説明

伝動装置

本発明は、伝動装置であって、内歯車(1)と、該内歯車の内部で回転するフレキシブルな歯付きバンド(2)とが設けられており、該歯付きバンド(2)が、内歯車(1)よりも少ない歯を有しており、さらに、回転可能なウェーブジェネレータ(3)が設けられており、該ウェーブジェネレータ(3)が、タペットホイール(4)を介して力を歯付きバンド(2)に伝達するようになっており、ウェーブジェネレータ(3)の回転から、内歯車(1)に対する歯付きバンド(2)の相対運動が生ぜしめられるようになっている形式のものに関する。本発明による伝動装置は、対向歯車(7)が設けられており、歯付きバンド(2)の一方の側面に連行ピン(5)が一体成形されており、該連行ピン(5)が、対向歯車(7)の切欠き(6)内に係合していることによって特徴付けられている。本発明による伝動装置は特に簡単に形成されていて、極めて僅かな構造高さしか要求しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動装置であって、内側に歯列を備えた固定された内歯車が設けられており、環状のフレキシブルな歯付きバンドが設けられており、該歯付きバンドが、内歯車の歯列に噛み合うようになっており、歯付きバンドが、内歯車よりも少ない歯を有しており、回転可能なウェーブジェネレータが設けられており、該ウェーブジェネレータが、タペットホイールを介して力を歯付きバンドに伝達するようになっており、ウェーブジェネレータの回転から、内歯車に対する歯付きバンドの相対運動が生ぜしめられるようになっている形式のものに関する。
【0002】
このような形式の伝動装置は「ハーモニックドライブ(登録商標)」として知られている。機能原理を実現するための基本位置は、変形可能な歯付きバンドである。この歯付きバンドはフレクスプラインもしくはフレックスリングとも呼ばれる。このフレックスリングはウェーブジェネレータによって駆動され、このウェーブジェネレータの円形と異なる形状がタペットホイールを介してフレックスリングに伝達される。ウェーブジェネレータの横断面は、有利には楕円形である。ウェーブジェネレータが駆動されると、横波が発生させられる。この横波は内歯車に支持される。回転数変換は、内歯車とフレックスリングとの間の歯数差によって規定される。この差は極めて小さいので、極めて高い変速比、特に1:50〜1:5000の変速比を達成することができる。
【0003】
この伝動装置原理の利点は、極めて扁平な構造と同時に低い部材数である。
【0004】
このような変速を可能にする別の伝動装置は、多段式の遊星歯車伝動装置である。しかし、この多段式の遊星歯車伝動装置は比較的手間がかかり、大きな部材数を必要とする。これによって、製作コストが高められる。
【0005】
さらに、ウォーム伝動装置が知られている。このウォーム伝動装置は、確かに同じく比較的高い変速を可能にするが、しかし、低い効率しか有していない。したがって、多くの使用事例において、ウォーム伝動装置の使用は敬遠されている。
【0006】
冒頭で述べた「ハーモニックドライブ」伝動装置には、どのようにして歯付きバンドの運動が伝達されるのかという問題がある。このためには、これまで2つの構成が知られている。両構成は、フレックスポット伝動装置およびフラット伝動装置と呼ばれる。フレックスポット伝動装置では、出力が直接フレックスリングを介して行われるのに対して、フラット伝動装置では、第2の内歯車が必要となる。この第2の内歯車はフレックスリングと同じ歯数を有している。フレックスポット伝動装置の欠点が、必要とされる高い構成スペースにあるのに対して、フラット伝動装置では、歯列が固有に適合されなければならず、さらに、クラッチ段を実現するために、より高い構成スペースも必要となる。
【0007】
本発明の課題は、力伝達を考慮した場合でも、極めて低い構成スペースを必要とし、さらに、構造が簡単となるような伝動装置を提供することである。
【0008】
この課題は、冒頭で述べた形式の伝動装置において、対向歯車が設けられており、歯付きバンドの一方の側面に連行ピンが一体成形されており、該連行ピンが、対向歯車の切欠き内に係合していることによって解決される。
【0009】
本発明による伝動装置の構成の利点は、多くの部材が必要となることなしに、極めて扁平な構造にある。上述したフラット伝動装置に比べて、連結エレメントとしての第2の内歯車を不要にすることができるという利点がある。この第2の内歯車の代わりに、単純に形成された対向歯車が使用される。この対向歯車は著しく安価である。この対向歯車は極めて単純な構成でディスク状であってよく、半径方向に配置された溝を備えている。この溝内には連行ピンが係合している。トルクは常に複数のピンを介して伝達されるので、高いトルクも伝達可能となる。対向歯車には、トルクを伝達するために、任意の機械的なエレメントが一体成形されてよいかまたは取り付けられてよく、特に対向歯車は歯車、剛性的なまたはフレキシブルな軸、クラッチ等に結合されてよい。
