説明

伝動ベルト

【課題】油類の存在する環境下での使用において、ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物に油類の付着があっても、膨潤の程度やゴム層の硬度の低下が小さく、耐油性にすぐれると共に、走行時の摩耗も小さい伝動ベルトを提供する。
【解決手段】ゴム層として圧縮ゴム層5と接着ゴム層3を有し、この圧縮ゴム層5と接着ゴム層3が加硫接着されていると共に、上記接着ゴム層3内に心線2が埋設されてなる伝動ベルトにおいて、上記ゴム層のうち少なくとも圧縮ゴム層5がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム層が耐油性にすぐれると共に、走行時の摩耗の少ないエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなる伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、伝動ベルトは、圧縮ゴム層と接着ゴム層とを有し、この接着ゴム層内に抗張体、即ち、繊維からなる心線が接着されて埋設されており、ベルトの上面又は下面又は側面を含む全周面は、必要に応じて、ゴム引き帆布が接着されている。
【0003】
このような伝動ベルトにおいて、従来、圧縮ゴム層にはクロロプレンゴムが多く用いられてきているが、近年、耐熱性と耐寒性への要求が従来にもまして高まりつつあると共に、環境保護乃至脱塩素化の観点からも、伝動ベルトの素材ゴムとして、耐熱性と耐寒性にすぐれるエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを用いることが試みられている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0004】
しかし、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムは、既に知られているように、その分子構造の極性が小さく、従って、非極性の油類と相溶性がよいので、耐油性に劣っていることから、これまで、油類の存在する環境下では殆ど用いられていない。例えば、Vリブドベルトのゴム層をエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物から形成した場合、そのようなベルトは、これに油類が付着すると、ベルトが膨潤し、遂には破損するおそれがある。
【0005】
一般に、ゴムの耐油性を改善するには、ゴムに多量の充填剤を配合して、膨潤するゴム分を相対的に減らす方法、ゴムを構成するポリマー分子の分子量を高めて、油類によって膨潤しても、ゴムの強度を維持させる方法、ゴムを構成するポリマー分子がエチレン単位を有する場合には、そのエチレン含量を高めて、ポリマー分子に結晶性を与える方法等が知られている。しかし、最初の方法は、ゴムの強度が低くなるので、伝動ベルトのように動的応力の高い用途には適用し難く、第2と第3の方法は、ゴムの加工性を悪くするので、工業的に実施し難い。
【特許文献1】特開2002−195349号公報
【特許文献2】特開2000−297847号公報
【特許文献3】特開2003−130137号公報
【特許文献4】特開2002−081506号公報
【特許文献5】特表平09−500930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ゴム層にエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを用いる伝動ベルトにおける上述した問題を解決するためになされたものであって、油類の存在する環境下での使用において、ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物に油類の付着があっても、膨潤の程度やゴム層の硬度の低下が小さく、耐油性にすぐれると共に、走行時の摩耗も小さい伝動ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ゴム層を構成するゴムの50重量%以上がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなることを特徴とする伝動ベルトが提供される。
【0008】
特に、本発明によれば、好ましい態様として、ゴム層として圧縮ゴム層と接着ゴム層を有し、この圧縮ゴム層と接着ゴム層が加硫接着されていると共に、上記接着ゴム層内に心線が埋設されてなる伝動ベルトにおいて、上記ゴム層のうち少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなる伝動ベルトが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従って、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム、好ましくは、エチレン−プロピレン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤にて架橋してなる加硫物は、油類に接触しても、膨潤の程度や硬度の低下が小さい。また、本発明に従って、圧縮ゴム層と接着ゴム層のうち、少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤にて架橋してなる加硫物からなる伝動ベルトは、走行時の摩耗も抑えられている。かくして、本発明によれば、耐油性にすぐれると共に、走行時の摩耗の小さい実用的なエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム伝動ベルトを得ることができる。
