説明

仔魚床敷設材

【課題】養魚池や浮上槽における仔魚床において、仔魚が酸素を取得しやすい緩やかで多様な方向の流れを形成できる。
【解決手段】仔魚床敷設材1は、側部全体に通水孔2Aが形成されている筒状外周部材2と、筒状外周部材2A内に配置され、筒状外周部材2Aの延長方向に沿って延設される内部延設部材3とを備え、内部延設部材3は、複数の異なる方向に対面した水流方向変更面3Aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サケ・マス類等の回遊魚の人工増殖における仔魚管理に用いられる仔魚床敷設材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サケ・マス類等の回遊魚の人工増殖では、ふ化した仔魚の管理は養魚池や浮上槽を用いて行うのが一般的である。「仔魚」とは、ふ化したばかりで「さいのう」と呼ばれる栄養分を貯めた袋を持った生育段階の魚を指す。仔魚は、餌をとらず、さいのう内の養分だけで成長する。その後、餌が取れるまでに育った生育段階を仔魚と区別して「稚魚」と呼んでいる。
【0003】
養魚池や浮上槽では、水中に仔魚床(仔魚が収まる空間)を形成して、仔魚が動き回って余計な栄養分を消費しない環境を整えてやる必要がある。仔魚は流れの少ない箇所に身を隠す習性があるので、養魚池や浮上槽の仔魚床では、人工的に仔魚が身を隠すための敷設材を配備している。養魚池では底面に小砂利を敷いて仔魚床とするのが一般的であり、浮上槽ではネットリングと呼ばれる網状の円筒部材を重ねて敷いて仔魚床とするのが一般的である。
【0004】
また、下記特許文献1には、合成樹脂,セラミックス又は金属等で形成されるふ化育成用敷設体(成形体)を養魚池の底に多数個ランダムに敷くことで、仔魚の安息場所となる陰になった相互に連通する小空間を形成すること等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−62号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仔魚の成長にとっては十分な酸素の摂取が不可欠である。養魚池や浮上槽で仔魚に十分な酸素を与えるためには、仔魚床においても緩やかな水の流れが確保されることが必要になる。養魚池の底に小砂利や成形体を敷いて形成される従来の仔魚床では、水の流れが生じ難い養魚池の底面に近いところに止まった仔魚は酸欠を起こし易く、仔魚の成長にばらつきが生じやすい問題があった。また、養魚池内では水の流れが単調であるから、良好な条件が揃ったところに仔魚が集中して酸素摂取の競争を起こすことになり、競争に敗れた仔魚は良好な成長が得られない問題があった。
【0007】
一方、浮上槽に用いられるネットリングでは、仔魚は流れの上流側に頭を向けて酸素を取り入れようとするので、酸素を求めて流れのより上流側に仔魚が集まる傾向にあり、浮上槽内の全ての仔魚に均等に酸素取得の機会が与えられず、仔魚が酸欠を引き起こしやすい問題がった。また、底から上に向けた上昇流を形成する浮上槽では、酸素取得のために仔魚は垂直方向に逆さ立ちした姿勢を取ることになるので、不自然な姿勢を維持した仔魚が酸素の取得しやすい箇所に集中することになり、このような状態が仔魚の成長に悪影響を及ぼす懸念があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するために提案されてものであって、養魚池や浮上槽における仔魚床において、仔魚が酸素を取得しやすい緩やかな流れをランダムに形成して、養魚池内或いは浮上槽内の全ての仔魚に均等に酸素取得の機会を与えることができること、養魚池内或いは浮上槽内で効果的に仔魚を分散させ、仔魚の成長に適する環境を仔魚床全体で整えることができること、上昇流を形成する浮上槽に適用した場合にも、縦の単調な流れではなく左右に向けたランダムな水の流れを形成し、仔魚が集中して不自然な姿勢を取ることを回避すること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明による仔魚床敷設材は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0010】
回遊魚の人工増殖において仔魚管理に用いられる仔魚床敷設材であって、側部全体に通水孔が形成されている筒状外周部材と、該筒状外周部材内に配置され、該筒状外周部材の延長方向に沿って延設される内部延設部材とを備え、前記内部延設部材は、複数の異なる方向に対面した水流方向変更面を有することを特徴とする仔魚床敷設材。
