説明

伸線加工用液状潤滑剤

【課題】高潤滑性を有し、乾式伸線用潤滑剤の替わりに使用できる液状潤滑剤を提供する。
【解決手段】液状潤滑剤を、融点が80℃以上140℃以下であり、粒径が0.2μm以上20μm以下の酸化ポリエチレン粒子、および、水を備え、該酸化ポリエチレン粒子が水中に分散されてなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線材、例えば鋼線を伸線加工する場合に用いられる潤滑剤として、従来の乾式伸線用潤滑剤(粉体潤滑剤)に替わる湿式伸線用潤滑剤(液状潤滑剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
金属線材、例えば、鋼線を伸線加工する場合に用いられる乾式伸線用潤滑剤としては、脂肪酸のアルカリ金属石鹸、例えばステアリン酸カルシウムやステアリン酸ナトリウムのようなステアリン酸のアルカリ金属石鹸が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−335685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、乾式伸線用潤滑剤は粉体であるため、伸線加工時に粉塵が発生する問題があった。一方、湿式伸線用潤滑剤は液体であるため、粉塵が発生する問題がなく、また任意に希釈して使用できるためコストパフォーマンスが高い。しかしながら、湿式伸線用潤滑剤(液状潤滑剤)は、乾式伸線用潤滑剤に比べて潤滑性が劣っているため、湿式伸線用潤滑剤をそのまま、乾式伸線用潤滑剤を用いていた伸線加工ラインに適用することは困難であった。
【0004】
そこで、本発明は、液状潤滑剤でありながら、高潤滑性を有し、乾式伸線用潤滑剤の替わりに使用できる液状潤滑剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の本発明は、融点が80℃以上140℃以下であり、粒径が0.2μm以上20μm以下の酸化ポリエチレン粒子、および、水を備えてなり、該酸化ポリエチレン粒子が水中に分散されてなる、伸線加工用液状潤滑剤である。
【0006】
第1の本発明において、酸化ポリエチレン粒子の含有量は、液状潤滑剤全体の質量を100質量%として、5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液状潤滑剤は、所定の酸化ポリエチレン粒子を備えて構成されるものであり、これにより、高潤滑性を備えたものとなる。よって、本発明の液状潤滑剤は、これまで乾式伸線用潤滑剤(粉体潤滑剤)を使用していた伸線加工ラインでそのまま代替使用することが可能である。また、液状であるので、粉塵の発生がなく、加工の難易度に合わせて、適宜希釈して使用することができるのでコストパフォーマンスに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
<液状潤滑剤>
本発明の液状潤滑剤は、以下に説明する酸化ポリエチレン粒子および水を備えており、該酸化ポリエチレン粒子が水中に分散されたものである。
【0009】
(酸化ポリエチレン粒子)
酸化ポリエチレンは、ポリエチレンを酸化することにより製造されるものである。酸化ポリエチレン粒子が分散した分散液は、例えば、ポリエチレンを水に分散させ、これを酵素酸化することにより、得ることができる。また、市販の酸化ポリエチレン粒子が分散した分散液を入手することもできる。
【0010】
酸化ポリエチレン粒子分散液は、市販の酸化ポリエチレンを水に分散させて製造することもできる。例えば、酸化ポリエチレンを加熱溶融し、必要に応じて界面活性剤を加えた上で、これを、熱水(95〜98℃)中に撹拌下にて加える。そして、冷却することにより、酸化ポリエチレン粒子分散液が得られる。酸化ポリエチレンの粒径は、撹拌速度等の条件を調整することにより、0.2μm〜20μmの範囲に調整することができる。
【0011】
本発明において用いる酸化ポリエチエレン粒子の融点は、80℃以上140℃以下であることが好ましい。融点が低すぎると、機械周りの汚れが激しくなって作業環境の悪化に繋がる。逆に、融点が高すぎると、加工点で溶融しない場合があるため(伸線加工では経験的に加工点温度が約140℃となる)、潤滑性が不安定となる。酸化ポリエチレン粒子の融点は、酸化ポエリエチレン粒子が溶け始める温度であり、DSC(Differential scanning calorimetry)によって測定されたものである。
【0012】
本発明において用いる酸化ポリエチエレン粒子の粒径は、0.2μm以上20μm以下であることが好ましい。酸化ポリエチエレン粒子の粒径が小さすぎると、金属接触がおきやすくなり、潤滑性が劣る。逆に、粒径が大きすぎると原液安定性が劣るため、潤滑面への供給が不十分となる可能性がある。酸化ポリエチレン粒子の粒径は、レーザー粒径分析装置によって測定されたものである。
【0013】
(添加剤)
