説明

位相差計測システムおよび位相差計測方法

【課題】位相差を計測しようとする2点の入力波形の周波数が変動する場合であっても、2点間の交流電気量の位相差をこれらの2点間を互いに電気的に接続しないでも正確に計測することができる位相差計測システムおよび位相差計測方法を提供する。
【解決手段】互いに離れた2点間の交流電気量の位相差を計測する場合に、その2点にそれぞれ計測器を設置し、GPS信号により互いに時刻同期させた基準波形とGPS信号から取得された時刻とを用い、それぞれ同一時刻に、その基準波形の立ち上がりと交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測し、これらの時間差と時刻とを計測器間で相互に伝送し、これらの時間差の差から演算することによりこの2点間の交流電気量の位相差を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位相差計測システムおよび位相差計測方法に関し、特に、互いに離れた2地点間の位相差をこれらの地点間を互いに電気的に接続しないで計測する場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な位相計で電圧や電流などの交流電気量の位相差を計測するためには、一方の波形を基準として他方の波形との時間軸上の相対的な時間のずれ(時間差)を位相差に置き換えている(例えば、非特許文献1参照。)。例えば、図11に示すように、入力波形A、Bの時間差を求めることにより入力波形Bに対する入力波形Aの位相差を求め、入力波形Aは入力波形Bに対して○○[°]進んでいるとする。
【非特許文献1】[平成19年3月7日検索]、インターネット〈URL:http://www.soukou.co.jp/pf15a.htm 〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、交流電気量の位相差を計測する2地点間を互いに電気的に接続せずに位相差を計測しなければならない場合には、一方の波形を基準として他方の波形との時間差を求めることにより位相差を求めることはできない。この場合、2地点間の位相差を求めるには、時間軸上に2地点共通の基準となる波形を用意すればよいことになる。
ところが、例えば、交流電気量が商用電源により供給される電圧である場合、商用電源の周波数は50±1[Hz]の変動があるとされており、本発明者らの実測においてもそのような変動が確認されている。このように入力波形の周波数が変動し、基準波形と入力波形との周波数が互いに異なる場合は、基準波形との位相差は時間経過とともに常に変化することとなる。すなわち、図12Aに示すように、ある時刻では基準波形と入力波形との時間差がAであっても、ある時間が経過した後には、図12Bに示すように、基準波形と入力波形との時間差はB(≠A)となる。具体的には、例えば、仮に基準波形の周波数50[Hz]に対して、入力波形の周波数が49[Hz]であれば、1/4秒経過する毎に位相差は90[°]変化し、1秒を経過すると360[°]変化することになる。
【0004】
従って、入力波形の周波数が変動する場合は、計測から位相差の相互伝送、位相差比較までをリアルタイムで処理しなければらないことになるが、伝送の遅延などを考えると伝送をリアルタイムで実現するのは困難である。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、位相差を計測しようとする2点の入力波形の周波数が変動する場合であっても、2点間の交流電気量の位相差をこれらの2点間を互いに電気的に接続しないでも正確に計測することができる位相差計測システムおよび位相差計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、第1の発明は、
互いに離れた2点間の交流電気量の位相差を計測する位相差計測システムであって、
上記2点でそれぞれ同一時刻に、互いに時刻同期させた基準波形の立ち上がりと上記交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測し、これらの時間差の差から演算することにより上記2点間の交流電気量の位相差を求めるようにしたことを特徴とする位相差計測システムである。
【0006】
第2の発明は、
互いに離れた2点間の交流電気量の位相差を計測する位相差計測方法であって、
上記2点でそれぞれ同一時刻に、互いに時刻同期させた基準波形の立ち上がりと上記交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測し、これらの時間差の差から演算することにより上記2点間の交流電気量の位相差を求めるようにしたことを特徴とする位相差計測方法である。