【0010】
更に、本発明に従って、圧縮ゴム層に接着処理を施していない短繊維をベルトの幅方向に配向して分散させることによって、耐側圧性を高めることができると共に、列理方向に大きい伸びを確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による伝動ベルトは、ゴム層を構成するゴムの50重量%以上がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなり、好ましくは、圧縮ゴム層と接着ゴム層とが加硫接着されていると共に、上記接着ゴム層に心線が接着埋設されており、必要に応じて、その上面又は下面又は側面を含む全周面にゴム引き帆布が接着されてなる伝動ベルトにおいて、上記ゴム層を構成するゴムの50重量%以上がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなる。
【0012】
特に、本発明によれば、伝動ベルトは、圧縮ゴム層と接着ゴム層とが加硫接着されていると共に、上記接着ゴム層に心線が接着埋設されており、必要に応じて、その上面又は下面又は側面を含む全周面にゴム引き帆布が接着されてなる伝動ベルトにおいて、少なくとも上記圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなり、最も好ましくは、上記圧縮ゴム層と接着ゴム層が共にエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなる。
【0013】
本発明によれば、このような伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴム層と接着ゴム層のうち、少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるものである。接着ゴム層は、圧縮ゴム層と同様にエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるものであってもよく、また、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを硫黄によって加硫してなるものであってもよい。
【0014】
本発明において、伝動ベルトは、Vリブドベルト及びVベルトを含むものとする。図1は、Vリブドベルトの一例の横断面図を示し、ベルトの上面は、単層又は複数層のゴム引き帆布1又はゴム層にて形成されており、これに隣接して、接着ゴム層3が積層されている。この接着ゴム層には、例えば、ポリエステル繊維やアラミド繊維からなる複数の低伸度の心線2が間隔を置いてベルト長手方向に延びるように埋設されている。更に、この接着ゴム層に隣接して、圧縮ゴム層5が積層されている。この圧縮ゴム層には、ベルト長手方向に延びるように相互に間隔を有するリブ4を有する。多くの場合、圧縮ゴム層5には、その耐側圧性を高めるために、ベルトの幅方向に短繊維6が配向して分散されている。
【0015】
図2は、Vベルトの一例の横断面図を示し、ベルトの上面は、上記と同様に、単層又は複数層のゴム引き帆布1にて形成されており、必要に応じて、上ゴム層7が積層され、これに隣接して、上記と同様に心線2が埋設された接着ゴム層3が積層され、更に、これに隣接して、圧縮ゴム層5が積層されている。多くの場合、圧縮ゴム層5には、その耐側圧性を高めるために、ベルトの幅方向に短繊維6が配向して分散されている。圧縮ゴム層は、通常、単層又は複数層のゴム引き帆布1にて被覆されている。
【0016】
従来、伝動ベルトにおいて、ベルトの幅方向に圧縮ゴム層に配向、分散される短繊維は、2〜6デニール、長さ1〜5mm程度の接着処理を施したものが用いられる。このような接着処理を施した短繊維は、例えば、フィラメントを束ねた状態でこれにRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)を含浸させ、加熱、乾燥した後、所要の長さに裁断して得られる。従来、このように接着処理を施した短繊維は、ベルトの幅方向に配向して、分散されていて、圧縮ゴムとよく接着しているので、短繊維の列理方向の伸びを確保することが困難である。
【0017】
これに対して、本発明によれば、圧縮ゴム層に分散される短繊維は、接着処理を施していないものが好ましく用いられる。このような短繊維を圧縮ゴム層にベルトの幅方向に配向して分散させた場合には、短繊維とゴムとの間に接着がないので、短繊維とゴムとの界面でずれが起こるが、このように界面がずれた後は、ゴム自体の性質によって破断まで伸びることができるので、列理方向に大きい伸びを確保することができる。
【0018】
本発明によれば、このように接着処理を施していない短繊維は、圧縮ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100重量部当たり、通常、5〜30重量部の範囲、好ましくは、10〜25重量部の範囲で配合される。更に、本発明によれば、接着処理を施していない短繊維の一部を接着処理を施した短繊維にて置き換えることができる。この場合、本発明によれば、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100重量部当たり、接着処理を施していない短繊維と接着処理を施した短繊維とを合計量にて5〜30重量部を配合し、そのうち、接着処理を施した短繊維の割合は、25重量%以下の範囲であることが好ましく、特に、5〜25重量%の範囲であることが好ましい。このようにして、本発明によれば、圧縮ゴム層にベルトの幅方向に接着処理の施していない短繊維を配向して分散させることによって、圧縮ゴム層の耐側圧性を高めることができると共に、列理方向に大きい伸びを確保することができる。
