさらに網膜神経節細胞の光生成活動を視覚野に伝送できることを確認した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、光刺激に基づく現実的な人工網膜補綴装置として使用可能な実際のシステムは提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これを踏まえ、本発明により提供される人工網膜補綴装置は、画像を撮像する画像撮像手段と、複数の光の経路を規定し、光ビームを網膜上の各位置に向けて前記光の経路それぞれに沿って方向付ける光発生手段と、前記撮像された画像を処理し、前記光の経路のグループに沿って光ビームの刺激アレイを発生させるように前記光発生手段を制御する制御手段とを備え、前記グループは前記撮像された画像に依存することを特徴とする。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態は網膜神経節細胞の感光性の周辺に構成されるが、これに対する変更は可能であり、生物学的または遺伝学的な様々な変更を使用して、例えば、双極細胞層、水平細胞層、無軸索細胞層等の他の網膜細胞の感光性を使用することができる。
【0013】
光発生手段は、前記光の経路の1つに沿って光を方向付ける光源のアレイを含むこともできる。この光源はLEDとすることができ、あるいは、レーザ、例えば垂直キャビティ・レーザ等の他の形態としてもよい。一方、1つまたは複数の光源からの光が通る光の経路を変更可能にして、この光の経路に沿って任意の特定の時間に光が方向付けられるように光の経路を選択することもできる。
【0014】
前記制御手段は、ビームの刺激アレイが光受容細胞、例えば網膜の感光性神経節細胞に入射した時、撮像された画像に対応する視覚映像の感覚が脳内で生成されるよう、網膜内で通常実行される処理をシミュレートすることもできる。RGC以外の感光性網膜細胞の刺激を意図する場合、制御手段による処理は単純化される。感光性細胞のタイプは、RGC信号伝達経路への光受容器の光受容細胞端に近づくほど、これによって実行される画像データ処理とカスケード経路内の後続の細胞との比が大きくなる。
【0015】
前記制御手段は、光の経路のグループと、光ビームそれぞれの時間に依存する輝度とを選択するアルゴリズムを実行し、このアルゴリズムは、撮像された画像と選択された光の経路のグループの間の関係を修正するよう更新することが好ましい。
【0016】
さらに本発明が提供する人工網膜補綴装置を操作する方法は、画像を撮像するステップと、複数の光の経路を規定し、光ビームを網膜上の各位置に向けて光の経路それぞれに沿って方向付けるステップと、撮像された画像を処理し、光の経路のグループに沿って光ビームの刺激アレイを発生させるステップとを含み、このグループは撮像された画像に依存することを特徴とする。
【0017】
さらに本発明が提供する網膜内の感光性細胞を刺激する方法は、画像を撮像するステップと、複数の光の経路を規定し、光ビームを網膜上の各位置に向けて光の経路それぞれに沿って方向付けるステップと、撮像された画像を処理し、光の経路のグループに沿って光ビームの刺激アレイを発生するステップとを含み、このグループは撮像された画像に依存することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る人工網膜補綴装置の模式的な側面図である。
【図2】図1の装置の模式的な断面図である。
【図3】図1の装置の制御システムの機能図である。
【図4】図3のシステムの画像処理部の模式図である。
【図5】図1の装置のLEDアレイ用コントローラの機能図である。
【図6】図1の装置のLEDアレイの図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施形態をあくまで一例として添付図面を参照してここに説明する。
【0020】
図1を参照すると、本発明の実施形態にかかる視覚支援装置は、フレーム12に取り付けられた人工網膜補綴装置10を含み、フレーム12は人間の目14の前で、該装置を支持するように構成されている。該フレームは眼鏡のフレームと同様な手法で形成され、患者の鼻の鼻梁上に位置するよう構成されたブリッジ16と、患者の耳の上で支持されるよう構成されたアーム18とを含む。人工網膜補綴装置10は画像撮像システムを含み、これはCMOSカメラ20と、画像処理機能を実行する処理部22とを備える。さらに該装置は、LED刺激アドレッシング・チップ24と、該アドレッシング・チップ24により、それぞれ独立してオン、オフが可能なLED装置28で形成される光源アレイ26を含む。レンズ30は個々のLED装置28の前に配置され、そこから放射される光を収束し、集束ビーム32とする。
【0021】
より模式的な様式で人工網膜補綴装置10を示した図2を参照すると、カメラ20はレンズ34を含み、これはカメラ20のチップ36のCMOSセンサーアレイ部21上に対象物または光景37の画像35を結像させるように構成されている。プリント回路基板25はチップ36上のLED駆動部24の出力をLED28と接続する。適当なレンズを含むさらなる光学系38は、LED装置28から放射されるビームの経路を形成し、ビームをまとめた後、このビームがLEDアレイ26の領域よりも小さい領域の上に互いに並行して該装置から伸びるよう構成される。図1に示すように、こうして、光ビーム32を目14の内部に方向付けすることができ、各ビーム32は網膜40上の各点上に投射される。該ビームはそれぞれ、網膜上の直径50〜200ミクロンの領域をカバーするように集束させることが可能である。本実施形態では光源の数はLEDのサイズと利用可能な空間のサイズによってのみ制限されるが、電源は外部から供給されるので、原理的に制限する要因にならない。
【0022】
図3はCMOSアレイ21、処理部22、LED駆動部24を模式的に示している。当然のことながら、処理部22を1つのユニットとして示し、LED駆動部24を別のユニットとして示しているが、これら2つの機能は1つのチップ上に組み合わせることができ、あるいは必要に応じて多数のチップにより別々に実行することもできる。
【0023】
図4を参照すると、処理部22はCMOSアレイ21からの信号についての多くの操作を実行する。上記のように、これらは、通常、網膜初期層が行ういくつかの処理機能をシミュレートする。正常な網膜での処理では、正常な光受容器、桿体、錐体が光を感知した時の刺激が神経節細胞の刺激に変換される。光受容器の刺激と神経節細胞の刺激の関係は複雑である。刺激を受ける神経節細胞は、一部、網膜上の刺激を受ける光受容器の位置に依存し、また、一部、該光受容器の位置関係に依存し、ひいては視認される画像を成す形状にも関連することになり、あるいは一部、視認される画像が変化する際の該光受容器の位置の変化、すなわち視認される画像内の動きにも依存する。従って、処理部22は各LEDに(すなわち、各LEDが活性化する一つまたは複数の神経節細胞に)対して、撮像された画像内の受容野を規定するように構成される。これが撮像された画像のすべての領域となり、LEDの制御に作用するものとなり、神経節細胞の発火に作用することができる正常な目の光受容器アレイの領域にできるだけ近く似せる。
【0024】
処理部22は空間フィルタ42で視認された画像への空間フィルタリングを行い、この場合、エッジ検出の一種を実行する「ガウス関数の差分」による方法を使用する。また、時間フィルタ44で時間フィルタリングを行い、画像の時間周波数の高周波成分を増幅して動きの検出を容易にする。最後に、画像のコントラストを修正するローパスフィルタ46と非線形フィルタ48を使用してコントラスト・ゲインを制御する。具体的には、ダイナミック・レンジと暗感度とを最大にするように構成されている。
【0025】
次いで、該処理部はフィルタをかけた画像を解析し、画像内の領域や線における特定の形状の存在、位置、向き等の画像の空間パラメータを特定し、その後、時間フィルタをかけた画像を解析し、直線的動きや回転運動の速度と方向等といった画像内の特徴である時間パラメータを特定する。次いで、これらの画像処理工程から求められたこれらのパラメータおよびフィルタをかけた画像またはフィルタをかけていない画像の基本画像データを入力として使用するアルゴリズムを用いて、適切な神経節細胞を刺激して、視認される画像に相等する画像を患者が「見られる」ようにするために、どのLEDをオンさせる必要があるかを決定する。
【0026】
該アルゴリズムはLEDアレイのスキャン速度、すなわちLEDのオンとオフを連続的に更新する際の時間間隔に基づいて動作する。各期間において、視認される画像を解析し、オンする必要のある1つまたは複数のLEDのグループを決定する。次いで、このLEDのグループを特定するデータがLED駆動部24に送られる。
【0027】
オンに切り換える必要のある該LEDと、これらのオンとオフを切り換えるタイミングとは、一部、どの神経節細胞がどの時点において刺激する必要があるのかに依存し、また一部、神経節細胞上で行われる感光の特性に依存するものである。いくつかの方法においては、神経節細胞上に特定の波長または波長範囲の光が向けられている間だけ、神経節細胞が活性化される。他の感光の形態では、第1の波長の光を神経節細胞上に向けて神経節細胞を活性化すなわち「オンさせる」、異なる波長の光を神経節細胞上に向けて非活性化すなわち「オフさせる」ことができる。従って、該処理部のアルゴリズムは、まず、どの神経節細胞を活性化する必要があるかを特定し、次いで、どのLEDをオンおよびオフする必要があるかを特定し、そして、どの期間で行うかを特定して、所望の神経節細胞の活性化を行う。
【0028】
本実施形態では、神経系細胞の感光は、ハンキンス他により説明されたように遺伝子工学により達成される。細胞が刺激され、特定のタンパク質(メラノプシン)の安定した生成が行われ、これは、この新規なオプシン型分子の合成を符号化する遺伝子の異種発現により行われる。この分子は細胞原形質膜内に取り込まれ、その光受容機能はレチンアルデヒドのシス−イソ型の存在に依存する。メラノプシンは特定の部位でレチンアルデヒド分子と結合し、レチンアルデヒド分子は光子の吸収に基づき異性体型形質転換を経て、メラノプシンは該タンパク質を活性化し、該タンパク質はGタンパク質型のカスケードと共役する。ハンキンス他により説明されたインビトロでのデモシステムでは、細胞株を成長させたが、本発明でもウイルスのトランスフェクション等により、患者に同様な結果を得ることができる。但し、当然ながら神経系細胞に光を感知させることが可能な他の方法を使用することもできる。
【0029】
本実施形態では、神経節細胞は青色光により活性化し、自然発生する一連の過程を経て非活性化して元に戻る。しかしながら、使用LEDに緑色光を放射させる用にすることも可能であり、それにより感光性分子を非活性化させ、この提案の一部実現に使用することもできる (いわゆるプッシュ・プル機構)。LEDアレイ26はLEDの列で構成され、各列は青色LEDと緑色LEDの多数のペアを含み、図6に示される。図5を参照すると、LED駆動部24は、アレイ内のどのLEDの列をアクティブにするかを選択する共通ライン駆動部60と、アクティブな列内のどのLEDをオンおよびオフさせるかを決定するアクセスライン駆動部62とを含む。共通ライン駆動部60は列コントローラ64によりシフトレジスタ66を経由して制御される。アクセスライン駆動部62は、青色輝度コントロール・モジュール68と緑色輝度コントロール・モジュール70と継続時間コントロール・モジュール72と遅延コントロール・モジュール74とにより制御される。これらのモジュールは主処理部22からのデータを処理し、このデータはRAM76に保存され、各スキャン期間で、どのLEDをオンおよびオフする必要があるかを特定し、それに応じてLEDを制御する。
【0030】
主処理部22とLED駆動部24は、処理部22により使用されるアルゴリズムを含む、その動作を変更できるように構成される。例えば、これらはそれぞれFPGA技術で実現でき、すなわち外部から調節可能である。こうして、患者の経験からのフィードバックを、アルゴリズムの更新することで、比較的容易に実装することができる。
【0031】
公知の主流である網膜移植の提案に比べ、本発明は多くの利点を有することが理解されよう。本技術は非侵襲的であり、刺激を与える光ビームは細胞を傷つけないのに対し、刺激電極はRGCの膜組織に密に接触している。本システムでは刺激点の位置制御が柔軟に行える。従来の電極移植では、いったん設置すると動かすことができなかったが、本システムは細胞を傷つけることなく自由に光ビームを移動させることができる。霊長類の網膜は歪みが大きいため、RGCは対応する入力検出器官に正確にマッピングされず、これは黄斑部の近くで最も顕著である。説明した本実施形態では、このような空間的な非線形性の影響をなくすことができる。この利点は網膜移植物にとって特に重要である。というのは、刺激点の空間的位置合わせとともに学習プロセスが有効な網膜移植物を生成するために望まれるからである。網膜移植を大掛かりな外科的介入なしに使用することができるので、電極移植を使用する公知の方法に比べ、コストが非常に抑えられる。目の内部への電源供給を必要としない。装置全体が外部に置かれるので、より大きな外部電源を使用することができる。装置が体外にあるので、無菌性や感染性についての問題がなくなる。
【符号の説明】
【0032】
10 人工網膜補綴装置
12 フレーム
14 人間の目
16 ブリッジ
18 アーム
20 CMOSカメラ
21 CMOSセンサーアレイ部
22 処理部
24 LED刺激アドレッシング・チップ
25 プリント回路基板
26 光源アレイ
28 LED装置
30 レンズ
32 集束ビーム
34 レンズ
35 画像
36 チップ
37 光景
38 光学系
40 網膜
42 空間フィルタリング
44 時間フィルタリング
46 非線形フィルタ
48 ローパス・フィルタ
60 共通ライン駆動部
62 アクセスライン駆動部
64 列コントローラ
66 シフトレジスタ
68 青色輝度コントロール・モジュール
70 緑色輝度コントロール・モジュール
72 継続時間コントロール・モジュール
74 遅延コントロール・モジュール
76 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を撮像する画像撮像手段と、
複数の光の経路を規定し、光ビームを網膜上の各位置に向けて前記光の経路それぞれに沿って方向付ける光発生手段と、
前記撮像された画像を処理し、前記光の経路のグループに沿って光ビームの刺激アレイを発生させるように前記光発生手段を制御する制御手段と、を備え、
前記グループは前記撮像された画像に依存することを特徴とする、人工網膜補綴装置。
【請求項2】
前記光発生手段は、前記光の経路の1つに沿って光を方向付ける光源のアレイを含むことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
光源のアレイの領域よりも小さい前記網膜の領域上に前記光の経路が集束するよう、前記光の経路を形成する光学系を更に備えることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記撮像された画像に空間フィルタをかける空間フィルタリング手段を含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一に記載の装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記撮像された画像の少なくとも1つの空間パラメータを特定し、これに基づいて前記光の経路のグループを選択することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一に記載の装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記撮像された画像に時間フィルタをかける時間フィルタリング手段を含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一に記載の装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記撮像された画像の少なくとも1つの時間パラメータを特定し、これに基づいて前記光の経路のグループを選択することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一に記載の装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記ビームの刺激アレイが前記網膜の光受容細胞に入射した時、前記撮像された画像に対応する視覚映像が生成されるよう、前記網膜内で通常実行される処理をシミュレートすることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一に記載の装置。
【請求項9】
前記細胞は感光性網膜神経節細胞であることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記光の経路のグループを選択するアルゴリズムを実行し、
前記アルゴリズムは、前記撮像された画像と前記選択された光の経路のグループの間の関係を修正するよう更新されることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一に記載の装置。
【請求項11】
画像を撮像するステップと、
複数の光の経路を規定し、光ビームを網膜上の各位置に向けて前記光の経路それぞれに沿って方向付けるステップと、
前記撮像された画像を処理し、前記光の経路のグループに沿って光ビームの刺激アレイを生成するステップと、を含み、
前記グループは撮像された画像に依存することを特徴とする、人工網膜補綴装置を操作する方法。
【請求項12】
前記人工網膜補綴装置は、請求項1乃至10のいずれか一に記載の装置であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
画像を撮像するステップと、
複数の光の経路を規定し、光ビームを網膜上の各位置に向けて前記光の経路それぞれに沿って方向付けるステップと、
前記撮像された画像を処理し、前記光の経路のグループに沿って光ビームの刺激アレイを生成するステップと、を含み、
前記グループは撮像された画像に依存することを特徴とする、網膜内の感光性細胞を刺激する方法。
【請求項14】
前記光ビームは網膜内の感光性神経節細胞に向けて方向付けられる、請求項11乃至13のいずれか一に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−540900(P2009−540900A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515938(P2009−515938)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002019
【国際公開番号】WO2007/148038
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(599008621)インペリアル イノベーションズ リミテッド (25)