【0007】
第1および第2の発明において、好適には、上記の2点の基準波形はGPS(Global Positioning System)信号により互いに時刻同期させたものであり、上記の時刻はGPS信号から取得した時刻であるが、これに限定されるものではなく、他の方法により得られる基準波形および時刻であってもよい。典型的には、上記の2点にそれぞれ計測器が設けられ、これらの計測器でそれぞれ同一時刻に、互いに時刻同期させた基準波形の立ち上がりと交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測して保存し、これらの時間差のデータを計測器間で相互に伝送して同一時刻の2点間の時間差の差から演算することによりこれらの2点間の交流電気量の位相差を求めるが、これに限定されるものではない。これらの時間差のデータの伝送には各種のデータ通信サービス(あるいは無線パケットデータ通信サービス)を用いることができる。交流電気量は、典型的には電圧、電流などであるが、例えば、材料や構造などの振動波を電気信号に変換したものなどであってもよい。
【0008】
この位相差計測システムおよび位相差計測方法は各種の交流電気量の位相差の計測に適用することができるが、例えば、鉄道分野への応用例を挙げると、上記の2点は鉄道沿線の自動信号高圧配電線路の1回線区間の2地点であり、交流電気量はこの2地点のそれぞれ外方に設けられた配電室から供給される電源電圧、特に商用電源の電圧である。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、互いに離れた2点でそれぞれ同一時刻に、互いに時刻同期させた基準波形の立ち上がりと交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測し、これらの時間差の差から演算することによりその2点間の交流電気量の位相差を求めるようにしているので、位相差を計測しようとする2点の入力波形の周波数が変動する場合であっても、2点間の交流電気量の位相差をこれらの2点間を互いに電気的に接続しないでも正確に計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の一実施形態による位相差計測システムおよび位相差計測方法について図面を参照しながら説明する。
まず、この位相差計測システムおよび位相差計測方法の原理について説明する。
この位相差計測システムおよび位相差計測方法では、交流電気量の位相差を計測しようとする2地点それぞれで同一時刻に基準波形の立ち上がりとこの交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測して保存する。例えば、図1AおよびBに示すように、A地点およびB地点にそれぞれ設けられた計測器により同一時刻に基準波形と入力波形との時間差A、Bをそれぞれ計測して保存する。そして、計測時刻とA地点およびB地点でそれぞれ計測した時間差データとを相互に伝送することにより同一時刻のA地点の時間差AとB地点の時間差Bとを比較してその差を用いて演算し、位相差を算出する。この結果、例えば、入力波形Aは入力波形Bに対して△△[°]進んでいることがわかる。基準波形は、例えば、GPSからの同期の取れたパルス(例えば、1秒パルス)、時刻もまたGPSから取得した時刻を採用するが、これに限定されるものではない。
【0011】
具体的な計測処理は次の通りである。
基準波形としてはGPS受信機から出力される1秒間隔のパルスを用いる。計測時刻の情報もGPSからの時間情報を用いる。
計測のタイミングは、あらかじめ決めたA地点の計測器とB地点の計測器とに共通の時刻で、かつ基準波形の立ち上がりで計測を開始する。これらの計測器が同一時刻の計測により得た10回分の時間差を互いに相手の計測器に伝送する。
具体的には、図2に示すように、A地点で9:05:00に計測された時間差をAt1、同様に9:05:01に計測された時間差をAt2、…、9:05:09に計測された時間差をAt10 とする。また、B地点で9:05:00に計測された時間差をBt1、同様に9:05:01に計測された時間差をBt2、…、9:05:09に計測された時間差をBt10 とする。そして、これらの計測された時間差データを相互に伝送する。
【0012】
伝送により得られた相手の計測器からの時間差データは、下記のように、同一時刻の時間差毎に差を求める。こうして得られた10個の計測器間の時間差のうち、最新データをA地点およびB地点間の時間差とする。
A地点の計測器の時間差の算出を例に取って説明する。
A地点の計測器の計測データは下記の通りである。
