説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】配向基板を準備しなくても光学的異方性膜を形成することができ、また、光軸を任意に傾斜させて配向させることのできる位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム2に感光性層を形成した後、これを等方相転移温度以上に加熱してからガラス相−液晶相転移温度以下に冷却する。冷却は、フィルム2の感光性層が形成された面とは反対側の面に、冷却ロール105を接触させることにより行う。この面の動摩擦係数は、0.05以上で0.3以下とする。冷却速度は、10℃/秒以上とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、屈折率異方性によって入射偏光を変換する光学素子であり、互いに垂直な主軸方向に振動する直線偏光成分を透過して、これらの間に所定の位相差を与える。位相差フィルムの使用量は、液晶ディスプレイの薄型化、軽量化、大型化、さらには高精細化などに伴って増加しており、位相差フィルムに対する生産量増大の要求が高まっている。
【0003】
位相差フィルムの製造方法には、基材上に光学的異方性層を形成する方法や、高分子フィルムを延伸する方法などがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材上に液晶性化合物を含む層を形成した後、この層に液晶配向能を有する配向基板を接触させて、層中の液晶性化合物を配向させることにより、位相差フィルムを製造する方法が記載されている。配向基板には、基材上に液晶配向能を有する配向膜を設けたものが用いられる。
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、光学的異方性層を形成するために、上記のような配向基板を準備することが必要となる。また、配向基板が接触した際に配向膜が剥がれると、剥がれた配向膜が位相差フィルム中に異物となって残るおそれがある。さらに、配向処理の方法として一般に用いられているラビング法は、配向膜の表面をラビング布で擦ることによって配向処理を施すものであるが、ラビング布に損傷があると、部分的な配向不良が生じて配向ムラとなり、位相差値にばらつきが生じる。こうした異物や配向ムラの発生は、位相差フィルム製造工程での歩留まりを低下させる結果となる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−258613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、配向基板を準備しなくても光学的異方性膜を形成することができ、配光ムラの少ない位相差フィルムの製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、基材の一方の面に液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層を前記感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱する工程と、
前記感光性層を前記加熱をした状態から前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に冷却する工程と、
前記冷却後の感光性層に対して偏光を照射して光学的異方性膜とする工程とを有し、
前記冷却は、前記基材の前記感光性層が形成された面とは反対側の面に冷却ロールを接触させることにより行い、
前記基材の前記感光性層が形成されていない面の動摩擦係数が0.05以上で0.3以下であることを特徴とする位相差フィルムの製造方法に関する。
【0010】
本発明において、 前記冷却は、10℃/秒以上の冷却速度で行うことが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記冷却ロールの表面温度を15℃〜30℃とすることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記基材と前記冷却ロールとの抱き角度を45度以上で180度以下とすることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記加熱を輻射熱を用いて行うことが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記偏光を照射した後で、前記光学的異方性膜を加熱処理する工程を有することが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記光学的異方性膜を加熱処理した後で偏光または非偏光を照射することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、配向基板を準備しなくても光学的異方性膜を形成することができる。