本発明の潤滑剤組成物は、上記した酸化ポリエチレン粒子分散液以外に添加剤を含有していてもよい。添加剤の量は、特に限定されず、本発明の目的を達成する範囲内で、適宜調整することができる。添加剤としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、着色剤、泡立ち防止剤等を挙げることができる。
【0014】
(酸化ポリエチレン粒子の含有量)
本発明の液状潤滑剤中の上記した酸化ポリエチレン粒子の含有量は、液状潤滑剤全体を基準(100質量%)として、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。酸化ポリエチレンの含有量が少なすぎると、潤滑不足となる虞があり、多すぎると、原液が不安定となる虞がある。
【0015】
(用途)
本発明の液状潤滑剤は、金属線材、例えば、鋼線を伸線加工する際の、潤滑剤として用いることができる。ここで、伸線加工とは、金属線材をより細く延伸させる加工をいう。伸線加工においては、使用されるダイスの長寿命化、および、加工して得られた線材の表面品質向上等の目的で潤滑剤が使用される。本発明において、液状潤滑剤は、伸線加工において、潤滑剤BOX内に入れられ,線材を該BOX内に通過させることで塗布される。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
ノプコSNコート289(サンノプコ社製、酸化ポリエチレン粒子含量:40質量%)をそのまま、液状潤滑剤として用いた。
【0017】
(実施例2)
ノプコSNコート289(サンノプコ社製、酸化ポリエチレン粒子含量:40質量%)を80質量部、および、水20質量部を混合して液状潤滑剤とした。液状潤滑剤中の酸化ポリエチレンの含有量は32質量%である。
【0018】
(実施例3)
ノプコSNコート289(サンノプコ社製、酸化ポリエチレン粒子含量:40質量%)を60質量部、および、水40質量部を混合して液状潤滑剤とした。液状潤滑剤中の酸化ポリエチレンの含有量は24質量%である。
【0019】
(実施例4)
ノプコSNコート950(サンノプコ社製、酸化ポリエチレン粒子含量:40質量%)をそのまま、液状潤滑剤として用いた。
【0020】
(実施例5)
表1に示す所定の粒径および融点の酸化ポリエチレン含有分散液を、液状潤滑剤として用いた。酸化ポリエチレンの含有量は40質量%である。
【0021】
(比較例1)
伸線加工用粉体潤滑剤である、コーシンS650B(共栄社化学社製)をそのまま潤滑剤として用いた。
【0022】
(比較例2)
ノプコートPEM−17(サンノプコ社製、酸化ポリエチレン粒子含量:40質量%)をそのまま、液状潤滑剤として用いた。
【0023】
(比較例3)
表1に示す所定の粒径および融点の酸化ポリエチレン粒子含有分散液を、液状潤滑剤として用いた。酸化ポリエチレンの含有量は、25質量%である。
【0024】
(比較例4)
表1に示す所定の粒径および融点の酸化ポリエチレン粒子含有分散液を、液状潤滑剤として用いた。酸化ポリエチレンの含有量は、40質量%である。
【0025】
(評価方法)
上記潤滑剤を用いて行った伸線加工試験について、以下に説明する。加工材としては、φ5.0mmのSCM435(未処理材)を用いた。伸線加工装置としては、島津オートグラフAG−10TCを使用し、引抜速度を0.5m/分として、断面減少率を19%として伸線加工を行った。ダイスとしては、超硬(φ4.5mm、半角:7°)を用い、ダイス温度は室温とした。
【0026】
潤滑剤の塗布方法としては、栓付きパイプに潤滑剤を入れ、これに線材を浸漬した状態で伸線した。また、比較例1において粉体潤滑剤を用いた場合は、該粉体中に線材を入れて粉体を付着させてから、伸線加工を行った。
【0027】
上記の伸線加工試験において、引抜力(N)を測定すると共に、ビビリの度合いを以下の基準にて評価した。
1:ビビリなし
2:ビビリ小
3:ビビリ大
4:ビビリ特大
【0028】
(評価結果)
【0029】
【表1】

【0030】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う液状潤滑剤もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が80℃以上140℃以下であり、粒径が0.2μm以上20μm以下の酸化ポリエチレン粒子、および、水を備えてなり、該酸化ポリエチレン粒子が水中に分散されてなる、伸線加工用液状潤滑剤。
【請求項2】
前記酸化ポリエチレン粒子の含有量が、液状潤滑剤全体の質量を100質量%として、5質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載の伸線加工用液状潤滑剤。

【公開番号】特開2009−292863(P2009−292863A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144840(P2008−144840)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】