説明

介護用起立支援移動台車

【課題】被介護者を起立姿勢で乗せたままの状態で、一人の介助者によるトイレや浴槽の場所までの移動を転倒させることなく安全に行えるようにする。
【解決手段】被介護者Pが起立して移動可能とするようキャスター4を配してなる台車本体1と、該台車本体1の前部に支承部3を介して前後方向に傾倒自在となって配置し、且つ介助者が操作する介助者用操作ハンドル6d、被介護者Pが手で掴めるようにした被介護者用手摺6cそれぞれを設けた起伏体2とを備える。起伏体2は、被介護者Pが被介護者用手摺6cを掴んで前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者Pを保持可能にする。起伏体2には、被介護者P用の肘載せ台5および被介護者転倒防止用ガード6aを設ける。また、起伏体2の前後方向の所定の傾倒角度位置での保持を可能にし、収縮あるいは伸張状態を維持する油圧駆動の伸縮アーム7を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介助者による助けが無ければ一人歩行が困難な主として在宅の被介護者を立たせたままの状態で移動させることができ、例えば排便時等のトイレ等の便器場所に安全に移動でき、しかも被介護者を立たせたままの状態を保持することで介助者が一人でも被介護者の衣服の脱着をも行なえるようにした介護用起立支援移動台車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化に伴ない自身の身体動作が不自由となって介護を要する者が増加しつつあり、例えば一人での歩行は困難であるが、何かにつかまったり、誰かが支えたりすれば容易に立つことができる被介護者が増えてきている。人間の成長過程において、乳幼児時では寝たままの状態から四つん這いの状態となり、さらにつかまり立ちの状態となって、その後に二足歩行の状態へと成長するが、老人はその逆をたどって衰えて行く。このような老化・身体の不自由さには個人差はあるが、先ず足腰が弱くなって、何かの支えが無いと立ったり歩行したりできなくなる。
【0003】
こうした状態になると、先ず困る問題がトイレの使用であり、従来では、被介護者の経年老化に伴い、自ら移動してのトイレの使用が可能であった状態から、移動動作が必要なくなるポータブルトイレの使用、さらにはいわゆる寝たきりとなって介護用オムツを使用せざるを得なくなる状況となる。このような寝たきりの状況となって在宅で介護する場合には、精神的にも肉体的にも介助者側、被介護者側の双方にとって最も厄介な問題となる。仮に介護用オムツを着用せざるを得ない状態になったとしても、介助者側、被介護者側の双方にとっては可能な限りトイレを使用して排泄した方があらゆる点で考えても理想的ではある。
【0004】
例えば、ポータブルトイレを使用する場合には、介助者は、ベッドに寝ている被介護者を起こし、ベッドの脇に座らせ、引き寄せて立たせる。そして、ポータブルトイレの位置まで被介護者を移動させ、介助者は被介護者を支えたままの状態でズボンと下着を下ろし、ポータブルトイレに座らせる。排泄後、介助者は被介護者を再度引き寄せて立たせ、支えたままの状態で下着およびズボンを引き上げ着用させる。そして、介助者は被介護者を支えながら移動させてベッドの脇に座らせてベッドに寝かせるのである。
【0005】
ところが、このような一連の作業を介助者一人で行うとすると、特に被介護者を支えたままでの着衣の上げ下ろしは極めて困難で、しかも一人の介助者がこれらを作業するときに無理をすると、転倒する等の事故を起こしかねない。そこで、介護している場合においては、被介護者がトイレを使用する度に介助者の一人が支え、他の一人が着衣を上げ下げする等のが二人がかりで対応する必要があった。
【0006】
また、従来では、例えば特許文献1に開示されているように、被介護者の家族用浴槽を用いた入浴や、家族用トイレを使った用便、その他を容易にする身体保持具と介護用台車とを備えた介護装置なる技術が提案されている。これは、ベッドまたは畳の上の寝具に寝ている被介護者を、該被介護者に隣接して置かれている身体保持具に介助者によって移し、その身体保持具をリフトで吊り上げ、寝具の横においた介護用台車に載せる。次に、介助者はその介護用台車を浴室またはトイレまで移動させ、その身体保持具に保持された被介護者をリフトを用いて入浴または排泄させ、終われば寝具場所に戻るという一連の作業を、介助者のもっとも少ない労力で、また被介護者にはいかなる苦痛もなく安心して作業が行えるものとしている。