特に、本発明においては、基材の感光性層が形成された面とは反対側の面に冷却ロールを接触させて冷却するので、加熱処理工程に及ぼす影響を小さくすることができる。また、熱交換効率が高いので、冷却速度の向上を図ることができる。さらに、温度ムラが小さいので、位相差フィルム面内で位相差値にばらつきが生じるのを抑制できる。また、本発明は、基材の感光性層が形成されていない面の動摩擦係数を、0.05以上で0.3以下とするので、基材にシワが発生するのを最小限にして冷却することができ、位相差フィルムに傷が付くのを防ぐとともに、感光性層を均一に冷却して位相差フィルム面内で位相差値にばらつきが生じるのを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、特願2007−282157号において、下記の工程(1)〜(5)を有する位相差フィルムの製造方法を提案した。
(1)基材の表面および裏面のうちの少なくとも一方の面に、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を形成する工程
(2)感光性層を前記感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱する工程
(3)感光性層を加熱した状態から前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に急冷する工程
(4)急冷後の感光性層に対して偏光を照射して光学的異方性膜とする工程
(5)偏光が照射された光学的異方性膜を加熱処理する工程
【0018】
上記製造方法によれば、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層をこの化合物の等方相転移温度以上に加熱した後、ガラス相−液晶相転移温度以下に急冷するので、等方相にある化合物の分子配列を不規則な状態に固定できる。そして、この状態で偏光を照射することによって、特定方向の光反応を誘起し、これを契機として複屈折性を発現させるので、簡便に且つ量産性よく位相差フィルムを製造することができる。
【0019】
上記工程において、工程(3)の冷却速度が変わると、得られる位相差フィルムの位相差値に変化が現れる。このため、冷却速度を所定の値に制御することが重要となる。ここで、冷却方法としては、冷却された気体を送風ノズルから基材に吹き付ける空冷法が挙げられる。しかし、空冷法による場合には、直前の加熱処理工程に影響が及ばないよう配慮する必要がある。具体的には、加熱炉の方向に冷風が流れないようにするため、送風ノズルの角度や送風速度などが制限される。しかしながら、こうしたことは、冷却速度の低下を招き、所望の位相差値を有する位相差フィルムが得られないおそれがある。また、加熱処理工程に影響が及ばない範囲で送風速度を上げて冷却効率を高めようとしても、風圧で感光性層の表面が荒れてしまうおそれもある。さらに、空冷法は、対流ムラによる温度ムラが発生しやすく、位相差フィルムの面内で位相差値にばらつきが生じるおそれもある。
【0020】
そこで、本発明者は、冷却ロールを用いた冷却によればよりよい冷却が行えると考え、これを実施するために基材の動摩擦係数について検討した。以下、本発明による位相差フィルムの製造方法について詳述する。
【0021】
本発明で用いられる基材としては、ロール状に巻回された状態で保持でき、繰り出しや巻き取りが可能な高分子フィルムが好ましく用いられる。
【0022】
高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系ポリマー、ポリスチレンおよびアクリロニトリル・スチレン共重合体などのスチレン系ポリマー、ビスフェノールA・炭酸共重合体などのポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン・プロピレン共重合体などの直鎖または分枝状ポリオレフィン、ポリノルボルネンなどのシクロ構造を含むポリオレフィン、塩化ビニル系ポリマー、脂肪族および芳香族ポリアミドなどのアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、または、エポキシ系ポリマーなどが挙げられる。この内、本発明においては、冷却ロール表面に対する動摩擦係数(x)が0.05以上で0.3以下のものが用いられる。例えば、ポリエチレンテレフテレート(x=0.241)、ポリエチレンナフタレート(x=0.241)およびポリプロピレン(x=0.189)などが好適である。なお、動摩擦係数の測定方法は、実施例において詳述する。