【0019】
本発明において、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムとしては、エチレンを除くα−オレフィンとエチレンとジエン(非共役ジエン)の共重合体からなるゴム、それらの一部ハロゲン置換物、又はこれらの2種以上の混合物が用いられ、上記エチレンを除くα−オレフィンとしては、好ましくは、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテンから選ばれる少なくとも1種が用いられる。なかでも、好ましいエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムとしては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、これらの一部ハロゲン置換物、特に、一部塩素置換物、又はそれらの2種以上の混合物が好ましく用いられる。上記ジエン成分としては、特に、限定されるものではないが、通常、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等の非共役ジエンが適宜に用いられる。
【0020】
本発明によれば、このようなエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムは、通常、カーボンブラックやシリカのような補強剤、硫黄のような加硫剤、種々の加硫促進剤、酸化亜鉛やステアリン酸のような加硫助剤、パラフィンオイルのような軟化剤(可塑剤)、粘着付与剤等と共に、ロール、バンバリー等、通常の混合手段を用いて均一に混合して、未加硫ゴム配合物シートとし、更に、これをシートとして、接着ゴム層や圧縮ゴム層のためのゴム配合物未加硫シートとして、伝動ベルトの製造に用いられる。
【0021】
更に、このようなエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム配合物は、上述した成分に加えて、必要に応じて、ガラス繊維、セラミックス繊維等の増強剤、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤、安定剤、加工助剤、着色剤等の通常のゴム工業で用いられる種々の薬剤を含有していてもよい。後述する接着溶液(所謂ゴム糊)は、このようなエチレン−α−オレフィン−ジエン未加硫ゴム配合物を、通常、有機溶媒に溶解したものである。
【0022】
本発明による伝動ベルトにおいては、上述したように、好ましくは、接着ゴム層と圧縮ゴム層とが加硫接着されていると共に、この接着ゴム層に接着処理した心線が接着埋設されている。この心線として、特に限定されるものではないが、通常、ポリエステル繊維やアラミド繊維からなる心線が用いられる。
【0023】
更に、本発明による伝動ベルトにおいては、接着ゴム層と圧縮ゴム層とのうち、好ましくは、少なくとも上記圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなり、最も好ましくは、上記圧縮ゴム層と接着ゴム層が共にエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなり、ここに、少なくとも圧縮ゴム層が上記エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるものである。
【0024】
本発明において、上記有機過酸化物としては、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムの加硫に用いられるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が用いられる。このような有機過酸化物は、本発明によれば、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100重量部当たりに0.005〜0.05モルの範囲で用いられ、好ましくは、0.01〜0.04モルの範囲で用いられる。
【0025】
本発明による伝動ベルトにおいては、ゴム層、好ましくは、前述したように、圧縮ゴム層と接着ゴム層が共にエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムの加硫物からなり、このうち、少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムをこのような有機過酸化物と3官能性の共架橋剤を用いて加硫してなるものである。この3官能性の共架橋剤として、本発明によれば、好ましくは、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート等が用いられ、特に、トリメチロールプロパントリアクリレート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましく用いられる。このような3官能性の共架橋剤は、本発明によれば、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100重量部当たりに0.1〜10重量部の範囲で用いられ、好ましくは、1〜5重量部の範囲で用いられる。
【0026】
