説明

伝熱方法

本発明は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、ジフルオロメタンとを含む三元組成物を用いた伝熱方法に関する物しある。この組成物は向流モードまたは向流傾向を有する分割流モードで運転される熱交換器を有する圧縮冷却システムの熱媒体流体として特に重要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの三元組成物の熱媒体流体としての使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気のオゾン層を枯渇させる物質に起因する問題(オゾン減損ポテンシャル(ODP)がモントリオールで論議され、クロロフルオロカーボン(CFC)の生産および使用を減らすことが合意され、このプロトコールの改正でCFCの廃棄が決められ、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を含む他の化合物への規制が広げられた。
【0003】
冷凍および空調工業ではこれら冷媒の代替物に対する大きな投資がなされてきた。その結果、ハイドロフルオロカーボン(HFC)が市場に出た。また、発泡剤または溶剤として使われる(ハイドロ)クロロフルオロカーボンもHFCに置換された。
【0004】
自動車の工業では多くの国において、市場に出される車両用空調システムがクロロフルオロカーボン冷媒(CFC-12)からオゾン層に有害でないハイドロフルオロカーボン(1,1,1,2-テトラフルオロエタン:HFC-134a)冷媒に変わった。しかし、このHFC-134a(GWP =1300)は京都プロトコルの目標に対しては温室効果が高いとみなされる。温室効果に対する貢献度は、二酸化炭素を基準値1とした地球温暖化ポテンシャルGWP(温室効果を要約した判定基準)で定量化される。
【0005】
二酸化炭素は毒性がなく、不燃性で、GWPが非常に低く、空調システムの冷媒としてHFC-134aの代替物として提案されたが、二酸化炭素の使用には既存の機器および技術での冷媒として使用するには多くの欠点、特に超高圧を必要とするという欠点がある。
【0006】
44重量%のペンタフルオロエタンと、52重量%のトリフルオロエタンと、4重量%のHFC-134aとから成る混合物R-404Aは広範囲の大面積(スーパーマーケット)および冷凍輸送で冷媒として使われているが、この混合物のGWPは3900と高い。52重量%のHFC-134aと、25重量%のペンタフルオロエタンと、23重量%のジフルオロメタンとから成る混合物R-407Cが空調およびヒートポンプの熱媒体流体として使われているが、この混合物は1800のGWPを有する。
【0007】
特許文献1(日本特許公報第JP 4110388号公報)には式C3mnのヒドロフルオロプロペン、特にテトラフルオロプロペンおよびトリフルオロプロペンの熱媒体流体としての使用が記載されている(ここで、mとnは1〜5の整数を表し、m+n=6である)。
【0008】
特許文献2(国際特許第WO2004/037913号公報)には、3つまたは4つの炭素原子を有するフルオロプロペンを有する少なくとも一種のフルオロアルケン、特にペンタフルオロプロペンとテトラフルオロプロペンとを含む組成物、好ましくはGWPが最大で150の組成物の熱伝達流体としての使用が記載されている。
【0009】
特許文献3(国際特許第WO 2005/105947号公報)には発泡剤、例えばジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ヘヌタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ペンタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、水および二酸化炭素にテトラフルオロプロペン、好ましくは1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを加えることが記載されている。
【0010】
特許文献4(国際特許第WO2006/094303号公報)には、7.4重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HF0-1234yf)と92.6重量%のジフルオロメタン(HFC-32)が記載されている。この文献にはさらに、91重量%の2,3,3,3-のテトラフルオロ−プロピレンと9重量%のジフルオロメタン(HFC-152a)の共沸組成物も記載されている。
【0011】
熱交換器は熱エネルギーを一つの流体から他の流体へ両者を混ぜずに移すための装置である。熱流束は2つの流体を分離する交換器面を通過する。この方法は直接冷却または加熱が不可能な液体またはガスを冷却または加熱するのに用いられる。
【0012】
圧縮システムでは、冷媒と熱源との間の熱交換器換が熱伝達流体によって行われる。この熱伝達流体は気体状態(空調および直接膨張式冷凍機では空気)、液体状態(ヒートポンプでは水、グリコール水)または二相混合の状態にある。
【0013】
熱伝達には下記のような種々の方式がある:
(1)二つの流体が平行に配置され、同じ方向に移動する:並流(アンチメソディック(antimethodic))モード、
(2)二つの流体が平行に配置され、逆方向に移動する:向流(メソディック(methodic))モード、
(3)二つの流体が直角に配置される交差流モード:この交差流モードは並流モードまたは向流モードの傾向にできる。
(4)二つの流体の一方が第2の流体が通る大径パイプ中でUターンする。この形状は長さの半分が向流交換器で他の半分が並流交換器であるものと等価:ピンヘッドモード。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】日本特許公報第JP 4110388号公報
【特許文献2】国際特許第WO2004/037913号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2005/105947号公報
【特許文献4】国際特許第WO2006/094303号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、ジフルオロメタンとの三成分組成物は、向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードで運転される熱交換器を有する圧縮-タイプ冷却システムの熱媒体流体として特に重要である、ということを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明組成物は、向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムを用いた、ヒートポンプ(可逆式でもよい)、工業的空調(ペーパー、サーバルーム)、車両の空調、家庭用冷蔵および冷凍、低温および中温の冷蔵および冷凍、冷蔵車での熱媒体流体として使うことができる。
【0017】