【0023】
基材の厚さは、特に限定されないが、通常、高分子フィルムであれば10μm〜300μmである。
【0024】
基材は、位相差フィルムを作製した後に剥離して除去してもよく、また、基材自身が透明で光学的に等方性であれば剥離しないでそのまま位相差フィルムとして使用することもできる。尚、高分子フィルムにおいては、後述する感光性組成物に侵されないようにするため、表面に保護層を設けてもよい。また、基材には易接着層などを設けてもよい。
【0025】
本発明における「液晶性を発現し得る感光性化合物(以下、単に「感光性化合物」ということがある。)」としては、感光性基を有する液晶性重合体若しくは液晶性低分子化合物またはこれらの混合体などを挙げることができる。ここで、感光性基とは、光照射により他の分子と結合する官能基をいう。感光性化合物は、感光性基を有さない液晶性化合物や、液晶性を損なわない程度の非液晶性低分子化合物との併用が可能である。非液晶性低分子化合物としては、配向性を向上させるための配向助剤や、耐熱性を向上させるための架橋剤などが挙げられる。感光性化合物として、感光性基を有する液晶性重合体を用いた場合には、その液晶性を損なわない程度に非液晶性の単量体を共重合させることができる。
【0026】
感光性基を有する液晶性重合体としては、例えば、液晶性高分子のメソゲン成分として多用されているビフェニル基、ターフェニル基、フェニルベンゾエート基またはアゾベンゼン基などの置換基と、シンモナイル基、カルコン基、シンナミリデン基、β−(2−フリル)アクリロイル基、ケイ皮酸基またはこれらの誘導体基などの感光性基とを結合した構造を含む側鎖を有し、アクリレート、メタクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミドまたはシロキサンなどの構造を主鎖に有する高分子を用いることができる。この重合体は、同一の繰り返し単位からなる単一の重合体であってもよく、構造の異なる側鎖を有する単位の共重合体であってもよい。さらには、感光性基を含まない側鎖を有する単位を含む共重合体とすることもできる。
【0027】
上記の感光性基を有する液晶性重合体には、感光性基を有する液晶性低分子化合物を混合することができる。例えば、メソゲン成分として多用されているビフェニル基、ターフェニル基、フェニルベンゾエート基またはアゾベンゼン基などの置換基を有し、このメソゲン成分と、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基若しくはケイ皮酸基またはこれらの誘導体などの官能基を、屈曲性成分を介して、または、屈曲性成分を介さずに結合した液晶性化合物を混合することができる。
【0028】
液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を基材の上に形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、感光性化合物に、所望により溶剤やその他の成分を加えた塗布液を塗布する方法が挙げられる。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、グラビア印刷法、ディップコート法、ナイフコート法、ダイコート法、またはスプレーコート法などを挙げることができる。本発明においては、これらの方法を用いて塗布液を基材の片面にのみ塗布する。尚、塗布性を向上させるために、溶剤を用いた場合には、塗布後に乾燥させて溶剤をある程度まで除去しておくことが好ましい。但し、この工程は必ずしも独立した工程である必要はなく、次に述べる等方相転移温度以上に加熱する工程と一緒にしてもよい。また、塗布膜の厚さ(乾燥後)は、0.3〜30μmが好ましく、0.5〜20μmがより好ましい。
【0029】
基材の上に感光性層を形成した後は、液晶相から等方相に転移する温度(等方相転移温度)以上に加熱して、感光性化合物を等方性の相にする。例えば、感光性基を有する液晶性重合体と液晶性低分子化合物との混合体からなる組成物の場合、等方相にすると、重合体の側鎖部や低分子化合物は、特定の方向を向かずに各々が無秩序な方向を向いた状態となる。
【0030】
本発明においては、上記の加熱方法として、温風を吹き付ける方法や、遠赤外線ヒータなどを用いた輻射熱によって加熱する方法などが挙げられる。特に、冷却工程に熱の影響が及ぶおそれを低減できることから、輻射熱によって加熱する方法が好ましい。
【0031】