データ1 9:05:00の時間差At1
データ2 9:05:01の時間差At2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
データ10 9:05:09の時間差At10
B地点の計測器からの受信データは下記の通りである。
データ1 9:05:00の時間差Bt1
データ2 9:05:01の時間差Bt2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
データ10 9:05:09の時間差Bt10
この場合、A地点の計測器の計測データ10の時間差At10 とB地点の計測器から受信されるデータ10の時間差Bt10 との差、すなわちAt10 −Bt10 がA地点およびB地点間の時間差となる。
【0013】
時間差を位相差の単位に変換するのは、計測器間時間差が得られた後になる。位相差への変換は具体的には次のように行う。
360[°]÷1[sec]÷使用周波数[Hz]×計測器間時間差=計測器間位相差[°]
【0014】
〈実施例〉
位相差計測システムの実施例について説明する。
この位相差計測システムでは、互いに離れた2地点間の電源位相差を計測・表示する。位相差が一定以上となった場合、警報鳴動および表示により計測者に知らせる。
また、位相の計測は、GPS信号を受信し、時刻同期させた1[パルス/s]([PPS])の基本波形の立ち上がりと計測電気量の立ち上がりゼロクロスとの位相差を算出し、その位相差データを相互に伝送し合う。送信したデータと受信したデータとを比較し、2地点間の位相差を表示する。
【0015】
この位相差計測システムの仕様は下記の通りである。
・サイズ:204×304×180[mm]
・通信方式:マスター、スレーブ方式(各々切替スイッチあり)
ただし、設定値はマスターの設定値がスレーブでも有効となる。
・電源、計測入力:AC100±20%[V]
電源ケーブル(コンセントプラグ):装置電源、計測入力共用
・通信:DoPa(株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモの登録商標、以下においては単に「登録商標」という)
・GPS:1[μs]精度
・アンテナ:DoPa(登録商標)用、GPS用(外部据置、三脚に取り付け)
・位相差表示:±○○○.○°(−179.9〜+180.0[°])
(相手側計測器に対する相対位相差表示)
・記録内容:時分秒,±°,E→○○○○○○,±○○○.○,○○(16[B])
16B×24時間×60=23[kB/日](1分記録間隔)
ただし、Eはエラーコードであり、16進数2桁(最大1F)とし、2進数に直して8桁で、5つの警報(下記の記録媒体以外)を各1[bit]使用し、下5桁ビット以外は不使用
・記録媒体:コンパクトフラッシュ(登録商標)カード(CFカード)(128[MB])、SDメモリカード、メモリスティックなどのメモリ
内部メモリ(64[kB])
・表示
・警報ランプ
・7セグメントLED:時刻、位相差
・状態LEDランプ:マスター
・警報種別LEDランプ:警報、接近、電源断、通信断、GPS、CFカード
・無線パケット通信端末(あるいはユビキタスモジュール)の表示:電源、通信中、圏内、電波強度表示
・スイッチ
・スライドSW:電源ON/OFF
・デジタルSW:計測間隔、接近設定
デジタルSW番号対応表を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
・トグルSW(オルタネート):マスター/スレーブ、計測モード通信/非通信、
電源ON/OFF、警報音ON/OFF
計測モードに関わらず、停電から復電後、自動的に計測開始となる。
・トグルSW(モーメンタリ):表示上/下
・プッシュSW(オルタネート):計測開始/終了、内部ランプ点灯機能付
・プッシュSW(モーメンタリ):警報停止、フリッカ停止
・警報器:DC5V圧電ブザー
・警報鳴動:警報、接近、電源断、GPS、通信断
ただし、接近のみ鳴動断続
・使用温度範囲:−20〜50[℃]
・警報出力端子(DC100V用無電圧接点)
・警報
・接近
・電源断、GPS、通信断
ただし、操作なしで復帰条件成立で自動復帰する。位相差計測システム自体は警報表示が残る。
【0018】
この位相差計測システムの機能および操作方法について説明する。
計測開始後、2地点の計測器間で、GPSの1[PPS]で生成した基本波形との時間差を設定時間間隔で相互に伝送し、同時刻の受信データと比較し、最新の比較結果データを位相差として表示する。
電源ON後、無線パケット通信端末(あるいはユビキタスモジュール)の電源ランプが点灯する。その後、マスターの場合はマスターランプが点灯し、スレーブの場合はマスターランプが消灯する。そして、位相差表示部にCFカードなどのメモリの容量[MB]が表示され、時刻カウントが開始される。
GPSから正常に1PPSが出力されると、1PPS故障表示が消灯する。
計測開始/終了ボタンが点滅した状態が計測待機状態となる。
計測待機状態で、マスター、スレーブともに計測開始/終了ボタンを押下すると、計測・記録を開始する。この際、計測開始/終了ボタン自体が点灯する。
計測中の状態で、計測開始/終了ボタンを押下で、計測・記録を終了する。この際、計測開始/終了ボタン自体が消灯する。
電源OFF後、10分以内に電源ONすると、アイドリング時間が省略できる。
ただし、電源投入後、5秒以内に電源を切らないようにする。故障を防止するためである。
【0019】
計測データは、内部メモリおよびCFカードなどのメモリへ計測間隔毎に同時に保存する。
内部メモリのデータは計測終了時、停電時、2次電源で5秒間電源を保持している間に書き込み終了した後、CFカードなどのメモリへ書き込みを行ってからシャットダウンする。
記録表示は内部メモリに記録されたデータを表示する。
最大記録時間はカード128[MB]で約5925日間(1分記録間隔の場合)、内部メモリ64[kB]で約2.9日間(1分記録間隔の場合)である。
CFカードなどのメモリの記録はCSVファイル形式で保存する。設定値も含む。
ファイル名は計測開始日(年月日)が識別可能とする。
記録フォーマットは次の通りである。
時分秒、±°,E→○○○○○○,±○○○.○,○○(16[B])
ただし、Eはエラーコードである。
【0020】
記録データ表示操作については、トグルSWを上に倒すと新順、下に倒すと旧順に記録データを表示する。例えば、2秒以上倒し続けると10倍速で移動する。
警報については次の通りである。
(1)計測間隔1秒の場合
位相差を毎秒監視し、警報設定値以上となった場合、フリッカするとともに、警報鳴動し警報ランプが点灯する。
(2)計測間隔10秒未満(1秒以外)の場合
位相差表示より設定秒前から位相差を毎秒監視し、3回連続で警報設定値以上となった場合、フリッカするとともに、警報鳴動し警報ランプが点灯する。
(3)計測間隔10秒以上の場合
位相差表示より10秒前から位相差を毎秒監視し、3回連続で警報設定値以上となった場合、フリッカするとともに、警報鳴動し警報ランプが点灯する。
【0021】
位相差が接近設定範囲内に入った場合、フリッカするとともに、警報が断続的に鳴動し警報ランプが点灯する。
通信の遮断については、互いにデータ送信後、相手からの応答がないことを条件に、再送回数繰り返してもなお応答がない場合、フリッカするとともに、警報鳴動し警報ランプが点灯する。
電源の遮断については、計測中に停電した場合、フリッカするとともに、5秒後にシャットダウンし、2次電池により5秒間警報鳴動させる。5秒以内に警報停止ボタンを押すと警報鳴動停止となり、シャットダウンする。
無人計測時には、復電後に自動的に計測開始となる。ただし、2秒以内の場合は瞬間停電扱いとし、警報無発報とする。
GPSが正常に受信できない状況の場合、フリッカする。また、警報鳴動し警報ランプが点灯する。
CFカードなどのメモリの未挿入および認識が失敗した場合、フリッカする。また、CFカードなどのメモリの記録空き容量が不足および、CFカードなどのメモリの不良の場合、フリッカする。なお、どちらの場合も計測は継続するが記録はできない。
【0022】
警報発生時は、警報が鳴動するとともに警報ランプ点灯、警報種別LEDランプがフリッカする。
警報停止ボタン押下で警報鳴動停止となる。
フリッカ停止ボタン押下で警報ランプが消灯し、警報種別LEDランプのフリッカが点灯に変わる。以降、警報発生原因が解消されれば、自動的に警報種別LEDランプが消灯し、正常状態に復帰する。
無人計測時には、警報出力端子から無電圧接点(DC100V用)で指令監視装置からの入力回路を開閉する。
表2に警報関係表示一覧を示す。
【0023】
【表2】

【0024】
各警報時の位相差表示について説明する。
警報については次の通りである。
警報発報時の位相差表示がフリッカし、フリッカ停止ボタンを押下でフリッカ停止となる。設定値未満となり警報解除となるまで保持し続け、フリッカ停止ボタンを押下中、最新表示となるものとする。
例:位相差10°で警報発報→位相差10°フリッカ表示
→フリッカ停止ボタン押下→位相差10°表示がフリッカ停止→(1)または
(2)
(1)位相差が9°に変化した場合→位相差9°表示(以降、正常に更新開始)
(2)位相差13°に変化した場合→(3)または(4)
(3)フリッカ停止ボタン押下しない→位相差10°表示を保持
(4)フリッカ停止ボタン押下中→位相差13°表示に更新
ただし、設定値は10°とする。
接近のときには正常に更新される。
通信遮断時には−−−表示となる。位相差を算出するデータがないことによる。
電源遮断時は「警報」と同様である。
GPSについては通信遮断時と同様である。
CFカードなどのメモリについては「接近」と同様である。
計測間隔、警報設定、接近設定などの各種設定の変更は、デジタルスイッチにより実現する。
【0025】
図3にこの位相差計測システムの計測器のブロック図を示す。マスター、スレーブともに同様とする。
図3に示すように、この計測器では、GPSアンテナ11によりGPS受信器12が受信するGPS信号はCPU13に送られる。このGPS信号から、時刻同期させた1PPSによる基本波形と時刻とが得られる。CPU13にはDoPa(登録商標)/無線パケット通信端末14が接続され、このDoPa(登録商標)/無線パケット通信端末14と接続されたアンテナ15によりDoPa(登録商標)網を介して位相差の伝送が行われるようになっている。CPU13により計測部16で位相差が計測される。CPU13には電源入力回路17を介してリレー架またはコンセントから電源100[V]が供給されるようになっている。また、CPU13により表示部18および警報部19が制御されるようになっている。CPU13はバッテリー20でバックアップされている。GPSアンテナ11およびアンテナ15を除く構成要素の全体は筐体に収納されている。
【0026】
この位相差計測システムにおけるデータ伝送の流れの一例を図4に示す。この例はマスターからスレーブへデータを送信する例である。図4に示すように、マスター21のアンテナ15からGPSの1PPS基本波形および計測電圧の位相差をDoPa(登録商標)網22に伝送し、アンテナ15により受信したこれらのデータをスレーブ23で比較して位相差を表示する。この位相差計測システムの使用者のサーバ24はLAN25を介して専用線によりDoPa(登録商標)網22と接続されている。
なお、スレーブ23も同様にマスター21に送信を行う。
【0027】
次に、この位相差計測システムおよび位相差計測方法を鉄道沿線の自動信号高圧配電線路(SHT)の1回線区間において配電線路が故障したときに、故障点への電源供給を行うことを可能とする方法について説明する。
鉄道沿線のSHTは、最重要負荷である信号設備などへの電力供給を行っている。これまで、SHT1回線区間において配電線路の地絡、短絡などの故障時には、故障点を区分するため、常用配電室側電源(常用電源)と予備配電室側電源(予備電源)とをオーバーラップ設備を設けた箇所で電源突き合わせを行っている。図5Aに示すように、SHTが正常な場合には、定位側配電室であるA配電室から反位側配電室であるB配電室に電源供給が行われるが、図5Bに示すように、SHT1回線区間で故障が発生した場合、故障点を系統から切り離すことでA配電室とB配電室とから電源を供給すること(「異電源突き合わせ」と呼ぶ)は可能であるものの、信号異現示(信号が正しく表示されないこと)の可能性があることから行われていない。
【0028】
しかしながら、本発明者らは、常用電源と予備電源とを受電点で電力会社から供給される電源の位相と極性を合わせておくことにより、オーバーラップ設備を設けない箇所でも異電源突き合わせを行い、常用閉そくを確保できる可能性を見出し、この方式の実現に向けて各種の計測・検証を行った。その結果について説明する。
〈異電源突き合わせ時の正常な信号現示の条件〉
上述のように、異電源突き合わせを行った場合には、信号異現示の危険性がある。そこで異電源でも正常な信号現示とすることができないか検討した結果、次の条件が満たされる必要があることがわかった。この条件は、SHT系統内のいかなる地点で異電源を突き合わせても、突き合わせた箇所における常用電源と予備電源との位相差が許容範囲内に保たれていること、である。ここで、「許容範囲内の位相差」とは、信号現示を決定するリレー特性から安全率を考慮して、両電源の電圧位相差が±10°以内と設定した。
【0029】
〈各配電室の電源同期状態の調査〉
この研究を行うにあたり、故障発生時に列車への影響が大きい函館配電室〜鷲別変電所を試験区間として選定した。試験区間の設備配置とSHT系統を図6に、計測結果を図7AおよびBに示す。
図7Aに示す計測結果から、大沼配電室以外の各配電室電源は60°の整数倍であることが判明した。これらを統一することで大まかな同期が取れることが推測された。大沼配電室については、電力会社のY−Δ巻線三相変圧器が設備されていることにより他の配電室とは30°位相差が発生することが判明した。
【0030】
〈位相調整の実施と実設備での信号現示の検証〉
上述のことより、大沼配電室にΔ−Y巻線三相変圧器を設備し他の配電室との同期を取ることとし、他配電室では受電点の結線振替による位相・極性の調整を行った。位相調整後の各配電室の電源位相差は図7Bに示すように1〜2°程度となり、推測通り「位相差±10°以内の位相差」を満たす結果を得ることができた。この結果を基に定位配電時と異電源突き合わせ時の信号現示の確認を実際の軌道回路にて行った。結果を表3に示す。表3に示すように、軌道リレーにおける各電圧値、位相差ともにほぼ変化はなく、信号現示も正常であった。
【0031】
【表3】

【0032】
〈位相差変化の長期監視と結果〉
これまで述べてきた検証結果は全て「ある瞬間」での状態であり、位相差は時間とともに変化する。このため、予備側配電室にて位相差の常時監視を行った。洞爺配電室での位相差変化計測結果のうち、特に変化量の大きいものを表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
〈監視方法の位相差計測原理〉
図8に示すように、GPSとDoPa(登録商標)とを利用したこの一実施形態による位相差計測システムおよび位相差計測方法による監視方法を用いた。
既に述べたように、一般的には、位相差を計測するためには、あらかじめ基準とする波形を決めておき、時間軸上のずれを計測する必要がある。しかしながら、いま考えている場合では、2地点間を電気的に接続せずに計測することから、一方の波形を基準として位相差を求めることはできない。従って、2地点間にある共通の基準点を設けることが必要となる。また、50Hzの波形情報を比較するためには、双方のシステムがμsecオーダーで時刻同期が取れていることが必須条件と言える。そこで、この2つの問題を解消するためにGPSの正確な時刻情報を利用することとした。
【0035】
具体的な計測処理の方法について説明する。まず、図9に示すGPSの1[PPS]を基準として、2つの計測点(A点、B点)各々で電圧波形との比較を行う。この時、GPSのパルスに最も近い電圧波形の立ち上がりゼロクロス時刻までの時間を計測する(図10参照)。
計測間隔はユーザー側で設定することができるが、その間隔に応じた計測データが蓄積された段階で、他方とDoPa(登録商標)を用いて送受信を行う。これを各計測器内で同一時刻のデータ毎に比較を行うことで、A点とB点間における電圧波形の時間差を求める。
以上の処理により得られた時間差を、次式に示す変換式に代入することで位相差を求めることができる。
360[°]÷1[sec]÷使用周波数[Hz]×計測器間時間差=計測器間位相差[°]
【0036】
〈原理確認試験〉
これまで述べてきた方法の実用性を検証するために確認用の装置を試作し、原理確認試験を行った。ここでは離れた2点でのGPSの時刻同期の精度など、位相差の計測誤差を確認した。位相差の演算は電力会社の商用電源の周波数が50Hzであることを前提にしているため、周波数の誤差も位相差誤差に直結する要因の一つである。電力会社で保証する周波数誤差±1Hzを加味した試験でも、位相差の計測誤差は最大0.1°程度という結果が得られた。
【0037】
〈まとめ〉
(1)各配電室で相と極性とを一致させることで、SHT故障時には異電源突き合わせにより正常な信号現示が確保できることを検証できた。
(2)(1)の運用時は常用電源と予備電源との同期状態を監視する必要がある。
(3)電気的に接続のない2点間での位相差を計測・監視する手法を確立した。
【0038】
以上のように、この一実施形態による位相差計測システムおよび位相差計測方法によれば、GPS信号により互いに時刻同期させた基準波形とGPS信号から取得された時刻とを用い、2地点でそれぞれ同一時刻に、基準波形の立ち上がりと電源電圧などの交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測し、これらの時間差の差から演算することによりその2地点間の交流電気量の位相差を求めるようにしているので、この2地点の交流電気量の周波数が変動する場合であっても、この2地点間の交流電気量の位相差をこれらの2地点間を互いに電気的に接続しないでも正確に計測することができる。
【0039】
以上、この発明の一実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた仕様、数値、構成、機能などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる仕様、数値、構成、機能などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の一実施形態による位相差計測システムおよび位相差計測方法の原理を説明するための略線図である。