本発明組成物はODPがゼロで、GWPはR-404AまたはR-407Cのような既存の熱媒体流体より低い。さらに、その運転性能(COP:成績係数、システムに供給されるまたはシステムで消費される動力に対するシステムが与える有効パワーで定義される、およびCAP:容積キャパシティー(kJ/m3))はR-404AまたはR-407C のような既存の熱媒体流体より大きい。
【0018】
熱媒体流体として使われる本発明組成物の臨界温度は93℃以上である(R-404Aの臨界温度は72℃である)。本発明組成物は65℃以上、さらには90℃までの高い温度(R-410Aでは使用できない温度領域)の熱を与えるヒートポンプで使用できる。
【0019】
熱媒体流体として使われる本発明の組成物の凝縮器での圧力はR-404Aより低く、圧縮比もそれ以下である。本発明組成物はR-404Aで使用していたのと同じコンプレッサの方法を使用できる。熱媒体流体として使われる本発明組成物はR-404Aの飽和蒸気密度以下の飽和蒸気密度を有する。本発明組成物によって与えられる容積キャパシティー(volumetric capacity)はR404Aの容積キャパシティー(97〜110%の間)に等しいか、より大きい。これらの特性によって本発明組成物は配管の直径がより小さい管路で使用でき、蒸気配管でのヘッドロスを小さくすることができる。その結果、設備の運転性能を増加させることができる。
【0020】
従って、本発明は、向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードで運転ささる熱交換器を有する圧縮-タイプの冷却システムの熱媒体流体として特に重要な2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、ジフルオロメタンとの三元組成物の使用に関するものである。
【0021】
本発明で使用する組成物は基本的に20〜80重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、15〜40重量%のジフルオロメタンと、5〜40重量%の1,1-ジフルオロエタンとを含むのが好ましい。
【0022】
特に好ましい組成物は基本的に20〜70重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、20〜40重量%のジフルオロメタンと、10〜40重量%のジフルオロエタンとを含む。
【0023】
さらに特に好ましい組成物は基本的に35〜70重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、20〜25重量%のジフルオロメタンと、10〜40重量%の1,1-ジフルオロエタンとを含む。
【0024】
本発明で使われる組成物は安定化できる。安定剤の量は組成物に対して最大で5重量%にするのが好ましい。
【0025】
安定剤として特にニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾールまたはベンゾトリアゾールのようなアゾール、トコフェロールのようなフェノール化合物、ハイドロキノン、t- ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-tert- ブチル-4-メチルフェノール、エポキシド(アルキル、必要に応じてフッ素化またはパーフッ素化またはアルケニルまたは芳香族)、例えばn-ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、亜リン酸エステル、ホスフェート、ホスホネート、チオールおよびラクトンが挙げられる。
【0026】
本発明の他の対象は、向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードで運転される熱交換器を有する圧縮-タイプの冷却システムの熱媒体流体として2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、ジフルオロメタンの三成分組成物を使用する伝熱方法にある。
【0027】
この本発明方法は潤滑剤、例えば鉱油、アルキルベンゼン、ポリアルキレン・グリコール、ポリオール・エステルおよびポリビニールエーテルの存在下で使うことができる。
【0028】
本発明で使用される組成物は、冷蔵でのR-404Aの代替および/または既存の設備を備えた空調およびヒートポンプでのR-407Cの代替として使用するのに適している。
【実施例】
【0029】
実験部分
計算ツール
密度、エンタルピー、エントロピーおよび混合物の液体/蒸気平衡データはRK-Soave式を用いて計算した。この式を使用するには該当混合物中の各純粋化合物の性質に関する知識と、各二成分混合物に対する相互作用係数とが必要である。各純粋化合物に必要なデータは以下の通りである:沸点、臨界温度および臨界圧力、沸点から臨界点までの温度を関数とする圧力曲線および温度を関数とする飽和液体および飽和蒸気の密度。
【0030】
HFC-32、HFC-152a:
これらの化合物のデータは「ASHRAE Handbook 2005、第20章」に記載されており、また、Refrop(冷媒の性質を計算するためにNISTによって開発されたソフトウェア)から入手できる。
【0031】
HFO-1234yf:
HFO-1234yfの温度-圧力曲線データは静的方法で測定できる。臨界温度および臨界圧力はSetaramから市販のC80カロリメータを使用して測定される。温度を関数とする飽和密度はパリのEcole des Mines研究所が開発した振動管デンシトメータ法を用いて測定される。
【0032】
二元相互作用係数:
混合物中の各化合物の挙動を表すためにRK-Soave式では二元相互作用係数を使用する。この係数は液体−蒸気平衡の実験データの関数として計算される。液体/蒸気平衡の測定に使われる方法は静的セル分析法である。平衡セルはサファイヤ・チューブから成り、2つの電磁ROLSITMサンプラを備え、それをクライオスタット浴(HUBER HS40)中に没す。可変速度で回転駆動される磁気攪拌機を用いて平衡に達するように加速する。サンプルの解析はカサロメータ(TCD)を使用したガスクロマトグラフィ(HP5890シリーズII)で実行する。
【0033】
HFC-32/HFO-1234yf、HFC-152a/HF0-1234yf:
HFC-32/HFO-1234yf二成分混合物の液体/蒸気平衡の測定は-10℃、30℃、70℃で下記の等温式で求める。HFC-152a/HFO-1234yf二成分混合物の液体/蒸気平衡の測定は10℃で下記の等温式で求める。
【0034】
HFC-32/HFO-152a:
HFC-152a/HFC-32二成分混合物の液体/蒸気平衡データはRefpropから入手にできる。この二元系の相互作用係数の計算には2つの等温式(-20℃と20℃)および2つの等圧曲線(1バールと25バール)を用いる。
【0035】
圧縮システム
スクリュー圧縮機と膨張弁とを有する、向流凝縮器および蒸発器を備えた圧縮システムを考える。この圧縮システムを15℃の過熱および5℃の過冷却で運転する。二次流体と冷媒との間の最少温度差は約5℃とみなされる。
【0036】
コンプレッサの等エントロピー効率は圧縮比に依存する。この効率は下記の式に従って計算する:

【0037】
スクリュー圧縮機の場合、等エントロピー効率の式(1)のa、b、c、dおよびeの定数は「Handbook of air conditioning and refrigeration, page 11.52」に記載の標準データに従って計算される。%CAPはR-404Aの容積キャパシティに対する各化合物が与える容積キャパシティの比の百分比である。
【0038】
成績係数(COP)はシステムに供給されたまたはシステムで消費された動力に対するシステムをよって供給される有効動力として定義される。
【0039】
ローレンツ成績係数(COPLorenz)は基準の成績係数である。これは温度の関数で、各種流体のCOPを比較するのに使われる。このローレンツ成績係数は下記のように定義される(温度TはKである):

【0040】
空調および冷蔵の場合のローレンツCOPは以下の通りである:

【0041】
加熱の場合のローレンツCOPは以下の通りである:

【0042】
各組成物に対してローレンツ・サイクルの成績係数を対応温度の関数として計算する。%COP/COPLorenzは対応するローレンツサイクルのCOPに対するシステムのCOPの比である。
【0043】
加熱モードでの結果
加熱モードでは、圧縮システムを蒸発器の冷媒入口温度の-5℃と、凝縮器の冷媒入口温度の50℃との間の温度で運転する。システムは45℃で熱を供給する。
【0044】
加熱モード運転条件下での本発明組成物の性能を[表1]に示す。各組成物での各成分(HF0-1234yf、HFC-32、HFC-152 a)の値は重量百分率で与えられる。
【0045】
【表1】

【0046】
冷却モードおよび空調モードでの結果
冷却モードでは、圧縮システムを蒸発器の冷媒入口温度の-5℃と凝縮器の冷媒入口温度の50℃との間で運転する。システムは0℃で冷気を出す。
冷却運転条件下の本発明組成物の性能を[表2]に示す。各組成物の各成分(HF0-1234yf、HFC-32、HFC-152a)の値は重量百分率で与えられる。
【0047】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、ジフルオロメタンの三成分組成物の、向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードで運転される熱交換器を有する圧縮-タイプの冷却システムの熱媒体流体としての使用。
【請求項2】
三成分組成物が基本的に20〜80重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、15〜40重量%のジフルオロメタンと、5〜40重量%のジフルオロエタンとを含む請求項1に記載の使用。
【請求項3】
三成分組成物が基本的に20〜70重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、20〜40重量%のジフルオロメタンと、10〜40重量%のジフルオロエタンとを含む請求項1に記載の使用。
【請求項4】
三成分組成物が基本的に35〜70重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、20〜25重量%のジフルオロメタンと、10〜40重量%のジフルオロエタンとを含む請求項1に記載の使用。
【請求項5】
上記組成物が安定化される請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードで運転される熱交換器を有する圧縮-タイプの冷却システムの熱媒体流体として2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、ジフルオロメタンの三成分組成物を使用する伝熱方法。
【請求項7】
三成分組成物が基本的に35〜70重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、20〜25重量%のジフルオロメタンと、10〜40重量%のジフルオロエタンとを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
潤滑剤の存在下で実行される請求項6または7に記載の方法。

【公表番号】特表2013−504641(P2013−504641A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528410(P2012−528410)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051728
【国際公開番号】WO2011/030029
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)