上記の加熱工程で等方相にした後、この相の温度を下げていくと、組成物は、等方相から液晶相を経てガラス相へと変化する。すなわち、組成物の温度が、等方相転移温度より低くなると液晶相になり、さらに、ガラス相−液晶相転移温度以下になるとガラス相になる。このとき、等方相である組成物をガラス相−液晶相転移温度以下まで急冷すると、組成物を構成する重合体や低分子化合物は、分子配列に明確な規則性を有しない状態で動きが固定される。例えば、100℃で等方相にある組成物を、6秒以内に50℃まで急冷してガラス相にすると、分子配列を不規則な状態で固定することができる。本発明においては、冷却速度を10℃/秒以上とすることが好ましく、20℃/秒以上とすることがより好ましい。冷却速度が10℃/秒より小さくなると、局所的に規則的な分子配列が存在するおそれがあり、これによって位相差フィルムの品質が低下することがある。
【0032】
本発明においては、上記の冷却工程に冷却ロールを用いる。具体的には、温度制御可能な冷却ロールを、基材の感光性層が設けられた面とは反対側の面に接触させる。この方法によれば、加熱処理工程に影響が及ぶおそれを排除することができる。また、空冷法に比べて熱交換効率が高いので、冷却速度の向上を図ることができる。さらに、ロールを回転させながら冷却するので、温度ムラを防ぐことができ、位相差フィルム面内で位相差値にばらつきが生じるのを抑制できる。
【0033】
冷却ロールとしては、内部に冷却水を通し、ロールに接している基材から熱を奪う仕組みのものを用いることができる。例えば、パイプ状のロールに中空軸付の蓋を取り付け、一方の軸部から冷却水を供給し、他方の軸部から排出する構造のものを挙げることができる。また、ロールの内部にスパイラル構造の冷却水パイプを設け、ロール表面の温度が均一になるように構成したものであってもよい。温度調整の方法としては、例えば、ロール表面に取り付けた温度センサによって、ロール表面の温度を検出して冷却水の流量を調節する方法などが挙げられる。
【0034】
冷却ロールの表面温度は、15℃〜30℃とすることが好ましい。温度が30℃を超えると冷却速度が遅くなる。一方、温度が15℃より低くなると、ロール表面で結露しやすくなり、凝縮した水が基材や感光性層に付着するおそれが生じる。
【0035】
本発明においては、冷却ロールの表面で基材が滑らかに動けるようにする必要がある。このため、基材の感光性層が形成されていない面の動摩擦係数が0.05以上で0.3以下であることを要する。動摩擦係数が大き過ぎると、基材にシワが発生するおそれがある。例えば、基材の一部分でも平滑に動かないところがあると、そこを起点として基材にシワが発生する。一方、動摩擦係数が小さ過ぎると、基材が冷却ロールの表面で滑りすぎ、これらの間に空気が入ることによって、冷却効率が低下する。また、基材の感光性層が形成されていない面の冷却ロール表面に対する動摩擦係数を、0.05以上で0.3以下とすることが好ましい。尚、動摩擦係数の値は、ライン速度によって変化するが、通常使用されるライン速度(0.5m/分以上)であれば、動摩擦係数を上記範囲とすることで、基材にシワが発生するのを最小限にして冷却することが可能となる。
【0036】
上述したように、等方相にある感光性層を急冷すると、感光性層を構成する分子の配向を無秩序な状態に固定することができる。例えば、側鎖に感光性基を有する液晶性重合体と液晶性低分子化合物との混合体からなる組成物の場合、重合体の側鎖部や低分子化合物は、特定の方向を向かない状態で動きが固定される。以下では、この組成物を例にとり説明する。
【0037】
ガラス相において、無秩序に共存している感光性基を有する液晶性の重合体の中には、その長軸(感光性基の分極方向)が、照射光の光路軸および電界振動方向の双方に対してともに平行となっているものがあり、このような配置の重合体の側鎖は、他の配置にある感光性基に比べて高い光反応性を有する。それ故、急冷後の組成物の重合体の長軸に平行な偏光を照射すると、長軸が当該直線偏光に平行な重合体間で選択的に二量化反応が起こる。ここで、本発明における偏光とは、次式で表わされる偏光度が50%を超えるものをいう。
偏光度={完全偏光成分/(完全偏光成分+非偏光成分)}×100(%)
【0038】
二量化反応により分子量が大きくなった重合体は配向が固定され、その結果、組成物は光学的異方性を有する膜(光学的異方性膜)となる。尚、この光反応を進めるには、感光性基の部分が反応し得る波長の光を照射することが必要となる。この波長は、感光性基の種類によっても異なるが、一般には、200nm〜500nmであり、中でも250nm〜400nmの領域の光に高い感光性を有する場合が多い。
【0039】
偏光を照射した後、光反応を起こさなかった重合体の側鎖部と、低分子化合物とは、光反応を起こした側鎖と同じ方向に分子運動によって配向する。これにより、膜全体において、未反応の感光性の重合体の液晶性側鎖部および低分子化合物が、光反応を起こした液晶性を有する側鎖と平行方向に配向して、位相差が誘起される。尚、位相差を効率よく誘起するには、感光性基を有しない側鎖を含有させ、光反応点の密度を下げることによって、再配向時の分子運動の自由度を上げてもよい。
【0040】
上記の偏光照射の際には、基材に対し斜め方向から偏光を照射することにより、光軸を任意に傾斜させて配向させることが可能となる。したがって、この方法によれば、光軸を所望の方向に設定した位相差フィルムが得られる。
【0041】
本発明においては、偏光を照射した後で、膜を加熱処理することが好ましい。これにより、偏光を照射した後の分子運動による配向を促進できる。この場合の加熱温度は、光反応した部分の軟化点より低く、光反応しなかった側鎖と低分子化合物の軟化点より高いことが好ましい。
【0042】
さらに、本発明においては、配向を固定するために、偏光照射後の加熱処理を行った後に、偏光または非偏光(好ましくは偏光)を照射するのがよい。
【0043】
図1(a)は、加熱部および冷却部を備えた装置内で基材を搬送しながら位相差フィルムを製造する方法を示している。この図の例では、基材として、ロール状に巻回された高分子のフィルム2を用い、繰り出しロール1からフィルム2を繰り出して矢印の方向に搬送する。まず、塗布部3において、フィルム2の上に、液晶性を発現し得る感光性化合物を塗布する。この場合の塗布方法としては、例えば、グラビア印刷法を挙げることができる。次いで、乾燥部4で溶剤を除去した後、遠赤外線ヒータ(図示せず)が設けられた加熱部5の中にフィルム2を送って、感光性層を加熱する。このとき、加熱部5の温度は、感光性化合物の等方相転移温度以上に設定しておく。一方、加熱部5には隣接して冷却部6が設けられており、加熱部5から送り出されたフィルム2の感光性層が形成されていない面に冷却ロール105が接触することにより、感光性層を急冷することができる。
【0044】
図1(a)では、冷却部6に連続して、偏光照射部12、加熱・徐冷部13および偏光または非偏光照射部14が連続して設けられている。偏光照射部12では、フィルム2に対して斜めの方向から偏光15が照射される。また、偏光または非偏光照射部14では、同じ方向から偏光または非偏光16が照射される。組成物は、これらの工程を経て位相差フィルムとなる。その後、巻き取りロール17に巻き付けられた状態となって回収される。尚、偏光および非偏光は、図1(a)に示すように、フィルム2の片面側からのみ照射してもよいが、両面側から照射することもできる。
【0045】
本実施の形態において、フィルム2の感光性層が形成されていない面の冷却ロール105の表面に対する動摩擦係数は、0.05以上で0.3以下とするのが好ましい。また、フィルム2と冷却ロール105との接触面積が大きいほど冷却効率が向上することから、図1(b)に示すように、フィルム2と冷却ロール105との抱き角度θは、45度以上で180度以下とするのが好ましい。
【0046】
以上述べたように、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層をこの化合物の等方相転移温度以上に加熱した後、ガラス相−液晶相転移温度以下に冷却することにより、等方相にある化合物の分子配列を不規則な状態に固定できる。そして、この状態で偏光を照射して特定方向の光反応を誘起し、これを契機として複屈折性を発現させるので、配向基板を準備しなくても光学的異方性膜を形成することができ、また、光軸を任意に傾斜させて配向させることが可能となる。特に、本発明では、上記の冷却を、基材の感光性層が形成された面とは反対側の面に冷却ロールを接触させて行うので、空冷法に比べて、加熱処理工程に及ぼす影響を小さくすることができる。また、空冷法より熱交換効率が高いので、冷却速度の向上を図ることができる。さらに、空冷法に比べて温度ムラが小さいので、位相差フィルム面内で位相差値にばらつきが生じるのを抑制できる。また、本発明は、基材の感光性層が形成されていない面の冷却ロール表面に対する動摩擦係数を、0.05以上で0.3以下とするので、基材にシワが発生するのを最小限にして冷却することができる。
【0047】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0048】
以下に、本発明の実施例と比較例を述べる。尚、動摩擦係数の測定は、次に示す方法で行った。
【0049】
図2に示す装置を用い、基材201の一端をロードセル202に取り付けるとともに、他端に重り203を吊るし、試験ロール204に基材201を接触させた。そして、試験ロール204を停止させて状態で、基材201にかかる張力(T)をロードセル202で測定した。次に、試験ロール204を回転させながら、同様にして基材201にかかる張力(T′)を測定した。得られた値から、オイラーのベルト理論式
μ=ln(1+ΔT/T)/θ
を用いて、有効摩擦係数(動摩擦係数)を算出した。但し、μ:有効摩擦係数(動摩擦係数)、T:試験ロール静止時に基材にかかる張力(N/m)、ΔT:張力増分(=T′−T、T′はロール回転時に基材にかかる張力(N/m))、θ:抱き角度(rad)である。また、試験ロール204としては、ステンレス製で、表面粗さRa(JIS B0601)0.3μm、半径0.06m、長さ(幅)350mmのものを用いた。また、抱き角度θはπ/2(rad)、試験ロール204の回転速度は1.6m/分とした。
【0050】
実施例1
基材として、片面に易接着処理がされたポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製:商品名PET100A−4100、厚さ100μm)を、幅300mmで長さ100mとしてロール状に巻回されたものを用いた。この基材の易接着処理面における動摩擦係数は0.21であった。
【0051】
繰り出しロールから基材を繰り出しながら、グラビア印刷によって、基材の易接着面と反対側の面に、液晶性を発現し得る感光性化合物として林テレンプ株式会社製の光配向材(商品名:HTA−20)を塗布し、110℃で1分間乾燥して、約2μmの厚さの塗布膜(感光性層)を形成した。尚、用いた光配向材の等方相転移温度は100℃、ガラス相−液晶相転移温度は40℃である。
【0052】
次に、遠赤外線ヒータを用いて、塗布膜を110℃で30秒間加熱した。その後、遠赤外線ヒータから出た基材の感光性層が設けられた面とは反対側の面に冷却ロールを接触させた。冷却ロールは、前述した試験ロール204と同じものを用いた。冷却ロールの表面温度は18℃とし、塗布膜を30℃まで冷却した。このときの冷却速度は、29.0℃/秒であった。また、冷却ロールと基材の抱き角度は90度とした。
【0053】
次に、基材に対し、感光性層が形成された面の側から偏光を照射した。具体的には、ハリソン東芝ライティング株式会社製の紫外線照射装置(製品名:HCM−96011S−DM)を用い、ブリュースター角の原理を適用して、完全偏光成分と非偏光成分からなる偏光度85%の紫外線(90mJ/cm)を照射した。光路軸および電界振動方向は基材の流れ方向に平行になるように設定した。尚、ブリュースター角については、「初等物理シリーズ8、光と電波、培風館」に記載されており、偏光度={完全偏光成分/(完全偏光成分+非偏光成分)}×100(%)である。
【0054】
偏光を照射した後は、塗布膜を110℃まで加熱し30秒間保持して加熱処理を行った後、10分間かけて室温(25℃)まで冷却した。さらに、配向を固定するために、基材に対し、感光性層が形成された面の側から非偏光の紫外線を500mJ/cmを照射した。照射には、上記と同様に、ハリソン東芝ライティング株式会社製の紫外線照射装置(製品名:HCM−96011S−DM)を用いた。得られた位相差フィルムを、再びロールに巻き取った。
【0055】
作製した位相差フィルムの位相差値の測定は、次のようにして行った。
【0056】
まず、厚さ20μmのアクリル系粘着剤層を介して、トリアセチルセルロースフィルム(リンテック株式会社製:商品名CHC-TAC80E1K、厚さ80μm)に貼合した。アクリル系接着剤層としては、アクリル酸ブチルとアクリル酸(質量比99:1)の共重合体で重量平均分量60万のものを用いた。次に、基材を除去して、200mm×1000mmの大きさに裁断し、任意の10点の位相差を王子計測機器株式会社製の位相差測定装置(製品名:KOBRA−WR)を用いて測定した。尚、測定波長は589nmとし、10点の平均値を位相差とした。また、平均値から最も離れた測定値と平均値との差を位相差のばらつきとした。その結果、位相差値は125nmであり、ばらつきは1nmであった。
【0057】
また、位相差フィルムを目視で観察したところ、シワの発生は見られなかった。
【0058】
さらに、位相差フィルムの試験片をつや消し黒色に塗装した板上に静置し、蛍光灯下で反射法により目視観察して、塗膜表面の平滑性を評価した。その結果、得られた位相差フィルムの表面平滑性は良好で実用に耐え得るものであった。
【0059】
実施例2
冷却ロールの表面温度を25℃とし、冷却速度を15.5℃/秒とした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。これについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
実施例3
冷却ロールと基材の抱き角度を60度とし、冷却速度を19.0℃/秒とした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。これについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
実施例4
基材にポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製:商品名PET100Tトウレ、厚さ100μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。尚、この基材の動摩擦係数は、両面ともに0.24であった。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
実施例5
基材にポリプロピレンフィルム(リケンテクノス株式会社製:商品名CPP100FP(NAT)M、厚さ100μm)を用いて以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。尚、この基材の動摩擦係数は、両面ともに0.19であった。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
比較例
基材にトリアセチルセルロースフィルム(リンテック株式会社製:商品名CHC−TAC80E1K、厚さ80μm)を用いて以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。尚、この基材の動摩擦係数は、両面ともに0.54であった。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の評価を行ったところ、位相差値のばらつきが大きい上に、シワや表面の凹凸も見られ、実用に耐え得るものではなかった。結果を表1に示す。
【0064】
表1

*PET:ポリエチレンテレフタレート
*PP:ポリプロピレン
*TAC:トリアセチルセルロース

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は、本実施の形態における位相差フィルムの製造方法を示す図であり、(b)は冷却ロールとフィルムの抱き角度の説明図である。
【図2】実施例における動摩擦係数測定の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 繰り出しロール
2 フィルム
3 塗布部
4 乾燥部
5 加熱部
6 冷却部
12 偏光照射部
13 加熱・除冷部
14 非偏光照射部
15 偏光
16 非偏光
17 巻き取りロール
105 冷却ロール
201 基材
202 ロードセル
203 重り
204 試験ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層を前記感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱する工程と、
前記感光性層を前記加熱をした状態から前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に冷却する工程と、
前記冷却後の感光性層に対して偏光を照射して光学的異方性膜とする工程とを有し、
前記冷却は、前記基材の前記感光性層が形成された面とは反対側の面に冷却ロールを接触させることにより行い、
前記基材の前記感光性層が形成されていない面の動摩擦係数が0.05以上で0.3以下であることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記冷却は、10℃/秒以上の冷却速度で行うことを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記冷却ロールの表面温度を15℃〜30℃とすることを特徴とする請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記基材と前記冷却ロールとの抱き角度が45度以上で180度以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記加熱は、輻射熱を用いて行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記偏光を照射した後で、前記光学的異方性膜を加熱処理する工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記光学的異方性膜を加熱処理した後で偏光または非偏光を照射する工程を有することを特徴とする請求項6に記載の位相差フィルムの製造方法。



【図1】
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【図2】
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