説明

付着パッド及びその製造方法

【課題】半永久的に取付け面から脱落しない、吸盤に代替可能な付着パッドを実現する。
【解決手段】円形フィルム1は、例えば塩化ビニル製の薄いフィルムより成り、それ自体が粘着性、軟質性、平坦性及び透明性を有する。同フィルム1の上面1USの中央部上には、家庭用品等を取り付け可能に成形された、例えば塩化ビニルより成る突起物2が高周波接着法により結合されている。同フィルム1の上面1USの外縁1USEと突起物2の外縁2EEとの間の平坦な面は、外界に対して露出部1USAを成す。同フィルム1の下面1LSを全面的に鏡面等のツルツル感のある対象物上面10S上に載置した後、手の指先で露出部1USAを全面に亘って外縁1USEへ向けて擦る力を加えることで、同フィルム1の下面1LSは全面的に対象物上面10S上に張り付けられる。時間の経過と共に、空気の粟粒も押出されて、同フィルム1は完璧に対象物上面10S上に付着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吸盤に代替可能な付着パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、真空圧を利用した、一般的な吸盤の構成を模式的に示す側面図である。吸盤100は、例えばゴムより成り、突起部100Tと、同部100Tと一体的に形成された滑らかに湾曲した表面100Sとを有する。
【0003】
人間の手から突起部100Tに対して押圧が加えられると、その押圧が湾曲表面100Sに伝えられて湾曲表面100Sは平面状に広がって、真空圧により被吸着面に吸着する。
【0004】
この様な一体的に形成された吸盤100は、人がその手で押すだけのワンタッチ動作により平らな面に吸着するので、利便性に富んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−52613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、日本には四季があるので、気温の寒暖差及び湿度の変動の発生に伴って、真空圧を利用した従来の吸盤は、時間の経過と共に、伸縮動作を繰り返す、或いは、外部からの振動又は外圧を受ける。その結果、吸盤の吸着面の外縁に生じた隙間から空気の出入りが生じるという経時変化が発生することとなり、真空圧の低下によって、吸盤が脱落する事態が発生する。この経時変化に起因した、真空圧式の吸盤の脱落は、気温の寒暖差等が発生する以上は、避け難い事態である。
【0007】
この発明は、この様な現状を打破するべく成されたものであり、その主目的は、脱落現象が半永久的に発生しない付着パッドの実現を提案することにある。更に、本発明の副次的目的は、印刷可能な付着パッドの実現をも提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主題に係る付着パッドは、全面的に平らな円形状の平面視形状を有すると共に、それ自体が、粘りがある粘着性及び軟質性を有する、全体が透明な円形フィルムと、前記円形フィルムの上面の中央部に結合された突起物とを備えており、前記円形フィルムの前記上面の周縁と前記突起物の外縁との間の前記円形フィルムの前記上面の一部は全体的に露出している露出部を成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の主題によれば、ツルツル感の手触りがある平らで滑らかな対象面に、本付着パッドを、単に手の指先からの付着力の印加により、接着剤を使用することも無く、容易に取り付けることが出来ると共に、本付着パッドを上記対象面に脱落させること無く半永久的に張り付けることが出来る。しかも、本付着パッドを上記対象面から剥がしても、当該対象面には痕が残らず、且つ、何度も本付着パッドを再利用することが出来る。
【0010】
以下、本発明の様々な具体化を、添付図面を基に、その効果・利点と共に、詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る付着パッドの構成を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る付着パッドの構成を示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る付着パッドの構成を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る付着パッドの製造方法を示すフローチャートである。
【図5】従来の吸盤の構成を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態1)
【0013】