本発明に従って、このように、少なくとも圧縮ゴム層をエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤を用いて加硫してなる加硫物から形成すること、即ち、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを過酸化物加硫すると共に、3官能性の共架橋剤によって三次元構造を有する架橋点を形成することによって、油類の存在する環境下において、伝動ベルトのゴム層を形成するエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物に油類の付着があっても、膨潤が少なく、また、ゴム層の硬度の変化が小さく、耐油性にすぐれると共に、走行時の摩耗量も小さいので、油類の存在する環境下においても実用し得る伝動ベルトを得ることができる。
【0027】
3官能性の共架橋剤をエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100重量部当たりに10重量部を越える量にて用いるときは、架橋点が過度に多くなって、得られる伝動ベルトが耐屈曲疲労性が著しく悪くなる。しかし、3官能性の共架橋剤の使用量がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100重量部当たりに0.1重量部よりも少ないときは、加硫物における三次元構造の架橋点が少ないために、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物にすぐれた耐油性を与えることができない。また、走行時のベルトの摩耗量を十分に低減することができない。
【0028】
他方、圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムの硫黄加硫物からなる伝動ベルトは、そのような加硫物の油類に対する膨潤抵抗性が小さく、容易に膨潤し、ゴム層の硬度の変化や摩耗量が大きい。また、共架橋剤として2官能性のものを用いれば、硫黄加硫の場合に比べて、得られるゴム層は、耐油性に幾分の改善はみられるが、それでも、3官能性の共架橋剤を用いる場合と異なり、架橋点が三次元構造をもたないので、依然として、得られるゴム層の耐油性は低い。また、走行時のベルトの摩耗量も十分に低減することができない。
【0029】
但し、本発明によれば、上述したように、有機過酸化物と3官能性の共架橋剤を用いてエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを加硫する際に、硫黄加硫を併用してもよい。この場合、好ましくは、加硫促進剤が硫黄と共に用いられる。この加硫促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィドのようなチウラム系や、2−メルカプトベンゾチアゾールのようなチアゾール系のものが好ましく用いられる。
【0030】
本発明による伝動ベルトは、従来より知られている通常の方法によって製造することができる。例えば、Vリブドベルトに例をとれば、次のようにして製造される。即ち、表面が滑らかな円筒状の成形ドラムの周囲にゴム引きした帆布と接着ゴム層を形成するゴムの未加硫配合物のシートを巻き付けた後、この上に上記接着処理した心線を螺旋状にスピニングし、更に、その上に上記と同じ接着ゴム層を形成するゴムの未加硫配合物のシートを巻き付ける。次いで、この上にリブゴム層を形成するゴムの未加硫配合物のシートを巻き付けて、積層体を形成した後、これを加硫缶中にて加圧加熱し、蒸気加硫して、環状の加硫物を得る。次いで、この環状の加硫物を駆動ロールと従動ロールとからなる第1の駆動システムに取付けて、所定の張力下で走行させながら、表面のゴム層に研削ホイールにて複数の溝を刻設して、複数のリブを形成する。この後、このようにして得られた環状の加硫物を駆動ロールと従動ロールとからなる第2の駆動システムに取付けて、走行させながら、所定の幅に裁断して、所定数のリブを備えたVリブドベルトを得る。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。以下において、伝動ベルトの接着ゴム層のための配合物として、次の組成(重量部)を有するものを用いた。
【0032】
エチレン−プロピレン−ジエンゴム1) 100
ステアリン酸 1
酸化亜鉛 5
FEFカーボン 65
シリカ 21
パラフィンオイル 15
加工助剤 7
加硫剤(硫黄) 3
加硫促進剤 2.5
(注)1)JSR(株)製EP33
【0033】
また、伝動ベルトの圧縮ゴム層のための配合物として、次の組成(重量部)を有するものを用いた。短繊維のうち、短繊維Aは、接着処理を施していないもの(接着処理なし)を実施例1〜8において用い、接着処理を施したもの(接着処理あり)を比較例1〜9において用いた。また、短繊維のうち、短繊維Bは、接着処理を施したものであって、すべての実施例と比較例において用いた。
【0034】
エチレン−プロピレン−ジエンゴム1) 100
ステアリン酸 0.25
酸化亜鉛 5
FEFカーボン 60
パラフィンオイル 10
短繊維A(66ナイロン、3デニール×1mm、接着
処理なし又はあり) (第1表)
短繊維B(アラミド、1.5デニール×3mm、接着
処理あり) 4
架橋剤 (第1表)
共架橋剤 (第1表)
(注)1)住友化学工業(株)製エスプレン301
【0035】
実施例1〜8
(エチレン−プロピレン−ジエンゴム加硫物の調製)
上記圧縮ゴム層のためのエチレン−プロピレン−ジエンゴム配合物を温度175℃で15分間、加圧加熱して、有機過酸化物と共架橋剤による加硫を行って、エチレン−プロピレン−ジエンゴム加硫物を得た。
【0036】
(エチレン−プロピレン−ジエンゴム加硫物の耐油性試験)
上記加硫物を10mm×10mm×2mmに裁断して試験片とし、これを自動車用エンジンオイル(BP製C.20 5W−40)に温度120℃で24時間浸漬し、引き上げた後、エンジンオイルへの浸漬前後の体積の変化を調べた。また、上記試験片3枚を重ねて、浸漬前後の硬度(Hs)の変化を調べた。結果を表1及び表2に示す。
【0037】
(RFL液の調製)
レゾルシン7.31重量部とホルマリン(37重量%濃度)10.77重量部を混合、攪拌し、これに水酸化ナトリウム水溶液(固形分0.33重量部)を加えて、混合、攪拌した。これに水160.91重量部を加え、5時間熟成して、固形分濃度6.40重量%のレゾルシン・ホルマリン樹脂(レゾルシン・ホルマリン初期縮合物、RF)水溶液を得た。このRF水溶液にクロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)ラテックスを加え、12時間熟成して、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)を得た。
【0038】
(心線の接着処理)
ポリエステル1500d/2×3を心線として用い、これをポリメチレンポリフェニルイソシアネートのトルエン溶液(イソシアネート固形分16重量%)に浸漬した後、250℃で40秒間、加熱、乾燥して、前処理を施した。次いで、このように処理した心線を上記RFL液に浸漬した後、230℃で40秒間、加熱、乾燥し、再び、上記と同じRFL液に浸漬した後、230℃で40秒間、加熱、乾燥して、RFL処理した。このように処理した心線をエチレン−プロピレン−ジエンゴム配合物のトルエン溶液からなる接着溶液に浸漬した後、60℃で40秒間、加熱、乾燥して、接着ゴム処理した。
【0039】
(短繊維の接着処理)
フィラメントを束ねた状態で上記RFLに浸漬した後、引き上げ、180℃で加熱乾燥して、表面にRFLを付着させ、これを所定の長さに裁断して、接着処理を施した短繊維を得た。
【0040】
(Vリブドベルトの製造)
前述したように、表面が滑らかな円筒状の成形ドラムの周囲にゴム引きした帆布と接着ゴム層を形成するためのエチレン−プロピレン−ジエンゴムの未加硫配合物のシートを巻き付けた後、この上に上記接着処理した心線を螺旋状にスピニングし、更に、その上に上記と同じ接着ゴム層を形成するゴムの未加硫配合物のシートを巻き付けた。次いで、この上に圧縮ゴム層を形成するためのエチレン−プロピレン−ジエンゴムの未加硫配合物のシートを巻き付けて、積層体を形成した後、これを加硫缶中にて内圧6kgf/cm2 、外圧6kgf/cm2 、温度175℃で15分間、加圧加熱し、蒸気加硫して、環状の加硫物を得た。この環状の加硫物を前述したように加工して、接着ゴム層に上記心線が埋設されており、この接着ゴム層の上面に帆布が接着されていると共に、接着ゴム層の下面にリブゴム層を有するリブ数3、周長1000mmのVリブドベルトを得た。
【0041】
(Vリブドベルトの走行時の摩耗試験)
上記リブ数3、周長さ1000mmのVリブドベルトを駆動プーリー(直径60mm)と従動プーリー(直径60mm)とからなるベルト駆動システムに取付け、駆動プーリーの回転数を3500rpm、従動プーリーの負荷を5.2馬力、初張力を120kgfとし、温度25℃で24時間走行させて、ベルトの摩耗量を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
表1において、DCPはジクミルパーオキサイド、EDMAはエチレンジメタクリレート、MAAZはメタクリル酸亜鉛、TMPTAはトリメチロールプロパントリアクリレート、TMPTMAはトリメチロールプロパントリメタクリレート、TAICはトリアリルイソシアヌレート、DDHは2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンをそれぞれ意味する。表2及び表3においても同じである。
【0043】
比較例1〜9
実施例におけると同様にして、前述した圧縮ゴムのためのエチレン−プロピレン−ジエンゴム配合物と表2及び表3に示す架橋剤及び共架橋剤を用いて、耐油試験用のエチレン−プロピレン−ジエンゴム加硫物を調製し、これについて、実施例におけると同様にして、耐油試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0044】
また、実施例におけると同様にして、前述した接着ゴム及び圧縮ゴムのためのエチレン−プロピレン−ジエンゴム配合物と表2及び表3に示す架橋剤及び共架橋剤を用いて、Vリブドベルトを調製し、これについて、実施例におけると同様にして、走行による摩耗試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表1から表3に示す結果から明らかなように、本発明に従って、エチレン−プロピレン−ジエンゴム配合物を有機過酸化物と3官能性の共架橋剤にて架橋してなる加硫物は、油類に浸漬しても、膨潤が少なく、また、硬度の低減も抑えられている。更に、接着ゴム層と圧縮ゴム層のうち、少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−プロピレン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤にて架橋してなるエチレン−プロピレン−ジエンゴム加硫物からなるVリブドベルトは、走行時の摩耗も抑えられている。また、圧縮ゴム層に接着処理のない短繊維をベルトの幅方向に配向して分散させることによって、2官能性の加硫剤又は架橋剤を用いた場合とほぼ同様の大きい伸びを列理方向に有せしめることができる。