【特許文献1】特開平9−75418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この特許文献1に開示されている身体保持具と介護用台車とを備えた介護装置なる技術では、例えば介護センターや病院等の室内スペースの広い公共施設では設置し、使用可能であっても、在宅介護の場合では、当該介護装置の移動・設置に要する室内スペースが充分に確保されていないとこのような介護装置の使用も不可能である。
【0008】
また、従来での在宅介護においては、上述したリフトを一般家屋等に設けること自体がその構造上、現実的でない。こうしたリフト等を設置できないために人力に頼らざるを得ず、上述したように、被介護者がトイレを使用する度に、上述したように一人の介助者が被介護者を支え、もう一人の介助者がズボンと下着とを下ろすという作業となるように、介助者が二人がかりで対応することになる。その際、もし、介助者による支えのバランスがいったん崩れてしまうと被介護者を転倒させてしまう危険性が絶えないのが実情である。それ故に、介護用オムツを常時着用させておき、ベッドの上で横臥したままの状態で直接排泄させるようにもなり、これが返って被介護者の自立の意識を傷心させ、更に老化を進行させることにもなっている。
【0009】
そこで、本発明は叙上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、主として在宅介護において、被介護者の用便や入浴に際し、当該被介護者を起立姿勢で乗せたままの状態で、例えば家族一人の介助者によってもトイレや浴槽の位置までの移動を前後左右に転倒させずに安全に行うことができるようにし、しかも被介護者の老化の進行を精神的にも防止でき、宅内での室内スペースの狭い場所でも容易に使用することができる介護用起立支援移動台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明にあっては、被介護者Pを起立させて移動可能となるよう下面にキャスター4を配してなる台車本体1と、該台車本体1の前部に支承部3を介して前後方向に傾倒自在となって配置され、且つ介助者Qが操作する介助者用操作ハンドル6d、被介護者Pが手で掴めるようにした被介護者用手摺6cそれぞれを設けた起伏体2とを備え、該起伏体2は、被介護者Pが被介護者用手摺6cを掴んで前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者Pを保持可能としてなるものである。
起伏体2は、その上部に被介護者Pの肘を載せる肘載せ台5が設けられ、該肘載せ台5に肘を載せたまま前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者Pを保持可能としてなるものとすることができる。
起伏体2には、台車本体1に起立した被介護者Pが転倒するのを防止する被介護者転倒防止用ガード6aを備えてなるものとすることができる。
台車本体1に対する支承部3を介しての起伏体2の前後方向の所定の傾倒角度位置での保持を可能にするよう台車本体1と起伏体2との間に介装された伸縮アーム7を備え、該伸縮アーム7は伸張あるいは収縮状態を維持させてなり、また、伸縮アーム7は油圧駆動されるものとすることができる。
キャスター4は、ブレーキレバー4aの操作で停止、移動ができるようにしてあり、また、伸縮アーム7は、台車本体1下面のキャスター4に付設されているブレーキレバー4aに連繋され、当該伸縮アーム7の伸縮に伴いブレーキレバー4aを動作させるものとすることができる。
起伏体2から斜下前方に向けて突設されていて、被介護者Pの前向き側への起伏体2の傾倒限度位置で起伏体2を支える支持アーム10先端に車輪8を備えてなるものとすることができる。
【0011】
以上のように構成された本発明に係る介護用起立支援移動台車にあって、被介護者Pを台車本体1上で起立させるに際し、被介護者Pが被介護者用手摺6cを掴んだ状態としておいて、このときに作動する油圧駆動の伸縮アーム7が収縮状態から伸長すると、体重が重い被介護者Pであっても起立させることができ、起伏体2を被介護者Pの前向き側に向けた一定の傾倒角度位置に保持させる。
起伏体2は、台車本体1前部で前後方向に傾倒自在であることで、被介護者用手摺6cを掴んだ被介護者Pを、介助者用操作ハンドル6dによって介助者Qが強制的に牽引することでも台車本体1上に立たせさせ、また、すわらさせる。このとき、キャスター4にブレーキレバー4aによるブレーキを掛けておくことで、台車本体1の不意な移動を阻止して作業を安全に遂行させる。
前向き側に傾倒された起伏体2は、被介護者Pを起立させた姿勢のままで保持し、肘載せ台5に被介護者Pの両腕の肘が載せられることで被介護者Pを前向きにやや前屈みさせて自身で支えた状態とさせ、楽な立ち姿勢を保持させる。また、伸長する伸縮アーム7に連動してキャスター4のブレーキを解除させ、これと同時に、支持アーム10、車輪8は、被介護者Pの前向き側への起伏体2の傾倒を支持させる。一方、伸縮アーム7が元の長さに復帰収縮すると、起伏体2を後方の台車本体1側に向けて所定の傾倒角度位置に保持させると同時に、収縮する伸縮アーム7は、これに連動させてキャスター4にブレーキを掛ける。
台車本体1上で被介護者Pを立たせた状態でキャスター4によって台車本体1を所定の場所に移動、あるいは向きを変えさせることで、例えばベッド脇に置いてあるポータブルトイレに被介護者P移動させられ、被介護者P自らが立った状態にあることで、着衣等の上げ、下ろしを介助者Qが一人でも可能にさせる。
油圧駆動の伸縮アーム7は、ポータブルトイレ等に着席させる被介護者Pをゆっくりと下ろさせ、着席作業を安全にさせ、また用便後に被介護者Pを再び立たせさせ、台車本体1上で、起伏体2の肘載せ台5に肘を載せさせることで前屈みの楽な姿勢を保持させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば在宅介護において、被介護者Pの用便や入浴をさせるに際し、当該被介護者Pを起立姿勢で乗せたままの状態で、例えば家族一人の介助者Qによってもトイレや浴槽の位置までの移動を転倒させずに安全に行うことができる。しかも被介護者Pが自身で立ち上がり可能にもさせ、自身で例えば便器を使用できるようにもなることで被介護者Pさらには介助者Q等をして精神的にも負担にならず、ひいては老化の進行を防止できるばかりでなく、一般家屋の宅内での室内スペースの狭い場所でも容易に使用することができる。
【0013】
すなわち、これは本発明が、被介護者Pを起立させて移動可能となるよう下面にキャスター4を配してなる台車本体1と、該台車本体1の前部に支承部3を介して前後方向に傾倒自在となって配置され、且つ介助者Qが操作する介助者用操作ハンドル6d、被介護者Pが手で掴めるようにした被介護者用手摺6cそれぞれを設けた起伏体2とを備え、該起伏体2は、被介護者Pが被介護者用手摺6cを掴んで前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者Pを保持可能としてなるからであり、これにより、例えば家族一人の介助者Qでも、被介護者Pのトイレや浴槽の位置までの移動・移送が可能となり、しかも被介護者Pを起立させることで着衣の上げ、下ろしも容易となり、また前屈みの楽な姿勢で移動させることから被介護者Pの負担も少なく、ひいては被介護者Pの老化の進行を未然に防止することもできる。
【0014】
また、被介護者Pを起立させて移動させる際には、被介護者Pが被介護者用手摺6cを掴んで前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者Pを保持可能となるから、被介護者Pのトイレや浴槽の位置までの安全な且つ安定した移動が可能となる。さらに、台車本体1と、支承部3を介して前後方向に傾倒自在となる起伏体2とによって概ね構成されていることから、宅内での室内スペースの狭い場所でも何等の支障とならずに容易に活用することができる。
【0015】