図1は、本実施の形態に係る付着パッドの構成を示す正面図である。但し、対象物10は、図示の便宜上、縦断面の構成として描かれている。又、図2は、図1の矢印ARの方向から本付着パッドを眺めた際の本付着パッドの構成を示す平面図である。
【0014】
<付着パッドの構造>
図1及び図2に於いて、円形フィルム1は、互いに平行な円形平面である上面1US及び下面1LSを有するフィルムであり、平面視に於いて円形状の横断面を有する、薄い円柱状のフィルムである。その上面1US及び下面1LSは、半径1Rの円形である。そして、円形フィルム1は、それ自体が、粘りがある粘着性及び軟らかな軟質性を有すると共に、全体的に透明な性質を有する平坦なフィルムである。具体的には、円形フィルム1は、粘着性、軟質性及び透明性を備える塩化ビニル(PVC)より成る。図1に示す付着パッドは、円形フィルム1の中心軸CAに対して左右対称な構造を備えている。円形フィルム1の平らな円形状の横断面の直径は、例えば、50mmである。
【0015】
又、中心軸CAに対して、円形フィルム1の上面1USの中央部には、同じく軟質で弾力性のある突起物2が、高周波接着法を用いて、結合されている。図1では、突起物2は左右対称に描かれている。
【0016】
そして、上面1USの中央部と突起物2との結合により、円形フィルム1の上面1USの外周縁1USEと、突起物2の外縁2EEとの間の円形フィルム1の上面1USの一部は、全体的に露出している。この円形フィルム1の上面1USの露出した部分は、透明な「露出部1USA」を成す。この露出部1USAに於いては、突起物2が邪魔にはならずに、人は、その一方の手の指先で上記露出部全体を外側の外周縁1USEに向けて延ばす様に押付ける操作を容易くすることが出来る。
【0017】
他方、突起物2は、高周波接着法による円形フィルム1の上面1USの中央部との結合の前に予め形成された、例えば、溝部2RP及び/又は貫通孔2Hを有する。この突起物2は、既述の通り、軟質性及び弾力性を有する材料より成るが、コスト面、加工面、及び高周波接着法による接着性の向上の面等の観点から言えば、突起物2の素材は円形フィルム1の素材と同じであることが好ましいと言える。実施例としては、突起物2と円形フィルム1とは、塩化ビニル(PVC)より成る。この突起物2の形状は、基本的には、任意形状である。本実施の形態では、図2に示す様に、突起物2の最下部の台形状台座部分2Dは、最大半径が半径2Rの円形状底面を成す、円形状の横断面を備える。そして、突起物2の溝部2RPには、物を吊り下げるための線状部材等が引っ掛けられる。又、突起物2の貫通孔2Hには、例えばフックの一部が挿入されて取付けられる。その他の加工・成形を突起物2に行うことは自由である。尚、符号2Tは、溝部2RPを成すための突起物2の頭部を示す。台形状台座部分2Dの上記最大半径2Rの2倍の直径は、実施例の値としては、22mmである。又、突起物2は、高周波接着法により円形フィルム1の上面1USの中央部に結合され得る物ならば、必ずしも軟質性を有する必要性は無く、硬質性の物であっても良い。
【0018】
図1に示す円形フィルム1の厚みTに関しては、具体的な実施例として、家庭用品を突起物2に取付ける場合(質量が約1kg〜2kgの重さの荷重(9.8N〜19.6N)が加わる。)には、0.16mm〜0.20mmの範囲内の値が採用される。0.20mmを越える厚みTを採用する場合には、1)円形フィルム1の下面(底面)1LSを対象物10の表面10S上に全面に渡って付着させるために要する時間が、厚みTが上記の範囲内に設定された場合の付着時間と比較して、約4倍〜5倍に増大してしまい、実用性に欠けることになる。しかも、2)厚みTが厚い程、対象物10の表面10S上に付着しづらくなり、且つ、3)付着される円形フィルム1の透明度が落ちてしまい、円形フィルム1の付着面、即ち、図1の外周縁1USEが人目に付きやすくなってしまい、本付着パッドが達成しようとしている目的(透明性)の実現に反する事態が生じてしまう。逆に、厚みTを上記の範囲内よりも小さな値に設定して円形フィルム1の厚みを薄くしすぎると、円形フィルム1の中央部の強度が減少してしまうために、その中央部から円形フィルム1が破れる場合が生じ得る。
【0019】
フィルムの形状は、発明者が行った試験に基づけば、既述の円形フィルム1であることが必須である。フィルムの形状が四角形の横断面を有する場合には、突起部2の溝2RPに物を吊り下げて、当該フィルムをその表面が滑らかで且つ平らで、つやつやした対象物10の表面10Sに付着させて縦方向(下方向)に力を荷重して当該フィルムを引っ張った場合には、当該フィルムは剥がれ易い。しかし、フィルムの形状を本実施の形態で提案する様に円形状の横断面を有する円形フィルム1の形状に設定した場合には、縦(下)方向に印加された荷重が当該フィルム上で四方八方へ均等で分散されることになる。このため、直径が50mmの円形フィルム1の場合に、垂直引張強度が40kgの荷重(392N)を加えても、円形フィルム1は対象物10の表面10Sから剥がれて脱落することはない。従って、本発明は、脱落しない安心感及び安全性を実現可能なフィルムの形状として、円形フィルム1を採用している。
