説明

伝動ベルト及びその製造方法

【課題】 高温雰囲気下での劣化が抑えられ、また低温雰囲気下での柔軟性に優れ、さらに摩耗しにくい伝動ベルトを提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、上記課題を解決するべく、チグラーナッタ触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムと、メタロセン触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの重量比が50/50〜90/10であるゴム組成物で構成されていることを特徴とする伝動ベルトを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物で構成されている伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトにはVベルトやVリブドベルト等の摩擦伝動ベルト等が知られており、これらは自動車や一般産業用等に広く用いられている。
【0003】
前記伝動ベルトは、例えば、表面を覆うゴムコート帆布と、フィラメント糸等の心線が埋設された接着ゴム層と、前記接着ゴム層に積層された圧縮ゴム層とを備えている等、主にゴム組成物で構成されている。
【0004】
この種の伝動ベルトに於いては、高温雰囲気下でのゴムの著しい劣化を抑制し、低温雰囲気下でのゴムの柔軟性を向上させる等といった観点から、ゴム組成物のゴム成分としては、従来、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム、水素化ニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)等が広く用いられている。
【0005】
特にエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムは、クロロプレンゴムより耐熱性及び耐寒性において優れた特徴を有していることから、比較的頻繁に用いられるものである(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかしながら、上記従来のエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムは摩耗し易いためクロロプレンゴムより寿命が短く、さらにエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムで構成される伝動ベルトは−40℃等の過酷な低温条件下での走行試験などに於いて柔軟性に欠けるといった面を有している。
【0007】
以上のように従来の伝動ベルトは、摩耗し易く、また依然として低温雰囲気下では柔軟性が不十分であるという問題を有している。
【特許文献1】特開平9−176402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、高温雰囲気下での劣化が抑えられ、また低温雰囲気下での柔軟性に優れ、さらに摩耗しにくい伝動ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明はチグラーナッタ触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムと、メタロセン触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとを含み、且つ、前記チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの重量比が50/50〜90/10であるゴム組成物で構成されていることを特徴とする伝動ベルトを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に於いては、比較的高温雰囲気下での劣化が抑えられ、また低温雰囲気下での柔軟性に優れ、さらに摩耗しにくい伝動ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について図1に示すVリブドベルトの横断面視模式図を参照しつつ説明する。
【0012】
本発明の実施形態のVリブドベルトは、無端ベルト形状に形成されており内側から外側にかけて積層された積層構造を有している。すなわち、最も内側に配され且つローラ等の動力伝達部材に圧接される圧縮ゴム層5と、前記圧縮ゴム層5に接してなる接着ゴム層3と、前記接着ゴム層3に接してなるゴム引き帆布層1とが積層されて構成されている。前記圧縮ゴム層5には、Vリブドベルトの幅方向に複数条のリブ4が形成されている。前記接着ゴム層3には、Vリブドベルトの幅方向に一定の間隔で複数本の心線2が埋設されている。
【0013】
本実施形態に於ける前記圧縮ゴム層5は、下記の如き所定のゴム組成物で構成されている。
本実施形態に於ける前記圧縮ゴム層5を構成する前記所定ゴム組成物は、チグラーナッタ触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムと、メタロセン触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとを含み、且つ、前記チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの重量比が50/50〜90/10に設定されている。
【0014】
なお、メタロセン触媒はシングルサイト触媒ともいわれ均一な活性点を有することから、チグラーナッタ触媒のようなマルチサイト触媒を用いた場合に比べて得られる重合体の分子量分布を狭くすることができる。
したがって、前記メタロセン触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムは分子量分布が狭く分子の運動性が拘束されやすいため、単独で用いた場合は摩耗が抑制されるが、一方ではチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムよりも、低温条件下でのポリマーの運動性が劣るという問題を有している。
しかし、本実施形態に於いては前記チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの重量比を50/50〜90/10に設定することで、前記問題を克服することができるという利点を有する。
【0015】
また前記圧縮ゴム層5を構成する前記所定ゴム組成物の内、チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとしては、チグラーナッタ触媒存在下で重合されてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−オクテン共重合体ゴムやさらにジエン成分を含む共重合体ゴムなどを用いることができる。
これらの中でも、チグラーナッタ触媒存在下で重合されてなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムが好ましく、特にエチレン成分が50〜70重量%、プロピレン成分が25〜45重量%、ジエン成分が4〜8重量%となる重量割合で各モノマー成分が含有されているものがより好ましい。
【0016】
さらに前記圧縮ゴム層5を構成する前記所定ゴム組成物の内、メタロセン触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとしては、メタロセン触媒存在下で重合されてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−オクテン共重合体ゴムやさらにジエン成分を含む共重合体ゴムなどを用いることができる。
これらの中でも、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムが好ましく、特にエチレン成分が50〜70重量%、プロピレン成分が25〜45重量%、ジエン成分が4〜8重量%となる重量割合で各モノマー成分が含有されているものがより好ましい。
【0017】
また本実施形態に於ける前記圧縮ゴム層5は、側圧に耐えうるようにVリブドベルトの幅方向に配向された短繊維6を有している。
前記短繊維6としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、綿繊維、絹繊維、麻繊維、羊毛繊維、セルロース繊維、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、炭素繊維、ポリケトン繊維、玄武岩繊維などを用いることができる。
さらにこの圧縮ゴム層5を構成するゴム組成物には、通常、上記のような短繊維6以外に添加剤や軟化剤、カーボンブラック、架橋剤、加硫促進剤等が配合される。
【0018】
前記添加剤としては、ベルト走行時における異音の発生を低減し得る点において、ポリエチレン粒子を含有してなる添加剤が好ましく、例えば、粘度法による平均分子量が50万〜600万の超高分子量ポリエチレン等が用いられたポリエチレン粒子が挙げられる。
さらに、添加後に於いても添加剤の粒子が形状を保持しているものが好ましく、使用の際の平均粒子径は10μm〜数百μmであるものが好ましい。
【0019】
前記軟化剤としては、パラフィン系又は、ナフテン系軟化剤等が挙げられ、前記エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの相溶性が良好であり、比較的低極性の鉱物油をベースにしたものが好ましく、特に伝動ベルトに低温下における柔軟性を付与し得る点において、流動点が−25℃以下であるものが好ましい。
なお、流動点は、JIS K 2269に規定の方法により測定することができる。
この軟化剤としては、出光興産(株)より商品名「ダイアナプロセスオイルPX−90」「ダイアナプロセスオイルPX−32」、「ダイアナプロセスオイルNS−24」、「ダイアナプロセスオイルNS−100」、神戸油化学(株)より商品名「シンタックN−60」、「シンタックN−70」、エッソ(株)より商品名「LP−49」「LP−69」などとして市販のものを用いることができる。
【0020】
前記カーボンブラックとしては、一般に伝動ベルトのゴムに用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどと呼ばれるカーボンブラックを用いることができる。
【0021】
前記架橋剤としては、硫黄や有機過酸化物などを用いることができ、この架橋剤として硫黄が用いられる場合には、チウラム、スルフェンアミド、チアゾール、ジチオカルバミン酸塩などの加硫促進剤を単独または組み合わせて用いることが好ましく、前記硫黄は、ゴム成分100重量部に対して0.5〜3重量部の配合量、前記加硫促進剤は総量でゴム成分100重量部に対して0.5〜5重量部の配合量とされることが好ましい。
【0022】
前記圧縮ゴム層5を構成するゴム組成物としては、これら以外の一般的にゴム工業において用いられるゴム配合薬剤を本発明の効果を損ねない範囲において配合することができ、例えば、炭酸カルシウム、タルクなどの充填剤や可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤などを配合することができる。
【0023】
前記接着ゴム層3は、圧縮ゴム層5の形成に用いられているようなチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム、メタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムや、さらには、天然ゴム、クロロプレンゴム、アルキルクロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムあるいはその水素添加物、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ブタジエンゴム等が単独または複数混合されて用いられているゴム組成物により形成することができる。
【0024】
本実施形態に於ける接着ゴム層3を構成するゴム組成物には上記のようなゴム組成以外に、補強成分として、有機補強剤、カーボンブラック、シリカ、ナイロン短繊維、ポリエステル短繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維などを用いることができる。
中でも、有機補強剤を用いることで心線との接着力を向上させることができ、接着ゴム層3と心線2との界面での剥離を抑制させてVリブドベルトの長期耐久性をより向上させ得る。
【0025】
また、この接着ゴム層3を構成するゴム組成物には、上記のような成分以外に、炭酸カルシウム、タルクなどの充填剤や可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤、軟化剤、加硫剤、加硫助剤、粘着付与剤など一般的にゴム工業においても用いられるゴム配合薬剤を本発明の効果を損ねない範囲において配合させることができる。
【0026】
さらに前記接着ゴム層3に埋設される前記心線2には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルや、ナイロン、アラミド、ビニロンなどの合成樹脂が用いられた繊維や、ガラス繊維、スチールコードなどを用いることができ、この前記心線2は、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス処理(以下「RFL処理」ともいう)や溶剤系接着剤による接着処理がされたものを用いることができる。
【0027】
このRFL処理は、例えば、レゾルシンとホルマリンとを(レゾルシン/ホルマリン)のモル比で1/3〜3/1の割合で塩基性触媒下に縮合させて、レゾルシン−ホルマリン樹脂(レゾルシン−ホルマリン初期縮合物、以下、「RF」ともいう)を作製し、このRFを水に5〜80重量%の濃度で分散させたものにラテックスを混合して作製したRFL処理液を用いて実施することができる。
【0028】
前記心線2のRFL処理に用いられるRFL処理液の固形分濃度は、特に限定されるものではないが、通常、10〜30重量%の範囲とされる。
前記ラテックスとしては、クロロスルホン化ポリエチレン、あるいはアルキルクロロスルホン化ポリエチレンをポリマー成分として含有するものや、カルボキシル変性ビニルピリジンラテックス、ビニルピリジンラテックスなどピリジン基あるいはカルボキシル基を含むもの、クロロプレン(CR)ラテックス、2,3−ジクロロブタジエン(2,3DCB)ラテックスなどの塩素基を含有するもの、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)ラテックス、カルボキシル基含有水素添加NBRラテックスなどニトリル基を含有するもの、フェニル基を側鎖に有するスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)ラテックスなどを単独または複数混合して用いることができ、要すれば、異なるRFL処理液を用いて心線に複数回のRFL処理を実施することも可能である。
また、このRFL処理液には、RFとラテックスとが(RF/ラテックス)の重量比で1/2〜1/10の割合で含有されることが好ましい。
【0029】
前記心線2を溶剤系接着剤で前記接着処理する場合には、一般に市販されている溶剤系接着剤を用いることができる。
【0030】
本実施形態に於ける前記ゴム引き帆布層1は、一般的な伝動ベルトにおいて用いられるゴムコート帆布を単層又は複数層用いて形成させることができる。
このゴムコート帆布に用いるゴムにも、接着ゴム層3と同様にチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム、メタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アルキルクロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムあるいはその水素添加物、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ブタジエンゴム等を単独または複数混合されものを採用することができる。
【0031】
本実施形態の伝動ベルトは、上記の如く構成されたが、次いで本発明の実施形態のVリブドベルトの製造方法について説明する。
本実施形態のVリブドベルトの製造方法は、成形ドラムにゴム引き帆布層1と、接着ゴム層3と、圧縮ゴム層5とをそれぞれ形成するための未加硫ゴムシート作製工程と、RFL処理された心線2とを巻き付ける巻付け工程と、前記巻付け工程後に実施する加硫工程と、前記加硫工程後に実施するリブ形成工程と、前記リブ形成工程後に実施する切断工程とで構成されている。
【0032】
前記未加硫ゴムシート作製工程は、ニーダー、バンバリーミキサーなどを用いて所定の配合でゴム組成物を混練した後に、カレンダー成形するなどして未加硫状態のゴムシートを作製する工程である。
【0033】
前記巻き付け工程は、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周面に前記ゴム引き帆布層1を形成する未加硫ゴムシートを巻き付け、次いで接着ゴム層3を形成する未加硫ゴムシートを巻き付け、次いでRFL処理された心線2を螺旋状にスピニングし、さらに接着ゴム層3を形成する未加硫ゴムシートを巻き付け、次いで圧縮ゴム層5を形成する未加硫ゴムシートを巻き付けてなる積層体を形成する工程である。
【0034】
前記巻き付け工程で用いられるRFL処理された前記心線2のRFL処理方法は、まず初めに前記心線2を、イソシアネートを含有するトルエン溶液に浸漬した後、200〜250℃で数十秒間、加熱乾燥し、次いで、RFL接着溶液に浸漬し、190〜210℃で数十秒間、加熱乾燥し、さらに前記接着ゴム層を構成するゴム組成物に用いられているゴムと同様のゴムをトルエン溶液に溶解してなる接着溶液に浸漬した後、50〜80℃で数十秒間加熱乾燥することで実施する。
【0035】
前記加硫工程は、前記積層体を加硫缶内で加熱、及び、加圧することで積層されたそれぞれの未加硫ゴムシートを一体化させるとともにゴムの加硫を実施して積層構造の形成された環状物を形成する工程である。
【0036】
加熱温度としては、通常、150〜180℃の範囲に設定する。
前記加硫缶内の加圧力としては、通常、内圧を4〜8kgf/cm2、外圧を7〜10kgf/cm2の範囲に設定する。
前記加硫処理時間としては、通常、20〜60分間の範囲に設定する。
【0037】
前記リブ形成工程は、加硫後の前記環状物を駆動ロールと従動ロールとを備える第一駆動システムに取り付け、張力をかけてロールを走行させながら研削ホイールによって前記環状物の表面に複数条のリブ4を形成する工程である。
【0038】
前記切断工程は、表面に複数条のリブ4が形成された前記環状物を駆動ロールと従動ロールとを備える第二駆動システムに取り付け、張力をかけてロールを走行させながら複数条のリブ4がベルト長さ方向に延びるように前記環状物を切断する工程である。
【0039】
なお、Vリブドベルトに於いては、接着ゴム層などに比べて圧縮ゴム層の方が、通常、摩擦熱などによる発熱によって高温雰囲気下にさらされる可能性が高く、しかも、耐磨耗性に優れることがより強く求められている点において、本実施形態においては、チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとを所定の重量割合(チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム/メタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム=50/50〜90/10)で含有するゴム組成物を圧縮ゴム層の形成に用いる場合を例に説明したが、本実施形態の如く上記圧縮ゴム層のみならず、接着ゴム層、ベルトの表面及び、又は裏面を被覆するようなゴム引き帆布層に用いる場合も本発明の意図する範囲である。
【0040】
さらには、上記に説明したようなVベルトに限定されるものではなく、歯付きベルト、平ベルト等の形成にチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとを所定の割合で含有するゴム組成物を用いる場合も本発明の意図する範囲である。
また、伝動ベルトの製造方法についても上記例示に限定されるものではなく適宜変更が可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1〜10、比較例1〜3)
(使用配合:圧縮ゴム層)
実施例1〜10、比較例1〜3の伝動ベルトの圧縮ゴム層の形成に用いる配合(重量部)を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
なお、上記メタロセン触媒型のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、チグラーナッタ触媒型のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムに含まれているエチレン、プロピレン、ジエンの各モノマー成分の重量割合は、表2のとおりである。
【0045】
【表2】

【0046】
(使用配合:接着ゴム層)
全ての実施例、比較例の伝動ベルトの製造において接着ゴム層を構成するゴム組成物は共通とした。
具体的には、表3に示す配合を用いた。
【0047】
【表3】

【0048】
(ゴム引き帆布層用ゴム組成物)
前記ゴム引き帆布層の形成に用いるゴム組成物としては、接着ゴムと同じゴム組成物を用いた。
【0049】
(接着ゴム層に埋設される心線)
全ての実施例、比較例の伝動ベルトの製造において接着ゴム層に埋設して用いる心線は共通とした。
具体的には、次の通りである。
【0050】
未処理の心線としてポリエステルコード(1000デニール/2×3、上撚り9.5T/10cm(Z)、下撚り2.19T/10cm(帝人(株)製))を準備した。
まず初めに、前処理としてイソシアネートを含有してなるトルエン溶液(イソシアネート固形分20重量%)にこの未処理の心線を浸漬した後、240℃で40秒間の加熱によって乾燥させた。
次いで、前処理した心線を下記に示すRFL接着溶液に浸漬し、200℃で80秒間の加熱によって乾燥処理し、さらに前記接着ゴム層で用いたものと同様のゴム組成物をトルエン溶液に溶解してなる接着溶液に浸漬した後、60℃で40秒間の加熱によって乾燥させる、RFL処理を施した。
【0051】
なお、RFL接着溶液としては、レゾルシン(7.31重量部)とホルマリン(37重量%濃度、10.77重量部)とを混合して、攪拌し、さらに水酸化ナトリウム水溶液(固形分0.33重量部)を加えて攪拌した後、水を加え、5時間熟成して、レゾルシン・ホルマリン樹脂(レゾルシン‐ホルマリン初期縮合物、RF)R/F比=0.5のRF水溶液を調節し、前記RF水溶液にクロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)ラテックス(固形分40%)をRF/L比が0.25になるように(ラテックス固形分量合わせて45.2重量部)加え、さらに水を加えて、固形分が20%になるように調節して攪拌し、さらに12時間熟成したものを用いた。
【0052】
(加硫ゴムの物性評価)
各実施例、比較例の伝動ベルトの圧縮ゴム層の形成に用いられるゴム組成物の加硫後の物性を調査すべく、表1の配合にて加硫ゴムシートを作製した。
具体的には、各ゴム組成物をバンバリーミキサーにて混練した後、カレンダーロールにて圧延してシート化し、前記短繊維をベルト幅方向に配向させて未加硫ゴムシートを作成した。
さらに前記未加硫ゴムシートを160℃で30分間加熱して加硫処理を施し、加硫ゴムシートを得た。
【0053】
(加硫ゴムシートの物性)
各加硫ゴムシートを用いて、表2に示す物性評価を行った。
前記加硫ゴムシートの硬さについてはJIS K 6253により(タイプA)デュロメータ硬さを求めた。
さらに前記加硫ゴムシートの反列理方向の引張り試験をJIS K 6251に基づき実施し、100%モジュラス(M100)、引張り強さ(Ts)、破断伸び(Elo)を求めた。
これらの結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
(実施例1〜10、比較例1〜3のVリブドベルトの作製)
上記に説明した圧縮ゴム層用、接着ゴム層用、ゴム引き帆布層用の配合及びRFL処理された心線を用いて実施例1〜10、比較例1〜3のVリブドベルトをそれぞれ製造した。
具体的には、圧縮ゴム層、接着ゴム層のそれぞれのゴム組成物をバンバリーミキサーにより混練し、カレンダーロールによりシート化して、接着ゴム層用、圧縮ゴム層用の未加硫シートを作製し、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周面にゴム引き帆布層用シートを巻きつけてセットしたものの上に、接着ゴム層用未加硫ゴムシートを巻き付け、さらにRFL処理した心線を螺旋状にスピニングし、その上にさらに接着ゴム層用未加硫ゴムシートを巻き付け、最後に圧縮ゴム層用未加硫ゴムシートの順に巻き付けて積層体とした。
【0056】
次いで、前記積層体を内圧6kgf/cm2、外圧9kgf/cm2、165℃に加熱した加硫缶内で、35分間、加熱加圧を施し、加硫一体化された環状物を得た。
【0057】
前記環状物を駆動ロールと従動ロールとを備える第一駆動システムに取り付けて所定の張力の下で走行しながら、これに研削ホイールによって前記環状物の表面に複数リブを形成し、さらに前記環状物を別の駆動ロールと従動ロールとを備える第二駆動システムに取り付けて張力の下で走行しながらリブがベルト長さ方向に延びるように前記環状物を切断し、それぞれリブ数3、周長さ1000mmのVリブドベルトを得た。
【0058】
(Vリブドベルトの走行試験)
前記製造方法で得たそれぞれの前記Vリブドベルトを供して下記の走行試験を行った。
またVリブドベルトの走行試験を説明する概略図を図2に示した。
【0059】
上記Vリブドベルトの走行試験として、前記ベルトを直径120mmの従動プーリー1)、直径120mmの駆動プーリー12、直径70mmのアイドラープーリー13及び直径45mmのアイドラープーリー14に巻き掛け、従動プーリー負荷を16馬力、アイドラープーリー14への張力を85kgf、駆動プーリー回転数を4900rpmとして、上記Vリブドベルトの走行を実施した。
【0060】
(高温走行試験)
(Vリブドベルトの摩耗性)
前記走行試験条件でそれぞれの前記Vリブドベルトを80℃の雰囲気下で200時間走行させた後、前記Vリブドベルトの走行前の重量から走行後の重量を引き、重量減量を求め、この重量減量を走行前の重量で割ることで、前記Vリブドベルトの摩耗率(%)を求めた。結果を表5に示す。
【0061】
(Vリブドベルトの異音性)
前記走行試験条件でそれぞれの前記Vリブドベルトを200時間走行させ、前記Vリブドベルトから発する異音の有無を確認した。結果を表5に示す。
【0062】
(低温走行試験)
(Vリブドベルトの劣化性)
用いる走行試験機を−40℃の雰囲気下で走行させること、並びに、それぞれの前記Vリブドベルトを1時間走行させた後1時間停止させることを1セットとし、この走行、停止を繰り返して走行試験を実施する点以外はVリブドベルトの摩耗性評価と同様にVリブドベルトの走行試験を実施した。
全走行時間(走行時間のみの積算時間)が100時間経過及び200時間経過した時点で、前記Vリブドベルトの圧縮ゴム部のクラックを目視によって確認した。結果を表5に示す。
【0063】
(総合評価)
高温走行試験における摩耗率が低く、低温走行試験での100時間経過時点におけるクラックの発生が見られないものを「○」として判定した。
また、高温走行試験における摩耗率が特に低く、低温走行試験での200時間経過時点におけるクラックの発生が見られず、しかも、異音の発生のないものを「◎」として判定した。
高温走行試験における摩耗率が高いか、低温走行試験での100時間経過時点におけるクラックの発生が見られたものを「×」として判定した。
結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
前記チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの重量比が50/50〜10/90であるゴム組成物で構成する圧縮ゴム層を備えたVリブドベルトは、80℃での高温走行試験に於いて摩耗率が低く摩耗しにくい性質を有することが確認でき、また低温雰囲気下での走行試験ではクラックが生じにくく低温条件下において柔軟性を有することが確認できた。
【0066】
さらに、前記チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの重量比が40/60であり、さらに添加剤と軟化剤とを含有するゴム組成物で構成する圧縮ゴム層を備えたVリブドベルトは、長時間の走行試験に於いて摩耗率が低く摩耗しにくい性質を有し、また低温雰囲気下での走行試験に於いてクラックが生じにくく低温条件下において柔軟性を有することが確認でき、さらにはポリエチレン粒子を添加剤として含むものは、異音が出にくいことも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態の伝動ベルト(Vリブドベルト)の横断面視模式図
【図2】ベルト走行試験方法を示す概略図
【符号の説明】
【0068】
1:ゴム引き帆布層、2:心線、3:接着ゴム層、4:リブ、5:圧縮ゴム層、6:短繊維、11:従動プーリー、12:駆動プーリー、13:直径70mmのアイドラープーリー、14:直径45mmのアイドラープーリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チグラーナッタ触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムと、メタロセン触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとを含み、且つ、前記チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン型エチレン‐α‐オレフィン共重合体ゴムとの重量比が50/50〜90/10であるゴム組成物で構成されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
前記ゴム組成物が添加剤を含有し、該添加剤としてポリエチレン樹脂が用いられている請求項1記載の伝動ベルト。
【請求項3】
前記ゴム組成物が軟化剤を含有し、該軟化剤としてパラフィン系軟化剤又はナフテン系軟化剤が用いられ、該軟化剤の流動点が−25℃以下である請求項1又は2記載の伝動ベルト。
【請求項4】
Vリブドベルトである請求項1〜3の何れかに記載の伝動ベルト。
【請求項5】
チグラーナッタ触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるチグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムと、メタロセン触媒存在下で重合されてなるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであるメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとを含み、且つ、前記チグラーナッタ触媒型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとメタロセン型エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの重量比が50/50〜90/10であるゴム組成物を用いて成型することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−120902(P2008−120902A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305292(P2006−305292)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】