起伏体2は、その上部に被介護者Pの肘を載せる肘載せ台5が設けられ、該肘載せ台5に肘を載せたまま前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者Pを保持可能としてなるので、被介護者用手摺6cを掴むことができない例えば手指動作の不自由な被介護者Pであっても肘載せ台5に肘を載せたままで、被介護者Pのトイレや浴槽の位置までの安全な且つ安定した移動が可能となる。
【0016】
起伏体2には、台車本体1に起立した被介護者Pが転倒するのを防止する被介護者転倒防止用ガード6aを備えてなるので、例えば家族一人の介助者Qによる被介護者Pのトイレや浴槽の位置までの移動に際し、被介護者Pを前屈み姿勢とさせることとも相俟ち、前後左右のいずれにも転倒させずに安全に移動させることができる。
【0017】
台車本体1に対する支承部3を介しての起伏体2の前後方向の所定の傾倒角度位置での保持を可能にするよう台車本体1と起伏体2との間に介装された伸縮アーム7を備え、該伸縮アーム7は油圧駆動されることで、被介護者Pが被介護者用手摺6cを掴んだ状態で伸縮アーム7を油圧で伸張駆動することによって非力な介助者Qであっても被介護者Pを起立させることができる。また、伸縮アーム7は伸張状態を常時維持することから、台車本体1に対する一定の傾倒角度位置に起伏体2を保持させることができ、これによって被介護者Pが台車本体1に乗る際の起伏体2に対する操作が容易に行える。
【0018】
また、油圧駆動される伸縮アーム7は被介護者Pを台車本体1上で起立させるばかりでなく、例えばポータブルトイレ等に着席させるときに被介護者用手摺6cを掴んでいる被介護者Pをゆっくりと下ろすことができ、被介護者Pは、安全にポータブルトイレ等に着席できる。そればかりでなく、用便後では、再びゆっくりと台車本体1上に起立させられ、起立した起伏体2の肘載せ台5上に肘を載せさせて前屈みの楽な姿勢とさせ、またその状態での着衣の着用も介助者一人でも簡単に行なわせることができる。
【0019】
一方、起伏体2の肘載せ台5に肘を載せて前屈みとなることで当該起伏体2を被介護者Pの前向き側に押し倒した際には、伸縮アーム7は一定の長さだけ伸長状態となることから、被介護者Pの前向き側に向けて一定の傾倒角度位置に起伏体2を保持させることができ、これによって被介護者Pを台車本体1で起立させて移動させる際の当該被介護者Pの前向き側への支持が確実に行える。
【0020】
キャスター4は、ブレーキレバー4aの操作で停止、移動ができるようにしてあるから、被介護者Pを台車本体1に乗せるとき、降ろすとき、さらには例えば便器に着座させるとき、立ち上がらせるとき等に台車本体1を停止させておくことができ、その際の安全性を確保できる。
【0021】
また、伸縮アーム7は、台車本体1下面のキャスター4に付設されているブレーキレバー4aに連繋され、当該伸縮アーム7の伸縮に伴いブレーキレバー4aを動作させるものとしたので、被介護者Pが台車本体1に起立した状態で乗る際に、当該台車本体1が不用意に移動して被介護者Pが転落転倒するという等の最悪な状態となるのを未然に防止することができる。
【0022】
さらに、起伏体2から斜下前方に向けて突設されていて、被介護者Pの前向き側への起伏体2の傾倒限度位置で起伏体2を支える支持アーム10先端に車輪8を備えてなるので、被介護者Pの前向き側への起伏体2の過度な傾倒による被介護者Pの転倒を未然に防止して、台車本体1によって移動することができる。
【0023】
尚、上記の課題を解決するための手段、発明の効果の項それぞれにおいて付記した符号は、図面中に記載した構成各部を示す部分との参照を容易にするために付したもので、図面中の符号によって示された構造・形状に本発明が限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の一形態を説明する。図において示される符号1は、本発明に係る介護用起立支援移動台車を構成する台車本体であり、該台車本体1は、その上に被介護者Pを起立させてから一人の介助者Qによってトイレや浴槽の位置まで移動・移送させることができるようにしてある。すなわち、図1に示すように、平面で略矩形状の所定肉厚の板材の下面四隅にキャスター4が取り付けられ、被介護者Pの両脚を載せる上面には、被介護者Pが滑って転倒しないように波形状に形成したり、ゴムマットの如き滑り止め材を貼着したりした滑り止め部9が施されている。