【0020】
<付着パッドの付着操作>
図1及び図2に例示の本付着パッドを付着させる対象物10は、滑らかでフラットであり且つツルツルした手触りの感触を与える表面10Sを有する物である。例えば、対象物10の表面10Sは、ガラス面、鏡の面、模様の無いタイルの面、金属塗装面、又は、樹脂表面である。
【0021】
先ず、人は、図1及び図2に例示の付着パッドの円形フィルム1の下面1LSを全面的に対象物10の表面10S上に載置する。この載置により、円形フィルム1自体は粘着性及び軟質性を有するので、円形フィルム1の下面1LSは対象物10の表面10S上に一応粘り付いた状態となる。
【0022】
その後、人は、本付着パッドの露出部1USAに、自己の一方の手の一本又は複数本の指先を接触させた上で、当該指先を、突起物2の外縁2EE側から円形フィルム1の上面周縁1USEに向けて、露出部1USAの全面に亘って擦り付けていく。単に、人の指先が擦る際の付着の力のみによって、円形フィルム1の下面1LSと対象物10の表面10Sとの間に存在する空気、湿気、或いは微小な水分は、円形フィルム1の上面周縁1USEの外側に押し出されていき、円形フィルム1の下面1LSは、対象物10の表面10S上に、全面に亘って付着ないしは張り付けられる。これにより、半永久的に、円形フィルム1は対象物10の表面10Sから脱落することはない。
【0023】
より厳密に言えば、張り付け後の当初の段階に於いては、対象物10の表面10Sと円形フィルム1の下面1LSとの間には、微細な空気の粟粒が存在している。この空気の粟粒は、円形フィルム1の下面1LSの対象物10の表面10Sからの脱落を引き起こし得るものではない微量なものである。そして、この微量な空気の粟粒は、時間の経過と共に、外部に押し出されて無くなってしまうものである。その結果、円形フィルム1の下面1LSは、対象物10の表面10S上に完全に付着する。この現象は、時間の経過と共に、温度及び湿度の変化に応じて円形フィルム1が微妙に伸縮して、伸びたり又は縮んだりの変動を繰り返す間に、空気の粟粒が外部に押し出されてしまうことに起因している。
【0024】
従って、円形フィルム1の下面1LSと対象物10の表面10Sとの付着後、時間の経過につれて、本付着パッドと対象物10との一体化が進み、付着の力がより強まることになる。
【0025】
以上の様に、図1及び図2に例示する本付着パッドを介して、例えば模様の無いツルツル感のする平らなタイル面に、石鹸箱の様な日用品又は家庭用品等の物を吊り下げたりする場合には、意図的に手で円形フィルム1を剥がさない限り、本付着パッドは、時間の経過に関係なく、全く脱落することはなく、ユーザーに脱落しないという安心感、ないしは安全感・信頼性を与え続けることが出来る。しかも、以上の様に、単に指先による付着力を加えて円形フィルム1をその粘着性を利用して張り付けるだけで、例えば物を取付けるためのパッドを鏡面、窓ガラス面又はタイル面等のツルツル感の平らな表面に半永久的に脱落させることなく付着させることが出来る。このため、接着剤を用いることなく、容易に本付着パッドを対象物10の表面10Sに付着することが出来ると共に、対象物10の表面10Sに付着の痕を残すことなく当該付着パッドを手で剥がすことで、本付着パッドを用途に応じて何回でも再利用することが出来る。又、透明性を有する比較的薄い厚みの円形フィルム1が用いられているので、本付着パッドが対象物10に付着している状態に於いて、円形フィルム1の上面周縁1USEの存在が視覚的に感じ取られにくいという利点を、本付着パッドは有する。そのため、本付着パッドは、ユーザーに対して、スッキリとしてコンパクトな感覚を与えることが出来る。しかも、その耐荷重の強さも既述した通りである。
【0026】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る付着パッドの特徴点は、実施の形態1に記載された付着パッドが、更に、円形フィルムの上面の露出部上に、印刷された少なくとも一つの被印刷物を備える点にある。その他の構成要素の各々は、実施の形態1に係る付着パッドの対応構成要素と同一である。
【0027】
図3は、図2に対応する付着パッドの上面図であり、符号1は実施の形態1において既述した円形フィルム、符号2は、例えば家庭用品等が取付けられる、実施の形態1において既述した任意形状の突起物2である。CAは本付着パッドの中心軸である。
【0028】
図3に例示されている通り、例えば水玉模様の様な少なくとも一つの被印刷物3が、円形フィルム1の上面1USの露出部1USA上に、印刷されている。図3では、表示の便宜上、各被印刷物3の上面は、ハッチングで表示されている。円形フィルム1は既述の通り透明な薄膜であり、同フィルム1が対象物10(図1)の表面10S上に付着されている場合には、その外周縁1USEは視覚的に認知しづらいため、対象物10の上に被印刷物3が描かれている様に浮いて見える。
【0029】
図4は、図2に示された付着パッドを製造する方法を示すフローチャートである。図4に於いて、先ず、実施の形態1に於いて既述した特徴点を有する、この時点ではいまだ突起物2が結合されていない状態の円形フィルム(例えば塩化ビニルの円形フィルム)1を準備する(ステップS1)。
【0030】
次に、コーティング加工等の適切な印刷技術を用いて、その上面が全面的に平坦な円形フィルム1の周縁部、即ち、図3の上面1USの露出部1USAに対応する部分上に、被印刷物3を印刷する(ステップS2)。
【0031】
その後、日用品又は家庭用品等を取り付け可能に成形された、例えば塩化ビニルより成る軟性の突起物2を、高周波接着法により、円形フィルム1の上面1USの中央部分上に結合させる(ステップS3)。この工程完了により、図3の上面図に模式的に示される様な、印刷された物が露出部1USAに恰も描かれた状態の付着パッドが形成される。本製造方法は、基本的に円形フィルム1の上面1USの平坦性を応用しているにすぎないので、容易な製造方法であると、言える。被印刷物3自体のデザインは、本付着パッドの用途に応じて適宜に選択される。
【0032】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を詳細に開示し記述したが、以上の記述は本発明の適用可能な局面を例示したものであって、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、記述した局面に対する様々な修正及び/又は変形例を、この発明の範囲から逸脱することの無い範囲内で考えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、その表面が滑らかで且つ平らでツルツルした対象面(例:鏡面)にパッドを付着させて、斯かるパッドを介して構造物を当該対象面に取付ける場合に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0034】
1 円形フィルム
1US 上面
1LS 下面
1USE 上面周縁
1USA 上面の露出部
2 突起物
2EE 突起物外縁
3 被印刷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全面的に平らな円形状の平面視形状を有すると共に、それ自体が、粘りがある粘着性及び軟質性を有する、全体が透明な円形フィルムと、
前記円形フィルムの上面の中央部に結合された突起物と
を備えており、
前記円形フィルムの前記上面の周縁と前記突起物の外縁との間の前記円形フィルムの前記上面の一部は全体的に露出している露出部を成している
ことを特徴とする付着パッド。
【請求項2】
請求項1に記載の付着パッドであって、
前記円形フィルムは塩化ビニルより成る
ことを特徴とする付着パッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の付着パッドであって、
前記円形フィルムと前記突起物とは同一の素材から成る
ことを特徴とする付着パッド。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の付着パッドであって、
前記円形フィルムの前記露出部に印刷された被印刷物を
更に備えることを特徴とする付着パッド。
【請求項5】
請求項1に記載の付着パッドの製造方法であって、
前記円形フィルムの平面である前記露出部に印刷を行う工程と、
印刷後の前記円形フィルムの前記上面の前記中央部に、高周波接着法により、所定の成形を施して成る前記突起物を結合する工程と
を備えることを特徴とする付着パッドの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−87919(P2013−87919A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231481(P2011−231481)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【特許番号】特許第4938908号(P4938908)
【特許公報発行日】平成24年5月23日(2012.5.23)
【出願人】(511255812)
【Fターム(参考)】