【発明の効果】
【0011】
このような特徴を有する本発明の実施形態に係る仔魚床敷設材は、筒状外周部材の側部全体に形成されている通水孔を通って水の流れが確保されるので、仔魚床全体に酸素を摂取しやすい緩やかな水の流れを生じさせ、仔魚床内の何処に居る仔魚に対しても十分に酸素を供給することができる。また、筒状外周部材の内部に延設される内部延設部材は、複数の異なる方向に対面した水流方向変更面を有するので、筒状外周部材の内部に侵入した水の流れ方向を様々な方向に変更することができ、筒状外周部材内に位置する仔魚に均等に酸素取得の機会を与えることができる。
【0012】
仔魚床全体で酸素取得条件の良いところを分散配置できるので、仔魚が一箇所に集中する不具合が無く、良好な環境で仔魚を成長させることができる。仔魚床内での水の流れを多様化することで、天然の川底に近い条件を整えることができ、自然環境に近い条件で健全な仔魚の成長を促すことができる。
【0013】
底から上に向けた上昇流を形成する浮上槽に適用した場合には、縦の単調な流れではなく左右に向けたランダムな水の流れを形成し、仔魚が集中して不自然な姿勢を取ることを回避することができる。これによって、このような浮上槽の仔魚床に止まる仔魚の姿勢を自然な姿勢に維持させることができ、これによっても、自然環境に近い条件で健全な仔魚の成長を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る仔魚床敷設材を説明する説明図である(図1(a)が平面図、図1(b)が仔魚床敷設材の構成要素を説明する説明図)。
【図2】本発明の一実施形態に係る仔魚床敷設材を説明する説明図である(図1(a)における各部断面図)。
【図3】本発明の実施形態に係る仔魚床敷設材を浮上槽内に配備した例を示した説明図(同図(a)が平面図、同図(b)が縦断面図)。
【図4】本発明の実施形態に係る仔魚床敷設材を養魚池内に配備した例を示した説明図(同図(a)が平面図、同図(b)が縦断面図)。
【図5】本発明の実施形態に係る仔魚床敷設材の変形例を示した説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る仔魚床敷設材の変形例を示した説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る仔魚床敷設材の変形例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1及び図2は本発明の一実施形態に係る仔魚床敷設材を説明する説明図である(図1(a)が平面図、図1(b)が仔魚床敷設材の構成要素を説明する説明図、図2が図1(a)における各部断面図)を示している。
【0016】
仔魚床敷設材1は、サケ・マス類などの回遊魚の人工増殖において、仔魚管理に用いられる養魚池や浮上槽等で仔魚床を形成する部材である。この仔魚床敷設材1は、筒状外周部材2と内部延設部材3によって形成されており、単体の部材を平面的又は立体的に複数整列配置して仔魚床を形成する。
【0017】
筒状外周部材2は、側部全体に通水孔2Aが形成された外形が筒状の部材である。通水孔2Aの形状は特に限定されないが図示の例では菱形形状を有している。また、図示の例では螺旋状の線状部材を所定間隔で結合することで通水孔2Aを側部に形成した筒状の部材を形成しているが、これに限らず、側部を板状にして打ち抜き孔(パンチ孔)などで通水孔2Aを形成したものであってもよい。
【0018】
内部延設部材3は、筒状外周部材2内に配置され、筒状外周部材2の延長方向に沿って延設される部材である。そして、この内部延設部材3は、複数の異なる方向に対面した水流方向変更面3Aを有した板状部材によって形成されている。図示の例では、水流方向変更面3Aは連続的なねじれ面によって形成されているが、その形態は後述する各種の形態に変形可能である。
【0019】
内部延設部材3は、図2に示すように、筒状外周部材2の内部で方向を様々に変えた水流方向変更面3Aを形成する。図示の例では、X1−X1断面からX5−X5断面に至るまで、45度ずつ角度を変えた面が形成されている。また、この実施形態では、筒状外周部材2の延長軸に垂直な断面の外周形状が略円形又は楕円形状になっている。
【0020】
このような実施形態に係る仔魚床敷設材1では、筒状外周部材2の通水孔2Aからその内部に水が流れ込み、内部延設部材3の水流方向変更面3Aによって流れ込んだ水の流れ方向が変更される。これによって、筒状外周部材2内に潜む仔魚にとって、様々な方向の水流が形成され、しかもその流れは通水孔2Aを通過して水流方向変更面3Aに当たることによって適度な流速に緩められる。これによって、仔魚床内で分散配置された仔魚に対して、均等に酸素取得ができる環境が与えられる。また、筒状外周部材2内で様々な方向に流れる適度に緩やか水流を形成することができるので、筒状外周部材2内に潜む仔魚にとって天然の河川の底に居るような自然な環境を与えることができる。これによって、自然環境に近い条件で健全な仔魚の成長を促すことができる。
【0021】
図3(同図(a)が平面図、同図(b)が縦断面図)は、このような仔魚床敷設材1を浮上槽10内に配備した例を示している。浮上槽10は、水槽11が給水室11A,ふ化室11B,排水室11Cの3室に分けられ、各室は、給水側仕切り板12と排水側仕切り板13によって区分けされている。ふ化用水Wを給水室11Aに連続的に供給することで、水槽11の底部に近い開口部14を通してふ化室11B内を用水で満たし、さらに給水を続けることで、排水側仕切り板13を越えた用水が排水室11Cに流れ込む。開口部14を水槽11の底部近くに形成していることで、ふ化室11B内には底部から上に向けた上昇流が形成されることになる。
【0022】
ふ化室11B内には下部に下網15が設けられ、その下網15上に前述した仔魚床敷設材1が立体的且つ平面的に並べて配置されている。更に、仔魚床敷設材1上にはふ化盆16が配置され、そのふ化盆16上に受精卵が配置される。ふ化盆16上の受精卵がふ化して生まれた仔魚は、ふ化盆16の孔から下に落下し、仔魚床敷設材1の内部で仔魚期を過ごすことになる。
【0023】
このような浮上槽10では、ふ化室11Bを流れる用水の上昇流は、筒状外周部材2の内部に入り込むと内部延設部材3の水流方向変更面3Aによって様々な方向に流れを変えることになる。これによって、仔魚床敷設材1内に落下した仔魚がどのような位置に居ても同等の水の流れを受けることができるので、仔魚が仔魚床敷設材1の下層に集中する事態を解消することができる。また、水流方向変更面3Aによって変更された水流方向はその一部が水平方向の流れを形成するので、仔魚床敷設材1内の仔魚は敢えて下向きの姿勢を維持する必要が無くなり、自然な姿勢を維持して水流を受けながら酸素取得を行うことができる。
【0024】
図4は、(同図(a)が平面図、同図(b)が縦断面図)は、このような仔魚床敷設材1を養魚池20内に配備した例を示している。養魚池20は、給水壁21で仕切られた上流側に給水部20Aが形成されており、給水壁21で仕切られた下流側に仔魚育成部20Bが形成されている。給水部20Aに連続的に供給される用水は、給水壁21を越えて仔魚育成部20Bに入り、仔魚育成部20Bの下流側の排水壁22を越えて外部に排水される。
【0025】
このような養魚池20の底面に並べて仔魚床敷設材1が配備される。仔魚育成部20Bを下流に向かって流れる水が筒状外周部材2の内部に入り込むと内部延設部材3の水流方向変更面3Aによって様々な方向に流れを変えることになる。これによって、仔魚床敷設材1内に止まる仔魚がどのような位置に居ても同等の水の流れを受けることができる。また、仔魚育成部20Bを単純に流れる水の流れは、内部延設部材3の水流方向変更面3Aによって様々な方向に変えられるので、天然の川底に近い様々な方向の緩やかな流れが養魚池20内で実現されることになる。これによって、仔魚床敷設材1内部に分散して潜む仔魚に対して満遍なく酸素を行き渡らせることができ、仔魚は天然の河川での育成環境に近い状態で健康的に成長することができる。
【0026】
図5〜図7は、本発明の実施形態に係る仔魚床敷設材1の変形例を示している。図5は、筒状外周部材2の延長軸に垂直な断面の外周形状が略円形又は楕円形以外の例を示しており、同図(a)に示すように外形断面が四角形状、同図(b)に示すように外形断面が三角形状、同図(c)に示すように外形断面が5〜8角形状であってもよい(図示は六角形状)。
【0027】
図6は、筒状外周部材2の変形例であり、同図(a)は側面部が線状部材を網目状に配置して通水孔2Aを形成した例、同図(b)は側面部の通水孔部2Aの形状を四角状にした例、同図(c)は側面部の通水孔部2Aの形状を多角形状(図示では六角形状)にした例をそれぞれ示している。通水孔2Aの形状によっても筒状外周部材2内の水の流れは変わるので、この形状を様々に変えることで多様な水の流れを形成することができる。また、一つの筒状外周部材2で様々な形状の通水孔2Aを組み合わせて形成しても良い。
【0028】
図7は、内部延設部材3の変形例である。同図(a)は、図1の例において、水流方向変更面3Aを穴あき状にした例である。同図(b)は、図1の例において、水流方向変更面3Aを網目状部材で形成した例である。同図(c)は、水流方向変更面3Aが傾斜角度の異なる複数の面によって形成されている例である。同図(d)は、同図(c)において水流方向変更面3Aを穴あき状にした例である。同図(e)は、同図(c)において水流方向変更面3Aを網目状部材で形成した例である。水流方向変更面3Aを穴あき状にすること、或いは水流方向変更面3Aを網目状部材で形成することで、水流方向変更面3Aを通過する水流と方向変換される水流が複雑に絡み合い、より多様性の高い水の流れを形成することができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1:仔魚床敷設材
2:筒状外周部材
2A:通水孔
3:内部延設部材
3A:水流方向変更面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回遊魚の人工増殖において仔魚管理に用いられる仔魚床敷設材であって、
側部全体に通水孔が形成されている筒状外周部材と、該筒状外周部材内に配置され、該筒状外周部材の延長方向に沿って延設される内部延設部材とを備え、
前記内部延設部材は、複数の異なる方向に対面した水流方向変更面を有することを特徴とする仔魚床敷設材。
【請求項2】
前記内部延設部材は、前記水流方向変更面が連続的なねじれ面によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載された仔魚床敷設材。
【請求項3】
前記内部延設部材は、前記水流方向変更面が傾斜角度の異なる複数の面によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載された仔魚床敷設材。
【請求項4】
前記内部延設部材は、前記水流方向変更面を穴あき状にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された仔魚床敷設材。
【請求項5】
前記内部延設部材は、板状部材によって形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された仔魚床敷設材。
【請求項6】
前記内部延設部材は、網状部材によって形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された仔魚床敷設材。
【請求項7】
前記筒状外周部材は、延長軸に垂直な断面の外周形状が略円形又は楕円形状であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載された仔魚床敷設材。
【請求項8】
前記筒状外周部材は、延長軸に垂直な断面の外周形状が多角形状であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載された仔魚床敷設材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された仔魚床敷設材で仔魚床を形成した養魚池。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載された仔魚床敷設材で仔魚床を形成した浮上槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−55767(P2011−55767A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209567(P2009−209567)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【特許番号】特許第4465032号(P4465032)
【特許公報発行日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(594095246)
【出願人】(509255211)
【Fターム(参考)】