【0049】
これに対して、エチレン−プロピレン−ジエンゴムの硫黄加硫物は、油類に著しく膨潤する。また、有機過酸化物を用いて加硫してなる加硫物は、用いる有機過酸化物を比較的多量にすれば、耐油性は幾分改善されるものの、未だ十分ではない。更に、有機過酸化物と共に2官能性の共架橋剤を用いて加硫しても、架橋点が三次元構造をもたないので、油類に尚、大きく膨潤する。また、これらのエチレン−プロピレン−ジエンゴム加硫物を圧縮ゴム層とするVリブドベルトにおいては、走行時の摩耗量が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】Vリブドベルトの一例を示す横断面図である。
【図2】Vベルトの一例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…ゴム引き帆布
2…心線
3…接着ゴム層
4…リブ
5…圧縮ゴム層
6…短繊維
7…上ゴム層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム層を構成するゴムの50重量%以上がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
ゴム層として圧縮ゴム層と接着ゴム層を有し、この圧縮ゴム層と接着ゴム層が加硫接着されていると共に、上記接着ゴム層内に心線が埋設されてなる伝動ベルトにおいて、上記ゴム層のうち少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物からなる請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
ゴム層として圧縮ゴム層と接着ゴム層を有し、この圧縮ゴム層と接着ゴム層が加硫接着されていると共に、上記接着ゴム層内に心線が埋設されており、更に、この接着ゴム層に帆布が接着されており、圧縮ゴム層がベルト長手方向に延びる複数のリブを一体に形成されてなる伝動ベルトにおいて、上記ゴム層のうち少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを有機過酸化物と3官能性の共架橋剤によって加硫してなるエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物である請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項4】
エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム加硫物がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100g当たりに0.005〜0.05モルの有機過酸化物と上記ゴム100重量部当たりに0.1〜10重量部の3官能性の共架橋剤を用いて加硫してなるものである請求項1から3のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項5】
3官能性の共架橋剤がトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びトリアリルイソシアヌレートから選ばれる少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項6】
ゴム層として圧縮ゴム層と接着ゴム層を有し、この圧縮ゴム層と接着ゴム層が加硫接着され、上記接着ゴム層内には心線が埋設されており、更に、この接着ゴム層に帆布が接着されており、圧縮ゴム層には接着処理を施していない短繊維がベルト幅方向に配向して分散されていると共に、ベルト長手方向に延びる複数のリブが一体に形成されてなる伝動ベルトにおいて、上記ゴム層のうち少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−α−オレフィン−ジエンゴムをこのゴム100g当たりにトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びトリアリルイソシアヌレートから選ばれる少なくとも1種の有機過酸化物0.005〜0.05モルと上記ゴム100重量部当たりに3官能性の共架橋剤0.1〜10重量部を用いて加硫してなるものである請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項7】
圧縮ゴム層に接着処理を施していない短繊維と接着処理を施した短繊維が共にベルト幅方向に配向して分散されている請求項6に記載の伝動ベルト。
【請求項8】
圧縮ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム100重量部当たり、圧縮ゴム層に接着処理を施していない短繊維と接着処理を施した短繊維とを合計量にて5〜30重量部を配合し、その短繊維のうち、接着処理を施した短繊維が25重量%以下の割合である請求項7に記載の伝動ベルト。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−38214(P2006−38214A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178798(P2005−178798)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)