【0025】
台車本体1の前部には、例えばヒンジ機構等による支承部3を介して、略矩形状の薄板材による例えば板状の起伏体2が前後方向に傾倒自在となって取り付けられている。この起伏体2の上部には、被介護者Pが前屈みの状態で例えば左右両腕を組んだ両肘が載置されるための板片状の肘載せ台5が後方に向けて突設されている。尚、該起伏体2自体は板状に形成されている場合に限らず、前後への起伏・傾倒動作と共に起立した被介護者Pが寄りかかってもこれを支えられる耐荷重性があるものとなれば良く、例えば軽量化する等のための枠フレーム形状その他であっても良いのである。
【0026】
そして、図2および図3に示すように、起伏体2の左右両側における下端から上端にかけては、台車本体1の上方側で側方からみて略円弧状に湾曲した状態で対向配置されてなるパイプ状の被介護者転倒防止用ガード6aが設けられている。この左右の被介護者転倒防止用ガード6aの各上端は、肘載せ台5の左右両側でいったん左右の外方へ向けて膨らむようにして折り曲げられてから若干上側に屈曲されてなる左右の脇ガード6bを介して、さらに後方に向けて円弧状に突出するようにして互いに一体化されてなる被介護者用手摺6cが肘載せ台5の上側に形成されるものとしてある。また、左右の被介護者転倒防止用ガード6aの各上端における左右の脇ガード6bから起伏体2の前方に向けて水平アーチ状となることで、介助者Qが台車本体1を移動したり、向きを変えたりするために操作するパイプ状の介助者用操作ハンドル6dが設けられている。
【0027】
これら被介護者転倒防止用ガード6a、脇ガード6b、被介護者用手摺6c、介助者用操作ハンドル6dそれぞれは、図示のように、脇ガード6bと介助者用操作ハンドル6dとを一体にすることで、介助者Qによる操作による被介護者Pに対する安全性を一層向上できる。尚、これらの被介護者転倒防止用ガード6a、脇ガード6b、被介護者用手摺6c、介助者用操作ハンドル6dそれぞれの配置形状および素材は、本発明を何等拘束するものではなく、例えば一体状であると別体状であるとを問わず、他の配置形状および素材を使用しても良いことは勿論である。
【0028】
また、台車本体1と起伏体2との間には、例えば油圧駆動式のピストンシリンダー機構等による左右で計一対とした伸縮アーム7が介装されており、台車本体1に対する支承部3を介しての起伏体2の前後方向の傾倒角度位置での保持および起伏作動を可能にし、且つ伸縮アーム7自体は、その伸張あるいは収縮状態を維持できるようにしてある。
【0029】
すなわち、この伸縮アーム7は、図4(c)に示すように、被介護者Pが被介護者用手摺6cを手で掴んだ状態にあるとき、伸張して被介護者Pを引き上げて台車本体1上で起立させ、あるいは収縮して被介護者Pを下ろして例えばベッドあるいはポータブルトイレ、ベッド上に着席させるようにしている。また、図1に示すように、伸張して起伏体2を起立させた後に、被介護者Pの両肘が肘載せ台5の上面に載置されて前屈みとなることで起伏体2が被介護者Pの前向き側に押されて傾倒した際に、当該伸縮アーム7が一定の長さだけ伸長していることで、当該起伏体2自体を被介護者Pの前向き側に向けて所定の傾倒角度位置で保持させるようにしている。
【0030】
一方、図4(a)または図4(b)に示すように、被介護者用手摺6cから被介護者Pの手を離すか、あるいは肘載せ台5から被介護者Pの両肘が離れ、また、伸縮アーム7の長さに収縮すると、当該起伏体2自体を後方の台車本体1側に向けて所定の傾倒角度位置で保持させるようにしている。
【0031】
尚、起伏体2の前後方向への傾倒操作は、油圧駆動の伸縮アーム7によらずに、例えば介助者Qが介助者用操作ハンドル6dを直接に握持して、支承部3を支点とする梃子作用によって起伏揺動できることで、被介護者用手摺6cを掴んでいる被介護者Pを立たせたり、すわらせたりしても良い。
【0032】
また、この伸縮アーム7は、台車本体1下面のキャスター4に付設されているブレーキレバー4aに連結されており、起伏体2後方の台車本体1側への傾倒位置に対応する当該伸縮アーム7の伸縮作動に連動してブレーキレバー4aを作動させることでキャスター4にブレーキが掛けられるようにしてある。尚、起伏体2あるいは台車本体1それぞれのいずれかの部位に、例えば脚で踏圧することにより自動的にキャスター4にブレーキが掛けられるよう、キャスター4の油圧ブレーキ機構等を施しても良い。さらにキャスター4は、伸縮アーム7の伸縮作動に連動して作動するブレーキレバー4aによる制動あるいはその解除を行なうようにすることなく、例えば介助者Q自身のブレーキレバー4aに対する手動操作によっても作動可能としても良く、こうすることで構成を簡素化できる。
【0033】
また、起伏体2の下方側における左右両端側からそれぞれ斜下前方に向けてパイプ状の支持アーム10が突設されていて、該支持アーム10の各先端には車輪8が取り付けられることで、図1、図4(d)に示すように、起伏体2の前向き側への過度な傾倒、すなわち傾倒限度位置でこの支持アーム10、車輪8によって支えると同時にキャスター4による台車本体1の移動が安定且つ円滑に行えるようにしてある。
【0034】
次に、以上のように構成された最良の形態についての使用の一例について説明する。先ず、図4(a)に示すように、一人の介助者Qの介助により、例えばベッドに寝ている被介護者Pの上半身を起こし、脚をベッドの中央から下ろさせて被介護者Pを座った状態にさせる。
【0035】
図4(b)に示すように、起伏体2が後方側に傾倒された位置にした台車本体1を介助者Qによってベッドの側面に着け、被介護者Pの脚を台車本体1上に載せておく。そして、被介護者Pを被介護者用手摺6cに掴まらせ、伸縮アーム7の油圧駆動で伸張させることで起伏体2を起立させてベッドに座った状態から被介護者Pを立たせる。このとき、伸縮アーム7が伸張作動することで起伏体2が台車本体1側に向けられて所定の傾倒角度位置で保持されていることから、キャスター4にはブレーキが掛けられている。
【0036】
図4(c)に示すように、前方に起立傾倒する起伏体2によって被介護者Pは被介護者用手摺6cに掴まることで立ち上がり、被介護者Pの両肘が肘載せ台5の上面に載置されることで前屈みとなる。これにより、起伏体2が前方向に傾倒し、伸縮アーム7の一定長さの伸長によって起伏体2をやや前方に傾倒した状態を維持する。このとき、起伏体2自体は被介護者Pの前向き側に向けて所定の傾倒角度位置で保持される。これと同時に、キャスター4のブレーキが解除される。
【0037】
図4(d)に示すように、介助者Qは介助者用操作ハンドル6dを掴んで被介護者Pを乗せた台車本体1を例えばポータブルトイレの前に移動させる。この移動中、被介護者Pは両手で被介護者用手摺6cに掴まっており、あるいは例えば両腕を組んだ状態の両肘を肘載せ台5に載せることで前屈みとなり、いずれにしても台車本体1の上で、被介護者転倒防止用ガード6aにて半ば囲われた状態で起立している。
【0038】
次いで図4(e)に示すように、立った状態でいる被介護者Pに対し、介助者Qは被介護者Pのズボンと下着等を下ろし、また油圧駆動の伸縮アーム7で起伏体2を後方にゆっくりと傾倒させると、被介護者Pは被介護者用手摺6cに掴まりながらポータブルトイレにゆっくりと着座させられ、座って用便する。
【0039】
図4(f)に示すように、用便後の被介護者Pは被介護者用手摺6cに再度掴まり、その状態で伸縮アーム7を油圧駆動させて起伏体2を起立させることで用便後の被介護者Pは被介護者用手摺6cに掴まりながらポータブルトイレから立つことになり、その後、介助者Qは被介護者Pのズボンと下着等を上げて装用させる。
【0040】
図4(g)に示すように、介助者Qは、介助者用操作ハンドル6dを掴んでおり、あるいは肘載せ台5に肘を載せた前屈みの被介護者Pを乗せた台車本体1をベッドの前に移動させる。この移動中、被介護者Pは両腕を組んだ状態の両肘を肘載せ台5に載せながら、あるいは両手で被介護者用手摺6cに掴まりながら、台車本体1の上で起立している。
【0041】
図4(c)および図4(b)に示すように、油圧駆動で伸縮アーム7をゆっくりと収縮させて起伏体2を後方に傾倒させることで被介護者用手摺6cに掴まっている被介護者Pを、図4(h)に示すように、ベッドに座らせる。このとき、キャスター4にはブレーキが掛けられていることになり、ブレーキを解除して台車をベッド脇から離して移動させる一方、被介護者Pを当該ベッドに寝かせる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を実施するための最良の形態における介護用起立支援移動台車を示す斜視図である。
【図2】同じく側面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】同じく介護用起立支援移動台車の使用の手順を示し、(a)は被介護者をベッドに座った状態とさせ、移動台車をベッド脇まで移動したときの斜視図、(b)は被介護者が台車本体上に足を載せ、起立する前の状態の斜視図、(c)は被介護者が台車本体上で起立するときの斜視図、(d)は台車本体上に乗った被介護者を移動させている状態の斜視図、(e)は被介護者をポータブルトイレに着座させるときの斜視図、(f)は被介護者が用便中、更には再度被介護者用手摺に掴まり、起立する前の状態の斜視図、(g)は被介護者をトイレから立たせる状態の斜視図、(h)は移動後で再度ベッドに座らせる一方、台車本体を退避移動させる状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
P…被介護者 Q…介助者
1…台車本体 2…起伏体
3…支承部 4…キャスター
4a…ブレーキレバー 5…肘載せ台
6a…被介護者転倒防止用ガード 6b…脇ガード
6c…被介護者用手摺 6d…介助者用操作ハンドル
7…伸縮アーム 8…車輪
9…滑り止め部 10…支持アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被介護者を起立させて移動可能となるよう下面にキャスターを配してなる台車本体と、該台車本体の前部に支承部を介して前後方向に傾倒自在となって配置され、且つ介助者が操作する介助者用操作ハンドル、被介護者が手で掴めるようにした被介護者用手摺それぞれを設けた起伏体とを備え、該起伏体は、被介護者が被介護者用手摺を掴んで前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者を保持可能としてなることを特徴とする介護用起立支援移動台車。
【請求項2】
起伏体は、その上部に被介護者の肘を載せる肘載せ台が設けられ、該肘載せ台に肘を載せたまま前屈みとなることで前向き側への所定の傾倒位置で当該被介護者を保持可能としてなる請求項1記載の介護用起立支援移動台車。
【請求項3】
起伏体には、台車本体上で起立した被介護者が転倒するのを防止する被介護者転倒防止用ガードを備えてなる請求項1または2記載の介護用起立支援移動台車。
【請求項4】
台車本体に対する支承部を介しての起伏体の前後方向の所定の傾倒角度位置での保持を可能にするよう台車本体と起伏体との間に介装された伸縮アームを備え、該伸縮アームは伸張あるいは収縮状態を維持させてなるものとした請求項1乃至3のいずれか記載の介護用起立支援移動台車。
【請求項5】
伸縮アームは油圧駆動される請求項4記載の介護用起立支援移動台車。
【請求項6】
キャスターは、ブレーキレバーの操作で停止、移動ができるようにしてある請求項1乃至5のいずれか記載の介護用起立支援移動台車。
【請求項7】
伸縮アームは、台車本体下面のキャスターに付設されているブレーキレバーに連繋され、当該伸縮アームの伸縮に伴いブレーキレバーを動作させるものとした請求項4乃至6のいずれか記載の介護用起立支援移動台車。
【請求項8】
起伏体から斜下前方に向けて突設されていて、被介護者の前向き側への起伏体の傾倒限度位置で起伏体を支える支持アーム先端に車輪を備えてなる請求項1乃至7のいずれか記載の介護用起立支援移動台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−268786(P2009−268786A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123216(P2008−123216)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(503214449)