説明

介護用車椅子

【課題】被介護者の背骨の湾曲の状態に合わせて、背もたれ形状を調整することができ、被介護者が安定して着座することができる介護用車椅子を提供する。
【解決手段】前輪12bと後輪12cがそれぞれ左右一対ずつ設けられた走行車体12を有し、走行車体12上に着座用の座部14を備える。着座した被介護者30の背中の下方部分を支える下方背もたれ部16と、背中の上方部分及び頭部を支える上方背もたれ部18を備える。各背もたれ部16,18を角度変更自在に連結固定した角度調節部材である回転軸20と固定部材20aを備える。座部14に対する下方背もたれ部16の取付角度を調整する下方背面角度変更機構22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、老齢者や身体不自由者などが室内や室外において利用する介護用の車椅子に関し、被介護者の体格や体形に合わせて形状の調整が可能な介護用車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車椅子の背もたれは、四角形状のフレームの一対の対向したフレームに布等を張り渡して背もたれを形成している。しかし、布の繊維自体が柔らかいものであったとしても所定の張力をもって張り渡したものであるため、高齢や疾病等により背骨が湾曲した円背の顕著な被介護者の場合、背中全体を包み込むように支えることはできない。そこで、背もたれの布をゆったりとした張力で張り渡すことによって、布の柔軟性により被介護者の背中全体を包み込むようにんで支えることは可能であるが、被介護者がちょっとした動作や仕草によって体全体が不安定に揺れてしまい、姿勢保持の点で座り心地の悪いものであった。
【0003】
一方、背もたれに羽毛やスポンジ等の弾力性のあるクッション材が付設された車椅子も使用されている。これは上記問題点の改善策として、被介護者の背中と背もたれ部との隙間をそのクッション材で埋めようとするものである。しかし、背骨の湾曲の度合いは被介護者によって一定ではないため、クッション材の厚みを薄めに設定すると、円背の湾曲度が顕著な被介護者にとっては不十分であり、逆に厚めに設定すると、円背の湾曲度が僅かな被介護者にとっては窮屈な姿勢を強いるものとなる。したがって、このクッション材を付設する方策は、様々な被介護者に対応可能な汎用性の高い車椅子を実現できる方策ではなかった。
【0004】
そこで、車椅子を利用する被介護者の体格の違いによらず常に座り心地の良さを提供するため、個々の被介護者の体格に合わせ、車椅子の形状を調整することができる車椅子も提案されている。
【0005】
例えば特許文献1に開示されているユニットタイプ車椅子は、車椅子の構成各部の形状を調整可能にしたユニットタイプの車椅子である。具体的には、車椅子の幅、車輪の位置や角度、背もたれの角度等を調整可能とするため、種々のフレームにブラケットやプレート等の構設金具を設け、これらの部材のネジの螺着位置を調節可能としたものである。
【0006】
また、特許文献2に開示されている洗髪用車椅子は、老齢者や身体不自由者等が着座したまま洗髪をすることができるように構成された車椅子である。具体的には、車椅子の座部後方に角度自在に背もたれが設けられ、その背もたれ部の上端には後頭部支持部が折り曲げ又は取り外しが可能に設けられ、洗髪時には、その背もたれを後方に倒し、後頭部支持部を折り曲げ又は取り外し、その後頭部部分に洗髪容器を取り付けることによって被介護者を洗髪可能な体位に誘導する車椅子である。
【特許文献1】特開2005−28095号公報
【特許文献2】特開2002−233556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背骨の湾曲度が増して円背あるいは猫背の状態となり、背部痛や内臓の圧迫性障害などの疾患によって歩行困難となった被介護者にとって、背中及び頭部を支え、安定な姿勢保持が可能で座り心地よい車椅子を得ることは容易ではなく、その場合には、その人の体格や体形に合わせて専用車椅子を製作しなければならず、複数の人で共用することができず、しかも車椅子の価格が高価になってしまうという問題があった。
【0008】
また、特許文献1のユニットタイプ車椅子は、背もたれは平面状に形成されているので、特に円背の顕著な被介護者の場合に、円背の頂点部から頭部までの部分を支えることができず、姿勢保持の点で不安定であり、円背の頂点部に得に荷重がかかったりして、座り心地の悪いものであった。
【0009】
特許文献2の車椅子は、平面状に形成された背もたれの上端に設けられた後頭部支持部を折り曲げ等できる機構を有するものであるが、円背の顕著な被介護者の場合には特許文献1と同様に円背の頂点部から頭部までの部分を広く支えることができず、座り心地の悪いものであった。
【0010】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、被介護者の背骨の湾曲の状態に合わせて、背もたれ形状を調整することができ、被介護者が安定して着座することができる介護用車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、前輪と後輪がそれぞれ左右一対ずつ設けられた走行車体を備え、前記走行車体上に着座用の座部が設けられた介護用車椅子であって、着座した被介護者の背中の下方部分を支える下方背もたれ部と、背中の上方部分及び頭部を支える上方背もたれ部と、前記各背もたれ部を角度変更自在に連結固定した角度調節部材を備えた介護用車椅子である。さらに、前記座部に対する前記下方背もたれ部の取付角度を調整する下方背面角度変更機構を備える。
【0012】
また、前記上方背もたれ部と下方背もたれ部には、各々一対の上方背面フレームと下方背面フレームを備え、前記上方背面フレームと下方背面フレームとが対向した部分が各部材の長手方向に対して各背もたれ部の外側に屈曲して形成され、前記角度調節機構が各背もたれ部の外側に位置し、前記上方背面フレームと下方背面フレームには、各々上方背面シートと下方背面シートが別々に掛け渡され、各上方背面シートと下方背面シートの間に一定の隙間が設けられているものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明の介護用車椅子によれば、背もたれがくの字型に屈折可能であって、その角度も自在に調整可能なため、個々の被介護者の背骨の湾曲度に合った背もたれ形状を自在に形成することができ、個々の被介護者に合った背もたれ形状にし、体形に合わない車椅子を使用する苦痛や不快感を無くすことができる。さらに、様々な背中の形状の被介護者ごとに、専用の車椅子を用意する必要がなく経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の介護用車椅子の一実施形態について、図1〜図3に基づいて説明する。介護用車椅子10は、図1、図2に示すように、左右一対のフレーム体12aの各々に前輪12bと後輪12cがそれぞれ付設され、各フレーム体12aが連結フレーム12dにより連結固定され、走行車体12を構成している。
【0015】
走行車体12の上部には、座部14が設けられている。座部14は、フットレスト14aとアームレスト14bが一体に接続された座部フレーム14cを、連結フレーム14dを介して左右一対に構成した構造である。その左右一対の座部フレーム14cには、図示しない座面シートを張り渡して被介護者の着座面が形成されている。また、座部フレーム14cの後端から後方に延設された取付フレーム14fは、走行車体12のフレーム体12aに軸着され、着座面が前後方向に揺動可能となっている。さらに、連結フレーム12d,14dの間には座部角度変更機構24が連結されている。座部角度変更機構24は、シリンダと図示しない操作機構により、緩衝効果を有して連結フレーム12d,14d間の間隔を伸縮操作可能にしているもので、これによって、走行車体12と座部14との取付角度を自在に調整することができる。
【0016】
座部14の後方には、下方背もたれ部16と上方背もたれ部18などで構成される背もたれが設けられている。下方背もたれ部16は、連結フレーム16bを介して下方背面フレーム16aが左右一対に配置され、その下方背面フレーム16a間に、下方背面シート16cを張り渡して構成されている。上方背もたれ部18は、3本の連結フレーム18bを介して上方背面フレーム18aが左右一対に配置され、その上方背面フレーム18a間に上方背面シート18cを張り渡して構成されている。また、上方背面フレーム18aには、介護者用のハンドル18dとブレーキレバー18eが取り付けられている。
【0017】
上方背面フレーム18aと下方背面フレーム16aとが対向した部分は、各部材の長手方向に対して各背もたれ部16,18の外側に僅かに屈曲して形成され、角度調節機構である固定部材20aが各背もたれ部16,18の外側に位置して、背もたれの内側に突出しないように形成されている。さらに、上方背面フレーム18aと下方背面フレーム16aに掛け渡された上方背面シート18cと下方背面シート16は、別々のシート材が掛け渡され、各上方背面シート18aと下方背面シート16aの間には一定の隙間を有している。
【0018】
さらに、上方背面フレーム18aの下端部は、下方背面フレーム16aの上端部に角度調節部材である回転軸20を介して取り付けられ、角度調節部材である固定部材20aによって角度変更自在のくの字型の背もたれを形成している。固定部材20aは、下方背面フレーム16aと上方背面フレーム18aが対向した端部に固定された、図示しない固定歯車が歯合し、任意の角度に屈曲した状態の歯合位置で、ネジにより締め付けて固定するものである。
【0019】
また、下方背面フレーム16aの下端部分は、座部フレーム14cの後端部分に軸着され、さらに連結フレーム12d,16b間に下方背面角度変更機構22が連結されている。下方背面角度変更機構22は、シリンダと図示しない操作機構により、緩衝効果を有して伸縮操作可能にしているもので、これよって、座部14と下方背もたれ部16との取付角度を自在に調整することができる。
【0020】
なお、各フレーム及びフレーム体は、アルミなどの金属製のパイプ材を適宜切断して構成したもので、溶接または螺子止めにより組み立てられている。
【0021】
次に、介護用車椅子10が使用されるときの動作を図3に基づいて説明する。被介護者30は、背骨の湾曲度が増して円背あるいは猫背の状態となった歩行困難者である。まず被介護者30が座部14に深く着座して背もたれに寄りかかる。このとき、上方背もたれ部18と下方背もたれ部16とが一直線の角度で背もたれが形成されていると、被介護者30の背中下方部30aは下方背もたれ部16に支持されるが、円背頂点部30b、背中上方部30c、後頭部30dは上方背もたれ部16との間に隙間が生じるので支持されない。したがって、被介護者30は安定に姿勢保持ができず、座り心地の悪い状態となる。
【0022】
そこで、被介護者30の背中の形状に合わせ、介護者が上方背もたれ部18の取付角度を調整する。まず、固定部材20aのネジを緩めて上方背もたれ部18が回転軸20を中心に揺動自在な状態にし、上方背もたれ部18を前方へ屈折させる。そして、上方背もたれ部18が被介護者30の円背頂点部30b、背中上方部30c、頭部30bに接する位置になったところで、固定部材20aのネジを締めて上方背面部18を固定する。これによって、背中下方部30a、円背頂点部30b、背中上方部30cおよび後頭部30dが、全体的に下方背もたれ部16及び上方背もたれ部18に支持されるので、被介護者30は安定に姿勢が保持され、座り心地の良い状態となる。
【0023】
さらに、下方背面角度変更機構22を操作すれば、座部14と下方背もたれ部16との取付角度を被介護者30の腰の具合に合わせた体位がとれるように調整することができる。また、体全体の安定性や重心位置等を調整したいときは、座部角度変更機構24を操作して走行車体12と座部14との取付角度を調整することができる。
【0024】
この実施形態の介護用車椅子10は、被介護者30が着座した状態で、被介護者30の体の具合を聞きながら各部の取付角度の調整を行うことができる。さらに、この介護用車椅子10の構造によれば、各部の調整機構が独立して設けられているので、上方背もたれ部18と下方背もたれ部16との取付角度をα、下方背面部16と座部14との取付角度をβ、座部14と走行車体12との取付角度をγとすると、角度α〜γのいずれか一の取付角度を変更するとき、他の取付角度はそのまま維持される。したがって、例えば角度γを調整したときに一度設定した角度βの値がずれてしまい、再度角度βを設定し直さなければならないという煩雑さが生じない。すなわち、角度α〜γを一つずつ順番に決定することができるので、すべてを最適な状態に設定することが容易である。
【0025】
また、上方背もたれ部18と下方背もたれ部16は、上方背面シート18cと下方背面シート16cが所定の隙間を有して分かれており、被介護者30の体形に差がある場合も、上方背もたれ部18と下方背もたれ部16の角度を調節した状態で、上方背もたれ部18と下方背もたれ部16を背中に適合させることができる。
【0026】
なお、この発明の介護用車椅子は上記実施形態に限定するものではなく、前輪や後輪の大きさは適宜選択可能なものである。また、大人用、子供用など、利用対象となる被介護者の身長や体重に合わせ、各フレームのサイズ、素材、構造は適宜設定可能なものである。また、座面シート、下方背面シート、上方背面シートは、布等ように柔軟性のあるシート材に限定するものでなく、平面を有する板材で表面が柔軟なものでもよい。さらに、板材や布等に弾力性のあるクッション材を付設したものあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の介護用車椅子の一実施形態を示す側面図である。
【図2】この実施形態の介護用車椅子の正面図である。
【図3】この実施形態の使用状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 介護用車椅子
12 走行車体
12a フレーム体
12b 前輪
12c 後輪
14 座部
16 下方背もたれ部
16a 下方背面フレーム
16c 下方背面シート
18 上方背もたれ部
18a 上方背面フレーム
18c 上方背面シート
20 回転軸
20a 固定部材
22 下方背面角度変更機構
24 座部角度変更機構
30 被介護者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪がそれぞれ左右一対ずつ設けられた走行車体を備え、前記走行車体上に着座用の座部が設けられた介護用車椅子において、着座した被介護者の背中の下方部分を支える下方背もたれ部と、背中の上方部分及び頭部を支える上方背もたれ部と、前記各背もたれ部を角度変更自在に連結固定した角度調節部材を備えたことを特徴とする介護用車椅子。
【請求項2】
前記座部に対する前記下方背もたれ部の取付角度を調整する下方背面角度変更機構を備えたこと特徴とする請求項1記載の介護用車椅子。
【請求項3】
前記上方背もたれ部と下方背もたれ部には、各々一対の上方背面フレームと下方背面フレームを備え、前記上方背面フレームと下方背面フレームとが対向した部分が各部材の長手方向に対して各背もたれ部の外側に屈曲して形成され、前記角度調節機構が各背もたれ部の外側に位置し、前記上方背面フレームと下方背面フレームには、各々上方背面シートと下方背面シートが別々に掛け渡され、各上方背面シートと下方背面シートの間には一定の隙間が設けられていること特徴とする請求項1記載の介護用車椅子。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−148371(P2009−148371A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327750(P2007−327750)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成19年10月3日〜5日 社会福祉法人全国社会福祉協議会 財団法人 保健福祉広報協会主催の「第34回国際福祉機器展 H.C.R.2007」に出品
【出願人】(596004772)カナヤママシナリー株式会社 (7)