【図2】この発明の一実施形態による位相差計測システムおよび位相差計測方法の原理を説明するための略線図である。
【図3】この発明の一実施形態による位相差計測システムの構成の具体例を示すブロック図である。
【図4】この発明の一実施形態による位相差計測システムのデータ伝送の具体例を示すブロック図である。
【図5】鉄道沿線の自動信号高圧配電線路の運用系統を示す略線図である。
【図6】配電室の配置および自動信号高圧配電線路の一例を示す略線図である。
【図7】図6に示す配電室の配置および自動信号高圧配電線路について各配電室の電源同期状態の調査を行った結果を示す位相調整前および位相調整後の位相差ベクトル図である。
【図8】この発明の一実施形態による位相差計測システムによる自動信号高圧配電線路の位相差監視方法を説明するための略線図である。
【図9】この発明の一実施形態による位相差計測システムによる自動信号高圧配電線路の位相差監視方法において用いる基準波形を示す略線図である。
【図10】この発明の一実施形態による位相差計測システムによる自動信号高圧配電線路の位相差監視方法で実際に計測された位相差を示す略線図である。
【図11】従来の位相計による位相差計測方法を説明するための略線図である。
【図12】従来の位相計による位相差計測方法の問題点を説明するための略線図である。
【符号の説明】
【0041】
11…GPSアンテナ、12…GPS受信機、13…CPU、14…DoPa(登録商標)/無線パケット通信端末、15…アンテナ、16…計測部、17…電源入力回路、18…表示部、19…警報部、20…バッテリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離れた2点間の交流電気量の位相差を計測する位相差計測システムであって、
上記2点でそれぞれ同一時刻に、互いに時刻同期させた基準波形の立ち上がりと上記交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測し、これらの時間差の差から演算することにより上記2点間の交流電気量の位相差を求めるようにしたことを特徴とする位相差計測システム。
【請求項2】
上記2点の上記基準波形はGPS信号により互いに時刻同期させたものであり、上記時刻はGPS信号から取得した時刻であることを特徴とする請求項1記載の位相差計測システム。
【請求項3】
上記2点にそれぞれ位相の計測器が設けられ、これらの計測器でそれぞれ同一時刻に、互いに時刻同期させた基準波形の立ち上がりと上記交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測して保存し、これらの時間差のデータを上記計測器間で相互に伝送して同一時刻の上記2点間の時間差の差から演算することにより上記2点間の上記交流電気量の位相差を求めるようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の位相差計測システム。
【請求項4】
上記交流電気量は電圧または電流であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の位相差計測システム。
【請求項5】
上記2点は鉄道沿線の自動信号高圧配電線路の1回線区間の2地点であり、上記交流電気量は上記2地点のそれぞれ外方に設けられた配電室から供給される電源電圧であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の位相差計測システム。
【請求項6】
互いに離れた2点間の交流電気量の位相差を計測する位相差計測方法であって、
上記2点でそれぞれ同一時刻に、互いに時刻同期させた基準波形の立ち上がりと上記交流電気量の立ち上がりゼロクロスとの時間差を計測し、これらの時間差の差から演算することにより上記2点間の交流電気量の位相差を求めるようにしたことを特徴とする位相差計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−249472(P2008−249472A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90844(P2007−90844)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月2日 社団法人 日本鉄道電気技術協会発行の「第20回鉄道電気テクニカルフォーラム論文集」に発表
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(599142590)北海道ジェイ・アール・サイバネット株式会社 (14)
【出願人】(591128213)株式会社前田電機製作所 (1)
【Fターム(参考)】