【0010】
本発明による伝動装置構成によって、同じ機能で、より少ない部材を使用することが可能となる。公知先行技術により使用されるような遊星歯車伝動装置の事例では、1つのモータピニオン、6つのプラネタリピニオン、2つのプラネタリキャリヤならびに1つの内歯車が使用される。本発明による運動伝達を備えたハーモニックドライブ伝動装置は、もはや5つの部材、つまり、1つのウェーブジェネレータ、1つのタペットホイール、1つのフレックスリング、1つの内歯車および1つの対向歯車しか必要としない。
【0011】
本発明の変化形では、溝が台形である。歯付きバンドがウェーブジェネレータの半分の差だけ永久変形することに基づき、中心軸線に対する個々のピンの角度も永続的に変化し、したがって、全ての連行エレメントがトルク伝達のために使用されない。この弱化箇所は溝の台形の構成によって最小限に抑えられる。
【0012】
本発明による伝動装置の特に有利な使用は、デジタル式のタコグラフにおいて、チップカード突出し機構を駆動するために行われる。
【0013】
以下に、本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。
【0014】
図1には、本発明による伝動装置の平面図が示してある。外側には、固定された内歯車1が位置している。この内歯車1の内面に設けられた歯列には、フレキシブルな歯付きバンド2、いわゆる「フレックスリング」が噛み合う。このフレックスリング2はタペットホイール4に嵌められている。この場合、図1には、タペットホイール4の全てのタペットエレメントは示していない。タペットホイール4のタペットエレメントは一体に製作することができ、これによって、タペットホイール4がただ1つの部材を成していて、したがって、簡単に操作される。にもかかわらず、タペットエレメントは互いに可動でなければならない。タペットホイールは中心の切欠きを有している。この切欠き内にはウェーブジェネレータ3が突入している。このウェーブジェネレータ3は楕円形の輪郭を有している。ウェーブジェネレータ3は回転可能に支承されていて、駆動装置に結合されており、これによって、ウェーブジェネレータ3の回転時に横波が生ぜしめられる。この横波はタペットホイール4のタペットエレメントに伝達される。横波はフレックスリング2を介して内歯車1に支持される。フレックスリング2と内歯車1とは、内外で噛み合う歯を有している。この場合、フレックスリング2は内歯車1よりも少ない歯を有している。したがって、横波の進行時に、内歯車1に対するフレックスリングの変位が生ぜしめられる。内歯車1に対するフレックスリング2の運動が可能となるように、内歯車1の半径とフレックスリング2の半径とは適切な形式で互いに調和されていなければならない。
【0015】
図2には、図1の伝動装置の断面図が示してある。この場合、付加的に駆動装置8を認めることができる。この駆動装置8は軸を介してウェーブジェネレータ3を駆動する。さらに、図2には、対向歯車7を認めることができる。この対向歯車7は、以下に説明する形式でフレックスリング2によって駆動される。対向歯車7の運動の伝達のためには、この対向歯車7に歯車9が一体成形されている。この歯車9はさらに別の歯車と協働し得る。同じく図2に認めることができるように、フレックスリング2は、対向歯車7に係合することができるように形成されている。
【0016】
図1および図2の伝動装置のフレックスリング2が図3に示してある。このフレックスリング2の側面、この事例では、下側の面には連行ピン5が一体成形されている。フレックスリング2に設けられたピンは、フレキシブルな構成部材の僅かな厚さに基づき極めて小さく突出している。したがって、高い数のピン5が設けられなければならない。さらに、トルクを確実に伝達するためには、可能な限り多くのピンが対向歯車7に係合することが望ましい。フレックスリング2はウェーブジェネレータ3の高さ差だけ変形を被るので、さらに、連行ピン5がこの量だけ対向歯車7内で半径方向に運動することができる。
【0017】
したがって、対向歯車7内への連行ピン5の係合は、この連行ピン5が、歯車7の、半径方向に延びる溝6内に係合するように行われる。フレックスリング2と対向歯車7との間のトルク伝達を最適化する(この場合、この問題はフレックスリングの変形によって生ぜしめられる)ためには、溝が台形に形成され得る。このことは、図4の構成には確かに設けられていないが、しかし、有利な構成を成している。
【0018】
以下に、台形の溝の計算を図5につき説明する。この場合、フレックスリング2の弧を最大位置もしくは最小位置で円として考えることにする。
【0019】
図5において、「h」はウェーブジェネレータ3の差である。この差は、ウェーブジェネレータの、使用された楕円に関連している。この場合、差hは、最大の半径と最小の半径との差の半分から得られる。この差はストロークとも呼ばれる。半径rmaxは歯の間の「谷」における内歯車の半径である。半径rminはストロークhを減算した内歯車の半径である。角度αはα=360゜/連行ピンの数で計算される。弧度bはb=α・π・rmax/180゜で計算される。弧度は両運転状態において同じである。なぜならば、連行ピン5の間隔が変化しないからである。角度θはβ=b・180゜/(π・rmin)で計算される。これから、角度差δ=β−αが得られる。円弧における溝6の外側の縁部l1と溝6の内側の縁部l2との間の差xはx=tanδ・rminで計算される。これから、台形角γがtanγ=x/hで得られる。
【0020】
図6には、平面F−F(図2参照)の断面図が示してある。そこに認めることができるように、全ての連行ピン5は対向歯車7の溝6内に係合している。
【0021】
図7には、フレックスリング2の側面に設けられた連行ピン5の配置形式が示してある。この場合、「a」はピン5の間の間隔であり、フレックスリングの周から連行ピン5の数によって除法されて得られる。
【0022】
図8から、どのようにして対向歯車7の運動の伝達が行われ得るのかが明らかである。図示の実施例では、対向歯車7に歯車9が一体成形されている。この歯車9は別の歯車10に噛み合っている。この場合、さらなる変速を行うことができる。
【0023】
図示の実施例では、入力軸と出力軸とが同じ軸線に位置している。しかし、たとえば誤差を補償するために、入力軸と出力軸とのずれが補償されてもよい。入力軸と出力軸とをすでにフレックスリングと対向歯車との間でずらすことさえ可能である。しかし、このことは、低いトルクの伝達時にしか機能しない。なぜならば、ここでは、もはや僅かな連行ピンしか対向歯車の溝内に係合していないからである。さらなる構成では、遊星歯車伝動装置の原理により、変速を組み込むことさえできる。この場合、入力軸と出力軸とが所定の方向、すなわち平行に位置している必要はなく、任意に互いに角度を成して配置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による伝動装置の平面図である。
【図2】図1の伝動装置の断面図である。
【図3】フレキシブルな歯付きバンドの三次元図である。
【図4】対向歯車の三次元図である。
【図5】溝の台形を計算するための図である。
【図6】内部に係合した連行ピンを備えた対向歯車の断面図である。
【図7】連行ピンの幾何学的な構成の詳細図である。
【図8】対向歯車と、別の出力エレメントとを備えた、図1および図2の本発明による伝動装置の下面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 内歯車、 2 フレックスリング、 3 ウェーブジェネレータ、 4 タペットホイール、 5 連行ピン、 6 溝、 7 対向歯車、 8 駆動装置、 9 歯車、 10 歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動装置であって、
−内側に歯列を備えた固定された内歯車(1)が設けられており、
−環状のフレキシブルな歯付きバンド(2)が設けられており、該歯付きバンド(2)が、内歯車(1)の歯列に噛み合うようになっており、歯付きバンド(2)が、内歯車(1)よりも少ない歯を有しており、
−回転可能なウェーブジェネレータ(3)が設けられており、該ウェーブジェネレータ(3)が、タペットホイール(4)を介して力を歯付きバンド(2)に伝達するようになっており、ウェーブジェネレータ(3)の回転から、内歯車(1)に対する歯付きバンド(2)の相対運動が生ぜしめられるようになっている形式のものにおいて、
対向歯車(7)が設けられており、歯付きバンド(2)の一方の側面に連行ピン(5)が一体成形されており、該連行ピン(5)が、対向歯車(7)の切欠き(6)内に係合していることを特徴とする、伝動装置。
【請求項2】
ウェーブジェネレータ(3)の軸線と対向歯車(7)の軸線とが平行であり、対向歯車(7)の切欠きが、半径方向に延びる溝(6)である、請求項1記載の伝動装置。
【請求項3】
溝(6)が台形である、請求項2記載の伝動装置。
【請求項4】
伝動装置構成要素がプラスチック射出成形部材である、請求項1から3までのいずれか1項記載の伝動装置。
【請求項5】
デジタル式のタコグラフに設けられたチップカード突出し機構を駆動するための、請求項1から4までのいずれか1項記載の伝動装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−509970(P2006−509970A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−557798(P2004−557798)
【出願日】平成15年12月8日(2003.12.8)
【国際出願番号】PCT/DE2003/004035
【国際公開番号】WO2004/053360
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft